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天使も夢を見る

1951年、松竹大船、藤沢恒夫原作、伏見晁脚本、川島雄三監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

4番バッターでキャプテンの淀川良平(鶴田浩二)やピッチャーの太田黒英夫(佐田啓二)ら、サクラ製薬の野球部がグラウンドで練習をしている。

そこへ、専務の泉田仙之助(小林十九二)がやって来て、グラウンドの調子はどうかと聞いて来る。

専務は野球に理解があるのだが、社長が嫌いなので、何かとクラブの維持が大変だと言う。

淀川ら野球部員たちは、そんな社長を狸の置き物め…と、あだ名で呼ぶ始末。

専務は、社長に判子をもらう伝票を良平に渡すと、今日の宿直を頼むと言いおいて帰る。

サクラ製薬では、病気療養中の社長の葉山の自宅に、毎日、社員が一人、交替で宿直に行くと言う奇妙な習慣があったのだ。

その後、又、練習を再開しようと言う事になり、太田黒は打つ番になるが、ライトオーバーのフライを打ち上げてしまう。

そのボールを追って行った良平は、グラウンドと隣接している隣の家の庭に近づいてしまう。

そこの畑には、美しい娘がおり、飛んで来たボールが大きく育っていたトマトの茎を折ってしまったと言う。

良平は恐縮し、弁償させてくれ、今度、代わりの苗を持って来るからと申し出るが、娘は別に怒ってはいないらしく、そんな事を心配してもらう必要はないと断わりながら、ボールを返してくれるのだった。

その後、練習帰りの道すがら、良平は大田黒に、今日は思わぬ拾い物をしたと告白する。

何の事かと聞く大田黒に、美人さ、奴らには黙っていてくれと、口さがない他のメンバーたちの事を目で示すのだった。

バス停前で、他のメンバーと分かれ、電車に乗り継ぎ葉山の社長宅に到着した良平は、門の前で、背広を着てネクタイを首にかけると、中に入って行く。

座敷で待っていた社長(河村黎吉)に御機嫌伺いをした良平だったが、社長は遅かったなと不機嫌そう。

野球の練習をやっていたのでと言うと、又「まり叩き」かと呆れたような社長は、きっぱり、自分は好かんが会社の宣伝になると言うからやらせているだけなのだと答える。

その後、持って来た帳簿の確認ををしていた社長は、野球に12万円と言うのは何だと聞いて来るが、それはグラウンドの修理代と答えると、又、社長は不機嫌そうな顔になる。

慣れぬ正座で足が痺れてしまった良平は、もう下がって良いと言われて立ち上がろうとした時、よろけて醜態を見せてしま、社長から、あんた、中風のケがあるのか?そんな体で良く「マリ叩き」やっているなと皮肉られてしまう。

大きな狸の置き物がおいてある「狸秋庵」と名付けられた奥座敷を出た良平の前に現れたのは、外出から戻って来たばかりらしい社長令嬢の禮子(津島恵子)だった。

禮子は、空腹だと言う良平にピンチヒッターになって欲しいと言いながら、食事を部屋まで持って来るように女中の竹子に言い付けると、二階の自室に引っ張って行く。

ピンチヒッターとは何の事だと聞く良平に、禮子はハムレットの本を見せる。

意味が分からない良平だったが、彼女はその中に挟んでいた「東劇」の切符を見せる。

一緒に映画に行ってくれと言うのかと聞く良平に、禮子は、向こうで一緒になって欲しいのだと奇妙な事言い出す。

実は、映画にはもう独り同伴者がおり、それは自分に結婚を申込んで来たオリンピック製薬の若社長なのだが、自分は大嫌いなので、映画館で偶然出会った振りをして、相手に嫌われるような事をして欲しいと言うのであった。

