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初恋カナリヤ娘

1955年、日活、柳沢類寿脚本、吉村廉監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

♪夜、東京の夜…、みんな、どっかに行っちまった…、みんな眠っているよ…、こんな時間に起きている奴はロクな奴じゃない…♪…と、コーラスが流れる中、霧の深い町中を独りの警官(小林桂樹)が歩いている。

その警官が通り過ぎて行ったビルの隙間から、黒メガネをかけた一人の怪しげな男が、大きな鞄を下げて、警官の目を盗むようにとあるアパートへ入り込む。

そのアパートの一室では、四人の男たちが麻雀をしていたが、物音に気付いて動きを止める。

音は、怪しげな男が、階段の上に置いてあったラーメンの器に躓いた音だった。

男は部屋に入り込むと、鞄を開き、その中に向って「疲れたろう、もう休もうね」と声をかける。

日が登りかけた頃、交番に戻って来た警官は、鳥かごの中のカナリヤが元気がないのを観て心配する。

マドカ小鳥店では、娘のハル子(神楽坂浮子)が、店の掃除をしながら、大好きな歌を唄いはじめる。

二階で掃除をしていると、彼女の歌に合わせるように、隣からギターの音色が聞こえて来る。

隣のアパートに住むバンドマン新吉(岡田真澄)が弾くギターだった。

二人は、いつも窓から顔を合わせる仲良しだった。

新吉に微笑みかけながら唄うハル子に気付いた父親金八(清水一郎)は、早く掃除を済ませろと娘に言い付け、挨拶の言葉をかけて来た新吉を睨み付けると、わざとらしく窓を閉めてしまう。

一方、新吉の部屋では、布団で寝ていた先輩のフラ吉(フランキー堺)がギターの音をラジオの放送と勘違いして目を覚ましてしまう。

寝ぼけ眼で、近くにあったラジオのスイッチを捻ると、逆に、別の音楽が鳴りだしたので、慌てて起き上がり、ようやく事情が飲み込めると、朝っぱらから隣の娘と甘い気分に浸っている弟分の新吉が憎らしくなり、朝食の準備を言い付ける。

しかし、共同炊事場で米を研ぎはじめた新吉の横には、彼の美貌に惚れ込んだ別の部屋の婦人がすりよって来て、自分も米を研ぐリズムに合わせて、腰を新吉に擦り付けて来る始末。

そんな様子を歯を磨きながら近づいて来て発見したフラ吉は、うらやましくなり、フラ吉に、自分の代わりに顔を洗って来いと遠ざけると、自分が婦人の横に立って米を研ぎはじめる。

自分の腰にも相手の腰をくっつけて欲しいと、それとなく身ぶりでねだったフラ吉だったが、相手の婦人は怒って帰ってしまう。

仕方なく、一人で米を研いでいたフラ吉の所に近づいて来たのが、米を持った6号室の新入りキヨ(丹下キヨ子)。

「それは、黄変米(カビ色に変色した米)じゃないだろうね」とフラ吉に話し掛けると、あっという間に、フラ吉の釜に自分の混合米も混ぜてしまい、一緒に研いで朝食の準備ができたら、自分の部屋まで届けてくれと虫の良い事を頼んで、さっさと帰ってしまう。

♪朝、東京の朝…、こんな時間に寝ている奴に、ロクな奴はない〜…♪

二人きりの朝食をすませた金八は、ハル子にどうしても歌唄いになりたいのかと聞く。

そして、隣の楽士なんか、どうせロクな人間じゃないのだから付き合うんじゃないと言い渡す。

ちょうど、その時、新吉がいつもハル子を呼出す合図に使っている鈴を鳴らして来たので、金八はさっさと下の部屋の窓も閉めてしまうのだった。

15代続いたこの家をお前に守って欲しいのだと続けた金八は、実は、お前の母親も、歌手になりたいと家を飛び出してしまったのだと打ち明ける。

その母は、今、上海か香港辺りにいると噂に聞くが、お前は会ってみたいかと聞くと、ハル子は迷わず、会ってみたいと答えるのだった。

茶の間を出た金八は、鴨居の上に隠していた妻の古い写真を取り出して、独り見入るが、そこに写っていた女性は、隣のアパートにいるキヨそっくりだった。

そのキヨの6号室に炊きあがったご飯を持って行ったフラ吉だったが、箸もしゃもじも茶碗も醤油も何もないから持って来てくれと厚かましい事を言う。

そんなフラ吉がバンドでドラムを叩いていると聞いたキヨは、フランキー堺くらいには叩けるのかい?と冷やかした後、あの程度なら軽いもんだと答える相手に、フランキー堺ってのはバカだからね〜…と調子を合わせながら、自分をそのバンドに紹介してくれないかと言い出す。

その頃、マドリ小鳥店にやって来たのは、あの警官だった。

カナリヤが元気がないと相談した後、隣のアパートに、うさん臭い若者たちが多いので注意してくれと頼む金八から薬をもらうと、七丁目の写真機店に泥棒が入ったのでゆっくりしていられないのだと断わって帰ってしまう。

