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脅迫(おどし)

1966年、東映東京、宮川一郎脚本、深作欣二脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

未決死刑囚脱獄! 仲間が手引き! すでに一週間潜伏!今だ発見されず!

タイトル

広告代理店「共報堂」の営業部長、三沢(三國連太郎)は、妻弘子(春川ますみ)と、部下の新郎貫井と新婦向井との結婚式で仲人を勤めていた。

出席者たちは、きれいごとの経歴を並べ挨拶している三沢の事を秘かにあざ笑っていた。

専務のお手付き女との政略目的結婚だと噂が、会場のあちこちで飛び交う。

その専務からの謝礼金を代理の男から受取ると、三沢は、一緒に連れて来ていた息子の正夫(穂積ペペ)と弘子を自家用車に乗せ、自分が運転して帰宅する。

正夫と共に三沢は入浴し、弘子が晩ご飯の準備をしている時、勝手口が開くのに気付く。

入浴中だった三沢は、ガラス戸に弘子の姿が押し付けられるのを観て、何事かと問いかけると、扉が開き、見知らぬ男が弘子を押さえ付けているのに気付く。

そのまま、急いでローブを着させられ、居間に連れて来られた三沢が二人の侵入者に何者だと聞くと、自分達の顔写真が載っている新聞を押し付けて来る。

脱獄中の未決死刑囚川西光(西村晃)とその協力者サブこと中山三郎(室田日出男)だった。

三沢は、金が目的か?いくら欲しいんだ!と聞くが、河西は冷静に、まず、飯、替え車、それからヤサ(住居)だと言う。

自分達が乗って来た車がエンストしたと言うのだ。

その時、赤ん坊の泣き声が聞こえ、ソファーに寝かされていた見知らぬ赤ん坊に三沢は気付く。

その赤ん坊を抱き上げながら、川西は、明日の夜まで匿ってくれれば良いと言う。

サブが別の新聞を三沢に投げて寄越したので、読んでみると、医学博士の坂田(三津田健)と言う人物の孫の赤ん坊が誘拐されたと載っている。

どうやら、この二人が、その誘拐犯らしい。

車を出せと三沢に迫って来た川西の腕を、正夫が咬んで来たので、怒った河西は、銃を取り出すと、本物である事を示す為に、クッションに向けて発射して見せる。

三沢は、自家用車にサブが乗っている車をロープで繋ぐと、近くの林に中まで牽引させられる。

その頃、自宅では正夫が母親に、パパが犯人をやっつけてくれたら、後一人だねと耳打ちするが、それを聞いていた川西は、躾が悪いな、テレビの見過ぎだと顔をしかめる。

そんな川西は、正夫の玩具であるレーシングカーをいじっている内に何事かを思い付く。

林の中に着いたサブは、三沢にロープを外せと命じると、後ろを向いて立ち小便を始める。

その様子を観ていた三沢は、今なら、やっつけられるのではないかと考え、落ちていた木の枝を拾いかけるが、三沢が振り返ったので、止めてしまう。

二人が家に戻ると夕食が始まるが、サブは、自分に与えられた飯が、土なべの蓋である事に気付き癇癪を起こすが、川西はそれを押しとどめると、三沢に、飯が終わったら、もう一度ドライブに出かけてもらう、今度はちょっと遠出だと言い出す。

車で出発した三沢に、同乗した川西があれこれ話し掛けて来る。

三沢が、車の運転は軍隊で覚えたと答えると、人を殺した事があるかと川西が聞いて来る。

人も殺せず、強姦も出来ないようなやつは、こういう状況になったらどうする?と、川西は蔑むように話し掛ける。

その頃、テレビでボクシング中継を観ていたサブは、赤ん坊が泣き出したので、又、癇癪を起こしていた。

坂田総合病院の前に着いた三沢は、近くの公衆電話から、坂田宛に電話をさせられ、川西が用意した文面を読ませられる。

8時半に小学校の前のポストの所に20万円もってこいと伝える。

車に戻り、病院から出て来た坂田の様子を確認した三沢は、現場に先回りする途中、坂田とさり気なくすれ違いざま、その顔を良く覚えておくよう川西から命じられる。

その後、小学校の前に着いた坂田の横を、もう一度通り抜けざま。その顔を頭に刻み込むよう言われる。

川西は、周辺に警察の配備がない事を確認した上で、何もせずに帰ると言い出す。

その頃、自宅では、正夫と赤ん坊を寝かせた弘子が、散らかった部屋の後片付けをしていた時、ソファーに寝ていたはずのサブが、何時の間にか近くに立ちはだかり、彼女に抱きついて行く。