しかし、良平は、そんな申し出をきっぱり断わる。

翌朝、女中に、泊まった良平を起こすように命じた社長だったが、もう起きていると聞くと、自分の日頃の教えが良かったと自己満足。

その良平は、禮子に見つかる前に帰ろうと急いでいたのだが、女中の竹子が前の宿直だった伊藤(磯野秋雄)に渡してくれとハンカチを託す。

しかも、手紙が添えてあるので中を見ないで…と恥ずかしそうに言うので、そのまま受取って、一旦玄関から帰ろうとするが、思い返して、部屋の窓から抜け出す事にする。

海岸までやって来た良平だったが、禮子の方が上手だったようで、先回りして彼を待っていた。

ピンチヒッターとしてではなく、レギュラーとして最初から一緒に映画に行ってくれと言い出したので、もはや良平に断わる理由は見つからなかった。

東劇では、オリンピック製薬の社長宮脇榮之助(細川俊夫)が禮子を待ち受けていた。

そんな二人が出会う様子を、少し離れた所から観ていた良平は、宮脇の顔を観て、何かを思い出したように、近づくと、打合せ通り、禮子を間に挟む形で、宮脇と一緒に映画「純白の夜」を観始める。

上映中、禮子の手を握ろうとした宮脇だったが、それを耳打ちされた良平は、持っていたグローブをバッグから取り出すと、それを暗闇の中で禮子の反対側に座っている宮脇に差し出すのだった。

観劇後、良平と禮子が約束があるのでと帰ろうとすると、宮脇は食事を予約してあるからと禮子を引き止めようとする。

それを聞いた良平は、それではお言葉に甘え…と言う事で、自分も一緒に食事について行く事にする。

その頃、良平が来ない事をいぶかしく思いながらも、野球部の練習がいつも通り行われていた。

そんな中、ボールを追って、隣の畑の所までやって来た大田黒に、声をかけて来た娘があった。

昨日、良平に声をかけた隣の娘川合夏代(幾野道子)だったのだが、その顔を観た大田黒は驚いてしまう。

大学時代、隣に住んでいた昔なじみだったからである。

大田黒は、戦争中、シベリアに抑留されていたのだが、復員した後、大森にあった川合家を探しに出かけたが、もはや出会えなかったと言う。

聞けば、二人暮しをしている母親は体を悪くして、今寝込んでいるのだと言う。

大田黒は、練習が終わった後、お見舞いに行くと言い残して、グラウンドに戻って行く。

一方、宮脇と禮子についてレストランに来た良平は、二人の手前、何の遠慮もなく、飲み食いをしていた。

さらに、やって来たウェイターに、トマトの苗を5、6本用意してくれと言い付ける始末。

練習後、約束通り、夏代の母親多津(坪内美子)を見舞いに来た大田黒は、昔散々世話になったお返しとして、これからは、自分がしょっちゅう元気づけに来ると申し出ていた。

多津は、大森の家も戦争で焼け、銀行に預けていた金も紙屑同然になってしまった今、身寄りがない自分達は将来に不安を感じていたと感謝する。

自分は今、製薬会社に勤めているから、薬は何でもあるから安心して欲しいと言う大田黒の言葉を聞いた多津は、何と言う会社かと聞く。

大田黒がサクラ製薬だと答えると、では、社長は泉田仙兵衛と言う人ではないかと言い出し、大田黒がそうだと言うと、何故か娘の夏代共々、急に押し黙ってしまう。

その二人の態度の急変を疑問に感じながらも帰宅する事にした大田黒は、トマトの苗を持って来た良平と畑でばったり出会う。

大田黒と一緒に帰り、バス停で、他のメンバーたちと合流した良平は、伊東に、竹子から託されていたハンカチを渡すと、目ざとく、そのハンカチに包まれていた手紙を見つけた他の仲間たちが、勝手にその場で読みはじめる。

そこには、心配だから六三型電車には乗るなと言う伝言と、お守りが添えられていた。

バスの中で、あの夏代とは昔から知り合いだった事を明かした大田黒は、キャプテンの良平が練習をサボったのはどう言う事だと聞いて来る。

社長令嬢の禮子と映画を観ていたと正直に話した良平だったが、実は君にも関係がある話だとと大田黒に打ち明ける。

寮に帰って来た二人は、同じ部屋に住んでいると言う事もあり、さっそく、大田黒のアルバムを見せてもらうと、はたして、戦争中の部隊の写真に宮脇の姿が写っていた。

大田黒と共にシベリア送りになった宮脇は、自分の保身の為に、仲間だった大田黒たちを裏切って、自分だけ楽をした卑怯者だったのである。

禮子に結婚を申込んだ相手が、その宮脇だと聞いた大田黒は、今日の良平の映画館とレストランでの行動を痛快事として喜ぶ。

翌日、出社した大田黒は、医務室の小林医師に電話を入れ、昼に伺うと伝える。

専務に、昨日の社長による帳簿点検の報告をしていた良平に、社長宅から電話が入り、宮脇が来ているので、今日、会社が終わった後、もう一度来いと父親が言っていると、禮子からの連絡がある。

