1936年、P.C.L.+吉本興業、秋田実原作、岡田敬脚本+監督作品。
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各種の店が一軒家に集まった商店街「旭市場」の宣伝の為、店の前ではちんどん屋が「二人は若い」を演奏している。
その中では、八百屋、酒屋、米屋などが店を開き、買い物客で賑わっている。
そんな中で、慣れない手付きでコロッケを形作っているのは肉屋の店員(横山エンタツ)だった。
その小さな肉屋の主人(花菱アチャコ)はひき肉を作っていたが、店においてあるラジオは古いため、何かぶつかると鳴り出すと言う代物だった。
その時も、何かの拍子で鳴りはじめ、ちょうど相撲中継の最中だったので、店員と主人は、客もそっちのけで中継に聞き入る。
しかし、いよいよ取組みが始まろうかと言う肝心な時になって、ぷっつり音がならなくなってしまったので、がっかりした二人は、その場で、相撲をネタにした漫才を始める。
その頃、米屋の主人で、商店街全体の鍵を預かっているお久(高尾光子)の父親が商品が入れてある倉庫へ出かけて行く。
一方、肉屋の店員は、主人に時間を確認し、夕方の6時だと知ると、頼むぞと言い残し、どこかへ出かけてしまう。
倉庫の中で、黒い幅広帽子とコートを着込んだ怪しげな人物と出会っていた米屋の主人は、もうこれ以上はダメだ。あんたには愛想がつきたと言っていたが、その直後、コート姿の怪しげな男に襲われ、その場に倒れてしまう。
そんな事は知るはずもない娘のお久と酒屋の若旦那清さん(市川朝太郎)は、商店街の片隅で逢い引きをしていたのだが、その様子を、酒屋の女店員(清川虹子)が、好奇心も露にしっかり目撃していた。
やがて、肉屋に店員がふらりと戻って来て、又、主人に時間を尋ねたので、5分進んでいる時計で6時25分だから、今の正確な時刻は6時20分だと教えられると、僕がいなくなっていた20分間に、僕は人を殺して来たかも知れないが、誰もこれを証明できない。これをアリバイ(現場不在証明)と言うんだといきなり説明し出す。
その頃、店に戻って来たお久は、父親の部屋をガラス戸越しに覗き込むと、金庫が開けっ放しになっているのを発見する。
出かけた父親は戻って来ないし、ガラス戸は鍵がかかったまま。
狼狽するお久の様子を見て、近づいて来た酒屋の女店員は、ひょっとしたら泥棒の仕業かも知れないから、警察に連絡した方が酔いと言い出すが、同じく近づいて来た八百梅の主人(三島雅男)は、主人が締め忘れただけかも知れないから、あまり騒ぎ立てない方が良いと言う。
その内、他の店の店員たちも集まって来たので、今日はこの辺で、みんな店じまいにして、相談しようじゃないかと八百梅の主人が提案する。
それに賛成した各店は、一斉に「只今売り切れ申し候」と書いた紙を出すと、客はみんな商店街から出て行ってしまった。
残ったのは、各店の関係者だけである。
そんな中、鍵がかかった倉庫の前にシャシャリ出て来た肉屋の店員は、実は米屋の主人が行方不明になったが、ガラス戸に鍵がかかっていると言う事は、内部の人間の犯行に違いないと説明し出す。
鍵を持っているのは、いなくなった米屋の主人だからだ。
その偉そうな説明を聞いていた肉屋の主人が、お前は一体何者なんだと問うと、実は僕は探偵だと告白する。
何か目星はついているのかと主人が訪ねると、足振りの怪しいやつに目をつけるのだと言う。
身ぶりと言うのは聞いた事あるが、足振りと言うのは聞かんな〜…と主人が不思議がると、犯人は、脛に傷を持っている…とシャレを言うではないか。
そんな怪しげな探偵が話を続けている最中、何者かの手が、札束を八百梅の店頭に置いてあったバナナの房の下に押し込んでいた。
さらに、同じ手が、酒屋のミソ樽の中に、鍵束を押し込む。
