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1952年、松竹大船、中山隆三脚本、野村芳太郎監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

グラウンドでは体操をやっている高校の屋上に集まった数名の生徒たち。

彼らは、裕福な家の息子友田一郎(磯貝元男)が持って来た伝書鳩を飛ばしに来たのだ。

友田の級友、三浦勇(石浜朗)も大の動物好きなので、一緒に鳩を飛ばさせてもらい嬉しそう。

その後一緒に帰宅しながら、一郎の吹くハーモニカに合わせて、女生徒榎本綾子(小園蓉子)と勇が「静かな湖畔の♪」を唄う。三人は仲良しなのだ。

一郎が、春のレースで優勝した鳩を見せると言うので、 勇は三浦家にお邪魔する事にする。

先程、学校から放った鳩も、ちゃんと巣箱に戻って来ている。

勇が動物好きで、今、はつかねずみを買っている事を知ると、一郎は、鳩を飼ってみたらどうかと勧める。

そこへ、一郎の父親宗吉(北龍二)が顔を見せたので、一郎は、鳩を一羽譲ってやりたいのだがと相談する。

宗吉に異論はなかったが、勇は、一応、父親の了承を得てから頂きたいと返事をして帰る事にする。

帰宅した勇は、ちょうど家の前で水を撒いていた姉の秋子(美山悦子)から、うっかりズボンに水をかけられてしまう。

家の中では、祖母が何かを蠅たたきで叩いていたが、良く見ると、叩いていたのはただのゴミだった。

そこへ父親の俊一(有島一郎)が帰って来たので、勇は、待ってましたとばかり、かいがいしく父親の着替えの手伝いをしたり、お絞りを持って来たりしたりした後、恐る恐る、鳩を飼っても良いかと切り出してみるが、はつかねずみで懲りている俊一は、不潔なので賛成できないと言う。

しかし、鳩小屋などは自分で作るからと懇願する勇の態度や、祖母の熱心な説得もあり、全部自分で世話ができるのならば…と、俊一はしぶしぶ認めてやる事にする。

大喜びした勇は、約束通り、二階の自室の前の屋根に鳩小屋を作り、鳩を飼いはじめた日から、日記をつけはじめる熱心さ。

9月15日、すでに飼いはじめて一週間が経ったが、鳩は小屋の中に籠ったままでトラップにも出て来ない。

23日、一郎が様子を観に来たので、思いきって勇は、鳩を環境に慣れさせる為、親鳩も貸してくれないかと頼んでみる。

しかし、親鳩と言うのは、春のレースで優勝した、一郎の父親が一番大切にしている貴重なものだったので、さすがに一郎も、後から相談を受けた宗吉も躊躇するが、結局、短期間だけなら…と許可する事にする。

27日、親鳩も一緒に飼いはじめて効果があったのか、ようやく鳩が慣れはじめ、10月3日には、やっと空を飛びはじめたので、遊びに来た綾子と共に空を見上げる勇。

そんなある日、勇の家が嵐に襲われる。

勇は、今にも壊れそうな屋根の上の鳩小屋を守ろうと、雨の中、必死に支えていたが、その様子に気付いた俊一が、そんな事をしていたら身体を壊してしまうからと無理矢理部屋に連れ戻す。

しかし、その後も、部屋でじっとしていられない勇は、夜中、又、屋根に出て、小屋の中に雨が吹き込まないよう、自分のコートをかけて、小屋を支え続けるのだった。

翌朝、起きて来た俊一は、濡れたコートを被って洗面所でうずくまっている勇に気付く。

どうやら、一晩中、小屋を守っていたらしい。

呆れた俊一からその話を聞かされた祖母は、風邪でもひかれたら一大事だと、薬を無理矢理、勇に飲ませる事にする。

それでも、小屋を守り抜いた安心感から明るい表情の勇は、さっそく鳩に水を持って行ってやろうとするが、小屋の外に落ちていた鳩の死骸を発見し、驚愕する。

早朝、猫に襲われたらしい。

しかも、咬み殺されていたのは貴重な親鳩の方だった。

その日、学校にその死骸を持って行った勇は、一郎に渡して「嵐で小屋が壊れていたのに気付かなかったのだ」と謝罪するが、受取った一郎はショックのあまり、「あれほど注意してと言っていたのに…」と嘆くと、教室を飛び出して行ってしまう。

