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怪猫有馬屋敷

1953年、大映京都、木下籐吉脚本、荒井良平監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

ある夕暮れ、有馬屋敷周辺に時ならぬ半鐘の音が響きだし、不審に思った見張り番二人が火の見やぐらに登ってみるが、そこで首を吊っている腰元の死体を発見し腰を抜かす。

その腰元の右手の薬指は途中でちぎれており、明かに死んでいるはずのその女は急に目を見開き、見張り番に微笑み返すのだった。

タイトル

有馬屋敷の大奥の部屋から、猫を追い出す腰元二人。

部屋の中で、おたきはどこだ、と怒鳴っているのはおこよの方(北見礼子)。

見ると、部屋の中に置いてあった鯛の焼き物が喰い散らかされている。

おたきの方(入江たか子)が可愛がっているタマの仕業らしい。

騒ぎを聞き付けお供のお仲(阿井三千子)と共に謝罪に駆け付けて来たおたきの方に、おこよの方に負けじと、やれ、八百屋の娘の成り上がりが野菜ばかり食べさせているから、飼い猫もこういう粗相をするだのと口汚く罵声を浴びせているのは、おこよの方に仕える老女岩波(金剛麗子)だった。

常日頃から、殿の御寵愛を受けているおたきの方に強い嫉妬心を持っていたおこよの方は、ここぞとばかりに、おたきの方を悪し様に言い、すぐさまタマを殺して来いと命ずる。

それを聞いていたお仲は、猫が魚に手を出すのは仕方がない事と弁解するが、当然相手には聞き入れられない。

猫を殺すのは許すと言い出したおこよの方の言葉に安堵したおたきの方だったが、次の言葉に凍り付いてしまう。

この場で帯を解き、裸踊りを見せろと言うのであった。

これにはさすがのお仲も気色ばむが、岩波に指名された腰元の浅茅(柳恵美子)らに組み伏され、おたきの方は危うく着物を脱がされそうになってしまう。

そこにやって来たのが有馬大学(坂東好太郎)。

彼は、その場の異様な空気を察するや、すぐにお仲に、おたきの方の着物を着させ、部屋に下がらせる。

部屋に戻って来て、タマを発見したおたきの方は、愛おしそうに抱き上げながらも、このままタマを屋敷で飼い続ける事は出来ないと覚悟し、自ら持っていた鈴をタマに付けると、お仲と共に外に放しに行くのだった。

その時、殿の御渡りの声が響き、二人は慌てて部屋に戻るが、いつものように、有馬頼貴(杉山昌三九)が、まっすぐおたきの方の部屋に入ってしまったので、それを観ていたおこよの方は凄まじい嫉妬の顔つきで睨み付けていた。

ある日、殿が見守る中、大奥の女たちによる武芸大会が開かれる。

腕に覚えがある岩波が、得意の小太刀でなぎなたを使う腰元を負かした事で、その日の試合は終了と思われたが、いきなり岩波がおたきの方に御相手願いたいと殿に申し出る。

町娘出身のおたきの方に武芸の心得等あるはずもなく、明らかに彼女に恥をかかそうとする企みだったので、お仲が代わりにと申し出るが、その場にいたおこよの方から、差し出がましい事をするなと叱責される。

おたきの方は必死に殿に辞退を申し出るが、大奥に勤めるものが武芸の心得がなくてイザと言う時どうすると、おこよの方から嘲られては出ない訳にも行かず、一応なぎなたを持ち、形だけ岩波の前に出ると、その場に土下座して、御容赦を…と願い出るのだった。

ところが、そんなおたきの方に、岩波は小太刀を何度も打ち据えてしまう。

さすがに、その仕打ちを見せられた殿は、不快だと言い残して席を立ってしまうが、それを横目で観ていたおこよの方は愉快そうに微笑んでいた。

その夜、城内の神木の前に、頭に蝋燭を立て、口にも火のついた棒をくわえた白装束の無気味な姿があった。

それは、丑の刻参りにやって来たおこよの方であった。

神木に打ち付けた藁人形に、形相凄まじく五寸釘を打ち込むおこよの方。

その時、一人寝ていたおたきの方は、急に胸の痛みを覚えて目覚めるのだった。

しかし、その物音に気付いた城内警備の腰元たちが近づいて来たので、おこよの方はその場を立ち去ってしまう。

翌日、神木に打ち付けてあった藁人形と呪の相手を印した書状を見つけて届け出て来た腰元たちに、おこよの方は、相手の顔を観たのかと尋ねるが、闇夜の事とて…と、相手が確認できなかった事を聞くと、安心したように微笑むのだった。

