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気違い部落

1957年、松竹大船、きだみのる原作、菊島隆三脚本、渋谷実監督作品。

※この作品には、タイトルを含め、現在では許されない差別用語が使われていますが、発表当時は許されていた言葉であり、内容も差別を助長するようなものではないので、説明上、言い換えてしまっては意味が通りにくくなる部分など、そのまま文中でも一部使用しています。何とぞ御理解下さい。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

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松竹の会社クレジット富士山の絵に、20世紀フォックス風のファンファーレが重なる。

画面に解説者X氏(森繁久彌)が登場し、自分達を写した写真を見せられた未開の原住民は、そこに写った仲間の顔は識別出来ても、自分自身の顔は識別できないと申します。

気違いも、自分の事を気違いとは思わないもののようです…と説明する。

タイトル

東京の日本橋から西南に数十里の所に5600人が住む小さな村があり、その一角に「気違い部落」と呼ばれるさらに小さな集落がある…と、風景が映りながらも、相変わらず、解説者X氏のナレーションは続いている。

そのX氏、バスに乗って帰るつもりが、その目の前でバスが出発してしまい、村に取り残されてしまう。

次にバスまで、1時間は待たねば成らないとため息をつく。

近くにあった切り株に腰を降ろして休もうとすると、その切り株には、無数の五寸釘が逆向きに打ち込まれており、誰も座れないようにしてある。

その釘を打ったのは、切り株の前にある家の主人又一(須賀不二夫)の仕業。

自分の地所に、人がただで休めないようにしているらしい。

この集落には14世帯が住んでおり、一世帯あたり二反強くらいの土地しかない。

当然、村民たちは、皆、畑仕事だけでは食べていけないので、皆副業を持っている。

りょうさん事、野村良介(山形勲)は、村を取り仕切る親方であると同時に機織りもやっているが、手伝いに来る女工たちに、しょっちゅうちょっかいを出していた。

木崎三造(信欣三)は食料店を営んでいたが、女房のお紺(清川虹子)は、砂糖に霧吹きで水分を含ませ目方を増やしたり、酒に水を加えて量を増すなどは日常茶飯事。

自転車屋を営んでいる青木助夫(三井弘次)は、ちょうど、村に迷い込んで来た赤犬を捕まえようと、カリン糖を餌代わりに撒いて誘き寄せている所だった。

ところが、助夫が赤犬を殴ろうとした瞬間、横から別の棒が赤犬を叩き殺してしまい、横取りされてしまう。

横取りした主は、産婆をしている大倉仁太郎(藤原鎌足)だった。

赤犬の皮は太鼓の皮として利用され、肉は、勿論、貴重な蛋白源として食べるのである。

こうして、この集落には狂犬病など存在しないと言う、奇妙な自慢話があるくらい。

仁太郎が、女房おらく(賀原夏子)と共に、赤犬を鍋にして喰っている所へ、助夫がやって来て、悔しそうに肉を少し売ってくれと頼み込む。

仁太郎が、百匁40円と平然と答えるので、助夫は仕方なく、50匁購入して、ぶつぶつ言いながら帰って行く。

そんな助夫の自転車屋に、しみったれの金貸又一が訪ねて来る。

どうやら、助夫は、博打ですった金を又一から借りているらしい。

又一と良介は、その立場を利用して、村でもかなりあくどい利益を得ている二人であった。

この村には娯楽がない。

男衆は、せいぜい、エロ本を隠し読みするかちょぼいち(博打)に興ずるくらいしか楽しみがない。

今日もどうやら、下の集落から、そのちょぼいちの常連、米屋と炭屋と饅頭屋の三人が勝負しにやって来るらしいと言うので、助夫は良介に、迎え撃つメンバーの人選の相談をする。

