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花のお江戸の法界坊

1965年、東京映画、小国英雄脚本、久松静児監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

歌舞伎の幕が開く。

下手より登場した法界坊(フランキー堺)に、高僧初代法界坊(榎本健一)が、釣鐘堂建立の勧進しに江戸へ向うよう命じながら、秘伝の甲賀忍法帖を手渡す。

火遁、水遁、土遁…など数々の術が記してあるが、ただ一つ「すけこましの術」だけはめったな事で使うのではないと初代法界坊は注意する。

法界坊との別れを哀しむ美少年珍念も、初代法界坊が抱きとめてながら、自分も昔、江戸で浮き名を流した事があるなどと言い出し、良い女もおったのう〜…などと独り想い出に耽るのだった。

タイトル

浅草、雷門の前

占師の七面堂九斎(有島一郎)や、ガマの油売り松井玄水(田崎潤)などと並んで勧進をしていた法界坊を見物していた侍の隣をうろつく怪しげな男女二人。

その様子を観ていた玄水が、侍に懐は大丈夫かと尋ねると、はたして巾着がない。

スリだと玄水が指摘したのは、色っぽいお銀(淡路恵子)。

だが、お銀は、法界坊にしなだれかかると、何か証拠でもあるのかと玄水に開き直る。

その時、先程、侍の側にいた男が、俺だ、俺だと遠くから騒ぐ。

しかし、玄水は、確かに男がスリ、女に渡したんだと言うが、法界坊は何故か、今日は店じまいだと言いながら、その場を離れる。

お銀がしなだれかかった時、自分が首から下げているたく鉢袋に入れた気配を感じたので、中味を確認するためだった。

案の定、侍の巾着が入っており、中味の金額も1両2文6朱と勘定していると、お銀が近づいて来て、その財布を返せと言う。

しかし、法界坊がとぼけていると、お銀は、それじゃ、泥棒じゃないかと怒鳴ったのを聞き付けたのが、近くを警戒中だった岡っ引、今戸の伍平だった。

二人に近づき、巾着の持主を吟味しはじめるが、法界坊は、本当の持主なら、中に入れた金額を知っているはずだと言い出す。

確かにその通りだと気付いた岡っ引が、金額を尋ねると、お銀は苦し紛れに2両16文と答えるが、法界坊は、つい先ほど数えた金額をぴたりと言い当ててみせる。

岡っ引は、巾着を法界坊に渡し、お銀は悔しがるのだった。

思わぬ収入にありついた法界坊は、上機嫌で川茶屋の近くまで来ると、同じハキダメ長家に住む駕篭かき、権三(山田吾一)と助十(太宰久雄)と出くわす。

しかし、法界坊は、歌仙茶店で働いているお菊(岡田茉莉子)と会うのが目的だった。

お菊もハキダメ長家の一員だったが、気の強さにかけては人一倍で、釣鐘堂建立の目的がありながら、毎日、自堕落な生活を送っている法界坊を叱りつける。

そんな歌仙茶屋に、蔵前の札差永楽屋の娘おくみ(榊ひろみ)を連れて、番頭の善九郎(立原博)がやってくる。

おくみは、すぐに帰ろうとしかけるが、それを止めて、駕篭屋の権三と助十を呼んだ善九郎は、向島の小梅に言ってくれとこっそり伝える。

一足先に歌仙茶店を出て歩いていた法界坊は、尿意を覚えて地蔵堂の裏側に回って用を足していたが、そこにやって来たのが、おくみを乗せた駕篭屋と善九郎。

権三と助十は、駕篭を止めると、善九郎に、お前の正体も、かどわかしをしているのも分かっているので、駕篭代をはずめと言い掛かりをつける。

善九郎も心得たもので、二人を駕篭から引き離すと、適当にごまかしはじめるが、その隙をついて、地蔵堂の後ろから駕篭に近づいた法界坊がおくみを助け出し、ハキダメ長家の自分の部屋に連れて行く。

