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月と接吻

1957年、東京映画、中野実「女優と詩人」原作、新井一脚本、小田基義監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

浜辺の横の道を歩く警官(沢村いき雄)が、女性の悲鳴を聞き、その声が聞こえる家を覗き込む。

「ちくしょう!良くもあんな男と…」と言いながら、ナイフを持って迫る青年(佐藤允)の姿を前にして「誰か来て〜!」と室内で絶叫していたのは、女優の千絵子(淡路恵子)だった。

その直後、側で聞いていた演出家が芝居を止めて、次の二幕目はラブシーンだと、二人の俳優に指示を出す。

庭先では、芝居と分かった警官が、エプロン姿で洗濯物を干している男を書生と思ったのか、感心したように声をかける。

ここの女優の御主人は二ッ木月風(げっぷう)と言う詩人だそうだが、どんな詩を書いているのかと言うのだ。

聞かれた男は、即興の詩をそらんじて、こんな下らん詩を書いている人ですよと答えるが、奥から月風を呼ぶ女優の声に返事をしたのが、その男だったので、自分の早合点に気付いた警官は、バツが悪くなり、逃げるように立ち去って行く。

恋愛シーンが終わり、どうも自分はこういうラブシーンが苦手だと告白していた千絵子他のメンバーたちが応接室で休息している。

呼ばれてやって来た月風(三木のり平)に、タバコのピース二箱、パール一箱、そして、女優の一人が焼き芋屋を来る途中で見つけたので、それを買って来てくれと注文する。

千絵子は、注文をきちんと覚えたのか確認すると、自分は二幕目の練習が終わったら出かけると伝える。

注文されたタバコと焼き芋の事を台所で復唱していた月風は、またまた閃いたのか、石焼き芋ホカホカホカ…と、即興で口走りながら外出するが、そこに引っ越し屋のトラックが荷物を降ろしているのを見つける。

どうやら、その側に立っている新婚の二人(逗子とんぼ、恵ミチ子)が、近所に引っ越して来たらしい。

さっそく、引っ越しは甘いか辛いか塩っぱいか…、エッサカエッサカ狸の引っ越しポンポコポン…などと、即興の詩を二、三思い付いた後、向いの家に住んでいるものだと挨拶をし、この辺の事情には精通しているので、何でも分からない事は聞いて下さいと申し出た月風に、若い二人も感謝する。

その後、母親と一緒に歩いて来たアッちゃんと言う子供からもバカにされ、タバコ屋にたどり着いた月風が、その引っ越しの事をちょっと話すと、女主人のお浜(都家かつ江)は、タバコを売る事より、その引っ越して来た新婚が電気製品を持っていたかどうかに興味があるらしく、しきりに月風に聞いて来る。

月風が曖昧な返事をするのに業を煮やしたお浜は、自分で確認して来ると店を飛び出して行ってしまう。

あっけに取られ、勝手にタバコを取り出していた月風に、二階から声がかかる。

この家に下宿している梅童(千葉信男)だった。

タバコを二、三箱持って来てくれと言われるまま、階段を登りかけた月風だったが、二階の入口におかしな扉が付けられている。

これは何だと聞くと、下のうるさい婆さん対策だと言う。

客に注文されたピースを二箱持っていた月風から、勝手にタバコを抜いて吸いはじめた梅童は、現在、借金で首が回らなくなり、下宿代を何カ月も払えない状態らしい。

その頃、引っ越しが済んだばかりの新婚家庭では、妻がピアノを弾きながら唄いはじめ、それを夫が幸せそうに眺めていた。

やがて二人がキスをかわしたので、その様子を窓からこっそり覗いていたお浜も、さすがに目を覆ってしまう。

一方、月風が持っていた焼き芋を、これ又無断で全部平らげてしまった梅童は、会社はどうしたと月風から聞かれ、あっさり先月辞めたと答えていた。

これからは、作家に専念するつもりで、取りあえず雑誌「オール大衆」が募集している、賞金50万円の大衆小説用に書こうと思っていると言う。

その夜、帰宅後、早速好きな競馬の予想を始めようとしていたお浜の亭主金太郎(昔々亭桃太郎)は、珍しく、いそいそと酒の支度をしていたお浜から、近くに引っ越しして来た新婚家庭が、まだ何も電気製品を持っていないようなので、あんたの商売のチャンスかも知れないと教えられる。

