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チエミの婦人靴(ハイヒール)

1956年、東宝、石坂洋次郎原作、松山善三脚本、鈴木英夫監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

ラーメンの配達を終えた三ちゃん(江原達怡)が店に戻る途中、顔見知りの子供が本屋の前で呼び止めると、雑誌「明星6月号」のとあるページを差し出してみせる。

何事かと、読んで見た三ちゃんだったが、そこは、読者からの文通投稿欄らしい。

焦れたように、少年が「自分は江利ちえみファンで、ハイヒールが作るのが得意の20才の靴作り」と書いてある投稿を示してみせる。

その差出人である早川郡佐島町柴谷又吉(井上大助)とは、三ちゃんが働いている中華料理店「天津」の向いにある、丸井靴店と言う小さな店で下働きをしている又やんの事であった。

その頃、当の又吉は、不景気で履き潰したような靴の修理ばかり頼まれる事に愚痴を言いながら親方(中村是好)が出かけると、さっそく隠していた雑誌「明星」を嬉しそうに読み始める。

そこに店に戻って来た三ちゃんが声をかけ、自分にもハイヒールを作ってくれと冗談半分に言いに来る。

それは「天津」の看板娘トンちゃん(青山京子)の為か?と又吉が聞くと、あんなんじゃないと言う三ちゃんを、そのトンちゃん本人が、次のラーメンの出前の仕事があると店の前で睨み付けていた。

そんな所に、郵便配達がやって来て、又吉に手紙が来る。

差出人には早川美代子と、知らない女性名が書いてあった。

読んで見ると、「明星6月号」であなたの投稿を読んだが、自分も大のチエミファンで、北野町駅から三つ離れた藤代町に住んでいるものだと言う。互いに気が合いそうなので、これから文通しませんかと言う内容だった。

その後も、文通は順調にやり取りが続き、夜、二階で一人、美代子からの手紙を読む又吉は幸せだった。

美代子の手紙には、自分は江利チエミみたいに健康的でピチピチした女だと書かれてあった。

又吉は思わず、江利チエミと散歩する夢を見、唄い終わったチエミに、花畑から花を取ってやろうとするのだが、その時、下から親方の声が聞こえて来て夢が醒めてしまう。親方は「電気代もバカにならないから、早く寝ろ」と言っているのだった。

最近、妙に又吉が夢見心地で仕事に身が入っていない様子を隣で見ていた親方は、又吉が、すっかり手紙の相手の事で夢中なのだと気付いており、つり合わぬが不縁の元だと言って、又吉をたしなめるのだった。

その後届いた美代子の手紙には、自分はチエミにそっくりなの。ハイヒールを作っているような靴屋さんって、きっと蛍光灯に照らされた素敵なお店なんでしょうね。一度会ってみたい…などと書かれてあったが、現実の丸井靴店には汚い傘を被った電球が一つぶら下がっているだけだった。

思いあまった又吉は、天津の三ちゃんとトンちゃんに相談に行くが、トンちゃんから、とにかく会ってみる事、スリルよ!と勧められる。

結局、会う決意をした又吉は、美代子から指定された通り、次の日曜日、龍ケ崎駅前に降り立つ。

互いの目印は、「明星6月号」を持っていると言うものだった。

又吉は、美代子の姿を探すが、なかなか出会えない。

半分諦めかけた所で見つけたのが、「明星」も抱えたチエミそっくりの少女美代子(江利チエミ)だった。

美代子は、出会えた又吉の事を、思った通りの人だったと安心した様子。又吉も又、思った通りだったと答える。

この町ははじめてだと又吉が言うと、頂上に神社がある近くの山に登ってみないかと美代子が勧める。

上には売店などないと言うので、近くのパン屋でアンパン4つにジャムパン4つ、そしてキャラメルも購入し、その金を払おうと金を出した又吉を見た美代子は心配するが、又吉は、今日は全部使っても良いのだと胸を張る。

山に登った美代子は、小さな祠を見つけると、「痩せますように。足が細くなりますように。そして、又吉さんが良い人でありますように…」と願をかけるのだった。

待っていた又吉から、何を願いごとしたのかと聞かれた美代子は、恥ずかしながらも正直に答える。

女性って、そんなに痩せたいのかな〜と聞かれた美代子は、足を細くする為、友人から教わって、ゲートルを撒いて寝た事もあると言うと、聞いていた又吉は呆れて、そんな事をしたら、かえってむくんでしまうのではないかと心配すると、美代子は、実際その通りだったと告白する。

何故、足を細くしたいかと言うと、赤いハイヒールをはいて、颯爽と町を歩いてみたいからだと美代子は続ける。

格好を付け、普段は吸わないタバコを、又吉が取り出してみせると、美代子も、自分も吹かす程度だったら吸えるのよと言いながら、一本もらったタバコを吹かしはじめ、煙を鼻から出してみせたりする。

一方、吸い慣れないタバコを吸ってしまった又吉の方は、気分が悪くなってしまい、慌てた美代子から、頭を低い方にした方が良いと、足を持ち上げられて地面に横たえられる始末。