その後、同じ長家に戻って来た駕篭屋二人は、法界坊の部屋でおくみを発見すると、永楽屋に連れて行って金をせしめようとしている法界坊の魂胆を見抜く。

しかし、おくみ本人は、もう永楽屋へは帰らないと言い出す。

その頃、当の永楽屋では、主人松右衛門(伴淳三郎)が、吉田要之助(三木のり平)と共に離れに居着いている青山喜平治(山茶花究)から、要之助様がお待ちかねだから、早くおくみを連れて来いと言う催促と、吉田家の再興の為、百万両の金の隠し場所が記されていると言う、狩野淡幽作「鯉魚の一軸」なる掛け軸は、ハキダメ長家に住む表具師の多兵衛の娘お菊が持っているらしいと言う話を聞かされていた。

その大金が手に入れば、松右衛門の方も、吉田家に貸した三十万両が戻ってくるので大歓迎なのだ。

だが、松右衛門は耳が遠いので、二人の会話はついつい声が大きくなってしまい、話を盗み聞きした善九郎が二人の前に姿を現す。

そこに、今戸の伍平もやって来たので、喜平治は一旦、離れに戻る事にする。

「鯉魚の一軸」さえあれば、お家が再考するのだが…と、要之助に話していた喜平治は、天井裏に気配を感じ、剣を抜くと、天井を次々と突き刺して行く。

曲者だと、要之助が騒いだので、伍平も駆け付けて賊を探しはじめる。

どうやら賊の正体は、最近巷を騒がせている義賊木鼠小僧(平幹二朗)のようだった。

すぐに、捕り手が集まって来る中、屋根伝いに逃げ回っていた木鼠小僧は、人気のない道に降り立つが、偶然、そこに通りかかったお銀とその子分に顔を見られてしまう。

しかし、お銀は、子分に別の方向に走って、騒がせている内に、負傷していた木鼠小僧の右手を簡単に止血して、逃してやるのだった。

ハキダメ長家の法界坊の部屋の前は、中の様子を覗き込もうとする長家の住人でごった返していた。

法界坊は、おくみに、「何はなくとも江戸ミソ汁」などとシャレながら夕食を勧めていたが、そこへお菊が帰って来て、ずけずけと法界坊の部屋に入って来ると、そんな小娘をかどわかすようじゃ、女たらしも落ちぶれたもんだねぇ、お前さん、あの子に釣鐘堂を建たせるつもりなのかい?と嫌味を言う。

さらに、九斎と玄水も帰って来て部屋に入って来ると、法界坊は、九斎に手を貸してくれないかと頼って来る。

そんな法界坊はうっちゃって、自分の部屋に帰って来たお菊は、誰もいないはずの奥から、行灯の火をつける火打石の音が聞こえたので、誰だい?と不審がるが、そこにいたのは、久々に再会する兄の太吉(平幹二朗)だった。

木鼠小僧とでも思ったか?と冗談めかして返事をした太吉だったが、実はこの男、今は飾り職人だが、昔は、橋本町の太吉と呼ばれた、れっきとした十手持ちだったのだ。

その岡っ引時代、捕まえた鼠小僧が彼に、例え自分が捕まったとしても、人間として生まれて来ながら毎日の飯さえ満足に食えない連中がいる以上、第二、第三の何とか小僧があらわれるぜと言われた言葉が忘れられず、十手を返上してしまったのだった。

そんな太吉はお菊に、親父を殺した下手人の手がかりは「鯉魚の一軸」と言う掛け軸らしいのだが、知らないかと尋ねるが、お菊は知らないと言いながらも、そう言えば、父は死ぬ直前に金が入るとか言っていたが…と思い出す。

そんなお菊が兄の為に酒を買いに行く途中、まだ法界坊の部屋の前に野次馬が集まっているので、お優しい事とあざ笑う。

部屋から出て来た九斎は、こんな所に集まっていてもらちがあかないから、近くの飲み屋上州屋で話し合おうと、長家の連中に提案する。どうせ、勘定は全部、法界坊が持つんだからと言われた住人たちは、喜んで上州屋に出かけて行くが、店の前には青山喜平治が立っており、長家の連中が店に入ると、そっと去ってしまう。

