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ゲンと不動明王

1961年、東宝、宮口しづゑ原作、井手俊郎+松山善三脚色、稲垣浩監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

レリーフ風のタイトル文字

木曽にあるとある小さな村では、雨漏りの修理のため、藁葺き屋根を修繕している。

それを下から見つめる子供たち。

ゲン(小柳徹)とイズミ(坂部尚子)の兄妹も、外で屋根修理を見つめていた。

地主の大辻(香川良介)の家の中では、村の衆たちが集まり相談事をしていた。

寺の鐘が落ちたので、修理しなければならないだろうと云う相談だった。

しかし、元々、昭和23年、地主が裏山を売って、200万もかけて建立した鐘突き堂だっただけに、今回の修理費も3万くらいかかるとあっては、その金の捻出をどうしようかと言うのが問題だった。

話に加わっていた清閑寺の住職(千秋実)は、寺には一文もないと言う。

寺には、12640円あったはずでは?と云う村人からの質問に、その金があったのは今年の2月の事で、二人の子供を養うために、月2000円はかかるし、先月はお弔が二つもあっただけだと言う。

寺の横に畑はあるが、とても住職と子育てと畑仕事は一緒に出来ないと村人たちも理解する。

その時、地主の母親(音羽久米子)が、嫁をもらう事だと言い出す。

そうすれば、畑仕事も育児も助けてもらえるようになると言うのだ。

しかし、それを聞いていた小林(小杉義男)は、坊さんが再婚するのはどうかと難色を示す。

なら、妾を持つのは良いのかなどと、誰かが混ぜっ返したので、やはり、再婚させるのが良いだろうと云う事で話しがまとまる。

そんな事は知らない、イズミとゲンは、近くの小川で鯉を捕って遊んでいた。

そこに乗り合いバスが通ったので、ゲンは捕った鯉を運転手の方に見せびらかす。

焼酎屋の前に乗り合いバスが停まり、運転手の原竹夫(夏木陽介)が降りて来て、水を飲みながら、娘の光子(浜美枝)に、以前自分が逃がした鯉を、ゲンが捕まえたと話すが、バスの乗客たちは、いつも竹夫が、この焼酎屋の前に来ては、水を飲むとの口実で、長々と光子と話している事を知っているので、すぐにクラクションを鳴らして竹夫を呼び戻すのだった。

ゲンは、イズミの前で、突然、按摩のまねをし始め、イズミが持っている飴を嘗めなければ目が見えなくなってしまうなどとふざけていた。

清閑寺に戻って来た兄妹は、仏様にお供えしてあるお菓子を見つけたので、それを盗み食いしはじめる。

少しお経が読めるゲンは、仏様の前で、お経を少し読んでお菓子を一つ取り、お経が読めないイズミは、「一つ頂戴な」と仏様にお願いして、同じようにお菓子を一つ取る。

何度か同じ事を繰り返している所を、帰って来た父親の住職に見つかり、二人はこんこんと叱られるのだった。

その頃、久遠寺の住職(笠智衆)が、隣村から清閑寺に向かっており、途中の峠の茶屋で、婆さん(飯田蝶子)から茶をもらいながら休憩していた。

久遠寺の住職が清閑寺に行く目的は、中津の農業組合の娘で今年32の出戻り女を嫁がせに行くのだと言う。

その女は、女の子は良いが、男の子は、なくした自分の子供を思い出すので嫌だと言っていると言う。

その頃、ゲンは、墓場の土の中に埋めていた宝の箱を取り出し、その中から、お気に入りの武者の顔が浮き彫りになったメンチ(泥メンコ)を取り出して喜んでいた。

そんな中、久遠寺の住職は清閑寺にたどり着いていた。

そのお土産を目撃したイズミは、兄のゲンを呼びに来る。

二人は、こっそり久遠寺の住職と父親が座って話をしている所を覗き込むが、オッチャン(父親の事)が挨拶をしろと云うので、久遠寺の背後に廻り頭を下げる。

オッチャンは、今晩は味めしでも作ろうと言い出し、二人の子供に鯖缶を買いに行かせる。

雑貨屋の「すずめ屋」に行ったゲンとイズミは、鯖缶を買うが、そんなゲンに、おばさん(東郷晴子)は、ゲンさ、アララギ村の雑貨屋にもらわれると聞いたが本当か?と聞いて来たので、何も知らなかったゲンは否定し、小母さんの嘘つき!コンコンチキなどと悪口を言いながら帰る。

