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文学賞殺人事件
大いなる助走

1989年、株式会社アジャックス、志村正浩、掛札昌裕脚本、鈴木則文脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

大徳産業社員市谷京二(佐藤浩市)は、線路を渡る高架橋の上で、封筒が落ちているのを発見する。

中を確かめると、「焼畑文芸」と言う同人誌と、持主らしき人物の電話番号が書かれてあった。

電話で連絡した落とし主から指定された待合せの場所が、近くの寺の境内だったので、てっきり年輩の人が来るとばかり思っていた市谷は、やって来た女性が、妙齢の美人だったのでちょっとびっくりする。

相手は、時岡玉枝(中島はるみ)と名乗って、落とし物の連絡をくれた事の礼を言い、京二が、同人誌を読ませてもらったが、なかなかお上図ですねとお世辞を言った所、一冊、同人誌を渡される。

家に帰って読んでみると、掲載されている作品はどれも大した事なく、こんな程度なら自分にも書けるのではないかと京二は思ってしまう。

夕食時、長電話を父親から叱られて、食卓についた妹由里子(松本典子)に、原稿用紙を持っていたらくれと伝える。

大徳産業の顧問を勤めている父親の英一郎(渥美国泰)は、焼畑市などと言う地名を変更して、大徳市にした方が良いのじゃないかなどと話をしている。

兄の英之(ラサール石井)は、将来、市会議員になるつもりの役人だった。

その夜から、京二は、原稿用紙に小説らしきものを書きはじめるようになる。

ある日、「焼畑文芸」の主宰保又一雄(蟹江敬三)の文具店をやっている家を訪ねた京二は、文芸関係で来たと言う京二に対し、あからさまに迷惑顔をする妻、加津江(宮下順子)と出会ってしまう。

京二を出迎えた保又は、商売相手の岡商店の人間が来ているにもかかわらず、そっちはほったらかしなので、妻も商売相手も呆れている様子。

保又は、京二が書いた小説を読み、あれこれアドバイスを始めるが、途中で妻が、商売はどうするのかと聞きに来るので、喫茶とバーを兼ねた「チャンス」と言う店に場所を変える事にする。

保又は、大徳産業の社員である京二に、一流企業の暴露を書けと勧めて来る。

SFなどと言う低俗なものではなく、斬れば血が出るような真実を書けと熱く語る。

その夜、公園の噴水前で再会した玉枝も、京二に小説を書くように勧める。

自分はもう同人誌を辞める潮時だと考えており、これからは、あなたを一流の作家に押し上げる目標が出来た。パトロンにでも何でもやるとまで言ってくれる。

焼畑市は、川を挟んで大きく二つの領域に分かれており、左岸は元城下町の旧市街地、そして右岸一帯は、大徳産業の本境地である工業地帯になっていた。

翌日出社した京二は、会社内の何を書くか、あれこれ想像を巡らせはじめる。

課長の奈村(名引直寿)の事や総務のおしゃべり女、ネットワーク女子(片桐はいり)の事も書こう。

勝山産業を追い込んで、納品をストップさせ、専務を自殺させた事も書いてみよう。

片岡部長の媒酌で、自分のお手付き女を部下と結婚させ、そのあげく、その部下を左遷してしまった事なども書こう…。

しかし、いざ、自宅で小説を書きはじめると、父親が大徳産業の顧問をやっている事をあり、ちょっとまずいかと躊躇したりもする。

ワープロを買い込んで本格的に小説を書きはじめた京二の部屋にやって来た妹由里子は、自分の高校の文芸部には、芥山賞を狙っている徳永美保子(甲斐えつ子)と言う文学賞女がいる事を教える。

