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鉄腕巨人

1954年、新東宝、小崎政房脚本、並木鏡太郎監督作品。

※この作品は子供向けながらミステリー的要素も若干含まれていますが、その謎解き部分も含め、最後まで詳細にストーリーを書いていますので御注意下さい。コメントはページ下です。

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トロフィーを抱え、微笑む力道山。

ルーテーズ戦をバックにタイトル。

弟子たちを指導する傍ら、自らのトレーニングも終え、ジムを出ようとした力道山(本人)は、待っていた少年ファンたちからサイン攻めに会うが、一人の中年男性(柳家金語楼)が淋しげに傍らに佇んでいるのに気付き訳を尋ねると、彼の息子が力道山の熱狂的なファンなのだが、病気で寝たきりなので、いつも自分がおぶって、街頭テレビを見せに連れて行っていると言うのだ。

さっそく力道山は、白いオープンカーに父親を乗せ自宅を訪ねるのですが、そこには母親と寝たきりの太郎(小畑やすし)、そして主治医の古川先生(古川緑波)がいた。

力道山は上がり込むと、すぐに太郎を抱きかかえてやり、古川先生に病状の話を聞くと、太郎は小児まひで歩けないのだが、何か大きなショックを与えると立ち上がれるかも知れないのだと言う。

多忙な力道山は、少年に土産を渡しながら「今日から坊やと私は親友だよ」と言い残し帰って行く。

その言葉に狂喜した少年太郎。

ここから、物語は急にジャングルの中に。

その世界では、元気に走り回れる太郎が「ア〜ア〜ア〜」とターザンのような雄叫びをあげると、豹皮のようなものをまとっただけの髭もじゃ山男(力道山-二役)が、「タロ〜!」と答えながら駆け付けて来る。

二人は野を駆け、川に飛び込んでは泳ぐ毎日を過ごしていた。

髭もじゃ山男は、太郎のように日本語は自由に話せないものの優しい野生児で、ジャングルの中に生えているバナナなど果物を採ると、太郎や仲良しの猿たちに分けてやるのだった。

川にはワニが泳いでいるが、山男は優しく微笑んで見つめるだけ。

動物は皆兄弟のようだった。

そんな二人がジャングルを散歩していると、突然、近くの洞窟の中から人の言い争うような声が聞こえて来る。

そこは、天知博士(古川緑波-二役)の秘密研究所だったのだが、助手の池島(小笠原弘)からその場所を教えられたと、ギャング団が侵入し、博士が発明したばかりの「殺人光線銃」とその設計書類の半分を奪い取ろうとしていた。

博士は、危険な発明品を奪われようとするので、必死に奪い返そうと抵抗していたが、その時、殺人光線銃の引き金が引かれ、ギャングの一人が消滅してしまう。

山男は、言葉は理解できないながら異変を察知したのか、急に洞窟の中に入り込むとギャング団と戦いはじめるが、その間に、アイパッチをした男殿村(富田仲次郎)は天知博士に拳銃を発砲すると、殺人光線銃と書類の半分を持ってそのまま逃走してしまう。

殿村は待たせていた車に乗り込むとそのまま出発。

車の中では、博士の助手だった池島が乗り込んでおり、殿村から博士を殺して来たと聞くと、約束が違うと狼狽する。

そんな車が山道を降りて行く途中、崖の上にやって来た山男は、巨大な岩を車の前の道に落とし、車はそのまま崖下に転落してしまう。

しかし、車は大破したものの、池島や殿村は生きており、何とか車から這い出して来たのだが、それを確認しなかった山男は、そのまま洞窟に戻ってしまう。

博士は、苦しい息の中で、原子放射能を除去する装置を太郎に託すと、殺人光線銃の設計図の半分は東京に住む娘のアキコが持っているので、ギャング団に狙われるはずだから探して、助けてくれと頼み。

太郎は、必死にアキコの住んでいる住所を聞こうとするが、意識朦朧状態の博士は、この事が警察に知れると、外国のスパイに狙われる恐れがあるので、決して他言しないよう念を押すだけで、アキコの住所を言わないまま息絶えてしまうのだった。

