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嵐の中の男

1957年、東宝、松浦健郎脚本、谷口千吉脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

明治38年初秋、日露戦争の後、日本政府の弱腰に怒った民衆が決起した「日比谷焼き討ち」事件が起こった頃…

下田に船の上、一人大きな声で唄っている青年渡三郎(三船敏郎)に、思わずくすりと微笑む美少女清水秋子(香川京子)。

そんな青年に近づいて来た巡査(沢村いき雄)は、現在は無職だと答えた青年を怪しみ、「日比谷事件」の関係者を探していると言いながら、いきなり身体検査を始める。

ところが、青年の懐から出て来た書状を広げて読み始めた巡査は、急に態度をあらためると、失礼しましたと、青年に頭を下げるのだった。

下田は雨だった。

傘をさして帰っていた秋子は、軒下で雨宿りしている渡に気付き、一緒に入りませんかと誘う。

渡は京都からやって来て、目的地は下田警察だと言う。

そこへ、一人の青年が慌てて駆けて来る。

秋子の知った男だったらしく、その村田(山本廉)が言うには、雨宿りをしていた水兵たちが、突然暴れだし、道場破りをはじめたので、師範代の辻堂を呼びに行く所だと言う。

秋子は、辻堂は自分が呼びに行くから、居場所を教えてと言うが、村田は言いにくそうな様子。

辻堂庫次(小堀明男)がいるのは、沖縄出身のお紺(根岸明美)が経営している飲み屋だった。

恐る恐る店の玄関口から声をかける秋子だったが、出迎えたお紺は、辻堂だが二階に寝ているから、自分で起こしに行ったら?はたして起きるかどうか?…とちょっと挑発的な眼差し。

仕方なく、二階に上がって行った秋子だったが、泥酔して寝入っている辻堂は、秋子が呼んでも返事すらしない有り様。

諦めて帰りしな、お紺は秋子に、辻堂は今じゃ私のものだからねと冷笑するのだった。

清水道場に帰って来た秋子は、その玄関口に立つ渡の姿を見る。

気になったので来てみたと言う。

道場では、胴着を着た水兵たちが数人、清水道場の門下生たちを投げ飛ばしていた。

両者の力量の差は明らかで、もはや弟子の中に対抗できるものはおらず、道場主で秋子の父親である清水悠山(柳永二郎)が相手をするしかない状況だった。

その様子を廊下で見て取った渡は、すばやく胴着に着替えると、あたかも自分が師範代であるかのごとく、遅くなりましたと言いながら、立ち上がりかけた清水悠山を制し、水兵に対峙する。

清水悠山は、突如現れた見知らぬ青年に驚くが、その姿にただならぬものを感じ、そのまま黙って試合をさせてみる事にする。

案の定、渡の力量は抜群で、次々に襲い来る荒くれ水兵たちを投げ飛ばしてしまう。

敵の大将高野一曹(田島義文)を落としてしまうと、水兵たちはホウホウの態で逃げ出してしまう。

それを見て喜んだ秋子は、試合後、素早く着替えている渡の胴着をたたんでやりながら、その中に自分のお守りをそっと忍ばせるのだった。

清水悠山は、その時になって、ようやく一人娘の秋子が帰って来た事に気付き、先ほどの青年が黙ってすでに帰ってしまった事を聞くと、その謙虚な態度に感心し、あのような有望な青年が現れた事を知ると、もはや自分のような老人が警察署の師範を辞める決意をした事に間違いはなかったと納得するのだった。

