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東京・丸の内

1962年、東映東京、源氏鶏太原作、大川久男+池田雄一脚本、小西通雄監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

東京駅、朝のラッシュの中、勤める会社第一機械へ向かう庶務課のOL高宮曜子(佐久間良子)、そのすぐ後を追うように近づいて来たのは、同じく第一機械製品企画課の技師加部一喜(高倉健)。

登山帰りの姿のまま曜子に声をかけた加部は、いきなりプレゼントを渡す。

訳が分からず面食らう曜子は、そのまま庶務課に到着すると、机の拭き掃除をしながら、同僚の松岡裕子(小林裕子)に、加部からもらったプレゼントを見せる。

包みを解いたプレゼントの箱の中身は、民芸品の雪靴だった。

ちょっとセンス良いわねと誉めた裕子は、曜子が社内文集に書いた文「私も上を向いて歩く」を読んでファンになったに違いないと加部の事を推測する。

やっぱり男は、40過ぎて課長どまりのような人じゃダメねと言っている裕子の前に、その40過ぎても課長の中曽根(千秋実)がやって来て苦笑する。

同僚の岡本君子(標滋賀子)も出社して来る。

一方、その頃、製品企画課では、同僚の石山茂雄(谷幹一)の肩を叩いて机に座った加部が、登山靴を磨いているのに気づいた水町課長(春日俊二)が注意するが、まだ9時一分前だから、自分の時間だと加部は反論する。

席に戻り「社長になるために」と言う本を読みかけた水町課長は、星山専務(加藤嘉)から呼び出しを受ける。

星山専務は、「人事異動の件で、部課長の線はほぼ固まった」と、やって来た水町課長に伝える。

水町課長は、星山専務の腰巾着だったのだ。

庶務課では、そろばんを弾き、手早く書類を作成させた曜子が、中曽根課長にそれを手渡しに行く。

中曽根課長は、3年前に母親を亡くし、天涯孤独になっている曜子の事を常日頃から心配してやる優しい心根の上司だった。

そんな曜子に、前々からつきあっている恋人の葉山信夫(亀石征一郎)から電話が入り、今日のデートを誘われる。

それをうらやましがる裕子は、昼食時、曜子と一緒に食堂に出かけるが、そこで自分を待ち受け、何とか話しかけようとする石山の姿を疎ましく思い、相手にしなかった。

裕子にとって、野球部が解散した今、すっかりやる事がなくなったようにしか見えない覇気のない石山は、恋人として物足りなく感じていたからだった。

そうした冷たい裕子の態度に落ち込み、その後、屋上でコッペパンをかじっていた石山に声をかけたのは加部だった。

そんな加部に近づいて来た裕子は、曜子には恋人が既にいるのだと忠告してやる。

その裕子に話しかけて来たのは、やはり、曜子と同じく、社内文集に掲載されていた裕子の文を読んだと言う田島金造(大村文武)だった。

いきなり、自分の貯金通帳を出して裕子に貯金残高を披露した田島は、すっかり裕子と意気投合し、一緒に帰る事になる。

一方、曜子は、迎えに来てくれた葉山の車に乗り、会社を出るが、その様子を、帰宅途中だった加部は目撃する。

会員制のクラブに連れて来られた曜子は、葉山から父親である葉山良太郎(佐々木孝丸)を紹介される。

良太郎は、気さくに曜子に声をかけてくれたが、まだ会っていない葉山の母親は、両親がいない自分の事を許してくれるかどうかと、曜子は心配だった。

しかし、葉山とダンスを踊っているうちに、そんな心配も消し飛んでしまうのだった。

アパートまで、葉山に送ってもらった曜子が、夕食の準備をしていると、酔った岡本君子が訪ねて来る。

彼女は、夜の仕事と会社の仕事を掛け持ちでやっていたので、相当疲れきっているようだった。

翌日、星山専務は町山課長に、東京商事の葉山信夫と自分の娘の写真を見せながら、この両名を結婚させる事が出来たら、自分も葉山良太郎との縁が出来る事になり、そうなると自分たちの出世にも有利になると画策していた。

