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わたしを深く埋めて

1963年、大映東京、ハロルド・Q・マルス原作、井上梅次脚本+監督作品。

この作品はミステリですので、後半、種明かしがありますが、最後まで詳細にストーリーを書いていますので、御注意下さい。コメントはページ下です。

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弁護士中部京介(田宮二郎)は、静養のため九州に半年ばかり籠っていたので、久々に戻って来た東京が懐かしくてたまらなくなり、つい、タクシーの後部座席から都会の夜景を物珍しそうに見ていた為、運転手(小山内淳)から海外住まいで初来日の人間かと勘違いされる。

事情を説明し、何か最近の東京で変わった事はないかと尋ねた中部は、別にないが、株が暴落したくらいですかね…と、運転手から教えられる。

自宅マンションに帰りついた中部は、部屋を開けようと鍵を出そうとするが、すでにドアの鍵は開いている様子。

怪んで中に入ると、ソファの向こう側から、酒の入ったグラスを持った女の手が伸びて蠢いている。

君は誰かと聞くと、ミッチーと名乗ったその女(浜田ゆう子)は、中部に自分が飲んでいたブランデーを勧めて来る。

しかし、中部は、スコッチ一本槍でブランデーは飲まないと断わると、 訳は全て承知していると言う様子で、ミッチ−が中部に抱きついて来ようとする。

良い匂いがするので、香水の名前を聞くと、「ディザスター(災難)」だと愉快そうに答えたミッチーは、あっという間に、中部に濃厚なキスをして来る。

そこへやって来たのが、家賃を取りに来た管理人。

彼は、とんだ場面に出くわし、泡を食ったように退散して行く。

さらに、勝手に隣のベッドルームに中部を連れて行こうとするミッチーに呆れた中部は、ベッドで早くも眠てしまった彼女のバッグの中から、自分の部屋の住所を書いた紙を見つけると、芥川のいたずらに違いないと憤慨し、馴染みの国際タクシーに電話を入れると、急いで一台廻してくれと依頼する。

そこへ、またまた来客を知らせるブザーが鳴りだしたので、出てみると、ぬれ場の写真を撮りに来た私立探偵と称する見知らぬ男(中田勉)とカメラマンの二人が、勝手に部屋に入り込もうとするではないか。

訳が分からない中部は、すぐさまその二人にもお引き取り願い、マンションの下にやって来たハイヤーに眠ったミッチーを抱えて行って乗せると、運転手(飛田喜佐夫)に、適当にその辺を廻って、起きたら家に送ってやってくれと、迷惑がる相手に強引に金を押し付けて立ち去らせる。

ようやく一段落つき、部屋のシャワールームでシャワーを浴びていると、又勝手に入って来たらしきヤクザ風の男から、ミッチーはどこだと凄まれる。

その女なら、今ハイヤーで帰したと説明し、部屋中を探してもいない事を知ったその男は、さっさと帰ってしまう。

あまりに意外な出来事の連続に参った中部は、睡眠薬を飲んでベッドに入る事する。

寝入って間もなく、中部は誰かに揺り起こされる。

目を開けると、見知らぬ男たちが数人、ベッドの周囲に立っているではないか。

睡眠薬のせいで、ぼーっとしていた中部は、武田警部(村上不二夫)と名乗った目の前に立っている男が、先程、ミッチーを乗せたハイヤーの運転手に、この男に間違いないかと、自分の顔を確認させているのを見る。

訳を聞くと、酔って寝ていたはずのミッチーが、ハイヤーの中で死んだのだと言う。

警察の尋問室に連れて来られた中部は、あの部屋は、芥川物産の御曹司で、今、離婚協議中の友人芥川に合鍵を貸して、自分が旅行中、自由に使わせていたのだと説明する。

その裏付けの意味もあり、武田警部を伴い、芥川の自宅に出向いた中部は、久々に美貌の千津夫人(若尾文子)と出会う。

そんな千津夫人に、単刀直入に、ミッチーと言う女を知らないかと聞き出そうとする武田。

しかし、千津が何も知らなそうなのを見ると、すぐにも帰ろうとするが、夕べ寝れなかったとこぼす中部に、では、うちで寝ていってくれと勧める千津を見て、では夕方5時に迎えに来るから、今夜は又付き合ってくれと中部に言い残すと、先に帰って行く。

