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へそくり社員とワンマン社長
へそくり社員敢闘す

1956年、東宝、北町一郎原作、長谷川公之+新井一脚本、小田基義監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

満員列車の中で、雑誌の文学クイズに夢中になっている男。

電車が揺れて、隣の男にぶつかられた途端、答えを思い付く。

250万人のサラリーマンが暮す大都会、一流会社の社員が数多く降りる駅から降り立ったその男吉村欣也(三木のり平)が向ったのは、回転ドア、エレベーター、食堂、冷暖房完備の一流企業のビルではなく、裏町にある渡辺交易株式会社と言うしがない三流会社だった。

彼は、ワンマン会社として知られるこの会社の経理課長だったのだ。

経理課では、出社していた社員たち全員が、南方に送る商品見本が送り返されて来たとニコニコしている。

見本が不評だったのなら、会社にとって300万の損失になるはずで、それを笑っている事が信じられない吉村は、部下たちを叱責するが、部下たちは黙って、壁の方に目線を動かす。

そこには、社長直々の「今週は笑顔週間」なる手描きのポスターが貼られてあった。

その社長から呼ばれた吉村は、株主に見せる為の粉飾タイプと、本当の数字が書かれた二種類の帳簿を見せる。

つい、今し方まで、吉村と同じく、雑誌の文学クイズを呼んでいた渡辺社長(柳家金語楼)だったが、課長の手前、見栄を張って、英語を使ってみせるが、吉村に見せた英語の本は逆さまだった。

その社長、道楽の8mmに撮るからと、吉村にその場でポーズを付けさせる。

そこへ、営業課長の浮島(森川信)が入って来て、織田さんが若い人と一緒にやって来たと報告する。

慌てた社長は、ストリップ(本物の帳簿)を隠せと吉村に命ずるが、それをドアの外で聞いていたのか、入って来た織田産業の社長(藤原釜足)は、「ストリップを隠すとは、何の事か?」と、興味深そうに聞いて来る。

織田社長が連れて来たのは、息子の秀康(平田昭彦)だった。

経理課員の木村雅子(中田康子)は、その秀康を目に止め、かっこいいわねと、同僚の池田三千代(北川町子)に目配せするが、三千代は、雅子の隣の席にいる小野田(舟橋元)の手前で、そんな事を言って良いのかと注意する。

二人が濃恋人同士である事を知っていたからだが、聞いていた小野田は、慌てて、自分達は何でもないと必死に否定するのだった。

織田社長がやって来た要件は、息子を修行の為に、この会社で使ってくれないかと言う依頼だった。

自分の会社で使ったのでは息子の為にならんし、ここのように小さな会社の方が何かと勉強になると、渡辺の前で言いたい放題。

しかし、大切な取り引きである大会社の社長の言葉だけに、断わる事も出来ず、結局、気を使って、秀康は、いきなり、吉村と同じ経理課長と言う身分で会社に雇われる事になる。

その日の昼食時、秀康は、会社の内部事情を知る為にと言いながら、浮島を外に連れ出す。

一方、経理課員の若月(小泉博)は、恋人で同じ経理課員である池田三千代と食事をしながら、今の会社を辞めて、一流企業に勤めている先輩に頼んで、そちらに転職しようと思っていると打ち明けていた。

三千代は、若月の貯金額を尋ね、今のままでは、二人の貯金を足しても、到底満足な結婚式もあげられないと不満顔。

その頃、独り、会社でコッペパンをかじっていた吉村は、社長室に呼ばれ、帳簿に記載されている詳細不明の接待費の説明を要求される。

しどろもどろの吉村だったが、戻って来た若月を呼ぶと、彼がスラスラと説明しはじめる。

接待費の大半は、実はほとんど、社長自らが使っていた個人的な遊興費のようなものばかりだったのだ。

それを聞いて、バツが悪くなった社長は苦虫を噛み潰したような顔になるが、今週は笑顔週間ですと吉村から指摘されると、もう、そんなものは止めてしまえ!と、自ら書いたポスターを剥がすのだった。

その日就業後、若月がみんなと付き合わないかと吉村を酒に誘うが、吉村は用事があるからと独り帰ってしまう。

ところが、若月ら経理課員たちが飲んで帰る途中、屋台で一人、酒を飲んでいる吉村の姿を目撃してしまい、家ではよほどの恐妻家なのだろうと、笑いながらも気の毒がるのだった。