今日も又、練習に参加できないと良平から聞いた他のメンバーたちはがっかりする。

その日、大田黒の方は、会社の専属医小林(長尾敏之助)を同伴して、多津の家に向う。

多津を診察した小林は、入院させた方が良いと判断する。

一方、葉山の社長邸にやって来た良平は、出迎えた禮子から、宮脇が昨日の顛末を父親に告げ口したので、自分の味方になって欲しいと聞かさた上で、社長に会いに行く。

さっそく、昨日の映画館での行動について聞かれた良平は、あれは、お嬢さんからわざと馴れ馴れしくしろと言われたからやったまでで、しかも、あの宮脇と言う人物は、シベリア抑留時代、人を陥れて自分だけが楽をした悪いやつで、大田黒は3年間その犠牲になった男である。だから、この縁談は断わった方が良いと、忌憚のない答えをする。

それを聞いた社長は、その歯に絹を着せずに言う態度にあっけに取られたようだが、さらに、禮子は君と一緒になる約束をしたそうだが本当かと聞くが、良平はとんでもないと反論する。

狸秋庵を出た良平を待っていたのは宮脇で、自分と禮子とは婚約者の間柄なんだが、君と彼女とはどう言う関係なのかと迫って来る。

良平は、君は大田黒と言う男を知っているか?君がシベリアで、仲間を裏切った卑怯ものだと言う事は分かっている。そんな奴が、禮子さんに結婚を迫れる資格があるのかどうか自分で考えてみろと、逆に攻め立て、これにはさすがの宮脇も沈黙するしかなかった。

その会話を部屋の外から聞いていた禮子は、屋敷を出た良平を追って来ると、痛快だったと感謝するが、良平は不機嫌そうに、君を見損なっていた。父親に大嘘をついたじゃないかと言う。

最初は、何の事か気付かぬ禮子だったが、自分と結婚の約束をしたなどと嘘を言った事を聞かされると、素直に謝る。

しかし、良平は、そんな天使のような顔をして…と呆れた様子。

その言葉を聞いた禮子は、そんな事を言われたのははじめて。光栄すぎて、気がさすくらいだと恥ずかしがるが、天使だって、たまには夢見る事があるのよ…と呟き、あなたは、そう聞いて来た父親にどう答えたのかと聞く。

それに対し、良平は、真っ平だと言ってやった。これは自尊心の問題です。自分は、出世のために社長の娘と結婚するような男は軽蔑する。今回の事は、全て、あなたのでまかせから起こった事なんだと言う。

そのあまりに強い調子に驚いた禮子は、すっかりしょげて、すみませんでした…と消え入るような口調で答えると、寂しげに家に戻って行くのだった。

寮では、伊藤らが陽気に「オースザンナ」などを唄って楽しんでいた。

それを聞いていた大田黒は、もう少し静かなやつにしてくれんかと声をかけて来る。

今まで、自分達の歌に注意をした事などがなかった大田黒の態度に、ちょっと仲間たちは驚いてしまう。

そこへ帰って来た良平は、着替えて自分の机の前に座ると、「天使も夢見る事がある」と便箋に書いてみるのだった。

そんな良平の様子を観ていた大田黒は、どうしたんだと声をかけるが、良平は答えず、お前は夏代さんと結婚したらどうなんだ、ピッタリじゃないかと話題を変えてしまう。

大田黒は、夏代のおふくろさんが過労から胸を悪くしており、入院を勧めたんだが、何故か、うちの社長の事を知っているらしく、それが原因なのか、言葉を濁してしまい話が進まないのだと打ち明ける。

