1962年、松竹大船、高橋二三脚本、市村泰一監督作品。
▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼
今や、有名大学に入る予備校ばかりでなく、有名高校に入る予備校、有名中学に入る予備校、有名小学校に入る予備校、有名幼稚園に入る子供予備校まである。
こうした現象が起こるのも、皆、有名校があるからである。
そうした内容の映画を観ていた客席に、突如大きな笑い声が起きる。
その笑い声の主は、コックの服装をした梶本隆三(坂本九)であった。
彼には、こうした受験体制そのものがバカバカしくて仕方ないようだった。
タイトル
レストラン「デュポン」に戻って来た隆三は、主人(十朱久雄)から、集金の後、どこで油を売っていたのかと叱られるが、正直に映画を観ていたと報告したので呆れられる。
それを聞いたコックの健二(宗方勝巳)は、自分が、フランス料理が出て来る映画がかかっていると彼に教えてしまったからだと弁護する。
そこへ、運転免許の試験を受けに言っていた主人の娘の菊代(桑野みゆき)が、実技試験に合格したと帰って来る。
店のために役立つ免許がとりたいのだと言う彼女の言葉を聞いていた隆三は、お祝を言うでもなく、キャベツでも刻んでくれた方が店のためになると皮肉るので、菊代はむくれてしまう。
主人は、そんな娘の事を、だんだん死んだ妻に似て来るとぼやくのだった。
そんな店に、隆三の顔なじみらしいグループがやって来て、勝手にフルコースなど注文しようとする。
将来は一流のコーラスグループになるのが夢だと言う彼らだったが、毎回、この店に来てはつけで帰ってしまう悪質な常連でもあった。
あまりの図々しさに注意しようとした隆三だが、電話をかけようかな〜と、メンバーの一人が立ち上がると、何故か急に、それを止めた隆三は彼らの言いなりになってしまうのだった。
共同生活をしているグループは、帰宅後、さっそくコーラスの練習を始める。
一曲唄い終わった時、電話がなったので、それに出たダンディ飯谷(ダニー飯田)は、それが「教授」だと知る。
明日から仕事だと言う教授からの指令を受けた彼らが、部屋の片隅のカーテンを開くと、そこには東京の主要大学の制服がズラリをかけられていた。
翌日、城南大の入口で在校生とホッケーの話をしていた受験生らしき青年の姿をさり気なく観察していた松田(増田多夢)は、それを仲間たちに報告する。
その青年に道で声をかけた沢野(佐野修)は、さりげなく、自分は城南大のスケート部であり、裏口入学のコネがあるのだが…と、言葉巧みに喫茶店に誘う。
その店では、やはり、城南大の制服を着た他のメンバーたちがやって来て沢野に挨拶をするものだから、すっかり工藤と名乗った青年(竹脇無我)は、目の前の沢野を、城南大の先輩だと信用してしまう。
後日、とあるホテルのロビーに母親と幼い弟を連れて来た工藤は、政府の原子力委員会で演説をしていたと言いながらやって来た教授(南原宏治)に対面する。
すっかり教授を信用した母親(三谷幸子)は、長男の大学受験のみならず、弟の幼稚園受験の方もよろしく頼むと言い出し、子供達を遠ざけると、教授と謝礼金の話を始めるのだった。
数日後、「デュポン」に勢ぞろいしたグループのメンバーたちは、教授から分け前を受取るが、あれこれ理屈を言う教授が支払ったのは、メンバー一人頭たった5000円だけだった。
一応客なので、メニューを持って来た隆三も、教授が水とトーストしか注文しないので、思わず「ペテンだ」と呟いてしまう。
テレビで、ジャズシンガー水田トモ子(渡辺トモコ)が唄っているのを観て、本屋の店先で働いていた二宮久恵(鰐淵晴子)に観るように誘ったのは、「政文堂」の女将(桜むつ子)の一人娘で足の不自由な少女弓子(板倉春江)だった。
久恵は音楽大を目指す受験生だったが、すでに二浪しており、東京の親戚の家であるこの「政文堂」に居候していたのだった。
弓子は、水田トモ子の大ファンらしく、後援会に入ろうかなどと、無邪気に久恵に相談していたが、水田トモ子を観る久恵の気持ちは複雑だった。
