1960年、松竹大船、田村孟脚本、高橋治脚本+監督作品。
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「強姦殺人犯横行す!」新聞売り場の売り文句が目立つクリスマスイブの日の駅前。
夏山綾子(小山明子)は、恋人の杉(渡辺文雄)を待ち受けていた。
久々のデートに浮き立つ綾子は、15分遅れてやって来た杉に、プレゼントは、あなたに観てもらおうとまだ買っていないのだが、食事を先にする?と問いかけるが、杉は、仕事が忙しくて、時間がないと詫びる。6時から捜査会議だと言うのだ。
いつも同じような事の繰り返しに不機嫌になった綾子は、父に言って、刑事を恋人に持つのも考えものだってと、去りかける杉に言葉をかける。
綾子の父親は、警視庁の夏川警部補(笠智衆)、杉は同じ部署の新米刑事、二人とも、現在、世間を騒がせている「連続強姦殺人犯」を追っている真っ最中だったのだ。
捜査本部では会議が始まり、北江捜査課長(松本克平)が捜査員たちに事件の確認をしていた。
最初の強姦殺人の被害者が出たのが12月12日。
それから、正確に4日ごとに同じ被害者が出て、すでに3人の娘が犠牲になっていた。
12月24日の今夜は、その4回目の犯行予定日に当るのだ。
ここで、捜査方針の再検討に入る。
犯人が残した指紋に前科はなかった。
被害者の体内に残されていた精液から検出された血液型はO型、黒い中型自家用車に乗っていたとの目撃報告がある。
犯行間隔から考えて、4日ごとに時間が自由になる職業、鉄道、消防、その他などの各職業が考えられる。
クロロホルムを使用している事から、薬剤関係に知識を有するものである可能性が高い。
しかし、これら個々の確認作業を進めていたのでは、犯人を絞り込むのに3ヶ月はかかる可能性があると言うのであった。
その頃、杉のアパートに来ていた綾子は、クリスマスプレゼントとして買ったネクタイを机に置くと、夏山警部補嫌い、杉新米刑事も大嫌い。今日の事は怒ったけど、でも許してあげる。このネクタイは、茶の背広の時に締めてね。と、手紙を書いて添えて置き、一人で帰る事にする。
自宅付近に帰って来た綾子は、さすがに、暗い夜道が不気味なり、周囲を見渡しながら歩いていると、突然目の前に男が現れたので、硬直してしまう。
しかし、その男は、駅までの道を訪ねる人だった。
ほっとして、道を教え、そのまま歩き始めた綾子は、電信柱の影に立っていた男から、突然襲いかかられる。
その頃、警察詰め記者たちは、非常警戒体制を敷く以外に有効な手立てがないようだから、当分犯人をあげるのは無理だろうと噂しあっていた。
クロロホルムを嗅がされ空き地に倒れていた綾子は、朦朧とする意識の中で、犯人から首を閉められているのを感じていたが、そこにたまたま二人の酔っ払いが近づいて来た為、急遽、犯人は立ち去ってしまう。
クリスマスソングがぼんやり聞こえて来る中、しばらく、そのまま綾子は立ち上がれなかった。
帰宅した綾子を出迎えた母親とし子(水戸光子)は、電気も付けずに部屋に籠っている娘の様子を不審に思い、何かあったのかと尋ねるが、泣いている綾子のセーターの背中の部分が大きく引き裂かれていることに気付く。
事情に気付いたとし子は、泣いていたって仕方ないと言いながら電話を廻しはじめるが、それを止めに来た綾子は、お父さんには知らせないで、伸一郎さんに知られたら死ぬと言いだす。
とし子は冷静に、医者の星野先生に来てもらうのだと返事する。
深夜、2時50分。
帰宅して来た夏山は、妻のとし子から事情を聞かされ、何故すぐに知らせなかったと問いつめる。
とし子が、あなたに知らせるとすぐに非常警戒され、杉さんにも知られてしまうからと答えると、もう3人もやられているんだぞと、夏山は事の重大性を強調する。
それでもとし子は、自分にとって一番大切なのは綾子ですと譲らない。