キヨの為にあれこれ持って行ってやろうと自室に戻って来たフラ吉は、今日はバンドの練習日だから早く行くと言いながら着替えをすませた新吉を観て驚く。

しゃもじや醤油などを持って6号室に戻ったつもりだったフラ吉は、ベッドに寝ている女性らしき髪と怪しげな男の姿を発見し、隣の5号室に間違えて入ってしまった事に気付き逃げ出す。

慌てて廊下に飛び出した為、バケツを蹴飛ばしてしまい、麻雀をしていた不良四人組が何事かと顔を出したので、さらにフラ吉は慌てて6号室に逃げ込むのだった。

マドリ小鳥店の前にやって来た新吉は、ハル子を誘い出そうとする。

今日は、店のマスターに彼女の歌を紹介しようとしていたのだが、ハル子は、父親が可哀想なので行けないと言い出す。

焦れた新吉が、自分と父親とどっちが好きなんだと問いつめると、ハル子は困って、どっちも好きなのだと答えるのだった。

その頃、金八は、喫茶店に貸している鳥かごの取り替えに来ていたが、テーブルに座り、互いに見つめあったまま動かない恋人同士の姿を発見して呆れていた。

一人で店番をしていたマドリ小鳥店にやって来たのが、隣のアパートの不良四人組。

自分達の為に何か唄ってくれとハルコに絡んで来る。

そこに通りかかったのが、警官だった。

慌てて逃げ出した不良たちにほっとして礼を言うハル子に、夕べこの辺で、大きな鞄を持った男がいたと言うので、調査している所だと警官は説明する。

その頃、勤めているクラブにやって来たフラ吉は、先輩のバンドマンたちにこき使われていた。

そこにやって来たのがキヨで、彼女は、フラ吉が想像していたようなバンドマンではなく、ただのボーイに過ぎないのだと気付くと、そんな下っ端に紹介されたんじゃ、自分の沽券に関わると、さっさと帰ろうとするが、そこでばったり、鳥かごを替えに来た金八と出くわしてしまう。

キヨは驚くが、金八の方は全く知らん顔。

キヨは、金八に付いて行くように店に舞い戻ると、ちょうど練習を始めていたバンドの音楽に合わせ「センチメンタルハリケ〜ン♪」と唄い出す。

それを聞いていたマスターは、フラ吉が連れて来た歌手と知るや、すっかり気に入り、名前を尋ねるが、フラ吉はその時になって、いまだに彼女の名前を聞いてなかった事に気付く。

唄い終わったキヨは、鳥かごを替えている金八に近づいて自分の顔に気付かせようとするが、金八は全く無反応のまま、帰って行こうとしたので、慌てて後を追った彼女は、自分の顔を忘れたのか?と聞くが、金八は忘れていないと言う。

それじゃあ、十何年ぶりに会ったのに何故そんなにつれないのか、自分は家に戻ろうと思っているのだが…とキヨが切り出すと、金八は自転車を止め、自分もこれまでやもめ暮しを続けて来たので…と、一旦は受け入れる姿勢を見せるが、その内、昔のように、互いの悪口が出始め、道の真ん中で大げんかを始めてしまう。

そこへやって来たのがフラ吉で、マスターが呼んでいるとキヨに知らせる。採用される事になったのだ。

♪夜、東京の夜…、こんな時間にのこのこ出て来て、働く人もある〜…♪

ハマクラこと浜口庫之助がステージに登場し「マンボカナリア」を唄い出す。

小鳥店に戻って来た金八は、ハル子の前で、妙にそわそわ落ち着きがない。

それを妙に思ったハル子は、自分はもう、歌手になるのは諦めたと言い出す。

金八は、そんなハル子に、母親に会いたくないかと又尋ねるのだった。

その頃、キャバレーのステージでは女性歌手が唄いはじめ、その後ろではバンドマン(植木等)がにこやかにマラカス振っている。

その頃、舞台裏では、フラ吉がキヨに、35円貸してくれないかと切り出し、呆れられていた。

そんなはした金なんか貸す気はないと断わられ、しょげていたフラ吉は、やって来た金八に、顔の長い女がいないかと聞かれたので、その女ならそこにいると教えてやる。

その直後、フラ吉は廊下の隅に隠れていた黒メガネの怪しい男に捕まってしまう。

そして、お前が支配人かと問いつめられたので、違うと言うと、買ってもらいたいものがあるので支配人室に連れて行けと言う。

その頃、店の裏では、着物を着込んでやって来たハル子に、せっかく今日、ハル子を支配人に紹介しようとしていたのだが、先に兄貴のフラ吉が別の女性歌手を紹介してしまったのだと、新吉が説明していた。