太郎は放射能除去装置を抱え、山男を従え洞窟を出ると、崖の下を通る列車を指し、あれに乗れば一東京へ行けると教える。

すると、山男は太郎を小わきに抱え、そのまま下を通過する列車の屋根に飛び下りてしまう。

太郎と山男は、列車の屋根に座って、ジャングルから持って来たバナナなどを食べていたが、トンネルに差し掛かったので、二人は下に降りる事にする。

すると、偶然にもその列車に乗り合わせていた殿村は、山男たちが追って来た事に気付き、様子を見に近づいて来る。

太郎たちもそれに気付いたので、一番後ろのブタを積んでいる貨車に乗り移るが、その貨車との連結器を、殿村は切り離してしまう。

独り暴走しはじめた貨車はそのまま脱線して、崖下の川の中にまっ逆さま…

ブタと共に川に投げ出された山男は、太郎を抱えると、いつものように泳ぎはじめる。

その後、東京の魚河岸で、マグロにガイガーカウンターをあてて残留放射能を検査していた科学者は、急に水揚げされた少年とターザンのような山男に腰を抜かすが、手を離したガイガーカウンターが彼ら二人の方を向くと、何と10000カウントもの大量の放射能を浴びている事が判明する。

200カウントのマグロでさえ廃棄処分にしているのに、10000万カウントとは信じられない数値であった。

科学者は、あの二人を捕まえなければ東京が大変な事になると警告するが、その騒ぎの間に二人は逃走してしまう。

怪しげな様子の山男と少年が都心に姿を消したと言うニュースを、車で移動していた殿村たちはカーラジオで聞いていた。

その時、車に積んでいたトランク型の携帯テレビに、顔を覆面で覆った謎のボスが写り、午後9時に、K-0地点で落ち合おうと言う指令を伝えて来る。

殿村たちは、誰一人、この覆面姿のボスの正体を知らなかったが、取りあえず、奪って来た殺人光線銃と秘密書類を売って大金を手に入れるため、彼らは指令通り、K-0地点ことバー「エンゼル」に向う。

バーで席についた殿村は、池島の恋人であるルリ子(美雪節子)から、バラの花を一輪受取るが、その花の中にはメモが隠されていた。

やがて、店のマスター(マンフリー)がステージに登場し、次は、トモ子さんの花売り娘と紹介する。

すると、愛らしい花売り娘姿の少女歌手トモ子ちゃん(松島トモ子)がステージに現れ、可愛い歌声を披露しはじめる。

そこにやって来てカウンターに座った池島に、ルリ子が近づいて来て、あの娘と一緒だったのね、と話し掛けるが、すぐにその話を遮るように殿村が割って入り、あの山男が東京に来たらしいと池島に教える。

その山男と太郎は、偶然にも、「エンゼル」の楽屋に入り込んでいた。

空腹だった彼らは、楽屋に並べられていた食べ物を勝手に食べはじめるが、そこに戻って来たのが、唄い終わったトモ子ちゃんだった。

トモ子は異様な姿の二人を目にすると驚くが、子供の直感で二人は悪い人間ではない事に気付くと、食べ物をたくさん与え、裸のままではまずいので、二人にその場にかけてあったコック服を着させる。

そしてそこにやって来たルリ子(美雪節子)に事情を離し、彼女のアパートに匿ってもらうよう頼むのだった。

ルリ子は快く二人とトモ子ちゃんを自宅のサクラアパートに連れて来ると、自分は友達の家でしばらく暮すようにするから、ここは二人で自由に使ってくれと譲り渡してくれる。

トモ子ちゃんは、山男と太郎は10000万カウントもの放射能に汚染されている怪物だとニュースで言っていた事を教えると共に、アキ子さんと言う人を探すのなら、サンドイッチマンになって歩けば良いとアドバイスを残し、ルリ子に連れられて帰って行く。

その夜、ルリ子のアパートの部屋ではじめて寝る事になった太郎と山男だが、夜中に起きた太郎は、隣で高いびきをかいて寝ている山男に対し、持って来た原子放射能除去装置のスイッチを入れると、安心したように自分も眠りにつくのだった。

翌日、太郎と山男は、服を着て都会人に成り済ますと、「アキコサン ドコニイマスカ シラセテクダサイ」とかいたプラカードを掲げ、町中を歩き回る事にする。

ちょうど、その近くの喫茶店で落ち合っていたのが、ルリ子と池島だった。

ルリ子は、早く悪い連中と手を切って逃げようと持ちかけるが、池島はまとまった金をもらったら…と煮え切らない態度。

そんな池島は、窓から下の通りを見ていて、太郎と山男を発見、すぐさま、ギャング団の親玉でありながら、表向きは会社社長の志村(安部徹)に、二人を見つけたと電話を入れる。

