1975年、東映東京、平井和正「狼は泣かず」原作、神波史男脚本、山口和彦監督作品。
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月齢三日
夜の新宿繁華街を、白いスーツ姿の男(安岡力也)が何者かから逃げ回っている。
たまたま通りかかり、道路に倒れ込み怯える、その男の異様な姿を目撃した犬神明(千葉真一)は声を掛け、訳を訪ねると、白いスーツの男は「トラに殺される!あいつがトラになった!…ミキに呪われている…」と意味不明の言葉を発するだけ。
路地裏に連れていき、もっと詳しい話を聞こうとした明だったが、その目の前で、白いスーツの男は、何者かに引き裂かれてでもいるように服と肉体が破れ、出血死してしまう。
異様な気配を感じ取った明は、新宿の夜景の中にトラの幻影を見て呟く…「今夜も又、人間にふさわしい血みどろの事件の匂いがする…」と。
タイトル(犬神一族が近隣の猟師たちに斬殺される回想シーン。当時子供だった犬神明は犬神一族最後の生き残りであった…)
事件の唯一の目撃者となった明は、城北署の取り調べ室に呼ばれ、刑事たちから事情を聞かれるが、検死の結果、男の死因は人間の力によるものではなく、「かまいたち」の仕業とでも考えなければ到底説明がつかない裂傷と分かり、明は無事放免される。
その明を、警察署前で待ち伏せ、タバコをくわえた明に火を差し出しながら近づいて来たのは、同じルポライター仲間ながら芸能専門の新井(曽根晴美)。
新井は、殺された男が、マナベプロ所属の元グループサウンズ「モブス」の一員だった花村清だったと教える。
さらに、花村同様、4人いた元「モブス」のメンバーの内、吉川と中尾と言う2人も、花村と同じように引き裂かれたような怪死を遂げているとも。
興味を持った明がさらに事情を聞くと、「モブス」の4人は、かつて新人歌手だった緒方ミキの態度が生意気だと集団暴行し、仲間の一人が梅毒まで感染させたあげく芸能界から転落させたのだと言う。
今生き残っているのは、すっかりアル中になった比留間(滝波錦司)と言うリーダーだけだと聞いた明は、ただちに新井と共にその比留間を探しに行き、出会った比留間にミキの所在を訪ねるが、今、彼女はペイ中になって、どさ回りをしていると言う。
彼女を集団暴行するよう命じたのは誰だと聞くと、比留間が答える前に、怪しげなチンピラたちが、明の前に姿を現す。
腕に覚えのある明は、動ずる事なくチンピラ相手に戦いはじめるが、相手から発砲され傷付いてしまう。
そこに突如、バイクに乗った女がやって来て、明に乗るよう促す。
チンピラから逃げていた明は、思いきって、その女のバイクの後ろに飛び乗る。
チンピラたちから逃げのびたそのバイクが向った先はモーテルだった。
マスクとレザーの服を脱ぎ去った相手は驚くほどの美貌だったが全く見知らぬ女。
しかし、今は野獣が欲しいと訴えて来る女の要求をはね除けるような明ではなかった。
明に抱かれた女は、「あなたは人間じゃない…」と意味ありげなセリフを吐く。
翌日、レストランで血の滴るようなステーキを平らげていた明は、付け合わせの野菜をはねのけていた。
そこへやって来た新井は、緒方ミキの写真と履歴書を持参して来るが、自分は今、マナベプロとつながりがある塚田組のやくざたちに脅されているので、あいつらはあんたも狙うぜと忠告する。
場末のストリップ小屋で唄っていると言うミキの近況を聞いた明は、さっそくミキに会いに行く。
「♪女の爪はトラの爪〜」…と、舞台上で脱ぎもせず唄うミキに、観客たちは罵声を浴びせていた。
楽屋を訪れた明は、見張り役のチンピラを外にたたき出し、ミキに話を聞こうとすると、金をくれと言う。
仕方がないので渡してやると、ミキは明を連れ、とあるゲームセンターに来るまで乗り付ける。
そこは塚田組の根城だった。
奥の部屋で薬を要求するミキを観たヤクザは、妙なやつが近づいたら知らせろと言っておいたはずだと叱りつける。
すると、ミキは、言う通り連れて来て、今、外の車にいると教える。
チンピラたちに奥の部屋に連れて来られた明は、落ち着き払ってタバコを口に加えるが、たちまち背中を殴りつけられる。
ヤクザが見せたいものがあると、部屋の奥を示すと、そこには、首に絞首刑用の縄がかけられた新井が、横になったドラム缶の上に立たされていた。
いつ足を滑らせて首がしまるか分からない状態。
その横には、こちらもボコボコにされて半死半生状態の比留間が倒れていた。
明は、持っていた百円コインを次々にチンピラたちに投付けていく。
その時明は、以前花村が殺された時に感じたような異様な気配を感じるが、次の瞬間、比留間の身体は、何者かに引き裂かれるように血まみれになり、息絶えてしまう。
これには、さすがに部屋にいたチンピラたちも度胆を抜かれるが、その隙に、相手から奪ったライフルをぶっぱなして威嚇する明は、これがミキの呪だと呟く。
見ると、部屋の片隅で、ミキがあの歌を口ずさんでいるではないか!
