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憎いもの

1957年、東宝、石坂洋次郎原作、橋本忍脚本、丸山誠治監督作品。

この作品は、後半、意外な展開がありますが、最後まで詳細にストーリーを書いていますので、御注意下さい。コメントは下です。

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東京へ向う列車の中、隣りに座る村井彦一(藤原釜足)にウィスキーを勧める木山敬介(東野英治郎)。

木山は、東京で仕入が終わった後、二千円だけ残っておけと村井に言い出す。

東京には、未亡人やらデパートの店員やら、金で自由になる素人女がいくらでもいるからと下びた笑いを浮かべる。

しかし、それを聞いた村井は、自分の持っている金は、仇やおろそかにできるものではないと、自分が今回、上京を決意した頃を思い出すのだった。

青森の弘前で、雑貨業を営んでいる村井は、妻(賀原夏子)と小学生の息子秋雄(若原亘)と三人暮しをしていたが、地元で仕入をしているため、二割か三割の儲けしかなく、貧しい生活を強いられていた。

頼りになるのは、三年前上京し、その後、会社のボーナスなどを盆暮れごとに律儀に送ってくれる長女の由子(安西郷子)だけだった。

まるで、鳶が鷹を産んだような器量良しで良く働く感心な娘だと、夫婦揃って自慢しあっていたが、そろそろ身を固めさせたいと言う妻の言葉に村井は一抹の不安を抱いていた。

嫁がせてしまったら、仕送りがなくなってしまうからだった。

そうした将来への不安をなくす為、村井は、由子が送ってくれた金を溜めて、その金額が5万になったら、自ら上京して、東京で直接仕入をして来る事を考えていた。

そうすれば、こちらで仕入れるよりも売れるし利益率も上がり、店を拡張できるはずだったからだ。

列車の中で、そうした話を聞いていた木山は、そんだけ金を送ってもらえると言う事は、よほど、娘さんが働き者で、上役から目をかけてもらっているに違いないと感心する。

村井は、そんな娘と中学校の倉田先生が一緒になってくれないかと考えているのだと、昨日の話をする。

妻が東京に持って行く大金を取られたりなくしたりしないよう、自分の腹にしっかり胴巻きを縛り付けてくれている所にやって来た倉田先生(小泉博)が、由子がいつも食べたいと便りを寄越していたみそ漬を持って行ってやってくれと持って来てくれたのだ。

その倉田先生が、東京ははじめてかと聞いて来たので、20年程前、呉服屋の番頭だった時分に、一度行った事があるだけなので、はじめてのようなものだが、市会議員で太陽堂と言うデパートのようなものを経営している木元と言う人物と一緒に行くので大丈夫だと村井は答える。

列車は無事上野に着き、木元の馴染みの旅館に到着すると、澄江(千石規子)と言う仲居に、娘への電話番号を廻してもらう。

電話口に出た由子は、蔵前の問屋に早速向うつもりだと言う父親に、一件の店だけで判断しないで、あれこれ比較するようにと忠告するが、村井も今日はあちこち観て来るだけだと安心させる。

娘から教えられた秋葉原から一つめの駅で降りた村井は、あちこちの問屋を覗いて、その店の値段を手帳に印して帰る。

夜、由子が旅館にやって来る。

澄江が風呂を勧めに来るが、今日は風邪をひいているからと村井は断わる。

金を腹に巻いているので、用心の為にそうしたのだった。

村井が、蔵前の問屋の値段は、弘前の半値だったと報告すると、明日は休みをもらったので、自分も一緒に付いて行ってやると由子が申し出る。

翌朝、部屋で起きた村井は、隣の布団に何時の間にか寝ていた木山から、土産のシュウマイをもらう。

夕べは27才の未亡人と寝て遅くなってしまったと嬉しそうに報告し、村井にも浮気の勧めを盛んにする木山の生臭い話を、村井は呆れながら聞いていた。

木山は、列車で話していたように、明日の晩は良い所に案内してやると気を持たせるのだった。

その日は約束通り、由子と共に蔵前で仕入れの手配を終えた村井は、食事時、由子から、明日の午後は東京見物に連れて行ってやると言う観光バスの予約券を見せられる。

翌日、皇居や靖国神社、国会議事堂、開いている途中の勝鬨橋などを巡った村井は、絵画館前で記念写真を撮ってもらいながら、修学旅行で由子と一緒に東京に来たと言う倉田先生の話を持ち出し、今では秋雄の事を良くしてくれるし、将来は校長にまでなる人だろうと、由子にそれとなく伝えるのだった。

