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兄とその妹('56)

1956年、東宝、島津保次郎脚本、松林宗恵監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

深夜、終電車から降り立つ乗客の中に、明和鉱業のサラリーマン間宮敬介(池部良)の姿があった。

途中で、馴染みの巡査(佐田豊)から声をかけられる。

自宅で迎えたのは、妻のあき子(原節子)だった。

少し頭が痛いと言う妻の事を案じた間宮は早く休むように言い、妻もその言葉に素直に従う事にする。

風呂に入る事にした間宮は、石鹸がない事に気付き、寝床に入った妻に声をかけるが、文子の化粧台の所にあると聞き、一人で取りに向う。

妹文子(司葉子)は、もう熟睡していたが、暗がりの中、化粧台に近づこうとした間宮は、つい文子の左足を踏み付けてしまい起こしてしまう。

翌朝、起きて来た文子は、義姉のあき子に、夕べ、兄に踏まれた左足が痛いとこぼしている。

一方、間宮の方は、新聞の碁の欄を切りぬこうとハサミを探している。

そして、トーストとスープと紅茶と言う洋風の朝食を一緒に食べる妹に、もっと融通にとんだ生活を送るように忠告をする。

職業婦人である妹が、何事にもあまりに理屈っぽく、潤いがない性格のように思えたからだった。

会社に向うため、家を出て電車に乗った文子は、満員電車の中で、偶然、兄の元の会社の同僚だった内海(小林桂樹)に声をかけられる。

今では、彼も元の会社を辞め、自分で経理会社をやっているのだと言う。

文子から、間宮がこのところ毎晩のように、重役の家に碁の相手に出かけ、帰宅が遅くなる事を聞いた内海は、そう言う事を続けていると、会社の中では色眼鏡で見るやつもおり、重役連に取り入っていると陰口を叩かれる事になるのではないかと心配する。

一方、明和鉱業にいつものように出社した間宮は、さっそく、上司の志村係長から声をかけられ、自分の次男が、今度、成城高校を卒業するのだが、どうしたものかと相談して来る。

間宮は、成城なら優秀なので、東大に行かせたらどうかと提案すると、自分もそう願っているのだが、本人はバーテンをやりたい等と言っているのだと志村はこぼす。

太陽族にでもなられたら困ると弱っている志村を観た間宮は、今度、自分が話をしに行っても良いと返事をする。

それを聞いた志村は嬉しそうに、経済卒の間宮の仕事が間違いないと誉め出し、それに比べ、古参の行田(伊豆肇)は安心できない等と言う。

その直後、勤め先の会社に着いた妹の文子から電話が入り、医者に観てもらったら、あき子の熱は37度くらいだったから、そう心配するほどではないと報告がある。

その文子、遅れて出社して来た支配人荒川(斎藤達雄)から、さっそく口述タイプの仕事を依頼される。

その後、間宮の部署では、行田が同僚の沢田(内海突破)に対し、受取った書類の計算が間違えているときつく注意する姿があった。

正午になり、皆が昼食に出かけはじめたので、間宮も部屋を出ようとすると、先ほど叱られていた沢田が声をかけて来て、計算の仕方のアドバイスを聞いて来る。

計算が得意の間宮は、嫌な顔一つせず、親切に、簡単な計算方法の秘訣を伝授してやる。

その様子を観ていた同僚は、間宮が立ち去った後、その人徳を誉め、行田の陰が薄くなった等と言い合っていた。

その日、アイスクリームを買って帰宅した文子は、支配人のゴルフ仲間の青年が以前事務所にやって来て、自分の目の前で、支配人と自分の品定めの話を英語でしはじめたのだが、支配人からが文子が英語も堪能である事を知らされうろたえていた…と言うエピソードを、夕食に面白おかしくあき子相手に話しはじめる。

