TOP

映画評index

ジャンル映画評

シリーズ作品

懐かしテレビ評

円谷英二関連作品

更新

サイドバー

一寸法師

1955年、新東宝、江戸川乱歩原作、館岡謙之助脚本、内川清一郎監督作品。

この作品はミステリであり、後半、謎解きがありますが、ここでは最後まで詳細にストーリーを書いています。ご注意ください。コメントはページ下です。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

作家クラブに所属する作家小林章三(宇津井健)は、小説の題材になる「フレッシュな猟奇」を求めて、深夜の街をさまよい歩いていた。

東京駅の側に救急車が近づいて来たので、野次馬と一緒にその様子を覗いた小林だったが、単なる酔っぱらいの怪我人が担架に乗せられていただけだった。

後ろから押す力に抗議した小林は、ふと自分の足下に子供くらいの小男(和久井勉)が顔をのぞかせて、すぐ人ごみに消え去ったのを見た。

その後も、街をふらついていた小林だったが、怪しげな男たちから女の誘いを受けるだけだった。

結局、先ほどの小男が忘れられなかった小林は、その男の陰を求めて周辺を探し始める。

やがて、浮浪児の一人が同じような体格のあの小男から饅頭をもらっているのを発見する。

子供が去った直後、小林の気配に気づいたのか、慌てた小男は、何かを落として急いで拾い上げると逃げ出す。

小男が落としたのは、人間の片腕だった。

小林は、逃げる小男を追いかけて行く。

線路伝いにトンネルを抜けて逃げた小男は、暗闇の中で見失った小林の背後から近づくと、その背中を押して倒すと、近くにあった「養源寺」と言う寺の中に入り込んでしまう。

翌朝、自宅アパートで目覚めた小林は、ラジオニュースや新聞報道で、4月6日、世田谷の溝川で人間の片足が発見されたと知る。

小林は、夕べ出会ったあの小男が、川にその片足を放り込んだ張本人ではないかと妄想し、すぐさま、昨日見失った養源寺に再度向かってみるのだった。

寺の中に入り、ちょうど読経していた住職に、夕べ、ここに人間の片手を持った小男が入って来たはずだがと問いかけた小林だったが、住職は、妙な言いがかりは止めてくれと追い返してしまう。

小林は、近所のタバコ屋で電話を借り、仕事先に連絡を入れると、「しんせい」を買いながら、養源寺の事や小男の噂について尋ねてみるが、店の女からは何も聞き出す事が出来なかった。

その後、マネキン屋のショーウィンドーを覗いていた小林に声をかけて来たのは、山野証券社長夫人百合枝(三浦光子)だった。

彼女と小林は、大学時代の同級生だったのだ。

久々の再会に、近くの喫茶店に腰を落ち着けた二人だったが、百合枝は小林に、相談に乗って欲しい事がある。実は、継子の三千子が5日前から家出しているのだと切り出す。

夫の山野大五郎は、その捜索のため、今、大阪の親戚の家に行っているし、自分も今、夫の知り合いの養源寺の住職に話を聞いて来た帰りだったのだとも。

聞いていた小林は、百合枝が養源寺の住職と知り合いだった偶然に驚くが、その百合枝から私立探偵を紹介してくれないかと頼まれたので、知り合いの旗龍作(二本柳寛)探偵事務所に連れて行ってやる。

事務所で旗龍作から詳しい話を求められた百合枝は、自分が山野大五郎の後妻であり、三千子の継母に当たる事、三千子の失踪に最初に気づいたのは、小間使いの小松と言う人物であった事などを打ち明ける。

その後、旗と小林は、百合枝に同行して山野家の屋敷に向かう。

屋敷には、蕗屋(国方伝)と言う運転手と、女中お君(小沢路子)、お雪(野上千鶴子)、書生山木(鮎川浩)がいるが、小間使いの小松は、今、病気で寝込んでいると言う家族構成を説明した後、三千子の部屋に小林と旗を案内した百合枝は、日頃愛用していたハイヒール、マフラー、ハンドバッグ、グリーンのツーピースなどがなくなっていると、旗に説明する。