悠山の言葉に驚いた秋子だったが、母親亡き後、お前を呼び戻したくなかったと悔やむ父親には、やさしく慰めるだけだった。

その頃、清水道場を出て下田警察に向う途中だった渡は、橋の所で辻堂とすれ違うが、互いに相手の力量を見抜き、緊張感が増すが、その場は何事もなく別れる。

清水道場にやって来た辻堂は、何故、警察の師範に自分を推薦してくれなかったのかと悠山に詰め寄る。

しかし、かつて秋子の婚約者でありながら、それを秋子から破棄された事で人間が変ってしまった辻堂に落胆していた悠山は、お前のように強いだけではダメなんだと突き放す。

一方、下田警察の署長(笈川武夫)は、渡が京都武道専門学校出身だと聞くと、これからは君のような柔道の時代であって、今までのような柔術ではダメだと励ますのだった。

さっそく、警官たちと練習をはじめた渡だったが、そこに辻堂がふらりと現れ、ここの前任者は清水悠山で、君が来たために、あの老いぼれは首になった。

本来なら、自分がここで教えるはずだったんだと愚痴りながら、武徳会四段と自己紹介した渡にその場での勝負を申込むが、この不躾な態度には、渡をはじめ警官たちも黙っておらず、練習場から追い返すが、辻堂は、この勝負は必ずつけると捨て台詞を残して行く。

渡は、自分の前任者が清水悠山だった事を知り、苦悩しはじめる。

後日、港で寝っ転がっていた渡は、買い物帰りの秋子に出会うと、その悩みを打ち明けるが、秋子は、父親はむしろあなたのような人が来てくれて安心しているのだと打ち明ける。

それを聞いた渡の心は晴れ、急に清水悠山に会いたくなったと打ち明ける。

道場へ向う途中、秋子は、辻堂は自分の元婚約者だったのだが、解消してもらった相手なのだと打ち明ける。

清水悠山は、渡の来訪を心から歓迎する。

娘が必ず連れて来ると思っていたと破顔すると、秋子は赤くなって怒り出す。

清水悠山は、渡に、自分の柔術は古くなったと思うので、勉強し直すため、お手合わせ願いたいと申込む。

渡は素直に立ち会う事にするが、最初の勝負で投げられた事を「わざと負けた」と悠山に見透かされてしまう。

仕方なく、真剣に戦う事を余儀なくされ、結局、二度続けて、悠山を投げ飛ばす事になる。

負けを認めた悠山は、あの時、水兵たちに投げられるより、あんたに負けた方が良かった。実はあの時会った時から、あんたが気にいっていたんだと打ち明ける。

そんな所にやって来たのが辻堂で、執拗に渡との勝負をけしかけて来るので、それを止めようとした悠山だったが、そんな師匠を殴りつけて来た辻堂の態度には、さすがに堪忍袋の緒を切る。

