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夢を召しませ

1950年、松竹、菊田一夫原作、長瀬喜伴脚本、川島雄三監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

人気レビュースター、男役のミッキーと女役タッピーに会いたい一心のファンが詰め掛ける東京の劇場では、守衛(日守新一)が、今夜はお二人ともずっと練習なのでもう出て来ないと押し返していた。

そこに、地方から上京して来たらしい、弱木紋太と名乗る一人の青年(小月冴子)が守衛に向い、スターの春海渚に会いたいと言う。

しかし、守衛には、そんな名前には心当たりがなかったので、所属タレントの名札を再確認している隙に、弱木はさっさと劇場内に入り込んでしまう。

その頃、当の春海渚(曙ゆり)は、劇場内の奥で、友人に退職の挨拶をしていた。

彼女は、ミッキーに憧れて歌劇団の研究生の試験を受けに、1年前に長崎から上京して来たのだが、見事に試験に落ち、その後は、劇場の案内係として働いて来たのだが、もうその仕事にも見切りをつけ、故郷に帰る事にしたのだ。

そこに支配人が近づいて来て、彼女に退職手当てを渡す。

舞台ではミッキーの練習が続いており、友人に勧められて、自分にとって最後のミッキーの姿を目に焼きつけようと、渚は、劇場のドアから中の様子を覗きはじめる。

舞台上では、客席から上がろうとした太った演出家(岸井明)が転んで立ち上がれなくなり、それを起こそうと、演出助手たち(殿山泰司、望月美恵子、高屋朗)が助け起こそうとするが、なかなか巧く行かない。

何とか立ち上がった演出家は、ミッキーとタッピーには客席で休息するように言い、残りの役者たちには、君たちが今演じているのは悪魔なんだから、十字架と鐘の音には、もっとおびえる演技をしてくれと注意を与えていた。

やがて、渚の元に近づいて来た同僚が、ファンからミッキーへのプレゼントを渡されたと持って来る。

それを見た友人は、最後なんだから、あなたが直接ミッキーに手渡して来たらと勧める。

思わぬ幸運に喜んだ渚は、そのプレゼントを持って、客席で休憩していたミッキー(秋月恵美子)に手渡そうとすると、礼を言われた後、すまないが、これはボクの部屋に持って行ってくれないかと頼まれる。

そんな劇場内を、先ほどの弱木という青年が、まだ春海渚を知らないかと探し回っていた。

ミッキーの部屋にプレゼントを持って行く途中の渚は、友人の翠(津島恵子)に出会う。

翠も、渚と同じく研究生の試験に落ちて、今は、衣装部で働いていたのだった。

ちょうどタッピーの衣装を縫っている所だと言う翠の部屋に立ち寄った渚は、実は、故郷には、自分がスターになっていると言う嘘の手紙を出していた事を告白する。

その後、憧れのミッキーの部屋に入った渚は、そこにかけてあったミッキーが着る白いタキシードを見て、私の王子様ミッキー…と囁きながら、その衣装に手を触れてみるのだった。

