1960年、富士映画、尾上周祀原案、田辺虎男脚本、曲谷守平監督作品。
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信州飛騨の僻村の伝説。
一人の山暮しの青年蓑吉(浅見比呂志)が草笛を吹きながら山の家路に付いていた時、崖下から女の悲鳴が聞こえて来る。
最初は、何事かと立ち止まっただけの蓑吉だったが、二度目の悲鳴が聞こえるに及んで、その声の主が庄屋のお嬢さんと気付き、崖下に降りてみる。
そこには、草むらの中で、何者から逃げようとするお絹(小旗絹子)の姿があったが、蓑吉の目には、お絹以外には誰も見えなかった。
不思議に思って近づいてみると、お絹の太腿から這い出た一匹の白蛇が、草むらを這って近くの湖に入ると、そのまま泳いで行ってしまう。
蓑吉は、湖の水を口に含み、気絶していたお絹の口に持って行く。
その頃、山の下の村では、お絹が行方知れずになったと大騒ぎになっていた。
父親である庄屋伴泰蔵(林寛)は、巡査の吉村(山川朔太郎)を呼びつけ、村中のものに探しに行かせるよう命じていた。
山の中では、そのお絹が正気を取り戻していた。
家で眠っていたら、誰かが呼びに来て、その後を付いて行ったら、桜子様と呼ばれる白装束の着物を着た美しい女性にあったのだと言う。
ところが、湖の側まで来た時、何者かに押さえ付けられたような気がしたので、思わず振りほどこうとしていたのだと不思議な事を言うので、聞いていた蓑吉は、それは蛇のいたずらだと説明し、彼女を背負うと、山を降りる事にする。
その姿を見つめるように、側の木の枝には白蛇が絡み付いていた。
山から、お絹を背負った蓑吉が降りて来たのを見つけた、庄屋の家の下男作造(石川冷)は、思わず身分違いと、蓑吉を殴りつけるのだった。
蓑吉ら山の民たちは、「雲上●落」と、麓の村では差別視されていたからだ。
他の村人たちも、同じように、蓑吉を一方的に痛めつけはじめたので、たまたま近くに来ていた蓑吉の母親みね(津路清子)が助けに入り、一緒に山に帰るように蓑吉に促す。
その騒ぎの中、一匹の蛇が庄屋の家に侵入し、寝かされていたお絹の布団の中に潜り込んでいた。
そこに、庄屋や作造が戻って来るが、娘お絹の様子がおかしい事に気付く。
起き上がって、見えない何かに怯えているのだ。
庄屋は、様子がおかしい娘を、作造に命じて押さえ付けさせ、医者を呼んで、眠り薬を飲ませる事にする。
その後、庄屋は、来客の県会議員と将棋を始める。
政治家は、お絹の婿候補として庄屋が考えている息子を連れて来ていたが、その息子は大人ながら頭が足りない様子。
庭で見つけた白蛇を殺して、奥にいたお絹に見せに行く。
それを見たお絹は怒り、息子を足蹴にし始める。
それに気付いた庄屋は慌てて止めに来るが、お絹は、自分の夫は蓑吉しかおらず、彼と一緒になれないのなら死んでしまうと言い出す。
そして、ふらふらと家を出て、山に登ろうとするので、慌てて作造が止めに入る始末。
その頃、雲上●落では、蓑吉と母親みねが竹細工をこしらえていたが、そこにきよ(松原由美子)と言う、蓑吉と幼馴染みの娘がブドウを持って来る。
彼女が蓑吉を好きな事を知っているみねは、彼女が帰った後、来年はお前の嫁じゃと蓑吉に語りかける。
しかし、それに対し、息子の表情がさえないのを見て取ったみねは、まさか、お絹の事を思っているのでは?と心配する。
そんな所に、麓から吉村巡査が、庄屋の代理と称してやって来て、お絹が蓑吉の事を思い焦がれているのだと言い出す。
それを聞いたみねは狼狽する。
蓑吉とお絹が夫婦になれば、この集落にとってもためになるぞと言うのだ。
その話を側で聞いていたきよが、いたたまれなくなって逃げ出したのに気付いた蓑吉は、急いで彼女の後を追う。
滝の所で追い付かれたきよは、行ったら良いとすねてみせる。
蓑吉自身、態度を迷うが、結局、集落の利益の事も考え合わせた結果、蓑吉は、お絹と祝言をあげる事になる。
初夜から、三日目の二人の寝室の中、お絹は蓑吉に向い、自分は、あの時、契りを交わした桜子で、今は、お絹の体内に入っていると不思議な事を言い出す。
蓑吉は、一年前、山の中で、怪我をした蛇を見つけ、自分の懐の中に入れて助けてやった事を思い出す。
お絹の口を借りた桜子なる白蛇の精は、その時から、あなたの懐の身体の温もりが忘れられなかったと告白する。
