1956年、東宝、石原慎太郎原作、脚本、若尾徳平脚本、松林宗恵監督。
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河口工業の御曹司である河口都喜夫(石原慎太郎)は、ある日、いきなり両親から、今、結婚したい相手がいるのかと聞かれ、いないと答えると、では節子さんはどうかと畳み掛けて来る。
幼馴染みの節子の名を聞いて驚いた都喜夫だったが、別に嫌いじゃないけど、彼女の発展家振りも知っているし、今さら彼女なんかと…と、戸惑ってみせるが、何時の間にか、それが承知したと両親には受取られたようだった。
節子(白川由美)の方も、同じように両親から都喜夫との結婚話を持ちかけられていた。
彼女の方も、相手の遊び人振りを色々知っていたし、こうこつと勤めるようなタイプでもない事は分かっていたが、彼と結婚すると父親の会社の都合が良いのだろうと割きり、良いわよと答えるのだった。
大学の経済学研究室でゼミの発表をし終わった都喜夫は、車で自宅に戻ると、大磯の祖母鶴代(三好栄子)が来ていた。
鶴代は、いつも胃の調子が悪く、新しい薬を取り寄せては飲んでいる息子の姿に半ば呆れていた。
しかし、都喜夫はすぐに又出かけ、銀座の日本堂に向う。
女店員が勧めたゴールデンサファイアを七万で購入する。
小切手に金額を書く都喜夫の名前を観て、河口家の息子だと気付いた支配人が、すでに母親から連絡があったと伝える。
その手回しの良さに呆れた都喜夫が、指輪のケースを無造作にポケットに入れ帰った後、支配人は早速、母親に報告の電話を入れる。
その連絡を受けた母親清子(村瀬幸子)は、息子が結婚に向って行動しはじめた事を知り一安心する。
その話を妻から聞いた父康之(中村伸郎)も、これで松宮も喜ぶだろうと胸をなで下ろすのだった。
しかし、その話を側で聞いていた祖母は、もっとあの子の気持ちになってやれと説教するのだった。
一方、朝寝坊してベッドからようやく起きた節子は、都喜夫と共通の友だちの倉田(宝田明)から電話を受けていた。
その頃、都喜夫はとあるデパートの靴下売り場で、気に入った品物を1800円分購入していたが、支払いの時、一瞬、財布が入ったポケットが見つからず、ズボンや背広のポケットに手を突っ込んで焦ってしまう。
しかし、ようやく財布が見つかり、支払いをすませた所に声をかけて来たのが、偶然、同じデパートにいた倉田だった。
倉田と都喜夫が去った後、女店員たち(園田祐子、小泉澄子)が、去って行くハンサムな彼らの噂をしあっていたが、主任におしゃべりを注意され、その場は皆慌てて仕事に戻る。
ところが、その後、女店員の一人藤井育子(青山京子)が、ガラスケースの上に置かれた指輪ケースを見つける。
開けてみると、指輪が出て来たので、そんな事は止めなさいと言う同僚の言葉を無視し、つい育子はそれを自分の指にはめてみるのだった。
主任の所に、落とし物を見つけたと報告に行くが、主任は忙しそうで、相手にしてくれない。
一方、都喜夫と倉田は、近くの喫茶店で、互いの近況報告などしていた。
倉田は、都喜夫のように大学院には残らなかった口だった。
都喜夫は、今日、婚約指輪を買って来た所だと打ち明けるが、偶然、同じ店の片隅のテーブルには、育子たち、三人の女店員がおしゃべりをしていた。
そこへ、倉田と待ち合わせていた節子が登場したので、都喜夫はちょっとビックリしてしまう。
しかし、彼女にはまだ指輪の事を話さず、一緒にどうだとすすめる倉田を断わって、別れた都喜夫は別のフレンチクラブで遊び仲間たちと酒を飲む事にする。
酔った仲間を車で送ってやると、駐車していた車に戻って来た都喜夫は、中に置いておいたはずの靴下を入れた紙袋が見当たらないので、車上荒らしにやられたと思ってしまう。
翌朝、まだ寝ていた都喜夫の部屋にやって来た母親清子が、買って来た指輪を見せろと言うので、背広のポケットの中と答えるが、探していた母親がないと言うので、そんなはずはないと都喜夫も起きて来る。
しかし、本当に見つからないので、夕べ、車から盗まれたと思い込んでしまった都喜夫は、合鍵を使って車を開ける犯行手口があるのだと母親に説明しながら、これは御縁がないと思うんだな…と、むしろさっぱりしたような表情。