その頃、いくつもの企業の代表を勤めている富豪梶本隆一郎(河津清三郎)の家族の取材に来ていた、週刊スターの記者(福岡正剛)は、優秀な経歴の長男隆介(松原緑郎)、次男隆次(香西謙郎)、長女孝子(環三千世)らの話を一通り確認した後、もう一人、三男がおられるはずだが?と聞いていた。
しかし、隆一郎と、妻(三宅邦子)は、急に慌てたように、三男は今、病気で入院しており、面会謝絶なのだと奇妙な言い訳をする。
家族全員の写真を撮らないと誌面に載せられないので、せめて三男の写真だけでも貸してくれないかと頼んでも、雑誌に載せるのはしばらく待ってくれないかと隆一郎が頼み込んだ時、孝子の婚約者と言う旭日伯爵が訪ねて来る。
仕方ないので、家族写真は後日と言う事で帰りかけた記者と同行のカメラマンは、20才になるはずの梶本家の三男には、何か秘密があるのではないかとと勘ぐり出す。
夜、屋台で飲んでいた学生が、店を出たところで、件のグループの連中に出会い、裏口入学させてくれてありがとうと礼を言いながらも、今は、その不正をした事で悔やんでいると言いながら去って行く。
その後ろ姿を観ていた沢野らは、自分達は金を受取っただけで裏口工作など何もしておらず、あの学生は、実力で入学したのだと言う事を教えてやった方が良いのじゃないかと後ろめたさを感じるのだった。
同じ頃、とある定食屋にやって来た青年九山(ジェリー藤尾)は、女店員の似顔絵をさらさらと描いてみせて、自分は芸大を目指している受験生なのだが、この春、ある連中に芸大に入れてやると騙されて、バイト代を全て渡したにもかかわらず受験に失敗したと打ち明けながら、女店員に、そのグループの顔を描いた似顔絵を見せていた。
ある日、秘書(青山宏)を伴って、車で街を視察していた梶本隆一郎は、魚河岸から帰る途中の隆三を見かけ、車を停めさせるが、見失い、その事を帰宅後、妻たちに打ち明けていた。
それを聞いていた孝子は、自分の縁談にも差し障る恐れのある弟の特異性をぼやくのだった。
レストラン「デュポン」には、車の免許の学科試験に出かけていた菊代が帰って来て、ちょうど店の前で出会った隆三にダメだったとこぼすが、それを聞いた隆三から、危なっかしいので、お嬢さんには車の運転なんかしてもらいたくないと言われ、又むくれる。
店に入って来た隆三は、今日は良い魚がなかったので、何も買って来なかったと報告し、またもや主人に呆れられる。
双葉音楽教習所と言う個人レッスンの家に通いながら、三ヶ月後に迫った試験に備えていた久恵だったが、ある日、「政文堂」に帰って来ると、父親からの速達が来ていると女将から渡される。
それを読んだ久恵の表情は曇る。
田舎の出身高校の校長から、久恵が音大に合格したと聞いたので、とても嬉しい。ついては、今度、村の仲間と一緒に東京見物に行くので、その時に会いたいと言う内容であった。
久恵は、二浪した事を親に言えず、つい、合格したと、校長に嘘の連絡をしていたのだった。
両親が上京してくれば、自分が嘘を言っていた事がばれてしまう。
悩んだ久恵は、ふらふらと近くの鉄橋の上に向うと、近づいて来る電車に飛び込もうとしていた。
そこに通りかかったのが隆三で、危うく、鉄橋から飛び下りようとしていた久恵を抱きとめると、泣いて抱きついて来た彼女を、店に連れて行き、訳を尋ねるのだった。
久恵がつい嘘を言ってしまった背景には、同郷で小学校の同級生だった水田トモ子が、今や、売れっ子の歌手になっている事もあった。
二人は、2年前、一緒に上京して来たのに、久恵だけが落ちこぼれてしまったようなコンプレックスに責めさいなまれていたのだ。
事情を知った隆三は、彼女を慰め、励ますが、その話を隣の部屋のテーブルで聞いていた男がいた。
教授だった。
その教授から電話を受けたグループは、今度のターゲットは女だと知る。
久恵を励ましながら、家まで送って行った隆三だったが、その二人の姿を偶然見かけた菊代は、強い嫉妬心を感じるのだった。
翌日、久恵が練習していた双葉音楽教習所に、ここは三つ葉音楽教習所ではないかと訪ねて来た沢野は、違うと聞くと困ったように出て行き、久恵が帰宅する途中、まだ、その教習所を探している振りをして近づいて来ると、自分は音大の学生なのだが、あなたがその気なら、受験なんか止めて、ジャズシンガーとしてデビューしてみるつもりはないかと持ちかけて来る。