翌日、渡辺社長の元に、千光(並木一路)と言う男が訪れ、「酒を嫌いになる薬」という新製品をこちらで扱ってくれないかと売り込みはじめる。

彼が言うには、この新発見のパラアミノサルチヒドナポンなる成分からできた薬「ノミナーリン」を飲むと、酒の匂いを嗅いだだけでムカッとし、酒を飲むと、七転八倒の発作が起きてしまうので、たちどころに酒が嫌いになるし、その後の副作用も一切ないらしい。

すでに動物実験はすませていると言うが、一緒に聞いていた浮島は、一応、我が社でも独自に調査してみなければ…と躊躇を見せる。

それならばと、 渡辺社長は、酒好きの吉村を呼びつけ、事情を説明して、彼を実験台にする事にする。

吉村は驚き、遠慮してみせるが、営業担当の浮島は、役目上、酒が飲めないでは、接待も出来なくなると言うので、仕方なく、承知させられる事になる。

渡辺社長は、今夜からさっそく薬を飲めと言い、万が一、体調がおかしくなったら、二、三日、休んでも良いとまで言う。

千光は、他にも取り引き相手が多いので、契約は早めにして欲しいと渡辺社長に念を押すのだった。

その夜、一人で馴染みの寿司屋に出向いた吉村は、社長から渡された薬瓶を取り出しながらも、飲む事をためらっていたが、思いきってその薬を手のひらに出してみた所、過って一錠地面に落としてしまう。

それを飲んだのが、寿司屋が飼っていた犬。

主人(中村是好)が言うには、小さい頃、ふざけて酒を飲ましてみたら、それ以来、飲んべえになってしまった犬なのだと言う。

試しに吉村が酒の入った猪口をその犬の顔に近づけてみると、犬は顔を背けてしまう。

その頃、浮島の方は、社長御愛用の清洲の料亭で秀康を接待していた。

秀康は、すっかり自分の腰ぎんちゃくになった浮島に、木村雅子は良いねと明け透けに言い出す。

浮島は、その意味に気付きながら、その日は、呼んであった芸者を秀康にあてがうのだった。

寿司屋を出た吉村は、こんなもの飲めるか!と、薬瓶を川に放り投げてしまう。

その後、アパートに帰って来た吉村を迎えた管理人は、約束していたのに、早く帰って来なかったと怒ってますよと、部屋の方を目配せするのだった。

翌日、出社した吉村は社長に呼ばれ、夕べの成果を聞かれるが、まだ何ともとごまかすと、では、今夜は社用で飲みに行こうと無理矢理誘われる。

部屋に戻った吉村に、女性の面会人が来たと言うので、出てみると、そこには見知らぬ女性が立っており、いつもお世話になっていると頭を下げながら、何枚もの請求書と手みやげを渡そうとする。

手みやげは受け取れないと断わりながらも、請求書だけもらって部屋に戻った吉村は、それが、全部、浮島宛の請求書である事に気付き、本人に確認を取りに行くと、これは織田秀康のお供としての経費であり、彼を雇っている経理課の課長であるあんたにも責任の一端があるとやり込められてしまう。

その浮島、社長が呼んでいると言うので、社長室に入ってみると、渡辺社長が、ドアに向けて備え付けているカメラで、のんきに8mmを写しているではないか。

万が一、社員が死んだ時、お通夜の席で写してやるつもりなのだと言う。

入り方が悪かったので、もう一回とダメを出された浮島は、又一旦外に出て、ドラを入り直すのだった。

浮島は、清洲の事で、吉村に言われたと報告する。

その後、浮島は部屋に戻ると雅子に声をかけ、就業後、秀康の車に乗せて会社を後にするが、その様子を見送っていた小野田や若月は、心穏やかではなかった。

清洲の料亭に連れて来られた雅子は、浮島や秀康の目を盗み、近くにあったお銚子に「ノミナーリン」を投入して、それを二人に飲ませてしまう。

その頃、別の料亭で、芸者を侍らせていた渡辺社長は、一緒に連れて来た吉村に酒を勧めてみるが、薬を飲んでいない吉村は、社長に言われるがまま、酒の匂いでムカッとなったフリをして、曖昧な態度をとってみせるが、納得がいかない様子の社長は、自分が持って来た薬を飲んでみろと吉村に渡す。

