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シルクハットの大親分

1970年、東映京都、高田宏治脚本、鈴木則文監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

日露国交断絶!日本大勝利!

明治38年(1905)、アジアの小国日本は、大国ロシアに打ち勝った…

泡風呂の中で、上機嫌で唄っているちょび髭の男こと熊坂虎吉(若山富三郎)は、今正に、二百三高地などでの戦いで、兵隊たちを助ける人夫としての勤めを終え、故国に戻る船「平和丸」の上にいた、四国道後を根城とする熊虎組の親分だった。

そこに、子分の半助(潮健児)が、全員、甲板に揃ったと知らせに来る。

風呂から上がった熊虎は、戦死した三体の遺骨を持ち甲板に居並ぶ組員たちの身なり検査などした上で、間もなく到着する神戸で、自分達を待ち受けているに違いない大勢の歓迎の民衆に対する挨拶の仕方を伝授していた。

ところが、いざ神戸港に到着してみると、見送りに来ていたのは、妹の清子(丸平峰子)と代貸しの小ヒゲ(疋田泰盛)だけ。

ことの意外さにちょっと機嫌が悪くなった熊虎は、久しぶりに再会した小ヒゲのヒゲが、自分よりも立派なカイゼル髭になっているのを観て、身分不相応だと注意する。

清子が言うには、今、九州の鎮台の親分の歓迎会が盛大に行われており、みんなそこに行ってしまったと言うのだ。

その話を聞いた熊虎は、その宴会の席に子分たちを連れて乗り込み、何喰わぬ顔で潜り込んでしまう。

壇上では、陸軍省の鬼頭中佐(天津敏)が、熊本の鎮台組総長谷垣伝次(遠藤辰雄)と大阪の赤馬組大坪駒造(関山耕司)を、日露戦争での軍への協力者としてを賞賛しているではないか。

自分だけ除け物にされた事に怒った熊虎は、その場に立ち上がると、あたかもその場が自分の歓迎会であるかのように勝手に挨拶を始め、戦争に勝てたのは名もない人夫たちのお陰だと演説する。

その異常に気付いた鎮台組の組員と、熊虎組の組員は、その場で大げんかを始める。

その様子を観た鬼頭中佐は、醜態だと言い残し、会場を立ち去ってしまう。

大暴れしていた熊虎は、何者かに投げ飛ばされてしまう。

見ると、相手は、会場に呼ばれていたものの、この騒ぎで仕事が出来なくなったと息巻いている芸者ではないか。

相手の剣幕に思わず謝った熊虎だったが、一目でその芸者の毅然とした態度に惚れてしまい、今度、一緒に寝てくれと頼むが、堀江芸者はそんな事はしないと言い残し、さっさと帰ってしまう。

熊虎は、小ヒゲに、その後を付けさせる。

そこに現れたのが、熊虎とは親戚付き合いをしている、大阪、堂島一家のお神楽のおたか(清川虹子)で、この場は自分に免じて、両者収めてもらいたいと啖呵を切る。

その夜、松島遊廓に子分たち10人を連れて行った熊虎は、女が12人しかいない事を知ると、位牌の三人も含め、こちらは13人なのだから、案内役の婆さん(武智豊子)も相手しろと言い出す始末。

昔、吉原で淡雪太夫と言われていたのだと、婆さんも張りきり出す。

女たちの検分を始めた熊虎、子分たちに用意良く避妊具を支給すると、廊下に両方対面するように列を作らせ並ばせるが、一番先頭の女が一番若いので、子分たちが自分の相手にしようと取り合いになる。

そこで出て来た熊虎、女の事で親分も子分はないなどと口先ではきれいごとを言いながら、年齢順に子分を並べ変えると、一番若い女の相手に一番年上の自分が当るように仕組んで、子分たちに呆れられる。

ところが、熊虎の相手になった若い娘の年を聞くと14才だと言うではないか。

それでも、自分は千人斬りのお玉(吉川晴美)と粋がる相手だったが、これは子供だと判断した熊虎、耳かきをしてやり、何もせずに寝かし付けるのだった。

そこに、先程、自分を投げ飛ばした芸者の素性を探らせに行っていた小ヒゲがやって来て、相手は堀江の芸者で蝶子と言う芸者だと分かったが、自分はけんもほろろに追い返されたと報告する。