旗は、やにわに部屋に置かれていたピアノを弾き始める。

すると、ある鍵盤の音だけがおかしい事に気づき、ふたを開けてみて、弦の上に、女物のヘアピンが乗っていた事に気づく。

そのヘアピンには、三千子のものらしき毛髪が付着していた。

ここに至って、三千子の失踪には事件性が疑われ始める。

一旦、ピアノの中に入れられていた可能性が高くなった三千子の身体は、その後、屋敷の外に運ばれたはずで、そうなると、誰かに観られていた可能性が高い。

家人たちに事情聴取した旗は、お雪から、そう言えば、ゴミ屋がやって来て、ゴミ箱からゴミを持ち出したのが、いつもの日取りより早かったように思うと証言する。

旗は、その後、寝込んでいると言う小松の部屋に案内してもらい、小松に話を聞こうとする。

眼鏡をかけた小松は、三千子の失踪に気づいた朝、ベッドに寝た様子はなかったなどと証言するが、体調が悪いのか、深くは答えようとはしなかった。

その後、旗は、百合枝からアルバムに貼った家族全員の記念写真を見せてもらい、各人の顔を確認する。

その頃、とあるファッションショーの会場。

見学していた若い女性が、舞台に置かれているウエディングドレスのマネキンの左腕の色がおかしくないかと、隣の女性に問いかける。

その内、舞台上を舞っていたモデルの一人が、そのマネキンの左腕に触ってしまい、曲がった腕の位置を直そうと触っているうちに、その左腕が抜け落ち、それが、本物の人間の腕である事が分かると、会場は騒然となる。

舞台上には、どこから現れたのか、あの小男が走り抜けて行った。

旗は、その後、再び山野邸を訪れるが、自室にいた百合枝は、何かを急いで燃やした後、応対に出て来る。

旗は、もう一度、三千子の部屋を観たいと言い、ご主人が戻っているならお目にかかりたいと聞く。

百合枝は、主人は昨夜大阪から戻って来たが、その後熱を出し、今は寝込んでいると答える。

三千子の部屋に入った旗は、指紋を採取し始める。

一方、寝込んでいた主人の山野大五郎(三島雅夫)は、妻の百合枝から探偵の事を聞くと、何で探偵など頼んだ、家の恥になるだけだと、会うのを拒む。

その事を伝えに戻った百合枝に、今、部屋で採取した指紋と、持参したファッションショーの舞台で見つかった左腕から採取した五つの指紋を見せた旗は、両者は同じであると教える。

マネキンから落ちた左手には、ルビーの指輪がはまっていたと旗が言うと、それは三千子も同じだったと百合枝は答える。

旗は、百合枝に、三千子と小松は、運転手の蕗屋を巡って三角関係であった事実を隠していましたねと問いつめ、この事件には、妙な身体的ハンデを持った人物が絡んでいるとも教えるのだった。

そこへ、山木が小包を持って現れ、到来ものかと思ってふたを開けた所…と言いながら、テーブルにそれを置いた途端、中から女の右手が転がり落ちる。

それを見て気分が悪くなった百合枝が部屋に引き取った直後、お雪が旗の元にやって来て、奥様の部屋から見つけて来たと言いながら、燃え残りの手紙を手渡す。

太子堂近辺、山野家に片腕が届いた事件の事を報じた新聞を買い求め、熱心に読みふける男がいた。

百合枝は水道橋の叔父の所に言って来ると、寝込んでいる夫に願い出るが、こんな家から逃げ出したくなったかと嫌みを言われる。

女中のお雪は、夜分、一人で出かける百合枝を心配して、山木でも連れて行けばと忠告するが、百合枝はそれを断って一人で出かける。

その百合枝を、電柱の陰からうかがっている男がいた。

その男は、自分の他にも、百合枝を尾行している人物がいる事に気づく。

女中のお雪だった。

さらに、土手を帰宅途中だった小林も、一人で出かける百合枝の姿を見かける。

そうした中、小間使いの小松は、食事を終えると、こっそり屋敷を抜け出していた。

その様子を庭に侵入して見ていたのは、あの太子堂で新聞を見ていて、それまで表の電柱の陰に身を潜めていた北島春雄(丹波哲郎)だった。

とある場所まで来た百合枝を待っていたのは、黒めがねに白マスクで顔をすっぽり隠したコート姿の大男だった。

大男は百合枝に何かを言い含めると、用意していたハイヤーに乗り込ませ、一緒に出かけるが、その車中、百合枝の手を握りしめていた。

そのタクシーのバックナンバーを覚え、すぐに公衆電話に飛び込むと、ある人物に告げたのはお雪だった。

とあるしもた屋の前に到着したハイヤーから、大男と百合枝は降り立つが、タクシーの助手席から降り立ったのは、運転助手に化けて一緒に乗って来た小林だった。

小林は、大男と百合枝が入ったしもた屋の前で、どう行動すべきか悩んでいた。

二階に上がり込んだ大男は、百合枝に対し、あなたはもう私のものだ。逃げたりすれば、身の破滅だと脅しながら迫る。

逃げようとする百合枝に、大男は、こうまでしなければならない、自分の切ない気持ちを分かってくれと言いながら、それまでかぶっていた帽子と白マスクを取ると、そこには醜い顔が現れる。