半信半疑な久恵だったが、その後、沢野から連れて行かれたテレビ局前で、音楽事務所のマネージャーなる人物や、車で通りかかったダニー飯田なる作曲家らしき人物から気軽に声をかけられる沢野の様子を観ている内に、段々信用するようになるが、もちろん、全て、グループの仲間同士の芝居だった。
その沢野から、宗方哲治と紹介された作曲家から、披露した歌を激賞された久恵は、実はその作曲家が、ペテン師教授の変装だとも知らず、すっかり舞い上がってしまう。
ホテルで、教授になけなしの金を渡し、「デュポン」にやって来た久恵は、今日、すごく良い事があったと隆三に報告するが、話を聞いた隆三は、すぐにあのペテン師グループの仕業と気付き、出前のついでに、彼らのアパートに乗り込むと、金を久恵に帰さないと警察に連絡すると伝える。
しかし、グループたちは、いつものように、お前の居所を家に電話するぞと言い返されると、それ以上、何も言えなくなる隆三だった。
すごすごと、「デュポン」に戻って来た隆三は、主人に言われるまま、奥のテーブルにスープを運んで行くが、そこに座っていたのが、姉の孝子と知ると、慌てて、同席していた旭日子爵(大泉滉)の頭にスープを浴びせかけてしまう。
その後、急に荷造りをはじめた隆三の様子をうかがいに来た菊代は、彼が店を辞めるつもりである事を知る。
隆三は、自分は子供時分から洒落たレストランを開くのが夢だったが、家では、大学へ行く事だけを強要されたので、学歴だけが全てじゃないと思い、飛び出したのだと打ち明ける。
一緒にその言葉を聞いていた健二は、自分のやっている事が正しいと思うのなら、こそこそ逃げ出すような事はしないで、正々堂々仕事を続けるべきではないかと忠告する。
隆三も又、その言葉が正しいと気付き、逃げ出す事を止めるのだった。
孝子は、隆三の居所を突き止めたと父親に報告する。
そんな中、いつものように「デュパン」にやって来て、つけで注文しようとしたグループを観た隆三は、もう金輪際、掛け売りはしないと拒絶する。
沢野は、又、梶本家にお前の居場所を教えるぞと脅すが、隆三が平気なので、不思議に思いながらも電話をかけると、梶本家では、もう隆三の居場所を知っている様子。
焦った沢野は、その電話を受取った隆三が、今度は自分で110番をかけようとしだしたので、慌てて他のメンバーたちと店を逃げ出そうとするが、そんな彼らに、約束を実行しろ。今までの罪滅ぼしのつもりで久恵を本当にデビューさせろと、隆三は真顔で詰め寄るのだった。
その時、「デュポン」に隆三の両親と孝子が訪ねて来る。
母親は、こんな仕事は早く辞めて、父親の口添えで、来年、大学に行けと言う。
しかし、自分はこの仕事とこの街が好きなので、帰るつもりはないと言う隆三の毅然とした態度を観た店主や菊代、まだその場にいたグループのメンバーたちは感激するのだった。
店から帰る途中、グループの仲間たちは、今後どうすべきか悩む。
その時、ちょうど通りかかった家の物干し場で、弓子に聞かせるように唄っている久恵の姿を観た彼らは、自分達の代わりに、何としてでも彼女をデビューさせてやろうと決意する事になる。
唄い終わった瞬間、思わず拍手したグループの姿に気付いた久恵は、弓子に、あの人たちは、何でも夢を叶えてくれる良い人たちだと紹介された弓子は、それなら、自分もお願いしたい事があると言い出し、久恵のデビューステージには、水田トモ子と、原信夫とシャープ・アンド・フラッツを呼んでくれと、グループに伝えるのだった。
グループは、教授に相談に行くが、弛んどると一括されてしまう。
仕方なく、自分達だけで、原信夫に会いに行き交渉する彼らだったが、夜の番組で裸になる女性だったら使ってやっても良いと、軽くいなされてしまう。
そんなある夜、いつものように道ばたで似顔絵を書いていた九山は、酔っぱらってふらついていた学生を助ける。
その学生が、自分は裏口入学云々と呟いているのを聞いた九山は、自分と同じ被害者と気付き、持っていたペテン師グループの似顔絵を見せ、間違いないと確認させる。
久恵は、デビューの日が間近に迫ったので、真新しい衣装をあつらえて喜んでいた。
一方、隆三とグループのメンバーたちは、一週間後に上京すると言う久恵の両親の事を心配していた。
