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朝を呼ぶ口笛

1959年、松竹大船、吉田稔「新聞配達」原作、光畑硯郎脚本、生駒千里監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

まだ暗い明け方、読売新聞の販売店「小池新聞舗」、元気に飛び出して新聞を配達し始めた吉井稔(加藤弘)に、京成バスの車掌をやっている前川静子が声をかけ、入社試験に望む恋人の須藤にこれを渡してくれと成田山のお守りを渡す。

須藤隆二(田村高廣)も販売員の仲間の一人だったからだ。

配達が終わって販売店に戻って来た住み込みの販売員たちは、販売店主である政江(沢村貞子)が用意してくれた朝食をみんなで食べる。

その住み込みの一人である須藤に預かって来たお守りを渡して帰宅しようとする稔に、拡張手当500円を加えた給金を渡しなが、政江は、稔が定時制高校に入学するために貯金している事をほめてやるのだった。

そんな稔に、自分も定時制高校出身の須藤も、自分が使った数学の問題集を渡してやる。

帰宅した稔を待っていたのは、バドミントンの羽作りの内職をしている両親と、母に代わり夕食の支度をした弟の豊(鳥居博也)、そして、靴が欲しいとすねているまだ幼い妹のみどり(羽江まり)だった。

父親吉井松一郎(織田政雄)は自動車に撥ねられる交通事故に遭い、今は働いていないので、母親きよ子(井川邦子)の内職だけが頼りだった。

稔は、豊が炊いたご飯に焦げが多い事をからかいながらも、拡張手当が入ったので靴を買ってやると、みどりをなだめてやる優しい兄だった。

そこに、いつも親切にしてくれる大野さん(殿山泰司)がやって来て、父親の容態を尋ねる。

その日、中学3年の稔は学校で、クラス担任の佐藤先生(土紀洋児)から、模擬試験の成績が一番だったと誉められる。

須藤は、車掌の静子をバス会社から誘い出すと、近くをぶらつきながら、入社試験で、恋人がいるかって聞かれたから、入社したら結婚するつもりだと答えたと知らせる。

さらに会社の家族寮も観て来たが、立派だったと言うと、静子は早くも結婚生活に夢を馳せ喜ぶのだった。

その日の夕方、稔は仲間の販売員から、今朝、三丁目の刈谷さんの家に朝刊が入っていなかったと俺が苦情を言われたと知らされる。

稔は、確かに刈谷さんの家には入れたはずなのに…と首を傾げながらも謝りに行く事にする。

すると、玄関先に、犬をなでる刈谷家のお嬢さんの美和子(吉永小百合)と、お手伝いさん、そして牛乳配達がいたので、確かに今朝、新聞をポストに入れたはずなのですが…と説明しながらも、稔は頭を下げる。

すると、牛乳屋が「盗まれたのではないか、牛乳も良く盗まれる」と言い出したので、それでは明日、自分が見張ってみると稔は提案してみる。

すると、牛乳屋も手伝うと言い出し、翌朝は、稔と牛乳屋、さらに美和子とお手伝いさんまで一緒に玄関先のポストを見張る事になる。

やがて、怪しげな男が通りかかり、すわ泥棒か?と全員身構えるが、その男は立ち止まってタバコに火をつけると、そのままポストの前を通り過ぎてしまった。

やがて、美和子の愛犬がポストに近づいて来て、新聞をくわえると、自分の犬小屋に運び込んだではないか。犬小屋の中には、昨日の朝刊も置いてある。

犯人が判明し、美和子とお手伝いさんは、自分たちの勘違いを稔に詫びるのだった。

とある日曜日、明日は休刊日と言う事もあり、販売店の二階で、須藤が稔に勉強を教えてやっており、他の販売員たちもこれから出かける相談などしていた時、政江がやって来て、近所にできた都営アパートの引っ越し日が今日なので、全員、拡張営業に言ってくれと頼まれる。

