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妖婆

1976年、永田プロ+大映、芥川龍之介原作、水木洋子脚本、今井正監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

私の言う話は、大正時代、東京で事実あった事です…信じられないのももっともでしょうが…

大正8年

お島(京マチ子)は、新三(江原真二郎)と祝言をあげていた。

お島の父親(大滝秀治)は、入り婿には、東北の金山を任せようかと考えていた。

その夜、二階の寝間に引き上げ、初夜を迎える事になった新三だったが、新妻を抱こうとすると、急に苦しみ出し、疲れているので…と言い訳をして、そのまま寝てしまう。

翌朝、お手伝いのみつは、新三の紋付をたたんでいる時、その中から、一本の見知らぬ簪を見つける。

お島のものかと本人に尋ねても知らないと言う。

お島の母親(東恵美子)も怪訝そうにするだけ。

夕べから手伝いに来ていた、お島とは従兄弟のさわ(稲野和子)は、新妻になったお島の事をうらやましがるが、実は、簪の持主が、そのさわのもだったとみつから聞かされたお島と母親は驚く。

一体、新三とは、どう言う関係なのかと疑ったのだ。

その後も、新三はお島を抱こうとせず、あんたの身体はおかしいと言い出す始末。

その寝室の闇の中に、巨大なさわのものらしき無気味な目が光っている事に、二人は気付かなかった。

さすがに気にしたお島は、念のため、医者(内藤武敏)に身体を調べに行くが、その場で気分が悪くなり昏倒してしまう。

その頃、新三とさわは外で密会していた。

さわが言うには、自分より三つ年下であるお島は一人っ子だったので、自分とは姉妹同様に育てられて来た仲だと説明していた。

病院では、医師が、特に身体に異常はないと、お島の診断を終えていた。

さわと一緒に帰る新三の姿を、偶然町で目撃した番頭は、それを主人である、お島の父親に報告する。

それを聞いた両親は悩み始める。

新三は不能じゃあるまいかとさえ父親は案じ、母親はさわとの浮気を続けるつもりなのでは?と心配していた。

その後、母親はお島を行者(三國連太郎)の元に連れて行く。

お島を見た行者は、この結婚は悪縁であり、娘さんは邪心邪霊に見込まれている。悪魔に見入られたも同じで、ここままでは狂乱してしまうので、命の息吹を与えねばならぬ、次回からは娘一人で来いと言う。

言われるまま、次から、一人で行者の元に出かけたお島は、一緒に滝に打たれた後、行者から抱かれてしまう。

その後、関東大震災が起こり、お島は、両親も店も一挙に失ってしまう。

お島本人は、裁縫で外出していて、一人だけ助かったのだった。

上野に避難していたお島は、そこで伊原(児玉清)と言う男から「小学校で、炊き出しをやっているよ」と声をかけられる。

お島は、その伊原に誘われて、赤羽から列車で疎開しようとするが、途中、線路故障のため、列車から下りて二人は徒歩で山の中を歩く事になる。

伊原には妻子がいるらしく、その写真を見せてくれたりする。

娘の名は千鳥と言うそうである。

二人は、山の中で自然と抱き合い、そのまま近くの旅館に長逗留する事になる。

二ヶ月後、北海道の伊原の家から電報が届き、娘の千鳥が、水瓶に落ちて死んだと知らせて来る。

呆然として、国に帰りかける伊原に、お島は、自分に子供が出来たと打ち明けると同時に、水瓶の中から出て来た千鳥ちゃんの幽霊が抱きついて来る夢を見たとも打ち明ける。

その後、伊原は妻と東京に行ったらしく、1年経っても戻って来なかった。

一方、お島は、千鳥の怨念に取り付かれたのか体調を崩し、宿した子供を堕す事になってしまい、ずっと旅館に寝たきりの生活が続いていたが、その面倒を見てくれたのは、地元の産婆(北林谷栄)だった。