その頃、鬼頭中佐は、谷垣と大坪に、遼東半島に砦を作りたいので、その工事をする人夫を集めてもらいたいと依頼していた。

谷垣は、祈祷の独断に喜びながらも、松村閣下の方は大丈夫かと心配してみせるが、鬼頭は、あんなものは単なる飾り物に過ぎぬと自分の存在感を示そうとする。

その鬼頭を持て成す為に、浴室の前に呼ばれていたお蝶こと蝶子(春川ますみ)だったが、裸になった鬼頭が、風呂場に一緒に連れ込もうとしたので、話が違うとその場を逃げる。

蝶子が逃げ込んだ部屋にいたのは、熊虎だった。

褌一丁の姿で、その後にやって来た鬼頭は、その女を渡せとサーベルを斬り付けて来るが、熊虎は座ったまま、持っていたステッキでそれを跳ね返してしまう。

そこに、鬼頭の部下と谷垣と大坪も駆け付けて来るが、熊虎は、部下が突き付けた拳銃も恐れず、谷垣にも啖呵を切ると、道行きじゃと言いながら、小唄を唄いながら、蝶子と二人でその座敷を出て行くのだった。

その様子をいまいましげに見送った鬼頭中佐は、あいつは危険だ、今の内に何とかしろと、谷垣に命ずるのだった。

助けてもらった熊虎を自宅に連れて来た蝶子は、遠慮して帰りかける熊虎を上げると、酒を勧めながら、先ほどの小唄をもう一度唄ってくれと頼む。

その後、ごく自然に抱き合った二人だったが、熊虎は、蝶子が処女だった事を知り驚く。

蝶子の方は、もう嫁に行けなくなったので、女房にしてくれとしおらしく泣くのだった。

その後、熊虎は半助と共に、山本三郎の遺骨を実家に返そうと、家を訪ねて来るが、近所の者が言うには、女房は松島遊廓に身を沈めたままで、幼い一人娘は今、病気で寝ているのだと言う。

家に上がってみると、一人の娘が、幼い少女を看病しているので、医者に見せたのかと熊虎が聞くと、金がないのだと言う。

熊坂は、急いで、半助に人力車を呼びに行かせようとするが、自ら表に飛び出し、ちょうど通りかかった人力車を止め、それに乗っていた軍人少将を引きづり降ろすと、少女を抱えた娘を乗せ、自ら引っ張って病院に向う。

人力車から降ろされた少将は、その後ろ姿をじっと眺めていた。

医者の見立ては、麻疹であった。

一安心した熊虎だったが、そこにやって来たのが憲兵隊で、陸軍省の松村少将に無礼を働いた熊虎を引っ立て行く。

熊虎が連れて来られた松村少将(菅井一郎)は、どうせ懲罰を食らうのだろうとふて腐れていた彼に意外な事を言い出す。

熊虎の事は、乃木将軍からの手紙で知っており、先ほどの行為を見て、お前を気に入ったと言うのだ。

思わぬ名前を出された熊虎は呆然とするが、松村少将は、その乃木将軍からの手紙を見せ、字の読めない熊虎に、その文章の真ん中辺りに、我が戦友、熊虎君の活躍により戦いに勝利したと書いてあるのだと教える。

熊虎は、軍の仕事をして良かったと、心底感激するのだった。

その熊虎に松村少将は、旅順港がある遼東半島に砦を作らねばならないのだが、3000人の人夫を集めてくれないかと切り出す。

ただし、その準備は、谷垣らの地元である九州でやらなければならないが、やってもらえるかと言われた熊虎は、一もニもなく承諾するが、その代わり、乃木将軍の手紙をお守りにしたいのでもらえないかと頼む。

すぐに快諾され、意気揚々と帰途に付いた熊虎は、途中、暴漢に襲撃される。

鎮台、谷垣の刺客たちだった。大坪も、近くで様子をうかがっている。

独り果敢と立ち向かった熊虎だったが、空手使いに投げ飛ばされ、その場で気絶してしまう。

そのとどめを刺そうと、近づいて来た大坪が刀を振り上げた時、一人の邪魔が入る。

大坪の仲間が引き上げた後、助太刀に入った男は、熊虎を助け起こし、自分は、人吉、緋牡丹組の伊庭新二郎(伊吹吾郎)と名乗る。

妹分の緋牡丹お竜の舎弟だと知った熊虎だったが、その態度から、伊庭が、彼女に思いを寄せている事に気付き、兄弟は高嶺の花、愛すると言うのは、耐える事なのだと言い聞かすのだった。