その夜、布団に入ったイズミは、久遠寺の住職がお土産をくれなかったねなどと現に話しかけ、宝の箱の中のもの一つ頂戴とねだるが、ゲンは絶対やれんと断っていた。

翌朝、ゲンは、オッチャンと久遠寺の住職と共に、読経をする。

その後、オッチャンがゲンに話があると云い出し、久遠寺の住職は席を外す。

かいがいしく朝食の準備をしていたイズミに会った久遠寺の住職は、兄ちゃん好きかと聞く。

イズミが好きと答えると、兄ちゃん好きなら会いに来るが良いと言うので、イズミは、兄ちゃんどっかに行くの?と問いかけるが、久遠寺の住職は答えない。

その頃、オッチャンは、久遠寺の住職が土産として持って来た学生服や野球帽、靴やバッグをゲンに手渡していた。

うれしくなったゲンは、イズミを呼び、その姿を見せる。

イズミは、無邪気に、久遠寺様のお土産?と聞く。

そんなイズミを墓の所に連れて行くと、土の下から宝の箱を取り出し、その中のものを全部やると云い出す。

ただ一つ、武者顔の付いたメンチだけは自分が持ったゲンは、オラはアララギ村に行く。家は貧乏だから…。あちらには自転車もあって、それにも乗れるんだと伝える。

イズミは自分も行くと言うが、久遠寺様がイズミはダメだって言ってたと言うと、イズミは泣き出してしまう。

やがて、ゲンは、久遠寺の住職に付いて寺を後にする。

イズミは、兄ちゃん、帰って来いと見送りながらも、泣き始めたので、オッチャンが抱いて寺の中に連れて行く。

すずめ屋の前を通り過ぎて行くゲンと住職を見つけたおばさんが、ゲンさ、やっぱり行くか?と問いかけると、ゲンは舌を出して行く。

焼酎屋の前では、光子が見送ってくれる。

「あららぎ村へ16km」「中津村へ8km」と書かれた道標の所にたどり着いたゲンは、トンボを見つけ捕まえようとするが、久遠寺の住職は、うちに着けば、そんなトンボなんていくらでもいるとせかす。

そこに、バスが通りかかり、運転手の竹夫もゲンに手を振って別れを付ける。

ようやく着いた峠の茶屋で、ゲンは腹一杯食べながら、イズミにも食べさせてやりたいと呟く。

焼酎屋の前では、又、水を飲みに降りた竹夫が、光子と無駄話をし始めたので、乗客たちは、早くあの二人を一緒にしてやらなければと呆れていた。

アララギ村に着いた住職とゲンは、雑貨屋「大妻商店」の女将かね(高橋とよ)に挨拶をする。

住職が久遠寺に帰ると、一人になったゲンは、かねから、これから毎朝6時に起きたら、雨戸を開けて、ぞうきんがけや掃き掃除を終え朝食。おばさんは神経痛で足が痛いので、お客さんが来たらあんたが出て対応しろ。品物の値段は全部ついているから判るはずと説明する。