金太郎は、電気製品のセールスマンだったのだ。

一方、遅く家に帰る事になった月風の方は、「11時頃まで稽古なので、夕食は一人で食べておいて下さい」と書かれた千絵子の置き手紙を読み、一人で夕食の準備をして食べかけていたが、そこにやって来たのが、お浜だった。

一緒に夕食を食べに来ないかと言うのである。

誘われるまま、タバコ屋に向う月風だったが、お浜は、ちゃっかり月風が作っていた夕食を全部持って行ってしまう。

お浜が自分で用意していたのは、ビールとスルメだけだったのだ。

それでも、ビールを勧められた月風は、お浜から先生と持ち上げられるまま、金太郎の前で、又、例の新婚家庭に電化製品が何もなかったと思うと言う話を繰り替えさせられるのだった。

そんな様子を二階からうらやましそうに覗いているのは梅童。

お浜は、月風同様、もうすっかり酒が回っていた金太郎に、今すぐにセールスに行けとせかす。

さすがに、いくら何でも今からでは…と、躊躇した金太郎だったが、お浜の押しの強さには負け、渋々、又、洋服に着替えると、新婚家庭の家に出かけるはめになってしまう。

梅童のいる事に気付いた月風は、酔っていた勢いもあり、一緒に飲もうと誘い掛ける。

九カ月も家賃を払ってくれないのに…と、明らかに迷惑顔のお浜を差し置いて、無遠慮な梅童は、すぐに降りて来ると、月風に注がれた酒を嬉しそうに飲みはじめる。

酒がなくなると、お浜に買って来いと命ずる月風は、日頃の彼とは別人のような横柄さだった。

新婚家庭に勝手に入り込んだ金太郎の姿を発見して戸惑う新婚二人に、自分は花島と言うものですと挨拶した金太郎だったが、電気製品はお持ちですかと聞き、相手が何も持ってないと言う事を聞き出すと、さすがにそれ以上話を進めるのは気がとがめたのか、遠慮してすぐに帰ろうとし始める。

しかし、新婚夫婦の方から、何か話があって来られたのではないかと止められ、仕方なく、おずおずと、自分は電気製品のセールスをやっているので…と金太郎が切り出すと、あっさり新婚二人は、この際、全部まとめて購入しようと、その場で話がまとまってしまう。