その青年が、支配人が不在の時にやって来て、夕御飯に招きたいと誘って来たので、自分には三流画家の主人がいると断わったと言うのである。

その時、珍しく間宮が帰って来るが、着物に着替えると、又、碁をしに重役の家に出かけていくのだった。

翌朝、出社した間宮は、志村係長の姿が机にないのでいぶかしく思っていると、窓から、重訳室で頭を下げている志村の姿を目撃する。

志村は、有田部長(柳永二郎)から、経理部への転籍を考慮中の今、志村が競輪通いなど悪い噂を立てられている事に付いて注意を受けていたのだった。

部屋に戻って来た志村は、有田部長から呼ばれていると伝言する。

その直後かかって来た文子から、今日は自分の誕生日だと言う電話を受け、部屋から間宮が出ていくと、さっそく行田が係長の所にやって来て御機嫌伺いをする。

志村係長は、憂さ晴らしに飲みに行こうと行田を誘う。

あき子は、文子の誕生日に訪ねて来た文子の親友正子(津山路子)を出迎え、彼女が妊娠している事に気付く。

そのすぐ後、当の文子が、他の友人たちを引き連れて帰宅して来る。

その頃、有田部長の家にいつものように碁を打ちに行った間宮は、有田の甥の道夫(平田昭彦)が訪ねて来たと言うので、先に別室に向っていた。

叔父の有田から依頼されていたパテントの権利状を持って来た道夫は、結婚相手が見つかったのだと打ち明ける。

有田は、碁の相手を待たせてあるからと、道夫に酒を勧めると、自分は間宮の待つ部屋に向う。

文子は自宅で友人たちと誕生パーティを開いていたが、あき子からプレゼントが届いているといわれ、見ると、大きな花束であった。

それには英文のメッセージが添えられており、「あなたが独身である事は荒川氏から聞いた 有田道夫」と記してあった。

同じ頃、飲み屋で飲んでいた志村は、行き田から、林と言う社員は、キャバレー通いが上司にばれて庶務課に飛ばされたが、あれは間宮が重役に情報を全て洩らしているかららしいと、まことしやかに告げ口していた。

そんな事を知らない文子やあき子は、誕生会を楽しんでいた。

客たちが帰った後、文子は、その日の誕生会にかかった費用3200円を、きちんと義姉に払う。

翌日の土曜日、いつものように出社した文子は、荒川支配人から珍しく、結婚観等を質問される。

一方、間宮の方は、庶務課の林から呼出されて、履歴書に不備があると、あれこれ文句を言われたが、どうして今頃そんな事を?…と首を傾げながら、会社の部署に戻って来ていた。

そんな間宮に、部長から呼び出しがある。

有田部長は、間宮に写真を見せ、それは君の妹さんだねと聞いて来る。

そして、実は、自分の甥が、その妹さんと結婚したいと言っているのだと切り出しながら、道夫の写真も出してみせる。

道夫は、アメリカの大学を卒業後、今はパテントのブローカーをやっているが、アプレ的な真面目な男だと説明する。

その話の最中、昼食用の蕎麦を持って来た給仕の河合(井上大助)は、その話を小耳に挟むと、早速廊下で出会った行田にその事を告げ口する。

その日、兄と昼食を一緒に取る事を約束していた文子は、一足先にレストランに到着していたが、側のテーブルに座っていた行田、林(加東大介)、河合の会話が聞こえて来る。

兄の間宮を中傷する内容だったので、気分を害した文子は、さっさと店を出てしまう。

その直後、店にやって来た間宮は、妹の姿が見えないので、たまたま一人で座っていた沢田と同席し、又、計算方法を伝授する。

そんな間宮の近くに来た林は、履歴書の保証人の不備を早く正すように嫌味を言って店を出る。

訳が分からない間宮だったが、文子から店に電話が入ったので出てみると、今日は碁をやらずに早く帰ってくれと言われる。

その日は珍しく3時過ぎに帰宅した間宮は、廊下の拭き掃除を手伝ったり、風呂を焚き付けたりする。

その後、あき子に、文子への縁談話があるのだと打ち明けると、上司からの話だと、断わったりすると、後々具合が悪いのではないかとあき子は心配する。

間宮は私事は仕事とは別だと否定するが、女にとって結婚は一生をかける大切な話なのだから、慎重に話してあげてとあき子は助言する。

間宮は、保証人だった井口さんが亡くなった後、別の保証人が必要らしいので、内海の所に行って来ると出かける。

その後、文子が帰宅して来る。

日曜日、間宮夫婦と文子は、一緒に箱根にハイキングに出かける。

登山電車に乗った文子は、プラットホームにいた新婚夫婦の姿を見かけ、うらやましそうな様子を見せる。

山頂につき、高山植物の収集等している妹の姿を観ながら、結婚の話を何時切り出そうかタイミングを見計らっていた間宮だったが、思いきって彼女に近づくと、道夫の写真を見せ、求婚されているのだと教える。

文子は、良く知った相手だけに、少し考えさせてくれと答える。

その後、あき子と共に、食事をはじめた時、文子はこの話は断わりたいと言い出す。

それを聞いた間宮は、俺の仕事に影響すると考えているのだろうが、俺は文子の幸福を願っているだけだと伝える。

その夜、間宮は疲れたからか、妹や妻よりも先に寝入ってしまう。

翌朝も、レストランに集合した林と行田は、人事の事であれこれ噂しあっていた。

出社した間宮は、嬉しそうな志村係長から、今度、自分は経理課第一課長に抜擢されたが、自分の後釜は君だと言われる。

その後、調査部長室に向った間宮は、有田部長から、係長に任命すると言う辞令を受取る。

その帰り、廊下で待っていた林は、間宮に対し、自分の出世のために妹を差し出すなんて…などと露骨に嫌味を言いはじめ、とうとう間宮を殴りつける。

間宮の方も、さらにしつこく迫って来る林をその場に突き飛ばしてしまう。

自分の席に戻った間宮をさらに追って来た林は、しつこく間宮の事を侮辱するので、一体、自分が重役と通じているとか、妹を差し出す等と言う話は誰から聞いたのかと問いただすと、行田に聞いたと言う。

