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向う三軒両隣り
 白百合の巻

1948年、新東宝、八住利雄+北村寿夫+北条誠+伊馬春部原作、八住利雄脚本、渡辺邦男監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

頭の禿げた車引きが、神田医院の側の自宅に戻って来る。

その側にある純喫茶「白百合」には、何故か昼間から学生たち集まっており、店の娘春恵(水谷真弓)が、今日はどうしたのと聞くと、美学の授業が休講なのだと言う。

大学の給料って安いそうねと、同情気味に春恵が言うと、学生たちは皆、水を注文する。

学生たちも皆貧しく、一杯10円のコーヒー代すらままならないと言うのだ。

澄江はそんな学生たちの水に、せめてものサービスとして、レモンを浮かべてやろうとする。

そんな所に入って来た近所の警官が、戸籍調べに来たと言いながら、その場で春恵の名前や職業を聞き出したから、側にいた学生たちは無意識に聞き耳を立ててしまう。

春恵の職業が、南ヶ丘撮影所に通う映画女優の卵である事は、学生たちも知っていたが、無遠慮に年まで聞き出そうとする警官に、赤くなった春恵は、そこに書いてある通りだとごまかす。

その時になって、ようやく、近くにいる学生たちに気付いた警官は、自分のぶしつけさに恐縮してしまう。

春恵は、母親まさ(浦辺粂子)と、画家の卵である兄伸一(田中春男)と三人暮しである事を警官に伝える。

その母親まさは、ちょうど、伸一の油絵のモデルをさせられていた。

どうにも落ち着かないまさが、やたらと話し掛けたり、もじもじと動き回るので、呆れた伸一は描くのを止めてしまう。

その後、その警官は、一生懸命車を磨いている車引きの所にやって来て、同じく戸籍調べをし始める。

すでに30年間車屋をやっていると言うその主人の名前は、坂東亀造(柳家金語楼)、長男の精市(黒川弥太郎)は、三輪バイクで同じように運送業をやっていて、長女の可奈子(宮川玲子)はダンサー、次女のみどり(桜木陽子)は家事手伝いをさせていると言う。

続いて、警官がやって来たのは神田医院。

やたらとおしゃべりな妻秋子(清川虹子)と、対称的に学者肌で無愛想な医者神田守(江川宇禮雄)が顔を覗かせ、会釈だけして診察室に戻ってしまう。

聞かれもしない事を自らベラベラしゃべる秋子は、自分が姉さん女房である事は、近所には内緒にしてくれと、警官に口止めする。

続いて、警官が向ったのは山田家だったが、呼んでも返事がないので、不在と思い帰ってしまう。

ところが、その少し後、山田家から老婆(飯田蝶子)が一人出て来て、ちょうど通りかかった登美子(野上千鶴子)に、今、闇屋が来たので用心して出なかったと言う。

しかし、登美子は、警官の姿を見かけていたので、あれは闇屋ではなく警官だと教えるのだが、何せ、山田のおばあさんは耳が遠いので、なかなか通じない。

そんな山田のお婆さんが、途中まで送って行くと言いながら、登美子を目の前にある「白百合」まで送り届けて帰る。

登美子は、「白百合」で働いていたのである。

その頃、車屋の亀造は、8日の午後2時、薬屋の角に来て、花嫁を乗せて欲しいと言う依頼を受けていた。

その客が帰った後、話を聞いていたみどりが降りて来て、今頃珍しい依頼だと感心するが、頑固一徹の亀造は、久々にやりがいのある仕事が来たので、張り切って、車を磨きはじめるのだった。

一方、「白百合」では、女給の登美子に、ダンスホールに行かないかとか、温泉に行かないかなどと、一人の客が絡んでいた。

登美子が困っている様子を観た伸一が奥から出て来て、わざと、客の横にかけてある絵を取り替える振りをしながら、客に帰るように促す。

闇屋らしい客は、啖呵を切って出て行くが、その後、礼を言う登美子に、伸一は、同友会に出している絵が入賞したら、君の為にどんな事でもするつもりだと打ち明けるのだった。