庭に出て、千津と二人きりになった中部は、財産分与はすんだのかと尋ねる。

この屋敷と株で2000万円もらったと答える千津。

千津は、かねてより中部に気があったようで、芥川との結婚には最初から愛がなかったと告白する。

しかし、芥川の方は、本当に千津の事を愛していたようで、その愛ゆえに離婚を選択したのだろうと中部は説明する。

芥川夫妻の離婚調停は、本来なら、親しい中部にやって欲しかったようだが、二人共に親しい間柄である中部には立場上受けにくく、玉井と言う別の弁護士が担当する事になった。

食事をよばれた後、ベッドに入ったが、なかなか思うように寝つけない中部の元に、千津がやって来て、私を救ってと甘く囁きかけて来る。

寝室は怪しげな雰囲気になりかかるが、そこへ、もう武田警部が迎えに来てしまう。

その武田警部を連れて、芥川の行き付けのバーに出向いた中部は、夕べから飲み続け状態で、店の奥から動かないので何とかして欲しいと言うママの言葉を聞き、奥へ向うと、はたして、芥川(川崎敬三)が、空のブランデーの瓶を転がした状態でソファーに寝そべっていた。

中部に起こされた芥川は、今から良い女に会いに行こうと、ろれつの廻らない口調で言い出す。

どうやら、まだ昨日だと思っているらしい。

今日はもう6月1日で、その良い女とやらは、夕べ毒入りブランデーを飲んで死んだと教えると、さすがに芥川は異常に気づき出す。

ミッチーの事を尋ねると、玉井弁護士からの入れ知恵で、離婚の原因は千津側にあると、一方的に親戚から袋叩きにあっている千津を救う為、自分が女とのスキャンダルを起こし、その写真を雑誌にすっぱ抜かれれば、自分の方に原因がある事になり、千津は貞女のまま、別れられると信じて企んだ事だと言う。

ミッチーも玉井に手配してもらったのだり、彼女が飲んでいたブランデー等も、自分は全く知らないと言う。

警察の遺体安置所に出頭して来た玉井弁護士(北原義郎)は、その遺体はミッチー丘と言うヌードダンサーで、10万円出して自分が頼んだのだと言う。中部の自宅マンションの住所を記した紙を渡したのも彼だった。

彼女とは、別の事件で知り合ったと聞いた武田警部や、その場に同席していた中部は緊張する。

何か、その事件が殺害に到る背景にあるのではないかと感じたからだった。

事件とは、54才の徳丸正三郎(伊東光一)なる男が、24才の松本恵子(田中三津子)と結婚して、大阪から羽田空港に戻って来た事に端を発する。

その30分後、二人ともう一人便乗者を乗せた車が衝突事故を起こしてしまう。

その目撃者がミッチー丘で、彼女が駆け付けた時、夫の方はすでに息がなく、新妻の方はまだ息があったが、ミッチーが警察に電話して戻って来た時にはもう死んでいたと言う。

その話を聞いた中部は、亡くなった徳丸の遺産相続を巡り、ミッチーの証言が極めて重要な意味を持っている事に気づく。

つまり、徳丸の方が先に死亡していたとすると、その遺産の80%は妻恵子の親族が受取る事になり、逆に、妻の方が先に死んでいたとすると、遺産の80%は徳丸の姪のめぐみが相続し、残り20%は社会事業に寄付される事になっていたと玉井も同意する。