その話を聞いた京二は、賞取りを目標にするのも悪くないと考えはじめたのか、目標とするなら直本賞の方が良いかも知れないなどと呟く。

由里子が言っていた文学少女徳永美保子は、地元の大学出の文学青年大垣義郎(石橋蓮司)の家に入り浸っていた。

地方の同人誌は嫌だなどと生意気な事を言っている美保子に、大垣はいきなり性交しようかと迫る。

あまりの申し出に面喰らった美保子だったが、拒否すると凡人と思われると思ったのか、何となく言いなりにしたがってしまう。

しかし、その行為を自ら正当化するため、あれこれ難解な言葉を吐き続けながら大垣に抱かれてしまう。

美保子が慌ただしく帰る様子を観ていた大垣の母親(杉山とく子)は、何喰わぬ顔で二階から降りて来た息子に、又何か悪さをしたのではないかと問いつめる。

何せ、大垣は過去35人もの女性を誑し込んだ前歴があったからだ。

大垣は、本で読んだだけの知識で、世間や他人の作品を批判などしている女子高生をバカにしていたのだった。

その後、保又から母親に電話が入り、合評会になるかも知れないが、美保子を知らないかと聞いて来る。

その保又の家では、外出から帰って来た妻が、もう家には金がなく、二人の子供は飢え死にしかかっているが、今後どうするつもりなのかと、保又にヒステリックに問いつめていた。

そんな妻の剣幕に顔をしかめながら、保又は、みんな、お前の事をソクラテスの妻と言っているぞと皮肉る。

怒って茶の一つも出さない加津江がいる保又の家に集まった「焼畑文芸」の同人と大垣、美保子たち。

まずは新入りに京二を紹介した上で、保又は、同人作品の批評会を始める。

最初に槍玉に上がったのは、山中道子(泉じゅん)の作品だった。

大垣は、その文章の幼稚さを指摘し、小説以前の作品だと罵倒。

他の同人たちも「友人への単なる悪口」など、容赦ない批判を始める。

これには、さすがの道子も切れ、茶菓子用に出されていたせんべいを踏みにじって帰ってしまう。

その後も、JR職員土井正人(粟津號)の「吹雪の鉄路」や、中学教師鍋島智秀(水島涼太)の「ホームルームの秋」などが俎上に乗せられ、どれも、大垣から辛辣な批評を受ける事になる。

時岡玉枝の作品「良妻十徳」も例外ではなく、最後になった京二の処女作「大企業の郡狼」もこてんぱんに貶される。

たまりかねた玉枝が、直本賞を取るかも知れないと擁護すると、メンバー全員嘲笑の表情を浮かべる。

その時、帰ったと思っていた道子がバットを持って戻って来ると、同人たちが集まっていた部屋に乱入し、暴れはじめる。

部屋が壊されるのに気付いた保又の妻、加津江は、道子からバットを奪い取ると、逆に自分の方がヒステリックになり、同人たち相手に暴れはじめてしまう。

そんなある日、文芸秋冬社から、京二に電話があり、「大企業の郡狼」を同人誌推薦作品として文芸雑誌「文学海」に掲載したいと連絡がある。

その話は「焼畑文芸」の仲間たちにもあっという間に広がり、「チャンス」に呼出されると、祝賀パーティと称して、京二の金で全員、酒を飲む事になる。

保又によると、280枚もの処女作が「文学海」に転載される等、異例の事だと言う。

しかし、集まった同人たちの態度は、京二を祝福すると言うよりも、明らかに嫉妬まじりのしらじらしいものだった。

その席には、地元の文士小坂(胡桃沢耕史)や萩原(団鬼六)も、大垣が勝手に招いていた。

「岩原文学」と言う同人誌で頑張っている萩原は、女にだけ名刺を渡すと、自分がこれまで候補になった文学賞の名を列ねて自慢するのだった。

やがて、雑文を書いていると言う鱶田平造(早川保)もやって来る。

人の金で、勝手に飲み食いしているような浅ましい連中から距離を置きたい玉枝は、京二を外に誘い出すと、そのままホテルでベッドインしてしまう。

京二の小説が転載された「文学海」は飛ぶように売れ、京二が小説を書いていた事が会社中に知れ渡る事になる。

同時に、「大企業の郡狼」にモデルとして書かれた連中も黙っているはずがなく、緊急重役会が開かれると、その夜帰宅して来た京二の父親英一郎は、顧問を辞任して来たと言う。