惜しい男だが、もう諦めたと、悠山はその場限りで辻堂への破門を言い渡す。

悲しげに「辻堂」の名札を渡す悠山だったが、受取った辻堂は、それを壁板に投付けて、真っ二つに割ってしまう。

それを見た悠山は、わしより娘の方が、男を見る目があったようだと自嘲する。

その後、お紺の飲み屋に戻って来た辻堂は、そこで、今夜、あの憎い渡に仕返ししたいとクダを巻いていた水兵たちに取り入る。

夜、海岸を帰宅途中だった渡は、水兵たちと辻堂に取り囲まれ、飛びかかられて来たのでやむなく戦いはじめる。

水兵たちをなぎ払った渡に辻堂が勝負を挑んで来るが、その時、巡査と憲兵が駆け付けて来る。

巡査は、残った渡りの顔を認めるが、同行していた憲兵(広瀬正一)は柔道の師範と聞くと、そんな身分で帝国軍人と喧嘩をしたのかと、問答無用でビンタするのだった。

後日、又しても、浜辺で渡に出会った秋子は、夕食に誘う。

その二人を見ながら、お紺の店にやって来た男があった。

お紺の実の兄で、沖縄で少林寺拳法を学んでいたが、暴れ過ぎて破門されて来た屋嘉比運兵(田崎潤)だった。

それを知った辻堂は、もう一人居候が増えるのかと不機嫌になるが、そんな辻堂が持っていたとっくりを真っ二つに叩き割った屋嘉比運兵の腕に目を丸くする。

お紺の亭主と紹介された辻堂を、屋嘉比運兵はうさん臭そうにしながらも、同居する事にする。

渡は、水兵たちとの喧嘩の責任を取って、退職願を警察署長に提出していた。

署長は、憲兵と警察は仲が悪いので気にするな。その上、後任もいないのに勝手に辞められては困ると慰留するが、渡は、後任には清水悠山を再任してくれと頼む。

一旦言い出したら後に引かない渡りの性格を見抜いた署長は、仕方なく、辞表を受け付け、清水悠山に服飾を願いに行く。

そこで秋子と出会い、渡の言を聞かれたので、やむなく、師範を辞職して東京に帰ってしまったと正直に伝える。

ここへ別れに来れば、止められるに違いないので、夕べの内に出発したのだと。

それを聞いた秋子は驚愕する。

物陰で、この話を聞いていた人物がもう一人いた。辻堂だった。

渡は、その時、すでに船の上だった。

秋子の淋しげな姿を見た清水悠山は、又、東京に帰るか?署長さんい聞いてみろ、政府要人の知り合いがあるらしいと伝える。

飲み屋では、お紺が独り泣いていた。

その姿を見た屋嘉比運兵は、辻堂が東京に向った事を知る。

船着き場のチケット売り場にやって来た辻堂は、東京行きの切符一枚を注文するが、受付の中から、何人ですか?と問う声があり、次いで、突然、しきり窓を突き破って握りこぶしが飛び出て来る。

一足先に、船着き場にやって来た屋嘉比運兵がチケット売り場に潜んでいたのだ。

辻堂が妹を捨てて、東京に逃げると思っている様子。

これには、さすがの辻堂も驚き動揺するが、自分の東京行きは、渡を倒したいためであり、本当はあんたも誘いたかったんだとごまかす。

すると、単純な屋嘉比運兵は相好を崩し、自分も同行すると言い出す。

泊まるあてはあるのかと心配する屋嘉比運兵に対し、辻堂は、ここにしばらく世話になろうと思っていると、一通の封書に書かれた差出し人名を見せる。

そこには「赤心社」の文字。

東京の上野公園。

その赤心社の金原東作(平田昭彦)が民衆相手に演説をぶっている現場にやって来た辻堂と運兵は、代表の太刀岡玄将(上田吉二郎)から、一つお手並みを見せてくれと頼まれる。

演説を止めさせに来た警察を追い払ってくれと言う事だった。

ただちに、二人は警官たちと戦いはじめる。

その頃、渡三郎は、東京で車引きをやって生計を立てていた。

ある日、客を乗せて走っていた三郎は、人力車の前で急に子供が転んだのを観て思わず停まる。

その際、乗っていた客は、反動で後ろに転がり落ちてしまうが、見事な受け身で地面に立っていた。

その客は、渡に武芸の心得があると察し、小石川の講道館までやってくれと頼む。

その講道館には、入門しているはずの渡の姿を求めて、清水秋子がやって来ていた。

しかし、入門者名簿には渡の名前はないと知ると、がっかりしながらも諦めきれず、秋子は講道館の前でしばらく佇んでいた。

その秋子の横をすり抜けて、講道館に入って行った人力車の車夫が渡だったのだが、互いに気付く事はなかった。

渡を道場に招いた客は、段原八段(小杉義男)の名札を手に取るのだった。

ある夜、渡が人力車を押していた道筋で、辻堂、運兵、そして、金原東作ら赤心社の刺客たちが、一台の馬車が来るのを待ち構えていた。

渡に気付かず、やり過ごした辻堂と運兵は、目指す馬車が来ると、その前に飛び出し、中に乗っていた小村寿太郎を暗殺せんと、小刀を差し入れる。

ところが、中に乗っていたのは、小村寿太郎ではなく、その娘の圭子(磯村みどり)だった。

人違いだった事に焦った辻堂だったが、これはこれで利用できると、圭子に手をかけようとした時、その腕を掴む邪魔者が現れる。

後ろの異変に気付いて戻って来た渡だった。

辻堂と運兵は、思わぬ宿敵との再会に喜ぶが、渡は馬車の馬を叩いて馬車を発車させると、自分も御者台に飛び乗って逃げ出す。

それを近くから監視していた金原東作は、鉄砲を取り出すと馬車目がめて撃ち出す。

その銃弾の一発が、渡の腹部に命中し、渡は傷付くが、そのまま馬車は、小村邸に到着する。

渡が、そのまま帰りかけたので、慌てた圭子は、御者の定吉(堤康久)に呼び止めるよう命ずるが、渡は門を出たところで倒れてしまう。

気を失っていた渡は、秋子に看病されている夢を見る。

しかし、それは夢ではなかった。

秋子は、下田警察署長の紹介で、偶然にも、小村邸の女中として働かせてもらっていたのだった。

秋子の方も、この偶然を秘かに喜び、看病する渡の着物をたたむ時、その中からこぼれ落ちたお守りを観ると、それが自分が渡したものと知り、感激するのだった。

秋子の看病の甲斐もあり、元気を取り戻し、再び朝稽古に出かけるまでに回復した渡は、帰宅する途中、秋子と会い、お守りを返されると、どこにあったのか?これはどこで入ったのか分からないのだが、自分にとっては大切なものなのだと説明し、秋子を満足させる。