10年間あなたの事を思い詰めていた。声を上げると、山野家を崩壊させてやると言いながら、いよいよ百合枝の身体に抱きつこうとした時、決心した小林が、家の中に入り込み、一階にいた老婆(五月藤江)の制止を振り払い、二階に上がると、百合枝を発見する。

しかし、あの大男の姿はどこかに消えており、老婆から大声を出すと脅されたので、やむなく百合枝を連れて外に出る事にする。

家の前で、怪しげな男とすれ違った後、あの大男の事を聞こうとした小林だったが、百合枝は聞かないでと答えを拒否し、タクシーを拾うと、一人で帰ってしまう。

翌日、旗探偵事務所にやって来た小林は、夕べすれ違った男が、旗の助手の一人平田(天知茂)だった事に気づく。百合枝が燃やした手紙の残りから、夕べの行動を察知した旗が差し向けていたのだった。

小林が見せられたその手紙の残骸には「上野町63 中村」と、夕べのしもた屋の住所がはっきり残っていた。

旗探偵は、百合枝を疑う品が出て来たと、屋敷でおゆきが発見した三千子が失踪時身につけていたと言うマフラーやバッグを小林に見せる。

さらに、百合枝の部屋のあった石膏像と、三千子の部屋のピアノの弦の部分にあったヘアピンに付着した微量の石膏に付いても旗は教える。

寝込んでいた小間使いの小松が、その後医者に行ったまま戻って来ない事、元山野証券の社員で、三千子の恋人だった北島が、最近、刑務所から出て来た事なども、旗は説明する。

その時、もう一人の助手斉藤(村上京司)から旗に電話が入り、尾行させていた小松が運転手蕗屋と密会したとの報告を伝えて来る。

その報告の途中、車を拾ってどこへともなく走り出した蕗屋と小松を、斉藤も慌てて追うが、その様子を見ていた北島も、その後を追う。

その後、蕗屋と小松、尾行している斉藤と北島は同じ列車に乗り込んでいた。

旗から報告を受けた田村検事(細川俊夫)は、さっそく百合枝夫人に会いに行き、事件当日の尋問を始めるが、高血圧で病床に伏していた亭主の山野がやって来て、妻の当日母屋から出ておらず、アリバイはあると証言する。

検事たちが帰った後、夫に証言の礼を言いながら、床に連れて行った百合枝だったが、山野は、お前のためではなく、山野家のためにやっただけだと冷めた返事をする。

その後、自室に戻った百合枝は、窓に不気味な小男の影を見て怯えるが、窓の側に手紙が置いてある事に気づく。

そこには「明日の午後3時、昨夜の家に来い」と言う内容が記されていた。

その頃、小林は、以前会った浮浪児五郎(香川良久)を張っていた所、そこへあの小男がやって来て、また饅頭を配っている所を目撃する。

小林は、その小男の後を追う事にする。

マネキン屋の前で張っていた平田は、小男がその店の仲に入り込むのを確認する。

旗探偵事務所に戻って来た小林は、ちょうど親しい刑事部長からの電話を受けていた旗探偵から捕り物が始まるらしいと教えられる。

その直後、また電話が鳴り、山野夫人が出かけたとの報告が入ったので、小林と旗は、車で養源寺へ向かう。

車中で旗は、養源寺としもた屋とマネキン屋は、それぞれ裏でつながっている事を小林に教える。

一方出動した警察隊は、養源寺に向かっていた。

墓の中で平田が待ち構えており、車から降り立った旗は、山野家のゴミ箱からゴミを持ち去ったゴミ屋はここに来たのだと説明する。

百合枝の事が案じてならない小林は、焦って寺の中に踏み込もうとするが、旗がそれを制止する。

警察と共に寺の中に入った平田は、そこに供えてあった饅頭が、あの小男がいつも浮浪児たちに与えていた饅頭と同じものである事を指摘する。

寺の中の壁に抜け穴を見つけた一行は、その中に侵入する。

旗は、その中を通じた穴が、昔の防空壕跡だと言う。

その頃、あのしもた屋にやって来た百合枝は、あの大男から襲われそうになっていた。

気絶した百合枝を抱こうと近づいた大男は、抜け穴からしもた屋の二階にやって来た小林らに気づくと逃げようとする。

その身体はいつの間にか小さくなっていた。足に付けていた義足が外れたのだった。

警官隊が小男を追って外に出る一方、小林は部屋の中で気絶していた百合枝を介抱する。

気がついた百合枝は、三千子を殺したのは自分であり、家に連れて帰ってくれと懇願する。

一方、警官隊に追われた小男は、工場内に入り込み、建物の上に張られていた綱を渡って逃げようとする。

百合枝は小林に、どこまでも自分の味方になって下さいますねと迫まり、小林が誓いますと答えると、実は、三千子を殺したのは山野であり、小松は山野が芸者に生ませた子供だったと小林に教えるのだった。