タバコ屋では、月風と梅童がすっかり出来上がっていた。

日頃から、金太郎とお浜の力関係を知っている梅童は、酒を飲んでいる最中に追い出されてしまった亭主金太郎が哀れだと同情する。

月風も、日頃、女房の尻に敷かれっぱなしで、バカにされている境遇を嘆いてみせる。

そこに金太郎が意気揚々と帰って来て、どうだった?と尋ねるお浜に、どうって事はなかった。全部一挙に契約をまとめて来た。俺の力を甘く見るなと威張り出す。

それを聞いた月風と梅童も大いに盛り上がり、男は自由である!亭主は自由である!と声を合わせるのだった。

その頃、千絵子は、「私の胸を触って…」とセリフを呟きながら一人、夜道を帰って来ていた。

すれ違った警官は、そのセリフを聞き、思わず立ち止まってしまう。

千絵子は、月夜の海岸で寄り添い合う人影を見つけ、何気なく立ち止まる。

その人影は新婚の二人だった。

月を観ながら妻は、あまりに幸せすぎるので、これから先の生活を想像すると怖い。死にたいなどと口走っている。

蜻蛉は一日で死ぬと言うから、一緒に死んでと夫に甘えかかる。

そんな甘い会話を聞いてしまい、思わず胸が熱くなった千絵子が自宅まで来ると、玄関先で月風が寝ているではないか。

起こそうとすると、バカにするな!男は自由だ!とクダを巻く始末。

そんな月風の様子を観ていた千枝子は、ちょっと寂しそうな表情を見せる。

翌朝、応接室で目覚めた月風は、夕べの失態を思い出すと、慌てて千絵子の寝室を覗きに行き、すぐに謝ってしまう。

しかし、その言葉を聞いた千絵子は、「きらい!そんなの、ここへ来て」とベッドに誘うが、怖じ気付いた月風は、勘弁して下さい。お食事の準備をしなくてはなりませんから…と、いつもの召し使い口調になって、台所へ逃げてしまう。

そんな亭主の情けない姿を観た千絵子は、ベッドの中で泣きだしてしまう。

台所の勝手口から入って来た酒屋の御用聞き(谷晃)は、エプロン姿で朝食の準備をしていた月風に、女優を女房にすると大変ですねと同情してみせるが、月風はソースを注文しながらも、バカにするなと怒ってしまう。

そこへ「私の胸を触って…」と、今日の舞台に間に合うようにセリフを言いながら起きて来た千絵子に、現実的な応対をした月風に、現実的ね!私はお向かいの新婚さんがうらやましいと嘆く千絵子。

その後、千絵子に言われるがまま、台本の相手セリフを読まされる事になった月風が棒読みで応対すると、千絵子はもっと気分を出して、優しく言ってと、苛立たしそうに注文を出して来る。

しかし、月風の方は、朝食の準備を平行しながらやっているので、今一つ台本に集中できない。

それでも、どうにか、月風が「とうとう二人きりになりましたね」と言うと、千絵子が「私の胸に触って…」と答え、ようやくムードが高まって来た所に入って来たのが、ソースを持って来た酒屋の御用聞きだった。

一方、タバコ屋のお浜の方は、朝は役から様子を見に行っていたらしく、新婚夫婦の家の戸がまだ閉まっていると金太郎に報告すると、早く問屋に注文しておけと催促していた。

梅童は、とうとうタバコ屋を追い出されたようだった。

月風と千絵子は、まだ抱き合って恋人同士の芝居を続けていたが、そこにやって来たのが梅童だったので、恥ずかしがった千絵子はその場を逃げ出してしまう。

梅童は、月風に、タバコ屋を追い出されてしまったので、ここの二階にでも置いてくれといきなり切り出して来る。

あまりに唐突な願いに戸惑った月風が、返事を躊躇しているのを見て取った梅童は、何も、奥さんに相談する必要はないだろう。君はここの家の主人なんだからと畳み掛けると、月風もそれ以上反論する言葉をなくしてしまう。

相手が返事をしないのを、すっかり居候を承知してもらったと勝手に解釈した梅童は、ちょっと家財道具を取りに戻ると言い、タバコ屋へ戻って行く。

ちょうど、電気製品を山積みにしたトラックが到着していたタバコ屋の前に置かれていたミカン箱を持って帰る梅童。

その頃、梅童が居候する事になったと言う事実を知った千絵子は激昂していた。

しかし、月風は、梅童がタバコ屋を追い出された原因の一端は自分にもあるし、この俺を頼って来てくれた友人の頼みを断わる訳に行かないじゃないかと抵抗する。

主人としての威厳を示したい月風だったが、この家の家賃を払っているのは千絵子の方だったので、今一つ、言葉に力がない。

そんな夫婦のもめ事も知らず、独り道をやって来ていた梅童は、警官とすれ違った際、今度、月風の所に移る事になったのでよろしくと挨拶していた。

そんな梅童は、新婚風雨の家の前に停まった電気屋のトラックと、家の中を覗き込んでいる野次馬を発見する。

月風と千絵子の夫婦喧嘩はまだ続いており、あんたの友達は皆ピーピーばかりだし、居候の穀潰しなんか置いておけない。第一あんたの詩の原稿なんか、クズ屋しか買ってくれないわよと息巻きながら、とうとう月風をぶってしまう千絵子。