それを聞いた良平も、何か訳がありそうだなと考え込む。

翌日、出社した良平は、専務に呼ばれると、しばらく野球部を止めようと思うといわれ驚く。

訳を尋ねると、社長直々の命令らしい。

昼休み、屋上で仲間たちと善後策を相談していた良平は、社長はおそらく、怒らせてしまった自分個人への腹いせから、野球部全体を止めさせようとしているのだと思うと打ち明ける。

それからしばらく、野球部の練習はなくなってしまい、夏代と多津は、隣のグラウンドから声が聞こえなくなったと不思議がっていた。

医者からもらった薬を飲みながら、多津は、入院を断わってしまい、大田黒さんにすまないとは思うが、夏ちゃんのお父さんの会社と分かってはね〜…と呟く。

父親と別れた時、それなりに十分なものは頂いているのに、今さら、こちらの都合で甘える訳にはいかないと言うのである。

それを聞いていた夏代は、それほど義理立てしなければいけないのかと疑問を口にするが、多津は、自分が意気地がないばかりに、夏ちゃんを日陰者にしてしまって…と謝る。

耐え切れなくなった夏代は、裏の畑に走り出て泣き出すが、そこに大田黒がやって来て、どうしたのかと訳を聞いて来る。

二人きりになった大田黒は、おばさんが入院を断わる理由が分からないんだが…と、正直な気持ちを伝えるが、それを聞いた夏代は、又泣き出してしまい、実は、サクラ製薬の社長泉田仙兵衛と言う人は、自分の父親で、20年間、別々に暮していたのだと告白する。

その頃、禮子は会社の野球部を止める事にした父親に猛抗議をしていた。

ムダな事やと言う父親に対し、最近、わが社の商品の売れ行きが伸びて来たのは野球部の活躍が宣伝になっているからであり、やめてしまったら、商品はぱったり売れなくなるに違いないし、良平も辞めてしまうだろうと言うのだ。

それでも、言う事を聞きそうにもない父親の態度を観た禮子は、もう生きている望みがなくなった。オフィリアみたいに、私も尼寺に行きたくなったと呟く。

そんな娘に、淀川の事が好きかと聞いた社長は、すぐさま大好きと言う答えを聞く事になる。

しかし、社長は、あかん、脈ないわ…と感想を洩らすのだった。

そんな所にやって来たのが、当の良平で、すれ違った禮子に社長が奥にいる事を聞くと、ずかずかと乗り込んで行き、社長は腹黒い狸だといきなり言い出す。

面喰らう社長に対し、良平は、野球は会社全員のリクレーションであり、宣伝にもなったと続けると、禮子もそう言ってたと社長は答える。

理路整然とした良平の意見を聞いていた社長は、自分は筋が通っている事は認める主義で、野球部廃止案は取り消すと言い出す。

それを聞いた良平は安心し、社長は物わかりが良いとおだて帰ろうとすると、そこへ大田黒まで来たではないか。

野球部の事なら円満になったと伝えた良平だったが、大田黒は自分は別の要件だと言うので、社長が話があるから待っておれと言う言葉を無視して、良平は部屋を出ると、玄関脇で出会った禮子にも、野球部廃止がなくなったと一方的に伝える。

