TOP

映画評index

ジャンル映画評

シリーズ作品

懐かしテレビ評

円谷英二関連作品

更新

サイドバー

見上げてごらん夜の星を

1963年、松竹大船、永六輔原作、石郷岡豪脚本、番匠義彰監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

夕闇迫る銀座の時計は5時20分を示している。

東京球場横に建つ荒川高校に、路面電車を降りた一人の青年が駆け込んで来る。

彼、定時制高校に通う湯浅太平(坂本九)は、自分の机の中に置かれた手紙を読むのが楽しみで、急いでいたのだった。

それを、級友たちが覗き込むとする。

夕食のパンと牛乳を運んで来たお父ちゃん事、小森(伴淳三郎)も誘って、全員、手紙を持った湯浅について、屋上に昇って行く。

太平の机にいつも入っている手紙とは、全日制の同じクラスで、太平と同じ机に座っている女の子が、定時制の彼らに向けて書いて置いておくものだった。

星空の下で、定時制の彼らを励ます内容を書いている手紙を読んだ太平や級友たちは、それぞれ、手紙の書き手である宮下恵子なる女学生とはどんな女の子なのだろうと理想像を空想してみるのだった。

きっと、金持ちのお嬢さんに違いないと彼らは想像していた。

歌が大好きな太平は、思わず歌を口ずさみはじめるが、その時、自分の歌に合わせるかのように、「♪キラリ キラリ」と、どこからともなく、女の子の声が聞こえたような気がした。

そんな彼らの所に、担任の「かまきり」こと、三輪先生(菅原文太)がやって来て、今度の日曜日、弁論大会があるので、君たちも参加してみないかと誘う。

日曜なら定時制の彼らも全員休みだし、ひょっとすると、全日制の宮下恵子と会えるのではないかと、皆期待に胸を膨らますのだった。

下町の工場で働いていた太平は、同僚の藤本勉(中村賀津雄)から声をかけられ、一緒に、近くの河原まで昼食のパンと牛乳を持って出かける。

勉の用事とは、大工をしている父親が交通事故にあって、腕を怪我してしまったため、家計が苦しくなったので、主任から給料の前貸しをしてもらえないかと言うのである。

気軽に申し出を受けた太平だったが、主任(増田順司)の態度は冷たく、前借りは難しそうだった。

その後、工場に、写真屋で働いている同級生の山田(左とん平)がやって来て、一枚の写真を太平に渡す。

学校からフィルムの注文があったので、その用事で出向いた昼間の2年B組の教室内をこっそリ撮ったものだと言う。

太平と同じ机に座っていた宮下恵子とは、メガネをかけた丸顔の、美人とは程遠い女学生だったと言うのだ。

太平は、そのメガネの女学生が大きく写った写真を見ながら、夢が壊れたようでがっかりしてしまう。

次の日曜日、荒川高校の講堂では、秋季弁論大会が開かれていた。

宮下恵子に会う楽しみがなくなり、教室内で待機していた太平たちの元にやって来た三輪先生は、今日、クラス代表として弁論大会に出るはずだった寺山が来ないと言う。

全日制の女子羽田(九重佑三子)が、彼らを呼びに来たので、断わるかと言いながら、三輪と太平たちは講堂に向う。

演壇では、ちょうど、先日、山田が撮って来た写真に写っていたメガネの女学生(五月女マリ)が弁論を行っていた。

しかし、太平はすぐに、演壇の横に置かれた名前札を見て、彼女が宮下恵子ではない事に気付き、山田に教える。

それを聞いた山田は半信半疑で名札を確認するが、確かにそこには「黒田セツ子」と書かれてあるではないか。

続いて、2年B組の寺山治の番になるが、立ち上がった三輪先生が、欠席なので棄権しますと言いかけた時、手を上げた生徒がいた。

お父ちゃん事小森武太夫だった。

彼が、演壇に向う途中、「ふくろう」とあだ名を呼ぶ弥次がある。

演壇にあがった小森は、自分は49才で、今は国立博物館の守衛をやっているが、そんな自分が何故、定時制高校に通う事にしたか話したいと言い出す。

自分は小学校しか出ておらず、その後は、呉服屋の小僧をやった後、戦争が始まり、ニューギニアに行かされた。

そこでの生活は、さっきあだ名で呼ばれたように、夜だけ活動をする「ふくろう」のようなものだった。

40名程度の小隊だったが、無事、生きて日本に戻って来れたのは、その中の四人だけだった。

戦後は、闇屋をやったり、競輪の予想屋をやったり、ニコヨンもやって生きて来たが、今は、国立博物館の守衛におさまった。

この博物館には、古今東西のきれいなものがたくさん収納されているが、そう言うものを見て行く内に、そう言うものを生み出した日本とか、外国の文化について知りたくなり、それで高校に通う事にしたと言うのであった。