全員、そろいの黒ジャンパーに着替えると、都営アパートへ出向き、引っ越し最中の新しい住民たちに一斉に新聞の売り込みを始める。

販売店に須藤を訪ねて来た静子も、都営アパートに行ったと聞くと、そちらに出向き、須藤と一緒に引っ越しの手伝いを始めるし、同じく営業目的の牛乳屋まで駆けつけて来た。

静子は須藤に、今度郷里の高崎から、兄が農業会の帰りに上京して来るので会って欲しいと頼みに来たのだった。

ある日、販売店に駆け込んで来た豊が、兄の稔に、母親が縁側で倒れたと知らせる。

病院に行ってみると、家族全員と大野さんも見舞いに来てくれていた。

父親に続き、母親と言う一家の大黒柱が倒れてしまい、吉池は窮地に陥る。

病身の父親が無理して続ける内職ぐらいではどうしようもなかった。

稔は、今後、朝刊だけではなく、夕刊の配達も始める決心をし、豊も夕刊の手伝いをすると言い出す。

翌早朝、寒い中起きた稔に、すでに起きていた父親が、熱いお茶を入れて飲ませてやる。

その日は、販売店のぼろ自転車を借りて配っていたため、途中で自転車が壊れてしまい、稔は困りきっていた。

そこに真新しい自転車に乗って通りかかった美和子は、自分の自転車を使いなさいと貸してくれた。

その日、父親松一郎は、医者から、母親の病気が過労だけではなく、胆石も患っているので、主実が必要だと告げられ、それを妻のきよ子に告げていた。

きよ子は、この事を稔には黙っていてくれと頼む。

学校に出かけた稔は、事情を説明し、今後は補習に出られなくなったと佐藤先生に伝え、慰められていた。

夕方、仕分け中の「小池新聞舗」に速達が届く。

須藤が入社試験を受けた中央精巧からだった。

その頃、借りた自転車を返しに刈谷家に向かった稔は、美和子が、販売店の壊れた自転車を修理して待っていた事を知る。

美和子は、牛乳屋から、稔が受験を控えている中三の吉井稔君だと教えられたと伝え、がんばってねと励ます。

夕刊を配り始め、大野さんに手渡した時、稔はその大野さんの口から、母親に手術が必要になった事を聞かされ愕然とする。

手術には1万円くらい必要だが、自分にも借金があるので貸せないのだと大野さんも謝る。

その頃、販売店の二階では、須藤が呆然と寝っ転がっていた。

届いた手紙は「不採用」の知らせだったからだ。

下では、その事を知った販売員の日比野(吉野憲司)が、やっぱり定時制卒業くらいではダメだと言う事かと噂し合っていた。

そこに帰って来た稔は、その話を聞き、あんな定時制出身に勉強を教わっても無駄だと悪口を言われたので、かっとなって日比野に飛びかかるが、やって来た政江に怒られる。

その夜、父親に自分の預金通帳を差し出した稔は、もう高校行くのをよすと伝える。

父親は、その預金を稔自身が、高校進学のため必死にためていた事を知っているだけに、とりあえず預かっておくと受け取ると、そのまま布団の中に潜り込んでしまう。

弟の豊も布団の中から、兄の高校受験断念を心配して尋ねて来たので、母さんに手術が必要なのだと教えてやる稔。

ある日、上野駅の近くで、須藤は、静子とその兄、一郎(山内明)に会っていた。

近くの食堂に腰を落ち着けた三人だったが、静子には田舎にも、二三縁談があるのだがと、それとなく話を始めた一郎に、須藤は、中央精巧に落ちたので、自分は一人で秋田の山奥の鉱山に行こうと思っていると打ち明け始める。

