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きつね

1983年、松竹+霧プロ+日本天然色映画、井手雅人脚本、仲倉重郎監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

流氷の海

霧に包まれた林の中を、猟銃を持ったヒゲヅラの男緒方(岡林信康)が歩んで行く。

やがて、霧が晴れて行くと、緒方の眼前には、広大な花畑が広がる。

その中で一人、少女が絵本を読んでいる。

近づくと、怖がるでもなく、持っていた菓子を差し出す少女万耶(高橋香織)は、カラスが朝から騒いだの。死骸の目の球を狙っているんだって。おじさん、猟師?…と、無邪気に質問して来る。

その頃、林の中では、クマに警戒しながら、はぐれてしまった緒方を探し回る生徒たちがいた。

緒方は、猟師ではなく、流氷の研究をするため、当地に来ていた大学の講師だったのだ。

学生たちと共に、地元の低温科学研究所に戻った緒方を待っていたのは、井上教授からの伝言を携えて来た三枝(原田大二郎)だった。

緒方は、差し入れのビールを学生に持って来させ、海の見えるベランダに出て、三枝と一緒に飲み始める。

三枝は、こんな辺鄙な所に籠って、助教授への道をわざと遠ざけているように見える緒方の事を心配していたのだ。

さらに、緒方が友紀と言う人妻との交際が続いているらしい事も知っており、このままでは、札幌の大学に戻れなくなるぞと忠告する。

しかし、緒方は、俗物にもなりきれない自分に腹が立っていると答えるのみ。

その後、緒方は、地元で宿泊しようと、「ホテル コロボックル」と言う民宿に車で乗り付ける。

すると、管理人のおたきさん(野村昭子)から満員と言われるが、ある部屋の窓から、あの少女万耶が顔を覗かせているのを発見する。

彼女は、身体が弱いので、ここに保養に来ている親戚の子で、生まれた時から父親がいないのだと、おたきさんは説明してくれる。

玄関口に降りて来て、時々熱が出るのと自分で説明する万耶に、緒方は、自分は物理学で氷の研究をしている35才の男で、家族はいないと自己紹介する。

万耶は、自分は中学2年生だと自己紹介する。

研究所に戻り、緒方が南極の氷でウィスキーを飲んでいると、そこに万耶が遊びに来る。

学生たちも集まり、楽しく時間を過ごした後、暗くなったので、緒方は車で、万耶をホテルまで送って行ってやる。

おたきさん、怒らないかな?とホテルの前で車を停めて、緒方が心配してみせると、万耶は、私に会えて嬉しくないの?と大人びた事を言い出し、私が大きくなるまで待っていてくれる?と意味ありげな視線を送って寄越す。

それから、しばしば、万耶と出会って遊ぶ日々が続くが、ある時、林の中で、万耶は、何者かに急に怖がり出すと、緒方にしがみついて来るのだった。

それからしばらくして、万耶の部屋にやって来たおたきさんは、「かけすの間」に行ってごらんと声をかけて来る。

行ってみると、そこには緒方がおり、荷物の整理をしていた。

車でホテルに戻った二人、先にホテルに入りかけ、帽子を忘れたと車に戻ろうとした万耶は、緒方が見知らぬ女性と話している姿を見つけ立ち止まる。

学生たちが皆帰ったんだと説明する緒方。

ホテルの部屋も空いたので、ここに移る事にしたらしい。

その後、外出先から万耶に電話を入れた緒方は、オロチョンの火祭りを一緒に見に行かないかと誘う。

4時7分の列車に乗ろうと言い、駅で待合せする事にする。

ところが、駅に向う途中だった緒方の車は、雨で出来た泥道にタイヤをとられてしまい立ち往生してしまう。

その頃、先に駅に着いていた万耶は、なかなかやって来ない緒方を松内に不安感に襲われ出す。

駅舎の外に出てみると、その物陰に野生のきつねがいる事に気付き、急におびえる万耶。

結局、万耶に会う事なく、ホテルに戻って来た緒方は、おたきさんの口から、あの子は駅で3時間も待っていたそうだと教えられる。

反省して、万耶の部屋に行き、謝ろうとドアをノックするが、万耶は部屋の中でうずくまっているだけだった。

入ろうとすると、その緒方の腕に飛びかかり、出てって!と叫ぶ万耶。

しかし、その後、万耶は緒方が持って来た土産の彫り物を手にするのだった。

何とか、仲直りした二人は、その後、海を見たり、白鳥を眺めたりして時間を過ごす。

万耶は、自分も白鳥になって別の世界に飛び立つなどと、少女っぽい夢とも死への暗示ともつかぬ言葉を口にするようになる。

車で、ホテルに戻って来た二人。

先にホテルの入りかけた万耶が、車に帽子を忘れた事に気付き、取りに戻ろうと表に出ると、車の所で、見知らぬ女性と親しげに見つめあっている緒方の姿を発見し、思わず立ち止まってしまう。

