TOP

映画評index

ジャンル映画評

シリーズ作品

懐かしテレビ評

円谷英二関連作品

更新

サイドバー

赤線地帯

1956年、大映東京、芝木好子「洲崎の女」原作(篇中一部分)、成沢昌茂脚本、溝口健二監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

女中のおたね(浦辺粂子)が、須崎の売春宿「夢の里」の女将田谷辰子(沢村貞子)に、近々成立しそうな「売春防止法」の話をしに来た巡査の宮崎(見明凡太郎)に、ウイスキーを出して勧める。

女将は、吉原は300年も続いているが、世の中にいらない商売がそんなに続きますかね~?と、巡査に嫌みを言い返す。

そこに、女衒の安公(菅原謙二)がやって来て、巡査の姿に気づくと、気まずそうに、女将に話しかける。

「買春防止法賛成!」と、近くでその話を聞いていたより江(町田博子)、ゆめ子(三益愛子)らが混ぜっ返す。

ちょうど店主の田谷倉造(進藤英太郎)が出かけるため玄関先に出て来たので、巡査も一緒に帰る事にする。

そこに、布団屋のニコニコ堂主人塩見(十朱久雄)が布団を運んで来る。

塩見の本当の目的は、やすみ(若尾文子)に会う事だった。

ちょうど店に出て来たやすみに声をかけると、小遣いをそっと手渡してやる。

さらに、荻窪にいる兄が病気だと言うやすみの言葉を鵜呑みにしたのか、さらに小遣いを足して渡すのだった。

そのやすよ、部屋で待っていた常連客で問屋主人の青木(春木富士夫)は、そろそろ自分と結婚しないかと詰め寄るが、やすよは、店に15万の借金があるのだと言う。

青木は、何とかしようと答えるが、そこへ、化粧代が足りないので、200円貸してくれと仲間の女がやすえに頼みに来る。

やすえは、常々、仲間内に対しても金を貸していたのだった。

その後、「夢の里」に、栄公が新しい女を連れて来る。

ミッキー(京マチ子)と言うその女は、神戸の貿易商の娘だと言うが、今はぐれて「ズベ公」と化しているのだと言う。

店に入ったミッキーは、いきなり玄関先に置いてあった大きな貝殻の置物の上に乗ると、「ヴィーナスの誕生」のまねをしてみせたり、アケッラカンとした軽いノリの女だった。

辰子がミッキーに、勘定は四分六だと話して聞かせている所に、風邪をひいているのか、マスクをした通いのハナエ(木暮実千代)がやって来る。

そんな「夢の里」に、自分の母の門脇ゆみはいないかと青年が訪ねて来る。

玄関にいたハナエは、それがゆめ子の事だと気づき、店の奥にいた彼女に声をかけるが、ハナエは、こんな格好じゃ会えないと出たがらない。

それでも、田舎から出て来たらしい息子の姿をのれん越しに見ていたハナエは、どうして上京して来たのかと怪しむ。

母に会えないと知った息子の修一(入江洋吉)は、すごすごと帰る途中、振り向いて店を観た時、ちょうど出て来て客を引き始めた母親の姿を発見し、がっかりしてそのまま去って行くのだった。

やがて、より江の馴染み客である大阪弁の客(田中春男)がやって来るが、玄関先のバーにいた新入りのミッキーに気づくと興味を持った様子。

彼女も神戸出身だと聞くと、馴れ馴れしくし始めたので、迎えに出て来たより江が怒りながら部屋に連れて行く。

その夜、帰宅しようと店を出たハナエは、亭主の佐藤安吉(丸山修)が赤ん坊を背負って待っていたので、こんな所に来てくれるなと注意しながらも、近くの中華そば屋に寄って、一緒にそばをすするのだった。

ハナエ夫婦の生活は、ハナエが身体を売らなければ一家心中しなければならないほど、限界ギリギリだった。

ハナエは、息子が会いに来たゆめ子の事を亭主に話すと、自分たちに赤ん坊がこんなにかわいくっちゃ、もう家族心中できないわね~…としみじみと嘆息するのだった。

国会議事堂に傍聴に行っていた田谷倉造が帰宅して来て、売春防止法を通そうとしている国会議員たちは、女たちが食えなくなってもいいと言っているんだと憤ってみせる。

そして、店の女たちを一同に呼び集めると、一人一人に、売春防止法が通って、この商売ができなくなったら、お前たち一体、どうやって食って行くんだと問いかける。

最後には、俺は国家に代わって社会事業をやっているんだと演説をする始末。

その話を聞いていた女の一人が、自分のものを自分で売って何が悪いんやろうとつぶやく。

ある日、大阪弁の客がミッキーを指名して、一緒に入浴していると、そこにより江が乱入して来て、ミッキーに文句を言い始める。

しかし、大阪弁の客は悪びれる風もなく、同じものを買うなら、古いものよりも新しいものがいいに決まっていると言い放つ。

その言葉にショックを受けたより江は、すっかりこの商売に嫌気を感じ落ち込むのだった。

結婚用の家財を密かに用意していたと言うより江の言葉を聞いたハナエは、新聞に書かれていた「売春防止法」が成立すれば、女たちの借金はなくなるそうなので、今すぐ、自分の所に逃げてくれば良いと教える。

