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六人の女を殺した男

1965年、大映東京、小国英雄脚本、島耕二監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

真っ白なキャンバスに、妻の貞子(万里昌代)が赤い絵の具を投付けて、何時も2、3時間でちょちょいと描くような作品でも一枚何百万で売れるくせに、何故最近描かないと、抽象画で売れっ子の画家阿部健(フランキー堺)につかみ掛かって行く。

もうすぐダイヤの指輪が出来て来るのにとヒステリックに喚く彼女を、何とか押さえようと、最近スランプで描けなくなった阿部は必死になだめるが、とうとう、その相手の迫力に負け、部屋の外に出たところで急に静かになったので、不思議に思って覗き込んでみると、貞子が部屋の床に倒れている。

慌てて駆け寄った阿部だったが、すでに貞子は事切れていた。

部屋の外では、女中のお兼さんこと兼子(岸田今日子)が、 無表情に110番へ電話を入れていた。

タイトル

貞子は転倒による事故死と判断され、独り身になった健の屋敷に訪ねて来て、仏前で一緒に酒を飲んでいるのは、友人でピアニストの加納哲也(船越英二)だった。

浪費家だった貞子は、絵を売る画商の順番まで、自分で勝手に決めていたと阿部が嘆息する。

そんな所に、銀座の恵美子(藤村志保)なる人物が訪ねて来たと兼子が知らせに来る。

名前では思い出せなかったが、健が馴染みのバー「エミ」のママだった。

殊勝にも、焼香しに来たのだと言う。

そのバー「エミ」には、阿部健がただで送った抽象画が店内に飾ってあった。

その抽象画にケチを付けていた男(杉田康)は、一見ボクサーのような野性的な雰囲気だったが、帰った後、店に来ていた阿部と加納にママが言うには、神主なのだそうだ。

その後、三人で飲み直している時、恵美子が冗談めかして、健の押し掛け女房になっても良いかと聞いて来たので、つい阿部も承知してしまう。

ところが、数日後、本当に、その恵美子が荷物をまとめて屋敷に押し掛けて来る。

出迎えた阿部が呆然としていると、先日、加納と言う証人もいる前で約束したからやって来たと、恵美子は平然としている。

その加納がやって来て、玄関先に置かれた大量の荷物に驚きながらも、いつものように阿部の部屋に入ると、中では、阿部と恵美子が濃厚なキスの真っ最中。

恵美子は、加納の顔を見るなり、自分達の縁結びの神様が来てくれたと喜ぶ始末。

恵美子が部屋を出て行った後、彼女とは愛情もあるし、うまくやって行けそうだとのろける阿部に、その内、籍を入れてくれと言って来るのでは?と心配する加納。

廊下では、兼子が、椎名法律事務所と言う所からの電話を受けていたが、すぐに、今日から私が奥様よと言いながら、恵美子が電話を取り上げてしまう。

慰謝料とか、離婚訴訟などと言う言葉が聞こえる。

そんな事は知らない阿部は、恵美子を連れて浴室や洗面所など屋敷内を案内して廻る際、給湯器からかすかにガス漏れがしている事に気付き、すぐに修理しようと言い出す。

屋敷も古くなって来たし、貞子と寝ていたベッドも縁起が悪いので、この際買い替えようと言う阿部に対し、水商売上がりの女は金遣いが洗いと言われたくないので倹約しましょうと、恵美子は殊勝な事を言う。

その頃、兼子は、服飾芸術家のペギー稲葉と言う女性からの電話を受けていたが、今先生は会えないと断わっていた。

その夜、ベッドに入った恵美子は、阿部に籍を入れてくれと言い出す。

貞子が死んでまだ二ヶ月しか経ってないのに…と阿部が戸惑っているのを見るや、それまでのおしとやかな態度をかなぐり捨てた恵美子は、近くにあった果物ナイフを握りしめ、阿部を突き刺そうとしだす。

さらに、阿部から止められると、今度は死んでやると言い出し、ナイフで自分の咽を突こうとする始末。

そこまでされては、阿部も、渋々、籍を入れてやると言うしかなかった。

翌日、電話をもらったペギー稲葉のモードサロンに出向いた阿部は、初対面のペギー稲葉 (久保菜穂子)から、今の服飾芸術の退廃振りを聞かされると同時に、先生の力を借りたいので、もっと二人だけで静かな所でお話しませんかと誘われる。