その後、酒屋に戻った女店員は、又、こっそり二人きりで密談しているお久と清さんの姿を見かけ、女主人に、この前清さんが、米屋の主人ともめていたと告げ口をするのを、隣の肉屋の主人が壁越しに聞いていた。
その肉屋の主人の片肘があたったラジオが、急に鳴り出す。
その頃、米屋の金庫部屋の前にいた探偵は、ガラス戸の鍵穴周辺から明瞭な指紋を一つ採取していた。
そして、肉屋の主人の手にインクをつけると、その指紋を紙に転写する。
その後、酒屋に出向くと、女店員や女主人ら全員の指紋を採りはじめる、
一方、お久と会っていた清さんは、二人きりでどっかに逃げよう。駆け落ちでもして、親父さんを脅してやった方が良いんだと話していた。
どうやら、二人は結婚したがっているのに、これまで、お久の父親が許してくれない事に苛立っている様子。
その会話を、肉屋の主人が又盗み聞きしていたが、又、ラジオに触ってしまったので、鳴っていたラジオが切れてしまう。
そんな中、倉庫の中で倒れていた米屋の主人は、まだ息があり、苦しげに這い回っていたのだが、鍵がかかっている倉庫の中に人間が入っているとは、まだ誰独り気付いていなかった。
米屋の金庫部屋の前に集まった関係者の前で探偵は、全員から採取した指紋と、自分が、ガラス戸の鍵穴周辺から採取した指紋を突き合わせれば、たちどころに犯人が判明すると言い出す。
そうして、一枚一枚、採取した関係者の指紋と、現場に残っていた指紋を照合しはじめるが、誰の者とも符合しない。
それを横で見ていた肉屋の主人は、内部の犯行と言う事は、お前自身も容疑者の一人ではないのかと言い出し、お前自身の指紋は採ったのかと聞く。
探偵は、自分が犯人ではない事は自分が一番良く知っているから採る必要はないと言いながらも、一応念のため、自分の指紋を採ってみると、その指紋と、現場で採取した指紋はそっくりだった。
気まずくなった探偵は、何も言わず、立ち尽くしていたが、その一部始終を見ていた関係者たちは、呆れてみんな店に戻ってしまう。
そんな中、どこかに電話をしていた清さんの姿を見つけた探偵は、外部と連絡を取ってはいけないと近づくと、その電話線を包丁で切ってしまう。
一方、御簾の陰に人影を見つけ、女たちが騒ぎ出したので、何事かと人が集まり出すと、物陰に隠れていた怪しげな男が急に飛び出して来て、鍵のかかった入口に逃げようとする。
それを、取り押さえようと、男たちが乱闘を始めたので、飛んで来た物がぶつかった肉屋のラジオが、又急に景気の良い音を奏で出す。
探偵も、その男に組み付いて行くが、簡単にダンボール箱を頭にかぶせられ、目が見えなくなってしまう。
続いて飛びついた肉屋の主人も簡単に跳ね飛ばされてしまうが、がっしりした体型の魚勝の主人と清さんが勇敢にも飛びかかって、その男を、何とか捕まえる事が出来た。
その騒ぎの最中、又物が当った肉屋のラジオは音を止めてしまう。
捕まえた男の顔を良く見ると、今日表で演奏していたちんどん屋の一人ではないか。
自分は何も悪い事はしていないのにと言うちんどん屋だったが、それなら何故逃げ出したとみんなが問いつめると、実は事情があって…と、言いながら、服の中に隠していた数々の品物を取り出しはじめる。
みんな商店街の店から盗んだ品物だった。
その男は、こそ泥だったのだ。
その内、時間が過ぎ、深夜の3時35分になる。
肉屋の主人は、三つある入口は全部鍵を絞めているから、大丈夫だと言うが、老婆が一人探偵の前にやって来て、年寄りは近いので、外に出してくれと言う。
最初は何の事か分からない探偵だったが、小用の事だと気付くと、自分が付き添って外に出してやる事にする。
清さんとお久は、又こそり出会って、ここから逃げ出そうかと相談していた。
