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危険な英雄

1957年、東宝、須川栄三脚本、鈴木英夫監督作品。

※この作品はミステリー要素もあり、最後に犯人が明かされますが、その部分も含め、詳細に書いていますので、御注意下さい。コメントはページ下です。

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週刊誌に掲載された「楽しい我が家の写真」と言うページが大写しになり、やがて、そのページが閉じると、その向こうに広がった住宅地の坂道を、今のページに写っていた少年を含む三人組が学校から帰って来る。

「健司くん!」と呼びこえる声に振り返る少年の一人に、近づいた帽子の男は何事かを健司に告げると、一緒に坂を降りはじめ、他の二人の少年は、健司にサヨナラを言って坂を登りはじめる。

タイトル

東都日報の旗を掲げた車が本社の前に横付けし、そこから新聞記者冬木明(石原慎太郎)が降り立つ。

その冬木が社会部の机に戻った時、隣の席の岩田(佐田豊)が、部長の田島(小沢栄太郎)から呼ばれ、ヤクザの出入りの記事で、他社に抜かれた事を叱られはじめる。

もう君にはサツ廻りは無理だなとまで言った田島は、交代要員として後藤か池田を探すが、あいにく両者とも取材で出かけていると言う。

その一部始終を聞いていた冬木は、自分にやらせてくれと申し出る。

それを聞いた友成次長(多々良純)は、君は困ると制止するが、冬木はそのまま部長に迫り、いつもインタビュー取材ばかりじゃつまらないとゴリ押しする。

結局、サツ廻りに戻る事に成功した冬木は、気落ちしている岩田に対し、後は引き受けたと嫌味を言って社を出る。

さっそく、警察署内の記者室にやって来た冬木は、毎朝新聞の記者今村(仲代達也)と、ドジを踏んだおっさん(岩田)は栃木に流されたと再会の挨拶をする。

その後、捜査主任の小野塚(志村喬)に挨拶に行き、さっそく、ヤクザの出入りの事でカマをかけてみるが、相手もベテラン、そうやすやすとは乗って来ない。

捜査から戻って来た三好刑事(桜井巨郎)に声をかけるが、こちらも無視。

一足先に、署を出て帰りかけていた今村だったが、ちょうど、タクシーから降り立ち、署に入って行った美人を見かけ、気になってそっと後をついて行く。

一方、冬木の方は、記者部屋の椅子に横になっていた。

捜査主任の部屋に入った美人は、小野塚に何事かを打ち明ける。

小野塚の顔は緊張し、近くにいた刑事に、誘拐事件だと低い声で教える。

取調室に美女三原葉子(司葉子)を案内した小野塚主任は、脅迫状を拝見しましょうと持ちかける。

葉子がバッグを開けようとすると、その手を制して、自らハンカチを取り出し、バッグの中の手紙を取り出すと、「明日午前10時、渋谷駅南口に100万円もってこい」と言う内容を確認する。

葉子が言うには、誘拐されたのは彼女の弟の健司であり、この手紙は、午後6時頃、郵便箱に入っており、その字体に見覚えはないらしい。

小野塚は、一緒に話を聞いていた江崎刑事(伊藤久哉)に、指紋採取をするようにと命じ、その手紙を渡した後、健司の友達が犯人の顔を観ている事、健司の父親は、東亜製鉄の社長三原準之助(三津田健)である事を葉子に確認する。