蓑吉は、白蛇を助けた後、山の崖の上に不思議な屋敷を見つけていた。
その屋敷から出て来たのは、白無垢の着物を着た桜子(小畑絹子-二役)と名乗る美女で、お松(三田泰子)と言う下女を従えていた。
二人に、屋敷の中に誘われた蓑吉は、南蛮風の椅子に座らせられ、酒を勧められる。
桜子なる美女は、蓑吉に向い、この家もこの身体もあなたのもの…、死ぬまで、私の事を可愛がってくれ。お棄てになったら怨みますよと囁きかける。
蓑吉は、その言葉に見入られたように、桜子を抱くと、口づけを交わして、その屋敷を離れるのだった。
すると、桜子の姿は消えてしまう。
翌日、その話を蓑吉から聞かされた母みねは驚き恐れる。
若い頃、同じように、蛇の精に精気を吸われて死んだものがいると話して聞かせるが、蓑吉は相手にしない。
その夜から、蓑吉が山に一人で出かける日々が始まる。
心配したみねは、そっと息子の後を付いて行く。
前と同じ場所に屋敷はあり、その寝室では、あの桜子が待ち受けていた。
思わず抱きつく蓑吉。
しかし、母親みねの目には、何もない草むらの中で、一人にやついて蛇と戯れている息子の姿しか見えていなかった。
思わず、持って来た鎌で蛇を追い払うと、湖の中に桜子とお松の姿が現れる。
心地よく眠っている所を、母親から叩き起こされた蓑吉は、自分のいる所が、ただの草むらだと知り、思わず、助けてくれ!と母親にすがりつくのだった。
そして、蓑吉は、寝室で、桜子を名乗るお絹と二人きりの現在にいる事に気付く。
お絹の体内に入った桜子は、もう母親の邪魔も出来まいと言うので、蓑吉は思わず、助けてくれと叫んでしまう。
その声を聞き、寝室にやって来た庄屋や作造に、蓑吉は、この女は蛇の化身だと叫びながら逃げ出す。
作造は、主人の庄屋に、水瓶神社の巫女に、お嬢さんを診てもらおうと進言する。
翌日、巫女がお絹を前にして拝むと、白蛇がついていると言う。
この噂はたちどころに村中に広がる。
お絹は月夜になると男を欲しがるらしいなどと、興味本位のうわさ話をしていた村人たちだったが、その話を興味深そうに聞いていたのは、好色な事で知られる村井医師(九重京司)だった。
その頃、当のお絹は、蔵の中に幽閉されていた。
そんな庄屋の家にやって来たのが好色な村井医師で、お絹は結婚したてで色気が出ているだけだから、自分が診てやるから誰も上がって来るなと言いながら、独り、酒を持ったまま蔵に向う。
作造が鍵を開けると、村井医師は、蓑吉に合わせてやろうと、お絹の気を引く嘘を言いながら、中に入って行く。
医師は、酔った勢いでお絹に抱きつこうとするが、お絹は、そんな医師の身体に巻き付く形になり、絞め殺してしまう。
それを、扉からこっそり覗き見ていた作造は、仰天して、村井医師が殺されたと、吉村駐在に知らせに行く。
この噂を聞き付けたみねは、村井はお絹に殺された。お絹と情を通じると人をとり殺す執念があると言いながら、蓑吉と山へ逃げようとしていた。
村井の遺体を検死した吉村駐在は、心臓マヒと言う事で処理すると言うので、庄屋は安心して礼を言う。
山に登っていた蓑吉が、お絹の名前を叫ぶと、蔵の中にいたお絹の方も、蓑吉さんと呼ぶ。
そんな蔵の窓から、又しても蛇が忍び込み、お松の姿が出現する。
そして、村人の心を迷わせれば逃げられるとお松が言うと、にわかに山火事が発生する。
さらに、田畑の水が枯れ、大嵐が村を襲う。
村びとの家々には、白蛇の抜け殻が落ちていた。
村人たちは、皆、庄屋の家に駆け付け、これは祟りに違いないと動揺する。
一方、山の集落に戻ってきたみねと蓑吉だったが、一旦、集落を出たものは、二度と戻っては来れない、ここで暮す事は断じて許す事が出来ないと、長から拒否されてしまう。
仕方なく、川べりに立っていた蓑吉の所に、きよが近づいて来て、私は待っていたのだと告げる。
しかし、側の木に白蛇が絡まってこちらの様子を見ている事に蓑吉は気付く。
きよは止めるが、蓑吉はその木の方に近づき、白蛇は蓑吉の身体に飛びつく。
蓑吉はいつの間にか、霧の中を歩いていた。
そこに、お松が出現し、道案内をする。
取り残されて泣いているきよの元にやって来たみねは、このままでは、蓑吉が捕り殺されてしまうので、一緒に探そうと誘う。
その頃、村人たちが集まって騒然となっていた庄屋の家「伴泰三商店」に、一人の旅の僧法海和尚(細川俊夫)がふらりと入って来て、説教を始める。