玉井は、松本恵子の兄、松本秀雄(大川修)に依頼されて、その事件に関わったと言う。

事故の際、車外に放り出されていた便乗者の姿はすでに現場になかったらしい。

しかし、中部は、玉井弁護士もミッチーにリベートを渡していたとすれば怪しい事になると勘付いていた。

取りあえず、中部は事件に無関係と分かったので、警察から解放される。

マンションに戻った中部は、電話が鳴ったので出てみると、事件について何も話すなと、咳き込む男の声がする。

脅迫相手は、徳丸側の人間か松本側の人間かのどちらからだろうと、中部は推測する。

その直後、又電話が鳴ったので、用心して出てみると、相手は千津だったので、安心した中部は、これまでの事件の顛末を話して聞かせる。

自分に思いを伝えたいらしい千津が泣き出したので、困った中部は電話を切ってしまう。

ある日、武部警部に呼ばれて取調室に行くと、ミッチーが殺された夜、部屋に無断で入って来て彼女を探していたチンピラ風の男がいた。

ミッチーのアパートでヒモのように暮していた吉川なる男(中原健)だと言う。

その男が、分不相応なダイヤの指輪を持っていたので出元を聞くと、ミッチーからもらったと言う。

ミッチーが残した貯金通帳には、11月20日に50万円が入金されており、ちょうど、この日から、マンハッタンと言う店で働きはじめているが、その契約金としては高額すぎると武田警部は説明する。

ダイヤの指輪は、調べた所、もともと徳丸氏の持ち物であり、それが何故、吉川の手に渡ったか?

ひょっとすると、ミッチーが、事故現場からくすねたのかも知れないと中部は推理する。

近代共同派クラブと言う建物に、徳丸めぐみを訪ねて行った中部は、ちょうど、ヌードモデルを写生している部屋に入ってしまい慌てる。

キャンバスに向っていた画学生の中から一人の女性が出て来る。それが、徳丸めぐみだった。

めぐみは、新聞に出ていたと言う中部の事を知っている様子だった。

ミッチーの事を尋ねると、遺産の半分寄越すなら、証言を変えても良いと言っていたとめぐみは語る。

その後、今度は、松本秀雄のバーに出向いた中部は、保険会社の勧誘員を装って秀雄を呼出すが、秀雄は、すぐに中部を警察の人間と勘違いする。

秀雄は、ミッチーが寝返って、めぐみ側に付いたのではないかと心配している様子。

中部が帰ろうとした時、入口で人相の悪い男とすれ違う。

自宅マンションに戻って来た中部は、又入口が開いている事に気づき、用心して中に入ると、中にいたのは徳丸めぐみだった。管理人に、中部の妹だと称して開けてもらったと言う。

めぐみは、先ほどとうって変わった女の子らしい服に着替えており、中部が好きだと新聞で知ったと言うウィスキーを土産として持参して来ていた。

彼女の来訪の目的がつかめない中部は困惑するが、めぐみは自分の弁護士になって欲しいと切り出す。

さらに、遺産の50%やっても良いから、結婚して欲しいとも。

その契約の印として、一度だけキスして欲しいとまで言いだすに至っては、中部は尻込みしてしまうが、めぐみは、そんな中部に自分から抱きつき、強引にキスをした後、素晴らしいわ!恋って!と、満足そうに洩らすのだった。

そのめぐみが帰った後、今度は、咽をゼイゼイならした顔色の悪い男が部屋に入って来て、中部に銃を突き付けて来る。

それは、中部も顔を知っている堺松吉(星ひかる)と言う前科持ちだった。

2年間の別荘暮しは長かったと、中部に迫って来た松吉だったが、その顔色を見れば、誰かからヤクと銃をもらってやって来た事は明白だった。

中部は、ヤクが切れだした様子の松吉を簡単に取り押さえると、その依頼主を聞き出そうとするが、松吉は郷田興行の親分に頼まれたとあっさり白状すると、ヤクをくれと叫びながら逃げてしまう。

その直後、又、千津から電話があり、中部にあまり深入りしないように心配する。

中部は、明日の晩、久しぶりに食事でもしましょうと誘う。

その後、武田警部に電話し、堺を送り込んで来た郷田の事を聞き出す中部。

武田警部の解説によると、郷田と言うのは近代ギャングの一人で、10年の刑を受けて服役中だったが、身体を悪くしたと言うので、今は自宅療養の身だと言う。

マンハッタンと言う店をやっているのは彼だと言う。

久々に事務所に出社した中部は、助手から、徳丸夫婦が大阪から羽田に乗って来た同じ飛行機の乗客を調べた所、真田一郎なる人物だけが裏が取れず、これが偽名だったと報告を受ける。

