1959年、日活、高橋二三脚本、井田深監督作品。
▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼
唇こそ女の命…と、フランス語で喋ったベルマン化粧品秘書課長(藤村有弘)は、続いて、日本語で宣伝文句を述べたてる。
それを聞いていた女性社長の荒谷しずえ(相馬千恵子)は、すぐにダメを出し、我が社の化粧品は16才から66才までの全女性に買ってもらうのだから、もっとパンチが欲しいと訴える。
今日の社長のスケジュールを読み終えた秘書課長は、ちょうど今から、わが社提供のテレビの新番組が始まると言うので、静江は観てみるとことにする。
ベルマン化粧品提供「ザ・ヒットパレード」が始まると、すぐに、コマーシャルの歌が始まるが、何とそれを唄っているのは、しずえの娘のユミ(伊藤ユミ)ではないか!
それを観たしずえは、あの子には、流行歌手などには絶対にさせないと怒りだし、すすに、テレビ局から連れ帰って来るように命じる。
すると、秘書課長は、近くにいた秘書係長に同じ事とを命じるのだった。
テレビ局にやって来た秘書係長は、スタジオを迷ってしまい、ちょうど時代劇を撮影中だったセット内に入り込んでしまったので、ただちに演出家がストップをかける。
「ザ・ヒットパレード」はどこのスタジオで撮っているのかと聞く秘書係長に、黒頭巾役の役者は、もう終わったと言う。
つまり、そのCMソングを唄っていたユミも帰った事になる。
そう報告を受けた秘書課長は、さっそく、自宅に電話してみるが、出て来た女中(久木登紀子)は、ユミは戻って来ないし、家出をしたらしく書き置きが置いてあったと言うので、それを伝え聞いたしずえが電話を代わり、書き置きを女中に読ませてみる。
「ママ、私はどうしても歌手になるつもりだから、立派な歌手になれるまで家には帰りません」と言う内容だった。
驚いたしずえは、ただりに興信所に電話をして探偵を呼びなさいと命じると、又、同じ内容を、秘書課長が目の前にいた秘書係長に伝言するのだった。
その内、ラーメンの出前持ちが社長室に入って来たので、そんな注文はしていないとしずえが追い返そうとすると、いえ、確かにこちらでお呼びになりましたと言いながら店員の服を脱いだその出前持ちは、新東京探偵社から来た女性探偵岡本ミヤ(白木マリ)と名乗る。
すぐさま、しずえはユミの写真を渡し、先ほどまで武蔵野テレビで唄っていたと説明すると、ミヤは、今日中に解決できると言い、立ち去って行く。
その頃、吹き込みレコード30万枚突破記念パーティでヒット曲「星は何でも知っている」を披露していたのは、アトミックレコードの専属歌手平田昌彦(平尾昌彦)だった。
その場にいたアトミックレコードの社長は、招待していたライバル会社ミサイルレコードの社長銭山(深見泰三)が来たので大歓迎する。
そこに唄い終わった平田昌彦が来たので、社長が銭山を紹介すると、平田は、自分がアトミックレコードの専属になる前の話をし始める。
まだ素人だった平田は、先輩の岡本信一(岡田真澄)がディレクターとして勤めているミサイルレコードのオーディションを受けに行くが、まったく今の若者ときたら、金もうけしようとすると、すぐ野球選手か、流行歌手か、映画スターになりさえすれば良いと考えている…などと、ぶつぶつ言う岡本にテストルームに連れて行かれテストが始まったのだが、株に目がない岡本は、平田がピアノに合わせ「月の砂漠」を唄っている最中も、トランジスタラジオをつけて株式市況を聞いている始末で、唄い終わった平田に、帰りの電車代だと言って、都電の回数券を渡してあっさり追い返したと言うのだった。
それを聞いたアトミックレコードの社長は面白がって、すぐに宣伝部長に今の話を新聞にスキャンダルとして流すように指示する。
一方、恥をかかされた銭山は、すぐに、ミサイルレコード社に戻ると、問題のディレクター岡本を呼出すのだった。