このままでは、久恵をデビューさせるなど、到底無理な状況だったからだ。
隆三は何かを思い付いたらしく、グループの面々に金を全て出せと命ずる。
グループの持ち金を集めた資金で、「大日本プロダクション」と言う架空の事務所の看板と、東洋テレビ代表梶本隆一郎名義の新人デビュー披露宴への招待状を印刷すると、それを音楽業界の著名人たちにばらまく事にする。
招待状を受取った水田トモ子のマネージャーや、批評家、作曲家たちは、大日本プロダクションと言う怪しげな名前と、梶本隆一郎と言う大物の名前の板挟みになって、皆、その披露宴に出かけるべきか否かで迷いはじめる。
大日本プロダクション名義の事務所にいたグループのメンバーは、新聞や雑誌の記者たちから取材を受ける騒ぎになる。
一方、久恵の家を訪ねた隆三は、不安がる久恵を励まし、一緒に物干し場で歌を唄うのだった。
そんな様子を、近くから心配げに見守る菊代だったが、一緒について来た健二は、料理に命を賭けている隆三は、必ず店に戻って来るはずだと慰める。
グループの面々は、自費で花輪をたくさん注文し、それをデビュー会場になるクラブの前に飾り付けしていたが、そんな彼らを発見したのが、偶然通りかかった九山だった。
デビューの時間を間近に控える中、店には、招待客の姿はなかった。
その様子を観たグループの面々は、早くも後悔しはじめ、酒を飲みに来たとやって来た教授は、そんな彼らを嘲るのだった。
そのクラブに、九山は、いつかの裏口入学に悩む学生を連れて来る。
そんな中、二宮久恵も「政文堂」の女将と弓子と共に、クラブに到着する。
その頃、招待状に名前を使われた梶本隆一郎は、会社で記者たちの取材を受けていたが、自分は何も知らないが、一つだけ心当たりがあると呟いていた。
記者たちが帰った頃、母親と一緒に隆三がやって来る。
隆一郎は、デビューする新人歌手と言うのは隆三自身の事だと思っていたのだが、それを強く否定する隆三に、取り引きをしないかと持ちかける。
自分が名前を貸す代わりに、お前は家に戻って来いと言うのだ。
しかし、隆三がきっぱり拒否すると、隆一郎はその場で、赤坂プロに電話を入れ、シャープ・アンド・フラッつに出演依頼を断わる伝言をするのだった。
久恵のデビューの時間が迫り、とにもかくにも、三々五々集まって来た招待客たちだったが、何時まで立っても、ショーが始まりそうもない事に気付くと、帰ろうかと迷い出すものが出始める。
そんな状況の中、久恵の待つ控え室に上京した両親が連れて来られる。
久恵は、大学に受かったと言うのは嘘だったと正直に告白するが、両親ともそれはすでに知っていたと言う。
校長があの後、大学の確認の電話をしたからだそうだ。
両親は、娘にそんな嘘をつかせるまで追い込んだ自分達に否があったと逆に詫びる。
しかし、母親(浦辺粂子)は、店の支配人(永井達郎)から、どうなっているのかと詰め寄られているグループの様子を観て、娘のデビューは大丈夫なのかと不安な顔をするのだった。
来るはずの、水田トモ子も、シャープ・アンド・フラッツも、いまだに到着していなかったのだ。
ざわめき出す客席。
もはやこれまでと、グルーピの面々は店から逃亡しようと仕掛けるが、そこに立ちふさがったのが、学生を連れた九山だった。
九山は、自分と一緒に警察に行こうと詰め寄るが、グループの面々は、後一時間だけ待ってくれと言う。
裏口学生は九山を制し、とにかく、この連中が本当にペテン師なのかどうか、最後まで見届けようと言いだす。
しかし、その後も、シャープ・アンド・フラッツも水田トモ子も来る気配がなく、支配人がグループに詰め寄って来たので、九山は警察に電話を入れようとするが、その時、ようやく水田トモ子とシャープ・アンド・フラッツが到着する。
客席には、隆三の両親、菊代と健二も姿を見せていた。
あまりに巧く行き過ぎたんじゃないかと首をかしげるメンバーたちの前に、背広に着替えた隆三が姿を見せる。
30分ほど前に、シャープ・アンド・フラッツや水田トモ子の事務所に梶本隆一郎から直接連絡があったらしいと知ったメンバーたちは、隆三が、自ら家に帰る事を条件に身を売ったのだと悟る。