九斎は、上州屋の主人(中村是好)に酒を持って来させながら、その女房おしま(月野道代)には、表に怪しい人影がいないかどうか確認させに行く。

誰もいないと、おしまが報告に来ると、さっそくおくみを使って、永楽屋からいくら金をふんだくれるかと言う話になる。

玄水は、相手は大店だけに、千両は取れると大きな事を言い出し、長家の連中は、取らぬ狸の皮算用で浮かれ出すが、 そこに善九郎がやって来る。

その頃、法界坊はおくみのために、一つしかない寝床を敷いてやっていた。

お菊が、酒を買って長家に戻って来ると、まだ、権三と助十が、法界坊の部屋を覗き込んでいるので、叱りつける。

法界坊は、こっそり「甲賀忍法帖」を持ち出すと、入口付近で「くノ一の術」の巻を読もうとするが、その様子を怪んだおくみが、何を読んでいるのかと聞いて来る。

とっさにお経だとごまかした法界坊だった、おくみは、彼の邪心などに気付かぬ様子で、自分は眠くないので、お坊さんが寝てくれと勧めてくる。

しかし、自分が一人で寝る訳にも行かず、考え倦ねた法界坊は、自分を御仏だと思って、一緒に寝てはどうかと言い出す。

そんな様子を、うらやましそうに壁の穴から覗いていたのは、隣に住んでいる権三と助十。

すると、あっさりおくみが承知したので、法界坊は仏壇の如来像を後ろ向きにさせて、隣との壁の穴の前には、鯉の描かれた屏風を立てて布団に入る事にする。

おくみと同衾した法界坊は、体が火照ってどうしようもなくなるが、添い寝しているおくみが自ら抱いてくれと言い出したので喜んで従う。

しかし、こうしていると母親に抱かれているようだ。子守唄を唄ってくれなどとおくみが言い出したので、仕方なく法界坊は子守唄を唄いはじめるはめと、これではとてもやり切れんと独りぼやくのだった。

翌朝、長家の住人の一人で取り上げ婆のおくま(菅井きん)が、夕べは法界坊、一晩中うるさかったと文句を言っている。

そんな長家に、上州屋の主人が、永楽屋の番頭が殺されたと知らせにやって来る。

すぐさま、長家の連中が現場に駆け付けるが、被害者が伍平の試合と言う事で、与力は彼に事件を任せて引き上げていた。

すると、そこへ太吉もやって来て、死体の状況を見るや、この下手人は顔見知りに違いない。

互いにしゃがんで話し合っている最中にいきなり斬られたんだと推理を披露する。

今戸の伍平も、さすがに太吉の頭の良さを認めざるを得なかったが、太吉はそれ以上、事件に興味はないようで、すぐに帰ってしまう。

その後、伍平から、善九郎が殺害された報告を受けた松右衛門だったが、下手人の目星すらついていない伍平に呆れ、あなたの商売、何ですか?と問いかけ、仕方なく、伍平の方も、目明かしでございます〜…と答えながらも、プライドを傷つけられ怒って帰ってしまう。

そんな松右衛門の元に、寛永寺の法界上人なる人物がやって来たと、店の者が知らせに来る。

ちょうど入口で、その法界上人と言う立派な法衣を来た和尚とすれ違った伍平だったが、どこかで見たような顔に首をかしげていた。

何でも、辰巳の方角に暗雲立ちこめたのに気付き、厄払いの為立ち寄ったのだと言う。

店のものたちに、座敷に上げられた法界上人は、お付のものたちに御祝儀を渡さば、なお、幸運が訪れると言うので、店の者は、表で待っていた駕篭屋の権三と助十に饅頭とお捻りを渡すのだった。

奥へ案内された法界上人は、廊下で要之助とすれ違うが、人相を見てしんぜようと言い、このような花の長さと鼻の下の長さが等しい顔だちは、古来、女にもてたためしがないとバカにする。