その取調室の部屋の前で、今村は中の様子を盗み聞きしていた。

その後、葉子が帰る所を目撃した冬木は、小野塚に何事かと聞くが、50万円する指輪の入ったバッグを落としただけだと言われる。

落とし物くらいで、主任の所に来るのはおかしいじゃないかと冬木はツッコミを入れるが、小野塚はとぼけながら、今日の泊りの三好刑事に何か書いたメモを渡して帰宅する。

その後、女が一人刑事に連れて来られたので、何事かと聞く冬木に、刑事はスリだと教える。

結局、その晩は何も収穫がなかった冬木は、馴染みのバー「リンダ」に飲みに出かける。

バーのママ(中北千枝子)は、他に客もおらず暇だったようで、ちょうど雑誌のパズルに熱中している最中だった。

又、サツ廻りに戻ったと報告した冬木だったが、別の客が来たので、その相手に向うママから、このパズルを教えてくれと雑誌を渡される。

がっかりして、雑誌をパラパラ眺めていた冬木の手が、あるページで止まる。

そこに「楽しい我が家の写真」と題された三原一家の写真が載っており、その中の一人が、先ほど警察署内で見かけた美女だったからだ。

冬木は、何かを感じ取り、そのページを破り取ると、店を飛び出して行く。

その頃、小野塚主任と江崎刑事は、秘かに三原家を訪れ、父親の三原、妻で健司の母親(岸輝子)、そして葉子から、アルバムの健司の写真を捜査用に受取っていた。

小野塚は、我々には我々のやり方があるので、身代金はそれらしいものを用意するだけで良いとアドバイスするが、三原は、もしそれで万一の時は…と不安を口にする。

誘い出し役を決めなければ…と小野塚が言うと、自分がやると、葉子が名乗り出る。

犯人が現れたら、時間を稼いでくれれば、その間に我々が捕まえると明日の打合せをしている最中、玄関のブザーが鳴り出す。

応対に出ようとする女中きぬ(堤真佐子)に対し、もし記者だったら、葉子が指輪を落とした事にしてあるからと小野塚が注意すると、それを聞いていた葉子本人が出ると言い出し玄関に向う。

玄関に入って来たのは冬木だった。

先ほど、何故警察に?という問いかけに、葉子は指輪を落としたのだと打合せ通り答えごまかす。

冬木は、納得いかないような表情をするが、何かを目にした瞬間、意外に素直に帰って行く。

葉子は、今、冬木が何を観たのかと玄関口を探すと、そこには、小野塚の帽子が置かれてあった。

三原邸を出た冬木は、近くの路上に停めてあった小野塚らの車も確認し、いよいよ自分の直感が正しい事を確信すると、その場で張り込みを始める。

その直後、三原邸にタクシーで乗り付けたのは今村だった。

彼は、ちょうど三原邸を出て来る所だった小野塚と江崎刑事に声をかけ、健司の写真はこちらも手に入れた、脅迫状の内容を教えてくれと持ちかける。

小野塚は、このまま一報を社に送って良いかと迫る今村を、ちょっと話があると自分達の車に乗せ、警察署に戻る事にする。

その様子を、冬木は物陰からしっかり目撃していた。

署に戻った小野塚は、今村を記者室に一旦残し、捜査課の部屋に戻る。

先ほどメモで指令を受けていた三好刑事は、藤井坂の下で子供達が観た男は、40才前後くらいだったらしいと報告する。

その後、記者室に戻って来た小野塚は、今村に待たせた詫びを言った後、君には子供はいるかね?と尋ねて来る。

独身の僕に子供なんている訳はないじゃないですかと答える今村に、自分には13を頭に5人の子供がおり、その子らは野球が大好きなんだが、三原の子供も野球が大好きらしいと意味深な言葉をかけて来る。

それは、記事を伏せてくれと言う意味だと悟った今村は、世の中は事実を知りたがっているんだといきり立つが、子供を殺して良いのか?金の受渡しは明日の朝であり、このチャンスを逃す訳にはいかないので、朝刊に書くのだけは待ってくれないかと小野塚から懇願される。