一方、肉屋の主人は、探偵が読んでいた変装術の本を見つけると、自分もちょっと読んでみて、ひげをつけて変装の真似事をしてみると、その姿を探偵に見せに行く。
すると、探偵の方も負けじとばかり、ひげをつけてみせる。
そんな下らない遊びをやった後、酒屋に調べにやって来た探偵は、店の奥に外への抜け道を発見する。
その抜け穴を確認して、再び酒屋の店に戻って来た探偵は、躓いて、目の前にあった樽の蓋を外して、中の味噌に手を付いてしまう。
そして、そのおかしな感触から、中に鍵束が埋められていたのに気付く。
その鍵束を肉屋に持って帰った探偵は、何を思ったのか、それをコロッケの中身に埋め込んで、他のコロッケの具と共に揚げはじめる。
肉屋の主人の方は、八百梅の店先に置いてあったバナナを勝手にちぎって食べていたが、その時、バナナの下に隠してあった札束を発見し、これ又、店に戻ると、冷凍庫の中に隠す事にする。
そんな中、魚勝の主人が、こんな所で徹夜させられる事に怒りだし、家に帰ると言い出す。
探偵は、揚げ終わった大量のコロッケを冷凍庫の中にしまっていたが、魚勝の主人の方は、みんなの身体検査をしようじゃないかと関係者を集めていた。
そこにやって来た探偵は、抜け穴から逃げ出した清さんがいないはずと予測していたが、いつの間にか、清さんとお久は戻って来ていた。
全員を確認していると、何故か、肉屋の主人の姿だけがいないではないか。
怪んで、みんなで肉屋に向い、ひょっとしてと、冷凍庫を開けてみると、その中にすっかり白く凍り付いた肉屋の主人が固まっていた。
急いで、みんなでお湯をかけはじめる。
ようやく、氷が解けた肉屋の主人の姿を良く見てみると、片手に初束を握っているではないか。
一方、倉庫の前に立っていた三人の娘たちは、倉庫の扉の下から流れ出て来た血を見つけ悲鳴をあげる。
その声でみんなが集まって来たが、中に入るには鍵がいる事が判明。
すると、探偵が、店から大量のコロッケを持って来て、氷が解けたばかりでまだぼーっとしている主人に喰えと勧める。
意味が分からない肉屋の主人だったが、言われるままにコロッケにかぶりつくと、中に何か硬い物が歯に当る。
それが目当てのコロッケと知った探偵は、平然とその中から鍵束を取り出すと、それで倉庫を開けるのだった。
それを見ていた肉屋の主人は、鍵を持っている以上、お前は犯人だと指摘する。
しかし、倉庫の中で倒れていた米屋の主人が見つかると、探偵は警察に連絡しようと電話機の所に来て懸命に相手を呼出そうとするが、何故か相手は全く応答しない。
それもそのはず、先ほど探偵自身が電話線を切断していたからだ。
その場にやって来た肉屋の主人がそれを指摘すると、探偵は黙ったまま、切れた電話線をくっつけようとして、かえってショートを起こして、電話機そのものが壊れてしまうのだった。
その後、店の奥の抜け穴から出ようとしていた清さんを捕まえようとした肉屋の主人だったが、簡単に弾き飛ばされてしまう。
それで、今度は、探偵が抜け穴から外に出ようとしていた清さんを捕まえる。
その後、一人で倉庫に入り、証拠を探していた探偵だったが、その背後には、怪しげなコート姿の男の影が蠢いていた。
その背後の怪しげな男が、今正に探偵に飛びかかろうとした瞬間、外から肉屋の主人が呼ぶ声が聞こえて来る。
何事かと探偵が倉庫の外に出てみると、彼に近づいて来た肉屋の主人が、今ここで、お前が分かったと叫べば、真犯人はきっと慌てるに違いないから、すぐ分かるはずと耳打ちする。
素人発想に気乗りしない探偵だったが、試しに、その通りに叫んでみて、思わず、近くにいた八百梅の主人によろめいて捕まると、観念したかのように、八百梅の主人は、俺がやったんだとその場で自白してしまう。
そして、逃げようする八百梅と、それを捕まえようとする関係者たちで、市場の中は大混乱になる。