志村は、いつも天知博士の娘暁子に近づいていながら、なかなか残り半分の秘密書類を手に入れられないでいる池島に早く手に入れるように急かせる。

その志村の部屋にいた殿村は、いつも携帯テレビで指令を出す覆面姿のボスと言うのはあんたなのかと聞くが、志村は自分ではないと否定する。

殿村は、そんな志村に、金は山分けだぞと念を押す。

志村は、ベレー帽にパイプを加えている部下の相良に、ファッションモデルをやっているらしい、天知博士の娘暁子の元に行っている池島を見張るように命ずる。

その頃、天知暁子(安西郷子)は、三越ファッションショーに出演していた。

そのショーが終わった暁子に近づいた池島は、父親の捜査願いを出そうとする彼女に対し、警察に知られると、新発明が外国のスパイに狙われる恐れがあるからと、通報しないように説得する。

暁子と共に銀座の歩道に出た池島を呼び止めたのは、待機していた相良だった。

彼は、志村社長が呼んでいると、池島を車に乗せる。

一人で去って行く暁子とすれ違ったのは、プラカードを掲げて歩いていた山男と太郎だったが、互いに気付かない。

山男の方は、一日中歩いている内に、都会の雑踏で頭痛がし始めていた。

そんな事に気付かない太郎は、反対側の歩道で自分達を見張っている殿村を発見!山男に知らせると、すぐさま山男は車道を渡って反対側に向おうと飛び出す。

しかし、すぐさま車の渋滞が出来てしまい、車道の中央で車の列に囲まれた山男は、早く退くように急かせるクラクションの音に頭を抱えてしまい、一台の車を突き飛ばしてしまう。

その騒ぎを聞き付け、警官が駆け付けて来たので、太郎は慌てて、山男の手を取るとその場を逃げ出す事にするが、間もなく、先ほど突き飛ばした車の運転手三吉(内海突破)が、あんな力持ちには初めてであった。どことなく風貌も力道山に似ている事もあり、気にいったので君たちを送って行ってやると言葉をかけて来て、自分のオンボロ車に山男と太郎を乗せて、サクラアパートまで送ってくれる。

その頃、志村社長は、殿村に山男を消すように命じていた。

そして、そこにやって来た池島に対しては、早く暁子から書類の半分を手に入れるように命令する。

その様子を、隣の部屋から覆面姿のボスが立ち聞きしていようとは、誰も知る由もなかった。

その夜、三吉が肉と果物を下げてサクラアパートにやって来るが、太郎はもう床についているし、山男の姿が見えない。

太郎に訳を聞くと、アパートの中では慣れないので、庭で寝ていると言う。

それでは起こすのも可哀想と、三吉が帰った後、太郎は、土産の肉と果物を持って、庭に持って行ってやる。

木の上に手製のハンモックを張って寝ていた山男は、食べ物の匂いで目覚めると、下に降りて来て、置いてあった食べ物を嬉しそうに確認しはじめる。

その時、ちょっと、外に出ていた太郎は、待ち伏せていたギャング団に捕えられてしまう。

太郎は必死に「ア〜ア〜ア〜!」と雄叫びをあげる。

その声を聞いた山男は、すぐに駆け付けて来るが、一足違いで、車に乗せられた太郎は走り去って行く。

その後を追って走った山男だったが、すぐ近くの曲り角で待ち伏せていたギャング団の車から降り立った殿村は、殺人光線銃で近づいて来る山男を狙う。

しかし、そこへ警官が二人近づいて来たので、慌てて手元が狂った殿村の光線は街灯に当って、街灯が近くのビルに影だけを焼きつけて消滅してしまう。

車の後部座席で、子分たちに口を押えられていた太郎は、何とか、口を自由にすると、又「ア〜ア〜ア〜!」と叫ぶ。

その声を聞いた山男は、殿村を乗せ走りはじめた車の後ろに飛び乗る。

その直後、現場に駆け付けて来た警官二人は、壁に焼き付いた街灯の影を見て、異常事態発生と本部に連絡を入れる。

ただちに、芝浦方面に怪物が出現したと緊急指令が都内全域に発せられ、パトカーが急行する。

車両置き場のような所に止まったギャング団の車から降り立ったギャングたちは、車にしがみついて来た山男と格闘を始めるが、丸で歯が立たない。

太郎と無事再開した山男の元にパトカーが近づいて来て、二人を確保する。

警察に連れて来られ、一緒に牢に入れられた二人は、やって来た科学者によって放射能の数値が計られるが、不思議な事に、ガイガーカウンターには全く何の反応もなかった。

放射能汚染の疑いは一応晴れた二人だったが、ジャングルから来たと言う説明や、山男が立ち去った後で見つかった街灯消滅など、まだ不可解な事が多いし、山男の事は人類学者がまだ色々調べたいと言っているので、当分釈放は出来ないと署長(鳥羽陽之助)は言う。