三造、又一、儀太郎(中村是好)…と、良介が名前をあげるが、独り、鉄次(伊藤雄之助)が抜けていると助夫が指摘する。

人付き合いが悪いようで、実は結構、博才があるらしいと言うのである。

その後、ただちに助夫は、儀太郎らに声をかけに行く。

儀太郎の父親は、長く病気で床についており、儀太郎はその看病に明け暮れていた事もあり、その日も、待ってましたとばかりに、父親に「生きるも死ぬも、早い事頼むぜ」と声をかけるなり家を抜け出す。

ちょぼいちが始まりそうだといち早く感じ取ったお紺は、さっさと、店の金を自分が隠してしまう。

助夫から知らされ、遅れて店に戻って来た三造は、あちこち探すがどこにも金がない。

一方、鉄次の家にやって来た良介と助夫は、庭にいた女房お秋(淡島千景)から、まだ主人は畑仕事から戻ってないと教えられる。

良介は、人付き合いが悪く、どうやら自分に代わって親方になりたがっているらしいと言う鉄次の事を助夫に確認する。

助夫も、良介の言葉に同調するように頷くが、良介は、鉄次に空気を入れているのは助夫本人ではないかと疑っていた。

そんな話をしながら、鉄次を探していた二人は、山の斜面に杙を打ち込んでいる鉄次の姿を発見する。

杙には「鉄次」の名前が書いてあるのを見た良介が、人の山で何をしているのかと問いただすと、ここは確か、自分の地所だったはずだと思うので、その測量をしているのだと言う。

そこへ、三造もやって来て、ちょぼいちに加わってくれないかと頼むと、親方が先頭になってちょぼいちをやっているようでは闇だな、俺はもう、悪さは止めにしたんだと鉄次は呟く。

その言葉に、むっとした良介と三造だったが、鉄次の娘お光(水野久美)がやって来たので、その場は黙って引き下がる事にする。

そうした二人を見送りながら、鉄次は「火事場泥棒!」と呟く。

自分が、もう少し早く復員していれば、あんな良介なんかに村を牛耳られるような事にはならなかったとこぼすのである。

それをたしなめるお光は、軽い咳をしていた。

その頃、村に到着したバスから降り立った一人の青年がいた。

良介の次男坊で、今、東京の会社に通っている次郎(石浜朗)だった。

彼が、たびたび帰って来るのには、訳があった。

父親良介からこづかいをせびるだけではなく、恋人お光に会いに来るためだった。

家に帰る途中、お光の弟保(藤木満寿夫)と出会った次郎は、こっそり姉に宛てた手紙を渡すのだった。

その頃、父親の良介の方は、家の手提げ金庫から金を取り出そうとして、警報ベルが鳴り出したので、慌てて、座布団をかぶせて、音をごまかしながら札束を引き抜いていた。

そんな良介から、一枚札束をかすめ取ったのは、日頃、彼が手を付けていた女工の一人だった。

一方、野村家の別の部屋では、良介の妻お三重(三好栄子)が、やって来ていた保険勧誘員から、「奥様、奥様」とおだてられ、すっかり良い気持ちになっていた。

勧誘員が帰った後も、お三重は奥様なんて言われたのは初めてだとうっとりして、食べかけた饅頭を咽に詰まらせる始末。

その美貌から「ミス気違い部落」と称されていたお光は、その夜、保から受取った手紙に書かれていた場所に、いそいそと出かける。

月夜の晩、山の中で出会った次郎とお光は、今どき珍しいプラトニックな間柄だった。

次郎は、今度、会社を辞めて、国会のエレベーターボーイに転職したのだと打ち明ける。

その内、議員に目を付けてもらって、秘書に採用してもらえるかも知れないなどと夢を語る。

その話を聞いていたお光は、やはり、ちょっと咳をしていた。

そこに、村で唯一の駐在酒盛克太郎(伴淳三郎)のバイクが通りかかる。

どうやら、寺の方に向う様子。

その寺では、今正に、ちょぼいちの勝負が真っ最中の所だった。

仁太郎は、酒を飲ませる事を条件に、賄い係りを受け持たされていた。

その日も、勝負運のない助夫は、負けが込み、自分が着ていたジャンパーを金に替えていた。

下の集落が優勢と見るや、三造は、振った壷の端をちょっと浮かし、中の賽の目を確認した仁太郎が、包丁の音でその目の数を教えると言うインチキをしてまで勝とうとしていた。