市役所の幹部である兄英之も、立場がなくなり激昂、とうとう、京二は父親から勘当を言い渡されてしまう。

しかしその時、妹の由里子が文芸秋冬社からの手紙を持って来て、そこには、京二の小説を直本賞に推薦する事になったと書かれてあった。

翌日、「焼畑文芸」の面々は、東京の編集者牛膝太郎(山城新伍)が当地に立ち寄ったと言うので、彼を囲んで、中央文壇の話を聞く会を催していたが、そこに遅れてやって来た京二が、文芸秋冬社からの通達をメンバーたちに廻し見せると、またまた全員、微妙な空気になってしまう。

そんな中、京二は、こっそり玉枝にだけは、明日、上京する事を打ち明けるのだった。

一方、テーブルの中央では、まだ、牛膝太郎が独り熱弁を奮っていた。

全国に2500ある同人誌、書いている同人の数は200万はいるだろうと言う。

そんな中から、中央でそれなりの地位を気付くには、人間である尊厳を捨て去り、ひたすら編集者に頭を下げ続けるしかなく、自分の前で、何人もの新人作家が土下座をしたものだと自慢げに話しながら、終いには、口から泡を吹き出していた。

玉枝と、いつか彼女の原稿を拾った高架橋の上で出会った京二は、王将を唄いながら、自分は絶対に直本賞を取ってみせると意気込んでみせるのだった。

上京した京二は、歓迎の意味も込めて、さっそく文芸秋冬社の編集者賀茂正樹(中丸新将)に連れられ、銀座の文壇バーなる場所に連れて行かれる。

そこでは、ホステスたちや賀茂から、やはり、作家たる者、直本賞くらい取らないとダメだと忠告される。

その時、バーの片隅で、編集者たち相手に独り熱弁を奮っている人物がおり、その人物こそ、SFなどと言う下劣な小説を書いているばかりに直本賞も取れなかった小説家(筒井康隆)だった。

SF作家は、今までさんざんSFをバカにして、20年前、俺の小説1枚に200円しかくれなかったくせに、最近ちょっとブームだと言うと、ムチャクチャ書かせやがって!おれたちを潰す気か!SFなんかに賞は取れないと思っているんだろう!などと、浅ましくも怒鳴りながら、最後には興奮のあまり、ビール瓶で編集者を殴りつけるという蛮行に及んでいた。

翌日、文芸秋冬社で賀茂と落ち合った京二は、受賞仕掛人多聞伝伍(ポール牧)なる怪しげな人物を紹介される。

京二は、以前、牛膝太郎から聞いていたように、その場で土下座するが、まだ早いとたしなめられる。

そして、多聞から、予算は?と聞かれる。

預金を合わせて500万くらいは用意できると京二が答えると、直本賞の選考委員会の面々の裏事情を多聞が打ち明けはじめる。

まず、鰊口冗太郎(南原宏治)と言う作家は、自分の娘との結婚を条件に押し付けて来る恐れがあると言う。

雑上掛三次(梅津栄)と言う作家は男色家なので、抱かれる必要がある。

坂氏疲労太(由利徹)と言う作家は、無類の女好きなので、女を抱かせる必要があるが、用意できるかと言うので、玉枝の事を思い浮かべ、人妻なら…と京二は答えてしまう。

アル中の明日滝毒作(汐路章)と、歴史小説家の海牛綿大艦(天本英世)、そして若い頃極貧暮しだった推理作家の善上線引(小松方正)は、金を渡せば大丈夫だろうと多聞は分析してみせる。

下司楯と言う作家の授賞式に連れて来られた京二は、直本賞のライバルと見なされている「ベッドタイムエイズ」の女流作家櫟沢美也(林美里)の姿を見る。

何でも、カルチャーセンター出身らしいが、フール読物編集者梅木茂(仲村知也)が見い出した上流階級出の才媛と言う事もあって、強敵らしい。

さらに、もう一人のライバル番場が現れるが、これはすでに鰊口冗太郎の娘と結婚する事が決まったらしい。

坂氏疲労太が妻を連れてやって来たので、すかさず、多聞は、こんな所で土下座をするな、一人がし出すと、他のものたちも皆やりはじめ収拾が付かなくなると、京二に釘を刺すのだった。