結局、自分だけが釈放される形となった太郎は、再び牢に入れられた山男に会いに来ると、必ず連れ戻しに来るから、それまでここで辛抱しているように。そして決して暴れないでくれと特殊な言葉で伝え、さめざめと泣き出すのだった。

翌日、池島は天知博士からの使いが来ていると嘘をつき、暁子を志村社長の会社に連れて来る。

志村の前に連れて来られた暁子は、たちまち子分たちに捕まり、ハンドバッグに入れてていた残りの秘密書類を奪われてしまう。

そこへ、太郎も騙されて連れて来られる。

一方、サクラアパートで太郎の帰りを待っていた三吉は、何時まで経っても太郎が戻って来ないので、管理人と共に心配をしていた。

池島は、暁子を敵に渡した礼として受取った半金を持ってルリ子の待つ喫茶店にやって来るが、その話を聞いたルリ子は、残りの残金など志村たちが払うはずもないし、騙して敵に渡した暁子と言うのは、山男と太郎が探していたアキコの事ではないかと気付き、池島に彼女を助け出すよう頼む。

しかし、金に執着して、ルリ子との幸せだけを考えている池島は返事をためらう。

そんな池島にルリ子は、天知博士や暁子さんを敵に渡して得たような金では、自分達は決して幸せになれないと説得するのだった。

太郎が行方知れずになった事を知らせようと、警察にやって来た三吉は、牢に入れられていた山男に面会するが、山男の様子がおかしい。

髭もじゃだった顔がきれいになっているのだ。

警官から、ヒゲを剃ってやったと聞かされた三吉は、目の前にいる山男が、ますます力道山にそっくりな事に驚く。

三吉はそんな山男に、何とか太郎の事を伝えようとするが、人間の言葉は通じない。

一計を案じた三吉は、「ア〜ア〜ア〜!」と太郎の雄叫びの真似をしてみる。

その声で、太郎の事だと気付いたらしい山男に、三吉は身ぶり手ぶりで誰かに連れ去られたらしい事を伝えるのだが、興奮した山男は鉄格子を持って揺すりはじめる。

すると、警察署全体が地震のように揺れはじめ、署長室にいた署長と部長(丹波哲郎)は大慌て。

その騒ぎに乗じて、牢を逃げ出した山男は、三吉のオンボロ車に乗って、一路、太郎を探して東京の町に走り出す。

志村の会社の一室に縛られた暁子。

そこに、同じように縛られた太郎も連れて来られる。

その直後、志村の部屋に置いてあった携帯テレビから、覆面のボスが「値段は約束通り、取り引き場所はK-2号地」だと知らせて来る。
そこにやって来た池島は、志村に先ほどもらった札束を投げ返すと、すぐに暁子さんを渡してくれと迫る。

その様子を、隣の部屋に縛られていた太郎は鍵穴から覗いていた。

池島は、ギャングの子分たちに痛めつけられるが、部屋に設置してあった非常ベルのボタンを押す。

その音を聞き付け、警邏中の警官が二人、会社に近づいて来たので、殿村はナイフで池島を刺し、志村たちと共に逃げ出すのだった。

駆け付けた警官に抱き起こされた池島は、ルリ子に自分の事を知らせてくれと頼んで息を引取る。

隣で縛られていた太郎と暁子は、無事救出され、そのまま警察署へ。

同じく、呼出された警察署で、池島の死を知らされたルリ子は泣き出す。

そんなルリ子に、池島の活躍のおかげでスパイ団の事が分かったので感謝していると、部長は伝えるのだった。

一方、太郎の方は、天知博士から預かって来た原子放射能除去装置を暁子に手渡していたが、山男が警察から逃げ出したと聞いて心配していた。

その頃、その山男は、三吉のぽんこつ車で東京中を走り回っていたが、三吉は、太郎がどこにいるのか分からないので探しようがない事にようやく気付く。

さらに運が悪い事に、とある倉庫街に来たところで、車がエンストを起こしてしまい立ち往生。

三吉は、運転席を降りて、車の下に潜り込むと、修理をし始めるが、後部座席に乗っていた山男は、反対側からやって来て、近くに停まった車から、殿村たちが降り立って来るのを見つけ、自分も車を降りると、彼らに近づいて行く。