そのミキに近づこうとした明だったが、新井がドラム缶の上の足を滑らせ首がしまったのに気付き、急いで彼を助けに向う。
新井はすでに瀕死の状態だったが、明に自分の調査メモを渡した後、死んでいく。
その手帳を確認した明は、ミキはかつて、保守党の政治家福中義行(近藤宏)の独り息子純一(はやみ竜次)と恋人関係にあったのだが、次期総裁の椅子を狙っていた父親が 、息子を大物財界人の娘と政略結婚させたいがために、マナセプロの社長に頼み込んで、ミキを今のような状況にしたと書かれてあった。
ミキを自宅アパートに連れて帰った明は、そこの部屋の化粧鏡に口紅で書きなぐられた「モブス死ね×」の文字を発見する。
ベッドで目覚めたミキは、傍らにいた明に、何故親切にするのか尋ねる。
それには答えず、ヤク中の治療費は真鍋に出させれば良いと明が言うと、ミキは、社長はこんな事じゃびくともしないと自嘲するが、明が、真鍋の背後のいる人物の存在をほのめかすと目を見開く。
しかし、やはりすぐに元の冷めた態度に戻ると、こんな身体の私が抱ける?と挑発して来る。
明が黙って抱いてやると、一瞬、その気になったようなミキだったが、すぐに現実に目覚めたように帰ってくれと告げる。
そうしたミキの態度を観た明は、犬神の里で母親に言われた「お前は最後の犬神…、狼族全ての恨みがお前に宿っている。お前は不死身…、お前は月齢15日の満月の日、不死身になる…」と言う言葉を思い出していた。
月齢8日
事務所にいたマナベプロ社長真鍋(名和宏)は、新井のメモを持っているやつを追い掛けろと電話で命じている所だったが、何時の間にか、目の前に、その当人、犬神明が立っている事に気付く。
メモの内容に関して明から聞かれた真鍋は、何の証拠もないとつっぱねるが、トラはミキの生み出した悪霊だと聞かされると、さすがに青ざめてしまう。
ミキの超能力を間近で観た塚田組の連中も、発狂寸前になっている事を聞いていたからだ。
その頃、ミキの部屋に侵入した殺し屋(金田治)は、ミキの首に手をかけようとしていたが、そこに戻って来た明がナイフを投付けて阻止する。
殺し屋はロープを明の首に巻き付け応戦、二人が戦っている最中、突然、殺し屋を誰かが射殺したかと思うと、謎の男と先日、バイクで逃亡を手助けしてくれた謎の美女が部屋に入って来る。
明とミキは、その連中から麻酔薬を嗅がされ、眠りに落ちてしまう。
「JCIA 内閣情報部会議室」では、明とミキを眠らせた男加藤(待田京介)が、上司の佐貫(室田日出男)に報告をしていた。
彼らは、明とミキの特殊能力の事を知っており、それを政治利用できると考えているのだった。
実験室では、連れて来られた真鍋が縛られ、その横にミキがいた。
その部屋に、「恨みは今、真鍋に向う…」と言う加藤の声が響く。
ミキは何も動かなかったが、突如、縛り付けられていた真鍋の身体が、何か獣にでも襲撃されたように引き裂かれ、血まみれになり息耐える。
その様子をガラス窓の向こうから観ている加藤や佐貫。
別の牢の中には、手錠をはめられた犬神明が捕えられていたが、そこにやって来た加藤が、ミキは自分達のロボットになったと伝え、お前を自分達の仲間になれと誘うが、明はミキを保釈しろと言うだけで承知しない。
手術室に連れて来られた明は、数人の医者たちから、腹部を麻酔もせずに切り開かれると言う生体解剖される。
さらに、薬で眠らされていた殺し屋の身体が同じ手術室に運び込まれると、明の血液を輸血されはじめる。