産婆は、あんたには悪い神さんが憑いている。男への情を棄てなされ、赤子への未練を切りなされ…と、数珠で、お島の身体をなで始める。

すると、お島は、ひどく苦しむのだった。

それから10年後の冬

東京に戻っていたお島は、浅草で仕立て屋を一人で始めていたが、腕が良かったので、仕事は次々と舞い込んで来る。

そこに、どこからか噂を聞いたらしく、さわが訪ねて来る。

さわは、自分には約束した人がいたが死なれたと告白する。

もちろん、その相手とは新三の事ではないと断わった上で、その後、お敏(神保美喜)と言う私生児を産んで、苦労して育てて来たので、その娘のために、晴れ着を作ってもらいたいと言うのだ。

何でも、娘が、呉服屋の新蔵と言う金持ちに見込まれたのだと言う。

そして、互いに身寄りがない者同士、 又、昔通り、仲良く付き合ってもらえないかとすがりついて来るが、その時、お島の縫っていた着物の針で、指を突いてしまう。

その頃、新三は、いさ子と言う髪結いの亭主になっていた。

訪ねて来たさわから、お島の近況を教えられた新三は、不幸だった自分の半生を執念として、その晴れ着に込めるかも知れないぞと冗談めかして笑う一方、お島に、お敏の事を、俺の子と思われないようにと注意するのだった。

さわは、その言葉を心配し、老婆の祈祷師(初井言栄)にお島の恨みを封じてもらおうと依頼に行く。

「婆裟羅大神(バサラオオカミ)婆裟羅大神…、さわを守らせたまえ」…と、老婆は唱え始める。

後日、完成した晴れ着を着たお敏(神保美喜)が、母親さわが食事に招いたお島の前に挨拶に出て来る。

その美貌をお島が誉めると、さわは、子供を授かった事だけは、私の方が勝ちかしらと呟く。

その後、帰宅したお島は、「婆裟羅大神…」と言う怪しげな呪文が聞こえ、頭痛を起こして寝込む事になる。

その日以来、お島の家が閉ったままになっているので、着物を依頼した客が不審に思い呼び掛けると、やつれたお島が出て来て、まだ出来ていないと断りを言い、帰ってもらう。

お島は、産婆から譲り受けた数珠がある事を思い出し、それを取り出して握りしめるが、身体が熱くなり昏倒してしまう。

その頃、老婆はさわと共に、さらに祈祷を続けていたが、何か、あちらに妨害するものがあると言いながら、老婆は自らの身に水をかぶって、念を強くする。

倒れていたお島は、数珠を自らの首に当てて対抗しようとしていた。

ある日、菓子折りを持ってお島を訪ねて来たさわは、何か互いにわだかまりがあってはいけないからと言いながら、それとなく、お島に信心するような物を持っていないか聞いてみる。