それを聞いていた学生や教師たちは感動し、太平も思わず涙ぐんでしまうのだった。

審査の結果、小森にも優秀賞として賞状が与えられた。

教室に戻り、皆で喜んでいると、先ほど壇上に立っていた黒田セツ子がやって来て、小森の話に感動した。トロフィーをもらうのはあなただと激賞し出す。

照れる小森だったが、そんな黒田が、湯浅太平さんとはどなたかと聞くので、気乗りせず太平が名乗ると、紹介したい人がいると言い、一人の女学生を前に押し出す。

その彼女こそが、いつも定時制の彼らに手紙を書いていた宮下恵子だと言うではないか。

その恵子が他の級友たちに挨拶をしている間、廊下にこっそり出た山田と太平は、自分達の勘違いを喜びあう。

恵子は、想像通りの美人だったからである。

王子経由赤羽行き路面電車に乗っていた藤本勉は、叔父である車掌から、兄の具合はどうだと声をかけられる。

勉は、今、警察に行って来た所だが、示談に判子を押したらもうダメだと言われて来たとしょげる。

自宅に戻って来た勉は、前借りを受け取って来たと太平から封筒を渡されたので、感謝して、家に招き入れる。

勉の下には4人も弟がおり、幼い弟二人が家で留守番をしていた。

貧しい生活の中で、兄弟たちの仲もギクシャクしている様子。

三輪先生の下宿先には、婚約者の鈴木恵美子(清水まゆみ)がシュウマイを土産に持って訪ねて来ていたが、三輪は、欠席が続いている生徒の一人が学校を辞めそうな事を考え込んでいた。

やはり、働きながら勉強をすると言う事は、並み大抵の事ではないのだ。

太平も、その夜、下宿の机を前で居眠りをしていたが、友達が来たと、下宿のおばさん(武智豊子)に起こされる。

来たのは、最近欠席がちの寺山治(山本豊三)だった。

この前、欠席した弁論大会はどうだったと聞くので、小森が代わりに壇上に立って、皆を泣かしたと太平は教える。

寺山は、会社を辞めたのだと言う。

彼の父親は前科者なので、なかなか良い働き口が見つからないし、学校も辞めようと思うと太平に告げる。

太平は、そんな寺山を励まそうと、今度の日曜日、全日制の連中と一緒にハイキングに出かける予定なので、一緒に行こうと誘う。

しかし、その日曜日の朝は雨だった。

両国駅前に来ていたのは太平一人だった。

がっかりした太平が帰りかけた時、バスから降り立って来たのが宮下恵子で、太平を発見すると、雨だし、他に誰もいないので、いっそのこと、自分の家に来ないかと誘う。

その頃、藤本勉は、都電の車掌をしている叔父の家に来て、持って来た洗濯ものを洗おうとしていた。

そこに帰って来たのが宮下恵子と太平で、太平は、はじめて上がり込んだ恵子の自宅で、同僚の勉を見かけ、互いに驚く。

恵子と勉とは従兄弟の関係だと知った太平は、その意外さに驚くが、恵子の自宅が、想像したような金持ちでも何でもなかった事にちょっと安心もしていた。

一方、勉は、高校2年の教科書を恵子から譲り受け、又洗濯を始めるが、隣の部屋から、大学進学の夢を語る太平と恵子の話声が聞こえて来ると、複雑な顔になる。

翌日、荒川高校2年3組では、恵子、セツ子、羽田ら女学生たちが、今、全国で、定時制に通っている学生は45万人、そして、定時制にもいけない人が230万人もいるのだと話し合っていた。