そこに、駐在のバイクの音が近づいて来たので、一同は固まってしまう。

良介は、日頃、ここでの勝負の事に目をつぶってもらうため、さんざん酒を飲ませてやっている駐在が、何故、今頃やって来たのかいぶかしむ。

それでも、後ろぐらい他の連中は、我先にと、窓から外へ逃れようとする。

駐在は、何事もなく会議をしていたと嘯く良介に仁太郎はいないかと聞く。

お産だと言うのである。

誰のお産かと良介が聞くと、助夫の女房お芳(文野朋子)が産気づいたと言うので、押入に逃げ込んでいた助夫が慌てて這い出て来る。

自分の女房の一大事と知るや、助夫も一緒に仁太郎を探し回ると、当の仁太郎は、寺の軒下から這い出して来た。

やがて、無事、お芳は赤ん坊が生むが、その顔をまじまじと見た助夫は、なんだか、自分より、以前、女房が住み込みで手伝いに出かけていた良介に似ていると言い出す。

一方、短い逢瀬を楽しんだ次郎は、お光を送って、鉄次の家まで送って行くが、彼が突如放った雄叫びを聞いた鉄次が出て来て、何か間違いはなかっただろうなと聞く。

その言葉に、憤然として帰って行く次郎だったが、鉄次は、あの良介の息子にしては、なかなか上出来な息子だと感心していた。

お産を終えて、又寺に戻って来た仁太郎が、すっかり疲れて寝ている横で、良介らは、まだちょぼいち勝負を続けていた。

寝ていた仁太郎が、寝言で「キャン」と叫んだのを聞いた炭屋(桂小金治)は、犬を喰ったに違いないと呟く。

そんな所に、又、誰かが駆け込んで来て、今度は、儀太郎の父親が息を引取ったと言う。

村では、葬式などの場合、相互扶助のしきたりがあった。

儀太郎の父親の葬儀も、村中の男女が、手伝って万事執り行なわれた。

女の社交場でもある台所では、お三重婆さんも愉快そうに料理を手伝っているし、お紺は、亡くなった儀太郎の父親も、若い頃は上がりばなのしんさんと呼ばれていたくらい、女には手が早かったなどと、お色気話に花を咲かせていた。

役所から埋葬許可書をもらって来た三造は、近々行われる村の堤防工事に10万かかると聞かされたと良介に耳打ちする。

それを聞いた良介は、金山神社の裏を売れば、そのくらいの金は出るのではないかと提案するが、それを聞いていた鉄次は、とんでもないと怒鳴る。

あの場所は、自分の土地だ、国は自分の土地だと認めていると言うのである。

それを聞いた良介は、お前の父親と自分が交わした証文はどうなると逆に詰め寄り、二人はつかみ掛かりあいになるが、それを廻りの人間が必死になってとどめる。

翌朝、いよいよ、出棺と言う時になっても、助夫や三造たちは相変わらず、家の中でちょぼいちをやっていたが、そこに又一がやって来て、ようよう外に出て来た助夫に、借金の返済方法に注文を付けて来る。

寺で、お経を読むのは、僧侶ではなく、蓄音機のレコードだった。

これだと、お布施など一切いらないから便利なのであった。

ああ、偉大なる宗教改革…(と、解説者X氏の声がかぶる)