秋子は、小村邸には、小学校事代の友達だと言う下田警察署長の紹介で働かせてもらっており、学校は辞めたのだと打ち明ける。

それを聞いた渡が、行儀見習いですねと人事のように納得したので、花嫁修行のつもりだった秋子はちょっぴり憤慨してしまう。

そんな二人が小村邸に入って行く様子を、辻堂は陰ながら監視していた。

小村邸に戻って来た秋子は、圭子から、渡には好きな女性がいるのかどうか聞いてみてくれと頼まれ困惑する。

しかし、圭子がどうしてもと言うので、仕方なく、夜、渡の部屋に饅頭を持って行くと、好きな女性はいるのかと心苦しい質問をする。

その間、圭子は自室のピアノで「エリーゼのために」を一心に弾きながら、結果報告を待ち受けていた。

すると渡は即座に「います!」と答えたので、秋子は驚愕する。

がっかりして部屋を出かけた秋子は、「それはあなたです」と言う声を背中に聞くと、間隙のあまり、喜びを噛み締めながら、独り廊下に佇むのだった。

翌日、渡は、段原八段から講道館に残らんかと誘われる。

講道館の師範として認められたのだった。

秋子にその報告をしに小村邸に戻った渡だったが、肝心の秋子の姿が見当たらない。

御者の定吉からお秋なら、今朝、暇を取って出て行ったと言うではないか。

残された秋子の手紙を読んでみると、あなたの言葉を聞いた今、私はもう東京にいる意味はなくなり、下田に帰って、父親の面倒を見ている。あなたがもう一度下田に戻って下さると信じて…と書かれてあった。