ホモの雑上は、多聞から京二を紹介されると、好みだと言うように怪しい目つきで京二を見つめてくる。

その内、牛膝を見かけたので、つい多聞の忠告を忘れ、京二が土下座をしてしまったばかりに、パーティ会場中、全員が土下座をし始めて、大混乱になってしまう。

その後、京二は、プライドを捨て去り、ホモの雑上に抱かれに行く。

故郷から呼出した玉枝は、坂氏に抱かれていた。

直本賞授賞式に臨席した京二は、マスコミ陣の前で、これらを全て暴露していた…と言うのは、夢だった。

京二は、玉枝が借りたマンションで目覚めたのだった。

その後、二人は、受賞を信じて抱き合う。

その頃、チャンスのママ山中道子は大垣の部屋で、京二の陰口を叩いていたが、やがて徳永美保子に見せつけてやるのだと大垣から言われるままに、その場で抱き合うのだが、そこに呼ばれてやって来た美保子は、その現場を目撃し、ショックのまま走って逃げ帰って行く。

一方、東京では、賀茂が、多忙な選考委員会のメンバーたちを回って、候補作のあらすじなどを教えていた。

選考委員会の人間で、まともに候補作など全部目を通す人間などいなかったからだ。

賀茂は、番場の「猫屋敷」、京二の「大企業の郡狼」、櫟沢美也の「ベッドタイムエイズ」三作の欠点や長所などまで詳細に説明をしていた。

やがて、料亭で、梅木が進行役となって、直本賞審査会が始まる。

京二と玉枝のいるマンションにも、すでにマスコミ陣が陣取っている。

鰊口は、すでに娘婿に決まった番場の「猫屋敷」を押す。

すると、他の審査員たちは、本心では、上流階級の出身で、華道の弟子を百万人も持っていると言う櫟沢美也を受賞させたいのでゃないかと、梅木の下心を読んだような発言をする。