ちょうど、自分がキャバレーからスカウトして来た星川アヤメ(弓月真理)と言う新人歌手から絡まれていた岡本は、文芸部長(広瀬優)から、社長がお呼びだと声をかけられると、すぐに部長に今月分の給料の前借りを打診するが、もちろん、前借り常連の彼の言いなりになる部長ではなかった。
社長室に入った岡本は、平田昌彦と言うスターの素質を見抜けなかっただけでなく、星川アヤメなどと言うどうしようもない新人を連れて来よって!そんなに株が好きなのなら株屋になれと、銭山社長から大目玉を食らう。
当然首でしょうね?と先んじた岡本だったが、銭山社長は、平田昌彦に負けないような新人歌手を見つけて来いとハッパをかけるのだった。
そんなミサイルレコードを訪ねて来たのが、「大東亜行進曲」や「港の花売り娘」などの大ヒットを飛ばした往年の人気歌手で、今はピアノの調教師に転じた竹下竜一(松下達夫)だった。
そんな竹下からテストを受けさせてもらえないかと声をかけられた岡本は、さすがにもうカンバックは無理でしょうと返事をするが、自分ではなく、連れて来た自分の娘のエミ(伊藤エミ)だと言う。
さっそくテスト室で、ピアの演奏に合わせ「この道」を唄いはじめたエミだったが、審査員として参加していた文芸部長は励ましてくれたが、岡本の方は、あっさり、又来てねと歯牙にもかけない様子。
がっかりした父娘が部屋を出て行った後、エミが楽譜を忘れている事に気付いた文芸部長は、岡本に持って行ってやるように言い付ける。
仕方なく、二人を追って部屋を出た岡本は、廊下でばったり妻のミヤと出くわす。
屋上に登り、亭主の信一に、あなたはディレクターなんて向いてないんだから、すぐに仕事を辞めて、自分の仕事を手伝ってくれたら、今よりずっと給料も良くなるはずだと説得し始めるミヤに対し、男としてのプライドがある信一は、亭主が女房の助手なんかになれるかと突っぱねる。
そんな所へやって来たのが、忘れた楽譜を取り戻しに信一を探しに来たユミだった。
テストをお願いしますと言うユミに、君はさっき唄ったじゃないかと問い返す信一に、ユミはまだ唄ってないと反論する。
そこにやって来たのが、竹下とエミ親子。
はじめた対面したエミとユミは、互いに瓜二つだったので、お互いに呆然とする。
しずえの元にその事を報告に戻ったミヤは、実はエミとユミは、流行歌手だった竹下と、当時材木業をやっていた自分との間に生まれた双子だったが、竹下の人気が下火になって経済力がなくなったので、離婚したのだと明かす。
一方、竹下の家にやって来た信一の方も、竹下から事情を聞いていた。
世の中、何と言っても金だと言うしずえに同調するミヤ。
あんな業突く張りはごめんと言う竹下に同調する信一。
良家では、エミ、ユミの気持ちはそっちのけで、大人の女同士、大人の男同士が互いに意気投合するのだった。
そんなある日、又、社長に呼出された信一は、有望な新人を見つけたか?と聞かれたので、まだだと答えると、自分が有望な新人を紹介すると言いながら、妾のミドリ(堀恭子)を見せる。
そんなミサイルレコードに、ミヤが又やって来る。
テスト室では、ミドリが唄っていたが、とても歌手になるようなレベルではなく、信一は恐縮しながら、採用できないと社長室に報告に行くが、社長は別に怒る風でもなく、膝の上に座らせたミドリには、新しいバッグを買ってやるからと機嫌を取りながら、信一には、平田昌彦に代わる良いな新人を見つけて来いとハッパをかけるだけ。
恐れ入って部屋を出た信一だったが、社長とミドリのその後の展開が気になり、入口の鍵穴からな中を覗き込む。
その銭山社長、ミドリといちゃつこうとして、つい立ての影に人影を発見、誰何すると、出て来たのはミヤだった。
彼女は、銭山の奥さんから依頼されて調査中だったと説明すると、ミドリの事を奥さんに報告して良いかと迫る。
ミヤが信一の妻である事を知っている銭山社長は、事情を悟ったように、信一を首にするなと言いたいんだろうが、心配せんでも首にはせんと断言する。
ところが、ミヤは、否、首にして欲しいんですと意外な事を言い出す。