その蓄音機、その後の大宴会では、皆が踊る「炭坑節」の伴奏まで奏でてくれる優れものだった。

村に春が訪れ、金山神社の裏の木の伐採が始まる。

その音を聞いていたお秋は悔しがる。

よってかかって、村中が、自分達の事をバカにしていると言うのである。

そのお秋に焚き付けられた鉄次は、あいつらぶち抜いてやる!といきり立って、猟銃のかかった部屋に行こうとしたのを見たお光は、先に猟銃を奪って外に逃げ出す。

それを見た鉄次は、ちきしょうとつぶやきながら、どこへかと出かけて行く。

助夫らと共に、木を伐採していた三造は、これだけ売れば、堤防工事代を出しても、大分あまると読んでいた。

それを聞いていた良介は、この際、女房たちの目を盗んで、遊覧バスを仕立てて、温泉めぐりでもしようじゃないかと提案する。

そこへ、酒盛巡査がやって来て、今、鉄次が、交番から直接本部に、あんたらを訴えると電話したと知らせる。

間もなく、本部から部長が到着するはずだから、それまで作業をやめて、絵図面を用意してくれと言うのである。

この鉄次の思いきった行動は、村中を驚かせた。

女衆もこの話題で持ち切りだったし、良介は親方のメンツにかけて緊急会議を、三造の家で開いて善後策を練る事にする。

今度の裁定には、駐在の存在が重要になるので、酒でも送ろうと一同が相談していると、鉄次の女房お松が、同じ事を考えたのか、一級酒を買いに来る。

寺に、皆の衆が集まると、先に鉄次が待っていた。

その場でも、良介が持っている証文と、国が定めた法律のどっちを認めるのかと言う話になる。

その頃、交番では、酒盛巡査が、良介らからもらった酒を飲もうとしていたが、そこへお松がやって来て、ぜひとももらってくれと、酒を置いて行く。

そのお秋、家に戻ってみると、珍しく勉強している保の右腕に、血がついている事に気付く。

喧嘩でもしたのかと問いつめると、さっき、姉ちゃんが血を吐いたのがかかったのだと言う。

慌てて、裏に廻ってみると、そのお光が、汚れたらしい洋服を自分で洗っている所だった。

詳しく聞くと、電気を付けようと上を見上げた途端、咳き込んで血を吐いた…と説明しかけたお光は、又、同じように咳き込んでしまう。

お松は、保に、寺にいる父親を呼んで来るよう頼む。

保が寺に駆け付けた時、父親鉄次と良介は、又、取っ組み合いの大げんかをしている最中だった。

時が過ぎ、又一は、借金のカタとして、助夫から商売道具のバイクを譲り受けていた。

助夫から、簡単な操作を聞いた又一は、店の前からバイクに跨がり、走り去って行く。

そんな村に、久々に帰って来た次郎は、鉄次が「部落外し」になったので会いに行ってはいけないと、出会った助夫から聞かされて驚く。

お光は、あれ以来、寝たきりの生活になっていた。

「村八分」など、今の時代では許されないはずだと、次郎がいきり立つと、「村八分」ではなく、泥棒呼ばわりされた良介の方が、村を抜けると言い出し、皆もそれに同調した結果、鉄次だけが仲間外れの存在になってしまったと言うのである。

そんな説明をしていた助夫は、店の前をバイクが通り過ぎて行く音を耳にし、又一に止め方を教えなかった事に気付く。

村を何周も廻るばかりで、止めるに止められないバイクに乗った又一は、最後には田んぼに突っ込み、泥まみれになる。

次郎は、助夫の言葉を無視して、鉄次の家を訪れる。

そして、自分は村の人間じゃないから、言い付けに従わなくても良いはずだと説明するが、お光が寝ていた部屋の障子を、お松は当てつけるように、次郎の目の前で閉めてしまう。

次郎は、黙って縁側に土産を置くと、そのまま立ち去る。

その後、障子を開けたお松が、その土産に気付き、お光に渡すと、それは、前、次郎が持っていたライターと同じ「エリーゼのために」を奏でるオルゴール付きブレスレットだった。