京二のマンションに電話が入ったので、マスコミ陣は写真を撮る動きをするが、それはラーメンを注文する間違い電話だった。

審査会場では、アル中の明日滝は、もう眠ってしまっている。

そんな中、「大企業の郡狼」の文章の一部が話題になった時、善上がハッとしたように立ち上がり、廊下の電話に向って、先日送った自作の原稿のゲラチャックをするよう頼む。

すると、先日、賀茂から聞かされていた京二の「大企業の郡狼」内の文章を、無自覚に自分の小説でそのまま使ってしまった事が分かり、青ざめる。

もし「大企業の郡狼」が受賞し、多くの人の目に触れるような事になると、自分が文章を盗作した事がばれてしまうからだ。

部屋に戻って来た善上は、それまで押していた「大企業の郡狼」を貶しはじめ、急に「ベッドタイムエイズ」の方が良いのではないかと言い出す。

他の選考委員も、その言葉をきっかけに櫟沢美也の方を押す意見に傾きはじめ、とうとう彼女が受賞者と決定してしまう。

電話で落選を知った京二は、あっという間に引き上げてしまったマスコミ陣を見ながら、玉枝にだけは一緒にいてくれないかと哀願する。

しかし、玉枝も、主人には、今日までと言って来たのだと戸惑いの色を隠せない。

そんな玉枝を見た京二は、頼むよ!とすがりつくのだが、「チャンス」に集まっていた「焼畑文芸」の仲間たちは、京二落選の電話を受け、全員がバンザイを連呼するのだった。

直本賞授賞式では、櫟沢美也が挨拶をしていた。

一方、安アパートで一人暮しになった京二は、フール読物の直本賞選考評価を読みながら、いい加減な論評をしている選考委員一人一人に悪態を付いていた。

金と身体を全部受け取りながら、受賞させてくれなかった選考委員たちは皆裏切者だ、殺してやる…と、京二は呟いていた。

もう、その目つきは常人のものではなくなっていた。

そして、再び原稿用紙に向いはじめた京二だったが、そのタイトルは「大いなる助走」とあった。

焼畑市では、美保子がそれまで書き溜めた小説を全部燃やしていた。

その後、保又は、美保子が自殺したとの連絡を警察から受ける。

その連絡を横で聞いていた加津江は、あなたは嬉しいんでしょう。文学に殉じた純文学者が出たのだから。

私はソクラテスの妻で良いから、あなたは絶対ソクラテスになって下さいよ…と、皮肉を込めて言い放つのだった。

警察に呼ばれた大垣は、未成年に淫行をして自殺に至らしめたのは立派な犯罪だと、刑事から追求され、固まってしまっていた。

東京では、猟銃を手にした京二が鰊口の自宅を訪れ、娘を殴り倒すと、鰊口を射殺してしまう。

その後、雑上の家に向った京二は、ケツを差し出して来る相手の肛門目掛けて銃を発射する。

さらに、坂氏は、命乞いの代わりに、時間稼ぎのつもりなのか、童謡や唱歌を何曲も唄いはじめたので、面倒臭くなって、途中で射殺してしまう。

善上、明日滝、海牛綿も、次々に家を回って射殺し終わった京二は、指名手配犯としてパトカーで追われる身となっていた。

京二は、道路封鎖をしているパトカーに向って、車をぶつけて行くのだった。

京二は、文芸秋冬社の近くの公衆電話から、送った第二作「大いなる助走」を読んでくれたかと賀茂に電話していたが、あんなものは、小説以前のものだと相手にしてもらえない。

それで、直接編集室まで乗り込んで行き、ちょうど、櫟沢美也にちやほやしていた多聞や賀茂らにいきなり土下座をするが、私怨の為、人を殺し回る小説なんて、小学生以下のものだと罵倒される。

文学を私怨に使うなと言われた京二は、私怨でない文学などあるのかと、京二は言い返してしまう。

その後、雨の中、高架橋を渡りながら王将を唄う京二は、その場で嘔吐する。

再び、賀茂に電話を入れた京二は、あの小説は本当の事なのだと打ち明けるのだった。

その頃、「チャンス」では、「焼畑文芸」の同人たちが集まり、直本賞の選考委員達が次々に射殺され、その容疑者が京二であると報道するテレビニュースを呆然と眺めていた。

一方、梅木は、京二から送られて来た「大いなる助走」の原稿を探し回っていた。

今、あれを出版すれば、ベストセラーになる事は間違いなかったからだ。

しかし、原稿は見つからず、すでに、シュレッダーにかけられている所だった。

「チャンス」では、京二は頭でもおかしくなったのだろうかと保又が呟いていたが、たまたま事情聴取でやって来ていた刑事(誠直也)が、京二もパトカーに車ごとぶつかって死亡したと教える。

皆、哀しい酒を飲みはじめるが、玉枝は突然、もう小説を辞めると言い出す。

鍋島や土井まで、自分達も、世間的に非難されるのではないかと怯え出す。

彼らはその時になって、はじめて、自分達がやって来た「同人誌」活動の空しさに気付きはじめる。

出版しても、ほとんど一目に触れる事もなく、くず屋行きとなる同人誌。

実社会でも、同人作家なんて、生活無能力者の同義語みたいなもではないのか…。

そんな仲間の会話を聞きながら、保又は、それを考えはじめたら、もうお終いなんだと、テーブルに突っ伏してしまう。

店のホステスたちも、何だか、お祭りが終わってしまったようだなどと語り合っていた。

後日、京二の自宅の電話が鳴り、それを取った妹の百合子が、京二お兄ちゃん、直本賞受賞おめでとう!と嬉しそうに応対していた。

しかし、公衆電話の中には誰もいない…。

文芸秋冬社の床には、無数の同人誌が散らばっていた…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

筒井康隆原作「大いなる助走」の映画化作品。

筒井作品の実写映画化はいくつかあるが、お世辞にも成功したと言える作品が少ない中にあっては、この作品は、比較的成功している部類ではないだろうか。

ハチャメチャさと言う点においては、まだまだ中途半端で、おとなしいかも知れないが、全体としては、それなりの娯楽映画になっていると思える。

登場する個性派俳優たちの怪演が見物。

中でも、「俗物図鑑」でも大いに悪乗り演技を披露した山城新伍の怪演技は愉快。

原作者筒井康隆氏自身の演技も、脚本を読んでいるのか、アドリブで本心を喋っているのか判然としない程、のびのびと演じているように見える。

そんな中にあって、やはり、主役を勤める佐藤浩市の芝居が、それなりにしっかりしているので、最後までだれずに観る事ができるのだと思う。

筒井作品と言えば「時をかける少女」しか知らない人には、こういう作品もあるのだと言う事を知ってもらいたい。