旅館まで送って来た由子は、村井に用意していた土産と小遣いを渡して帰る。

その夜も、木山は帰って来なかった。

夕食後、澄江から勧められるままに、ぶらり外に散歩に出かけた村井は、無事、仕入を終え、孝行娘にも再会出来た喜びを噛み締める幸せな夜を過ごす。

翌朝、木山から旅館の部屋に電話が入り、今夜部屋に戻る予定なので、自分の分の帰りの列車の切符も買って待っていてくれと伝言がある。

その日は、自分で持帰れる分だけ仕入をして来た村井は、買って来たひょっとこの面を澄江と番頭(佐田豊)が珍しがったので、一つプレゼントすると、自らも店先で被って踊ってみせるのだった。

午後は、由子の会社に挨拶をしに行き、上司をはじめ、社員全員に深々と頭を下げた村井は、由子に送られて会社を後にする。

夕食は帰って来た木元と一緒に旅館の部屋ですませた村井だったが、11時50分発の列車の出発時刻までは、まだ時間があるからと、木元に勧められるまま、タクシーに乗り込みとある宿に到着する。

その店では、佐々木と名乗っているからと木元に念を押されて入った旅館は売春宿だった。

独り部屋に通された村井だったが、やはり、娘からもらった金で、こんな行為をする気にはなれず、やって来た娘(内藤貴美子)には全く手を出さないばかりか、自分はその気はなく、ただ知人に連れられて仕方なく付いて来ただけだと言い訳するのだった。