蛇の心はこれ執念。蓬来の桃源郷と畜生道は表裏一体…であると。
その家の裏手にあった蔵の中では、お松が、蓑吉を連れて来たと、お絹(桜子)に報告してしていた。
扉の所に連れて来られていた蓑吉は、蔵の鍵を開けると、お絹(桜子)を連れ出して、一緒に山に逃げ出す。
二人は、山奥のあの屋敷にたどり着き、寝室の中で思う存分抱き合う。
表では、お松も嬉しそうに踊り始める。
翌朝、蓑吉が近くの川で身体を洗っていると、そこに母みねときよが連れ立って近づいて来る。
二人の姿を認めた蓑吉は、もう俺は死んだものと諦めてくれと告げる。
しかし、きよは蓑吉を連れて、その場から立ち去るが、お松が出現、必ずお守りすると誓う。
一方、麓の村では、吉村巡査や庄屋たちが、行方不明になったお絹を探しに一斉に山に登りはじめていた。
山の中、きよとみねたちは、蛇の大軍に取り囲まれ、身動きが出来なくなっていた。
そこにたどり着いた村人たちにも、蛇が次々に飛びかかる。
蓑吉を奪い返した桜子は、一緒に山頂まで逃げ延び、そこで一緒に死のうと言う。捕まったら、二人の仲は引き裂かれてしまうと悟っていたからだ。
しかし、村人たちと共に山に登って来ていた法海和尚が、蛇塚に向って祈りはじめると、蛇が去り始める。
その隙に村人たちが山頂に向うと、空は嵐になり、雷が鳴り始める。
そんな中、蓑吉は桜子に、お前の手で、俺の首を閉めてくれと頼むが、そのお絹(桜子)は、急に痛いと苦しみ出す。
法海和尚が祈りながら二人に近づいていたのだ。
雷が鳴り響く中、お絹(桜子)はさらに苦しみ出したので、その隙に、吉村巡査らが、蓑吉を引きづり戻し、近くの木に縛り付ける事にする。
蓑吉は、お絹と一緒に死なせてくれと叫ぶが、畜生と契りを結ぶは外道だ!と法海和尚が一喝する。
成仏!と法海和尚が念ずると、がっくり、その場に崩れ落ちたお絹は、もう息をしていなかった。
その側には、白蛇も死んでいた。
その様子を見届けた法海和尚は、桜子は、お絹の命を吸い取ってしまったのだと説明する。
ようやく正気を取り戻した蓑吉は、これまでの罪滅ぼしとして、自分を弟子にしてくれと、法海和尚に申込む。
出家して、女たちの魂を弔うと言うのであった。
その後、木曽山中を歩く、二人の僧侶の姿があった。
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東映の「白蛇伝」(1958)や東宝の「白夫人の妖恋」(1956)と同じく、有名な中国の民話「白蛇伝」の映画化である。
白蛇の精に、下女が常に付き添っている所なども、他の二本と同じ。
舞台を中国にせず、少し昔の日本の山の中に設定してある所が異なるだけである。
「九十九本目の生娘」(1959)などと、ほとんど同じ場所でロケをしているように見える。
お松が、村に天変地異を起こす所などは、記録フイルムを使用しているだけで、特に「特撮」と言えるような技術は用いられていない。
せいぜい、単純なオーバーラップなどが使われている程度である。
それでも、山の中の屋敷のシーンなど、セットなどで、ちょっと幻想的な雰囲気だけは出ているように思う。
法海和尚に扮する細川俊夫は、由緒ある細川家の末裔で、懐かし特撮番組「光速エスパー」で、主人公の父親を演じた人である。
おそらく、この作品に出て来る俳優の中では、一番有名な人物ではないだろうか?
タイトルで、ややエロティックな内容を連想させるが、作られた時代が時代だけに、今観ると、どうと言う事はないレベルである。
唯一面白いのは、好色な医者に襲われかけたお絹(桜子)が、医者を蛇のように絞め殺すシーン。
お絹役の女優の他に、もう一人の女(おそらく、アクロバットのできる芸人)がブリッジをして、医者役の身体に覆いかぶさって、一人の女に見せ掛けている。
今観ると、滑稽さと紙一重の表現なのだが、なかなかアイデアものだと思う。
蓑吉を演じているのが全く無名の俳優で、主人公としてのオーラを全く感じさせない所が、この映画を安っぽく見せてしまう所だが、ヒロイン二役を演じている小畑絹子の方が、当時は有名だったと言う事だろう。
低予算のこじんまりとした出来だし、今では許されない「●落」などと言う表現が使われているため、ソフト化などは無理な作品だと思われるが、ちょっと異色の幻想映画として、一度は観ておいても良い内容ではないだろうか。