弱木は、練習中の舞台にまで近づいて来て、図々しくもたまたま側にいたタッピーにまで、スターの春海渚を知らないかと聞く始末。

しかし、彼女も、そんな名前は知らなかったので、その後、衣装を届けに来た翠に、春海と言う人物を知らないかと聞いてみる。

翠は、先ほど出会ったばかりの春海みちえの事ではないかと考えるが、何故、タッピーが聞くのか分からなかった。

ちょうど、ミッキーの衣装も必要だと分かったので、渚がいるはずの部屋に取りに戻り、彼女に確認しようとする。

その頃、ミッキーの部屋では、その渚が憧れのミッキーの白いタキシードを勝手に着て喜んでいた。

一方、弱木は、駆け付けて来た守衛に取り押さえられそうになるが、自分は彼女の許嫁なんだと言って逃げ去る。

ミッキーの部屋にやって来た翠は、ドアを開けようとして、中から鍵がかかっている事に気付き、中の渚を呼び掛けてみる。

その声に気付いた渚は、自分が勝手にスターの衣装を着ている事を知られたくない一心で、狼狽しはじめる。

やがて、演出助手たちもその部屋の前にやって来て、何とか、ドアを開けようとし始める。

渚の名を呼ぶ声に気付いて近づいて来たのは弱木だった。

みんなが力を合わせて、無理矢理ドアを開けそうになったので、中にいた渚は逃げ場を探し、空いていた窓から外に逃げ出す事を思い付く。

翠らが、ドアを破って中になだれ込んで来た時、部屋の中はもぬけの殻だった。

その窓の外で、白タキシード姿の渚が必死に建物にしがみついていようとは誰も気付かなかった。

やがて渚は、足を滑らせて墜落してしまう…。

時計は夜中の3時を示していた。

渚は、何だか雲の中にいるようだった。

突然目の前に出現した三人の中国人のような衣装を着た不思議な人物に手招かれて、そちらに向うと、大きな扉が開き、その向こうには、故郷の長崎の街が広がっていた。

さらに不思議な事に、「ナギー!」と声をかけながら、彼女を出迎えている大勢の娘たちの姿があった。

「ナギー」とは誰の事かと戸惑う彼女に、娘たちは、あなたが私たちが憧れの王子様ナギーじゃないですかと言うではないか。

そんな歓迎する群集の中に、渚は、チャイナドレスを着た幼馴染みの李花(リーフォア、紅朱実)を見つける。

彼女が共なっている青年は、許嫁のワンルウ(王龍、勝浦千浪)だと言う。

街を挙げて、ナギーの歓迎会の用意がしてあると、李花と共に馬車に乗せられた渚だったが、一緒に付いて行こうとした王龍は、今日は女だけのパーティだからダメだと李花に言われ、渋々その場に居残る事になる。

そこへ駆け付けて来たのは、弱木だったが、王龍に追っても無駄だと制止される。

馬車に乗って街を行進する渚は、同乗の李花から、ナギーはこの街全部の憧れだと賞賛される。

王宮に到着した渚だったが、空の雲に上に乗っていた二人の悪魔(殿山泰司、望月美恵子)が、雲の切れ端をちぎって下界に落とすと、それは途中で「退職手当て」の用紙に変化する。

それを拾った王龍は、そこに「案内係 春海渚」と書かれているのを見て、あいつはスターなんかじゃなく、ペテン師だといきり立つ。

それを見て喜んだ、雲の上の二人の悪魔は飛び去って行く。

王宮では、メルヘンランドからやって来た王子と王女様に対し、歓迎の舞踏会が始まる。

こんどは、その王宮の中に、女に化けて潜り込んだ悪魔二人は、二足の靴を出現させる。

その靴を見た渚は、この靴をはける人は、私の愛しいシンデレラだと言い出したので、娘たちが我れ先に履いてみようとする。

二人の娘が二足の靴を履ける事が分かり、その一人は李花であり、もう一人は渚も良く知る翠だった。

しかし、翠が、私と一緒に帰ろうと渚に迫って来たので、渚は翠を突き放すと、李花の方をシンデレラに決定する。

その李花が、渚に十字架をプレゼントしてキスをかわした瞬間、それを見ていた悪魔二人は消え失せてしまう。

そこへ、弱木と共に駆け付けて来た王龍が、その渚は偽者だと言い出す。

それを聞いた群集たちは騒ぎ出すが、翠と弱木は必死に渚を弁護しようとする。

それでも、その場にいたたまれなくなった渚と李花は、王宮を逃げ出して森の中に逃げ込む。

森の中では、道を進もうとすると、次々と大きな岩が立ちふさがり、二人の進路を妨害しはじめる。

やがて、一つの岩が倒れると、その奥に道が続いており、そこを進んで行くと、悪魔のような顔を持つ寺院に到着する。

そこには「南蛮お化け寺」と書かれてあり、渚だけが入口に吸い込まれてしまう。

彼女が首にかけていた十字架は取れてしまい、それを拾った李花は呆然として外に立ちすく須だけだった。

渚は、何かに引っ張られるように、寺の奥に吸い寄せられ、やがて彼女の前に、悪魔の軍団が出現する。

その中核にいたのは、太った演出家そっくりの大和尚(岸井明-二役)、そして演出助手たちにそっくりの三人の悪魔、陰智己(インチキ-望月美恵子)、頓智己(トンチキ-殿山泰司)、変智己(ヘンチキ-高屋朗)だった。

一方、寺の前で立ち尽くしていた李花の元にやって来たのは、王龍と弱木の二人。

王龍は、李花と渚の仲を疑っていたが、李花の口から、渚は幼馴染み、本当に好きなのはあなただけと抱きつかれたので、渚に対する気持ちが誤解だった事を知り、素直に謝罪するのだった。