その行田に、君は誰からその話を聞いたのか?と、間宮が問いつめると、行田は口籠ってしまう。

しかし、何かを決意したかのように、その場で間宮は辞表を書きはじめ、それを、監査役の有田さんに渡してくれと志村係長に渡すと、さっさと部屋を出ていく。

その後を追って来た沢田が、本当に辞めるつもりなのかと聞くが、間宮は、自分は真直ぐ生きる事しか出来ないので…と答えて、会社を後にする。

その夜、間宮邸では、あき子が文子に対し、本当は道夫の事が好きなのではないか?女は結婚に対してはエゴイスティックにならなければいけない。もう少し、あの話の返事を伸ばしてみたらどうかとアドバイスしていた。

一方、家に帰るに帰れなくなった間宮は、内海の事務所にやって来て、会社を辞めて来た事を打ち明け、今夜はここに泊めてくれないかと頼む。

もちろん、承諾した内海だったが、この際、自分と一緒に仕事をやってみないかと持ちかけられる。

その方が、文子も気兼ねなく結婚できるのではないかと言ってくれるのである。

それを聞いた間宮は、嬉しくなって、やはり今日は家に帰る事にすると言い出す。

帰り際、間宮は、内海の友情に心から感謝するのだった。

深夜、駅に降り立った間宮は、閉店間際の果物屋でリンゴを買い求めると帰路に付く。

途中、又いつもの警官に声をかけられる。

玄関で出迎えたのは文子だった。

あき子は、間宮の顔色を観て、何事か異変を察知するが、間宮はすぐに会社を辞めた事を打ち明ける。

そして、文子に対しては、有田道夫との事を自由に考え直してくれと頼む。

その文子を寝室に引取らせた後、間宮はあき子に詫びて、今度から内海の所で働く事にしたと教える。

それを聞いたあき子は一安心する。

そうした二人の会話を、寝室で文子も聞き入っていた。

そこに有田からの電話が入る…。

間宮家は、静かな夜の帳の中にあった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

戦前の1939年、島津保次郎脚本、監督による「兄とその妹」のリメイクになる。

互いの気持ちを思いやる古い日本家族の美しい関係を描いた作品で、今観ても、その清らかさには打たれるものがある。

オリジナル版で主役だった佐分利信を池部良、三宅邦子が演じたその妻を原節子、桑野通子が演じた妹を司葉子が演じている。

オリジナル版にくらべると、メインのキャスティングが、ちょっと美男美女になり過ぎているか?…と言う印象もあるが、これはこれでなかなか落ち着いた良い作品にまとまっていると思う。

さすがに地味な内容なので、ほとんど公開時は評判にはならなかったようで、主役を勤めた池部良自身も、今では、この作品の事を全く覚えていなかったと言う。

特に欠点と言うほどではないが、ちょっと個人的に気になったのは、司葉子に求婚する青年役を平田昭彦が演じている点。

この映画のポイントは、妹は(本当は、その青年の事が好きなのに)、兄の会社での立場の事を考えて断わる…と言う所だと思うのだが、ここの部分、オリジナル版では上原謙がその青年役を演じていたそうで、典型的な二枚目イメージの上原謙だったら、観客にも、本心では青年の事が好きなんだと言う妹の心理は素直に共感出来たと思う。

ただ、平田昭彦だとこの辺の解釈が微妙になる。

平田昭彦は、昔、二枚目風のキャラも演じていたが、どちらかと言うと、悪役とか癖のある嫌味な役柄の方が多かった印象がある。

そうした印象で観ていると、今回の平田昭彦演ずる青年も軽薄なお坊っちゃんにしか見えず、司葉子が彼の事を本当は好きなんだ…と言う純な気持ちが、観ている側に今一つピンと来ない部分がある。

プロポーズを断わると彼女が言い出した時、やっぱり平田昭彦のようなタイプは嫌いだったんだと、思わず解釈してしまったくらいである。

もう一つ、原節子が、見た目的に池部良より年上に見える点もちょっと気になる。

実年齢は、原節子の方が池部良より2つ年下なんだそうで、池部良が実年齢より若く見えるせいか?それとも、原節子が(老けて見えると言うより)、主婦と言う役柄上、姉さんっぽい貫禄と落ち着きがあるように見えるからかも知れない。

嫌な人間を演じている伊豆肇や加東大介の姿もちょっと珍しい。