後日、曜子は、葉山信夫の母親松代(三宅邦子)に会う事になる。

6年前に父を亡くし、3年前に母を亡くしていると正直に打ち明けた曜子だったが、松代は、結婚に際し、いくら用意できるのか、ずけずけと聞いて来る。

曜子は、10万円貯金があるし、退職金で5万もらえるからと打ち明けるが、それを聞いた松代はせせら笑うのだった。

今、うちのような所が結婚するとしたら、100万はかかると言うのだ。

その場を何とか取り繕うとする葉山であったが、さらに驚いた事に、曜子にとっては全く見ず知らずの武山明子(小林哲子)が、松代に呼ばれていたらしく、その食事のテーブルへやって来る。

その女性を武山財閥のお嬢様と紹介された曜子は、身の置き所がなく、その場を去る事にする。

追いかけて来た信夫は、何とか母親を説得してみると慰めるしかなかった。

その夜、加部は、大学時代の先輩である中曽根に、今後とも曜子の事をよろしくとビアホールで頼んでいた。

その帰り、茶漬屋に立ち寄った二人は、偶然、そこに来ていた曜子と鉢合わせになったので、軽い気持ちで今日の見合いの成果を尋ね、自分はきっぱり君の事はあきらめると伝えた加部だったが、傷ついていた曜子は何も答えず店を飛び出してしまう。

驚いた加部は、その後を追い、曜子を自分が馴染みの歌声喫茶に連れて行く。

加部は、山登りの友達で、その店のオーナーでもある武山大造(安井昌二)と、たまたま店に来ていたその妹の明子を曜子に紹介するが、曜子と明子は、互いに今日の昼食の席で会った相手である事と気付き驚く。

二人のいきさつを知らなかった加部は「山男の唄」をリクエストし、みんなで唄っているうちに、次第に曜子の心も溶け始め、最後には一緒になって明るく唄いだすのだった。

そんな様子を観察していた明子は、加部が好きなのは曜子だろうと言い当てる。

しかし、曜子は、自分は信夫をあきらめないと言い切り、その場は帰って行く。

その後、曜子は何度も信夫にコンタクトをとろうと電話するが、全く通じなくなる。

それでも、信夫を信じたいとけなげに言う曜子に対し、裕子は、食事の度に割り勘にする田島の合理主義にはついて行けなくなりつつあるとこぼすのだった。

そんなある日の昼休み、曜子に近づいて来た加部は、実は葉山信夫は自分の大学時代の同級生なので、あいつの行きそうな場所なら心当たりがあると教えてやる。

加部が曜子を連れて行ったのは、ゴルフ練習場だった。

はたしてそこには、やさしく女性にゴルフを教えている信夫がいた。

突然の曜子の来訪に戸惑った信夫は、あれから考えてみたが、母親の言う事も分かるようになったと打ち明け始める。

もし、母に反対して結婚したら、自分は家を出なければ行けなくなり、そうなったら、もう幸せな結婚生活は出来なくなると言うのであった。

さらに、加部の姿を見た信夫は、後日、曜子が家に来てくれれば、(慰謝料として)10万くらいは母が渡すだろうと失礼な暴言を吐いたので、思わず、加部は信夫を殴りつけてその場を去る。

曜子を連れて会社に戻る途中、あの男にすべてを捧げたのかと聞いた加部は、首を横に振る曜子を見て、ありがとうと頭を下げる。

しかし、ショックを受けた曜子は泣きながら会社の洗面所に逃げ込む。

顔を洗い、庶務課に戻って来た曜子は、裕子に、自分は人を見る目がなかったと打ち明けるのだった。

その会社に、あの武山明子がやって来る。

一方、星山専務は、加部を呼び出すと、急に北海道転勤を命ずる。

実は、ゴルフ練習場で、信夫と一緒にいた女性は、星山専務の娘睦子(長野賀津子)だったのだ。

転勤の理由が分からない加部は、高速トラクターの設計が完成直前なのだがと抵抗するが、聞き入れられなかった。

その加部が、専務室から出る所を待ち構えていた曜子は、事情を知っていたのか、自分のせいでこんな事になって…と詫びるのだった。

後日、加部と石山両名の北海道転勤辞令が張り出される。

お別れ会が模様される事になるが、会費を払いたくない同僚たちは、水町課長の挨拶が終わると同時に帰ると、我も我もと皆帰り始める。

自分は残ると言う曜子を遺し、裕子も帰りかけるが、加部に促され、それを追って行った石山は、廊下で裕子に追いつくと、北海道でやり直してみせると言い、強引に相手の鼻にキスをする。