必死に抵抗する弘子だったが、その時ちょうど、三沢と川西が戻って来る。

すぐに体を離した二人だったが、川西も三沢も、二人の様子に異変を感じ、思わず三沢は、弘子に近づくと、頬をぶつのだった。

それを観て急に高笑いし出したサブに川西は、遊びに来ているんじゃないぞと怒声をあげるのだった。

その後、寝室に戻った三沢は、逃げる訳には行かないと呟き、弘子はさめざめと泣いていた。

一方、居間にいた川西はレーシングカーをしながら、自分がこの家から電話で指示を出し、三沢にやらせる。女房と子供を押さえておけば、奴は言いなりになるロボットだと、サブに教えるが、サブはその計画に懐疑的だった。危険性が高いと感じたからだ。

しかし、川西は自信がある様子。

寝室の三沢は、今日の異常な状況に思わず興奮状態になり、嫌がる弘子を抱く。

その声を聞いた川西は、寝室を覗いてみて、奴は思った通りの人間だと薄笑いを浮かべるのだった。

翌朝6時、サブがまだ寝ているのを起こさないように一人で起きた川西は、新潟に電話をすると、明日朝3時船が出る事を確認していたが、何時の間にか側に来ていたサブが、独りで逃がしはしない、自分も最後までとことん面倒観てもらうと凄んで来たので、川西は諦めたように、ただし、舟賃は自分で出せと答える。

新潟まで、三沢の車で7時間はかかるので、余裕を観て、明日、夕方の6時までにはここを出る事にすると川西が計画を伝えると、奴らはどうするとサブが家族の後始末の事を尋ねて来る。

川西は、始末はどうとでもできる。奴の出方次第だと微笑むのだった。

起きて来た三沢は、再び、坂田に電話をさせられる。

確認の為、赤ん坊の声を聞かせると、赤ん坊の母親が電話を替わって、必死に助けてくれと訴えて来るが、再び坂田に替わらせると、一千万用意しろと伝え、すぐさま電話を切ってしまう。

側で、その様子を観ていた弘子は、泣いて取り乱しはじめるが、三沢は、通常通り会社に向わせられる。

ただし、車だけは置いて行けと川西にキーを取られる。

正夫は学校を休ませろと川西が言うと、その正夫は、玄関から出ていく三沢に向って、パパの弱虫と言い放つのだった。

三沢の出社後、居間で自分達の事を報じているテレビニュースを観ていた川西とサブは、突然、玄関に警官がやって来たのに気付き、緊張する。

正夫と赤ん坊を部屋に残し、弘子が応対に出る。

警官(田中邦衛)は、近くの林の中で盗難車が置捨ててあるのが見つかったが、最近変った事はないかと聞いて来る。

弘子が、部屋の中に潜んでいる犯人を意識しながら、何もないと答えると、帰りかえた警官は、部屋の中で大きな物音を聞く。

とっさの機転で、正夫がテーブルの上にあったタンブラーを床に払い落とした音だった。

しかし弘子が大声で叱りつけると、子供は大変ですねと言いながら、笑いながら警官は帰ってしまう。

会社で仕事をしていた三沢の元に電話が入り、出てみると川西だった。

そこでは話が出来ないと言われたので、言われるがままに外の公衆電話から家にかけ直すと、12時に某デパートの屋上に坂田を呼出せと細かい指示を受ける。

デパートの屋上に着いた三沢は、坂田がすでに座って待っている姿を確認すると、別のベンチに座ってパンを頬張っていたレインコート姿の男(内田良平)に近づき千円を渡すと、12時15分になったら、子供電車の乗り場から食券売り場の方に向ってゆっくり歩いてくれないか、やってくれたらもう千円差し上げると申し出ると、男は喜んで承知する。