その間ずっと正座をしていたゲンは、足がしびれてしまう。

夕食は、ごはんは食べ放題だったが、おかずは一品だけだと言われる。

ゲンは、一人だけ、魚を食べている金を恨めし気に見るしかなかった。

夜は、風呂上がりのかねの背中を叩かされたり、足の裏を踏まされた後、ようやく就寝を許される。

ゲンは、廊下のぞうきん掛けをしていたが、バケツの水で雑巾を絞ろうとした時、誤ってバケツの水をズボンに浴びせかけてしまう。

しかし、それは夢だった。

ゲンはオネショをしてしまったのだ。

かねは濡れた布団を干しながら嫌な顔をする。

ばつが悪くなったゲンは、久遠寺に行ってみるが、住職は清閑寺に行っていると奥さんが教えてくれた。

ゲンが何も知らないと知った奥さんは、オッチャンがおそのさんと云うお嫁さんをもらうのだと言うではないか。

ゲンは複雑な気持になるが、寺の中の祠の中を覗いて観る。

するとそこに、不動明王の座像が安置してあったので、ゲンはいっぺんに気に入ってしまう。

泥メンチの武者顔と、不動明王の顔がだぶったのだ。

大妻商店に帰ったゲンは、自分の荷物の中から、あの泥メンチを取り出して、しげしげと眺める。

久遠寺では、近所の女衆が集まって結婚式の準備が始まっており、母さんが来るぞと教えられたイズミは、意味が良く分からず寺の中をうろついていた。

手伝いに来ていたすずめ屋のおばさんなどは、そんなイズミの姿を見て、子供なんて猫と同じ、ただ可愛がってやってれば良い。何も知らない方が良いのだなどと話していた。

やがて、雨の中、バスから花嫁姿の女が村に降り立つ。

おっちゃんの嫁になるおその(乙羽信子)だった。

いずみは、初めて見る母さんの顔を良く見ようと、出迎えた村人の中から前に出ると、ずっと家まで着いて行く。

披露宴では、焼酎屋のおばさん(千石規子)が唄を披露したりするが、イズミは身の置き所がなく、ただ寺の中をくるくる逃げ回っていた。

結婚後、オッチャンは毎日働き始める。

一方、アララギ村の「大妻商店」にやって来た久遠寺の住職は、一人留守番をしていたゲンに、頼まれ事をしてくれと言われていた。

それは、小僧さんとして、檀家廻りの時の木魚叩きの付き添い役をする事だった。

ゲンが木魚を叩いていると、そこの家の幼女が、興味深そうにゲンをガラス戸の向こう側から覗き、顔をしかめて来たので、最初は愛想笑いで見ていたゲンの方もびっくりしてしまう。

嫁に来たおそのは、毎日兄弟の側に座っているだけで働こうともせず、イズミの髪をとかしてやったりするだけだったので、帰って来たオッチャンは、少しは畑仕事とか手伝ってくれと文句を言う。

畑に出て鍬を振るい出したオッチャンは、農作業用のかるさん(山袴)も履かないで着いて来たおそのに、又文句を言う。

すっかりふて腐れたおそのは、イズミがかるさんを持って来てやっても、見向きもしないで寺の中に帰ってしまう。

ある日ゲンが又久遠寺の祠の所に行くと、突如、不動明王(三船敏郎)が目の前に出現し、ゲン、お前はわしが好きか?と聞いて来る。

好きだと答えると、なぜ好きかと聞いて来たので、強そうだからと答える。

すると、不動明王は、良し、お前を強くしてやろう。付いて来いと言って、霧の中の不思議な場所に連れて来ると、剣を一本投げ与え、それで、わしに向かって来いと言うではないか。

ゲンは、その剣を握って、不動明王に立ち向かうが、不動明王はとても強くまるで歯が立たなかった。

すっかりチャンバラごっこに夢中になったゲンは、棒を拾って、チャンバラのまねをしながら「大妻商店」に戻って来るが、調子にの乗り過ぎ、店の看板をたたき落としてしまったので、かねから怒鳴りつけられる。

ゲンは、地元の小学校に通う事になる。

女の担任から、森山ゲンくんですと紹介されると、男の子たちは、寺の子坊主だとささやきあう。

清閑寺の方では、嫁に来たおそのが、私は寺の嫁に来たのであって、百姓をしに来たのではない。寺の暮らしとはもっと楽なものだと思っていたんだとオッチャンに文句を言っていた。

オッチャンは、こんな村では供養料も100円、200円くらいのものだし、国宝級の仏でもあれば見物客も来るかも知れんがそんなものもない。賽銭箱は一円玉ばかり、そんな事で暮らして行けるはずがないと説明するが、おそのはこんな所に嫁に来なければ良かったと言い残して奥に消えてしまう。

