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みみずく説法

1958年、東京映画、今東光原作、斎藤良輔+長瀬喜伴+椎名竜治脚本、久松静児+板谷紀之監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

大阪から南東に一里半、河内地方は、昔はブラシ製造で栄えた地域だったが、今は、工業製品に押されつつある。

その八尾の町にある「天台院」に入山して1年になる住職今野東吾(森繁久彌)は、作家でもあったので、毎晩、夜遅くまで執筆作業で起きている事から、いつしか「みみずく和尚」と呼ばれるようになり、檀家総代の石田朝吉親分(曽我廼家明蝶)から、本物のみみずくを送られたほどの人物。

しかし、その僧としても身分は、妻(中村たつ)に言わせると、「お坊さんの二等兵」みたいなものなのだと言う。

その朝も、誰も檀家がやって来ない事を知った東吾は、オルガンを弾きながら「命〜短し〜…」などと独り唄いはじめる。

そこに馴染みの浅吉親分がやって来て、闘鶏が始まるので見に行かないかと東吾を誘う。

軍鶏の闘鶏はこの地方の名物の一つ。

その日の勝負は、河内ブラシ工場主の貞やんと、料亭「高安亭」の主人(田中春男)の戦いだった。

貞やんの娘和子(司葉子)と、その恋人の仙吉(藤木悠)も駆け付け、貞やんの鶏「兵助」を応援していたが、結果はあえなく、高安亭の勝利となる。

高安亭は、力あるもんが勝つんや!と花高々。

がっかりして帰る和子は、仙吉に「現代用語の基礎知識」を渡し、高校だけは出て欲しいと伝える。

自転車で去って行く彼女の姿を見送る仙吉に、そばにいた悪友勘次(立岡光)が、もう関係は出来たのか?と聞いて来るが、数ちゃんは結婚するまで純潔でいたいと言っているから…と、仙吉は気弱そうに否定する。

それを聞いた悪友たちは、担げば良いんだと、仙吉をけしかける。

勝負に負けた貞やんの商売の方も、最近、ナイロンブラシに押されて売れなくなっていたので、面白くない。

何とか、高安亭の鼻をあかしたい彼は、蔵やんに、負けた軍鶏を潰すように命ずると、どこかに強い軍鶏がいないかと聞く。

一方、意気揚々と「高安亭」に帰って来た主人は、女房が不在なのを良い事に、仲居のお時(高見淑子)の部屋に入り込むと、昼間っから口説きはじめる。

そこに入って来たのが主人の幼い息子正夫(長谷川茂)で、母親に言い付けてやると脅して来るので、かかの廻しもんかと主人は呆れて、口止め料のこづかいを渡す。

そこに女房千代(月野千代)が帰って来たので、慌てた主人は、借金取りに出かけると、チャリに跨がって橋を渡りかけるが、慌てていたためか、途中で転んでしまう。

強い軍鶏を持っている男がいるとの噂を聞き付けた貞やんは、その持主と言うのが仁吉(頭師孝雄)と言う、まだ子供だと知る。

その仁吉は、学校へも行かず、褌一丁で川で魚を捕っていたので、たまたま通りかかりその姿を見かけた蹴り上げの松(中村是好)が注意すると、仁吉は、松の足が悪い事をからかう。

高安亭の主人は、美人ママおふじ(乙羽信子)が一人で経営しているバー「フジ」で飲んでいた。

おふじに気のある高安亭は、浅吉親分がママに惚れているのではないかと探りを入れるが、そこにおふじの妹とし子(美杉てい子)とおふじの息子の真一(二木まこと)が連れ立って帰って来る。

そこへ、当の朝吉がやって来たから、高安亭との間に奇妙な空気が流れる。

ライバル同士の陰悪な雰囲気を感じたとし子が間に入って止める。

天台院では、闘鶏に負けた兵助が、鳥鍋になっていた。

そこへ浅吉がやって来て、貞やんと一緒に、和尚は頭を使わないで金もうけしていると揶揄する。

そんな所に松もやって来て、嬉しそうに「鳥鍋」の御相伴に預かる。

東吾は、お経代はわずか一回につき30円しかもらっておらず、いかに自分が貧しい生活を強いられているかと説明する。

ある日、出かけた東吾が、茶店でひと休みしていると、お米(浪花千栄子)が通りかかり、一緒にひと休みすると、亭主のために買って来た焼酎をその場で飲みはじめ、その減った分を水で薄めはじめる。