数珠の事を知ったさわは、あなたの離婚が、私のせいだと思われているのではないかと案じていたのだと、低姿勢に言い訳する。

しかし、お島は、全て自分のせいだからと、さわをいたわる。

その後、人に呼ばれて出かける事になったお島は、いつも懐に入れていた数珠がない事に気付き、家に戻るがどこにも見つからなかった。

その数珠は、玄関に落ちていた所を拾ったさわの手から老婆に手渡され、火の中に投げ込まれてしまう。

老婆は、これで島は言いなりになるとほくそ笑みながらも、この人身御供をもらう事になると言い出す。

人間の精気が欲しいと言うのだ。

お島は、部屋の隅に巨大な蛇の目が出現し、見入られていた。

再び、依頼した着物の事でやって来た客は、声をかけても返事がないので、中に入ってみると、そこには、真っ白に老けた老婆になったお島が独り寝込んでいた。

客は、この家から、毎晩うめき声が聞こえて来ると噂を聞いたのでやって来たのだと伝える。

翌朝、近所のものが心配して、お島の家を訪ねると、戸が閉ったままになっているのでこじ開けてみると、中はもぬけの殻になっていた。

さわは、いつものように老婆を訪ねてみると、すっかりミイラと化している老婆を発見し、慌てて逃げ帰る。

それからしばらくして、雨の降る日、寝込んださわを訪ねて来たのは、娘お敏と祝言を挙げたばかりなのに、その後、何の頼りもなく、心配していた新蔵(志垣太郎)だった。

さわが言うには、お敏の行方が分からなくなったのだと言う。

本所の橋の所で女の土左衛門が見つかったと聞いた新蔵は、もしやと思い駆け付けてみるが、その死体は老婆で、その足の裏には「婆娑羅大明神」と書かれたお札が貼りついていた。

新蔵は、その後、川っぷちに建つ一軒家で、偶然、お敏を見つけるが、彼女が言うには、直に神降ろしの婆さんが帰って来る。そうすると、あなたの命に関わる事になるので、ここまま帰ってくれと言う。

訳が分からない新蔵が、中に上がり込もうとしても、頑として、お敏は入れようとはしない。

お敏の廻りには、無数の蝦蟇がひしめいて、彼女を守っているかのようだった。

仕方がないので、一旦引き下がった新蔵は、その事をさわに電話で伝えるが、さわが言うには、婆娑羅大神に憑かれたお島は、お敏も狙っているのではないか…。

そう電話していたさわには、悪あがきをするなと言う女の声が聞こえて来たので、慌てて、箪笥から懐剣を取り出す。

川の中に、女の頭が漂い、やがて、神降ろしの老婆が、水の中から岸に上がって来る。

お敏は、部屋の中で、裸にされ縛られていた。

そこに、無気味な様相になったお島が入って来て、道鏡と蝋燭を差し出し、お敏に迫る。

すると、お敏は、催眠状態になって、今日来たのは新蔵さんです。精気を吸い取られても良いから、夜になったら連れ戻しに来ると言いましたと、答える。

そこに、新蔵とさわが乗り込んで来る。

老婆に変貌したお島は、もう遅いわと笑うが、さわは懐剣で老婆に襲いかかる。

老婆は、身を翻すと、そのまま窓から横を流れていた川に身を投げるが、さわの首には、いつの間にか、自らの懐剣が突き刺さっていた。

さわの身体が川に落ちたので、お敏も慌てて川に入ろうとするが、その手をしっかり新蔵が握りしめていた。

翌朝、川からは、さわの死体だけは見つかったが、お島の遺体は杳として見つからなかったので、今でも、生きているとも死んでいるとも分からないのだった…

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

芥川龍之介原作の怪異譚。

すでに中年だったはずの京マチ子が、10代くらいから33才までを演じており、新婚初夜の描写では、胸まで露出するサービス振り。

見た目的に、かなり無理を感じないでもないが、化粧と演技力でそれなりにカバーしている感じ。

身近にいた女同士の嫉妬心のぶつかり合いが、やがて怨念に変化して行く様が恐ろしい。

基本的に地味な展開であり、派手なオカルトやホラー要素などを期待していると肩透かしを喰ってしまう。

あくまでも、文芸ものの一種と解釈した方が良いと思う。

新人の神保美喜は、裸になったり、蝦蟇に取り囲まれたりと、かなりハードな事をやらされている。

老婆役の初井言栄も、水ごりをするシーンで、胸が白装束の下に透けて見えたりもしている。

客寄せのため、女優の裸を多用していた70年代の作品とは言え、当時の女優はさぞ辛かった事と思う。

志垣太郎の美少年振りは、今観ても瑞々しいし、児玉清の登場なども、ちょっと珍しい。

徳間大映の時代に作られ、松竹が配給したと言うのだから、ほとんど話題にもならなかった作品だと思うが、怪異譚ものと言う素材そのものが珍しいので、その手のジャンルが好きな人には一見の価値はあるかも知れない。