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砂の香り

1968年、東宝、川口松太郎「人魚」原作、馬淵薫脚本、岩内克己脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

湘南の波打ち際を女を後ろに乗せた青年のバイクが突っ走って行く。

コリー犬「ラッキー」と一緒に、海辺に散歩に来た徳良敦(中山仁)は、時々同じ場所で見かける美女の姿を発見する。

美女は、足元に落ちていたかもめの死骸を観て立ち止まる。

ラッキーが、その死体を観て吠えるのを制しながら、徳良も、その死体を観て、猟銃で打たれていると言いながら手に取るが、女は、何かに怯えたように逃げ去って行く。

かもめの死骸を持ったまま、自宅に戻って来る途中だった徳良は、近所に住む大学の先輩橋本(長沢大)の妹恵子(松本めぐみ)に出会う。

学校は夏休みだとめぐみは言うが、まだ6月だった。

恵子は、以前、徳良からキスされた事があり、それ以来、彼の事を恋人くらいに思っているようだった。

彼女が言うには、海開きに、東京から兄たちが帰って来るらしい。

自宅に帰りついた徳良を出迎えたのは、ばあやのしげ(賀原夏子)だったが、徳良がかもめの死骸を持っているのに気付くと、お母さまが亡くなった日も、かもめがたくさん飛んでいたなどと不気味がる。