ある日、ゲンが子犬を拾って大妻商店に戻って来ると、かねは、自分は毛の生えた動物など大嫌いなので、そんなもの捨てて来いと叱りつける。

ゲンは、自分の部屋で、泥メンチを眺めながら、不動明王の事を思い出すのだった。

清閑寺では、オッチャンが鐘をついていると、イズミが近づいて来て、兄ちゃんに聞こえるズラ?と聞いて来る。

ゲンは、ポチと名付けた子犬を、自分の部屋の押し入れの中で買う事にする。

夜中こっそり、おひつのご飯を手で取ると、それをポチに食べさせてやるのだった。

しかし、小学校では、いまだに友達も出来ず、ゲンはいつも一人ぽっちだった。

運動場でみんなが楽しそうに遊んでいるときも、木の下でぽつんと立ち尽くしていたゲンだったが、ふと木の上を見上げると、そこに大きな蜂の巣が出来ている事に気づく。

大妻商店では、帰って来たかねが、ゲンの部屋に落ちている糞を発見していた。

学校では、ゲンがクラスの男の子たちに囲まれ、木魚をポクポク叩くまねをされからかられたので、怒ったゲンは、つかみ掛かって喧嘩になる。

顔に傷をつけて帰って来たゲンは、押し入れの中にポチがいない事に気づく。

かねが、捨てて来たと言うので、驚いて家を飛び出してポチを探したゲンだったが、もうポチは見つからなかった。

かねは、そんなゲンの事を、なんて強情な子なんだろうと客に愚痴をこぼしていた。

すると、そこにゲンが戻って来て、小母さんは毛の生えた動物は嫌いだと言ってたねと言う。

かねがその通りだと答えると、じゃあ、毛のないこれはどう?と言いながら、隠し持って来た蛇を投げつけたので、かねも客も逃げ惑う。

ゲンは縛られ、部屋に閉じ込められてしまっていた。

事情を聞いた久遠寺の住職が訪ねて、悪い事をしたらどんどん叱ってくれと言うと、かねは、わしゃ、人が良いので叱る事が出来んなどといけしゃあしゃあと答える。

縛られていたゲンがもがいていると、またもや不動明王が出現して、泣き虫、弱虫、そんな事でなく奴があるか!わしが教えてやった忍法を忘れたかと云うので、ゲンが力を込めると、縛られていた紐がほどける。

その後、久遠寺に帰って来た住職は、慌てふためいた奥さんから、不動明王がなくなったと聞かされる。

盗まれたと云うのだった。

慌てて、駐在所に駆けつけた久遠寺の住職の話は、尾ひれがついて村中に広がる。

祠の中を確認していた警官は、そこに置いてあった泥メンチを見つける。

小学校の運動場、いつものように、木の下でゲンが一人ぽっちで立っていると、転がったボールを拾いに来た悪童たちがまたもやからかい始める。

しかし、今日のゲンは、怒りもせず、オラには不動明王が付いている。忍術だって知っていると自慢し始めたので、じゃあ、あの蜂の巣が取れるかと、悪童たちから挑戦されてしまう。

出来る!刺されても小便塗れば良いと言い、木に登ったゲンは、蜂がたくさんたかっている蜂の巣をたたき落としたため、蜂に襲われ、木から落ちてしまう。

顔中腫れ上がり、保健室に寝かされたゲンを迎えに、久遠寺の住職とかねがやってくるが、かねはもう、この子を預れないと言い出す。

住職は「大妻商店」に戻ったゲンに、明日、清閑寺に帰ると告げに来る。

そして、荷物をまとめさそうと、押し入れを開けた住職は、そこになくなった不動明王が置いてある事に気づき、驚いて合掌する。

翌日、住職に連れられ清閑寺へ戻る途中、峠の茶屋で飯を食うゲンに、住職は、清閑寺は以前と変わっとるぞ。母さんが来とるぞと言い聞かせる。

母さんてどんな人?と聞くゲンに、住職は困ったように、母さんやがな、お前の…と行って聞かせる。

清閑寺では、イズミが戻って来たゲンを見つけると、寺の中にいたオッチャンとおそのを呼ぶ。

出て来たおそのの姿を見たゲンは、なぜか泣き出すのだった。

その夜、イズミは又一緒に寝る事になったゲンとあれこれ語りたがるが、ゲンの方はうるさがっていた。

ゲンは、おそのの事を「お大黒様」と呼ぶと言い張る。

そんなゲンに、イズミは、仏様を盗んだって本当?とか、木から落ちたって本当?などと、好奇心丸出しで聞いて来るが、そんなことを誰にも言わないと約束したら、一緒に寝てやるとゲンに言われ、素直に指切りげんまんする。