その後、町に戻った二人は、「初恋チャッチャ娘」と言う江利チエミ主演の映画を仲良く観るのだった。

そこでも、二人は、おかしを食べるのに夢中だった。

その夜、又吉は二階部屋で、ハイヒールの雑誌を眺め、色々研究するのだった。

翌日、又吉は親方に、親戚から頼まれたのでハイヒールを作りたいのだが、作り方を教えてくれないかと頼むと、親方は難しいと言いながらも、やってみろと勧めてくれる。

又吉は、親方からのアドバイスを受けながら、一生懸命、ハイヒールを作りはじめる。

その熱心さを毎日観ていた三ちゃんから、自分用にも作って欲しいと頼まれるくらい。

そして、ようやくハイヒールが完成する。

できたハイヒールを観た親方の奥さんは、自分が履いてみて良いかと言うので、又吉はどうぞと勧める。

奥さんは、座敷の上で履いて、しゃなりしゃなりと歩いてみせる。

その様子を観ている又吉も、やり遂げた満足感でにこやかな表情だった。

ところが、そのハイヒールを美代子に送った後、又吉の表情は何故か暗くなってしまう。

親方も心配するが、又吉は、もうハイヒールは作るつもりもないし、靴屋自体が嫌になったと言い出す。

いつものごとく、どぶ掃除を言い付けに来た奥さんの後を付いて行きながら、親方は又吉に、つらんない事を考えるなよと、忠告するのだった。

その夜、天津に夕食のラーメンを食べに言っても、又吉は食欲がないようで、箸すら付けようとしない。

そんな様子を心配した三ちゃんとトンちゃんが訳を尋ねると、又吉は、もう美代子から三週間も手紙が来ないのだと打ち明ける。

三ちゃんは、又吉に、靴屋を辞めるなんて言うなよと励ますが、翌日、又吉は、仕事場にも出ないで、二階で寝ていた。

そんな又吉に、親方が、又どぶ掃除しなければ行けないから店番をしてくれと下から声をかけて来る。

渋々、店に座った又吉だったが、向いの天津の前で、三ちゃんとトンちゃんがいちゃいちゃしている所が見えるだけ。

そこに、久しぶりの郵便屋がやって来て、又吉に速達を渡して行く。

急いで中を読んでみた又吉だったが、無沙汰を詫びる言葉の後、送られた二日後、もらったハイヒールを履き、ツーピースを着て、外に出かけた所、ちょっとしたはずみに、片方のかかとが取れてしまい転倒し、足の骨を折ってしまい、それ以来寝たきり状態になって、今では、松葉づえで何とか歩けるようにはなったが、その間、手紙が出せなかったのだと説明してあった。

それを読み終えた又吉は、裏庭でどぶ掃除していた親方の元に向い、今日限り、暇をくれと又吉は言い出す。

自分の作ったハイヒールを履いた相手が、足を折ってしまったのだと悔やむ又吉。

翌日、又吉は、美代子の住所を頼りに見舞いに出かける。

目指す住所に着いてみると、そこはいかにも貧しそうな家で、中には誰もいなかった。

がっかりして、家を出た又吉を発見したのは、松葉づえをつきながら、外から戻って来た美代子だった。

一緒に近くのあぜ道に向った又吉は、僕が下手なばっかりに、こんな目に会わせてごめんと謝る。

しかし、その言葉を聞いた美代子は、私はバチがあたったのだと言い出す。

そもそも、こんな米俵みたいな身体でハイヒールなどを履こうと考えた事自体に無理があったのだし、貧しい織物女工に過ぎない自分が、映画の中のように派手な生活に憧れてしまった事が間違いだったのだのだと、美代子は続ける。

私には、私の生活がある事を忘れていたのだ…と、美代子は呟く。

兄は不良だし、父親は酒飲み、自分が稼いだ金は全部生活費で消えてしまうのに、そんな事は隠して、手紙では嘘ばかり書いてしまった。本当だったのは、自分が、歌が好きな元気な娘と言うくらい。

あなたに手紙を出したのは、巧く行けば、ハイヒールを安く譲ってもらえるかも知れない、否、ひょっとしたら、ハイヒールをただでもらえるかも知れないと言う卑しい気持ちがあったのだ。今自分は、壊れたハイヒールを新聞紙に包んで、天井からぶら下げているが、それは、二度と虚栄心を起こさない為に……と打ち明けた美代子に対し、又吉は、最初に騙したのは自分の方だと告白するのだった。

翌日から、丸井靴店の店先で、脇目も振らず、熱心に働く又吉の姿があった。

彼の心には、美代子からの言葉が響いていた。

又吉さん、私たちの間には二度と嘘はなしよ…。

暗くなり、座敷の親方から、そろそろ終いにしろと声をかけられても、又吉は夜なべして働くのだった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

上映時間49分と言う中編作品。

いかにも50年代らしい、ラーメン一杯30円の時代の真面目で素朴な話である。

地方の多くの男女は、映画の中の世界を夢観るだけで、つましい贅沢さえ、自らに戒めなければならない程貧しかったのだ。

男女が、雑誌に投稿した文通希望から、付き合い始めると言うのも時代を感じさせる。

今で言えばメールだが、当時の文通と言うのは、もっと勇気のいる行動で、ドキドキ感や手紙をもらった時の嬉しさも大きかったのではないか?

前半は、そうした文通を中心に展開する他愛無く明るいラブストーリータッチなのだが、後半は、ちょっぴりしんみりとなってしまう重い人生訓が込められている。

その人生訓が、今でも通用するものか、すでに過去のものになったのかは、観る人によって感じ方は違うだろう。

余談だが、劇中で、江利チエミがタバコを吸うシーンがあるが、この時代はまだ未成年ではなかったのか?

細かい事は気にしない、当時の芸能界のおおらかさの現れかも知れない。

メガネをかけた青山京子のちょっと三枚目的なキャラや、中村是好扮する気の良い親方役も印象的。