1956年、宝塚映画、館直志「お婆さんは留守」原作、中川順夫脚本、青柳信雄監督作品。
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とある日曜日、今年70才になる父、広江平五郎(柳家金語楼)が、家を出たまま7、8ヶ月も帰って来ない母やす(初音礼子)に「離縁状」を出すと言い出したので、同居している長男平一(沢村宗之助)とその妻みよ子(一の宮あつ子)の家に、次女さよ子(梓真弓)とその夫桝本(丘寵児)、六女しげ子(環三千世)とその夫高島(早川恭二)が集まって、何とか平五郎をなだめようとしている。
家を出た母は、12人も産んで、今や、北は北海道から南は九州福岡まで散らばっている子供たちの家を滞在して廻っているらしい。
結婚生活50年、母しか女を知らない平五郎は、話し相手がいなくなって寂しがっているんだろうと察しは付くが、母が家を出て帰らなくなった理由が良く分からない。
しかし、その後、不機嫌なまま平五郎が外出した頃、11時に羽田に付くと母からの電報が届いたので、平一らは一安心して、父を喜ばそうと、兄妹だけで黙って母を迎えに行く事にする。
そんな事は知らない平五郎は、路地で金魚すくいをやっていたが、そこに平一の娘で孫に当る光子(夏亜矢子)がやって来て、一緒に金魚をすくいはじめる。
光子は、同居している祖父が好きなのだ。
一方、羽田空港で待っていた平一、さよ子、しげ子らは、札幌から到着した飛行機から降りて来た母を迎えていたが、あろう事か、その母は、そのまま出発間近だった福岡行きの飛行機に乗り換えて飛び立ってしまう。最初から家に帰って来るつもりではなかったのだ。
広江家では、弟宏(秋山由紀雄)が弾くアコーディオンに合わせ、光子が陽気に唄っていたが、母みよ子が、祖父の機嫌が悪いので静かにするように注意しながら、三河屋に買い物に行くよう言い付けるのだった。
その頃、庭にいた平五郎の元に、植木屋の植芳(寺島雄作)が、かねてより頼まれていた女中として、親類から紹介されたこの娘を置いてくれないかと若い娘を連れて来る。
福島から来たと言うその娘は、お松(宮城まり子)と名乗ると、平五郎の事を、今年68になる自分の父親そっくりだと喜び、生来の明るい性格なのか、いきなりその場で会津磐梯山を唄いはじめる始末。
そこで、ようやくみよ子らに知られる事になる。
その頃、宏から、父親祖母を迎えに羽田に行っていると聞かされた光子は、すぐさまその情報を、離れにいた平五郎に教えに行くと、ちゃっかり情報料として千円せしめてしまう。
しかし、ようやく妻が帰って来る事を知った平五郎は、とたんに機嫌が直ってしまうのだった。
台所にいたみよ子は、勝手口からこっそり帰って来た平一から、母が福岡の平三郎の所に直行してしまったと聞かされる。
すっかり、暗い気持ちになり茶の間で対座していた息子夫婦の元にやって来た平五郎は、光子からの情報を聞いているのでニコニコ顔。
それとなく、そろそろ妻が帰って来るような気がすると水を向けてみた平五郎だったが、平一から事情を聞かされると、一転、又、機嫌が悪くなり、庭先の鉢植えの万年青(おもと)を引っこ抜いて離れに戻ると、離縁状を書きはじめるが、怒りで筆が思うように進まない。
その場にいた光子は、自分が情報を洩らして小遣いをせしめた事など知らぬ顔で、人間、頭が禿げたらお終いねなどと祖父の事をからかうが、父親の平一も禿げているのでシャレにならない。
夕食時になっても、茶の間にやって来ない祖父を心配したみよ子は、お松にさくらんぼを離れまで持って行ってやるように頼む。
機嫌が悪い平五郎を心配したお松は、自ら肩を揉んでやりながら、やすとの仲たがいの原因に付いて聞くが、そんな親身な態度にほだされたのか、他人であると言う気軽さがあったのか、これまで身内にも話した事がない秘密を平五郎は話しはじめる。
それによると、ある日、自分は今までやすしか女を知らないで、来年、金婚式を迎えるまで連れ添って来たが、死に土産として、一度くらいは若い女と浮気がしてみたいと、やすの前で本音とも冗談共つかない言葉を言った所、それを聞いたやすがいきなり怒リだし、これから仙台に行くと言い、家を飛び出して行ったかと思うと、その後、青森、札幌と、子供達の家を廻り続け、もう8ヶ月も戻らなくなったと言うのだ。
連絡と言えば、「浮気、まだできぬか?」と言う電報が来たくらいで、後は音沙汰すらないと平五郎は打ち明ける。
それを聞いていたお松は、自分の父親も、三ヶ月程前、若い女に惚れた事があって、その途端、母親の父親に対する態度が変ったと教える。
すると、平五郎は、いっその事、お前と浮気をしていると言う芝居を始めないかと誘う。
それを廻りが知れば、妻の耳にも届き、慌てて戻って来るに違いないと言う。