その頃、三造は鉄砲を持ち出して家を飛び出していた。

他の村人も、同じように鉄砲を持ち出して山に入る。

鉄次も同じだった。

彼らの目当ては、この季節山にやって来るホトトギスだった。

ホトトギスは、肺病の妙薬として知られ、高い値で売れるので、村では一気に、ゴールドラッシュがやって来たようなものだった。

木の上に留まったホトトギス目掛け発砲した三造は、別の方向から同じ発砲音が響いたのに気付き、その音の主が鉄次だと知ると、娘、お光の病気は肺病だと気付く。

仕留めたホトトギスを胸にしまった三造は、同じように鉄砲を持って近づいて来た仁太郎に、密猟を注意するが、しっかり胸から覗いているホトトギスの事を指摘され、苦笑いするしかなかった。

野村家では、お三重婆さんが、手伝いの女工たちに、今度から、自分の事を「奥様」と呼ぶように強制し、嫌がられていた。

仁太郎は、亡くなった母親の形見である入れ歯を削って、自分用のものにしようと悪戦苦闘しているので、それを見ていた女房のおらくは呆れてしまう。

次郎は、父親良介に、今回の鉄次に対する処遇を抗議していたが、頑固な父親は聞く耳を持たないどころか、生意気な事を言う次郎の頭を殴る。

思わず、次郎は、たまたまやって来た仁太郎の頭を殴り、順繰りにめいめいの頭を殴って行こうと提案する。

言う事を聞かないと、遺産は全部、長男太一(諸角啓二郎)にやってしまうぞと、良介が脅すと、次郎は、遺産の三分の一は母親が取り、残りを二等分して兄弟が受取るのは法律で決まっているのだと反論する。

それを聞いていた太一は、そんな法律がある事は今まで知らなかったらしく、母親のお三重に確認しては、逆に怒鳴り付けられてしまう。

数日後、鉄次の家を訪れた次郎は、滋養を取るようにと、ハチミツとミルクを差し出すと、今は、ストレプトマイシンと言う特効薬があるのだから、肺病などすぐ直るとお光を励ますが、お光は、父親がそんなものを買ってくれるはずがないと諦めている様子。

その時、たまたまタバコに火を付けた次郎のライターをオルゴールと、お光が握りしめていたブレスレットのオルゴールが同時に鳴りだし、音がハモったので、思わず二人は微笑みあうのだった。

次郎はmそれだったら、酒盛巡査に薬を運んでもらう事にしようと提案する。

後日、鉄次の家を訪れて来た酒盛巡査は、知人の工場で安くストレプトマイシンが手に入るのだが、娘のために買う気はないかと持ちかけてみる。

医者で注射してもらうと、金がかかると、お松が乗り気ではなさそうなので、それだったら、戦争中、衛生兵だった自分が教えてやるから、鉄次が自分でうってやれば良いじゃないかと説得する。

酒を一杯ねだった酒盛が、それを飲んで帰った後、仁太郎がやって来て、ホトトギスの黒焼きはいらないかと持って来る。

うちには、そんなものはいらないと追い返した鉄次だったが、いったん帰りかけた仁太郎が又戻って来て、ホトトギスは1年経たないと山に戻って来ないぞ、それまで娘はもつのか?と問いかけると、値段を聞いて、2500円で購入する事にする。