男たちの乱闘を見ていた酒屋の女店員は、あの人は、米屋の主人に借金があったらしいとみんなに打ち明ける。
その米屋の主人の傷は大した事がなかったらしく、呼出された医者の見立てでは、三週間もすれば起きられると言う。
暴れ回っていた八百梅の主人は、すでに朝になっていた表に飛び出すと、停めてあったバイクに乗って逃走を始める。
その後を追った魚勝たち男衆は、トラックに乗って追い掛ける。
表に出た探偵もそれに続こうと、バイクに跨がると、動き出そうとするがなかなか動かない。
そのバイクの後ろに繋いだリヤカーに乗っていた肉屋の主人がどうしたんだと尋ねると、僕は運転が出来ないのだと言う。
その頃、先回りしたトラックにぶつかりそうになった八百梅のバイクは転倒して、ころんだ主人は、トラックから降りて来た男たちに捕まっていた。
その時になって、ようやく動き出した探偵のバイクは、壁を次々に破壊しながら、とんでもない方向に突き進んで行くのだった。
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吉本興業の人気者だったエンタツ・アチャコを主役にした探偵コメディ。
とは言っても、探偵ものとしては初歩的と言う以前の出来で、基本的に市場の中だけと言う舞台設定は、芝居を見ているようで、テンポも悪く、伏線も皆見せ掛けに過ぎず、雰囲気だけで無内容な、ダラダラとした退屈な作品になっている。
とにかく、エンタツを始め、登場人物たちの、意味ありげで、実は何の意味もない行動が多すぎる。
どうやら、当時の製作者たちは、そうした「怪しげな行動」さえ詰め込めば、探偵ものらしくなると思っていた気配がある。
観ているこちらとしては、そうした行動に、皆意味があると思っているのだが、実は、それらの行動には何の説明もないし、意味もなかったりするので、白けてしまうのだ。
自分の父親が失踪して、缶詰めにされて捜査中だと言うのに、のんきに駆け落ちの相談などしている恋人と言うのも不自然きわまりないし、肝心のエンタツが、本当の探偵なのかどうかすら最後まで分からず、探偵だとしても、何故、そんな市場で働いていたのかすら分からないまま。
前半、6時から20分間、エンタツが急に店を出て行く行動も、結局「アリバイ」と言う説明をする探偵らしさを表すためだけの事だったらしく、ではそのアリバイが、後半、事件解決に絡んで来るのかと言えば、何も絡んで来ない…と言った具合。
昔の感覚と言ってしまえばそれまでだが、ホームズやルパンの名を出しているにしては、お粗末すぎる内容。
見所と言うと、劇中で唐突に、エンタツ・アチャコの漫才が始まり、その現役時代の姿を観られる所くらい。
確かに、ボケまくるエンタツと、突っ込みまくるアチャコの漫才は、今聞いても面白い。
残念ながら、この映画には、その漫才のネタ以上の笑いのアイデアが弱いのだ。
時々、指紋採取に失敗するエピソードや、そそっかしくも自ら切ってしまった電話で、一生懸命警察に連絡を取ろうとするエンタツの姿、冷凍庫の中で凍り付いてしまうアチャコのエピソードなど、それなりに面白い部分もあるのだが、その笑いの部分と、シリアスと言うか、演劇的な芝居をしている他の役者との雰囲気がどうも巧くマッチしていないように思える。
だから、笑いがどのシーンも巧く弾けないまま、尻すぼみになってしまっている印象がある。
若い三島雅男が、バイクを走らす姿(スタントの可能性あり)なども珍しいが、もっと珍しいのは、魚勝の店員を演じているのが、若き日の大村千吉である事だろう。
タイトル部分で、主要な役者たちが登場し、その役名と芸名が登場するので気付いたが、それがなかったら、まず分からないのではないだろうか。
映画としては、とても成功作とは言いがたいが、エンタツ・アチャコの全盛期の漫才が聞ける貴重なフィルムである事は確かだろう。