そのお米について彼女の家に出かけてみると、亭主丈やん(立原博)が家の電気線を切断しようとしている電気会社の人間に文句を言っている最中だった。

電気会社の人間は、電気代を払わないからと仕方がないと困り顔。

その様子を観た東吾は、働きもせず飲んだくれの亭主の厚顔振りにあきれ顔。

矢引整毛工場と言う会社を経営しているのは、通称「豚の毛はん」と呼ばれている社長(織田政雄)だった。

毎日、豚の親子像を拝んでいる。

そこに浅吉親分がやって来て、景気の具合を尋ねるが、やはりナイロンブラシに押されて、小さな工場はダメだと豚の毛はんはこぼす。

その頃、天台院に、奇妙な格好をした娘がやって来る。

その異様な姿を観た通りがかりの駄菓子屋のおばさんは、じっと門の外から寺の中の様子をうかがっている。

東吾に会ったその娘(横山道代)は、自分は投書雑誌の記者依田あい子だと名乗り、東吾に原稿依頼をするが、原稿料は払えないと言う。

しかし、そんな虫の良い依頼に東吾が応じようとしないと分かると、急に泣き出す始末。

呆れた東吾は、その記者を放っておいて、勝手にお経を読み出す。

すると、ますます記者は大声を張り上げて泣き出すのだった。

さすがに呆れた東吾だったが、仕方がないので訪問記事と言う体裁にし、記者の名前で掲載するのであれば受けると答え、自分は、神戸の中学を退校になり、但馬の小さな中学に島流しにされた時の事を語りはじめる。

記者が帰った後、今度は松に連れられて尼僧の春日尼(坪内美詠子)がやって来る。

春日尼は、私、どないしたらよろしいやろ?と何か悩んでいる様子なので、恋愛の悩みかと早合点した東吾だったが、そこに貞やんが来たので、話すきっかけを失ったのか、春日には詳しい事を言わないまま立ち去ってしまう。

てっきり恋愛の悩みと思い込んだ東吾は、松と、一体相手は誰なんだろうと首を傾げあうが、何故か、貞やんまで無言のまま帰ってしまう。

それを観た松は、相手はきっとあの貞やんや!と決めつける。

実は貞やんの本当の悩みとは、20年前に他の女に生まれた隠し子貞一郎(加藤春哉)の事だった。

娘の和子は知らないのだが、妻おつた(酒井光子)は知っており、夫にこっそり会いに来た隠し子の事を家であれこれ攻め立てる。

貞一郎を外に連れ出した貞やんは、息子が関東炊きの店を出したいので20万、用立てして欲しいと言う話を聞く。

母親は今、瓦町市場で女中をしていると言う。

そうした二人の会話を、たまたま物陰にいた仙吉が立ち聞きする。

夫の帰りを心配したおつたが、様子を観に外に出たのを確認した仙吉と勘次は、貞やんの家の庭先に忍び込むと、一人になった和子に襲いかかり、そのまま二人で和子の身体を担いで外に連れ出す。

気絶しているかに見えた和子だったが、ちゃんと彼らが庭先に忍んでいた時から気付いていて、芝居をしていただけだった。

そこに母親が戻って来て、和子の姿が見えない事に気付く。

仙吉らは、気絶した振りをしている和子を抱えたまま、川沿いに建つ水車小屋に連れ込み、勘次は手伝い代200円を要求する。

たまたま出かけて来て帰宅途中だった東吾は、行灯片手に水車小屋のそばを通る際、その話声を聞いてしまう。

仙吉は結局30円しか渡さず、小屋を追い出された勘次は、中の様子を外から覗きはじめるが、その様子を、東吾は少し離れた所から監視していた。

川側から窓を覗こうと身を乗り出していた勘次は、足を滑らせ、川に落ちてしまい、手に持っていた30円を落としてしまう。

それを救出した東吾は、勘次に静かな声で説教して帰す。

小屋の中では、気付いた振りをした和子が、結婚する相手は、一生付き合うのだから、言う事を聞くタイプの男にしろと母親から言われているのだと仙吉に伝えていた。

そこへ入って来た東吾は、自分が仲人をしてやるから、二人とも正式に結婚しろと諭し、二人は承知する。

ある日、バー「フジ」で、おふじと談笑していたのは浅吉親分。

そこへやって来たのがライバルの高安亭で、浅吉の姿を見ると、又、険悪なムードになるが、そこに高安亭の女房千代がやって来たので、高安亭はその女房からこっぴどく叱りつけられる。