その夜、切り裂かれた腹部から内臓を露出された状態のまま放置されていた犬神明は、満月が見える窓の鉄格子に手を伸ばすと、力みはじめる。
すると、見る間に、内臓は腹の中におさまり、切り裂かれていた腹部も回復してしまう。
身体を繋がれていた鎖を引きちぎり、窓の鉄格子もねじ曲げてしまった明だったが、その瞬間、非常ベルが鳴り響く。
部屋を飛び出し廊下に走り出た明は、廊下が落ち、落し穴になっている事に気付くと、瞬時に、天井の鉄格子に飛び移るが、そこには高圧電流が流されていた。
逃げようとした廊下の先にはシャッターが降りて来て閉じ込められてしまう。
さらに、次々にを廊下の横に開いた穴から兵士たちが飛び出して来て、明と戦いはじめる。
やがて、毒ガスが噴出しはじめる。
窮地に陥った明を救ったのは、防毒マスクを付けてやって来たバイクの女ケイティ(カニー小林)だった。
外に明を連れ出したケイティだったが、何者かに背後から狙撃され倒れる。
抱き起こした明に向い、ケイティは「好きよ…」と一言呟いて、息絶える。
彼女を狙撃したのは、甦った殺し屋だった。
犬神明の血を輸血された殺し屋は、今や、明と同じ能力を持っていた。
しかし、明との激しい格闘の最中、突如、殺し屋は苦しみだし、そのまま絶命してしまう。
一種の敗血症だった。
施設を逃げ出した明は、しばし人間界を離れ、記憶の中にある生まれ故郷を訪れるため、山に向っていた。
ようやく、集落の跡のような廃屋を崖の上から見つけた明だったが、突如何者かに狙撃されてしまう。
幼い頃、犬神族を全滅させた近隣の猟師の息子たちだった。
大勢に取り囲まれ、つかまってしまった明に向い、彼らは、東京から連絡があったお尋ね者を捕まえたので、大金が手に入ると喜ぶ。
明は、廃屋の中に捕えられてしまうが、それを助けに来た娘がいた。
味方だと言う。
二人で、崖を登る途中、戻って来た猟師たちに狙撃され、明は足を打ち抜かれてしまう。
しかし、明も娘から渡された猟銃で反撃。
一瞬、先に崖を登っていた娘が敵の手に落ちかけるが、すぐに射殺してしまう。
無事娘と逃げ延びた明は、彼女の名前がたか(渡辺やよい)と言い、明の母親と同じ名前である事を知る。
彼女は、先ほどの猟師たちと同じ村の出身だが、村人の中には、昔から犬神族を崇拝していたものたちもおり、彼女の母親もその一人だったと言う。
今、ようやく犬神一族の最後の一人に出会えたと感激するたかは、明と身を潜めていたほろ穴の中で、生まれたままの姿になり、疲れを私の身体で休めてくれと言う。
明は、たかの身体に母親の面影を重ね、その肉体に溺れていく。
たかは、犬神家の妻、今、ひ護したい人を見つけた…と、嬉しそうに呟く。
明日は、月齢15日、明にとって恐ろしい日になるはずだった。
翌日、発破が仕掛けられた山肌が次々に爆破されていく中、明とたかは崖下に逃げようとしていた。
そこに、レンジャー部隊のような一団がやって来て明たちに発砲して来る。
その銃弾を全身に受け、蜂の巣状態になった明だったが、不死身となった彼は全く動じない。
逆に、レンジャー部隊の一人からマシンガンを奪い取ると、それで部隊全員を射殺してしまう。
そこへ「あなた!」と叫びながら、たかが近づいて来る。
そこに、ジープに乗った加藤が近づいて来る。
後ろに乗っているのはミキだった。
加藤はそのミキに、犬神は他の女を愛した。お前の恨みは今こそ犬神に向けろと命ずる。
ジープを降りたミキは、明とその横に付き添うたかに対峙すると、「好きよ…好きだったのよ…」とつぶやきながら、その姿が何時の間にかかき消えていく。