そんなしげの迷信臭い考えを笑いながら、徳良は、かもめの死骸を庭に埋めてやるのだった。

その後、本屋の前で僧侶二人が読経する中、本を購入して帰宅途中だった徳良は、踏切の所であの浜辺で出会った美女の後ろ姿を見かける。

遮断機が上がり、急いでその後を追った徳良は、その美女が豪邸に入って行くのを確認する。

やがて、海開きの日、ザ・タイガースの「シーシーシー」が鳴り渡る海水浴場にやって来た橋本ら仲間たちは、海から上がって来る色っぽい美女を目ざとく見つける。

橋本は、その美女が、元女子短距離界のホープと言われていた水泳選手水沢亜紀子だと気付き、声をかける。

橋本の仲間の一人として同行して来た徳良は思わぬ偶然に呆然となる。

その美女こそ、彼が海辺で出会ったあの豪邸に住む女性だったからだ。

橋本は、そんな徳良を亜紀子に紹介する。

徳良、通称「とんちゃん」と言い、彼も又、元水泳部にいたのだが、肋膜炎を患って、今は静養中の身なのだと亜紀子に教える。

亜紀子が、他の皆と海に入って遊んでいる間、ビーチパラソルの下で一人待っていた徳良は、そこに脱ぎ捨てられていた亜紀子の服に、思わず頬擦りをするのだった。

その夜、ヒゲを剃る姿を観たしげが、これからお出かけですか?と聞くと、徳良は上機嫌で「人魚の家だ」と言いながら出かける。

徳良が向った家は、あの亜紀子の住む豪邸だった。

玄関を入ると、能面のような無表情な女中なか子(仁木佑子)が出迎え、彼を中に入れる。

家の中には、能面がそこかしこに飾られていた。

庭では、橋本らが先に到着しており、亜紀子の招待を受けてのパーティを開いていた。

そこには、橋本の妹恵子も参加していた。

橋本も元水泳選手で、今は記者をやっており、メキシコオリンピックの記事は、その当時のスポーツマン精神に溢れた熱い内容だった。

徳良は、ただ亜紀子を見つめていたが、その亜紀子が突然悲鳴をあげる。

徳良のグラスに、大きな蛾が入り込んでもがいていたのを見つけたからだった。

その内、能に凝っていると言う仲間の一人、倉石(真船道朗)が、皆の前で能を披露し出したので、まだ子供の恵子は退屈がる。

そんな妹に、この出し物は、捨てられた女が新しい女に、凄まじい呪をかける内容だと教えてやる。

仲間の一人、永見(高島稔)が、自分の夫が、他の女を作ったらどうすると、からかうように恵子に問いかけると、恵子は、手でピストルの形を作り、撃つ真似をする。

そんな会話を聞いていた亜紀子の脳裏に、夫の元愛人(吉村実子)と対峙し、血飛沫が飛んだシーンを思い出していた。

亜紀子は、まだ延々と舞い続ける倉石の能を観てもおびえるし、じっとこちらをうかがっているかのようななか子の姿にもおびえる。

その場を離れた亜紀子がタバコに火を付けようとライターをするが火がつかない。

それを観た徳良は、さっっとマッチをすってやる。

その火をいつまでも消さないで、じっと亜紀子の顔を見つめている徳良。

能がようやく終わったので、恵子や永見はゴーゴーを踊り始める。

亜紀子を追って庭に出た徳良は、脱ぎ捨てられた亜紀子のサンダルを見つめて拾う。

池で足を洗っている亜紀子に近づくと、裸足の方が気持ち通いといいながら、ブランコ型チェアに乗ると、あなたも水泳やってたんですって?と亜紀子が問いかける。

青春が一杯詰まっている気がしてやっていたが、身体を悪くしただけだったと徳良は答える。

そんな徳良の姿を、恵子は庭に出て探していた。

能面がたくさんありますねと聞く徳良に、人間って皆、仮面を被っているのよと答える亜紀子。

仮面を取った本性など、皆醜いのかも…と応じる徳良。

後日、チャリで徳良邸に遊びに来た恵子だったが、しげから、坊っちゃんは出かけたと教えられる。

徳良は、亜紀子と二人で浜辺に来ていた。

独り海で泳ぐ亜紀子。

相変わらず、ビーチパラソルの下で休んでいた徳良は、そばに落ちていた瓶のかけらで、手のひらを切ってしまう。

海から上がって来た亜紀子は、その手のひらを吸ってやる。

その後、二人は海に入って泳ぎ出す。

亜紀子は、徳良に休まないように叱る。

そんな徳良を探そうと、浜辺にやって来た恵子は、監視員から双眼鏡を借りる。

沖に向って先行する亜紀子は、ねえ、御褒美が欲しくない?と徳良に聞いて来る。

追い付いたらキスしてやると言うのだ。

しかし、徳良は浜辺に戻っていた。

そんな徳良を、亜紀子は、ほんと意気地なしねと嘲りながら、日焼け止めクリームを塗ってくれと徳良に命ずる。

徳良は従順にその命令に従いながらも、上空を飛ぶ飛行機の陰を見つけて、満足げに微笑んでいた。

何考えてるの?と言う亜紀子の問いには、君の事…と答える徳良。

亜紀子の方は、一瞬、なか個の顔を思い出しながらも、こうしていると、ず〜っと、トンちゃんと会っていたような気がすると言う。

しかし、その後で、私たちは夏だけのおつき合いよと、釘を刺すのも忘れなかった。

夫の元愛人と、寝室で猟銃を奪い合う回想。

あなた、人を愛した事があるか?との問いかけをする亜紀子に、これから家に来ないかと誘った徳良だったが、明日東京に行くのでダメだと拒絶される。

しかし、徳良は勝手に上京していた。

そして、とある建物から出て来る亜紀子の姿を待ち受けていた。

亜紀子は、夫らしき男(川合伸旺)と出て来る。

その男と別れた亜紀子は徳良の車に近づくと、黙って乗り込む。

帰りの車中、何があったか教えてくれと言う徳良に対し、亜紀子は、約束よ、私の事聞かないでと口を封じる。

その後、二人は、屋外での能舞台を見学する。

その内容は、愛してもいない老人に重い石を持つよう求める女の残酷さを描いたものだった。

それを観て、女って残酷だな…と呟く徳良。

二人はいつの間にか、浜辺を歩いていた。

私って、能面を見ると怖くなると告白する亜紀子。

そして、いい臭い!砂の香がすると言い出した彼女は、泳がない?と言い出すと、誰もいない浜辺で服を脱ぎ捨てると生まれたままの姿になり、海に入って行く。

その後を追うように、徳良も服を脱ぎ去って泳ぎはじめる。

亜紀子は、もっと沖に行こうとけしかけて来る。

君はまるで人魚だ!と叫ぶ福良に、そうよ!ローレライの!と答える亜紀子。