書状には、呪詛の相手として10月20日生まれの女と書かれてあり、それはまさしくおたきの方の事であった。

その頃、お仲は大学に、暇を願い出ていた。

あまりに、おたきの方に対する嫌がらせが酷いので、もう自分には耐えきれないと言うのである。

しかし、大学は、そんな迫害等跳ね返して欲しいと勇気づけた後、お仲の手を取り、彼女の事が好きだと打ち明けるのだった。

その頃、おたきの方は、行灯に火を入れる時、過って油をひっくり返して右手をやけどしたと包帯を巻いている呉竹(大美輝子)から、手紙の代筆を頼まれていた。

その後、殿の元に呼出されたおたきの方は、おこよの方を呪詛せんとする丑の刻参りをやった張本人として、岩波の追求を受ける事になる。

おこよの方の誕生日を印した文書がその証拠だと示させるが、それは、呉竹から頼まれて代筆した手紙だったので、おたきの方はそう弁明すると、当の呉竹が、そんな事を頼んだ覚えもないし、第一、自分は火傷等していないと、包帯をしていない右手を出してみせる。

だが、その詮議を聞いていた殿は、岩波のやっている事は一方的な押し付けに過ぎなず、真犯人を知るには、丑の刻参りの現場を押さえなければならぬと注意する。

しかし、こうした嫌がらせに耐えきれなくなったおたきの方は殿に対し、このままでは自分だけではなく殿にまで傷がつく事になるので、ひまを頂きたいと申し出る。

すっかり憔悴し切ったおたきの方を殿が連れて部屋を出た後、岩波はおこよの方に、万事は自分に任せて…と呟く。

部屋に戻ってきたおたきの方は、お仲に手紙を書く用意をさせ、今から実家に暇を願い出るよう手紙を書くので、それを持って行って欲しいと頼む。

その手紙を持って、お仲が外出した後、香を焚いていたおたきの方の部屋にやって来た岩波は、逆さ屏風とは縁起が悪いと言い出し、連れて来た腰元に命じて、何事もなかった屏風をさかさまにひっくり返す。

さらに、同じく連れて来た七浦(橘公子)に、おたきの方の肩を揉んでやれと命ずる。

言われて、おたきの肩の背後に回った七浦と二名の腰元は、いきなり、おたきの方の体を羽交い締めすると、帯に差していた懐剣を抜いて、岩波に渡すのだった。

岩波は、そのおたきの方の懐剣を抜くと、押さえ付けられ身動きが出来ないおたきの方の胸に突き刺してしまう。

その後、おこよの方の部屋に戻って来た七浦は、苦しそうに右手を押さえていた。

岩波が訳を聞くと、おたきの方に薬指を咬みちぎられたのだと言う。

おたきの方の死体を発見したのは、使いから戻って来たお仲であった。

お仲は、おたきの方が自分で懐剣を握りしめている様子から、早まって自害したと判断してしまう。

そのお仲が、外に異変を知らせに走り出た間、何時の間に部屋に入って来たのか、捨てたはずのタマが戻って来て、おたきの方から流れ出た地を嘗めていた。

その後、知らせを受けた大学が死体を調べた結果、おたきの方の口中から食いちぎった女の薬指を発見したこ事から、自害説に疑問を持ち、見つかった指は、その日以来行方不明になった七浦のものではないかと疑っていた。

そうした推理をお仲と話している最中、突如、半鐘の音が聞こえ、何事かと外に出ると、火の見やぐらの階段に血のついた猫の足跡がついているのを発見し、上に登ってみると、そこで鈴の音が聞こえて来たので、大学やお仲と一緒に登って来ていた岩波は、それが、以前、おたきの方が身に付けていた鈴の音だと気付き戸惑う。

その頃、鈴を首に付けたタマが階段を降りて来ていた。

その夜、寝室で寝ていた二人の腰元の内、一人が目覚めて、ふと隣の腰元に目をやると、その掛布団が独りでにめくれていくではないか。

やがて、二人とも目を覚まし、部屋の中に出現したおたきの方の姿におびえるのだった。

さらに、部屋の中でタマを見かけるが、その姿が消える。

毛むくじゃらの手が彼女らの首筋を捕まえたかと思うと、それは出現したおたきの方の腕だった。

やがて、おたきの方の姿を借りた化け猫は、猫手で二人の腰元を操りはじめ、不思議な動きで踊らせる。

疲れきって目覚めた一人の腰元は、化け猫から引き寄せられ、首筋に噛みつかれてしまうのだった。

その頃、一人で寝ていたおこよの方は、自分を呼ぶ声を聞き、目を覚ますが、頬に何かが垂れて来たのに気付き、手をやると、それは血であった。

さらに、腰元二人の首が飛んで来るのを見る。

こうした怪異の噂は、たちどころに城内に伝わり、殿は大学に対し、もしたきが自害ではなく、怪異が事実であると判明したら、仕留めてくれと命じていた。

その後も怪異は続き、夜になり、呉竹があんどんに火を付けようとすると、その火が右手に燃え広がってしまう。

慌てて、火を押さえ付けた呉竹だったが、何時の間にか、おたきの方が現れているのに気付き、おびえながら、あれは、自分の意思でやった事ではなく、岩波に命じられてやった事だと必死に弁明しはじめる。