松右衛門に会った法界上人は、この家の凶運は離れじゃよ告げるが、松右衛門はその言葉を信じず、あれは福の神だと反論する。

それを聞いた法界上人…、もちろん、変装した法界坊は、欲に目がくらみ、一人娘をあのようなボンクラの嫁にしようとするとは…と嘆いてみせる。

さらに、「鯉魚の一軸」の事も知っている事を臭わせると、松右衛門は法界坊を信じはじめる。

しかし、法界坊が奇妙な踊りを踊り始めた所へ、要之助と青山喜平治がやって来て、この男はハキダメ長家に住む願人坊主に過ぎないと正体を暴く。

さらに、喜平治の手下らしい浪人ものたちまでやって来たので、法界坊は一暴れはじめる。

しかし、店のものたちが、こんな所で血を流されては店の信用に関わると止めに来たので、事なきを得る法界坊だった。

その頃、ハキダメ長家のお菊の部屋には、今戸の伍平が兄を訪ねて来たが、留守だと言うので帰って行く、

その直後、裏口から戻って来た太吉は、お菊から、夕べの番頭殺しの下手人として、今兄さんを捕まえに来たと教えられる。

お菊は、太吉の右腕の傷も知っているらしく、兄を木鼠小僧と気付いている様子。

しかし、めったな事を言うと、人様からあらぬ濡れ衣を着せられると注意し、表口から堂々と出て行くが、そこに待ち受けていたのは、お銀だった。

あんた、元岡っ引だって?と聞かれた太吉は、そ知らぬ振りをして通り過ぎようとするが、お銀は、一緒に飲みたかっただけだとしなだれかかって来る。

そのお銀と太吉が飲みに出かけた後、ハキダメ長家に権三と助十が担いだ駕篭に乗って法界坊が帰って来る。

部屋の前で降りた法界坊ニ、駕篭賃を要求する権三らだったが、法界坊は、彼らがすでに御祝儀をもらっている事を知っており、その中から、法衣の借り賃も払っておけと相手にしない。

しかも、留守番を頼んでいたおくままで、留守番賃を要求して来るではないか。

部屋に入ってみると、おくみがかいがいしく掃除をしているではないか。

もう自分は、この長家の住民と殊勝な事まで言い出す始末。

そんなおくみに、法界坊は「鯉魚の一軸」の事について尋ねると、百万両の在り処が記されたつい立てらしいが、表具師の多兵衛に預けたらしいと言う。

その名前を聞いた法界坊波、それはお菊の父親じゃないかと気付き、すぐにお菊の元に聞きに行くが、お菊は知らないらしい。

自分の部屋に戻った法界坊の所に、長家の住民が、浪人ものたちがお前さんを探しにやって来たと伝えに来たので、すぐにおくみを逃そうとする法界坊。

ところが、その時、おくみが、部屋に置いてあった鯉の描かれたつい立てを、これが「鯉魚の一軸」ではないかと指摘する。

その場に来ていたお菊も、これはお父っつぁんから、あんたが預かっていたものじゃないかと教える。

法界坊波は、長家の住人(沢村いき雄)が浪人ものたちを入口付近で足留めしている間に、おくみを向島の出てまで連れて行けと権三と助十に頼む。

そして、お菊は、つい立てを押し入れに隠すのだった。

その直後、権三と助十が担いだ駕篭が長家を出発する。

その直後、法界坊の部屋に、青山喜平治と浪人ものたちがなだれ込んで来たので、法界坊は又しても大暴れし始める。

青山喜平治は、お菊の部屋にやって来ると、迷わず押入を開ける。

しかし、そこに入っていたのはおくみだった。

権三と助十が担いだ駕篭に入っていたのは「鯉魚の一軸」だったのだ。

その駕篭を追った法界坊は、追って来た浪人もの相手に、座頭市の真似をしながら、まだ戦っていた。

そこへ、与力たちが駆け付けて来たので、法界坊は、浪人ものたちの方が悪者だと言って、自分は助かる。

しかし、権三と助十が担いだ駕篭は、足を滑らせたのか、川に落ちていた。

彼らが、積んでいた「鯉魚の一軸」を取り出すと、すっかり水に濡れ、鯉を描いた部分が消えてしまっていた。

法界坊は、その白地に、「にほんじまのにほんえのき(向島の二本榎)」と言う文字が浮かび上がっているのに気付く。

その場所こそが、百万両が埋まった場所らしい。

しかし、その場所を聞いた権三と助十は、そこは有名な化物屋敷じゃないか!と怯え出す。

そこへ、長家の住民が、お菊がさらわれてしまったと知らせに来る。

永楽屋の庭先では、縛ったお菊を、青山喜平治が拷問しようとしていた。

それを止めさせに来た松右衛門だったが、邪魔だと言う事で、浪人ものたちに連れて行かれる。

すると、そこに要之助もやって来て、きれいな娘なので、自分に叩かせてくれと言い出し、喜平治から竹刀を受取ると、それをバットのように持ち、一本足打法の真似をして、お菊を叩こうとする。