山男は、殿村や志村が入っていった倉庫の中に自分も侵入するが、部屋の中央に立った途端、床が落ち、そのまま落し穴に落ちてしまう。

笑いながら落し穴のふたを閉めた志村と殿村の前に、前もって物陰に身を潜めていたらしき覆面姿のボスが姿を現す。

ボスは、殺人光線銃と秘密書類を二人から受取ると金を渡すが、実は持って来たのは半金だけで、残りはK-0地点で渡すと言う。

それを聞いた殿村と志村が、「エンゼルですね」と確認したので、慌てたボスは、店の名前は出すなと二人を叱り飛ばし、そのまま倉庫から出て行く。

しかし、地下室の中から、これらの会話を山男はしっかり聞いていた。

その後、殿村が壁のスイッチを入れると、地下室の側面の穴から大量の水が流れ込みはじめる。

山男を溺死させようと言うのだ。

志村は殿村に、自分は先にエンゼルに行っているから、お前は、山男が水膨れになったのを確認してから来いと言い残して去る。

殿村はがさらに別のスイッチを入れると、今度は地下室の天井が降りて来る。

下からは水責め、上からは落とし天井で、山男を両面から押しつぶそうと言うのであった。

山男は、水に浸かりながらも必死で天井を押し上げる。

その頃、警察署にいた太郎は、志村の会社から押収して来たトランクは実は携帯テレビであり、いつもそこからボスが連絡をして来るのだと署長や部長に教えていた。

倉庫にいた殿村は、時間を見計らってスイッチを切るが、まだ中で生きていた山男は、水が入って来た穴から排水溝へ潜って脱出していた。

そして、こっそり別の隠し穴から倉庫の中に戻ると、驚く殿村に体当たりして、逆に殿村を落とし穴に落としてしまう。

山男は、ようやく車の修理を終え、何事もなかったかのように車の下から這い出して来た三吉をせかし、「エンゼル!」と言いながら後部座席に乗り込む。

三吉は、訳が分からないながら、「エンゼル」と言えばバー「エンゼル」しか知らないと言いながら、車を発車させる。

その頃、警察署に置いてあった携帯テレビが作動しはじめる。

X-1号、2号、取り引き現場は打合せ通り、午後2時、A-0で行うと、新たな指令を伝えて来たボスは、うっかり自分が覆面をしていない事に気付き、すぐに画面を消してしまう。