女性は、緒方の浮気相手、人妻の友紀(三田佳子)だった。

森の中に入った緒方と友紀は、再び抱擁しあう。

一方、万耶は発熱し、ベッドに寝込んでしまう。

そこに、おたきさんが帽子を持って来てくれるが、夕食は食べないと万耶は言う。

その頃、緒方と友紀は、町のレストランで食事をしていた。

万耶は、ベッドの中で、きつねの幻影に怯えていた。

緒方と友紀は、ホテルで身体を重ねていた。

緒方が、御亭主と別れてくれと言ったらと、問いかけると、友紀は、無理かも知れないと遠回しに拒否する。

万耶は、洗面所で、氷枕の中の氷を棄てていた。

どこかで、犬の遠ぼえが聞こえる。

翌朝、ホテルの玄関口で、友紀は電話をしていたが、その様子を二階から、万耶はじっと観察していた。

そんな万耶に、友紀は、電話代を預かってねと渡し、緒方さん、もうちょっとお借りすると言ってタクシーで出かけるが、それを見送った万耶は、道に預かった小銭を捨ててしまう。

ある日、緒方の研究所に、突然、万耶が厚化粧してやってくる。

そして、戸惑う緒方に対し、私、夕べ、熱が出たの、怖かったのと怒ったように詰め寄る。

そして、緒方の研究用スライドを無断でいじり始めたので、緒方は怒って、邪魔するのなら帰れ!と叱りつける。

すると、万耶は、あの人、好きなの?あの人、奥さんなのよ、何ともないの?だまされているのよ、不潔!汚い!と、大人びた事を言いながら逃げ出すのだった。

その後、万耶がホテルに戻って来ると、母親(小林哲子)がやって来ており、万耶はセーラー服に着替えさせられる。

緒方がホテルに戻って来ると、万耶は母親が迎えに来たので、一緒に帰ったと、おたきさんから教えられる。

緒方は、一人で、万耶との想い出に浸るのだった。

それからしばらくして、万耶は病院で肝臓の手術を受ける事になる。

母親は、医者から病名を告げられ愕然とする。

入院していた万耶は、ある日、病棟の下を通りかかった配達の青年に、わざと上履きとペンを落としてみせ、拾わせ、部屋まで届けさせる。

話してみると、太郎と言う青年(谷部勝彦)は、医療機器の会社で働いているそうである。

万耶は、窓から見える別の病棟に入院している老人(浜村純)と仲良くなった事を教える。

老人は、女は男を、男は女を、一生懸命惚れねばならないと教えてくれた。

万耶は太郎に、自分の病名を調べてくれと頼み込む。

青年は、カルテのコピーを盗み出し、書かれているドイツ語が読めないので、万耶と一緒に、詳しい先輩に解読を依頼に行く。

事情を知らない先輩は、カルテを読むと、これはエキノコックスと言うきつねが媒介する病気で、この患者の命は、後数ヶ月くらいだろうと教えてくれるが、それを聞いた万耶はショックを受け、病室に戻る。

仲の良い老人は、死は怖くないと話してくれたが、ある朝、いつのものように、窓から老人の病棟を覗いた万耶は、老人の部屋のベッドが空である事に気付く。

老人は、その日の朝亡くなったのだ。

慌てて、霊安室に駆け付ける万耶。

その日、太郎が病室に見舞いに来ると、ベッドの下でうずくまっていた万耶は「怖い!怖い!死にたくない!」と泣きながら、しがみついて来るのだった。

騒ぎを聞き付けた看護婦が、万耶を押さえ付けてパニック状態を鎮める始末。

しかし、その夜、万耶は、独り病院を抜け出すと、吹雪の中、緒方がいる研究所目掛けて歩いて行く。

緒方は、窓の外で倒れている万耶の姿を見つけ、慌てて研究所に入れると毛布で身体を包み、用務員に何とか医者を呼べないかと電話の手配をするが、国道が閉鎖されており、到底不可能と分かる。