そんなある日、阿部はいきなり、弁護士を同行した恵美子から離婚を切り出される。

あまりに唐突な申し出に訳を尋ねると、性格が合わないなどと言い出す。

しかも、あなたと服飾デザイナーとの浮気を調べ上げていて、証拠写真もあると言うのを聞いた阿部は、私立探偵を付けていたなと憤るが、恵美子は平然と、慰謝料として2000万、一喝払いではなくても良いが、今後、絵の売却額の半分は自分が頂戴し、さらに、扶養費として月々5万円出せと迫って来る。

あまりに法外な要求に呆然とする阿部に対し、これに懲りて、あまり女にちょっかいを出さない事ねと言い捨てて部屋を出た恵美子は、次の瞬間、天井から落下して来たシャンデリアの下敷きになり死亡してしまう。

それを見た兼子は、また無表情に110番するのだった。

この事件も事故死として処理されたが、二度の惨劇を目の当たりにした阿部は、さすがに仕事を続行する事が出来ず、心を休める為に、しばらく、美山温泉郷と言う人知れぬ場所に静養しに出かける事にする。

独り入浴していた阿部は、同じ風呂に入っていた若い娘がいきなり近づいて来て、湯の中に隠していた風船を取り出して見せると言う無邪気な行動に出て来たので、唖然としてしまう。

日頃、人と接する機会がないからか、妙に人なつっこい人柄のその千代(明星雅子)と言う娘は、自分が裸である羞恥心など全くないどころか、阿部が有名な画家である事を知っているようで、私を描いてみないと言いながら、いきなりその場で立ち上がってみせたりする。

外で風景画を描く事にした阿部の側にも着いて来て、阿部が絵の具を探していると、すぐに探し求めていた色を取ってくれると言う特技を見せ始める。

本人も絵が好きだと言うし、どうやら天才的な色彩感覚の持主らしいと阿部も気付く。

ある嵐の夜、阿部が部屋で雷の音に怯えていると、蚊帳を引きに来た千代が、その中に一緒に入って来て、そのまま二人は口づけをしてしまうのだった。

東京に連れて来た千代を、早く都会に慣れさせようと、イタリア料理屋に連れて来た阿部は、そこで偶然にも加納と出会う。

同じテーブルに着いた三人だったが、千代は、慣れぬイタメシに臆するどころか、三人分のスパゲティを自ら持って来た箸であっさり平らげてしまう。

その後も、千代は見る見る内に都会風に洗練されて行き、その明るい性格と愛くるしい風貌で、ボーイフレンドもたくさん増えて行く。

ある日、阿部は、兼子から身に覚えのない高額の請求書を何枚も渡され愕然とする。

全部、千代が遊び歩いた飲食費らしい。

そんな所に帰って来た千代に、今後、小遣いは、お兼から渡す金額だけにするように言い付ける。

それからしばらくして、外出した阿部は、同行した加納から、画廊に君の作品がかけてあるといわれ、窓から覗いてみると、全く描いた覚えのない作品が飾ってあるではないか。

中に入って、サインを確かめると、「ken abe」と自分の名前が書いてある。

画商に訳を尋ねると、奥様からアトリエで直に譲って頂いたのだと言う。

阿部が買戻したいと申し出ると、すでに売却先が決まっているし、美術雑誌の表紙として使用する許可も奥様からもらっており、もうその写真も撮ってしまっていると言う。

帰宅して、問いつめると、千代は、確かにあの絵は自分で描いたものだが、それを贋作と気付かなかった画商の方が悪いと言う。

確かに、千代に画才がある事は認めた阿部だったが、自分のサインを入れた事は申し開きが出来ないと責める。

しかし、千代は、反省するどころか、田舎では自分は玉の輿に乗ったと思われているし、自分のような美貌なら、もっと若い金持ちとだって結婚できたはずだとボーイフレンドから言われているくらいだと開き直る始末。

さらに問いつめて行くと、すでに他に5、6軒の画商相手に、自分の絵を売ったと言うではないか。

阿部は、自らの経歴の泥を塗られてしまった以上、もはや千代を道連れに心中するしかないと思いつめ、千代を連れて、山奥にドライブに出かける。

しかし、ヘアピンカーブから崖へ向って突っ込もうと思っていた阿部だったが、助手席で無邪気に喜んでいる千代の様子を見ている内に、死ぬのは自分だけで良いと思い直し、車を停めると、千代に降りるように命ずる。

しかし、千代は応じず、自らの足でアクセルを踏み付けてしまう。

その為急発進した車の前に対向車が現れた為、慌ててハンドルを捻った阿部の車は崖下に転落してしまう。

結果、千代だけが死亡、阿部はかろうじて一命を取り留め、地元の病院で入院生活を送る事になる。

退院間近の阿部を見舞った加納は、馬鹿な奴だが生き残って良かった。見せしめの為に永久に残して置くといいながら、ベッドの上で包帯だらけの姿の阿部の写真を撮って帰るのだった。