「白百合」を出た闇屋の男は、亀造の人力車に乗って帰ろうとするが、その身分を察した亀造は、闇屋なんか乗せないと客を降ろしてしまう。

その際、地面に転がり落ちた客の鞄からは、大量の闇タバコが転がり落ちる。

闇屋が、亀造に喧嘩を売ろうとすると、そこにやって来たのが、長男の精市で、親父に何をするんだとあっという間に相手を痛めつけてしまう。

その後、神田医院にやって来た登美子が、実は金がないのだが…と、恥ずかしそうに打ち明けながら、病状を説明し出す。

影で聞いていた秋子がやきもきする中、神田は、金をまける事は出来ないが、支払いを待つ事はできると言いながら、登美子の体を診察しようとすると、慌てた彼女が、病人は自分ではないと言い出す。

そこへ、子供の急患の知らせが来る。

その頃、精市相手に、晩酌をしていた亀造の元に、神田医院から、盲腸の患者が出たので、大学病院まで乗せて行ってくれないかと言う依頼が来るが、亀造は、近く花嫁を乗せる事になっている大切な車に、病人なんか乗せられるかと言い出す。

それを聞いていた精市は、そんな事を言うのだったら、もう仕事なんて止めちまえと叱るが、相手は生来頑固な上に酔っているので聞く耳を持たない。

仕方がないので、自分が代わりに行くと、精市自らが人力車を外に出そうとしたのを見た亀造は、それを止めようとつかみ掛かって来たので、精市が振払った拍子によろめいて、玄関口に落ちていた釘を踏んで怪我をしてしまう。

翌朝、足に包帯をした亀造の家に、神田医院の秋子がやって来て、夕べは、うちが急病人の依頼などをしたばっかりに、結果的に亀造に怪我をさせてしまい、申し訳なかったと言いながら、こんな物はもらう筋合いじゃないと困惑する亀造に、持って来た果物駕篭を無理矢理渡して帰ってしまう。

これじゃ、話がおかしいと感じた亀造は、その後、菓子折りを持って、神田医院に出かけると、さっきの返礼だと言って秋子に押し付けて帰ってしまう。

すると、またまた、秋子が亀造の家を訪ねて来て、今度は花束を置いて行く。

亀造も負けじと、盆栽を購入して、秋子の元に持って行く。

意地の張り合いだった…。

その往復でくたびれ果てた亀造が、「白百合」にやって来て咽をうるおしていると、同じく疲れ切った秋子もやって来て鉢合わせしてしまうのだった。

その「白百合」の奥の部屋では、伸一を呼んだまさが、登美子には、どうやら、肺病の夫がいるようだと打ち明ける。

それを聞いた伸一は、驚いて店に行くと、登美子を外に連れ出して、どうして家庭の事を自分に教えてくれなかったのかと責める。

登美子はただ、黙っているだけだった。

その後、めっきり落ち込んだ伸一を心配しながら届いた葉書を持って来たまさは、その葉書が、出品していた絵の落選通知だった事を知る。

それを見た伸一は、こんなふがいない自分は、母親にも春恵にも向ける顔がないと言い、店を飛び出してしまう。

その直後、帰宅して来た春恵は、今度はじめて役が付いたと嬉しそうに報告するが、それを聞いていたまさの表情が浮かないので訳を訪ねると、伸一の絵が落選して、今、飛び出して行ったのだのだと打ち明ける。