今村は折れ、朝刊に載せるのは待つが、その代わり、受渡しの時間と場所を教えてくれと交換条件を出す。

小野塚は、時間と場所を教えてやる。

その二人の会話を、部屋の前で盗み聞きしていたのは冬木だった。

二人がドアから出て来る時にも、扉の陰に隠れ、気付かれる事はなかった。

翌朝、東都日報の朝刊に「東亜製鉄社長三原準之助令息誘拐さる」の文字が踊る。

午前十時前、指定された渋谷駅の南口に三原葉子はやって来る。

その周囲には刑事たちが張込んでいたが、冬木も又、カメラマンと共に、車の中から葉子の様子を監視していた。

そこに、今村が車でやって来て、近くの喫茶店の二階で張っていた小野塚の所に近づくと、これは一体どう言う事だと、東都日報の記事を突き付けて来る。

こちらもどうして漏れたのか分からないんだと答える小野塚に、さらに文句を言いかけた今村だったが、その部屋に、三原夫婦も同席している事に気付き、思わず口をつぐむ。

やがて10時になり、葉子をはじめ、張っている刑事や冬木たちにも緊張が走るが、なかなか犯人らしき人物は現れない。

そんな中、一人の怪しげな男が葉子に近づいて来たので、刑事たちは身構えるが、それは、東京駅行きのバス乗場を尋ねる、地方からの旅行者だった。

その頃、渋谷駅の山手線から降り立つ一人の男がいたが、新聞売り場の「三原準之助令息誘拐さる」の宣伝文字に気付くと、思わず足を止める。

その日の夕刊は、結局、待伏せ作戦が空振りだった事を報ずるものばかりになる。

しかし、冬木は一人御機嫌だった。

今回のスッパ抜きで局長賞をもらったからだ。

友成次長と共にキャバレーにくり出し、ホステスと踊っていたが、友成から、これで気を許すな、これからが勝負だぞと釘を刺される。

その直後、部長から店に電話が入り、二人は社に呼び戻される。

サツの様子を聞かれた冬木は、事件は今後、長丁場になりそうだと報告する。

その長丁場を乗り切るためにはどうすれば良いかと聞かれた冬木は、犯人に結びつく情報提供をしてくれたものには懸賞を出しましょうと提案する。

さらに、葉子の手記を載せてはどうかとも。

冬木が自信ありげな様子だったので、部長は即座に採用する事にする。

翌日、冬木は早速、三原邸を訪れる。

事件が公になったので、玄関先には各社の記者が殺到しており、きぬが対応に追われていた。

そこに、当の三原が姿を現し、君たちは野次馬の代表か?人間性はないのかと気色ばむ。

そして、犯人に対しては、小切手を白紙で渡すから、金額はいくらに書いても良い。罪にならないように働きかけても良いから、子供だけは無事に帰してくれと書いてくれと頼む。

そうして追い出された記者の中には、今村の姿もあった。

そうした騒ぎを他所に、勝手口から巧みにきぬに迫り、葉子の部屋を聞き出した冬木は、その勢いのまま二階の葉子の部屋に入り込む。

驚いて、帰るように促す葉子だったが、ここでも言葉巧みに葉子を懐柔し、とうとう手記を書かせる事に成功してしまう。

その頃、警察署では、小野塚主任が捜査第一課長(清水一郎)に事件の進展具合を説明していた。

社に戻って来た冬木は、田島社会部長に、葉子の手記を持って来たと自慢げに見せるが、その原稿をあらためた部長は、本人の直筆サインがないんじゃ使い物にならんと突っぱねる。

冬木は、一瞬手抜かりだった事を悟るが、すぎに近くにいた、せっちゃんと言う女の子に、「三原葉子」と書いてくれと頼み、その偽のサインで記事にしてしまう。

翌朝、東都日報の紙面には、「弟を返して!」と題された葉子の手記と、懸賞を出すと言う記事が並んで掲載される。

そんな中、警察署にやって来た一人のタクシー運転手真田(沢村いき雄)がいた。

彼は、どうやら誘拐犯を乗せたのは自分ではないのかと言いに来たのだった。

さっそく彼に会った小野塚は、健司の写真を見せると、確かにこの子だったと言う。

貴重な情報に間違いないと直感した小野塚は、江崎にモンタージュの用意をさせると共に、真田に犯人を降ろした場所を地図で確認させる。

すぐさま、三好と江崎両刑事は、その場所に向い、徹底的な捜査を開始する。

一方、冬木は、次なる作戦を田島部長に提案していた。

誘拐された少年健司は、パイレーツの川田選手の大ファンだったらしいので、その川田選手にテレビ出演して、犯人へのメッセージを言わせたらどうかと言うのである。

いわば、美談仕立てにすると言う事で、部長や友成次長も面白がるが、TV枠が取れるかどうかと心配する。

すると、冬木はぬかりなく、健司少年はクッキーが好きだとも言うので、製菓会社のCM時間を提供してもらう事ができるのではないかと思う。全ては自分の手腕に任せてくれと言うではないか。

承認を得た冬木は、さっそく、新聞のラテ欄をチャックしはじめる。

警察署では、小野塚主任が、マスコミ各社の記者から質問攻めに合っていたが、何も答えようとしなかった。

そんな中、さっきの男は?と聞いた今村に対しては、同じく関係ないと答えながらも、この前借りた本を返したいからと、一人部屋に呼び寄せる。

他の記者が、何の本だと聞いても、探偵小説を貸しただけととぼける今村。

部屋にやって来た今村を窓際に呼び寄せた小野塚は、犯人のモンタージュが完成し、犯人捜査が核心部分に迫っている事をリークしてやる。

東都日報社の社会部に、冬木が、明日の正午に決まったと言いながら戻って来るが、報告すべき部長が不在であると知ると、ちょっといらつきながら、部長の机の前で帰りを待つが、その時、冬木の目には、机に置かれた「社会部長」の名札が目にちらついていた。