そこに戻って来たのが梅童で、取っ組み合いの喧嘩になっている二人を観て、又、芝居の稽古と思い込み、その場に座ってのんきに見物し出す。

さらに、警官もやって来て、最初は喧嘩じゃないかと止めようとするが、梅童に芝居の稽古ですよと諭されると、納得したのか、一緒に見物を始める。

そんな二人に気付いた千絵子は、慌てて奥に逃げ込んでしまうし、ぼろぼろの姿になった月風も、これは本当の夫婦喧嘩なんだと恥ずかしそうに伝える。

一方、タバコ屋のお浜の元に帰って来た金太郎は、あの若夫婦が心中していたと報告する。

月風から、喧嘩の原因が自分だったと知らされた梅童は、さすがにちょっと反省するが、そこに着物姿に着替えた千絵子が戻って来て、一緒に家を出ようと仕掛けた二人に、ここにいて欲しいと呼び止める。

タバコ屋では、あまりの展開に興奮したお浜が、金太郎の胸ぐらをつかんでいた。

千絵子は、自分は今、梅童さんに感謝しているのだと意外な事を言い出す。

月風にぶたれたのが嬉しくなったのだと言う。

この家の主人はこの人だと言う事が今ようやく分かったと続ける千絵子の言葉を聞いていた梅童は、いづらくなったのでと言いながら、さっさと二階に登って行ってしまう。

月風の方も、ごめんね、どっか、痛い所なかった?と優しく千絵子に尋ねながら、僕は、どんなに港なる事を待ち望んでいたかと呟くのだった。

甘いムードになりかけた二人の前にやって来たのは、お浜だった。

実は、月風に紹介してもらった新婚夫婦が、今朝方、自殺したと騒ぎになったのだが、実は、前夜、遅くまで愛を語らっている内に眠れなくなり、二人揃って睡眠薬を飲み過ぎただけだった事が判明し、結局、電気製品は全部売れたとお礼に来たのだった。

ひとくさり亭主の悪口を並べたお浜は、すぐに帰って行く。

私たちもロマンチックで行きたいわね…と千絵子が月岡にしなだれかかった所に戻って来てたのが又お浜で、さっき土産として持って来たお土産を、置かずに持ち帰りかけた言い、土産を置くと、又、慌ただしく帰ってしまう。

さすがに、月風も千絵子も苦笑いするしかなかった。

その夜、久々に浜辺に出てみた二人は、月を見上げてロマンチックな気分になる。

月風が、とうとう二人きりになったね…と心底言うと、千絵子も又、私とっても幸せだわ…と、はじめて本当の気持ちを口に出すのだった。

その日も道をやって来た警官が、そんな二人を遠くから見つめていた。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

上映時間49分の中編作品ながら、のんびりとしたユーモアの中に夫婦の機微を描いた、なかなかの好作品になっている。

登場人物は少ないながら、正に適材適所と行った感じの絶妙のキャスティングで、どの登場人物も生き生きと描かれている。

亭主を一方的にリードしているお浜、金太郎夫婦と、千枝子、月風夫婦に、新婚ホヤホヤの若夫婦の存在がちょっと波風を立て…と言う軽いラブコメ仕立てになっているのだが、嫌味がなくて楽しい展開になっている。

後味も悪くない。

とにかく、ヘナヘナした男を演じさせたら右に出るものがいない感じの三木のり平と、図々しい生活無能力者を演じる千葉信男が愉快。

新婚夫婦の夫を演じている逗子とんぼも懐かしい。

都家かつ江の亭主を演じている昔々亭桃太郎と言う人ははじめて観たが、当時人気があった落語家さんのようだ。

今はほとんど見かけなくなってしまった「なんて事はない日常ドラマを描いた映画」の好見本のような作品ではないだろうか。