翌日から、ゲンはオッチャンに付いて、托鉢に歩く。

途中、級友たちに出会って喜んだゲンだったが、なぜか、彼らは、ゲンが木から落ちた事を知っていた。

実は、イズミが指切りげんまんをしながら、村中に言いふらしていたのだった。

その日も、焼酎屋の光子とげんまんをしたイズミは、ゲンが木から落ちた事をそっと耳打ちするのだった。

寺の庭先で洗濯をしていたおそのは、ゲンのシャツのポケットの中に入っていた泥メンチを見つけると、汚いものを見つけたように捨ててしまう。

近くに住むきりさ(菅井きん)が、それを見て、子供と云うものはしようのないものを拾って来ると呆れる。

おそのは、きりさ相手に、毎日畑仕事ばかりさせられている。こんな所に嫁に来なければ良かったと愚痴をこぼす。

その頃、ゲンは、泥メンチが見つからないので必死に探していた。

イズミの持ち物まで調べていたので、イズミがつかみ掛かって行くが、ゲンは、イズミなんか嫌いだ。オラが木から落ちた事を言いふらしたろうと怒り、おそのに対しては、オラのメンチどこにやった!返せ!返せ!と迫る。

おそのは、そんなもの捨ててしまったと言い、それを見ていたオッチャンは、聞き分けのないゲンにビンタをする。

部屋に戻ったゲンは、イズミに、母親の事をお大黒様と言えと迫り、イズミは仕方なく、小さな声で言うが、ゲンの気持は収まらなかった。

翌朝、おそのの姿は消えていた。

おっちゃんは、ゲンとイズミを起こして、おそのを探しに行かせるが、きりさも音爺(左卜全)も知らなかった。

すずめ屋のおばさんに聞きに行ったイズミは、焼酎屋の姉ちゃんが、町に行ったと言うとったと言う。

おそのがいなくなったので、イズミは、ゲンが「お大黒様」などと言ったから、怒って帰ったんだと喧嘩になる。

オッチャンは、面目なさそうに、村人におそのがいなくなったので、中津の親戚に、静六さんに行ってもらったと報告していた。

やがて、半年が経ち、村に雪が振る季節になる。

イズミは、母さん、いつ帰って来る?正月には帰って来るかの?などと言い、ゲンに、雪がやんだら、母さん迎えに行ってくれと頼む。

ゲンは、母さんに葉書を書こうと言い出し、オッチャンからはがきをもらって来いとイズミに言う。

イズミからその事を聞いたオッチャンは、ゲン自ら言い出した事を喜ぶと、葉書の上書きを書いて渡してやる。

いずみは、焼酎屋の前の郵便入れにはがきを投函する。

その焼酎屋の中では、いつものように、バスの運転手の竹夫が、光子と一緒に茶を飲んでいたが、外に停まっていたバスを見たイズミは、このバスに乗ったら、母さんの所へ行ける?とゲンに来ていた。

ゲンは、乗った事はないが、高い。これに乗るには銭がいるけど、うちには銭がないのだと教える。

イズミは、銭が欲しいのうとため息をつく。

ある日、ゲンとオッチャンは、池で釣りをしていた。

ゲンは、葉書は届いたかなと聞き、オッチャンは、もう届いて呼んどるよと答える。

帰って来るかな?とゲンが聞くので、お前は母さんが嫌いじゃったじゃないかとオッチャンが言うと、好きでも嫌いでもないとゲンは答える。

一人の老婆が通りかかり、坊さんの癖に殺生ばかりしておると冗談を言い、ゲンはオラはまだ坊さんじゃないと言うので、坊さんは嫌いか?と老婆が聞くと、又、好きでも嫌いでもないとゲンは答える。

その頃、中津の実家に戻っていたおそのは、亡くなった息子の供養に来てくれた小憎さんに年を尋ね、13の中学生だと聞くと、亡くなった息子と同じ年だと合掌する。

その時、母親が葉書が届いたと持って来る。

大晦日の晩、清閑寺の鐘突き堂の前に集まった村人たちは、音爺の付く除夜の鐘を聞きながら焚き火に当っていた。

一緒に焼酎を飲んでいた光子と竹夫が鐘を突くと言い出す。

二人で鐘を突きながら、竹夫は、俺と結婚してくれ、俺、みっちゃんが好きなんだとプロポーズをするが、光子は給料が上がったらねとはぐらかす。

竹夫はむきになり、600円上がって1万2300円になったと反論すると、月給袋は全部渡す事、結婚しても、私の事をみっちゃんと呼ぶ事、毎日キスをする事などと光子は条件を突きつけて来るが、竹夫は全部承知するのだった。