その頃、鬼頭中佐の元にいた谷垣は、刺客に失敗した子分たちを叱りつけていた。

鬼頭は、いまいましそうに、松村少将の通達で、鎮台と熊虎組で、人夫集めの仕事を折半する事になったと教える。

一方、堂島のおたかの家にいた子分たちと合流した熊虎は、乃木将軍からもらった手紙を見せて、檄を飛ばすのだった。

そこに、麻疹が直った少女さつき(上本薫)を連れて戻って来た半助が、彼女の母親は、赤馬組に吸収へ連れて行かれたらしいと報告する。

その話を聞いていたおたかは、谷垣も大坪も、人間の生き血を吸うダニだと憤るのだった。

その後、馬車で人夫や食料の米を九州に運び込もうとした熊虎組だったが、執拗な谷垣たちの妨害工作で、多くの人夫を病院送りにしてしまい、米も失っただけではなく、怖じ気付いた他の人夫たちを集める事も不可能になってしまう。

それを聞いて呆然とした熊虎だったが、その時、客人の伊庭が単身、先方に殴り込みに行ったと子分の知らせが入る。

その伊庭は、谷垣の組の者に捕まり、危うく縛り首にかけられる所だったが、そこに駆け付けて来た熊虎の拳銃で、危機一髪、難を逃れる事ができる。

港に戻って来た伊庭は、自分の軽はずみな行動を詫び、自分を殴ってくれと熊虎に頼むが、分かったとばかり、熊虎が手を振り上げたちょうどその時、女の客が来ているとの知らせを子分が伝えに来る。

すぐに、緋牡丹のお竜だと察しを付けた熊虎は、嬉しさのあまり、事務所に走って戻るが、そこに待っていたのは、お竜ではなく、大阪から駆け付けて来たお蝶だった。

その顔を見た瞬間、熊虎は落胆のあまり、その場にへたり込んでしまう。

博多港には、すでに熊虎組が用意した船が横付けしたいたが、肝心の人夫がさっぱり集まらない。

明らかに、地元の谷垣が、業者たちを脅しているのだ。

窮地に陥った熊虎は、ここ数日、顔色がさえない事を子分たちは気が付いていたが、そこにやって来た鬼頭は、今の内に、身を引いて、鎮台組に全て任せた方が良いのではないかと忠告に来る。

しかし、熊虎は、一体あんたは何者なんだ?鎮台一家の用心棒なのかと皮肉を言い返す。

それを聞いた鬼頭中佐は、怒り、後、期限まで三日しかないぞと言いおいて帰るのだった。

そこへやって来たのが大阪にいるはずのさつきで、その後に顔を見せたのは、米を運んで来た堂島のおたかだった。

熊虎は、その援護を見て思わず涙する。

その夜は、おたかの差し入れを使った、久々の牛鍋を囲む事になるが、そこに帰って来たのが、体中斬られ、血まみれになった半助だった。

半助は、さつきの母親は、今、鎮台丸の船底に閉じ込められ、大陸に連れて行かれようとしていると、熊虎に報告を終わると、その場で倒れてしまう。

深夜、鎮台丸の甲板で見張っていた男たちは、次々に、海に放り投げられる。

下から這い登って来たのは、シルクハットの熊虎だった。

船底に閉じ込められていた多くの女たちを発見した熊虎は、彼女たちが全員、大陸できれいな仕事があると赤馬一家に騙されて集められた女たちだと知る。

この中にさつきの母親山本しのぶはいないかと聞くと、一人の顔色の悪い女性(星野美恵子)が名乗りをあげる。

さつきは自分が預かっていると知らせ、みんなを逃そうとしたその時、足音が聞こえて来たので慌てた熊虎だったが、女たちからここに隠れろと示された桶は、彼女たちの小便桶だった。