その時、屋根から声をかけて来たのが、駆け付けて来た法界坊。

女一人を拷問するとは、手前ら、それでも侍か!と啖呵を斬った法界坊だったが、足を滑らせて下の池にハマってしまう。

そして、破りとって来た「鯉魚の一軸」の紙を出してみせる。

すると、縛られていたお菊は喜ぶどころか、何でこんな所に来たの!と法界坊を叱る。

その「鯉魚の一軸」があれば、おくみが一生楽に暮らせるのよと説くが、法界坊は、書かれていた中味は頭で覚えたと言いながら、その場で紙を破ると、自分で食べはじめる。

それにつられ、要之助も一緒に食べ出したが、法界坊がのどを詰まらせたのを見た助十は、池の水を救って飲ませてやる。

一緒に水を飲んだ要之助は、口から金魚が飛び出したので、これが本当の「金魚の一軸」だと法界坊がしゃれてみせる。

さらに、池の上に這った松の枝に登った法界坊は、これが松に坊主だとシャレのめす。

それでも、浪人たちに迫られた法界坊は、要之助を盾代わりにして剣を防ぐが、二人とも、井戸に追い詰められ、要之助が井戸の中に落ちかけてしまう。

何とか、その足を何とかつかんだ法界坊だったが、喜平治が迷わず切り込んで来たので、思わず手を離してしまい、自分も又、喜平治に残っていた紙を奪われた上、井戸に落とされてしまう。

それを目撃したお菊は、殺してやる!と叫んで、喜平治の元に駆け寄って来る。

そうした一部始終を、屋根の影から、木鼠小僧こと太吉が見ていた。

その後、喜平治たちが一軸の紙に書かれていた屋敷に向った頃、人気がなくなった井戸から、法界坊が出て来る。

しかし、法界坊が死んだと言う知らせを受けた長家の住民たちは、法界坊の部屋で葬式を始めていた。

そこに、永楽屋の番頭長吉(伊藤正博)がやって来て、あの人たちはみんな立ち去り、店が元の状態に戻ったので、お嬢さんを迎えに来たと言う。

住民たちは、お菊をさらわれた事件はどうなるんだと息巻くが、それはお上の手で探してもらおうと言う長吉の言葉を聞いたみんなは、さらにいきり立つ。

帰りたがらなかったおくみだったが、結局、長吉に連れられて店に戻って行く。

取り残された形になった住民たちは、自分達で何とか、お菊を助け出そうと言い出すが、太吉をまとうと言う意見も出る。

そんな住民たちの相談を、太吉は屋根の上で、そしてお銀は部屋の外から聞いていた。

一体、お菊はどこに連れて行かれたのかと考えていた住民たちだったが、権三と助十から、財宝が埋まっていると言う、腰元の幽霊が出る屋敷の情報を聞いたみんなは、そこに違いないと思い付くのだった。