自分には静子さんを幸せがないと言い出した須藤に、弱虫!と静子は怒る。

そんな妹をたしなめた一郎だったが、須藤は、届いた天丼にも手をつけず帰ってしまう。

稔は、大野さんに頼み、近所の工場で働かせてもらう事にする。

その帰り、河原で落ち込んでいた稔は、唄を歌いながら土手を帰る女学生たちの中に、美和子も混じっている事に気づくが、美和子の方は気づかず、そのまま通り過ぎてしまう。

販売店に戻って来た稔は、辞めると政江に伝え、最後の給金を受け取っていた。

そこに戻って来て稔が新聞配達を辞めると聞いた須藤は、稔を近くの河原に連れて行くと、詳しい事情を聞こうとする。

しかし、稔は高校受験をあきらめ、工場で働くと言うだけで、高校だけは行った方がいいと説得する須藤の言葉も聞かず、以前もらった数学の参考書をその場に残すと立ち去ってしまう。

その後、母親の病室に向かった稔は、寝入っている母親のベッドの側で一人むせび泣くが、それに気づいた母親は目を覚ましただけで、何も言えなかった。

そこに松一郎が入って来て、医者に手術をお願いしたと伝え、稔が工場で働く決意をした事を聞いたと言葉を添える。

販売店に戻って来た須藤の方は、二階で一郎が待っていた事を知る。

一郎は、先ほども妹の態度を詫びながら、君も会社に入れなかったくらいで自信をなくしちゃダメだと話す。

販売店での夕食時、住み込みの販売員たちは、須藤が結婚をあきらめたと言う話を聞いて驚く。

一方、須藤の方は、販売員たちが噂していた稔の母親が手術する事を聞き驚くと、すぐに自分の本を整理し始める。

それを売って、少しでも出術代の足しにしてもらうのだと言う須藤の話を聞いた他の販売員たちもカンパを申し出、政江も協力すると言い出し、金を出してくれる。

病院からの帰り道、留守番している兄弟のために焼き芋をおごった稔と父親松一郎が帰宅すると、みどりはもう寝ており、豊と駆けつけた須藤が待っていた。

須藤は稔に河原での事を謝ると、カンパで集めた6500円を差し出しながら、その代わりに、何とか稔くんを高校にやってくれないかと松一郎に頼む。

感激で胸がいっぱいになり部屋の隅に立ちすくむ稔に、須藤は何で相談してくれなかったのか、俺たちは仲間じゃないかと声をかける。

松一郎は、工場の事は通さんが断って来ようと、稔に言う。

そこに、話を聞いた新たな販売仲間も駆けつけ、カンパを申し込むのだった。

稔は、ただ涙するしかなかった。

数日後、須藤は、バスから降り立った静子から、自分も秋田に一緒に付いて行くと言われ感激する。

一方、刈谷家に配達に来た稔は、ポストがなくなっている事に気づき戸惑うが、そこに出て来た美和子から、父親の転勤で大阪に引っ越すのだと知らされる。

がっかりして立ちすくむ稔に、美和子は紙包みを渡して家に入る。

そこには「がんばって!吉井くん」と書かれた手紙と手袋が入っていた。

その手袋をはめ「さよなら…」とつぶやいた稔は、気持ちを切り替えて、また元気良く配達を再開するのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

吉永小百合の映画デビュー作。

全国中小学生作文コンクールで文部大臣賞を受賞した作文を元にした実話らしく、貧しい中にも、希望と友情を忘れない仲間たちの温かい交流が描かれている。

今となってみれば、やや古くさい貧乏感動話ではあるが、当時としては、まだこの手の話に素直に共感できた時代だったのだろう。

吉永小百合は、優しい金持ちのお嬢様役、主人公の貧しい少年にとっては、まるで別世界の天使のような憧れの存在。

最後には、役割を終えた天使が消えてしまうように、彼女が引っ越して行くと言うのも、もの悲しくもロマンチックである。

若き日の田村高廣も、一瞬、弟の田村正和や田村亮を連想させるような美貌であるのに驚かされる。