やって来たのは赤馬組の子分(川谷拓三)で、新しい女たちを連れて来たのだったが、その中の一人は、お玉だった。

子分が去った後、小便桶から出て、お玉との再会を喜んだ熊虎だったが、何故か、身体がふらつく。

それでも、女たち全員を率いて港に降ろすことに成功するが、そこには谷垣や大坪が、子分たちを従え待ち構えていた。

全て罠だったのだ。

それでも独り進み出た熊虎だったが、その場に気絶してしまう。

その側に近づいた谷垣が、その身体を刺そうとした時、拳銃の音が響き、谷垣は刀を取り落としていた。

闇の中から現れたのは、緋牡丹のお竜(藤純子)だった。

彼女が名乗り、拳銃で谷垣たちを威嚇している時、熊虎組と伊庭も駆け付けて来たので、諦めた谷垣たちは、その場を去る事にする。

お竜は、倒れていた熊虎を助け起こし、事務所に連れ戻すのだった。

病床に付いた熊虎は、これまで病気らしい病気をした事がなかっただけに、すっかり弱気になり、看病してくれていたお竜に自分の病名を聞くが、彼女が言うには、子供がかかる麻疹だと言う。

さつきの病気がうつっただけだったのだ。

それでも、お竜の手前、鏡で自分の顔を確認してみた熊虎は、どれが本来のソバカスか分からなくなったあばた顔を恥ずかしがるのだった。

その後、熊虎は、肌身離さず盛っていた乃木将軍の手紙を、お竜に読んでもらいながら、満足そうに眠ってしまう。

一方、外で港を眺めていたお蝶は、お竜の美しさに負けた事を悟り、自分はここで身を引こうと子分のボテ八(広瀬義宣)に打ち明けるが、それを聞いていたお竜が出て来て、熊虎の看病を頼むと言う。

その頃、谷垣の事務所を訪れていた鬼頭は、女たちを取り戻された以上、これまでの悪事がばれてしまうぞと脅していたが、谷垣はダイナマイトを用意して、熊虎組との全面戦争に突入する決意を見せる。

その後、荷物を運んでいた熊虎組の荷車が、次々にダイナマイト攻撃を受ける。

お竜をかばった伊庭は、自ら、刀一つで相手方に突っ込んで行き、谷垣が投付けたダイナマイトの前で、壮絶な死を遂げる。

寝込んでいた熊虎の家も襲撃される。

熊虎をかばおうとしたお蝶は、刺されてしまう。

熊虎は、何とか起き上がり、空手使いを槍で串刺しにするなど応戦し、刺客たちを全滅させた後、倒れたお蝶を抱き上げるが、もはや長くはないと悟ったお蝶は、うち、役に立ったか?だったら、その御褒美として、あの歌を聞かせてくれと呟き、熊虎の唄う小唄を聞きながら息絶えるのだった。

その頃、お竜は、爆死した伊庭の遺体を、独り大八車で運んでいた。

熊虎と言えば、紅白の綱に大きな大砲を結び、それを一人で引きながら、鎮台組の屋敷に乗り込んでいた。

門の前に到着した熊虎は、大砲を撃ち門を破壊すると、中に乗り込み、応戦して来た子分たちを次々と斬り殺して行く。

そこに、お竜も駆け付けて来て、出迎えた谷垣の顔を見ると、九州の博徒として生かしておけないと言い放ち、庭先で刀と簪で抜いて戦いはじめる。

大坪を斬り殺した熊虎は、自分は、陸軍省の監督官だぞと声を荒げながら拳銃を撃って来た鬼頭中佐も、問答無用で斬り殺してしまう。

そして、最後に残った谷垣も斬り、とどめを刺すのだった。

落ちていた手紙を拾い、熊虎に渡すお竜。

その時、遠くから船の汽笛が聞こえたので、お竜が窓を開けると、そこには、先に大陸に向う堂島のおたかが乗った船が見えた。

それを見た熊虎は、自分達、日本一の美男美女も行こうと、お竜に笑いかけるのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

「緋牡丹博徒」の人気キャラクターを主人公にしたスピンオフ企画第一弾。

とにかく、若山富三郎扮する熊虎のキャラクターが面白く、全体的にコミカル仁侠ものとでも言いたくなるような破天荒な内容になっている。

とにかく、全編、とぼけた演技を見せる若山富三郎の姿が楽しい。

しかも、ちゃんと最後には、得意の剣術も披露してくれるからサービス精神満載の娯楽編になっている。

その一の子分に扮している潮健児も、なかなか目立つ存在になっている。

堂々たる迫力を見せる清川虹子や、敵役を見事に演じる天津敏、遠藤辰雄、関山耕司の三悪人の魅力、そして、助っ人として途中から登場する伊吹吾郎もかっこいい。

肩の凝らない、典型的なプログラムピクチャーの見本のような作品である。