屋敷に戻って来た百合枝と小林は、たった今、山野が脳溢血で死亡したとおゆきから聞かされる。

その頃、マネキン屋は、警察の事情聴取を受け、和尚から頼まれて義足を作った事があると答えていた。

そこへ、百合枝が小林と共に連れて来られる。

マネキン屋では、旗龍作が事件の真相に迫っていた。

百合枝は山野をかばおうとして行動をとって来たが、実は重大な錯誤に陥っており、三千子こそ加害者その人であると喝破するのだった。

実子の三千子と妾腹の子である小間使い小松は瓜二つで、見た目的には、小松の方が眼鏡をかけているだけの違いしかなかった。

三千子は、常日頃から腹違いの姉妹である小松に事ある事につらく当たっており、事件当夜も、そんな二人がもみ合っているうちに、三千子が近くにあった石膏像で、小松の頭部を殴打し、殺害してしまったのだった。

それを発見したのが、父親の山野。

大変な事をしてくれたと慌てる山野だったが、当の三千子は、今後は自分が小松に化ければ良いと「姉妹入れ替わりのトリック計画」を打ち明ける。

後は、その計画に山野や百合枝が利用されただけである…と言うのだった。

三千子の死体をピアノに隠したのは山野であり、遺産をやると言う条件付きで、運転手の蕗屋に、その後、死体をゴミ箱に運んでもらった。三千子の部屋にあった化粧品は、自分が別のものとすり替えたと百合枝は説明する。

その際、死体を切断したのは養源寺の住職だが、その秘密をネタにずっと脅迫されていた事も告白する。

その頃、温泉宿にやって来ていた蕗屋と小松は、人気のない所で抱き合っていたが、そこに近づいて来た北島が、ナイフで小松の腹を突き刺してしまう。

倒れた小松の顔から眼鏡が取れ、元の三千子の素顔に戻っていた。

そんな事はつゆ知らず、マネキン屋で旗の話を聞き終えた小林は、あの小男が死体をここにあるマネキンに塗り込んだに違いないと激高し、マネキンを壊そうとするが、旗探偵は冷静に、死体は金浦の墓地に埋めてあると小林を制止する。

小林が百合枝を促し、屋敷に帰ろうとした時、刑事がやって来て、一寸法師が墜落して、ひん死の重傷を負って病院に運び込まれたが、百合枝さんに会いたがっていると知らせに来る。

旗探偵は、会ってやってくれと百合枝に頼む。

田村検事が見守っていた病院に小林、旗と共にやって来た百合枝は、ベッドに寝かされた小男の素顔を見る。

大男に化けていた和尚だった。百合枝を襲った時、顔に付けていた醜い傷も作り物だった事が分かる。

旗は、危篤状態の和尚に、山野の奥さんが来たと呼びかける。

すると、かすかに目を開けた和尚は「百合枝さん、奥さん…、すいません」と涙を流し、息を引き取る。

その手を握りしめる旗龍作は、百合枝を送って行くように小林に頼む。

雪が降る中、病院を出た小林と百合枝は、道の向こうからやって来る浮浪児たちの姿を見る。

浮浪児たちは、あのおじさんから饅頭がもらえるかもしれないと噂し合っていた。

小林と百合枝の目には、その子供の中の一人が、あの一寸法師に見えた。

小林は、一寸法師は、本当に子供になったのかもしれないとつぶやくのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

新東宝のゲてものイメージで見ていると、意外とまともな謎解きになっている上に、ラストは文芸もののように感動的ですらあるので意外感がある。

宇津井健扮する小林が、百合枝を連れて行く探偵事務所のシーン、天知茂が最初に出て来るので、彼が明智小五郎かと思いきや、彼は単なる助手である事が分かる。

旗探偵を演ずる二本柳寛は、どちらかと言うと無骨な中年男であり、決して今風のスマートな探偵イメージではないが、落ち着いた物腰と鋭い推理で、なかなか味のある紳士探偵像を作り上げている。

重要な役で登場する安西郷子は、池辺良が金田一耕助を演じた「吸血蛾」でもヒロインとして登場している。

いかにも怪しげな三島雅夫や、登場場面は多くないが、丹波哲郎演ずる悪人像などもミスリード(観客の目をそらす)要素としては効果的。