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おーい中村君

1958年、大映東京、橋本光夫原案、須崎勝弥脚本、原田治夫監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

エンゼル電機営業部に勤める独り者のサラリーマン中村和夫(川崎敬三)は、毎朝、電車の中で出会う美人の事が忘れられず、その似顔絵をアパートの棚に飾っては、今日は銀ブラしようか?とか、今日の夕食はスキヤキかい?…などと、独り妄想に耽っていた。

その日も、そんな妄想で遅刻しそうになったので、慌ててアパートを飛び出すと、「おーい、中村君」と自分を呼ぶ声が聞こえたので、思わず立ち止まるが、それは、近所の二階に住む男性がかけたレコードの文句だった。

タイトル

満員電車に乗った和夫は、その日も、同じ車両で憧れの美人と出会ったので嬉しくなるが、彼のズボンの後ろポケットから覗いている財布を狙うスリが近づいている事には全く気付かなかった。

今日、会社で、洗濯機のセールスへの報奨金2000円がもらえる予定だったので、舞い上がっていたのだ。

その時、驚いた事に、かの憧れの美女が「危ないですよ!」と、尻ポケットを指指されたので、思わず、財布を鞄に中に入れ直して感謝する和夫だった。

会社に着いた和夫は、自分の席に見知らぬ男が座っているのに気付き注意すると、その男は、端は好きじゃなかったのでと言いながら、隣の席に移る。

課長から「おーい、中村君」と呼び掛けられたので、和夫が席を立つと、隣に座った見知らぬ男も一緒に立ち上がり、課長の前に行く。

課長が言うには、見知らぬ男も、中村二郎(柴田吾郎=田宮二郎)と言う新人だそうで、今後、和夫があれこれ教えてやってくれと言う指示だった。

席に戻った和夫は、電話がかかって来たので出ると、隣の二郎宛だったので変ると、何やら、馴染みの女とのプライベートな話らしい。

その後、又電話がかかって来たので、和夫が出ると、又二郎宛だったので変ると、同じく、別の女との親しげな電話。

頭に来た和夫は、会社の電話を私用で使うなと注意すると、又、電話がかかって来たので、今度は二郎の方が取ると、今度は和夫宛の女性からの電話だったが、私用電話は困ると言いながら二郎がすぐに切ってしまったので、和夫はがっくりしてしまう。

そんな二郎が「愛」と言う漢字はどう書くのだったかと聞いて来たので、うっかり間違った字を教える和夫。

その後、一緒に出かける事になった和夫は、廊下で出会った梅野咲子(市川和子)を二郎に紹介するが、驚いた事に、もう女子社員には全員挨拶してしまったと言い、図々しくも二郎は、何やら付け文を梅野の胸ポケットに差し込むし、近くにいた部長秘書の谷川鮎子(毛利郁子)にも言葉をかける。

驚いた事に、その日、和夫がもらうはずだった報奨金を、勝手に経理課からもらっておいたと言う二郎に誘われ、やはり中村(若原一郎)と言う名前のバーテンがいるバー「なかむら」に連れて来られた和夫だったが、彼は全く酒は飲めなかった。

一方、二郎の方は、店員、お客お構いなしに、女性と見れば気安く声をかけまくり、好きな女性はいるのだがアプローチの仕方が分からないと打ち明けた和夫にあれこれアドバイスを与えた上に、月賦に当てようと予定していた和夫の報奨金を全部、その夜の飲み代として使い切ってしまうのだった。

翌日、和夫は二郎を連れて飛び込みの営業に出かける。

大きな屋敷が見つかったので、二郎に手本を見せとうと中に入り、庭でくつろいでいた夫人に、最近、一家にラジオや洗濯機は二台の時代ですから、エンゼル電機はいかがでしょうと勧めた所、相手は、うちはアテネ電機しか使わないと言う。

思わず、ライバル会社アテネ電機の悪口を並べた和夫に、その夫人は、宅の主人がそのアテネ電機の社長だと不機嫌そうに言い返して来たので、和夫は真っ青になって逃げ出す事になる。

外に飛び出した和夫は、いつの間にか見知らぬ女性の車に乗り、彼女から洗濯機の契約を取ったが、先輩の功績として報告しておきますと言う二郎に会い、その車はあっという間に走り去ったので、和夫はあっけに取られたまま立ちすくんでしまう。

その後、ボーとしたまま、交差点に飛び出そうとしていた和夫を引き止めたのは、なんとあの憧れの美女だった。

あまりの偶然に舞い上がり、彼女に話し掛けようとした和夫だったが、信号が青の間に、目の前にいる老婆(須藤恒子)を向こうまで送ってくれと言う。

仕方ないので、老婆を反対側まで送り届けた和夫だったが、急いで元に戻った時には、もう彼女の姿はなかった。

その彼女、道ばたに落ちていた財布を拾うと、中に名刺が入っている。

会社に戻って来た和夫は、課長から「愛」と言う字を書いてみろと言う。

書いてみせると、課長はしてやったりと言うように、梅野にこんなものを渡すんじゃないと注意されながら、付け文を渡される。

それは、いつか二郎が彼女の胸ポケットに押し込んでいたメモだった。

間違われて頭に来た和夫は、廊下で出会った梅野に文句を言うが、ついあなたの名前を出してしまったのだと謝罪され、怒りがおさまらないまま立ち去る。

残された梅野は、だけど、よっぽど二郎よりもあの人の方が良いんけどな〜…と呟くのだった。

一方、こちらも会社に戻って来た二郎は、見知らぬ女性から中村さんはいますかと聞かれ、自分がそうですと答えるが、本当にあなたが中村和夫さんですか?と確認され、答えに窮してしまう。