しかし、その素顔を見ていたルリ子は、そのボスと言うのは、バー「エンゼル」のマスターだと言う事に気付き、署長らに教える。

その「エンゼル」に乗り込んだ山男は、立ち向かう子分たちと戦いはじめる。

その隙に、マスターは金庫から光線銃と秘密書類を持ち出すと、裏部屋に逃げ出す。

子分たちを蹴散らした山男は、開け放たれた金庫に気付くと、その中に入り込み、金庫の背面と壁を破ると、裏部屋で行われていたカジノ賭博の部屋に侵入する。

そこに、警官隊もなだれ込んで来て、ギャング団との壮絶な銃撃戦が始まる。

そんな中、一緒について来た太郎は、匍匐全身で奥に進むと、今正に、子分と戦っている山男を銃で狙っていたマスターに気付き、その足に飛びつくと転倒させる。

マスターに気付いた山男は、着ていたシャツを破り、上半身裸になる。

一方、マスターの方も上半身裸になると、山男とがっちり組合う。

両者の力は五分のようだった。

階段からその様子を見ていた太郎は、勝負の行方に目を凝らしていた。

壮絶な組み合いの結果、最後は山男がマスターをさば折りで破ったので、太郎は大喜び。

しかし、その隙に乗じ、マスターがその場に放置していた秘密書類の入ったバッグを奪って逃げ出したのは志村だった。

地下通路から、マンホールを通じ外に逃げ出した志村は、そのまま近くにあったテレビ塔のエレベーターに乗り込む。

それに気付いた群集や警官隊が、テレビ塔の下に集結して来る。

暁子と太郎、そして山男も、パトカーに乗せられて、その場にやって来る。

志村は、エレベーターの最上階まで来ると、さらに階段を登り、テレビ塔の最先端まで登って行く。

その様子を下から見上げていた暁子は、あの書類を奪われると日本にとって大きな損失ですと署長に説明するが、誰も志村の側に近づく事は出来そうにない。

すると突然、山男がテレビ塔の土台部分の鉄骨にしがみつくと、それを大きく揺さぶりはじめる。

テレビ塔は大きく揺れはじめ、天辺にしがみついていた志村は、とうとう絶えきれず、鞄もろとも地上に落下してしまうのだった。

「落ちた〜」と叫んだ途端、太郎は目を覚ます。

今までの出来事は、全て太郎が見ていた夢だったのだ。

そんな太郎の前に走り込んで来た父親は、嬉しそうに、今から家の前にリングを張って、力道山たちが模範試合を披露してくれる事になったと知らせる。

町内中の人が集まった中、リングに立った力道山は、しばらく大きな試合がないので、今日は、弟子たちと医書に、日頃の練習風景を披露したいと口上を述べる。

やがて、力道山の弟子たちが、次々にリングに登場して練習を始める。

それをリング下で見ている太郎の横には、近所の仲良しトモ子ちゃんも座って、一緒に応援していた。

一通り練習が終わると、力道山が再びリングに上がり、今度はプロレスの型をいくつか披露すると言いながら、自らハンマー投げ、飛行機投げ、飛びばさみを演じてみせる。

それを見ていた太郎は、興奮のあまり、つい立ち上がってしまう。

それに気付いた力道山は、太郎をリングの上の抱え上げると、その手を取って、ゆっくり歩くように勧める。

太郎は、力道山に引かれるように、少しづつ歩き始める。

それを見て、近所の人々が、一斉にお祝の拍手をしてくれる。

リング下では、歌の上手なトモ子ちゃんが歌を唄いはじめていた。

やがて、それを近所の人たちも唱和しはじめ、大きな歌声が町内に響き渡る。

そこにやって来た古川先生も、叙情を知って大喜び。

リングの上では、すっかり元気になった太郎が、力道山を投げる真似をして大はしゃぎ。

その周囲では、いつまでも皆の歌声が響き渡っていた…

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

「ゴジラ」の約一ヶ月後に公開された、人気レスラー力道山主演の子供向け映画。

力道山は、ほとんど人語をしゃべらないターザンのような存在として描かれている。

基本的に子供の夢物語なので、辻褄があわなかったり、おかしな点も数多くあるが、素朴ながらマット絵や合成も随所に使われた特撮ものとしても楽しめるし、まだ貧しかった当時の子供達の夢が一杯詰まった楽しい作品になっている。

この映画、「力道山が東京タワーを揺さぶる」と言うエピソードは知っていて、前々から好奇心をくすぐられていた作品なのだが、良く考えてみると、作られた年代から考えて東京タワーが出て来る訳がない事に気付いた。

おそらく、当時すでに構想はあったかも知れないが、実物はまだ着工も始めてない段階なので、出て来る「東京タワーのような鉄塔」は架空のもの。

実際、形は似ているが、展望台も縞模様塗装もなく、まるで別物である事が分かる。

それと、「ゴジラ」同様、やはりこの年に「放射能汚染」と言うテーマは、子供向けとは言え、欠かせない社会現象だった事が分かる。

殺人光線銃の描写も、人間に当ると、ネガポジ画像が反転し、一瞬、骸骨が透けて消えるなど、レントゲンを想像させるものになっているし、街灯の影が壁に焼き付くなどと言うのは、原爆のイメージそのまま。

「鉄腕アトム」(1952)「鉄腕巨人」(1954)と続いた「鉄腕」と言う言葉は、この語「鉄腕投手 稲尾物語」(1959)に受け継がれる。

暁子役は「宇宙大戦争」でもお馴染みの安西郷子。

何故か、前年の新東宝作品「青春ジャズ娘」と全く同じファッションモデルの役で、同じように「三越ファッションショー」に出演している…。(使い回しかも)

金語楼や緑波と言ったメンバーも「青春ジャズ娘」と共通している。

目立たない役ながら、丹波哲郎もちらり登場。

豊登、芳の里、遠藤幸吉などと言った顔ぶれも出て来る。

ラスト近く、太郎の自宅前にリングを作って練習風景を披露するシーンで最初に登場するバカでかい若手選手は、ジャイアント馬場なのではないだろうか?

最初の方の、列車で敵から逃げるシーンは「インディ・ジョーンズ 最後の聖戦」を連想させるし、敵のボスと力道山が、上半身裸で対決するさまは、どこか「ドラゴンへの道」でのリー対チャック・ノリス戦を彷彿とさせたりするのも興味深い。

安部徹と富田仲次郎演ずる悪役は、子供向けながら、なかなか迫力がある。