案の定、その化物屋敷に、お菊は連れて来られていた。

浪人たちが酒を飲んでおり、自分を慰みものにしようとしている事に気付いたお菊は、歌仙茶店のお菊は、例え百万両積まれようが、帯はとかないよと啖呵をきる。

そんなお菊の空元気をあざ笑いながら、喜平治は、化物でも呼出して酒を飲むかと嘯いてみせる。

すると、庭先に人魂が飛びはじめる。

それは、九斎が拭く横笛の音に合わせ、権三が竹ざおの先につけて操っていた偽物だった。

そこへ、仮面を被った白頭巾が刀を抜いて現れる。

喜平治が相手をしていると、どこからともなく石礫が喜平治を狙って飛んで来たので、思わず、白頭巾を取り逃がしてしまう。

次に、九斎がメガホンで無気味な声を作って、この場所から早々に立ち去れと声を出すが、途中で咳き込んでしまう。

さらに、化物の仮面を被った男が乱入して来て、その相手をした喜平治に、又しても、どこからか石礫が飛んで来て邪魔をするのだった。

しかし、何とか、喜平治らが逃げ出したので、姿を現した助十らは、巧く言ったと喜ぶが、一体石礫は誰が投げたんだろうと不思議がる。

すると、逃げたと思っていた喜平治が舞い戻って来て、石礫を投げたもの出て来いと呼び掛ける。

屋根の上から、石礫を投げていた太吉は、次々と青竹を投付けて来るが、喜平治は難なく、全て斬り落としてしまう。

すると、その庭にある井戸から、青白い顔をした法界坊が出現したではないか!

それを見た長家連中は、法界坊が化けて出た!と叫んで、一斉に逃げ出す。

玄水は、おれたちを助けたのは、法界坊の幽霊だったんだと納得する。

井戸から飛び出た法界坊は、迷ったか!と斬り掛かって来る喜平治の前から、次々に姿を消しては、別の場所に現れる。

木の上に飛び上がった法界坊だったが、その懐から「甲賀忍法帖」が地面に落ちてしまう。

それを見た喜平治は、術だったと見破るが、そこに又、石礫が飛んで来たので、その隙を狙って、法界坊は、又井戸の中に飛び込んで行く。

ふと我に返った喜平治は、屋敷に縛っていたお菊の様子を見に行くが、そこに紐で縛られて倒れた振りをしていたのはお銀で、お菊の姿は消えていた。

法界坊が、再び井戸から這い上がって来ると、一緒に要之助も出て来る。

どうやら、法界坊の方は生きていたらしいが、要之助の方は本物の幽霊らしく、おくみ殿はどこかなどと迷っている。

法界坊から、お前はしつこいよと叱られた要之助は、喜平治や浪人たちが屋敷から出て来ると、あいつは嫌いだと言いながら、さっさと自分から井戸へ逃げ込んでしまう。

その後から出て来たお銀が、お菊は子分に長家まで送り届けさせたと聞かされた法界坊は、安心して戦いはじめる。

そこへ、木鼠小僧こと太助も降りて来て、3年前、多兵衛を殺した下手人はお前だ。今日は、その親父の命日だと言いながら、喜平治と戦いはじめる。

お銀も、気丈に、簪を抜こうとする。

太吉の形勢不利と見たお銀は、喜平治の背中に簪を突きかかり、その一瞬の隙に、太吉が小刀を突き刺して、喜平治のとどめを刺すのだった。

太吉が、父親の仇を討つと言う本懐を遂げた事を知った法界坊は無邪気に喜ぶが、その油断を見せた瞬間、浪人たちから次々に斬られてしまう。

太吉が駆け付けた時には、もう血まみれとなった法界坊は、井戸の中に落ちて行く。

その井戸に駆け寄った長家の住民たちは、井戸の底に向って、法界坊の名を呼ぶが、今度こそ本当に死んでしまったようだった。

その間、太吉とお銀は、静かに姿を消していた。

九斎や玄水は、法界坊の死体を引き上げるため、井戸の下に降りてみる事にする。

すると、いくつもの白骨と一緒に、法界坊の死体も横たわっており、何とその下に千両箱が一つ埋まっていたのを発見するのだった。

いつの間にか、頬かぶりを取って元の姿に戻った太吉も降りて来て、白骨の示し、欲に目がくらんだ者同士の仲間割れの結果だと教える。

百万両の正体は千両箱一つだけだったのかと嘆息した九斎だったが、今度こそ、法界坊の本物の弔いをやってやろうと言い出す。

千両箱と法界坊の死体を積んで、駕篭が長家に戻って来るが、降ろしてみると、死体が消えている。

よもやと思って、九斎が残っていた千両箱を開けてみると、その中もからっぽだった。

それを見た住民たちは、さっきのは、本物の幽霊だったんだな〜…と呟き、全員手を合わせるのだった。

お菊も泣き出し、後日、一人で法界坊の墓を参った時には、法界坊のバカと、天に向って叫んでいた。

その法界坊、千両の入った袋を重そうに担ぎ、天へ登って行く最中、先代法界坊と出くわす。

どうしたのかと聞くと、自分もとうとう阿弥陀如来に呼ばれたのだと言う。

先代は、法界坊が持っている金を見て、こんな不浄な金で、釣鐘堂が建つと思うかと叱りつけ、お前はこれから、閻魔様の裁きを受ける身、罪滅ぼしの為に、そんな金は、今、下からお前を呼んでいる、あのお菊と言う娘に全部やってしまえと助言をする。