夏山は、人間は大なり小なり傷を背負って生きて行くものだと説き伏せようとするが、とし子は、杉さんに愛されたいとどんなに努力したか知れない綾子を責められない。星野先生に犯人の血液型も調べてもらったが、こんな事に協力しなければならない警察官の妻と言う立場が悔しいと反論する。
現場に向った夏山は、そこに落ちていたネクタイピンを発見し、家に持ち帰って来ると、何も見つからなかったら、お前の言う通りにしようと思ったが…と、綾子ととし子に見せる。
母親は、嫌ですと、そのネクタイピンを払い除けようとするが、触るな!と夏山は怒鳴る。
綾子は、お好きなように為されば良いのよ。それで警視総監賞でも功労賞でももらいなさいと、冷ややかに答えるだけだった。
翌朝、特別捜査本部にやって来た夏山は、ちょうど部屋から出て来た杉と出会う。
今朝方は4時までみんな起きていたが、何事も起きなかったので、今、全員、眠り始めた所だと愉快そうに報告して来る。
それには答えず、独り鑑識班の部屋を訪ねた夏山は、付き合いの長い神崎鑑識現場係長(三井弘次)に、課長の部屋に来てくれと頼む。
夏山から事情を聞かされた北江捜査課長は、秘密捜査にするしかないと判断する。
子供の頃から、綾子を良く知る神崎も、悲痛な表情で、ネクタイピンに指紋がついてないかどうか調べると言う。
北江捜査課長は、捜査主任である矢島警部(永井達郎)にだけは知らせねばならないだろうと、その場で電話を入れるが、その後、神崎が、実は綾子は、夏山と組んでいる杉と付き合っているのだと、北江捜査課長に教えるのだった。
その後、本部では、矢島警部が、夏山に秘密任務を与えたので、杉にも協力するようにと命ずる。
部屋にいた夏山は、その直後、神崎から、指紋の検出は出来なかったとの報告を聞かされる。
夏山に従ってバスに乗り込んだ杉は、何故、自分には捜査内容を教えてもらえないのかと食い下がるが、夏山は何も答えない。
夏山が始めたのは、ネクタイピンの出所から、持主を探し出す捜査だった。
ネクタイピンを売った店は、比較的簡単に見つかり、売った相手も判明する。
その男は、このピンは、昨年、妻からもらったものだが、友人の結婚式につけて行った事までは覚えているが、その後なくしてしまっていた。もともと、ネジが緩かったのでと言う。
杉に、その男の尾行を頼んだ後、北江捜査課長に報告に行った夏山は、血液型を取ってみたらどうかとアドバイスを受けた上、やはり綾子の事情聴取をしなければいけないから呼んでくれないかと頼まれる。
自宅に電話をする夏山の姿を観ながら、綾子の年を聞く北江捜査課長に、同席していた神崎は23だと答える。
夏山は、電話に出た妻から、綾子がいなくなったと聞かされ驚く。
とあるアパートに、男女のカップルが帰って来て、入口を入ったところでキスを交わすが、その女は、自分の部屋の前に立っていた綾子の姿を見つけて驚く。
女は、綾子の友人の秀子(千之赫子)だった。
今夜泊めてくれないかと言う綾子の言葉を聞いた男は、気を利かせて帰ってしまう。
部屋に招かれた綾子は、酒でも飲まないかと言い出す。
飲まないと、母親に電話をしてしまいそうだからだと言う。
しかし、結局、翌朝、綾子は母親に電話をし、4、5日、秀子のアパートに置いてもらうと説明する。
会社には、病気で休むと連絡してくれ、お父さんには、絶対ここの事を言わないでくれときつく頼む。
一方、再び、ネクタイピンの所有者を訪れた夏山と杉は、相手が席を立った隙に手に入れたタバコの吸い殻を鑑識に廻して血液型を照合してみたが、A型だと判明、犯人ではなかった事を知る。
捜査は振り出しに戻る。
黒い車とクロロホルムの線に浮かんだ容疑者は200名にも及んだ。
しかし、夏山は杉に、ネクタイピンのネジの部分を示し、所有者は、ここが緩かったと言っていたが、今は直っている。拾ったやつが直したのだと指摘する。