直後に戻って来た田島部長に、川田選手からもらって来た原稿を見せた冬木は、少しもらいたいと催促する。

冬木の功績を認めた田島は、すぐに5万の小切手を書きかけるが、そこに、毎朝新聞を持って、友成次長がやって来る。

その紙面を見た田島部長は、そこに「人相写真で手配が始まった」と書かれた記事を発見し、今日、サツに廻らなかった冬木を責める。

冬木は、体は一つしかないんだと反論するが、田島は小切手をそのまま引き出しに戻してしまう。

冬木は、写真部からカメラを借りると、警察へ向う。

捜査本部の部屋では、電話で小野塚が激を飛ばしていた。

そこへ刑事がモンタージュを三枚持って来て、犯人は定職を持たない失業者ではないかと考えを述べる。

その問答の一部始終を、冬木は部屋の外で盗み聞きしていた。

小野塚が、モンタージュの裏側に判子を押した後、引き出しにしまうのを見届けた冬木は、一社だけに依怙贔屓をされては困ると言いながら、部屋に入り込んで来る。

その時、電話が鳴り、それを取った小野塚が、調べ室に電話を廻してくれと刑事を呼びつけたので、何か重要な電話のようですね?と冬木がカマをかけると、小野塚は調べ室に姿を消す。

無人になった捜査本部に独り残った冬木は、すぐさま、主任の机の引き出しをあけると、そこにしまってあったモンタージュ写真を、隠し持って来たカメラですばやく複写する。

その後、廊下に戻って来た小野塚を捕まえた他者の記者(山本廉)が、犯人は関谷署管内に潜んでいるんだってと尋ねているのを聞きながら、何喰わぬ顔で冬木は警察署を後にする。

その頃、三原家では、両親と葉子が、食事も取らずに情報の進展を待ち受けていた。

その時電話が鳴り、葉子が出ると、健司らしき子供を見かけたと言う情報提供だったが、詳しく聞くと、全く別人だと言う事が分かる。

東都日報に戻って来た冬木は、田島の机に撮って来たモンタージュ写真を置くと、これが犯人の写真で、関谷署管内にいるらしいと今聞いて来たばかりのスクープを教える。

田島は、大スクープに目の色を変えるが、少し考えると、この写真は、二三日載せなくても大丈夫ではないか、これを使って、警察の先手を打つ事ができるのではないかと言い出す。

つまり、関谷署管内にある東都新聞の販売所にこの写真を配り、販売員たちに犯人を探させれば、警察より先にわが社の方が先に犯人逮捕できるのではないかと言うのだ。

すぐさま、焼き増しされたモンタージュ写真は、関谷署管内の販売店に配付され、一枚づつ新聞少年に手渡されると、犯人を見つけたら本社から2万円もらえると伝えるのだった。

町に飛び出した新聞少年たちは、もらったモンタージュに見た男の姿を探しはじめる。

そんな少年の一人は、張り込み中の江崎刑事の顔も見かける。

本社で、電話連絡を待っていた冬木は、なかなか犯人発見の連絡が入らないのでいらつきはじめていた。

田島部長は、夕刊までにはまだ時間があると、冬木をなだめる。

やがて正午近くになり、テレビで川田選手の呼び掛けが始まるので、皆テレビの前に集合する。

昭和製菓のCM時間、女性の挨拶の後、パイレーツの川田選手(三船敏郎)が画面に登場する。

川田選手の犯人への呼び掛けは、街頭テレビ等を通して、町中の人々が目にする事になる。

三原家でも、家族全員がこの放送を見ていたが、放送直後、電話があり、先に出たきぬが、奥様にですと慌てて知らせに来る。

母親が電話に出ると、それは犯人からのもので、こう騒がれては何も出来ない、すぐに警察に手を引くようにしろという内容だった。

すぐに、受話器を受取った三原が犯人に話し掛けようとするが、その時にはもう電話が切れてしまっていた。

捜査本部では、いよいよ核心部分に近づいたと小野塚主任が捜査第一課長に報告していたが、課長は、犯人と言うのは大概小心者だから、子供に何をするか分からんと心配を口にしていた。