何か自分の事を言ってなかったかと聞いた禮子だったが、良平が何もと答えて、さっさと帰ってしまったので、落胆の色を見せる。

大田黒の方は、社長に対し、例え話の形を借りて、夏代とその母親の窮状について話しはじめる。

そんな事は知らず、狸秋庵に近づいていた禮子は、つい外からその話を盗み聞きする形になる。

話を聞いていた社長が、その冷たい実業家とは誰の事だと聞くと、大田黒は社長の事だと言う。

そこで始めて、事情を悟った社長は、今さらしらを切るつもりはないが、自分には娘の禮子がいる。

父親としての体面も威厳もあるので、簡単に言い出せないのだと苦しい胸の内を見せる。

ただ、若い娘の気持ちもデリケートなので、お前が面倒を観てやれと大田黒に命ずる。

大田黒は、帰りかけた玄関で出会った禮子から、話を聞いていたと打ち明けられ、夏代の家を教えてくれと迫られる。

その後社長は、禮子の姿が見えないので女中の竹子に聞こうと玄関口までやって来るが、その竹子は、その日宿直で泊りに来る伊藤を迎えるため、入念に化粧をしていた。

二階の禮子の部屋にも行ってみた社長だったが、禮子の姿はなかった。

禮子は、川合家を訪れていた。

大田黒からこの家を教えてもらったと禮子から聞かされた夏代は、少し嬉しそうに迎える。

恐縮する多津や夏代に対し、今まで知らなかったとは言え、のんきに遊び暮していた自分が恥ずかしいと告白した禮子は、これからは姉妹なのだから、お姉さまと呼ばせてくれと夏代に申し出た上、これから父に言えない事は何でも自分に相談してくれ、自分の母親は、9つの時に亡くなってしまったが、今又母親に出会った気持ちだと言う。

そんな優しい禮子の言葉を聞いた多津と夏代は、思わず涙するのだった。

自宅で心配していた社長の元へ、その夜、禮子が一人で何事もなかったかのように戻って来る。

二階に登って行く娘の後をついて行った社長は、話があると言いながら部屋の中まで入って来て、迷いながらも、過去の事を打ち明けようとするが、禮子は自分はすでに聞いて知っている。実は今、夏代に会いに行って来たのだと打ち明ける。

今まで、黙っていた父親の事を腹黒いと責めた禮子に対し、社長は面目なさそうにすいませんと謝りながら、これも、お前の幸せを考えたればこその事だったのだと釈明する。

しかし、それを聞いた禮子は、どうして良平にきちんと謝ってくれなかったのか、私の思いも知らないで!何が、私の幸せを考えてよ!と抗議するのだった。

ある日、社長に呼ばれてやって来た良平は、禮子をもらってくれと低姿勢で頼まれるが、出世の為に結婚したと思われては心外だと、今までの持論を述べて断わる。

しかし、それを聞いた社長から、そんな事を気にしている方がおかしい。自分は出世の保証などしないし、出世など、するやつは放っておいてもするものだし、出来ないやつはどうやってもできないものだと説く。

娘は君の事が大好きなのだ。すでに大田黒は夏代と結婚させてくれと言って来たと社長は迫り、自分は、娘を二人とも幸せにしたいのだ。禮子は昨日から、飯も食べない状態なのだととくとくと説明する。

二階に登って行った良平は、部屋に入ると、中にいた禮子が黙ってピアノを弾き出す。

そんな二人の様子を、廊下から心配げに伺う社長。

二人の長い沈黙に耐えかねた社長は、部屋に入って来ると、禮子は尼寺に行くと言うのや。君が送って行ってやれと命ずる。

後日、教会の鐘が鳴り響き、二人のシスターが階段を降りて来る海岸に、海水パンツ姿で海に向って走る良平の姿があった。

海に飛び込んだ彼は、沖を走っているヨットに向って泳ぎ出す。

そのヨットには、夏代と大田黒のカップル、そして良平を待つ禮子が乗っていた。

嬉しそうに、近づいて来る良平の姿を待つ彼らの姿を、海岸から社長が満足げに眺めていた。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

NHK放送ラジオ小説を原作とした、若い二組の男女の愛情の顛末を描いた作品。

派手さはないが、男性二人が社会人野球部のスポーツマン二人と言う設定の明るさと、それに対する女優二人の美しさも相まって、今観ても、瑞々しく、素直な楽しさが味わえる作品になっている。

この頃の鶴田浩二は、佐田啓二と並ぶ甘い二枚目で、いかにも好青年と言った感じ。

対する津島恵子も、劇中で鶴田が「天使のような顔をして」と評しているように愛くるしい。

夏代役の幾野道子も、津島恵子とは違ったタイプの美しさの持主。

こうした若者たちを引き立たせながらも、物語を支えているのは、社長役河村黎吉の独特の存在感だろう。

飄々ととぼけたユーモアがあり、ひょっとすると、この作品での社長役が評判となり、翌年から東宝で始まった社長シリーズの原点となる「三等重役」(1952)の社長役に起用されたのかも知れないと思いたくなるほどの魅力がある。