李花は、手にした十字架を握りしめながら、渚を助けてくれるよう神に祈る。

その頃、大和尚と三人の悪魔たちは、テーブルに座った渚に、ネムリボンボンとか夢納豆と言ったおかしなお菓子を盛んに食べさせようとしていた。

それでも、渚が食べようとしないのを見て取った和尚は、それでは特別製の菓子「オンムータン」を差し上げようと、皿を出現させるが、そこには何も乗っていないように見えた。

その見えない菓子を、インチキとトンチキコンビが、大きなナイフとフォークで切り分けようとする。

二人がもたもたしている内に、偶然にも、そのナイフとフォークが交差し、十字架の形になってしまったので、二人はびっくりして身を引いてしまう。

ヘンチキが、すぐに、その形を崩したので無事だったが、その様子を見ていた和尚は、二人のとんまな悪魔に、我々は十字架と鐘の音は御法度じゃと叱りつける。

和尚が、渚に壺の中を覗くようにすすめると、その中に、渚が憧れるミッキーとタッピーの姿が写っていた。

いつの間にか、渚は、ミッキーと同じ白のタキシード姿になっていた。

さらに、和尚は、お前の夢を叶えてあげるから、その代わり、わしの言う事も聞いてくれるな?と渚に問いかける。

そして、インチキとトンチキの二人が、壺を横たえると、その口から光がほとばしり、渚の影が壁に大きく映し出される。

和尚は、その影法師をくれと言うのだ。

その提案を渚は考えていたが、壁の影法師の方が、私はいやよと拒否のポーズを取るではないか。

しかし、和尚は、インチキとトンチキに、影を切取ってしまえと命じる。

二人がもたもたして、影を切れない事を見ると、和尚自らハサミをとって、あっさり、渚の影法師を切りとってしまう。

その途端、渚は倒れてしまい、悪魔たちが、その周囲を取り囲んで踊り出す。

渚が気が付くと、壁には巨大な帆船の影が写り、その船上では、セーラー服の娘たちが踊っていた。

その船の中に入って見た渚は、とある船室の壁にかかった額の中で、ミッキーとタッピーが踊っている姿を発見し喜ぶ。

さらに、二個のシャンパングラスの縁の上でも、ミッキーとタッピーが踊っているではないか。

和尚は、女の子の夢は、夢のエキスじゃと意味ありげなセリフを吐いていた。

やがて、渚は、目の前で踊るミッキーとタッピーを見かけたので、嬉しくなって、自分のその踊りに加わると、いつの間にか、ミッキーとタッピーは、悪魔の姿に戻っていた。

その頃、和尚の目の前では、悪魔が次々に若い娘の体を、湯気が立ち昇る大きな壺の中に落とし込んでいた。

女の子の夢のエキスでスープを作ってたのだ。

和尚は、途中で味見を所望し、料理番の悪魔が持って来たスープをすすってみる。

やがて、横に控えていたインチキとトンチキも勝手に味見に参加していた。

そんな所に、口がチャックになったヘンチキが駆け付けて来て、何か慌てている様子なので、口のチャックを開いてやると、曲者だと言う。

和尚と、インチキ、トンチキが着飾って応対に出てみると、そこにいたのは翠と弱木で、翠は渚ちゃんを返してくれと言う。

しかし、和尚は、総本山の指令がないと言う事を聞けないなどと答えながらも、二人を奥へ連れて行くように、インチキとトンチキに命ずる。

ただの岩かと思われた部分に、インチキがチョークで四角く線を引くと、あっという間にそこが入口になった。

その中に入った翠と弱木は、そこに何人もの先客がいる事に気付く。

そこにいたのは、悪魔に魂と影を奪われた、プラーグの大学生、ジギルとハイド、カリガリ博士、眠り男セガール、ドリアン・グレイ、「20の扉」の声の人物、森の石松、金色夜叉のお宮…らだと言うではないか。