業を煮やした娘は部屋を出て行ってしまい、その事を知った女将(水の也清美)は、大切な常連客が連れて来た相手に気を使い、別の女を差し向ける。

二番目の女(中田康子)は、同じように村井がする言い訳を聞くと、安心したように、自分は東北秋田の出身だと明るく話しはじめる。

同じ東北出身者だと知った村井も安心し、女の話を聞いていると、中学卒業後、郷里でバスの車掌になったが、一ヶ月目に運転手から身体を奪われてしまったのだと言い出す。

自分自身も男好きだったので、その内、会社の男全員と寝る事になったので、最後は気まずくなってそこを辞めた後、上京して、新宿二丁目の赤線に勤め出したのだと言う。

来年から、赤線が禁止になるので、コールガールに転身したのだと、女はあっけらかんと話し終える。

その女が帰った後、さすがにこんな悪所に付いて来た自分のだらしなさを後悔し出した村井は、列車の時刻も迫っている事もあり、小山のいる部屋を探しはじめる。

これらしき声が聞こえた部屋の前で声をかけると、入って来ても良いと言う。

中に入ると、事を終えた小山がベッドの上で明るく村井を迎えた。

何気なく、その横で下着を身に付けていた女の方に目をやった村井は愕然としてしまう。

その女は、昼間、会社で別れたばかりの由子だったからだ。

由子の方も、父親の姿を見るや驚愕し、下着姿のまま部屋を飛び出すが、追い掛けて来た村井に捕まって殴りつけられる。

倒れた由子は、恨みがましそうな目つきで父親を見ると、自分がこんなに辛い思いをして送った金で、何故、こんな所に来たのかと責めはじめる。

さすがにその言葉には、何も答える事が出来ない村井だった。

その後、村井は街で泥酔し、街を彷徨していた。

何も知らないで…と村井は呟いていた。

とある電柱の下でへたり込んでいた村井を見つけたのは、同じく泥酔していた木山だった。

村井に近づいて来た木山は、知らぬが仏だ、堪忍してくれと頭を下げる。

一緒に旅館に戻った二人は、今なら、まだ列車に間に合うが…と戸惑う澄江と番頭の言葉も無視し、酒を部屋に運ばせるのだった。

深夜まで飲み明かし、便所に向った村井は、用を足しながらも涙を流していた。

部屋に戻ってみると、木山が、自分の荷物として置いておいたひょっとこの面をかぶったまま眠っている。

そのひょっとこの面を見つめている内に、急に殺意を抱いた村井は、柱にかかった手ぬぐいを取ると、迷わず木山の首に巻き付けると締めはじめる。

何時の間にか、村井は警察署に拘留されていた。

担当刑事(宮口精二)の前にやって来た由子は、父親は自分の為に、こんな事をしでかしたのだと説明を始める。

昭和28年暮、自分は課長に暴行されたと、由子は話しはじめる。

最初だけ三千円もらったが、その後半年間くらい付き合っても何もくれなくなったので、金の事を切り出したら、君は金が目的で付き合っているのかと言われたので、もう何も言えなくなってしまった。

あの売春宿には、友だちから誘われて通うようになり、二年間続けた。

給料だけでは食べて行くだけが精一杯で、着て行く洋服代にも事欠いていた為、仕方なかったのだと由子は告白する。

翌日、娘が来て事情を話して行った事を村井に教えた刑事は、結局、娘を犯された木山への恨みが動機だったんだろうと解説しはじめる。

しかし、それを聞いていた村井は強く否定する。

自分はある夜、旅館に帰って来た時には、木山にも誰にも腹を立てるような事はなかったのだと言う。

ただ、もっと他に、憎くてなんねえものがあった…、その憎いあんちくしょうを殺したかっただけなんだ…と村井は呟く。

郷里の川で秋雄と釣りをしていた倉田先生は、姉さんから手紙が来て、もうすぐ自分がこちらに戻り、君と母さんと三人で家を守ると書いてあったから、そうやって、お父さんを待っていようねと慰めるのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

上映時間61分の中編作品ながら、なかなか見ごたえのあるシリアスな作品になっている。

石坂洋次郎原作ながら、重くて暗い結末なのが珍しい。

朴訥な父親と東京で働く健気な娘との久々の再会劇が、運命のいたずらで、とんでもない悲劇を招いてしまうと言うショッキングな展開になっている。

冒頭から、あれこれ伏線めいたセリフが用意してあるので、今観ると、何となく展開が読めてしまう所があるのだが、何の予備知識もなく観たとしたら、相当ショックを受ける内容だと思う。

健気な娘に扮しているのが、エキゾチックで清楚な美しさを誇る安西郷子だと言う事も、より衝撃感を強調していると思う。

こんな役柄を演じている安西郷子は始めて観た気がする。

売春宿で、二番目に村井の前に登場するコールガールは中田康子なのだが、劇場で観た時には全く気付かなかった。

60年代頃の妖艶な年増顔と違い、この頃は、まだかなり健康的な丸顔なのだ。

下品な男を演じている東野英治郎も巧いが、何と言っても、藤原釜足の独壇場とでも言えるような作品だと思う。

この作品、彼の代表作の一本なのではないだろうか。

前半、大金を持って上京して来る釜足の用心深さの描写は、同時に観客へのミスリードにもなっており、無事、仕入が終わって、金にまつわるトラブルは回避させたと、観客にも一安心させてみせるのが、続くショッキングな展開をより強調させる仕掛けになっているのだと思う。

余談だが、この作品、音楽は伊福部昭で、非常に珍しい事に、劇中で、怪獣映画などでお馴染みの「伊福部マーチ」が流れるのだ。

伊福部氏が音楽を担当した映画で、怪獣映画と「似たようなメロディ」が流れる事は良くあるが、はっきり「伊福部マーチ」と分かる曲を聞いたのははじめて。

残念ながら、その曲が何と言う作品に出て来たものなのかタイトルが分からないのだが、明らかに東宝特撮で流れる有名な曲そのものだっただけに、観ていて驚かされた。