それを、入口の外で聞いていた信一は、チクショーと悔しがるが、その後、部屋から出て来たミヤから10万円、小遣を渡されると、ちゃっかり受取るのだった。
その後、平田昌彦を茶店に呼出した信一は、誰か有望な新人がいないかと相談するが、都電の切符を渡されてテストを落とされた恨みをいまだに引きずっている平田は、先輩はこの仕事に向いていないんじゃないかと忠告するだけ。
そんな態度の平田に信一は、自分が呼出した事も忘れて、今月は小遣もまだもらってないのでと言いながら、茶代も払わずに帰ってしまう。
会社に戻って来た信一は、ばったりユミとエミに出会う。
二人とも、歌手になる夢を諦められないのだと言う。
屋上に連れていって、ベンチに一緒に腰を降ろし、バヤリースを飲む三人。
ユミとエミは、親同士は不仲だけど、私たちは時々会おうよと相談する。
ユミが、自分は時々、父親と暮してみたいというと、エミは時々母親と暮したいと答える。
それを聞いていた信一は、それだけ互いに似ているんだたっら、絶対ばれないから、服を交換して、互いの家に行ってみたら?と提案する。
さっそく、エミの服を着て竹下の家に向ったユミだったが、近くまで来て目的の家が分からない。
ちょうど通りかった豆腐屋(井田武)が声をかけて来たので、これから家に帰る所だというと、家なら目の前じゃないかと妙な顔をされたので、急いで竹下の家に入り込む。
一方、荒谷邸にやって来たエミの方は、飼い犬のシェパードに吼えかかられたのでびっくりしてしまうが、女中がお嬢さんじゃないかと犬を押えに来てくれたので、何とか無事家に入る事ができた。
その夜、父親にトンカツを作ってやったユミは、父親が晩酌をする事や冷蔵庫の場所さえ知らず、竹下に不思議がられる。
エミの方は、母親の夕食作りの手伝いをしながら、両手が塞がったまま冷蔵庫を開けようとして苦労している姿を見られ、しずえから、下のペダルを踏めば開く事を聞き感動するのだが、母親の方は首をかしげていた。
竹下の肩をもんでいたユミは、父親が母親の悪口を言い出したので、お母さんはそんな悪い人じゃないと言い返してしまう。
逆にエミの方は、寝室で母親から肩をもんでもらっていたが、くすぐったいのでやめてもらい、葡萄酒を飲んで休む事にしようと言うしずえから、葡萄酒を持って来てと言われるが置き場所が分からない。
たくさん置いてある洋酒を見つけたエミは、これをお父さんに飲ませてあげたいと思わず洩らすのだった。
その後、しずえが竹下の悪口を言い出したので、聞いていたエミは怒って反論してしまう。
お父さんと仲直りしないと私は両方とも付き合わないと言い出したエミが、娘のユミではない事に気付いたしずえは驚いてしまう。
竹下も、同じように、仲直りしないと付き合わないと言うユミが、エミではない事を知り、愕然としていた。
その夜、泥酔した信一が一人フラフラ歩いていると、車で近づいて来たミヤが、乗らないかと誘う。
しかし、君は相変わらずしつこいねと一蹴した信一は、そのまま、ベンチの下の地面に寝てしまうのだった。
信一が見上げた満天の星空に、流れ星が一つ飛ぶ。
ある日、いつものように店で唄っていた平田昌彦は、客席にいたミヤの元に来ると、信一が私の懐に戻って来る方法がないかしらと相談を受ける。
その頃、ミサイルレコード社の信一の元に、しずえと竹下が一緒にやって来る。
どうやら仲直りしたらしい。
二人が信一に、今日、ユミとエミが再びテストを受けるが、この際、はっきり引導を渡してくれと頼む。
テスト室で一緒に並んだエミとユミは、ピアノ演奏が始まると、互いに譲り合い、一人づつ交互に唄いはじめるが、段々、一緒に唄い出すようになる。
二人が唄う「情熱の花」は見事なハーモニーだったが、聞いていた信一は、又しても、ラジオの株式市況を聞きはじめる。
しかし、調整室には文芸部長もやって来て、二人の歌に聞き惚れ出す。
そうした様子に気付いた信一は、すぐに態度を豹変させ、君たちはコンビで唄うべきだと言い出す。
文芸部長は、竹下としずえがいる前で、すぐに、新スター誕生と電光ニュースを流すよう部下に命ずる。