すると、力が抜けた裕子の気持ちも変わり、またお別れ会の部屋に戻って来るのだった。

中曽根、曜子と一緒にお別れ会を帰る加部は、中曽根が先に別れた後、自分の部屋に来て、一緒に引っ越しの手伝いをしてくれないかと曜子に頼む。

曜子は快諾し、彼のアパートへ向かうと一緒に荷造りの手伝いを始める。

その最中、電報が届き、それを読んだ加部は唖然となる。

なぜか、北海道転勤が急に取りやめになったと言う知らせだった。

それを聞いた曜子は、とりあえず喜び、又、荷解きを手伝うのだった。

翌日、出社した加部は星山専務に呼ばれ、今度は、高速トラクターの設計を完成させてみたまえなどと、愛想笑いで勧められたので、また面食らう事になる。

その後、明子からボーリング場に呼び出された加部は、今回の一連の顛末が、明子の指示であった事を知らされ怒る。

しかし、あっけらかんとした明子は、今度、兄さんと曜子さんを誘って、一緒に別荘に行きましょうなどと誘って来る。

誘われた曜子は、うれしそうにピクニックの準備をする。

山に登った大造は、加部に対し、ぐずぐずしていたら曜子さんは俺がいただいちゃうぞなどとけしかけて来る。

別荘に到着した4人は、一緒にテニスなどに興じる。

その後、別荘のベランダで、曜子と二人きりになった明子は、フェンシングの剣を明子に突きつけ、真剣な顔で、自分は加部さんを愛しているのだと告白する。

その頃、葉山良太郎は、別荘にいた武山英明(柳永二郎)に電話を入れ、加部と曜子の結婚を勧めるのだった。

武山英明は、バーベキューを始めていた加部らの側にやって来ると、娘の明子の事はどう思うと聞いて来る。

聞かれた加部は困惑するだけだった。

後日、会社で出会った曜子に、加部は、今度の金曜日、自分の誕生日なのでアパートに来てくれないかと誘う。

裕子には、田島から社内電話が入り、今後は割り勘を止めると言って来る。

その裕子、加部と曜子の両名が、そろて休暇届けを出した事を知って、曜子をからかうのだった。

昼休み、裕子と一緒について来た曜子の分の食事代まで払わせられた田島は、キョックを受ける。

田島たちが通りかかった興行クラブの中では、葉山良太郎が武山英明に、第一機械の専務星山の勧めもあるので、あの会社の株を持ってくれないかと頼んでいた。

その話を聞いた武山も、第一機械の経営のやり方には問題があると感じていたので、興味を覚えたようだった。

同席していた星山専務は、武山が第一機械の大株主である愛国銀行や愛国物産とも付き合いがある事も知っていたので、今、こちらでも明子さんの結婚の準備を進めている所なので、一万株くらい買ってもらえないかと勧める。

その頃、中曽根課長を呼び出した第一機械の久松社長(北龍二)は、近々、服部部長が定年で辞める事になるので、その後を君にやってもらいたいと喜ばせた後、後輩である加部に、武山の娘との結婚を口説いてもらえないか。自分に仲人をやらせてもらいたいと頼んでいた。

一方、水町課長は、その日は約束があると困惑する加部に、今度の金曜日、専務が用があるのでつきあってほしいと命じていた。

その金曜日、洗面所では、裕子が、一人だけ北海道に転勤させられた石山から来た手紙を曜子に見せていた。

曜子は、その裕子を連れデパートに出かけると、加部へのプレゼントを買い、加部のアパートに向かうと、二人きりの誕生会の準備を始める。

水町課長から、麻布のクラブ「クイーン」に連れて行かれた加部は、待ち受けていた星山専務から、今度ニューヨークに営業所を作りたいので、君に2年ほど行って欲しいと言い出す。