村に夏が訪れる。

鉄次の家を訪れた酒盛巡査は、ちょうど娘に注射をしている鉄次に会うが、驚いた事に、お光は起きており、少し体重も戻ったと話しているではないか。

薬が効いているのだった。

そのお光は、外に飛び出ると、東京から戻って来ていた次郎からの葉書を読む。

それによると、次郎はとうとう三田村と言う政治家に目を付けてもらい秘書になったと言うのだった。

その頃、良介ら一行は、木を伐採して得た金で箱根にバス旅行に出かけていた。

鉄次はと言えば、まだ半分くらい残っているストレプトマイシンの薬を、自宅で確認していた。

皆が芸者を引き連れ楽しんでいる中、独り仁太郎だけは、泥酔して、女遊びから取り残されてしまう。

やがて、村に冬が訪れ、女たちは聖場所に集まり、おしゃべりに明け暮れていた。

おしゃべりの内容は、たいてい人の陰口かわい談と相場が決まっていた。

そんな所に助夫が赤ん坊を背負ってやって来て、女房お芳に乳を飲ませるよう頼みに来る。

助夫は女たちに、又、鉄次が山に杙を打っていると報告するが、そこへ、当の鉄次が駆け込んで来て、娘が死にかけているので医者を呼んで来てくれと助夫に頼む。

助夫は、鉄次と距離を置いている立場だけに、その頼みを聞くかどうか迷うが、鉄次の態度にただならぬものを感じ、とうとう自転車で下の村まで走り、医者を乗せて帰って来る事にする。

それを見かけた酒盛巡査は、お光が危ない事を知り、自分も鉄次の家に駆け付ける。

お光は、冷たくなって布団に寝かされていた。

鉄次が言うには、お光は、又、急に喀血して窒息してしまったのだと言う。

お光は、オラが殺したんだ!と鉄次は叫ぶ。

夏頃、お光の容態がかなり良くなって来たので、もう大丈夫と判断し、残っていたストレプトマイシンを、下の村で、同じ病気の娘がいる材木屋に売ってしまったと言うのだ。

それを聞いた酒盛巡査は、思わず「バカヤロー!」と叫んでしまうが、その後、自分が安く、あんたに薬を売ったのがそもそも悪かったのだ。自分が農民の事を知らなさ過ぎたのだ…と落ち込む。

お光の死は、たちまち村中に広まるが、その葬儀に行くかどうか、皆は迷っていた。

本来、村八分とは「火事と葬儀以外の付き合いはしない」と言う風習なのだが、今まで、鉄次と反目しあって来た経緯があるだけに、皆腰をあげにくかったのだった。

特に、お三重婆さんが行かないと言い出したので、他の女衆もそれに追随するしかなかった。

逆に、鉄次のために、勝手に医者を呼びに行ってやった助夫の行動が責められる始末。

しかし、そこにやって来た酒盛から、お前は良い事をしたんだと言われ、助夫は面目を施す。

その頃、鉄次は家で迷っていた。

このままでは、葬儀に来る人間が誰もいない。

それでは、お光があまりに可哀想だと思っていたからだ。

そこで、独り焼香にやって来た伯父の甚助(小川虎之助)に、良介の所に行って、何とか葬儀の手伝いをしてもらえるよう説得して来てくれないかと頼む。

甚助は、お前が直接行って話し合ったら良いのでは?…と躊躇するが、鉄次はふんぎりがつかなかったのだ。

その頃、酒盛巡査から連絡を受け、葬儀のため村に戻って来ていた次郎は、鉄次への反目を止めようとしない父親良介に抗議をしていた。

良介の元には、村中の男衆が集結して、もし鉄次本人が頭を下げて来たらどう対処するかを話し合っていたが、そこへ甚助が訪ねて来る。

その後、鉄次の家に戻って来た甚助は、お前本人が行って頭下げないと手伝わないと言われた…と、辛そうに報告する。

鉄次はその話を聞くと、心底悔しがり、猟銃を手に取ると、皆ぶち殺してやる!と表に飛び出ようとする。


それを必死に止めるお松と起きて来た保。

そんな事をしても、お前さんが捕まるだけではないかと説得するお松の言葉を聞いた鉄次は、力を抜き、もう分かった…と言うと、夜空に向って猟銃をぶっぱなす。

そして、自分が頭下げて来ると言い出す。

しかし、それを止めたのは、それまで沈み込んでいた女房のお松だった。

自分達がどんな悪い事をしたと言うのか?