その後、デパートの6階の家具売り場に電話すると、坂田を呼出させ、そこに来るように伝言を頼む。

屋上に、その呼び出しのアナウンスが流れ、坂田が6階に移動しはじめると、近くに座っていた二人の男も同時に移動しはじめる。

家具売り場の電話に出た坂田に、今から、屋上の子供電車の乗り場から、食券売り場に向って歩いているレインコートの男がいるから、そいつに金を渡せと命ずる。

再び屋上に戻って来た坂田と、尾行して来た二人の男は、レインコートの男を発見すると、すぐさま捕まえてしまう。

その様子を、坂田のすぐ隣で観察していた三沢は、坂田の隙を観て、金の入ったバッグを奪い取ろうとするが、気付かれてしまい、刑事たちから追いかけれれる事になる。

必死にエレベーターに乗り込み、途中で降りて、何とか表に脱出した三沢だったが、その後、その一部始終を自宅の川西に電話連絡すると、すぐ帰ってこいと激昂する川西の命令を無視して、一方的に切ってしまう。

会社に戻って来た三沢は、すでに社内に誰もいない事に気付く。

朝方、慌てて壊してしまった自分のネームプレートを見つめながらどんやりしていると、警備員がやって来て、今日は土曜日なので全員帰ってしまったと教えられる。

時刻は、午後3時40分だった。

町に出た三沢は、五丁目交番の前に警官が立っているのに気付き、事情を話そうかと迷うが、その腰に下がった拳銃を見ると、妻たちが乱暴され、殺される所を想像してしまい、結局、何も言えないまま通り過ぎてしまうのだった。

再び、自宅に電話すると、出た川西に、金を作るから後二時間待ってくれと一方的に言って、又三沢は電話を自分から切ってしまう。

そうした三沢の態度にサブは完全に切れてしまい、自分一人で行くと言い出すが、川西は、待つんだ、ギリギリまでと言いながらサブに拳銃を向ける。

暗くなりはじめた町を、三沢は一人で彷徨っていた。

一人で逃げ出そうと考え、上野駅まで来た三沢だったが、階段で倒れている酔っ払いの横にいしゃがんでいる、その連れの子供の顔を見ると、それが正夫に似ていたので、ぎくっとする。

列車に乗り込むと、前の席に座った女が、赤ん坊に乳を含ませていたので、慌てて窓際に席を移るが、又、見るともなしに、階段にしゃがんでいる子供の顔が見えてしまう。

発射ベルが鳴りだし、電車が動き始めた瞬間、気を取り戻した三沢は、急いで電車から飛び下りるのだった。

自宅では、川西が飲めない酒を飲みはじめたので、サブが、いよいよ殺るのか?と聞いて来る。

そこに、三沢が帰宅して来る。

逆上したサブは、正夫を早く寝かし付けろと弘子に言っている三沢の胸ぐらを掴むと、めちゃくちゃに殴りはじめる。

殴られながらも、こんな所を子供に見せるんじゃない、早く寝かし付けろと、三沢は冷静に言う。

しかし、その顔は、もう血だらけだった。

赤ん坊は鳴き始め、部屋の中はメチャクチャになって行く。

興奮し切ったサブだったが、いつまでも三沢が無抵抗で静かなので、逆におびえるように身を引いてしまう。

血だらけの顔で、三沢は赤ん坊に近づくと、抱き上げてあやし始める。

その時、電話が入り、恐る恐る川西が出てみると、それは新潟からの連絡で、出航が一日伸びた知らせだった。

もう一日チャンスが出来たと、川西は笑うのだった。

翌日、昨日と同じく電話で坂田をとある喫茶店に呼出すと、一家揃って車に乗りその喫茶店の近くに向う事になる。

川西からの指示通り、三沢は一人でその店に入り、店内の電話からその同じ喫茶店に電話をかけ、坂田を呼出すと、別の場所に移動するように伝えながら、店内の様子を観察する。