そんな情報を平田昌彦は、アトミックレコードの社長に伝えていた。
アトミックレコード社長は、その二人の新人をこちらに契約させてくれたら、コミッション料として500万出すと言う。
ミサイルレコード社では、銭山社長の前で、エミとユミが「チャッキリ節」を披露していた。
そんな様子を観ていたしずえは、これはどうなるのかと心配するが、竹下はもう手遅れだ、マスコミの相手にしては叶わないと言い出す。
そんな二人が廊下に出たところで待ち受けていたのは平田昌章。
その平田から仮契約書を差し出され、拇印で良いのでこの場でサインしてくれと言われた竹下は、観念してサインしてしまう。
そんな事は知らない銭山社長は、エミとユミをすっかり気に入り、すぐに、作曲家にデビュー曲を書いてもらうよう依頼させる。
新市や文芸部長も同席していた社長室にやって来た両親に、さっそく契約書をかわしたいと言う銭山社長だったが、竹下は、先程したが…?と不思議がる。
竹下が持っていたその写しを確認した信一は、それがライバル、アトミックレコードのものである事に気付く。
失態を知った銭山から怒鳴られた信一は、今度こそ間違いなく首になる事を悟るのだった。
その後、ミヤと平田に茶店で会った信一は、コミッション料として平田がもらった500万円は、本来先輩のものだと言われ渡されるが、二人からバカにされたと感じた信一は拒否する。
しかし、その場で聞きはじめたラジオの株式市況を聞いている内に考えが代わったのか、急にこの金はもらっておくと言うと、すぐに、日東証券に飛び込んで株を買うと、それが値上がりして、たちまち信一は巨万の富を得る事になる。
新聞には、アトミックレコードからデビューする事になったエミとユミは「ザ・ピーナッツ」と命名され、そのデビュー曲は「可愛い花」と発表される。
その頃、信一の方は、次から次へと購入した株が値上がりし、一挙に大金持ちになってしまう。
山野ホールで開催された「ザ・ピーナッツ」結成公演に乗り付けたミヤの車の横に、外車に乗った信一が停まる。
ホールの玄関に並べられた花輪の中でも、一番目だつ大きさを誇っていたのは、日東証券から送られた花輪だった。
両親と平田が舞台脇で見守る中、 「ザ・ピーナッツ ヒットパレード」と銘打たれたショーが始まり、「可愛い花」が披露される。
客席では、ミヤと信一が、一つ離れた席に座って聞いていたが、曲を聞いている最中、互いにちらちら見つめあう内に、いつしか手を差し伸べあって握りあうのだった。
「可愛い花」を唄い終わったザ・ピーナッツには、客席からテープが乱れ飛ぶ。
▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼
上映時間49分の中編作品で、ザ・ピーナッツ主演のコメディ。
たあいない話と言ってしまえばそれまでだが、ファンファン(岡田真澄)のおとぼけ振りが楽しい作品になっている。
白木マリが、亭主を尻に敷きたがる女房役と言うのがまず意外。
この当時の白木マリと言えば、踊子役など、ヒロインに次ぐ二番手女優と言ったポジションの作品が多いのだが、この作品では主役のザ・ピーナッツが演技的には素人と言う事もあり、かなり目だつ役になっている。
どことなく、後年の「必殺仕事人」における、主水の女房りつを連想させたりする所が興味深い。
ザ・ピーナッツの「情熱の花」などが聞ける楽しさもあるが、テストの時、彼女らの後ろで演奏しているバンドは、「渡辺晋とシックス・ジョーズ」であり、指揮をしている渡辺晋の姿が一瞬写っているのも見のがせない。
冒頭では、往年の人気番組「ザ・ヒットパレード」のオープニングがちらりと登場し、スマイリ−小原の姿も一瞬映し出される。
もう一つの見所は、平尾昌彦が、ゲスト歌手としてだけではなく、役者としても活躍している事。
「マーボー」と書かれたベレー帽に、女物のような奇妙なファッションを着て唄う姿なども、今となっては貴重な映像だろう。
この時代の日活コメディは、なかなか楽しい作品が多いのだが、この作品もそうした一本だと思う。