次に瞬間、銃声が鳴り響き、腹から血を流したミキの姿が現れる。
同時に、ライフルを撃ったたかの方も、身体を引き裂かれて倒れていた。
ミキの恨みの対象は、明ではなく、たかに向けられていたのだった。
愛した二人の女を同時に失ってしまった明は怒りに燃え、ジープで逃げ出した加藤を追い掛け、そのジープに飛び移ると、運転手の首をへし折り、そのままジープは崖に正面衝突して炎上する。
明は、その後、たかの死体を抱え、崖の上に昇ると、たかが持っていたライフルを崖下に放り投げるのだった。
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平井和正原作アダルトウルフガイの一篇「狼は泣かず」の映画化。
導入部は、テレビ特撮ドラマ「怪奇大作戦」風で期待を持たせる。
ところが、物語の要とも言うべきヒロインミキが登場すると一挙にテンションが下がってしまう。
演じている奈美悦子にヒロインとしての華がないからである。
ストリップ劇場で働いていると言うわりに舞台上で脱ぎもしないし、病気だと言うわりに、その肌艶は常人と別に変りないように見える。
元歌手と言うにしては歌も巧くないし、取り立ててきれいだの可愛いと言った目立つ容貌ですらない。
このなんとも魅力に乏しいヒロインを相手に、主人公が愛するだの、戦うだのと物語が展開しても、観ている方が燃えるはずがない。
むしろ、最初に登場する謎の女ケイティを演じているカニー小林の方がはるかに華があるのだが、こちらはほとんど活躍しないであっさり死んでしまうと言うのも残念と言うしかなく、最後に登場するたかと言う女性も又、度胸良く全裸になるシーンをこなしている…と言う以外には、平凡な容貌でさほど印象に残らない人物。
千葉真一のアクションも、ロングのシーンはスタントがこなしているのではないかと思われるような印象で、全般的に迫力は今一つ。
百円硬貨を敵に投げ付けると言った「銭形平次」ばりのアクション等も、かっこいいのかださいのか、にわかに判断がつかないのも困りもの。
後半、JCIAに捕えられた犬神明が生体解剖されるシーンが、仮面ライダーのショッカー改造室に重なって見えるのがちょっと面白いくらいで、後は、平凡な印象のアクションシーンばかり。
いつものように、山の造成地のようなところで大爆発の連続が見せ場では、テレビのヒーローものと何ら代り映えしない。
期待した狼男への変身シーンもないし、一番盛り上がりそうな、犬神の血を輸血された殺し屋との対決等も、拍子抜けするような展開と言うしかなく、全般的に何ともインパクトの弱い通俗娯楽アクション映画と言うしかない。
この当時の東映には、偉いさんとかインテリを演じる役者がいなかったらしく、室田日出男や待田京介が政府の秘密機関のエリートでは、あまりに安っぽ過ぎる。
特殊効果等も、背広が破れて身体に特殊メイクの傷が出来ている…と言う描写あたりがせいぜいで、複雑な効果の類いは一切使われていない。
しょせん、当時のB級プログラムピクチャーの一本としてはこの程度…と言ってしまえばそれまでだが、荒唐無稽なりに、もうちょっと細部の工夫を凝らしていれば、かなり面白い映画になった素材ではないかと思われるだけに、惜しい気がする一本である。
予算を投じて、今、それなりにきちんとリメイクすれば、面白くなる作品なのではないだろうか。
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