そこへ、三原準之助がやって来たので、話を聞くため、調べ室に移動しようとした小野塚だったが、廊下に冬木がいる事に気付くと、部屋に近付けさせないように、刑事の一人をドアの前に立たせておく事にする。

三原の要求は、この事件から手を引いて欲しいと言うものだったが、自分も子供を持つ親として気持ちは分かるが、そんな事をしたら日本は無警察状態になってしまい、今後、第二、第三の誘拐犯が出て来る事になり、親たちは心配で寝てもいられなくなると、小野塚は説得するのだった。

警察では警戒が厳しくなり過ぎ、もはや取材続行は不可能と判断した冬木は、三原邸に向うと、又、葉子から話を聞き出そうとするが、これ以上、自分達に干渉するのは止めてくれと言われてしまう。

東都日報の社会部では、友成次長を中心に会議が行われていたが、そこに冬木から電話が入り、それに出た田島部長に、これ以上粘っても取材は困難な状態になったし、三原も警察にやって来た。さっさとモンタージュを新聞に載せた方が良いと進言する。

まだ、自分達の方が先に犯人を見つける可能性を信じていた田島部長は逡巡するが、モンタージュを載せれば売上は10万部違う。10万部違うと言う事は3000万円利益が違って来る事になるのだし、うちは大新聞社じゃなくスクープで生き残る新聞社だったのではないかと、いつもの部長の言葉を引用して迫る。

結局、モンタージュ写真は、東都日報の夕刊に掲載される事になる。

その夜、バー「リンダ」にやって来た冬木は、局長賞をもらったので、これで、これまでのツケを払うとままに全部手渡す。

そして、先客として、一人今村が飲んでいる事に気付いた冬木は、今夜は俺がおごると言うが、今村は、酒ぐらい自分で飲むと拒絶する。

その態度を見た冬木は、スクープを抜かれた悔しさと解釈し、おれたちにとっては、早く記事にした方が勝ちなんだと持論を展開する。

しかし今村は、今のやりくちは単なる野次馬だと批判する。

冬木は、おれたちは大新聞社じゃないんだと反論するが、だからといって君のやり方が許されるとは思わないと言い放ち、今村は店を出て行く。

ある朝、いつものように、関谷署管内を独りの新聞少年が走っていた。

その少年は、歩いて来る一人の中年男の姿を見て思わず立ち止まる。

その男をやり過ごした少年は、持たされていたモンタージュ写真を取り出すと、もう一度確認してみる。

似ている!と直感した少年は、その中年男の後を尾行しはじめる。

中年男は、綱のようなものを手に持って、草むらを抜けると、岸に係留された浚渫船の中に消えて行く。

それを見届けた少年は、急いで販売店に知らせに帰るが、その途中で、警邏中の警官の姿を見かけ、一瞬立ち止まる。

警察には知らせるなと言う指示を受けていた少年だったが、彼は少し考えた後、その警官に知らせるのだった。

東都日報で徹夜していた冬木の元に、犯人発見の電話が入る。

しかし、同時に、警察にも知らせたと聞いた冬木は、起きて来た田島部長らに知らせると、自分はカメラマンと二人で、自動車を飛ばして現場に向う。

その車の中で、カメラマンが冬木に、今度の事件では、君は株を上げたねとお世辞を言う。

小野塚主任たち警察が現場に到着した直後、冬木たちの車も到着する。

江崎刑事が先行し、浚渫船から得て来た犯人(宮口精二)を確認する。

犯人は、草むらの中をこちらに向っていたが、やがて、人の気配を感じたのか逃げ出そうとするが、たちまち警察に包囲され、小野塚主任が手錠をかける。

知らせを受けた三原家の両親と葉子が警察署に駆けつけた中、犯人の取り調べが始まっていた。

動機は何だと聞く小野塚に、金が欲しかった…。身代金で一旗揚げたかったと呟く犯人。

健司は、雑誌に載っているのを見て知ったとも言う。

その健司はどうした?まさか、殺したんではあるまいなと迫る小野塚。

すると、犯人は堰を切ったように泣き出すと、新聞に俺の顔が載ったので、どうしようもなかったんだと絶叫する。

三原家が全員見守る中、健司の遺体を収容するため海をさらう作業が始まる。

現場に乗り込んでいた冬木は、カメラマンにあれこれ指示を出していたが、そこに近づいて来た今村が、犯人の供述を聞いたか?モンタージュが載らなかったら、子供は殺さなかったと言ってたぞと告げる。