他の女たちも賛成し、より江はハナエの家に逃げ込む。

ハナエの夫安吉も、より江を応援し、一緒に駆けつけた店の女たちも浮かれ気分。

ミッキーは、交通公社薄幸のクーポン券をより江に手渡し、やすみは預金通帳をプレゼントする。

ゆめ子は、自分がもらって一番うれしかった品物として夫婦茶碗を渡すと、急に「♩わたしゃ16~…」と唄い始め、せがれに会いたくなったと言う。

そうしているうちに、手配していた車が到着したので、それにより江を乗せると、みんなして見送るのだった。

後日、思い立って故郷の駅に降り立ったゆめ子は、バスを待つ間、近くのうどん屋に立ち寄り着替えをする。

しかし、日頃身に付いた「玄人臭」は消えないのか、店の女から「紅おしろいを落としても、やっぱり玄人衆は粋だね~」と見抜かれて、ゆめ子はばつが悪くなる。

死んだ亭主の家に到着したゆめ子は、病気で寝ている義父・門脇敬作(高堂国典)と義母さく(三好栄子)に久々に再会するが、そこにいるとばかり思い込んでいた息子の修一が、一ヶ月前に上京して、おもちゃ工場で働いていると知らされ、驚くのだった。

東京に戻ったゆめ子は、その後、そのおもちゃ工場にたびたび母親を名乗り電話を入れると、息子の事をよろしくと頼むのだった。

ある日、「夢の里」の客金田(多々良純)が遊んだ後、「自分は戦災で妻を亡くした」と女に打ち明け、店を出て行く。

その夜、帰宅したハナエは、一人首をくくろうとしていた亭主の姿を発見し、驚いて止めると、自分たちは世間に何も悪い事をしていないのに、こうして身体を売らないと生きて行けない。

子供のミルクも満足に買えないで、何が文化国家だ。自分は何としても生きてみせる。そしてこの世の中がどうなるのか見極めてやるよ!と叫ぶのだった。

「夢の里」の給料日、辰子はラジオで、今後、こうした店は夜11時までに終わらせないといけなくなると言っているのを聞きながら、それじゃあ、この商売はできないよ!とこぼしながら、店の女たちに給金を渡していた。

浪費家で前借りばかりしているミッキーは、給金も借金だけと言われ、一銭ももらえなかった。

そこによれよれ状態になったハナエがやって来るが、その姿を見た辰子は、商売が商売なんだから、あんまり所帯やつれしないでくれと注意する。

日頃、女たちに高利貸しをしているやすみも、給料日には、貸した金を受け取っていたが、そこに、ニコニコ堂が夜逃げしたと知らせが来る。

翌日、外出したやすみは、食堂の一角で、戦災で妻を亡くしたと言っていたあの金田が、妻子連れで食事をしているのを見かけたので、おかしくなって軽く会釈する。

その様子に気づいた客の妻が、怪しんで、あの女は誰かと金田に聞くので、金田は困って、宮原くんと言う会社の人だと嘘の紹介をしてしまう。

妻は、その言葉を真に受けたのか、皮肉のつもりか、黙って席を立ち、やすみの前に立つと、役所でいつもお世話になっておりますと挨拶をする。

「夢の里」に戻ったやすよは、青木から15万作って来たと渡され、これで結婚できるねと迫られるが、実はこの所腎臓を悪くして、通院しているので10万いると、また嘘を言ってしまう。

近所の化粧品店で粉ミルクを購入して帰る途中だったハナエは、田舎で結婚したはずのより江がふらつきながら戻って来たのを発見する。

ちょうど一緒に化粧品店にいたミッキーも外に出て来て気づき、三人一緒にオデン屋に入る。

訳を聞くと、結婚とは名ばかりで、先方は単に人手が欲しかっただけだった。働いても働いても一門にもならないとより江は言う。

その後、また働き口を探したが、せいぜい月5000円くらいにしかならないとも。

それを聞いていたハナエは、結局、身に付いた垢はなかなか落ちないのね~…と嘆息するのだった。

その夜、一人金勘定をしていたやすよに、焼き鳥屋からの返却金を持って来てやったおたねが、タンスに金をしまおうとするやすえを見て、そんな所じゃ危ないから、これに入れて抱いて寝なと、大きな茶筒を渡してやりながら、あんたの事、女貫一だって評判だよと冷やかす。