その夜、マンハッタンで千津と落ち合った中田は、境がテーブルにやって来たのを見つけ、側に寄って郷田に会わせろと話し掛けるが、境は怯えている様子。

そこにやって来た河内謙(守田学)なる元ボクサーだと言うボディーガードが、親分に聞いて来ると凄みを利かせて事務所に去る。

意外な事に、フロアには、いつの間にか酔った芥川までやって来て、「俺は女のトゲに負けた」などとつぶやきながら、ホステスたちと踊り出すに及んで、さすがに居心地が悪くなったのか千津は帰ってしまったらしく、テーブルに戻った中部は、「この事件から手を引け」と書かれたメモを発見する。

中部は、呼びに来た河内にメモの事を聞くが、彼は知らないと言う。

事務所で郷田(安部徹)と出会った中部は、郷田が、ベッドが置いてあるこの事務所を住居にしている事を知る。

しきりに咳き込むその声を聞き、先日、自宅マンションに脅迫の電話をかけて来た相手が、この郷田だったと知る。

警察でもないのに何故、事件に深入りするのかと聞く郷田に、中部は、徳丸めぐみから依頼されたからだと答える。

昨日、松本秀雄のバーで、河内を見かけたがと中部が聞くと、郷田は知らないようで、いくらで手を引くと迫って来る。

しかし、中部は、病人は病人らしくしていた方が良いと言い残し、マンハッタンを後にするが、その帰り道、何者かに狙撃される。

その現場に居合わせた警官が駆け付けて来て、逃げる犯人を追うが、逆に足を撃たれてしまう。

自宅マンションに戻った中部は、又しても部屋が開いており、中は警察の鑑識班でごった返しているのを見つける。

武田警部も来ており、芥川が殺されたのだと言う。

シャワールームに行くと、そこで裸の芥川が、二発の銃弾を外からガラス戸越しに受けて死んでいた。

武田警部から、一応アリバイを聞かれた中部だったが、今、狙撃されたので、愛宕署で調書を取られていた所だと説明すると、あっさり承知してしまう。

芥川の葬儀に出席した中田は、別室で千津と二人きりになると、芥川は自分と間違われて殺されたのだろうと慰める。

千津は、近々、旅行に出てみたいので、中部にも同行してくれないかと迫る。

そこに玉井弁護士もやって来て、挨拶を交わす。

事務所に戻ると、意外にも、郷田が来ている。

何と、ごたごたに巻き込まれないように自分の弁護士になってくれと札束を渡そうとする。

中田はきっぱりと断わるが、その郷田が、右手に包帯を巻いている事に気づく。

郷田が帰った後、早速その事を武田警部に電話で知らせる。銃の傷の可能性があったからだ。

武田警部は、堺と河内の二人が行方不明になったと教える。

ひょっとすると、郷田と河内がもめたのではないかと中部は推測する。

その後、吉川に会う為、ミッチ−のアパートに向った中部は、室内に倒れている吉川を発見し緊張する。

すると、どこかに隠れていたらしき河内が銃を持って現れ、吉川は殴って気絶しているだけだと言う。

ダイヤの指輪を取りに来たのだろうと中部が指摘すると、河内は、郷田はミッチ−に強請られていたと打ち明ける。

その河内が左手に拳銃を持っている事に中部は気づくが、その時、気絶していた吉川が目を覚ます。

マンションに戻って来た中部は、又部屋が開いており、中で、めぐみが料理をして待ち受けている事に気づく。もう、管理人には、完全に妹で通っている様子。

中部は、千津からのメッセージが届いているので開けてみると、中には、箱根の渓流荘に宿を取ったと書かれた手紙と切符が同封されていた。

側にいためぐみには、自分が行くはずがないと答えた中部だったが、結局、箱根に向っていた。

渓流荘で出会った二人はすぐに抱き合う。

翌日、千津を連れてドライブへ出かけた中部は、今後一切の事から手を引いて、私の事をやって欲しいと迫られるが、今日5時に東京に戻ると中部はきっぱりと答える。