すると、坂田が席を立つのと同時に、周囲に座っていた4人の男が一斉に動き出すではないか。

車に戻って来た三沢は、私服が付いていると、川西に教える。

坂田が向ったホテルに車を横付けした三沢は、もう一度、同じ要領で、坂田を電話口に呼出すと、私服が付いているんでは取引が出来ないと脅かす。

坂田は謝罪し、今度は絶対一人で行くからと言うので、アメリカ大使館の前からタクシーを拾えと、別の場所を指定する。

タクシーで目的地に向った坂田は、指定された地下鉄の構内に降りて行く。

赤ん坊のガラガラを持った三沢は、地下鉄の改札口付近で坂田と接触し、ガラガラを見せると、金の入ったバッグを奪い取って逃げる。

車では、川西とサブが、赤ん坊と正夫を抱いた弘子を後部席に乗せたまま、三沢の到着を待ち受けていた。

目の前の陸橋の上に三沢の姿が見えたので、安心した二人だったが、奇妙な事に、三沢は階段を降りて来ようとしない。

奪い取って来たバッグを欄干の上に置いたりしながら、又、元の方へ戻りかけたりするおかしな素振りを見せる。

何か、魂胆があるつもりだと緊張する二人だったが、気の短いサブがとうとう切れて、制止する川西の手を払い除けて、車から飛び出してしまう。

川西は、万一の為にと正夫を自分の方に奪おうとするが、弘子が頑として、赤ん坊と正夫を抱き締める。

階段を昇って行ったサブを、冷静に待っている三沢。

そんな三沢につかみ掛かって行ったサブは、思いもかけぬ反撃を受ける事になる。

三沢が、本気でサブに立ち向かって来たのだ。

近くに止めてあった車に、サブの頭を何回も打ち付けた三沢は、金の入ったバッグの横に倒れたサブをその場に残し、立ち去ってしまう。

にわかに、野次馬たちが、倒れたサブの方へ詰め掛けて来て、その中には、警官の姿もあった。

その様子を車内から見ていた川西は、いよいよ緊張して、自分だけ車外に出ると、ドアの隙間から、弘子の方に拳銃を突き付けて来る。

しかし、次の瞬間、そのドアが何者かに閉められ、川西は、腕を挟まれて銃を取り落としてしまう。

車の背後から近づいて来た三沢が、車の下に潜り込んで川西に近づいていたのだった。

川西は、思わずその場を逃げ出すが、集まって来た野次馬たちが全員敵のように見えてパニック状態になり、そのまま引き込み線敷地内に侵入すると、線路に倒れ込み、近づいて来た貨車にはねられてしまう。

その後、赤ん坊は無事、坂田と母親の手に戻り、正夫と弘子を抱きかかえた三沢は、詰め掛けた記者連中から取り囲まれ、その勇気ある行動を賞賛されれるが、無表情に去って行くのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

最後まで観終わると、これは普通の人間版「ダイハード」だな感じた。

妻と子供を人質にされ、犯人の言うがままに、誘拐犯の片棒をかつがされる事になったエリート社員が、迷ったあげく、最後の最後に、父親としての意地を見せ、一人で立ち向かって行く話だからだ。

主人公三沢は、普通のサラリーマンなので、単純に反撃する勇気がなく、途中、逃げ出そうかと人間としての弱味を見せる描写があるが、そこが逆に、後半の反撃に痛快感を持たせている。

戦争に行った事があると言う伏線から始まり、途中、サブの暴力に最後まで耐え抜く我慢強さで、侮れない人物だと観客にそれとなく心の準備をさせる巧さもあるが、三國のがっちりした外見も、この展開を説得力のあるものにしていると思う。

とにかく、キャスティングが見事で、どの役者も迫真の演技を見せてくれる。

正夫を演じている穂積ペペは、コルゲンコーワのCFで、カエルのマスコット人形に向い「おめえ、へそねえじゃないか」と悪態を付く子供として、一躍茶の間の人気者になった子役で、その後も青春ドラマなどに出ていた人物である。

その正夫が夢中になっているのが、リモコン式のレーシングカーであると言うのが懐かしい。

当時、流行っていたものだからだ。

それを観て、人をリモコンで思いのままに動かすロボットにしたてると発想するのが、西村晃であると言う所も、マニア心をくすぐらせる。

「帝都物語」で一躍知られるようになったが、彼の父親は、日本で最初のロボット「学天則」を発明した西村真琴博士だからだ。

全くの偶然だとは思うが、その符合が興味深い。

作品としては、低予算独特の地味さはあるが、着想、展開とも面白いし、俳優陣の熱演もあって、全体的に緊張感に溢れ、見事なサスペンス劇になっている。

深作作品としては、あまり知られていない秀作の一本ではないだろうか。