遠くに、町の灯が見えていた。

二人が水中で口づけを交わす。

後日、恵子が又、チャリで福良の家に来る途中、二人の僧侶とすれ違う。

福良に会った恵子は、どうだった?あの奥さんとのデート?とからかう。

そして、しばらく自分は軽井沢に行くので、その間、どうなっているか楽しみだ、あの人とトンちゃん…と生意気な言葉を残し去って行く。

別の日、又、亜紀子と海に来ていた福良だったが、もう海にはクラゲが出始めていた。

それを観た亜紀子は、夏が終わるのねと呟く。

その日、福良の家に亜紀子はついて来る。

福良の部屋に上がった彼女は、そこにビュッフェの絵が飾られている事に気付く。

酒を勧めた福良だったが、しげが水とグラスを持って来たのでちょっとしらける。

亜紀子に迫ろうとした福良だったが、拒否され、ここを出ようと言われる。

林の中を歩いていると、どこからとも踏切の警告音が響いて来て、二人は立ち止まってキスをする。

私が欲しい?どんな女でも良い?私の過去を聞かないって約束してと聞く亜紀子を押し倒し、福良は身体を重ねる。

亜紀子は、でも、きっと知りたくなるわ…と呟いていた。

二人は別の日、江ノ島にやって来る。

洞窟に入ろうと誘う福良に、亜紀子は暗い所はいや!と、怯えたように拒絶する。

稚児ヶ淵に来た時、亜紀子は、そろそろお別れね…、海とも、トンちゃんとも…と呟く。

福良はちょっと怒るが、亜紀子は平然としている。

その時、近くで騒ぎが聞こえ、福良の止めるのも聞かず観に行った亜紀子は、魚捕りをしていて溺れた子供が大人に抱えて来られる様子を目撃する。

やがて、その子供は息を吹き返し泣き出すが、その事を告げる亜紀子に、君だったら笑うのか?生き返った時と聞く福良。

泣くわよ、私だって!怖いわ、私…と亜紀子はおびえる。

帰宅した福良は、橋本と恵子が待っていた事を知る。

軽井沢から帰って来たようだ。

恵子が気を利かしたように席を外すと、橋本は、亜紀子と付き合っているそうだが、あの人は、殺人騒ぎで未決中の身だと教える。

昔、主人と関係があった女が二人が寝ていた寝室に乗り込んで来て、その壁に飾ってあった猟銃で亜紀子を脅かしたのだそうだ。

二人は揉み合い、その間、二人が握っていた猟銃が暴発して相手の女が死んだのだが、その現場の目撃者は女中だけだったと言う。

殺された女の名前は、高木真理だった事を、古い新聞で知る福良。

恵子が追って来るのも構わず、亜紀子の豪邸に向う福良。

ベッドに横たわっていた亜紀子のそばの電話が鳴りだし、出ると福良だったので、「ダメよ!電話はしない約束でしょう!」と言って、亜紀子はすぐ切ってしまう。

亜紀子は、真珠のペンダントを持って悶える。

能面のアップ。

主人と寝室で寝ていた時、そばで鳴り出した電話の事を亜紀子は思い出していた。

ある日、浜を歩いていた福良は、空いた海の家の中で騒いでいる若者たちの姿を発見する。

見ると、全員身体にボディペインティングをして裸で踊っている。

その中に、恵子の姿を見つけるが、福良の姿に気付いた恵子は、彼に当てつけるかのように、廻りの男たちと無理矢理キスをして踊り始める。

帰宅した福良に、しげが電話だと知らせる。

出ると、亜紀子からだった。

台風が来ればお終いよ、今、海のそばにいる、今すぐ!と言う。

雨が激しくなる中、会いに行った福良は、亜紀子を抱き締める。

亜紀子は、お別れに乾杯したかったのと言うが、福良はお終いになんかしないと拒絶する。

橋本から事情を聞いた事を打ち明けると、二人でどっかに行って暮そうと説得する。

しかし、亜紀子は「アミーバよ」と言いながら、服を脱ぎ捨てると、人間の殻を脱ぎ捨て二人ともアミーバになるのよと誘い掛ける。

福良は、君がどれだけ僕のものなのか気になる。台風が去ったら、気には御主人の元に戻るの?と聞き、何だか僕たち、愛しあう事で互いの溝を深めあっているように思うと呟く。

亜紀子は、死ぬのが怖いから愛しあうんだわと言い、福良に抱きつく。

翌朝、台風は過ぎ去っており、亜紀子は自宅の寝室で目覚めていた。

能面のような煮無表情ななか子に、もうお目覚めですかと声をかけられるなか、下に降り、ピアノを弾いた後、絨毯に泣き崩れる亜紀子。

裁判の判決を聞く亜紀子。

判決文を読み上げる裁判長(中村伸郎)は、被告の行為は正当防衛に当り、無罪だと言い渡す。

それを傍聴席で聞く福良。

部屋から出て来る亜紀子を、廊下で待ち受けていた福良だったが、亜紀子は目も合さずすれ違って行く。

とある喫茶店で、福良を待ち受ける橋本と恵子。

橋本は、福良から頼まれた就職口を探して来たのだったが、その福良本人は、いつまで経っても現れなかった。

恵子は、一人になりたいと呟く。

以前、待っていたあの建物の前で待っていた福良だったが、建物から出て来た亜紀子は、サングラスをかけると、福良を全く無視して立ち去る。

それを追い掛け見失う福良。

湘南の波打ち際を女を後ろに乗せた青年のバイクが突っ走って行く。

コリー犬「ラッキー」と一緒に海辺に散歩に来た徳良敦は、もう決してやって来ない美女を想いながら、空を舞うかもめたちを捕まえようとでもするように手を伸ばすのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

明治百年記念、芸術祭参加作品。

青春映画等を撮っていた岩内監督が、一夏の人妻との禁じられた恋に身を焦がす青年を、60年代にしては珍しい、やや観念的な芸術映画風手法で撮っている。

フラッシュバックのように回想シーンが度々挿入されたり、能、僧侶の読経、ザ・タイガースの「シーシーシー」が、たびたび画面に重なる。

踏切の警告音なども象徴的。

…とは言え、基本となるストーリーはきちんとあるし、それほど難解と言うほどの内容でもない。

能面のように無表情で無気味な女中を演じている仁木佑子の存在が強烈。

浜美枝の全裸シーンが見物だが、ボンドガールを演じた1966年の「007は二度死ぬ」の頃とは見違えるほど、その肉体はふくよかになっている。

幼い嫉妬心を露にする松本めぐみ(加山雄三夫人)も、ボディペイティングで若干ごまかしているとは言え、上半身ヌードを披露しているのも驚き。