それを聞いた春恵は、そう言えば、登美さんも泣いていたが、何かあったのかしらと心配する。

南ヶ丘撮影所。

みどりも見学の訪れた中、始まった春恵の撮影シーンは、街の靴磨きに足を出すと言うだけのものだった。

ところが、出した彼女の足には傷があった。

それに気付いた監督が訳を聞くと、蚊に挿された所をつい掻きむしってしまったのだと春恵は答える。

仕方がないので、反対側の足を出させると、今度は、彼女が履いている靴が気に入らないと監督は言い出す。

ところが、美術さんに、もう靴は他の組でみんな使っていると言われたので、これは自前なんだと答えた春恵は形見が狭かった。

どうやら、はじめて付いた役と言うのは、足を写すだけのシーンだと分かった事も、彼女に取ってはショックだったのだ。

そうした様子を見ていたみどりは、待ち時間の間に、春恵に自分の靴を貸してやる事にする。

そのみどり、撮影所内の掲示板に貼られていた「人力車が必要で探しています」と言う告知を目にする。

結婚式の花嫁を運ぶはずだった当日、足に怪我をしたため出来なくなった亀造は、家の前で不機嫌だった。

そんな父親を尻目に、みどりと山田のお婆さんは花嫁さんを見に出かける。

神田医院では、往診に出かけようとする神田を秋子が止めていた。

金のない患者の診察を続けるのは止めてくれ。もっと家の事、私の事を考えてくれと言うのである。

そうした妻の願いを聞いて、分かったと言いながら神田が出ようとした時、まだ足に包帯を巻いた亀造がステッキを付いてやって来るが、それを見た神田は、あなたはもうとっくに直っているのだから、そんなステッキなどもいらないと言い残して去って行く。

それを聞いた亀造が、治療を長引かせて金を取ろうとする医者はいるが、なかなかああいう正直な事を言ってくれる医者はいないと感心すると、側で聞いていた秋子は嬉しがって、夫の後を追い掛けて、今の意見を教えてやろうとするので、それを押しとどめた亀造は、そんな事は、夜ゆっくり話せば良いのであって、夫の仕事の邪魔をするなと注意しながら、秋子が年上女房である事を気にしているようなので、実は自分の亡くなった女房も年上女房で、自分は昔、若いツバメだったのだと思わぬのろけ話を披露するのだった。

「白百合」に帰って来た春恵は、母親まさに、今日は監督に誉められたと嬉しそうに報告する。

まさは、そんな春恵に、登美子が辞めてしまったと寂しそうに教える。

それを聞いた春恵は、家を飛び出したままの兄さんは、登美さんの事が好きだったんじゃないかと呟くのだった。

その頃、翠から連絡を受け、亀造の家を訪れていた撮影所の助監督は、三島絹子主演の明治物をやりたいので、お宅の人力車を貸してくれないかと頼んでいたが、そんなものに貸せないと亀造は又頑固な事を言っていた。

何なら、あなたも車屋として出てもらっても良いのだがと説得する助監督だったが、一度言い出したら後に引かない性格の亀造だけに、話はまとまりそうもなかった。

そんな所に帰って来たのが、長男の精市。

困っている助監督の顔を見るや、旧知の谷川であると気付き声をかける。

その後、その助監督の谷川を「白百合」に連れて行き、親父の頑固振りを謝る精市だったが、そこにやって来た亀造が、こちらの条件を聞いてくれるなら、人力車を貸しても良いと言い出す。

谷川が、できる事は何でも応ずると返事すると、ここの小林春恵に役をつけてやってくれと亀造は言うのだ。

さすがに、それは自分の一存では承諾出来かねると困惑する助監督だったが、結局、条件は飲まれ、亀造も人力車の車夫として映画に出演する事になる。

さっそく、春恵を客に見立てて、近所で車引きの練習を始めた亀造だったが、それを見ていた山田の婆さんが、明治にそんな年寄りの車屋はいなかっただの、ゴムの車輪はなかっただの、もっと車屋はいなせなポーズを取っていただのと注文を付け出したので、亀造はいらいらしてしまうのだった。

いよいよ撮影当日、かつらを冠って若返った亀造は、女優を乗せて、シーンがスタートするが、張り切って走り出した途端、かつらが外れてしまって、NGになってしまう。

助監督に止められて、慌てた亀造は、拾ったかつらを逆に冠ったりするので、車に乗っていた女優も吹き出してしまうのだった。

そんな亀造の長女可奈子が勤めているダンスホール「フロリダ」では、ダンス指導員の伊藤誠之助が模範演技を見せていた。

それを見ている客の中に、「白百合」を家出している伸一の姿があるのを可奈子が発見する。

勤めが終わった後、その事を知らせに「白百合」にやって来た可奈子は、ちょうど、母親のまさと、亀造、秋子の三人が、その伸一の事で話し合っていた最中だった事を知る。

さっそく、今日店で伸一を見かけた事を教えた可奈子だったが、それを聞いた亀造も秋子も慌てるばかりで、又いつものように口げんかが始まってしまい、それを聞いていたまさは泣き出してしまうのだった。