それを聞いたやすよは、自分がこんな守銭奴になったのは、疑獄事件で小菅刑務所に入れられた自分の父親が20万円の借金を負っていたためと打ち明ける。

翌日、おたねがミッキーに客が来たと教えてやる。

しかし、客と思っていたのは、神戸から上京して来たミッキーの父親(小川虎之助)だった。

その父親から、母親が亡くなった事を告げられた娘のミッキー事、みつ子は、さすがにショックを受けるが、妹のたか子が近々結婚するし、官庁に行っている兄の世間体もあるので、戻ってくれないかと言われると、態度が硬化する。

さらに、父親が早くも再婚したと聞かされるに及んで、ミッキーの怒りは再燃する。

一家を支えるには主婦が必要だったと言い訳をする父親に、だったらなぜこれまでママを大切にしてくれなかったのかとなじる。

自分は、道楽三昧でママを泣かせて来たパパを見習っているだけや!パパの責任や!と開き直ったミッキーから「ショート1500円や!」とベッドに連れて行かれそうになった父親は、もう何も言い返せなくなり、すごすごと帰るしかなかった。

一方、ゆめ子は、息子の修一から電話をもらい、もう会社に電話をしないでくれと言われてしまう。

会ってくれと頼むゆめ子に、嫌々ながら明日の昼過ぎ、会社の外でと承知する修一。

翌日、一緒に暮らそうと言ってくれるに違いないと楽しみにしながら会社に向かったゆめ子は、久々に会った修一から、自分は電気技師になろうと思い、今夜学に通っていると教えられた後、今日限り、もうあんたとは別れたいと言い、すがりつこうとする母親を「汚い!」と突き放すとさっさと帰ってしまう。

ゆめ子は絶望し、店に帰って来てもふさぎ込んでしまう。

一方、ミッキーは、他の女たちにどんぶりをごちそうしていた。

九州の飯塚からやって来たと言う新人しづ子(川上康子)は、こんなごちそう初めて食べたと、どんぶりにむしゃぶりつく。

そんな中、ふさぎ込んでいたゆめ子が、急に唄いだし、明らかに精神に異常を来した事が知れる。

一方、やすみにまた30万持って来た青木が結婚を迫ると、やすみは覚めた口調で、そんな気がないと答え、会社の金を使い込んでいた青木は、だましたのかとやすみにつかみかかる。

廊下に逃げ出したやすみだったが、青木に捕まり、その場に倒れてしまう。

気がふれたゆめ子ために救急車を呼んだ辰子は、「人殺しにき●がいだ」と呆れる。

やすみを診断した医者は、別に大した事はなく、明日から働けると言う。

その夜、売春防止法が流れたとラジオが崩ずる。

それを聞いていた倉造は、そら見た事かと喜び、店にいたより江たちに、自分は国家に代わって、社会事業をやっているのだと又演説を始める。

さらに、上機嫌の倉造は、女たちにすしをおごると言い出す。

そんな中、ハナエは外に呼び出され、出てみると、また赤ん坊をしょった亭主の安吉が立っているではないか。

聞けば、家主から追い出され、もう住む所もなくなったと言う。

ハナエは、家賃の事、何とか店に掛け合ってみると、「夢の里」に戻る。

後日、やすみは、貯めていた金で「ニコニコ堂」を買い取り、そこの女主人になっていた。

「夢の里」にやって来たやすみは、元同僚たちに挨拶をして回り、高利貸は続けると告げる。

辰子は、母親から金の催促が来ているまだ生娘のしづ子に化粧をしてやると、客を取らせる事にする。

ミッキーから、あっけらかんと、捨てるもんは早よ捨てやと励まされたしづ子は、店の門の陰から、こわごわと、客に声をかけるのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

溝口健二監督作品と言えば、まじめで重い芸術映画のイメージしかなく、それは「退屈」にもつながるものだったが、この作品は、そんな雰囲気とはかなり違う庶民的な作品である。

テーマ自体は暗いものだが、ゆめ子、やすみ、ミッキー、ハナエらのキャラクターが生き生きと描かれているので、退屈する事はない。

特に、あっけらかんとしたミッキーと、徹底的に金に執着するやすみの、逆境を跳ね返すようなバイタリティは、哀しくもユーモラスでさえある。

通って来る男たちやひもの小者振りも描かれており、男も女も、ぎりぎりの所で生きていた時代の、どういしようもない哀しみが伝わって来る。