廻りにいた級友たちは、謝るだけでは無責任だ、あの鳩は2万円くらいする高価なものだと勇を責めはじめる。

しかし、それを聞いていた綾子は、勇をかばうのだった。

いたたまれず、屋上へ向った勇は、そこにいた一郎に、重ねて詫びの言葉をかけるが、一郎は返事すら返さない。

その日の放課後、一緒に帰った綾子は勇に気にしないように言葉をかけるが、勇は落ち込んだまま。

帰宅した勇は、自分の貯金箱を開けてみたりするが、どう考えても、自分に2万などと言う大金は返せそうにもない。

帰宅して来た父親に事情を打ち明けると、俊一は、明日、自分が先方にお詫びに行って来るからと慰めるのだった。

しかし、その話を俊一から聞かされた祖母や姉たちが、2万などと言うまとまった大金が今の家にはない事を、偶然聞いてしまった勇は、翌朝、姿を消してしまう。

部屋には、2万円は自分が何とか弁償するつもりだから、探さないでくれと書かれた、勇の置き手紙がおいてあった。

それを知った祖母は、あの子は思いつめたら何をするか分からない一本気な性格なのに、お前はいつも叱りつけてばかり…と、俊一を責めはじめる。

それでも、俊一は、秋子に警察に捜査願いを出させに行かせると、自分は、その置き手紙を持って友田家を訪問する。

嵐の夜、一晩中、鳩小屋を守り抜いた勇の話と置き手紙を読んだ宗吉と妻、千代子(水木涼子)は、そこまで勇を追い込んでしまったのは、自分達の方にも非があったと、逆に恐縮してしまうのだった。

俊一は、母親に先立たれた勇に、もっと親身になって話し合ってやれなかった自分の態度を反省している…と洩らす。

そうした親たちの話を、部屋の外で聞いていた一郎も、自分の学校での冷たい態度を反省し、帰りかける俊一に詫びるのだった。

その頃、当の勇は職安を巡っていたが、どこにも高校生ができそうな仕事はなかった。

学校の屋上では、一郎と綾子が、勇の身を案じていた。

勇は、どこかの農家の庭先でまき割りをしていた。

俊一は、いなくなった勇に代わって、毎日、鳩の世話を欠かさなかったが、すでに勇が家出をしてから五日が経過していた。

そこに、一郎と綾子がやって来て、勇の所在が判明したと言う。

下に降りて詳しく聞いてみると、綾子の家に勇むから手紙が来て、そこには、今、山梨の葡萄園で働いているので、心配せず、迎えになど来ないで欲しいと書いてあったのだと言う。

それを聞いた俊一は、直ちに迎えに行くと言い出し、一郎と綾子も同行させてくれと願い出るのだった。

山梨の農家に到着した三人は、事情を農家の主人に打ち明けて頭を下げる。

主人は、そんな事情とは知らずに…と、逆に恐縮し、勇は今、葡萄園に行っていると教える。

三人が、その葡萄園に出向くと、勇が元気そうに葡萄の収穫を手伝っているではないか。

一郎と綾子の姿に気付いた勇は、驚くと共に、あれ程、迎えに来ないでくれと書いたのに…と、戸惑いの態度を見せるが、その後ろから付いて来た父親の姿も見つけると、互いに安心したように微笑むのだった。

一郎が、東京から自分と勇の鳩を持って来たと話すと、勇は喜ぶが、農家の子供で、勇になついていた清吉は、東京に帰る事になった勇との別れを哀しむのだった。

それでも、一郎が鳥かごの中から二羽の鳩を空に放つと、勇たちと一緒に、東京に向って飛んで行く鳩の姿を嬉しそうに眺めるのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

上映時間44分の中編作品ながら、野村芳太郎監督のデビュー作である。

1952年、松竹は、こうしたシスター映画(略してSP)と呼ばれる中編映画を添え物として作るようになり、助監督らの腕試しの場としたものと思われる。

実話を元にしたシンプルなドラマであるが、母がいないながら動物好きな青年と級友、そして父親との、心の絆を描いた暖かいストーリーになっている。

あまりにもあっさりした内容であり、取り立てて秀作、感動作と言う程のものではないが、有島一郎扮する朴訥ながら優しさに溢れた父親像と、まだ幼さが残る石浜朗の健気さが魅力的である。