雨の中、綾子が一人でいたアパートの部屋をとし子が訪ねて来る。
とし子は、警察では、おまえに事情聴取したがっているが、ここの事は話していない。
自分は、お前の味方だからねと言い残すと、下着類を渡して帰って行く。
北江捜査課長から、娘さんの証言があれば…と聞かされていた夏山は、その日帰宅して、とし子から綾子にあった事を聞かされると、場所を言いなさいと問いつめる。
しかし、とし子は、頑として話さないと拒否する。
その後も、執拗に教えるように催促して来る夫に対し、母親の自分に出来なかった娘への説得を、あなたができるはずがないと言い切る。
夏山は、お前が娘をなでているような行為で、本当に慰めになるのかと反論する。
翌日、特別捜査本部に集まった捜査員全員の前で、北江捜査課長は、殺人は未遂に終わったが、実は24日に犯行があった事実を発表する。
つまり、28日には、さらに同じ犯行が繰り返される恐れがあると言うのだ。
捜査員たちはその話に驚くと共に、何故、唯一の生き証人になる被害者の名が明かせないのかと迫る。
そんな中、杉に電話が入る。
呼出したのは、とし子だった。
とし子は杉に、24日の夜、あなたと別れた後、綾子が強姦魔の魔の手にかかってしまった事実を打ち明ける。
綾子は、その事をあなたに知られるのも恐れているし、あなたの事も事件の事も何もかも忘れようとしている。
夏山は、その傷と真正面から立ち向かえとしか言わないが、今できる事と言えば、あなたに頼むしかないと辛そうに伝えるのだった。
その後、杉は、射撃練習場で黙々と射撃訓練をしながら、気持ちの整理をする。
その頃、秀子のアパートには、毎日沈み込んでいる綾子を慰めようと、女友達が集結して、身内の忘年会で盛り上がっていた。
そこにやって来た杉は、綾子に話があると言葉をかけるが、綾子は振り向こうともしないし、他の酔った女たちが、杉の言葉をいちいちからかい出す。
いたたまれなくなった杉は、その場を立ち去るが、後を追って来たのは、酔った連中の行為を詫びる秀子だけだった。
久々に自宅アパートに戻って来た杉は、クリスマスイブの日に綾子が置いて行ってくれたネクタイと手紙を発見する。
その後、アパートの屋上で綾子と再会した杉は、彼女を慰めると同時に、事件への協力を願い出るが、すっかり頑なになった綾子は、同情なんかされたくないと言うだけではなく、自分の居場所をばらしてしまった母親をも恨む言葉をはき、もうあなたとも母親とも縁を切るとまで言い出す。
秀子の部屋に戻って一人になった綾子は、ラジオから聞こえて来る「暴行殺人犯に対する非常警戒」のニュースを途中で切ってしまうが、もはや、問題は、綾子一人の事ではなくなっている、事件解決には君が協力してくれるしかないんだと言う、先ほどの杉の言葉を思い出していた。
とうとう警察に行く気になった綾子は、深夜、独りで警視庁に向うが、ちょうど、捜査本部から出て来る父親や杉達、捜査員一行とすれ違う。
夏山は、バカ!もっと早く、お前が来てくれてれば…と言い残し、事件現場に向って行く。
又、被害者が出てしまったのだ。
朝方の4時、綾子は、北江捜査課長、神崎、夏山ら身内だけの前で事情聴取に応じていた。
さが、犯人は、冬だったにもかかわらず、オーバーを着ていなかった事を思い出しただけで、綾子はこれといった手がかりになるような事実は思い付かなかった。
自宅に戻った綾子を迎えたとし子は、杉に打ち明けた事を怒っているかと問いかけるが、綾子は何も答えず部屋に戻る。
そこで、何気なく取り上げたヘアブラシを観ていた綾子は、そこに挟まっていた小さなものに気付く。
事情聴取で聞かれた「犯人はメガネをかけていなかったか?」と言う質問と重ね合わせた綾子は、大変なものを見つけた事を知る。
それは、犯人が綾子を襲った時、彼女の髪に落として行ったコンタクトレンズだったのだ!