その言葉に従った法界坊。

翌日、何か玄関先に落ちる音で目覚めたお菊は、千両小判が詰まった袋を発見する。

じゃ、やっぱり…とお菊が呟いていると、そこに太吉がお銀を連れて帰って来る。

そして、今度、おれたち二人は旅に出る事にした。二人で地道に働いて、法界坊に代わって釣鐘堂を建てて、供養してやろうと思っているのだと言う。

それを聞いたお菊は、じゃあ、この金も役立ててと、二人に千両の入った袋を渡してしまう。

その夜、病気で寝込んでいたおくまの部屋に小判が落ちて来る。

他の部屋にも、そこに住んでいる人数分だけ小判が降って来た。

長家中が外に飛び出して来て騒ぎになる中、太吉が現れて、これは、あの世に行った法界坊が、金をもてあましたのさ。きっと今頃、あの世で、念仏小唄でも唄っているだろうと説明する。

天保4年、春、本所の長家に小銭が降ったとの報告が「徳川実記」と言う本に記録される事になる。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

歌舞伎の演目がベースだが、戦前の「エノケンの法界坊」(1938)で良く知られるようになった喜劇映画のリメイクと考えても良いかも知れない。

その証拠に、ちゃんと、先代としてエノケンが冒頭とラストに登場している。

ちなみに、上州屋の主人を演じている中村是好も、戦前版に出ている一人。

「エノケンの法界坊」は、現在、フィルムが完全ではないようで、ストーリー展開も今一つ分りにくい部分があるのだが、本作は、そのシンプルな話をベースに、当時の流行ネタなども交え、思いっきりどたばた喜劇に仕立て直している。

ギャグだけでなく、ストーリー展開自体も、かなり手の込んだものになっているが、後半のドタバタは、観客側も狐につままれたような訳が分からない状況になる。

そもそも冒頭で、坊主に忍法の秘伝書が手渡されると言うのも妙なのだが、これは山田風太郎の「甲賀忍法帖」人気にあやかったアイデアなのだろう。

これを、後半の幽霊話に絡ませているため、画面に登場している法界坊が生きているのか、死んでいるのか、訳が分からない状況になるのだ。

生きているのだとすると、底なし井戸に落ちた法界坊が、どうして助かったのか説明がないのが不親切だし、一緒に出て来た要之助の幽霊も、妙に人間臭く描いているので、両者の区別が画面上つかない。

第一、お菊を助けるため永楽屋に乗り込んで行った法界坊が、読んでいる暇などあるはずがない忍法帖など、わざわざ持って行ったとは考え難い。

それとも、助かって井戸から出て来た法界坊が、長家まで取りに帰ったと言う事なのだろうか?

まあ、所詮ナンセンス喜劇だから細かい所は気にするなと言う事かも知れないが、何となく、最後まですっきりしない展開ではある。

ベースとなっている、殺されても幽霊になって、現世で暴れ回る主人公と言う設定を、捻ってみせたつもりなのだろうが、その設定を知らないで観ている客には、余計に分りにくい話になったのではないだろうか。

しかし、その点を除けば、後は全般的に楽しい作品になっていると思う。

どこまでも気丈な娘役を演じている岡田茉莉子が印象的。

長家の住人の一人で飴屋を演じている泉和助は、コント赤信号の師匠として、最晩年、「笑っていいとも」でレギュラーを持つに至ったヨボヨボのおじいちゃん芸人だが、若い頃はあまり売れなかったらしく、まだ颯爽とした中年期に出ている本作品などは、かなり珍しい映像なのではないかと思う。