そんな二人の様子を見ていた徳平(谷晃)が、景気付けに木曽節を歌い出そうとするが、すぐに若者たちが歌う「蛍の光」の合唱に打ち消されてしまう。

正月になり、村でも獅子舞が出たり、音爺が三番叟などを踊って、見物人たちが見ていた。

そんな中、ゲンとイズミは相撲を取っていたが、バスが通ったのを見たイズミは、母さん、いつになったら帰って来るら?と又聞く。

ゲンが行ってみようか?と言い出したので、イズミは、銭あるら?と聞く。

足があるから歩いて行こうとゲンが言うと、イズミも行くと言い出す。

二人は手を繋いで、中津までの道をとぼとぼと歩き始めるが、やがて、イズミは腹減ったと言い出す。

その頃、オッチャンは二人の子供がなかなか帰って来ない事を心配し、あちこちに聞き行く。

ゲンは、歩けなくなったイズミを背負って、中津の町を目指していた。

ようやく峠にたどり着いたイズミは、町に来た!と目を輝かせる。

眼下には、町が広がっていた。

ゲンも、母さんの町だ!と喜ぶ。

しかし、中津に着いた二人は、おそのの家を探し当てる事が出来なかった。

詳しい住所を知らないため、誰に聞いても、おそのの家を知っている大人がいないのだ。

呆れた大人(佐野豊)が、「中津だけでは判らんぞ。お前らどこから来たんだ」と聞くが、何も答えられない二人は町をとぼとぼ歩くだけだった。

うどん屋の前に来たイズミは、又、腹が減ったと言い出し、とうとう泣き出してしまう。

そんな二人に気づいたのは、ちょうど通りかかった竹夫だった。

竹夫に声をかけられた二人は、わっと竹夫の身体に泣きつく。

その後、二人は、竹夫の運転するバスに乗せられ村に帰って来る。

二人とも、初めて乗ったバスに大喜びだった。

焼酎屋に到着すると、そこに、オッチャンはじめ、心配した村人たちが集まっていた。

子供が、母親に会いに2里の道を歩いて中津まで行っていたと聞いたきりさは、明日、わしが連れて行ってやると言うが、オッチャンは、実はおそのは、明日帰って来よると打ち明ける。

清閑寺では、久遠寺の住職が待ち構えていた。

いずみは住職の来訪を喜び、母さんが帰って来るとおおはしゃぎ。

兄ちゃん、うれしいかとイズミが聞くと、ゲンは素直に頷く。

オッチャンもうれしいかとイズミが聞くと、オッチャンは照れくさそうな顔をしたので、それを見た久遠寺の住職が笑う。

久遠寺の住職は、ゲンに、お前は不動明王が好きかと聞いて来る。

好きだと聞くと、明日から毎日観られる。お前は久遠寺に来るんだと言い聞かす。

それを聞いたゲンは、オラ行かんぞ!絶対に行かんぞ!と拒否し、泣き出す。

イズミは、そんなゲンに近づき、明日母ちゃん帰って来るのに、どうして行くのか?とすがりついて来たので、ゲンが邪険にすると、兄ちゃん、イズミの事嫌いか?と聞いて来る。

ゲンが、嫌いだ!大嫌いだ!と言うと、イズミ、兄ちゃんに、何も悪い事してないのに…と言いながら、イズミも泣いてしまう。

一人になったゲンが、部屋ででんぐり返しになり泣いていると、突如、不動明王が出現する。

不動明王は、お前はいつからそんな弱虫になった?世の中にはお前より不幸せな子供はいっぱいいる。貧乏が何だ!一人ぽっちが何だ!と叱る。

そして、不動明王は、紐にゲンを捕まらせると、雲に乗って空に飛び上がる。

ゲンは、身体に紐を巻き付け、雲からぶら下がって下界の様子を観る。

不動明王は、「見ろ!この広い世の中には、お父さんも兄弟もいない可哀想な子供がいる。でも彼らは泣いていない。あの子を見ろ!元気にパンを焼いているではないか」と、パン屋で職人修行をしている子供の姿を見せる。