その手紙を読み終えた時、定吉が又手紙を持って来る。

読んでみると、それは辻堂からのもので、5月20日待っていると言う果たし状だった。

その約束の日時、指定の場所に出向いた渡に、待っていた辻堂は、お前に会ったばかりに、俺は生き方がひん曲がってしまったと言い掛かりを付けて来る。

辻堂の横には屋嘉比運兵、さらに、退路を断つように赤心社の金原東作、松下五郎(佐藤允)、森田金介(岩本弘司)が立ちふさがっている。

彼らから、小村寿太郎の犬になったと揶揄された渡だったが、世情に便乗した辻強盗に用はないと、渡は切り捨てる。

渡は、辻堂と戦っていたが、割り込んで来た運兵の蹴りに会い、川に落ちてしまう。

その水面に、金原は銃弾を浴びせるのだった。

目的は果たしたと思い込んだ運兵は、妹の待つ下田に帰ると言い出すが、それを聞いた金原は、お前たちは赤心社の内情を知り過ぎていると拳銃を向けて来る。

運兵は、そんな三人と戦って倒してしまう。

渡に手渡した秋子のお守りが、川を流れて行く…

下田では、帰って来た秋子の事を見かけたと、お紺が、こちらも下田の飲み屋に戻っていた辻堂に報告に来る。

薄々、辻堂の秋子への気持ちに気付いていたお紺は、私を捨てると、兄がただでは置かないよと釘をさすのだった。

その後、清水道場にやって来た辻堂は、自分も道場を持ちたいので、一緒に合流しないかと清水悠山に持ちかけて来る。

もちろん、そんな話に悠山が乗るはずもなかったが、他流試合をして、勝った方が、この道場の主人になろうじゃないかとまで言われると、後には引けなくなる。

その会話を聞いていた秋子は必死に止めようとするが、辻堂はもう、悠山の身体を殴りつけていた。

秋子は、下田警察署長を仲裁に呼びに行くが、二人が道場に戻って来た時には、すでに悠山は、何度も辻堂に嬲り投げられ、虫の息の状態だった。

自分を睨み付ける秋子の視線に気付いた辻堂だったが、署長に対しては、他流試合は禁止されていないはずだと嘯いて帰って行く。

その後、上京した署長は、小村寿太郎に、今回の件は、渡には黙っていた方が良いだろうと相談する。

万一言ってしまうと、彼の事だから、きっと講道館師範の道を捨て、下田に戻って来るに違いないからだった。

しかし、それを小耳に挟んだ圭子は、こっそり、渡にその事を教えに行く。

圭子は、渡が秋子を好きな事は先刻承知していた様子で、気丈にも、渡の旅支度を手伝ってやるのだった。

再び、下田警察の柔道師範として赴任して来た渡は、すぐさま清水道場に見舞いに出向く。

すると、あろう事か、清水道場は内装を変えている最中で、辻堂の柔道と屋嘉比運兵の少林寺拳法の合同道場としての新しい看板も出来上がっていた。

奥の部屋では、悠山が寝込んでおり、秋子が看病をしていた。

ちょうど帰りかける医者は、もうあの年なので、元の身体に戻る事はないだろうと渡に言う。

大工たちの、早く奥の部屋の工事をやりたいのだが、いつまで待たせるのかと言う苛立った声まで聞こえて来る中、意識朦朧状態の悠山は、決して渡君に余計な事を言うなとアキコに口止めをしているではないか。

ここにいたり、渡の怒りは頂点に達する。

辻堂と屋嘉比運兵は、渡りから呼出され、神社の奥へと出向く。

そこで待ち構えていた渡は、今日は僕の方から戦いを申込む。君のようなものが武道を名乗っているのが許せないと、感情をむき出しにした言葉を発して来る。

辻堂も闘志をむき出しにし、渡に挑みかかるが、最後には投げ飛ばされ、階段の所で気絶してしまう。

すると、今度は屋嘉比運兵がかかって来たので、渡は、これも又、石垣に投げ付けるのだった。

そこへ、心配して駆け付けたのが秋子。

しかし、意識を取り戻していた辻堂は、自分の横を通り過ぎようとしていた秋子の帯を握りしめる。

その帯をにじり寄せながら「好きだった…」と洩らした辻堂の言葉を聞いた、屋嘉比運兵の顔色が変る。

やはり、妹をだましていたのか!と呟くと、辻堂の身体に飛びかかって行く。

辻堂と屋嘉比運兵の醜い戦いを目の当たりにした渡は、止めろと叫ぶが、二人の身体は、もつれあったまま、崖下に墜落して行く。

独り悄然として立ちすくむ渡に、安堵した秋子が駆け寄って行くのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

前年に公開された「黒帯三国志」に良く似た三船主演の柔道もの。

ヒロイン役の香川京子や、少林寺拳法を操るライバルが沖縄からやって来る展開も「黒帯三国志」と同じである。

敵役としては線の細かった平田昭彦に比べると、今回の田崎潤の方が、見た目的には若干強そうにも思えるが、やはり手足が短いその体型からくり出される技は、あまり強そうには見えない。

途中、フィルムの逆回転などを使用し、田崎潤の跳躍力などを表現しているが、忍術もののようで、今観るとかなりアナクロな印象がある。

話自体も、通俗活劇の域を出ておらず、「姿三四郎」の焼き直しのような印象がある。

ただ、ライバル辻堂を演じている小堀明男の、とことんいやらしいキャラクター像はちょっと魅力的。

身体も三船より大きいし、顔も陰険な悪役風。

腕っぷしの強さと性格的な狡さを兼ね備えた、なかなかの名悪役になっている。

当時、「次郎長三国志」の主役を演じていたため、他の作品でも、助っ人的なヒーローを演じる事が多かった小堀だけに、この作品での悪役振りは珍しい。

三船が演じている主役も、腕は強いが女には弱いと言う、いかにも昔風の純朴なヒーロー像だが、それはそれなりに割切ってみれば楽しいキャラクターに思える。

「黒帯三国志」同様、こちらの作品も、併映作のようなチンマリまとまった娯楽作品と言えよう。