その姿を浅吉が笑っている所にやって来た見かけぬ男がいた。

その男は、おふじに久しぶりだったと言うと、なんぼかあるやろ?と金を要求する。

おふじは黙って財布ごと渡してしまう。

その夫らしき男が店を出て行った後、とし子は、おふじに逃げなくちゃと訴える。

その一部始終を観ていた浅吉親分は、おふじが遊び人の夫から逃げている事情に気付き悔しがるのだった。

翌日、東吾は腰にねぶと(腫れ物)が出来たと痛がっていた。

何も薬がないので、目薬を付けることに。

そんな所に、浅吉、豚の毛はん、貞やんがやって来る。

さらに、松が「葬式だ!」と嬉しそうに駆け付けて来る。彼は、葬式がある時、東吾のお付きとして傘を持って随行するので、幾らかの収入になるからだった。

貞やんは、東吾に、自分には出来の良くない隠し子があるのだが、彼に20万出してやりたいが、それだけの現金が手元にないのだと打ち明ける。

その話を聞いた浅吉は、俺と和尚が保証人になるから、豚の毛はんに貸してやってくれと頼む。

そんな所に、葬式に出かけるためやって来た松が、先日来た雑誌社の女は、和尚の愛人だろうと言い出す。

駄菓子屋のおばさんがあちこちで言いふらしたらしい。

和尚は呆れてしまう。

その松を連れて、東吾は葬儀に出かけるが、腰のねぶとが痛むため、つい足を引きずってしまう。

松も足が悪いので、二人の足の悪い者同士が並んで歩いていると言う奇妙な光景になる。

そんな二人の行く道を、牛二頭がふさいでいる。

立ち往生している所に、後ろからトラックが迫って来たので、避けようと慌てた東吾は、土手を転げ落ちてしまうが、そのショックで、どうした訳か普通に歩けるようになる。

焼き場に到着した東吾は、出席者から挨拶を受け、謝礼を受取る。

帰り道、松への分け前を渡すが、その松、途中で出会った正やんに200円渡し、その正やんは按摩に100円渡すと言う。何か、彼らで賭け事をやった賭け金の受け渡しらしい。

寺に帰りつくと、貞一郎が待っていたので、豚の毛はんから借り受けた20万円を渡してやる。

そうした様子を貞やんは、物陰からうかがっていた。

金を受取った貞一郎の年を聞くと23になったと言いながら、日陰者の自分には金をもらう事は当然と思っているかのようなふてぶてしい態度だったので、東吾は一喝する。

自分もヨタった事があったが、今の自分になるために40年間をふいにしたのだとこんこんと説きながら、タバコを手渡す。

それを聞いて、さすがに貞一郎もしゅんとなってしまう。

貞一郎が帰って行くのとすれ違いに、慌ててやって来た松が、妙心寺の尼さんが虐められていると言う。

それを聞いた東吾は、松を伴って妙心寺に向う。

見ると、確かに、どこかの和尚が春日尼を虐めているように見える。

義侠心をだし、寺に上がり込んだ東吾は、その和尚に何をしているんだと一喝するが、相手の和尚は動じず、この近くに、身持ちの悪い尼さんをモデルにした小説を書くものがおるそうで、そのモデルがこの春日尼じゃないかと噂が立つので子、どうしたら良いのかと言う相談を受けていたと言う。

東吾は、先日、自分の所に春日尼が相談しに来た原因が、実は自分にあった事を知り、恥ずかしくなって、二人に謝罪する。

しかし、相手の大和尚は、東吾の書いた小説は面白いと誉め、今度は自分をモデルにして書いてくれないか等と言い出す。

東吾は、ただただ恥ずかしさで恐縮するばかり。

後日、仁吉から借り受けた軍鶏で、高安亭に再チャレンジした貞やんは、見事にリベンジに成功すし、「強いものがが勝つんやったな?」と、前回の屈辱の言葉をそのまま高安亭に言い返すのだった。

その頃、寺にいた東吾をとし子が呼びに来る。

バー「フジ」で行ってみると、おふじの夫が又来ており、3、4万出せと詰め寄っている。

出さなければ、息子の真一を連れて行くと凄んでいる。

それを観た東吾は割って入り、いくら出したらおふじと手を切るんだと詰め寄る。

夫が10万出したら…と言うので、だったら一筆書けと迫る東吾。

夫が帰るのを見届けた東吾は怯えていた真一に、今日はお盆やと優しく語りかけるのだった。

その頃、闘鶏勝利の立て役者仁吉を中心に、祝賀パーティをするため寺に集まっていた檀家たちは、仏壇の所に置いてあった「教師試補今野東吾、権律師に任ず」と書かれた書状を見つける。