勉の勤める会社では給料日だったので、太平が勉の分を持って来てやると、勉は怪訝そうな顔になる。

先日、前借りを受取ったのに、又、給料がもらえるなんて、どう言う事だと太平に詰め寄る。

太平は、前のは自分の貯金を使っただけだから気にするなと給料袋を押し付けようとするが、勉は、だったら、今その分を返すと、給料袋を太平に押し返してしまう。

ある晩、三輪先生の下宿に集まった定時制の学生たちは、スキヤキを囲んで、内々のホームルームを開いていた。

太平が恵子の家に行った事は、すでに知れ渡っており、それを皆がからかう。

三輪は、集まった生徒たちに、仕事との両立はつらいだろうが、学校は辞めるなよと励ました後、寺山が、学校を辞めて、自衛隊に入る事にしたそうだと報告する。

生徒たちは複雑な顔になるが、取りあえず、自衛隊なら喰いっぱぐれがないので寺山に取っては良かったのではないかと納得しあう。

そこに、恵美子もやって来て仲間に加わり、最後は、皆で唄おうと言う事になる。

その帰り、太平たちは連れ立って球場の中に入り込み、客席でも歌を唄い続けるのだった。

その頃、藤本勉は、夜の工事現場で黙々と働いていた。

父親が寝込んでいるので、兄弟たちを食べさせるため、昼間の工場勤めだけではやっていけなかったからである。

朝になり、自宅に戻って来る所で、新聞配達をしている弟と出会う。

自宅では、朝飯をかきこんだだけで、又、やって来た叔父と一緒に工場へ出勤する勉。

叔父は、生活の事を心配してくれるが、勉は、自分が二人分働くから大丈夫だと答える。

その日の昼休み、二人分のパンと牛乳を手にした太平が、工場内で勉を探していると、いつものように、川の土手で寝ている所を見つける。

何か俺、お前に悪い事したか?と聞く太平に、起き上がった勉は、お前なんかに同情されるのが嫌なんだと吐き捨てる。

その日、帰宅した勉は、自宅に来ていた恵子から、最近、会社を遅刻したり、イライラしている事が多いそうだが、一体、一晩中、どこに行っているのかと聞かれたので、飯を食べるのもやめて、家を飛び出てしまう。

学校では、河野(林家珍平)から、山田が国に帰ると言っていると聞かされた三輪先生が、彼の住所を聞いて、出向いてみる事にする。

屋台で落ち合った山田が言うには、付き合っている彼女が妊娠してしまったのだと言う。

山田は、すでに21才なのだった。

それを聞いた三輪先生は、お前の方が俺より先に大人の仲間入りか…と、複雑な顔になりながらも祝福してやる。

夜の球場、待ち合わせていた恵子と太平は、勉の事を心配しながらも、一緒に食事に出かけるのだった。

翌朝、夜勤明けで家に帰って来た勉は、病床についている父親(浜村純)の様子を見ながら朝食を食べはじめるが、弟たちから、もう米がないので、叔父さんの家から借りて来ようかと聞かれると、そんな事はしなくても良いと叱るのだった。

その日、工場でプレス機の前に座った勉は、過労のあまり、居眠りを始める。

そんな所にやって来た太平が、今日は残業をやってくれないかと聞くと、勉は、こちらにも都合があるのだから、一方的に言われても困ると断わり、最近、恵子と付き合っているようだが、俺を餌にして、彼女の気をひくのは止めろと突っかかる。

それを聞いた太平もむっとなり、二人の仲は険悪になるが、同僚の村岡(ジェリー藤尾)が間に入り、事なきを得る。

昼食時、半分居眠りをしながら弁当を食べていた勉の元にやって来た主任は、落ちかけていた弁当の箸を飯に刺した途端、そのはずみで弁当が地面に落ちてしまう。

眼を開いた勉は、立ち去りかけた主任を呼び止め、落とした弁当を拾えと声をかける。

主任はむっとしながら、お前は残業を断わったようだが、毎晩遊び歩いているのかと嫌味を言いながら立ち去る。

その後、苛立った勉は太平と本格的なけんかをはじめてしまう。

それを止めに来た村岡は、貧乏人同士がけんかをして、何になるんだと二人を諌める。

荒川高校全日制の2年B組では、机の中に入れた封筒がこのところ一週間、全く開封されずに残っているのを見た恵子が、学校を休んでいるらしき太平の事を心配していた。

その夜、思いきって太平の下宿先を訪ねた恵子は、おばさんから、太平は間もなく帰って来るし、別に病気などはしていないと聞き、安心して部屋にあがり、彼の帰りを待つ事にする。

その頃、太平は、勉の代わりにプレス機の前に座り、残業を続けていた。

そんな所に、小森から電話がかかり、かまきりが田舎に帰ると言い出したと言うではないか。

さっそく、三輪先生の下宿先に出向いた太平、小森、河野は、何故、急に学校を辞めるのかと問いつめるが、三輪は、もう決めた事だから…と口が重い。

いつもは無口な小森が、あんたと別れるのは寂しいから、その気持ちをごまかすため、殴らせてくれと言い出す。

三輪は承知し、他の生徒たちにも思う存分殴ってくれと言うが、皆落ち込むだけで、誰も手を出そうとはしなかった。

その帰り、皆と寂しげに唄いながら帰宅した太平を待っていた恵子は、勉が家を飛び出したと伝える。

しばらく一人で暮したいと書かれた新宿の消印のある手紙をもらったから、その辺にいるらしいが、皆目行方は分からないのだと言う。

その時になってはじめて、勉が夜も別の場所で働いていたらしいと恵子の口から教えられた太平は、何故、自分はあいつとけんかをしてしまったのだろう…と反省し、あいつは、定時制にも行けなかったが、皆と同じように勉強をしたかったに違いない。どうな事をしても見つけだしてやると、恵子と共に誓うのだった。