その加納が、退院祝いとして持って来たデコレーションケーキを、阿部は、世話になった看護婦さんに渡す。

その後、一人の看護婦が病室に戻って来ると、阿部に抱きつき、濃厚なキスを交わす。

入院中に出来てしまい、結婚を約束した芳江(春川ますみ)だった。

そんな芳江が、上京する時、駅に見送りに来た同僚の看護婦は、阿部と言う男は、すでに三人もの妻を死なせている男だから結婚は止めた方が良いと忠告するが、30過ぎの自分がこんな所に燻っていても未来はない、今度死ぬとすれば相手の方だから大丈夫と言いながら、青いトランクを大切そうに抱えて列車に乗る。

阿部の妻になった芳江は、毎日のように、にんにくたっぷりのステーキばかりを食べさせ、体の方も強引にねだるようになる。

そんな芳江に、保険の外交員(志保京助)が訪ねて来る。

阿部が、俺はにんにくと保険が大嫌いだと追い返そうとすると、芳江は、他所でゆっくり話そうと外交員に耳打ちしていたが、その様子を、階段の上にいた兼子はしっかり盗み聞きしていた。

その後も、芳江の肉体的欲求は激しさを増して行った。

精力のつく食べ物ばかりではなく、青いトランクに詰め込んで来た、ありとあらゆる精力剤を無理矢理アベの口に放り込む毎日。

ある日、久しぶりにゴルフに誘った阿部が、あまりに体力が落ちている事に気付いた加納は、夕べ読んだ探偵小説の話をしだす。

それによると、心臓に障害のある男が所有する50万ドルもの財産をねらった看護婦が、腹上死をさせようと、ありとあらゆる手段を用いると言う話だと言う。

その話を聞いた阿部は、自分も事故の後遺症で心臓に障害があるが、もし、芳江が同じ計画を練っているのなら、こちらは相手に負けないように体を作るしかないと言い出す。

その日から、阿部の方から芳江を誘い、酒と踊りに明け暮れると言う体力勝負の生活を始めるようになる。

とうとう、自ら用意した精力剤を、まず自ら飲んで、酔ってふらふらになった相手にも飲ませる。

芳江が薬を飲んだ事を確認した阿部は、いきなり告白を始める。

いわく、今まで死んだ三人の妻たちは全部事故だった、俺が始めて殺すのはお前だと。

2000万もの保険に芳江が入って事を知った阿部は、わざと酒や薬を飲む振りをするようになり、今飲んだ薬も自分だけは見せ掛けだったが、お前は酒も薬も本当に飲んでいたし、今飲んだ薬も本当の天国行きの薬だと教える。

その話を聞いた芳江は、にわかに苦しみだすと倒れるが、奇妙な事に、それなりに体力を消耗して来た阿部の方も倒れ込んでしまう。

しかし、当然の事ながら、芳江は死亡したが、阿部はしばらくすると元の状態に戻っていた。

そんな阿部の強運さを、酒に誘った仲間たちはうらやましがる。

男たるもの、誰しも、女房を一度は殺してみたいと思っているからだと言う。

それを4回も成し遂げた阿部が心底うらやましいと言うのである。

画業の方も復調し、展覧会に二期連続の特選と言う栄誉を得、その会場に出かけていた阿部は、そこに来ていたペギー稲葉から祝福の言葉をかけられる。

その後、阿部が誘った食事の席で、改めて、彼の事を尊敬していると持ち上げた稲葉は、阿部から信頼を得る事になる。

その後、稲葉から勧められるがままに、彼女が描いた図案のようなものを元にして新作を描き出した阿部は、見る見るその世界に没入して、新しい創作意欲を掻き立てられて行く。

その阿部の作品を取り入れた稲葉のファッションは評判を取るようになる。

ところが、その裏で稲葉は、助手に雑誌社への告発状を書かせていた。

それは、阿部の新作と言うのは、稲葉が描いた原画の盗作と言うリークだった。

それを読んだマスコミは、一斉に阿部を糾弾しはじめる。

阿部は、彼女から勧められて合意の上の合作だと反論したが、稲葉はそうは言っていないと記者から教えられる。

そこに至って、阿部はまんまと利用されただけだった事を悟るが、その結果、彼は、完全に、画壇から干される事になる。

すっかり人気デザイナーになって大繁盛するようになった稲葉に会いに出向いた阿部は、言葉巧みに彼女をドライブに誘い出す。

二人の乗った車は、とある山奥の吊り橋の上に来ると止まり、そこから降りた阿部は、食べかけていたリンゴを谷の下を流れる川に投げ込むと、にわかに吊り橋を揺らしはじめる。