妻が説明するには、本山からの辞令で、東吾はようやく昇進したのだと言う。

その頃、盆祭りに来ていた東吾と、疲れて寝入ってしまった真一を抱いたおふじは、近くの草むらに腰を降ろし、今後の身の振り方について相談していた。

おふじは、夫も昔は良い職人だったと弁解する。

こいが醒めたら、相手は鬼にも蛇にもなるのだと東吾は諭す。

浅吉の事はどう思っているのかと聞いた東吾だったが、おふじは、あの店を売って、どこかに行きたいと呟く。

寺に東吾が戻ると、待ちわびていた檀家たちが一斉にバンザイと言い出す。

そこに、例の女性記者あい子が又やって来て、いきなり東吾に抱きついて泣き出す。

その様子を観た全員は、ああやっぱり…という風に、互いに頷きあうのだった。

彼女が手渡した雑誌を開いてみると、約束とは違い、東吾の名前で文章が載っているではないか。

しかも、その雑誌社そのものが潰れてしまったのだと言う。

だが、あい子は、その後、他の連中に混じってパーティに参加すると、けろりとしたように陽気になり、松と共にダンスを踊り始める。

酒目当てにやって来ていた丈やんが、その場にいた仙吉と和子の仲をからかい出す。

悪乗りした丈やんが、貞やんの隠し子の事までばらしそうになったので、貞やんは色めき立つが、和子は、自分も事情はもう知っているのだと打ち明ける。

すっかり上機嫌になったあい子は、来賓として大人たちから丁重にに扱われていた仁吉の席に座ろうとし、怒った仁吉と憎まれ口を叩き合う。

やがて天台院で、仙吉と和子の婚礼が執り行なわれる。

披露宴用の食事の準備中、本山からの葉書を受取った東吾が読んでみると、今まであった下の位が廃止される事になったと言う知らせ。

つまり、東吾は昇進したのではなく、それまでの位がなくなるので、便宜上、上の位の名称に変っただけだったのだ。

手伝いをしていたとし子には、おふじから手紙が届いていると渡してやり、浅吉親分にもおふじからの手紙を渡しながら、信州に行ってやれと耳打ちする。

披露宴が始まると、東吾は、オルガンで「ウエディングマーチ」を弾いてやる。

祝言を終えた仙吉と和子には、水車小屋の事を忘れるなと、そっと釘を刺す東吾。

和子が来賓客に挨拶をしている最中、新家の婆さんが死にかけていると勘次が知らせに来たので、皆は縁起でもないと顔をしかめるが、東吾は仕事だからと出かける事にする。

皆は、東吾を送りだすため、三本締をする。

勘次の運転する自転車の後ろに跨がって目的地に向っていた東吾の姿を観た仁吉が、二人乗りをするな!生臭坊主!と毒づいて来たので、思わず、東吾もずっこけそうになるのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

今東光原作の小説を映画化したもの。

地方を舞台に、貧しいながらもたくましく生きる個性豊かな人物たちが繰り広げる人間模様を、面白おかしく描いた楽しい作品になっている。

残念なのは、蹴り足の松のように、身体が不自由なキャラクターを登場させているため、今では、テレビ放映やソフト化ができない作品になっていると思われる事。

この松と言うキャラクターは、この後、シリーズ全部に登場する重要な役柄なので、このシリーズ全体がなかなか見られない作品になってしまい、ひたすら惜しいと言うしかない。

とにかく、登場する役者たちが皆芸達者揃いで、生き生きとした庶民を演じているので、魅力的かつリアリティがあり、ぐいぐい物語に引き込まれて行く。

中でも、豪快な酒飲みのかみさんを演じている浪花千栄子や、おかしな女性記者を演じている横山道代の存在感は愉快そのもので、強く印象に残る。

一見純情そうで、案外お侠なキャラを演じる司葉子や子役の頭師孝雄も素晴らしい。

とにかく、芸達者の代表のような森繁が傍観者的立場に徹しているように見える事からも分かる通り、他の登場人物たちのキャラが、皆立っているのだ。

特に本作は、シリーズ全体の中でも傑出した面白さを持った作品だと思う。