部屋に戻って来た二郎に付け文を突っ返した和夫は、今、女性が届けに来たと自分の財布を返されたのでびっくりする。

相手の名前は?と聞くと、聞かなかったと言うので、ますます頭に来る和夫。

その後、給湯室で鮎子とキスをしていた二郎の元にやって来た梅野は、呆れながらも、しっかりやってねと励ますのだった。

その夜、バー「なかむら」に向った和夫は、エンゼル電機の営業課の中村と言うのはお前か!この女たらしと、見知らぬ男から胸ぐらをつかまれる。

どうやら、トンボのジョー(伊藤直保)というその男の彼女に、二郎がちょっかいをかけたらしいのだが、人違いだと止める女の言葉も、ジョーには興奮で耳に入らない様子。

和夫も訳が分からず抵抗するうちに、段々興奮して来て喧嘩になってしまう。

そこに、店側が呼んだ警官が駆け込んで来たので、二人とも留置所に入れられる事になる。

トンボのジョーは興奮もおさまったのか、しきりに和夫に話し掛けて来るが、和夫は無視する。

そこへ、釈放だと声がかかり、和夫が何気なく留置所の出口に目をやると、そこに立っているのは、婦人警官の制服を着たあの憧れの美人ではないか!

彼女は婦人警官だったのだ!

彼女に伴われ警察署を出た和夫は、今回のもめ事の原因は二郎だった事が分かったと言う彼女に、あいつも根は良いやつなんだと弁護する。

さらに、トンボのジョーも許してやってくれと頼む和夫の姿を観ていた彼女は、佐野明子(近藤美恵子)と名乗る。

何となく、そのまま近くの公園まで来てしまった二人だが、和夫は、心の中に二郎から教えてもらった女性へのアプローチの方法が聞こえていた。

和夫と別れた明子は、亡くなった父親代わりである署長(大山健二)に結婚について相談する。

その場で、エンゼル電機の営業課長に電話を入れた署長は、二郎と勘違いした相手から聞かされた女たらしだから止めた方が良いと言う言葉をそのまま伝えるが、それを聞いた明子は、それは同じ中村でも、二郎の事に違いない。和夫はもっと良い人だと反論する。

それを聞いた署長は、すでに彼女は和夫と結婚したがっているのだと直感する。

その頃、二郎に彼女との付き合い方を聞いた和夫は、アドバイスされた通り、「エリーゼのために」のレコードを購入し、明子宛に郵送する。

一方、明子の方も、偶然同じレコードを買って和夫宛に郵送していた。

その後、自分宛に明子が送って来たものが、自分が送ったレコードだったのを観た和夫は、送り返して来たと頭に来る。

明子も又、同じ勘違いをしていた。

互いに怒って、同じレコードを手にして再会するが、相手が持って来たレコードを観て勘違いに気付く。

その後、明子は、和夫のアパートにはじめて寄る事になる。

その頃、部長(潮万太郎)に呼出された二郎は、夕べ、秘書の鮎子とどこに行ったと聞かれる。

二郎が答えられないでいると、大阪支店へ転勤させると言われる。

二郎は、梅野が密告して事に気付き、その梅野は、部長室の外で聞き耳を立て、笑っていた。

ある日、婚約した和夫と海辺に来た明子は、「海を見よ 海に陽は照る…」と、好きな詩を聞かせると、自ら和夫にキスを求めるような素振りを見せるが、和夫は勇気が出ず、もたもたしてしまったので、明子から呆れられてしまう。

翌日、部長から呼出された和夫は、柳橋のすずめと言う芸者が、アテネ電機の部長の妾らしいので、あちらに資金ルートについて聞き出して来るように命ぜられる。

成功したら、係長に推薦してやるとまで言われた和夫だったが、そんな仕事は、酒の飲めない自分なんかより、二郎がうってつけなので、この際、大阪から呼び戻して欲しいと言い出す。

しかし、聞き入れられず、和夫は迷ったまま、明子をアパートに呼出し、仕事の内容をぼかして相談する。

すると、明子は、誕生日の一日前のプレゼントとして持って来たペアウォッチっを和夫に渡すのだった。

その時計は、時刻になると、二人の想い出の「エリーゼのために」が鳴り出す、オルゴールウォッチで、明子は、これを互いにはめていれば、時刻の度にお互いの事を思い出す事ができるから大丈夫、その仕事を受けるようにすすめるのだった。