その頃、デパートでは、落とし物として指輪を届けられた主任が、今頃報告して来て…と、育子をきつく叱りつけていた。昨日、自分が忙しくて、彼女を追っ払った事は忘れているらしい。
その日、宝塚劇場で倉田と節子に会った都喜夫は、夕刊の隅に出ていた「指輪盗難事件」の事を聞かれていた。母親が警察に届けたらしい。
節子は、盗まれた指輪が自分への贈り物だと知って、始めてその時、都喜夫の結婚話を知ったように、結婚を巧くやって行く自信はあるのかとか、箱入り娘が相手じゃないとダメなのかだとか、都喜夫をからかっていた。
一方、自宅にいた清子は、指輪がデパートで見つかったとの電話連絡を受けていた。
その後、都喜夫は、その指輪を見つけた育子の自宅に、直接、お礼に出かける事にする。
ところが、応対に出て来た母親(中北千枝子)が言うには、デパートを首になりそうなので、ちょうど、今、次の仕事を探しに出かけていて不在なのだと言う。
自分のせいで、指輪を見つけてくれた相手が仕事を失いそうだと知った都喜夫は、自責の念を感じながら帰りかけるが、その途中で、ちょうど戻って来た育子と出会う。
デパートで互いに相手の顔を覚えていたのですぐ分かったのだ。
都喜夫は、彼女が仕事を失った事を詫びると共に、その償いとして、新しい仕事先を自分に世話させてくれないかと申込むが、彼女がきっぱり断わるので、それなら、今欲しいものを何でも言ってくれと頼む。
すると考えた末、育子は、外国映画に出て来るように、一晩だけ金持ちのように贅沢に楽しんでみたいと言い出す。
都喜夫は、お安い御用だから今日にもどう?と誘うが、女性は準備がいるからと育子が言うので、それなら明日の晩6時に迎えに来るから、せいぜいめかしこんで待っていてくれと言い残して別れる。
翌日、育子と都喜夫が東京会館で食事をしていると、そこにやって来たのが倉田と節子の二人。
踊りながら都喜夫と育子の様子を観察していた二人は、食後、都喜夫たちのテーブルに近づいて来て挨拶をすると同席する。
ステージでは外国人ダンサーが踊り始め、倉田が言うには、そのダンサーは踊りながら、店の中で一番チャーミングな女性に花束を渡すパフォーマンスをするらしい。
やがて、都喜夫たちのテーブルに近づいて来たそのダンサーが花束を渡したのは、節子ではなく育子だった。
明らかにプライドを傷付けられた節子は、指輪はどうなったのかと聞いて来るが、都喜夫はわざと、まだ見つかってないと答える。
節子は、育子の兄の会社の名前を聞くと、それは自分の父親の会社の子会社だと愉快そうに嫌味を言う。
酔って来た節子は、自分の飲みかけの酒を、わざと都喜夫が飲んでいたグラスの酒に混ぜてしまい、男だったらそのくらい飲めなきゃダメだと高飛車な態度。
困った都喜夫が育子を踊りに誘うと、立ち上がった育子の身体が、偶然そのグラスに触れ倒してしまう。
思わず、失態を謝る育子だったが、それを見た節子は呆然とした表情。
しかし、それをわざとやったと見た都喜夫は、踊りながら、巧い事やったねと育子に微笑みかけるのだった。
車で育子を自宅まで送って来た都喜夫は、降りる彼女に花束を渡し、外国映画だとこうするんでしょう?と、育子を喜ばせる。
育子を見送った後、車に残っていた花を見つけた都喜夫は、「マイベストセレクションか…」とつぶやきながら、その一本を自分の胸に飾ると、愉快そうに車に乗り込むのだった。
翌朝、都喜夫の父親康之は、松宮の方から、まだ結婚話の事を言って来ないがどうなっているのかと聞かれた妻清子は、節子の方から結婚話を勧めてくれと言って来たのにね〜…と不審がるのだった。
その話を聞いていた都喜夫は呆れてしまう。
節子は、自分から結婚を望んでいるくせに、それを今まで自分に隠し通して、都喜夫の方から求婚させるように仕向けていたのだ。
その頃、倉田から、今度の日曜日、小巻夫人のパーティに一緒に出かけないかと誘いの電話を受けていた節子は、ちょっと考えながら、その日は都合が悪いかも知れないと返事を保留した後、自ら都喜夫に電話をかけ、予定を聞いてみるが、都喜夫はその日は塞がっていると返事をする。