そんな二人の前に姿を現したのが、当のフラ吉で、やっぱり35円貸してくれと言う。

腹が減ったが、蕎麦代も持ってないのだと言う。

舞台裏でキヨに会っていた金八は、娘のハル子の事で話があると切り出すが、出番が迫っていたキヨは、気になりながらもステージに出て唄いはじめてしまう。

そのステージを、店の隅で観ていたのが新吉とハル子だった。

新吉は、あの女性が、フラ吉が先に紹介してしまった歌手だと教える。

唄い終わり、化粧室に戻って来たキヨに、上機嫌の支配人がやって来て、評判が良いので、もう一曲披露してくれと頼む。

キヨも喜んで、ギャラに色を付けてくれたらねと承知する。

支配人が去った部屋に入り込んで来たのが金八で、ハル子に会ってやってくれと頼む。

娘の事を切り出されたキヨは、13年振りだわね〜…と涙ぐみながら、ハル子にはいつも、自分の事をどう話しているのかと聞く。

金八は、強情っぱりだと話していると言うので、それがきっかけとなり、又二人は口げんかを始めてしまう。

そこに入って来たのが新吉とハル子で、外で話を聞いていたらしく、キヨを母親と知ると、喧嘩をするような両親には会いたくない、仲良くしてくれと泣き出すのだった。

そんなハル子を抱きしめたキヨは、あんた、歌手になりたいのかと尋ねる。

その頃、路地裏では、フラ吉が、アパートの不良四人組と喧嘩をしていた。

急遽、母親の代わりを勤める事になり、ハル子はステージに出て唄っていた。

そのステージになだれ込んで来たのが、フラ吉と不良四人組、相変わらず喧嘩を続けているので、バンドも、それに合わせてコミカルな演奏を始める始末。

そんなバンドの中に逃げ込んだフラ吉は、ドラムの席に座ると、いきなり見事な演奏を始めるのだった。

その後、アパートの4号室では、新吉とハル子が一緒に歌を唄っていた。

隣の5号室では、謎の男が女性らしき相手と踊っている。

その隣の6号室では、金八とキヨが仲睦まじく酒を酌み交わしていた。

そんなアパートに遅れて戻って来たフラ吉は、あの不良四人組を連行して行く警官とすれ違う。

七丁目の泥棒は、この四人組だったと言うのだ。

事件当夜、麻雀をしているフリをして周囲をごまかし、犯行に及んでいたらしい。

安心して自室に入りかけたフラ吉だったが、部屋の仲に新吉とハル子がいる気配に気付き、遠慮して隣の部屋の様子を鍵穴から覗くと、明日からクラブに出られると人形に話し掛けている腹話術師の男が見える。

それでは、6号室へと向うが、そこも金八とキヨから睨まれて、すごすご退散する事になる。

結局、自分が戻る部屋がない事に気付いたフラ吉は、仕方なく外に彷徨い出るのだった。

♪夜、東京の夜、みんなどこかにいっちゃった…♪

群集の間を反対方向へ進むフラ吉。

♪一人ぽっち歩いているよ〜♪

♪こんな時間、付いて来るのは、影法師だけ〜…♪

♪一人ぽっち夢を追うよ〜♪

霧に包まれ出した鋪道を、フラ吉は独り去って行くのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

ターキーさんこと水の江滝子第一回プロデュース作品。

この映画、一応、神楽坂浮子と言う新人歌手が主演と言う事になっている短い音楽コメディ映画だが、実質的な主演はフランキー堺の方だと思う。

さらに、ファンファンこと岡田真澄のデビュー作でもある。

まず、この頃のフランキーが痩せているのに驚かされる。

クラブのシーンでは、植木等や桜井センリを含むフランキーのバンド「シティ・スリッカーズ」や、豹柄のビキニで唄う丹下キヨ子、「マンボカナリヤ」なる歌を唄う浜口庫之助とアフロキューバノと思われるグループなど、今となっては、お宝映像満載なのだが、肝心の主役神楽坂浮子だけは、いかにも場違いな演歌系の歌なので、明らかに彼女の唄うシーンだけは違和感がある。

植木等や桜井センリが「クレージーキャッツ」に参加するのはこの映画の後なので、当然、二人は無名のエキストラ扱い、タイトルクレジットにも名前は登場しないし、セリフなども一切なし。

植木等の方は、 顔を売り出そうとしているのか、ワンシーンだけマラカスを振って画面に大きく登場するシーンがあるが、後は、後半、「和製スパイク・ジョーンズ」風と言うのか、擬音風の音を交えたコミカルなバンド音楽に合わせ、ステージでチンピラと暴れ廻ったフランキーがバンドの中になだれ込む際に、他のバンドマンたちと同じようにニヤニヤ笑いながら身を避けているだけ。

警官役で登場する小林桂樹は、クレジットに「特別出演」との添え書きが付いて、ちゃんと名前が出ている。

ストーリー自体は他愛無いものだが、若き頃のフランキーの軽妙な動きと、見事なドラム演奏が観られるだけでも、大変貴重な作品だと思う。