その様子を部屋の外からうかがっていたお仲は、呉竹が、誰もいない空間に向って独り言を呟いているようにしか見えなかった。

それでも、ことの真実を知り、主人の仇とばかり、懐剣を抜くと、部屋に入り込み、呉竹と斬り合いになるが、同じく、障子の外から様子をうかがっていた岩波が、近づいて来た影目掛けて懐剣を突き刺すと、倒れて来たのは呉竹の方だった。

しかし、大奥で刃傷沙汰に及んだと、警護の腰元たちを呼び寄せ、お仲を追い詰めた岩波だったが、とどめを誘うとした時、大学が駆け付けて来て、お仲を外に連れて行くよう命ずる。

その後、おこよの方の部屋に岩波ら側近が揃った時、その部屋に出現したおたきの方が、あの時の、おたきの恐ろしさを教えてやると言い出す。

まず、逆さ屏風は縁起が悪いと言いながら、部屋の屏風を逆さにしてみせる。

さらに、七浦に、岩波の肩等揉んでやれと命ずると、死んだはずの七浦が部屋に入って来て、あの時と同じように、岩波を背後から羽交い締めした後、その懐剣を取って、おたきの方に渡す。

おたきの方は、その懐剣で、身動きできない岩波の胸を躊躇なく突き刺してしまう。

倒れた岩波の側に、上から香炉が降りて来る。

恐怖に身動きが出来ないおこよの方を引き寄せた後、その首筋に、化け猫が噛みつこうとした時、突然、障子が開き、大学や警護の腰元たちがが入って来る。

化け猫は、天井を突き破り、屋敷の屋根に出現する。

追って来た侍たちと闘った化け猫は、地上に飛び下りると、向側にあった火の見やぐらに登って行く。

その下を固めた侍や腰元の仲から進み出て来た大学は、矢を絞ると、見張り台に現れた化け猫目掛けて矢を放つ。

その矢が胸に突き刺さった化け猫は、火の見やぐらから墜落するが、その首を大学は斬り落としてしまう。

そかし、斬られた首は、そのまま空中を飛んで行き、おこよの首に食らい付くのだった。

事件が解決した後、火の見やぐらの上に登った大学とお仲は、おたきの方の供養の為、花を空中に撒くのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

上映時間49分の中編ながら、ショッキングな冒頭シーンから、虐め抜かれた後殺害された主人の仇を、そのかつての飼い猫が晴らすまでを描く怪奇復讐譚になっている。

一見、主人公は入江たか子のようにも思えるが、良く観ていると、彼女はあまりにも非力で、精神的にも弱く、今の感覚からすると、あまりヒロインらしい魅力はない。

後半、妖怪となって活躍するのは、彼女の姿をしていても、実は猫であり、入江たか子扮するおたきの方は、薄幸の被害者と言った所だろう。

ヒロインはむしろ、そのおたきの方に仕え、彼女の唯一の味方となる側女で、事件の一部始終の傍観者になるお仲(阿井三千子)の方のように見える。

明らかに、見た目も彼女の方が若くて可憐であり、大学とのロマンスも描かれているからである。

さすがに古い作品なので、恐怖ものとしてはさほどの事はないが、アイデアや特撮はあれこれ詰め込まれており、ヒロインの魅力の薄さを除けば、今でもそれなりに楽しめる作品になっている。

化け猫になって、夜、虐められた腰元たちの寝室に現れた入江たか子が、猫手をくいくいと引き寄せるポーズを取ると、寝ていた腰元二人がムクリと起き上がり、急に「新体操風」と言うか「中国雑技団風」のアクロバット演技を始める「猫じゃらし」シーンは、化け猫映画の見せ場らしいが、明らかにスタントが着物を着たまま体操演技をやっているので、裾が割れて足が丸見えになり、妙にエロティックで、怖いと言うより、今の感覚からすると珍妙に感じるシーンになっている。

屋根の上で暴れ回る化け猫などは、明らかに女性の動きではなく、おそらく男性が女装して演じていると思われる。

復讐譚ではあっても、相手は妖怪でもあるので、最後には退治されねばならない運命にあり、その辺の矛盾が、最後のサスペンスに繋がっている。