その窓から見ると、その向こうの部屋で踊っている渚も、もうすぐここへ入れられる身なのだと言う。

その渚は、翠と弱木の姿に気付く。

部屋に幽閉されていた者たちは、まだ影がある翠と弱木を、そこから逃してやろうと、机を積み重ねて天井への抜け道を作ってやる。

それを昇って逃げる二人に、和尚の持っている払子(ほっす=獣毛や麻などを束ねて柄をつけたもの)にだけには気をつけろと影のない者たちは忠告するのだった。

一方、渚の方は、和尚に、夢を叶えてくれるなんて言っておきながら、踊っていたのは本物のミッキーとタッピーじゃないじゃないかと抗議していた。

それでも、和尚が聞かず、自分の影を運び出そうとしたので、私の影を食べないでくれと命乞いをする。

そんな所に、こうもり傘を使って、岩上に逃げていた翠と弱木が舞い降りて来る。

そして、和尚の魔力の源である払子を奪い合う。

やがて、みんなの手から離れた払子は、居眠りをしていたヘンチクの口の中に刺さってしまい、やがて、ヘンチキ自身が、巨大な払子に変身してしまう。

そして、渚、翠、弱木の三人に迫って来る。

その時、大きな鐘の音が響き渡り、見ると、寺の入口に集まった大勢の娘たちが、手に手に鐘や十字架を持って侵入しようとしているではないか。

その先頭に立っていたのは、王龍と李花だった。

しかし、払子人間が毛の房のある頭を振ると、急に鐘が鳴らなくなる。

さらに、入口の両側から炎が吹き出して来たので、王龍たち援護軍は中に入れない。

ところが、ヘンチキの癖が出たのか、払子人間はその内、又居眠りを始める。

王龍たちは、勇気を奮って捕まっている渚を救い出そうと、みんなを鼓舞していた。

何度か、入口の侵入を試みる内に、払子人間の術が効かなくなったのか、全員、中になだれ込む事に成功する。

和尚と三人の悪魔の上には、巨大な鐘が落ちて来て、その体を封じ込めてしまう。

中の和尚いわく「これが本当のかね詰まり」

そして、その鐘は大爆発を起こして消滅してしまう。

その衝撃で、又、建物から墜落した時のように、渚の冠っていた白いシルクハットが宙を飛ぶ。

気が付くと、渚は、ミッキーの部屋のソファーで、翠から起こされていた。

驚いて、洋服掛けを見ると、ミッキーの白いタキシードが何事もなかったかのようにかかっている。

部屋の奥では、憧れのミッキーとタッピーが、そろってメイクをしている所ではないか。

窓の外はもう朝だった。

許嫁の弱木も側にいた。

何もかも夢だった。渚はスターになる夢を見ていたのだった。

そんな渚に、翠は、あなたには新しい夢が待っているじゃない、結婚と言う夢が…と伝える。

弱木も、いつまでも君は、僕のスターなんだと慰める。

窓から、外に並んだその日の客を見ながら、翠は、誰しもみんな夢を見たいのよと呟く。

そこに、演出助手の二人(殿山泰司、望月美恵子)がやって来て、開演の時間が北と二人のスターに知らせる。

やがて、舞台が始まり、着物に着替えた渚と弱木も、今度は客席からいつまでも見つめていた。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

東西松竹歌劇団総出演で贈る、川島雄三監督の珍しいレビュー映画。

全編、アニメや特撮をふんだんに使用したファンタジー仕立てで、歌と踊りとファンタジーの組み合わせは、松竹歌劇団版「狸御殿」と言った所だろうか?

長崎=南蛮風イメージと言うメルヘン発想なども、なかなか乙女チックで、楽しい作品になっている。

妖怪たちのイメージは、岸井明(エノケン版「孫悟空」の猪八戒役)が出ている事もあってか、「西遊記」を連想させる。

インチキを演じている望月恵美子以外の悪魔たちや劇場の支配人、守衛などは男が演じているが、主要な役所は、ほとんど女性が演じている。

次々に出て来るアイデアも豊富で、国産ファンタジー映画としてはかなり出来が良い部類だと思う。

殿山泰司が、こんなファンタジーに出ていると言うのも珍しいが、その殿山が、岩の表面にチョークで四角く線を描くと、その線がそのままドアになって開くと言った昔のアニメ風アイデアや、ヘンチキの口がチャックで財布のように開け閉めができると言う特殊メイクのアイデアも愉快である。

合成シーンもなかなか見事で、特に、ミッキーとタッピーが、シャンパングラスの縁で踊ると言うシーンは印象的。

特撮ファンタジー映画としては、ほとんど知られていない作品だと思うが、これはかなりの掘り出し物だと思う。