悪いのは、みんな村の連中の方ではないか?

そんな連中に、こちらから詫びちゃなんないと言うのだ。

お光の遺体は、自分一人でも埋葬してみせるとまで言う。

それを聞いて、鉄次は腹を括る事にする。

翌日、雨が降る中、鉄次がひく荷車にお光の柩は乗せられ、それをお松と保が押して行く。

お紺の家に集まっていた女衆は、さすがに、その様子を見ていていたたまれなくなり、家の前を通り過ぎる荷車の前に飛び出すと、柩に傘を差し掛け、後で墓参りをさせてもらうと後ろから声をかける。

墓場についたお松は、あんな人たちに埋葬を手伝ってもらったんでは、お光もかぶせてもらう土が重かろうと愚痴りながら、柩と一緒に遺品のブレスレットも埋めてやろうとして手に取った時、「エリーズのために」の曲が鳴り出す。

後日、お松の墓での言葉を聞かされた女衆たちは鼻白む。

葬儀に参加しなかった男衆たちも、皆、寝覚めが悪かった。

その鬱屈を晴らすために、又、男衆は寺にちょぼいちをしに集まる。

朝まで、ちょぼいちをし、外に出た助夫は、遠くの山から立ち上っている煙を発見する。

どうやら、良介の山から火が出ている様子。

異変を知らされた良介は、外に飛び出して来ると、鉄次の腹いせに違いないと、皆で山火事を防ぐため走り出すのだった。

しかし、一足先に現場に到着した助夫らは、その煙が、自分達が伐採した木の切り株を焼却していた鉄次の姿を発見する。

山火事ではなかったのだ。

そんな鉄次の元にやって来た次郎は、自分が秘書をしている三田村先生が、おじさんのために良い仕事口を見つけてくれたから、自分と一緒に村を出ないかと誘う。

自分は、ほとほとこの村に愛想がつきたので、もう戻って来るつもりはないと次郎は息巻く。

しかし、鉄次は、自分は農民だから、ここの土と共に生きると言い放つ。

どこへ行っても一緒だとも…

「どこも一緒か…」、次郎はその鉄次の言葉を噛み締めながら、バスの車窓から遠ざかって行く村を眺めていた。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼


昭和32年度芸術祭参加作品。

冒頭の会社クレジットにかぶさるファンファーレや、いきなり登場する森繁久彌の軽妙な解説を聞くと、ただちにこの作品が「風刺ドラマ」なんだなと分かる仕掛けになっている。

小さな集落での人間ドラマを、島国日本人全体への皮肉としてダブらせているのである。

途中までは、金欲と色欲に明け暮れる俗っぽい人間模様が面白おかしく描かれ、ユーモアものとして楽しめる。

途中からは、真面目に生きようとし、正論を主張しようとした人物が、家族ぐるみ、俗人たちから仲間外れになってしまう悲劇が、シリアスタッチで描かれて行く。

結局、独立独歩では生きにくく、「長いものには巻かれろ」「寄らば大樹の陰」で世渡りをして行かなければならない、せちがらい世の中の矛盾が描き出されている。

そんな現実に押しつぶされそうになりながらも、腹を括り、逃避しないで、生き抜いて行くと決意した主人公の姿は、作者の願望なのかも知れない。

しかし、その真摯な姿には、観るものの衿を正させる力強さがある。

そんな中にあり、掃き溜めに鶴のような、汚れのない可憐な少女を演じる水野久美の姿が初々しい。

何よりも、デビュー作が松竹作品だったと言う事実に驚かされた。

登場するどの役者も芸達者揃いで、優劣が付けられないくらいなのだが、伴淳扮する酒盛巡査役は、一見、ゲスト出演風の軽い存在に見えながら、実は極めて重要な役柄である事が分かる。

森繁のナレーションと、登場人物が掛け合いをするなどの演出も楽しい。

極めて優れた名品の一本だと思う。


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