伸一は、とある近くの港で油絵を描いていた。

その後ろ姿を見かけた登美子だったが、伸一と気付かないまま去ってしまう。

その近くに、彼女が見舞いに行くサナトリウムがあったのだ。

やがて伸一は、描きかけていた絵に自ら×印を書いてしまう。

そんな所にやって来たのが、ステッキを付いた一人の青年だった。

近くのサナトリウムで療養している者だと青年が自己紹介をすると、伸一も、自分の知人の御主人も同じ病気なのだと打ち明ける。

サナトリウムに来た登美子は、医者の神田が待っていると教えられる。

病室に行ってみると、東京から診察に来た神田が、ここの院長は友人だから、良く患者の事は頼んでおいたと言う。

さらに、沈み込んでいる登美子が、どうやら自分も肺病に感染していると思い込んでいるらしい事を知り、そんな心配はいらないときっぱり否定するのだった。

神田が帰った後、伸一さん…と呟いた彼女のいる病室に戻って来たのは、ステッキを付いた青年と、今呼んでいた伸一本人だった。

二人は港で意気投合したらしいのだ。

伸一も登美子も、互いの顔を見て驚愕する。

こんな所で再会するとは、互いに思ってもいなかったからだ。

気まずくなり、すぐに帰ろうとした伸一だったが、驚いた登美子が、兄さん、どうして…?と言う言葉を聞き、思わず立ち止まってしまう。

すぐに、登美子に詰め寄り、今なんて言ったのかと問うと、ステッキを付いていた青年は自分の兄だと言うではないか。

夫だと思っていたのは、母親の勘違いだったのだ。

さらに、登美子は、自分も兄の病気に感染していると勝手に思い込み、伸一に一生、その不幸を背負わせたくなかったので距離をおいたのだと告白する。

古い考えに捕らわれていた事を詫びる登美子だったが、全てを理解した伸一は、その後、港に彼女を連れ出し喜びに浸るのだった。

やがて、新聞に、伸一の絵が別の展覧会に入選した記事が載る。

「白百合」には、今だ伸一が戻って来ず、毎日ふさぎ込んでいるまさに、気晴らしに、上野に展覧会でも観に行かないかと、亀造と秋子がやって来ていた。

展覧会などに行けば、かえって伸一の事が思い出されつらくなるので行きたくないと言うまさを、何とかなだめすかして連れ出した二人。

娘の春恵も同行してしぶしぶ付いて来たまさだったが、会場の中央に、自分がいるのに気付き思わず春恵を呼び寄せる。

それは、小林伸一が描いたまさの肖像画だった。

さらにまさは、驚いて周囲を見回すうちに、いつの間にか、自分の後ろに伸一と登美子が仲良く連れ立って立っているのを発見し、思わず息子に抱きつくのだった。

全ては、伸一の絵が入選した事を新聞で知った秋子と亀造が仕組んだ策略だったのだ。

みんなが連れ立って家に帰る途中、馴染みの警官とすれ違ったので、今度白百合に一人増えましたと亀造は伝える。

登美子の事であった。

そして、すっかり上機嫌になった亀造は「♪粋なつばめも見たと言う、野暮なツグミも見たと言う…」と唄い出し、それにつられて秋子も、同じ歌を口ずさみ出すのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

ラジオの人気番組の映画化。

数件の家庭を中心に描く御近所ドラマである。

新東宝の撮影所が登場する以外には、特に映画らしい見せ場はないが、当時ののんびりとした下町人情を楽しむ事ができる。

特に、明治生まれで頑固一徹の車屋亀造と、神田医院のおしゃべり女房が、しょっちゅう口げんかをする所は、このドラマの決まりごとらしく、頻繁に登場する。

田中春男が二枚目役を演じているのも、ちょっと珍しいが、黒川弥太郎が現代劇に出ているのにも驚かされた。

古い作品だけに、皆役者も若いのだが、柳家金語楼は、まだ前髪が少し残っているし、浦辺粂子もまだせいぜい、おばさんと言った感じ。

医者の神田を演じている江川宇禮雄は、「ウルトラQ」の一ノ谷博士である。

この頃は、日本人離れしたノーブルな顔だちをしている。

この顔だちでは、学者とか偉いさんとか、演じられる役柄も限定されるのではないかといらぬ心配をしたくなるが、戦前はたくさんの映画に出演しているベテランのようである。