ただちに、綾子は父親に電話をする。
さっそく、夏山と杉がそのコンタクトを専門家に観てもらった所、ベースカーブ7.7、度数0.3の中程度の近視用と判明、その報告を受けた矢島警部は、捜査員全員、本部に集結するよう命ずる。
眼科に残っていたカルテから抽出したコンタクト該当者67名と、これまで判明している200名の容疑者とを照会した結果、両方に当てはまるのは5人だけに絞られた事が分かる。
その5人の調査をした所、吉川守の血液型はAB型と分かり、今井和雄は事件当日、函館に出張していた事が判明、この二人は、容疑者から外される事になる。
神崎は、残る3人の顔写真を入手し、それを綾子に見せるが、特定が出来ない。
肥立五郎と言う男は、現在、別件で警察に拘留中と分かり、これも容疑者から外させる。
残るは桜田寛治(小林和雄)と言う男と西野正夫(春山勉)と言う男だった。
正月になり、桜田がいる自宅の千代田アパートを張っていた杉と夏山コンビの元に交替要員がやって来たので、夏山は杉に、雑煮でも食べに家に来いと誘う。
綾子ととし子も交え、4人で屠蘇を酌み交わそうとするが、杉と一緒にいるのが耐え切れなくなったのか、綾子が部屋の外に飛び出してしまう。
追って来た杉に、良く考えた末、自分達は別れた方が良いと綾子が言い出す。
一生、杉にいたわられながら生きて行く事を思うと、耐えきれないと言うのだ。
杉は、君だって、もうそろそろ、事件の事を忘れなければいけないと感じはじめているのではないかと問いかけるが、もし、このまま結婚して、後悔する日が来たらどうしたら良いのか。あなたには、どんな事でも引け目を感じたくないのだと、綾子は答える。
君は、悲劇の主人公になりたいだけで、独りよがりだと責める杉に対し、あなたは、その悲劇の主人公を慰める事に酔っているのだと綾子も反論する。
結局、二人の気持ちはすれ違ったまま、杉は帰る事にする。
その後も、桜田は、のんきに訪問客達と百人一首などした後、スキーバスに乗ったとの報告が入る。
西野の方は、新宿の寿司屋で飲んでいると言う。その後も、中野のバーに移動した西野が本星臭くなって来る。
とし子は、警察から犯人の面通しに来てくれと連絡があったと綾子に伝える。
捜査陣は、多田婦警(村上記代)を、囮要員として呼び寄せる。
西野は、善福寺公園に来る。
その姿を遠目で確認した綾子は、あの人に間違いないと断言する。
夏山、杉ら捜査陣が監視する中、道の木陰に潜んでいた西野は、接近して来た多田婦警の前に出るが、その顔を観て何もせずやり過ごしてしまう。
作戦は失敗だと感じたその瞬間、その場を立ち去った綾子が、犯人が待つ道を自ら歩き始める。
事の成りゆきに息詰まる捜査陣たち。
綾子が、西野の横を通り過ぎようとした瞬間、西野が襲いかかる。
次の瞬間、近くに潜んでいた捜査陣が一斉に走り寄り、二人を引き離すと、西野をその場で現行犯逮捕する。
犯人の西野正夫は、製薬会社に勤める男で、4日ごとに東京の本社にやって来る男だった。
事件解決後、夏山は、北江捜査課長に辞表願いを提出する。
刑事として、年を取り過ぎたと言うのであった。
そこに、上申書を取り終わった神崎が綾子を連れて来たので、北江捜査課長は、机の上の辞表を示しながら、そうするしかお父さんは、君への気持ちが伝えられないと言っているのだと綾子に説明する。
綾子は、その辞表をしばらく見つめたが、結局、何も口にはしなかった。
その後、捜査本部では、捜査本部解散の乾杯をする事になり、北江捜査課長は、その場に出席した綾子に、今日限り、捜査に協力してくれた気高い女性がいたことは忘れようと思うと伝える。
綾子は、神崎だけに会釈して、警察署を去る事にする。
捜査員たちが、酒を飲みはじめた中、窓辺に立った夏山の側に、神崎も近づく。
二人が観ていたのは、独り帰って行く綾子の後ろ姿だった。
同じように、その姿を眺めていた杉に近づいた神崎は、その肩を力強く叩く。
それに後押しされたかのように、本部を飛び出して行った杉は、綾子に近づいて行く。
綾子の方も、後ろから近づいて来る足音に気付き、嬉しそうに足を止めるのだった。
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後に、直木賞作家となる高橋治の第一回監督作品。
強姦殺人犯を追う捜査員を父親と恋人を持つ若い女性自らが、その犠牲になってしまうと言う着想の面白さ。
そこから、絶望状態になったヒロインと両親、そして恋人との葛藤ドラマが始まる。
一時間程度の短い作品ながら、人間ドラマとしても、サスペンスとしても密度は高い。
幸せの絶頂から不幸のどん底に落ちてしまい、人間不審になり、心を閉ざしてしまうヒロインを、若き小山明子が良く演じている。
それを必死にかばおうとする母親役の水戸光子、一方、情を押し殺し、まず次の被害者を守ろうと捜査に専念する父親の辛さを笠智衆が、各々、しっかり演じ切っている。
若々しい渡辺文雄と、友人思いのベテラン鑑識係長を演じている三井弘次の姿も印象的。