ある日、恋人の美恵子と外で出会っていた三輪先生は、小笠原と言う生徒も、身体を壊して、学校を辞めてしまったし。もうこれ以上、定時制教育を続けて行く意味を見失ったと伝えていた。

それを聞いていた美恵子は、あなたが学校を辞めると言う事は、今の社会に負ける事なのよと言い聞かせる。

その夜、三輪から呼び出しを受けた太平は、恵子と連れ立って下宿に行くと、、小森や河野ら、恵美子と共に待っていた三輪から、学校を辞める事を思いとどまったと聞かされ喜ぶ。

美恵子も、三輪をバックアップするため、何か仕事をはじめてみるので、皆も協力してくれないかと言う。

その後、勉の家の兄弟たちに、何か食べ物でも持って行ってやろうと出向いた太平と恵子は、焼き芋を買おうとしていたところで、家の方の様子を物陰からうかがっている勉を発見、逃げる相手を追い掛けて、神社の所で捕まえる。

苦しんでいたのなら、どうして自分達に相談してくれなかったのかと問いつめる太平に、勉は、そんな事、誰にも話したくないよと拗ねる。

そんな勉の態度を見た太平は、実は、俺は両親も死んでしまったし、兄弟もなく、ひとりぼっちだから、寂しいけれど、誰にも渡す相手がないので貯金くらいはできる。

それをお前に使ってもらいたかっただけなのに…と打ち明け、これまでお前も夜も寝ずに頑張ったんだから、もう家に帰ってやれと説得する。

後日、トラックの荷台に乗り、太平の故郷である三浦半島の農村にやって来た三輪、恵美子、太平ら生徒たちは、かねて連絡をしておいた親戚や小学校時代の級友たちに、恵美子が始める八百屋のために野菜を分けてもらう事にする。

荷造りを終えた彼らは海辺でひと休みをし、今後の計画を語り合う。

小森は、故郷の青森からリンゴを、三輪は故郷の群馬からキャベツを…と言うように、皆、協力して各地から野菜を直送してもらい、それを売って行くつもりなので、もし良かったら、うちで働いてもらっても良いと言う三輪の言葉を聞いた生徒は喜ぶ。

恵子は、自分も全日制を辞めて、太平たちと一緒に定時制で勉強しようかと思っていると打ち明けるが、太平は、自分達のような定時制に通っている生徒たちの事を全日制の連中にも伝えてくれるだけで良いのだと止める。

河野が勤めているちんどん屋(ダニー飯田とパラダイスキング)が練り歩き、賑わう「八百学」の前には、大勢の買い物客が集まっていた。

そこで、恵美子と共に野菜を売っていた三輪先生の元に、山田もやって来て手伝いはじめる。

工場では、黙々と働く勉の所に、パンと牛乳を持ってやって来た村岡が、もう短気を起こすなよと語りかけていた。

その夜、荒川高校の校庭では、定時制の生徒たちが野球をしていた。

ピッチャーを勤めているのは三輪先生。

その後、校舎の屋上に登った彼らは、太平の唄う「見上げてごらん夜の星を」を一緒に唄いはじめる。

三輪は同行した恵美子や恵子に、この歌は、彼らの先輩が作った歌なんだと教える。

荒川高校の上空には、大きな星空が広がっていた。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

昭和38年度芸術祭参加作品。

主題歌は、坂本九の代表曲として良く知られているが、映画の主題歌だったとは知らなかった。

内容は、定時制に通う勤労青年と、その同僚で、定時制にも行けない貧しい友人の苦悩を中心に、真面目な青春ものになっている。

定時制のクラスに、一人だけ中年男が混じっている所など、後年の山田洋次監督「学校」を連想させたりする。

ひょっとすると、「学校」は、この作品をヒントにして、焼き直したものかも知れない。

中村賀津雄のシリアスな演技が印象的。

若い頃の左とん平や林家珍平(テレビの大川橋蔵版「銭形平次」で、がらっ八を演じていた)の登場も珍しいが、何と言っても珍しいのは、真面目な先生役を演じている菅原文太の姿だろう。

新東宝が潰れた後、松竹に移籍した頃の作品だと思うが、この当時は、脇役専門と言う感じで印象も弱く、彼にとっては不遇の時代だったのではないだろうか。

地味な下町人情劇のようなものばかりを撮っていた当時の松竹の中では、彼のようなアクの強い風貌は使い難かったのかも知れない。

定時制高校や苦学生たちと言う目だたない素材に光を当て、それを紹介しようとする良心的な意図は買うが、作品として、ものすごく感動作になっているかと言えばそうでもなく、やや凡庸な印象しか残らないのが惜しい。