「あの子は日本で一番貧乏な子だ」と不動明王が示したのは、街頭で花売りをしている少女だった。

「あの子は、生まれたときから父さんも母さんもいなかった。駅のベンチに捨てられていたのだ」と指す少年は、そば屋の出前をしていた。

「あの子は、金持ちの娘だが、お前のような丈夫な身体がない」と見せた少女は、病院に入院して呼吸器をはめていた。

翌朝目覚めたゲンは、隣りで寝ていたイズミを起こすと、今日、オラは久遠寺に行く。アララギ村に行くぜ。オラ、もう泣かんぞ!昨日、空を飛んだんだと告げる。

それを聞いたイズミは、今度空を飛ぶ時には、イズミも連れて行ってとねだる。

ゲンは、イズミは母さんに連れて行ってもらえと答える。

朝の読経を終えた久遠寺の住職に付いて、ゲンは清閑寺を後にする。

それを見送るイズミは、兄ちゃん、休みになったら帰って来るらと声をかける。

ゲンは、焼酎屋の前まで送ってくれとイズミに頼む。

ゲンたちがすずめ屋の前を通ると、又、すずめ屋の小母さんが、ゲンさ、悪い事、したらあかんよと声をかけるが、ゲンは又、舌を出してみせる。

焼酎屋の前でゲンと久遠寺の住職を見送ったイズミは、兄〜ち〜ゃん!と呼びかけ、おばさんが「御幣餅でも喰うか?」と誘う声も聞かず、寺に走って戻ると、鐘突き堂の鐘を突き始める。

その音に気づいたオッチャンが表に出て来て、今頃何をしとる?と聞くと、兄ちゃんに聞こえるズラとイズミが言うので、その気持を察し、そのまま突かせてやる事にする。

村中では、時ならぬ鐘の音に戸惑っていた。

ゲンと久遠寺の住職が歩いていると、バスとすれ違うが、そのバスには、子供らからもらったはがきをうれしそうに読みながら、村に帰って来るおそのが乗っていた。

同じバスに乗っていた乗客の一人(沢村いき雄)が、あの運転手、焼酎屋の娘を嫁にもらうんだと笑うと、もう一人の乗客も、あの気の強い娘をな〜…と感心したように答える。

ゲンが歩きながら、和尚さんはバスに乗った事あるか?と聞くと、和尚は、あんなものは乗らん、足があると言うので、オラ、昨日乗ったが、楽だったぞと自慢する。

久遠寺の住職は、明日からお勤めだが、お経を読みながら行くかと言い、ゲンと二人で、お経を唱えながら、アララギ村へと向かうのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

久しぶりに見直してみたが、なかなかの秀作である事を再確認した。

タイトル通り、ゲンの成長物語として観ると、案外凡庸と言うか、いかにも説教臭い内容に思えるのだが、妹のイズミの方に注目して観ていると、俄然、子供のいじらしさ、愛らしさが胸に迫る繊細な演出になっている事が判る。

イズミを演じているのは坂部尚子と云う、この当時の人気子役だったようで、同時代の他の東宝作品にも色々出ている。

妹の坂部紀子は、「ウルトラQ」の「悪魔っ子」の主役リリーで有名な子役。

新しい母親が来ると大人たちから聞かされ、おそのの嫁入りの日、雨の中、焼酎屋の前で傘をさして出迎える村人たちから飛び出し、興味深そうに、花嫁姿のおそのの様子をじっと見守りながら清閑寺まで付いて行く様子。

披露宴中も、部屋の外からこっそり覗き込み、廊下に佇んでいる所を、すずめ屋のおばさんに見つかり、一緒に宴会に入ろうと誘われても、恥ずかしがって抵抗する様子。

鏡台の前に座っているおそのに興味があるのか、のれんで顔を隠しながら、部屋の入り口の所でもじもじしている様子とか、最後、ゲンを見送った後、清閑寺に駈け戻り、鐘を突くいじらしさなど、リアルで可愛らしい姿が印象的である。

兄のゲンよりも妹のイズミの方の描写の方がリアルに見えるのは、やはり、原作者自身が女性であるからだろう。

どうしても、ゲンの描写は頭で想像しただけで、「典型的な男の子」の類型以上のものではなく、あまり強烈な存在感が感じられない。

これに対し、イズミの描写には「血が通っている」感じがする。

ゲンのキャラクターは、テーマを語らせる「建前」なのに対し、イズミの方は、作者自身の投影だからだと思う。

同じように、男であるオッチャンなども、どこかしら影が薄く、村のおばちゃんたちやおその、かねなどの方が、嫌な部分も含め「女の本音」で描かれている部分があり、それが逆に人物を生き生きとさせている。

ゲンとイズミが、なかなか帰らない母親に会うため、徒歩で隣町まで歩いて行く所など「となりのトトロ」そのままである。

子役、坂部尚子の代表作の一本だろう。