かくして、ステージに登場した久恵だったが、シャープ・アンド・フラッツが演奏をはじめても、泣いて歌えない。
それを見かねた水田トモ子が、ステージに昇り、一緒に唄おうと慰める。
隆三も又、原信夫に謝ると、もう一度演奏してくれと頼み、自分も、久恵の横に立つと、コーラスに参加するのだった。
何とか無事唄い終わった久恵だったが、客席にいた批評家たちは感心し、記者たちは、彼女を追って控え室に殺到する事になる。
その様子を観ていた九山は、グループの面々に、今日の君たちは立派だったとほめるが、肝心の教授の姿が見えないと言う事は、あいつの仲間だったと言う事だなと詰め寄る。
そこに出て来たのが、当の教授。
そいつらは、自分に脅迫されて使い走りをしていただけで、詐欺事件には何の関係もないと言い出す。
それを聞いていた裏口学生は、自分は合格したんだから、ペテンじゃないと言う。
今まで持ち続けていたペテングループの似顔絵を破り捨てながら、それでもこの学生に、一生後悔させているではないかと九山は呟く。
沢口は、その学生に向い、自分達は何も裏工作などしていないのだから、君は実力で入学したのであり、決して裏口入学ではなかったのだと説明すると、学生はようやく明るい表情に戻るのだった。
九山と一緒に警察に向おうとする教授に、やって来た隆一郎は、このグループの後の面倒は自分が見ると約束する。
そんな隆一郎の元に近づいて来た隆三は、感謝の言葉を言い、一緒に帰って行くのだが、その後ろ姿を秘かに見つめていた菊代の表情は哀しげだった。
レストラン「デュポン」では、主人をはじめ、健二たちまでもが、辞めてしまった隆三の事を怒っていた。
ところが、そこへ、隆三の歌声が聞こえて来る。
店にいつものようにコック服で現れた隆三は、河岸で舌平目を買って来たと言う。
その元気な姿を見て喜んだコックたちは、親がすぐに連れ戻しに来るだろうから、水でもかけてやろうと身構えて待っていると、そこに入って来たのは、週刊スターの記者とカメラマンだった。
間違って、水を浴びせられた記者たちのすぐ後から、案の定、隆三の両親と兄弟たちが訪ねて来る。
その姿を見た菊代が、隆三さんは返しませんと立ちはだかると、意外な事に、隆一郎は、息子を立派なコックに育てて下さいと頭を下げて来る。
実は、自分も寺に生まれたのだが、坊さんになるのが嫌で今の仕事をはじめたが、隆三は、そんな自分に一番そっくりなのかも知れないと言う。
兄二人も、隆三の考えに賛成し、姉の孝子も、縁談を考え直すと言う。
今度こそ、一家揃った記念写真を撮ろうと言う事になり、隆三は、これが自分の仕事着だからと、コック服のまま家族の中に入る事にする。
そこへ、隆一郎の口添えで保釈されて来たと言うグループの面々と久恵も姿を現し、隆三と一緒に唄いはじめると、皆で祝福の乾杯をするのだった。
▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼
ダニー飯田とパラダイスキングの面々と、そのグループのボーカルだった坂本九が共演した青春もの。
話の基本としては「スター誕生もの」だが、そのスターに当るのがプロの歌手ではなく、鰐淵晴子と言うのが、ちょっと異色と言えば異色かも知れない。
劇中、鰐淵晴子が唄い、踊るミュージカルシーンなども用意されている。
音大を目指していると言う設定にしては、ちょっと声量不足かな?とも思わせ、最後のデビューの舞台も素人臭いのだが、その辺は、坂本九ちゃんや渡辺トモコが巧くフォローしている。
鰐淵晴子がヴェイオリンの名手だと言う事は知られているが、役柄上とは言え、歌も唄っていたと言うのは知らなかった。
日本人離れした美貌の彼女ゆえ、踊るシーンなどは、なかなか様になっている。
一方、パラキンが唄うシーンは意外に少なく、冒頭、家で練習を始めると、ステージでのミュージカル風シーンに変り、そこでは、九重佑三子が一緒に参加して唄っている。
学歴など世間体を気にせず、自分の夢に向って突き進めと言うシンプルな応援メッセージは、働く青少年が多かったに違いない当時の観客層に向けられたものだろう。
足の悪い弓子役で出ている板倉晴江は、テレビドラマなどにも良く出ていた子役だったのではないだろうか?
顔に見覚えがある。