その後、本社に戻って来たときには、課長の椅子を空けて待っているとも。

なかなか戻って来ない加部を待ちわびていた曜子は、突如部屋にやって来た明子の姿を見て驚く。

明子は、加部が今度ニューヨークに行く事になったが、自分もそれに同行するのだと意地悪そうに伝える。

それを聞いた曜子は、たまらなくなって部屋を飛び出した所で、中曽根課長と出会う。

中曽根は、サラリーマンの社会でも毛並みとか家柄ってことが良く言われるんだと、加部との結婚をあきらめるよう説得し始める。

それを聞いた曜子は、日頃信頼していた中曽根からまでも、そうした政略がらみの話を聞かされたショックから、泣きながら帰るのだった。

その頃、クラブ「クイーン」にいた加部は、自分も一度、外国に行ってみたいが、正式な返事は明日したいと言い残し店を出ていた。

そこには、車で乗り付けた明子がおり、加部を乗せて走り出すと、自分も既にビザを用意している。アメリカに行けば、もう曜子は追って来れない。自分は加部の事を死ぬほど愛しているんだと告白する。

しかし、加部はそれをきっぱり断り、車を停めるよう要求する。

明子は、逆にアクセルを踏みつけると、猛スピードで車をしばらく走らせた後、あきらめたのか、加部を降ろしてやる。

曜子の方は都電で帰っていたが、車掌(田川恒夫)に注意されてはじめて、終着駅に到着した車内に、一人だけ残っていた事に気づく。

深夜の丸の内のビルの谷間を歩き始めた曜子の脳裏には、これまでの葉山や加部との思い出が走馬灯のように駆け巡っていた。

そんな曜子は、ビルの谷間の向こうから近づいて来る一人の人影に気づいて止まる。

加部だった。

加部の方も曜子に気づくと駆け寄って来るが、なぜか曜子は逃げようとする。

そんな曜子を抱きとめた加部は、君が好きだ、結婚したいと思っていると告白するが、曜子は明子さんはあなたを愛していると答える。

それを聞いた加部は、怒ったように、どうして君は、そんな返事しか出来ないんだ。人間なんてちっぽけなものだけど、それを明るくできるのは僕たちなんじゃないか?二人で戦おうと加部は訴える。

そして、二人は熱い口づけをかわすのだった。

翌日、曜子と共に専務室に向かった加部は、ニューヨークには女房を連れて行きます。自分たちは自分たちの手で、一歩一歩幸せをつかんで行きますと、曜子を紹介する。

それを聞いた星山専務は顔色を変えるが、その直後、葉山良太郎から電話が入り、星山の娘睦子と信夫の結婚話はなかった事にしてくれと、一方的に伝えられる。

理由を尋ねても、当人同士の性格が合わんと言うだけで、葉山は電話を切ってしまう。

さらに、突然部屋に入って来た武山英明は、加部たちを見ると、明子は、自分が政略に利用されたと知って納得したそうだ。もっとも、強がりかもしれんがねと伝え、二人を帰してやる。

事の意外な進展に動揺する星山専務に、武山は、今後は自分自身が会社の経営に乗り出す事にしたと宣言する。

星山専務は、自分の運命が分かったような気がして黙り込む。

廊下で、加部と曜子に出会った中曽根課長は、自分がやった事を二人に詫び、君たちのその勇気がいつまでも続いてくれるように願っていると見送る。

加部と曜子は、仲良く手をつないで会社を飛び出すと、近くの公園に出かけるのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

高倉健が、さわやかなサラリーマンを演じていると言う珍しい作品。

ヒロイン役の佐久間良子も初々しくかわいらしいが、驚かされるのは「海底軍艦」の皇帝役で有名な小林哲子が、準ヒロインとして、佐久間良子と並んでタイトルに名前が出て来る点。

「海底軍艦」の1年前の作品ではあるが、この作品での小林哲子は驚くほどイメージが違う。

ほっそりしていて、かわいらしく、恋のライバル佐久間良子を睨みつけるまなざしなどには、「皇帝陛下」の面影もある。

あっけらかんとした苦労知らずの金持ちの令嬢を良く演じている。

意外な所では、東映版「月光仮面」(1958)で知られる大村文武が、三枚目役で登場している事。

「ものすごい●●」と言うギャグ(?)を使い、ズーズー弁で唄ってみせるなど吉本新喜劇風のキャラクターを演じているのが興味深い。

テレビ版「月光仮面」で袋五郎八を演じていた谷幹一も出ていて、大村とは、同じ女性を巡るライバル関係を演じているのも楽しい。

社内の政略に巻き込まれた若い二人のささやかな抵抗を描いたストーリーも好ましいし、健さんの生真面目なサラリーマン役も、それなりにはまって見えるから面白い。

偉いさん連中を演じている加藤嘉、佐々木孝丸、柳永二郎らの存在感も貴重。