翌日、その腕時計をはめ柳橋の料亭に向った和夫は、指名したすずめ(若松和子)から、何とかアテネ電機の裏話を聞き出そうとするが、すずめは酒を飲まないと何も話さないとじらす。

その頃、和夫の仕事の内容を知らない明子は、彼の部屋にバースディケーキを用意して帰りを待ちわびていた。

飲めない酒を無理して飲んだ和夫だったが、すずめはまだ話す気配を見せないで、もっと飲んだら…とじらす。

和夫は、時刻になると鳴り出す「エリーゼのために」を気にしながら、お銚子を無理に重ねていた。

一方、明子は、あまりに和夫の帰りが遅いので、部屋でじりじりしていた。

相手に言われるがまま、飲み付けない酒でへべれけになった和夫は、キスをねだって顔を近づけて来たすずめの顔が明子の顔とダブり、ついキスしてしまう。

すると、すずめは嬉しそうに、自分はアテネ電機の事など何も知らないと言うではないか。

がっっかりしてアパートに戻って来た和夫の唇に、口紅がついているのを見つけた明子は激怒する。

しかし、へべれけ状態の和夫は、君の顔に見えた相手にキスしたんだから、それだけ君を愛している証拠だと、訳が分からない言い訳をしてしまったため、ますます明子を怒らせてしまう。

翌日、叱られる事を覚悟で、部長に報告した和夫だったが、当の部長は、今度、大阪支店長になったのでどうでも良いと言う事になる。

さらに、秘書の鮎子も一緒に大阪に連れて行くので、当然ながら、二郎は戻って来る事になるとも。

ある日、バー「なかむら」に和夫と明子の姿があったが、両名ともカウンターの端に座ったまま近づこうとしない。

和夫と仲直りしたジョーが、事情を知らず明子に迫ろうとした時、二人の腕時計が同時に「エリーゼのために」を奏で出す。

面白くない和夫は、わざと、すずめの所に行くと言い残し帰ってしまう。

その後、アパートに来た二郎は、和夫と明子が喧嘩中だと聞いて、それなら、自分が明子にアプローチできると喜んで帰って行く。

後日、又、バー「なかむら」に来て、独り落ち込む和夫を、ジョーが慰めていた。

その頃、明子は、大胆にも自ら料亭に乗り込み、すずめと対面していた。

すずめがしらっと、自分は今、なーさんを舞っている所だがとからかうと、明子は、張込んで、現場を押さえてやると座敷に座り込む。

そこにやって来た「なーさん」と言うのは二郎で、二人が人前にもかかわらず抱き合ったのを観た明子は、自分の勘違いを恥じ、いたたまれなくなって帰ろうとする。

すると、そこに駆け付けたのが和夫で、明子がいるのに驚くと、すぐに彼女を連れ帰るのだった。

その様子を観ていた二郎とすずめは、互いに笑いあう。

もちろん、二郎が、先輩のために仕組んだ芝居だったのだ。

二人は、あの二人、アパートまで持つだろうか?と噂していたが、案の定、途中でタクシーを停めた和夫と明子は、暗がりの川沿いではじめてのキスをかわすのだった。

数日後、会社に新しい部長が転任し、二人の中村も挨拶する。

新部長も中村(船越英二)と言い、自分達は各々欠点もあるが、三人で一人前くらいに考えてゆったり構えろと二人の中村に訓示を与えると、この際、中村会と言うのを作ろうと提案すると、課長も連れて、バー「なかむら」に向う。

そこには、招待されたすずめと明子も現れ、いつしか外に出た二人の中村と女性陣は、互いにカップルになって、後ろから追って来た部課長たちを置いて、雑踏の中を歩き始めるのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

若原一郎のヒット曲「おーい、中村君」をベースにした歌謡映画。

いかにも頼りなげに見える川崎敬三と、見るからに女たらしに見える二枚目田宮二郎が織り成す、たあいないサラリーマンラブコメになっている。

軽い調子のラブコメだけに、主人公和夫が一方的に憧れていた明子の方も、実は和夫の事を思っていて、あっさり婚約が決まってしまうと言った辺り、かなり御都合主義そのままで、不自然きわまりなのだが、その辺は、主人公和夫のお人好しキャラに免じて許して観てしまう所が、この作品の良さだろう。

本当に、この頃の川崎敬三の「一見情けなさそうだが、心底憎めない愛すべきキャラ」振りは板についている。

この手の個性は、他にいそうでいない、なかなか得難いキャラクターだと思う。

一方の、こちらも憎めない積極的な二枚目役を楽しそうに演じている田宮二郎の方も、なかなか板についている。

二人の中村君とも、当時の大映の新人の個性を巧く取り出した、絶妙のキャスティングに思える。

ヒロインを演ずる近藤恵美子も、本当に憧れの美女役にピッタリな、きりっとした美しさである。

すずめ役の若松和子も嫌味のない可愛らしさで、ちょっとコケティッシュな魅力を披露している。

上映時間44分の中編ながら、素直に楽しめる内容になっている。