オープンカーの中で怯える稲葉だったが、彼女に近づいた阿部は、俺はお前を憎めない、そのたくましさに惚れた、捨てないでくれ、俺はお前を一流の女にしてみせると言いながら、濃厚なキスをするのだった。

その後、ドリームランドで子供に戻って遊ぼうじゃないかとの阿部の言葉に稲葉も同意し、向ったドリームランドに到着すると、あれこれと絶叫マシンに乗って楽しみ始める。

やがて、ワンダーホイールと言う観覧車状の遊具に乗った二人は、その箱が頂上付近にある時、その中で又濃厚なキスをする。

しかし、その時阿部は、片手でポケットに忍ばせていた鍵を取り出すと、それで箱の扉を開き、油断していた彼女をそこから突き落とすと、自らもその中で失神してしまう。

刑事同伴で屋敷に戻って来た阿部は、当人も失神している所を発見された事から、事故の犠牲者と思われていた。

しかし、刑事たちが帰ると、兼子が奇妙な事を言い出す。

事故の様子はテレビのニュースで見たが、気の小さな男程、大胆な事をするものだと。

彼女は、今回の稲葉の死が計画殺人であり、阿部があらかじめ、変装してドリームランドに行き、ワンダーホイールを下調べして来た証拠を持っていると言うのだ。

変装用に使った黒めがね、ハンチング帽、そして、遊具の扉の鍵の型を取った石膏、そして、洋服の胸に入っていた、日付けのスタンプが残っている入場チケットを見つけたと話す兼子は、この事を警察に言わない代わりに、今後、阿部の全財産、つまり遺産、著作権、今後の絵の代金など全てを自由にできる権利と実印を渡せと迫って来る。

兼子も又、昔、阿部に女にされた一人だったのだ。

阿部から30万と言う手切れ金をもらってはいたが、皮肉な事に、その金額が逆に彼女に欲と言うものを覚えさせ、その後の、阿部に付きまとって来る女たちの姿からは、できるだけ高価にむしり取る術を学んで来たので、後はじっと、こうしたチャンスが自分に訪れるのを待っていたのだと兼子は告白する。

万一、自分を殺そうとしても、今回の事件の証拠品は銀行にロッカーに保管してあり、親しい友人に全て教えてあると釘を刺された阿部は、さすがに観念して、二階の寝室にしまってあった実印を兼子に渡す。

その後、満足顔の彼女を残し、洗面所に向った阿部は、ヒゲを剃りながら給湯器のスイッチを捻る。

そして、夢見心地で妻専用の化粧台に座っていた兼子に、これから自分は加納のコンサートに出かけるので、その間、ゆっくり入浴でもして、めかしこんでくれたまえと皮肉まじりに言い残して外出するのだった。

加納のピアノ演奏を客席から阿部が聞いている間、彼が言う通り、厚化粧して入浴した兼子は、給湯器から漏れたガスで死亡していた。

加納の曲が終わりかけた時、刑事たちがコンサート会場に現れると、阿部に逮捕状を見せる。

刑事たちと一緒に、外に向う阿部の姿を舞台上から目撃した加納は、即興で、「葬送行進曲」を演奏しはじめる。

パトカーに乗って連行される阿部は、急に後部座席の方を振り向くと、スクリーンを観ている観客に向い、こんな事は私だけの特別な事、皆さんには関係ない、さようなら…と挨拶をする。

霧に煙る道路の奥に消えて行きパトカー。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

金と名声はあるが、女運のない芸術家が堕ちて行く転落の過程をユーモラスに描いたサスペンス悲喜劇。

脚本の小国英雄は、心から女性不信なのではないかと疑ってしまう程、この映画を観ると、とことん女性が信用できなくなる…と言うか、怖くなる。

最初の妻を演じている万里昌代は、ほんの数カットで画面から姿を消してしまう程、軽い扱いだが、この辺は、新東宝から移って来た外様女優の悲哀だろうか。

あまり見慣れぬ女優で新鮮だったのは、奔放な田舎娘を演じている明星雅子と言う人。

確かに、コケティッシュな愛くるしさを持っている。

一見おしとやかな外見の藤村志保が見せる悪女振りも珍しい。

フランキーの無二の友人役を演じている船越英二は、この頃まだ、端正な二枚目的存在である。

冒頭から終始、無表情で怪しげな存在感を見せてくれる岸田今日子も、この当時はまだ本当に若くて瑞々しい。