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吹けよ春風

1953年 脚本黒澤明&谷口千吉。
監督、谷口千吉作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

バックミラーに写る、すねる女性に手を焼く男客(小泉博)の姿。
やがて、小泉が女性を抱き締め強引に接吻すると、女性の態度は急変し「お腹が空いたわ」などと甘えた声。

呆れた様子で客を降ろしたタクシーの運転手(三船敏郎)の独白風のナレーションで物語が始まります。

マ−ティン・スコセッシの「タクシードライバー」か、手塚治虫の「ミッドナイト」を連想させるような人情ドラマ。

まず、子供が数人、三船の車に近づき、「自分達は生まれて一度も自動車なんか乗った事ないので、何とか溜めて作った100円で行ける所まで乗せてくれないか」と頼みます。

三船が承知すると、近くにいた他の子供達も走り寄って同乗し、車の中は20人くらいの子供でぎっしり!

銀座の目ぬき通りを子供達で溢れんばかりのタクシーが走ります。
交通整理の警官も、目を白黒。
しかし、メーターが120円の所で一旦、子供達を降ろしたものの、子供達が帰り道も分からない様子を見かねて、三船は帰りも子供達を全員無料で乗せて戻るのでした。

次のエピソードは、家出風の少女を乗せ、一旦は東京駅で降ろしたものの、気になってユーターン。
怪し気な男に連れて行かれそうになる娘をあわててタクシーに連れ戻ります。
あれこれ、なだめたりすかしたりしますが、娘は聞き入れず、夜の街に消えてしまいます。
タクシーの座席には、娘が忘れた手袋がちょこんと乗っています。

次は、うって変わって、日劇の前、大勢の女性ファンにもみくちゃのされながら、宝塚のスターらしきうら若き女性が三船のタクシーに近付きます。
彼女は人気スター淡路光(越路吹雪)、三船はそれを承知で彼女の息抜きの為、皇居の周囲をドライブ。
サインを頼んだ手帳に、三船自作の詩が書いてあるのをスターが発見、それがアメリカ映画「黄色いリボン」(1949)の主題歌の替え歌である事に気付き、スターは嫌がる三船を制しながら歌い出します。
いつしか、三船敏郎もデュエットで歌い始めます!(これは超珍しいシーン!)
その内、開演間近である事に気付き、二人は大慌てで日劇へ!

次は、早慶戦の帰りらしき、二人の酔っ払い(千秋実&藤原鎌足)。
すっかり御機嫌の千秋は、走っているタクシーの窓から屋根に登り、反対側の窓から車内に入り込むという危険な芸を披露。
最初はスピードを落とそうとしていた三船でしたが、何度も同じ行為を繰り返される内に、頭に来、脅かすために、逆にスピードを上げて走りつづけるのでした。
気が付いたら、千秋の姿が見えません。
あわてて車を止めた三船は、通り過ぎる救急車を見かけ、心配になり、元の道を戻ります。
しかし、千秋の姿は見えず、意を決した三船は、後ろ座席で寝ている藤原鎌足を起こして、警察に連絡しようと言い出した途端、後部座席の足元で寝ている千秋を発見。
ほっとするやら、頭に来るやら…。思わず笑い出してしまう三船でした。

次は、築地から鮮魚を土産に持った大坂弁の老夫婦。
東京で暮らす一人息子が亡くなったのを機会に、大阪から東京のアパートへ移り住んだものの、友達も生きがいもない彼ら夫婦には、その日が、結婚記念日だというのに生気がありません。
気まずい三船は、ガソリンスタンドで給油中、花を店からもらい、それを老夫婦にプレゼントします。
感激した妻は、三船を自宅アパートに誘うのでした。
夫婦で腕をふるい、料理をごちそうするだけではなく、三船相手に料理自慢をする夫の姿を見た妻は、叫びます。「おとうちゃん、大阪へ戻って、屋台でもええから、商売始めまひょ!身体動く限り働かにゃあかんのや!今、料理の話に目を輝かすあんたの姿見て悟ったわ」「女房、でかした!!」
二人は、三船の前で、人生の目標を再発見し、涙するのでした。

次は、横浜からの帰り道で拾ったオカマ風の男(三国連太郎)、料金をはずむ…という言葉に怪しみだした三船に、いきなり拳銃を突き付けます。
踏切で並んだ隣の車には運良く警官達が乗っていたのですが、知らせたくとも出来ません。

やがて、脇道へ誘導された三船は、決死の覚悟でスピードを出し、そのまま急スピン。
三国が気絶している間に、拳銃を取りあげ、警察へ電話を入れますが、その時にはもう犯人は逃げおうせていました。拳銃の指紋を消してしまったと、逆に警察でぼやかれる始末。

最後のエピソードは、復員兵(山村聡)とその妻らしき二人。
浮かない顔の男は、やがて、刑務所帰りの男と分かります。
復員兵姿は、子供達に、父親は戦争に行っていると話して聞かせていた妻の、苦肉の演出だったのです。
新しい家に連れて帰ろうとする妻に、男は、長い間会っていない子供達との再会の不安を告げるのでした。

やがて、タクシーは目指す一軒家へ。
しかし、山村はどうしても帰宅する決意がつかず、車を止めずに何度も家の周囲を迂回させるのでした。(山田洋次監督「幸福の黄色いハンカチ」に似ています)

とうとう、家に入った夫婦。(三船は、料金を大幅にまけてあげます)
2人の兄妹が、玄関先に現れた見知らぬ男に怪訝な顔つき。
山村はいたたまれず、家を出ようとしかけますが、3人目の一番小さな少女が出現、訳も分からず「お帰りなさい!」「だっこ!」と微笑みかけてきます。
それをきっかけに、他の2人も父親に抱きつくのでした。
三船は、二人が座席に忘れた荷物を持って、その様子を見、静かに玄関先に荷物を置いた後、そっと立ち去るのでした。

大ラスでは、街で止まった三船の車に、一人の少女が笑顔で走り寄ってきます。
それは、いつか乗せた、あの「家出少女」だったのです。
今は、母親と一緒に仲良くお買い物の様子。
いつかの御礼をしたいからと家に誘う娘に、三船は「え〜っと、何といったっけ…。そうそう、メリークリスマス!」と照れくさそうに言葉を残し、車を発射します。
それを追い掛ける娘の後ろ姿…。
空に浮かぶアドバルーンを写し、「終」マーク。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

 

日常スケッチ風と言うか、タクシーの運転手の眼から観た人間模様と言った内容で、派手さはないものの、ほのぼのとした気分に慣れる一作。