気がついた万耶は、私、来たかったの…と泣き出す。

緒方から、暖かいスープを飲ませられると、どこにも私の事を知らせないでくれと頼む。

朝、目覚めた万耶は、電話をかけている緒方の姿に気付き、あの人なの?と問いかけるが、緒方は、相手は学生だと答え、あの人とは付き合わないと付け加える。

万耶は、緒方さんが好き!誰にも渡したくないと告白する。

さらに、私を好きと言って!私を好きなら、きつねを撃ってと奇妙な依頼をする。

緒方は、そんな万耶を抱き締めるのだった。

万耶を車に乗せ、駅におたきさんが待っているから帰りなさいと、送りかけた緒方だったが、その運転を万耶は妨害し、きつねを撃ってくれると言うのは嘘だったの!と叫ぶ。

緒方は、大人になったら、僕の事なんか忘れてしまうよと諭すが、万耶は大人になんかならないの!と聞き分けがないので、思わず緒方はビンタをしてしまう。

数日後、万耶を連れて漁船に乗る緒方の姿があった。

オホーツクの流氷に乗って来ると言うきつねを撃ちに行く事にしたのだ。

漁船に一緒に同情した手伝いの青年晴治(阿藤海)は、流氷にたどり着くと、緒方と共に、氷の上に降り立ち、きつねを誘き寄せる餌を巻きはじめるが、緒方が一人で、流氷の陰で猟銃を持って待ち構える様子を見ながら、独り船に戻って来ると、船長(山谷初男)に、あの先生はおかしいと首をかしげる。

時間が経過し、食事を再び緒方の元へ運んで来た晴治は、流氷に乗ってやって来るきつねなんて、伝説だと忠告するが、それを聞いた緒方は、きつねなんて来なくたって良いんだ。本気になってみたくてね…と、呟くだけだった。

久しぶりだ、こういう気持ち…、緒方は独り呟く。

万耶が教えてくれた…、怖い子だよ、あの子は…とも。

その頃、船長は、風向きが変って来たので、なかなか戻って来ない二人の事を心配していた。

信じられない事に、緒方は、氷の上に出現した一匹のきつねを発見する。

船長が、氷の上に降りた時、一発の銃声が響き渡る。

きつねの死骸に近づいた万耶は、それに雪をかぶせながら、ありがとうと緒方に抱きつく。

裸の万耶と緒方と流氷のイメージが重なる。

雪の中を走る二人。

万耶は、明日帰ると言い出す。学校の友達に会いたくなったのと言う。

それを聞いた緒方は、安心したように、じゃあ、春休みにねと、再会を約束して別れる。

春別駅で、列車に乗り込んだ万耶は、ホームまで見送りに来た緒方に向い、「さよなら 好き」と、窓に指で描いてみせる。

緒方は、その窓に手のひらを付け、万耶も又、窓に手のひらをくっつけ、重ね合わせた所で、列車が動き始める。

後日、研究所にいた緒方は、用務員から、万耶が亡くなったと知らされる。

ホテルのおたきさんから連絡があったのだそうだ。

緒方は、万耶の葬儀が行われている教会に駆け付ける。

おたきさんと共に、焼き場に向った緒方は、あの子は、自分の命が短い事を知っていたのだろうかと呟く。

おたきさんは、勘の鋭い子ですから…と答えるだけ。

葬儀を終え、呆然としていた緒方の元にやって来た女学生が、万耶から預かった手紙だと言って手渡す。

その手紙を読み終えた緒方は、海に浮かぶ白鳥に、万耶の姿を重ね、自ら海の中に入って行くのだった。

白鳥は飛び立つ…

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

フォークの神様と称された岡林信康主演の、珍しいロリータもの。

野村芳太郎などが参加していた霧プロ最後の作品でもある。

内容を知らずに物語を追って行くと、次々とイメージが変る作品で、当初、猟銃を持ったヒゲヅラの岡林とフリフリの白いドレス姿と言う、正にロリータ趣味むき出しの万耶の出会い部分など、一体どう言う映画なのかと好奇心をくすぐられる。

やがて、きつねの幻影におびえる少女のシーンなど、オカルティックな作品かと思っていると、やがて難病もののような展開になり、さらに、流氷の上のきつね刈りと言う海洋冒険もののようなイメージにも変化して行き、なかなかつかみ所がない。

最後に至り、ようやく、少女と中年男の純愛物語だった事が分かる。

直接的な描写こそないが、二人は結ばれたようである。

父親を知らない少女が、魅力的な中年男と知り合い好意を持つが、やがて、その相手に、人妻と言うライバルがいる事が分かると、急に、嫉妬深い女に変身して行く様が描かれて行く。

一方、中年男の方は、思わぬ、少女からの愛情の告白に戸惑いながらも、純な心を忘れていた自分を反省し、はじめて物事に本気でぶつかる姿勢を学ぶ事になる。

観終わると、冒頭部分の、きつねにおびえる大仰な少女の描写は何だったんだろうと思う。

自分の病気の正体に、本能的に気付いていると言う暗示にしては、おどろおどろしすぎる印象がある。

あくまでも、前半、見せ場に乏しい内容の、映画的なサービス精神だったと言う事だろうか?

役者としては、ずぶの素人同然だと思われる岡林だが、特に棒読みと言う程の下手さではない。

ややぶっきらぼうに見えるキャラクターは、素の状態に近くするための演出なのだろう。

禁断のテーマに挑戦した、かなり異色の一編というべきか?


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