しかし、冬木は、先に車を廻しておくとカメラマンに言い残し走って行く。

やがて、遺体が見つかり、引き上げられた少年の体は啖呵に乗せられ、警察車両に乗せるため運ばれるが、そこに近づいた母親は、布をかぶせられたわが子の遺体にしがみついて号泣し出す。

そこに近づいて来た冬木は、葉子に対し、今回はとんだ事になりましたが、犯人は、わが社の努力で見つかった事ですし…と無神経な質問を始める。

すると、葉子は冬木の頬を殴りつけ、その汚い手で、健司はあなたが殺したんですと言い放つ。

しかし、冬木はしらっとした顔で、狭い道の先頭に停め、他社の車を動かさないようにしていた車に乗り込むと、会社に向うのだった。

その頃、東都日報の役員室から、浮かぬ顔の田島部長が出て来ていた。

そして、友成次長を呼びつけた田尻部長は、どうやら、今回の報道で、うちに新聞協会の方から抗議が来た事を打ち明ける。

特に、モンタージュを掲載した事に非難が集中していると言うのだ。

相手は、写真の入手経路を知らせろと言って来ているらしいと、田島が悩んでいる所に、当の冬木が、良い記事が取れたと言いながら意気揚々と戻って来る。

そんな冬木に、友成が事の次第を伝え、しばらく君は謹慎していた方が良いのではとアドバイスする。

しかし、強気の冬木は、何故、正しい事を報道をしてそんな処分を受けなければいけないのかと刃向かう。

田島部長は、今やわが社は除名処分になるかも知れず、社会全体から袋叩きになったらどうすると言い、君には、栃木の支局に行ってもらうと冷酷に言い渡す。

岩田が飛ばされた時の再現であった。

冬木は、今取材して来たばかりのメモを机に投げ付けると、さっさと会社を飛び出て行く。

そして、彼の姿は、町の雑踏の中に消えて行くのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

石原慎太郎都知事が、若き日に主役を演じた三本の映画のうちの一本。

誘拐がテーマなので、一見、サスペンスタッチの作品かと想像したが、本作の狙いは、むしろ、野心に燃えるあまり、人間性を失い、自己中心的な行動に突っ走ってしまった青年の挫折を描いた、ほろ苦い内容になっている。

音楽が、犯罪ものには一見ミスマッチの明るいギター曲である事も、全体の緊張感が損なわれている一因のような気がする。

又、主人公が、誘拐報道をスクープした段階で、犯人側の行動はストップしてしまい、同時に、映画としてのテンポも停滞してしまった観がある。

おそらく低予算だった事もあるのだろうが、誘拐の捜査を担当する刑事が数名しかいないと言うのも奇妙だし、捜査そのものの緊張感はあまり伝わって来ない。

石原慎太郎の芝居は、もちろん巧くはないのだが、特にしろうとっぽい棒読みと言う感じでもなく、結構、長ゼリフをとうとうとまくしたてる場面もある。

画面を観る限り、そう言うシーンの石原氏はカンペを読んでいるようにも見えるし、秀才なので、長文くらい暗記していたのかも知れないとも感じる。

仲代達也が、この主役を演じても面白かったのではないかとも思うが、石原氏も体格的には長身だし、顔も悪くはないので、主人公として不自然と言う感じはしない。

むしろ、自信過剰で決して人に謝る事を知らない傲慢な青年と言うキャラクターは、本人そのものとダブって見えたりもするくらい。

おそらく、氏は、若い頃から一貫してこうしたキャラクターだったのだろう。

そう言う意味では、正にうってつけの適役だったと言えるかも知れない。

志村喬、三船敏郎と宮口精二と言う「七人の侍」の内、三人が顔を揃えているが、志村の役所は意外性がないものの、三船と宮口の役所は、ちょっと意外性がある。

三船が野球選手を演じると言う事自体は「男ありて」(1955)などの先例もあるのだが、タイトルの最後に堂々と名前が出て来て、登場場面は、思わぬ所でほんのちょっぴりと言う扱いが意表をついている。

渋谷駅南口に路面電車が走っていると言う珍しい風景等も含め、あちこちに登場する、当時の東京の姿が貴重。