お松は本気になられては困るので…と、すぐさま断わるが、今年70になる自分が本当に惚れる心配はないからと、平五郎から二千円渡されると、最後は渋々承知してしまうのだった。
さっそく、翌日、お松を連れて散歩に出て来た平五郎は、三河屋の小憎(土屋靖雄)が自転車で近づいて来たのを知ると、寺の中にお松を連れ込み、わざとらしく植え込みの影に隠れてみせる。
それを観ていた三河屋は、すぐさま、みよ子に告げ口に行くが、みよ子は全く信用しない。
焦れた三河屋は、それなら今度、写真に撮って来てみせると言って帰るのだった。
その後、さよ子から平吉に電話が入り、福岡から母の手紙が来て、それに、平五郎と喧嘩別れした次第が事細かに書かれてあると言うので、その場で読ませてみる事にする。
しかし、さよ子が電話口で読みあげる手紙の内容を聞いていた通行人たちが、内容のおかしさに笑いはじめてしまったので、さよ子は恥ずかしくなって、途中で電話を切ってしまうのだった。
離れでお松と二人きりでいた平五郎は、何か欲しいものはないかと聞くが、ワンピースも買ってもらったお松は、もう何もいらないと遠慮する。
そこへ、裏口からカメラを持った三河屋がこっそり侵入して来たので、気付いた平五郎は、いきなりお松の足を掴むと、指の爪を切ってやると言い出す。
三河屋が、自分達の様子を写真を撮りはじめた事を知った平五郎は、わざと見せつけるように、お松の足の指に口づけをするのだった。
その夜、平一が、さよ子から聞かされた両親の喧嘩の原因を聞かせると、みよ子は、三河屋から聞き込んでいた、義父とお松との浮気話を打ち明ける。
平一は、いくら何でも、70才の父親と19の娘の浮気などあり得ないだろうと打ち消すが、心配になったのか、その事を福岡の母親に手紙で知らせると、喫茶店に呼出したさよ子としげ子にも打ち明けるのだった。
その話を聞かされたさよ子は、すぐさま二人を別れさせなければと息巻くが、しげ子の方は、ロマンチックな話と受けとめている様子。
福岡の平三郎の家にいたやすは、平一からの速達を受取り中身を読むと、いきり立ち、すぐさま帰るので飛行機の切符を取るように平三郎に命ずるのだった。
翌日、平一の家に集まったさよ子、しげ子たちの前に、三河屋が、自分が盗撮した写真を披露していた。
もう父の浮気は確かだと信じ込んだ兄妹たちは、後3時間で母親が戻って来る事もあり、二人の仲を終わらせる算段をし始めるが、しげ子だけは、この恋は成熟させてやりたかったと洩らす。
そこへ、お松を連れた平五郎が外から戻って来て、みよ子に離れに、生卵を三つ持って来てくれと頼んで立ち去る。
いよいよ生臭い話になって来たと呆れたさよ子は、自ら生卵を離れに持って行くと、何のためにこんなものが必要なのかと、父親に問いただすのだった。
しかし、平五郎は、卵の殻をおもとの肥料としてやるだけだと言い、中身はその場で、お松の口の中に流し込んでしまう。
やすが今日帰って来ると言う電報を見せられた平五郎は、作戦成功とばかり喜び、子供達が待つ部屋に行くと、実はお松との事は芝居だったのだとばらしてしまう。
しかし、その頃、離れに残っていたお松は、一人で荷物をまとめていた。
離れに戻って来て、その様子を観た平五郎が、何をしているのかと尋ねると、そろそろ奥さんが戻って来るので、自分はお暇を頂きたいと言う。実は、自分は本当に平五郎の事が好きになってしまったのだと言う。
その頃、玄関口には、やすが戻って来ていたが、ここへ、平五郎と松を連れて来ない限り、家には上がらないと、出迎えた息子たちに宣言する。
離れでは、足の爪を切ってもらった時にかけられた優しい言葉を、自分は本当の言葉として受け止めたいと泣き出したお松の言葉を聞いていた平五郎が感激していた。
玄関口の平一たちは、父親の浮気は芝居だった事が分かったのだと母親に説明していたが、やすは、どうしても二人をここに連れて来いと譲らない。
離れでは、お松から、自分の涙を拭いたハンカチをもらった平五郎が、その代わりにと、自分が世話していたおもとの鉢を一つプレゼントしていた。
それを受取ったお松は、独り、裏口から外に出て行く。
それを見送りながら、平五郎も別れを惜しんで泣いていた。
お松は、駅に向う道を、独り寂しく去って行くのだった。
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いわゆる「ホームコメディ」を描いた、上映時間52分と言う中編作品。
今となってはどうと言う事のない、昔のぬるいコメディと言うしかなく、笑いもペーソスも古びている。
最後に、金語楼お馴染みの百面相と言うか、顔をくしゃくしゃさせるパフォーマンスのアップがあるのが珍しいくらいだろうか。
昔のテレビドラマレベルと言った感じもする。
宮城まり子が唄う素朴な歌声も、今となっては貴重かも知れない。