電話を切った都喜夫が、小巻夫人のパーティには別の人と行くのだと言うと、清子は、それは好きな人なのか、一度会わせてくれと言う。
一方、育子は、夜、自宅で、クイズに夢中の兄隆治(伊豆肇)から、河口工業の息子なんか、どうせろくな奴じゃないのじゃないかと忠告されていた。
ある日、都喜夫の自宅の招待された育子は、父親の康之が多量の薬を飲んでいる様子を見て、そんなものよりも、ゲンノショウコの方が効くのじゃないかとアドバイスする。
それを聞いた祖母鶴代は、我が意を得たりとばかり、自分も子供の頃からそれを飲ませていたのだと大賛成し、康之も、久々に飲んでみるかとその気になる。
さて日曜日、倉田と共に小巻夫人のパーティにやって来た節子は、自分を断わった都喜夫が、育子を連れて来ている事を知り愕然とする。
小巻夫人(塩沢登代路)から話し掛けられていた都喜夫は、ちゃっかり、倉田が育子に酒を勧めている姿を見るや、彼女を庭に連れて行ってしまう。
そんな様子を見ていた小巻夫人は、節子に心配してみせる。
庭に連れて来られた育子は、自分達の仲はこれきりにして、もう指輪を節子に渡したらどうかと勧めるが、そこに節子が近づいて来た事に気付いた都喜夫は、これは芝居だと言って、節子に見せつけるように、育子とキスを始める。
案の定、その姿を目撃した節子は逆上して、バーで飲んでいた倉田の所にやって来ると、悔しいわと本音を洩らしながら、大磯のお茶会に育子を誘い出す偽の招待状を出してくれと、倉田に頼むのだった。
その後、大磯の祖母、鶴代主催のお茶会にやって来た都喜夫は、呼んでもいない育子が来たと知らされ、慌てて会いに行く。
聞けば、招待状をもらったので来たのだが、お茶会だとは知らず、洋服で来てしまったと無邪気に育子は答える。
すぐに、育子に恥をかかせる為に仕組んだ節子の罠だと勘付いた都喜夫だったが、もう帰す訳には行かず、そのまま、お茶の席に同席させる事にする。
お茶の会には、お茶をたてる祖母を始め、都喜夫の両親、節子と倉田、そして小巻夫人なども出席していた。
祖母からお茶を出された育子は、心配して見つめる都喜夫を他所に、見事な程、作法通りの飲み方を見せ、周囲を驚かさせる。
思惑が外れ悔しがった節子は、鶴代が、自分にも誰かお茶を立ててくれないかと言い出したのを聞くと、わざと育子の名をあげてみせる。
それを聞いた都喜夫は、節子の意地悪さを知りハラハラするが、黙って進み出た育子は、今度も又、見事な手さばきでお茶を立ててみせるのだった。
その姿を見た都喜夫、その両親、そして鶴代も、全員感心して、満足そうな表情を浮かべるのだった。
会が終わった後、鶴代は帰りかける息子夫婦に、これでようやく、自分の趣味友だちができそうだと嬉しそうに伝える。
傷心し帰る節子は、倉田から慰められていた。
車で送りながら、今日の育子の作法の見事さに驚いたと都喜夫が打ち明けると、実は、母親がお茶の師匠だったのだと、育子は平然と答えるのだった。
途中、車を止めた都喜夫は、持っていた婚約指輪を、育子の指にはめてやると、その場でキスをする。
スピードオーバーで追跡して来た白バイの警官は、都喜夫の車の中を覗き込むが、熱々の二人の様子を見るや、何も言わずに去って行ってしまう。
育子は、この指輪は本当に欲しかった。だって、これを最初にはめたのは自分だったんだから…と、満足げに呟くのだった。
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「日蝕の夏」に次ぎ、石原慎太郎都知事が原作、脚本のみならず、自ら主演した映画である。
51分と言う短い添え物映画だし、内容も他愛無い四角関係を描いたラブコメだが、辛気くさかった前作に比べ、気楽に観られる娯楽映画になっている。
慎太郎氏の演技は、いかにも硬く、しろうと臭かった前作にくらべると、役柄も本人に近いキャラだったり、多少現場に慣れて来た事もあってか、それ程違和感はなくなっている。
その生意気そうな口調などは、現在の氏の口調そのままである。
いかにも上流階級の娘を演じている白川由美とは対称的に、庶民派の飾らぬ可愛さがある青山京子との対比が面白い。
今となっては珍品の部類に入る作品だと思うが、コンパクトにまとまった、後味も悪くない小品だと思う。