仕方なく、薬瓶を受取った吉村は、こちらも、社長の目を盗み、近くにあったお調子の中にその薬を混入し、自分は飲んだフリをして、七転八倒の発作が起こった芝居をしてみせる。

一応、それを観て、薬が効いたと安心した社長だったが、酒を飲ませた周囲の芸者たちが全員、やがて、気分がふわふわし出したと言いながら、のぼせたような様子になり、何故か急に、その場で野球拳など始めてしまう。

一方、浮島と秀康の方も、同じように浮かれて、おかしな踊りを始めていた。

その姿を眺めていた雅子は、済ました様子で部屋を後にする。

やがて給料日、秀康は、特別に支給された大量の札束をもらっても、小遣にすらならないと不満顔で受取る。

一方、吉村の方は、薄っぺらな給料袋を空けもせず、そのまま風呂敷に包んで、しっかり自分の腹に縛り付けるのだった。

その様子を観ていた秀康は、近づいて来て、あの吉村の恐妻家振りを見たかと嘲りながら聞いて来た浮島に、あの給料袋を開かせてみせると張りきり出すのだった。

ところが、その後、社長から、今晩は、自分が撮った8mmの映写会をするので、全員、清洲の料亭に集合するようにとの通達がある。

吉村は独り、今日はどうしても出席できないのでと断りに行くが、社長は聞かない。

仕方なく、吉村も出席した映写会では、映し出されるフィルムのおかしさに、社員全員が笑い転げるだけだし、あろう事か、芸者の着物を脱がせるショットまで紛れ込んでいたので、社長は不機嫌になり、即刻フィルムを止めてしまう。

その後酒宴になり、吉村に酒を勧めた社長は、まだムカッとするなどと吉村が言うので、あの薬は偽物だった事が分かった。それは気のせいではないかと言うと、現金なもので、吉村も、気のせいだったような気がすると言いながら、酒を飲みはじめるのだった。

その夜、一足先に帰る事になった雅子は三千代から、酒ですぐに上機嫌になってしまう男たちの無邪気さを笑っていた。

その夜、すっかり泥酔した吉村は、浮島と共に得意の宴会芸をさんざん披露したあげく、酔いつぶれてしまう。

その様子を見た社長は、誰か家まで送ってやってくれと頼むが、恐妻家の噂を聞いている社員たちは、吉村の細君から怒鳴られるのが怖さに誰も行こうとしない。

結局、若月と小野田が、社長命令で、吉村をアパートまでタクシーで送って行く事になり、どうにか、目的のアパートまで送り届けたので、すぐさま帰ろうとするが、今度は吉村が部屋に上がって行けと言う。

散々辞退する二人だったが、無理矢理、吉村の部屋まで連れて来られると、開いたドアから顔を見せたのは、エプロンを付けた小学生の女の子だった。

恐る恐る、お母さんは?と尋ねた若月は、その娘の口から、母親はすでに5念前に亡くなっている事、今は弟と父親と三人暮しをしている事などを聞き呆然としてしまう。

吉村が、毎月、給料袋を開けもせず、まっすぐ家に急いでいたのは、こういう訳があったからなのだ。

何もかも理解した若月と小野田は、何も言わずアパートを後にする事にする。

外に出た二人は、やって来た渡辺社長と出会う。

彼も又、無理に酒に誘った自分の責任を感じていたのだった。

どうやら吉村家の事情を知っているらしい社長に向い若月は、自分は他の会社に転職しようと思っていたが、それは止めたと打ち明け、社長と小野田と共に、夜道を帰って行くのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

柳家金語楼が社長に扮した、東宝お得意のサラリーマン喜劇。

ただし、どちらかと言うと主人公は、三木のり平扮する吉村課長のように思える。

本編は53分の中編で、続編の「へそくり社長とワンマン社長 へそくり社長純情す」(1959)と合わせて一本のような印象もある作品になっている。

小心者で恐妻家…と思われた吉村課長の実体が最後に明らかにされ、ほろりとさせる内容になっているが、伏線を見ていれば、薄々勘付く程度のオチである。

大会社のバカ息子役で登場する平田昭彦のおバカ演技が珍しい。

喜劇としては他愛無いものだが、あれこれ笑いのアイデアは盛り込まれている。

後半、森繁の「社長シリーズ」のように、三木のり平の宴会芸がちゃんと登場する所が愉快。