東京に戻り、武田警部の元に向った中部は、郷田の包帯の下は、ただの打撲だったと聞かされる。

河内は左利きかと聞くと、同室にいた刑事(中条静夫)が、右ききのボクサーだったと言う。

松本秀雄のバーに出向いた中部は、誰もいないのでカウンターの方に入ったところで、人の気配に気づき、慌ててカウンターの下に隠れる。

やって来たのは郷田だった。

彼は、二階から降りて来た秀雄に、河内が裏切ろうとしていると言い出す。

妹と郷田の仲の事をぶちまかすつもりだと、河内から聞かされていると話す秀雄。

郷田は、河内に手を引くよう伝えろと秀雄に言って帰る。

事務所に戻った中部は、堺松吉が木場にいるとの情報を助手から伝えられる。

ただちに武田警部に電話を入れた中部は、秀雄のバーで仕入れた情報を伝える。

武田警部は、永代橋で会おうと告げる。

松吉の隠れ家であるアパートに踏み込んだ警察と中部は、殴られて倒れている松吉の姿と、窓から逃げ出した河内の姿を見つける。

松吉は、あいつがあんたを撃ったんだと言った後、息耐える。

結局、逃げた河内は捕まらなかった。

事務所に戻った中部を待っていたのは千津だった。

そこに電話が入り、出てみると河内からだった。

自分は前科があるから、弁護してくれるなら自首すると言うのだ。

自分がやったのは松吉だけで、ミッチーや芥川をやったのは自分ではないと言う。

自分は、郷田の事で、松本の弱味を知っており、徳丸と結婚した恵子と言うのは、実は死んだ時にも実質的には郷田の妻だったと言うのだ。

つまり、郷田との離婚届は偽造であり、徳丸とは二重結婚していた事になる。

当然、松本秀雄には相続の権利は全くないのだ。

さらに、河内は、郷田には何か、別の弱味もあるらしいと言う。

電話を聞いていた中部は、何故、郷田は大阪に行ったのかと考えはじめる。

警視庁の樋口警部らに付いて、マンハッタンの郷田の元を訪れた中部は、徳丸夫妻と一緒の飛行機で羽田に戻って来た真田一郎と言う偽名の人物はあんただと指摘する。

スチュワーデスが証人だとまで言われては、郷田も否定しようがなかった。

観念した郷田は、徳丸には、自分の事を伯父だと恵子が説明したと、当夜の事を打ち明ける。

一緒に乗った自動車が事故を起こした時、放り出された自分は右手を負傷したが、ミッチーはその時、自分の顔を見覚えていたらしく、やがて店にゆすりに来たのだと言う。

樋口頚部は、郷田を一連の事件の犯人として連行しようとするが、もう一度ムショに入れるのは止めてくれと郷田は抵抗する。

後日、事務所で、郷田が逮捕された新聞記事を読んでいた中部は、訪ねて来た玉井弁護士に、徳丸事件での負けを認めさせていた。

そこにやって来ためぐみは、相続争いに決着が付いたので、中部のマンションから持って来たと言うジョニ赤を皆で乾杯しようと言い出す。

用意される三つのグラスを前に、玉井は、あんな猿芝居を止めておけば良かったと呟く。

芥川が、事前に千津に話していたと言うのだ。

注がれた酒を、玉井、中部、めぐみの三人が乾杯しかけていた時、電話が入り、それに出た中部は千津からの物である事を知る。

その電話中、中部の目の前でグラスの酒を飲み干した玉井が急に苦しみだし、床に倒れてしまう。

すぐに救急車を呼ぶが、すでに玉井は事切れていた。

中部は、めぐみにどこで酒は買ったかと聞くが、サンヨーデパートで買ったと言う。

では、どこで毒は仕込まれたのか?

中部は、まだ、部屋の合鍵を芥川に渡したままだった事を思い出し、自分がとんでもない誤解をしている可能性があった事に気づく。

事件はクロスしていたのだ。

千津に会いに出向いた中部は、玉井が青酸カリで死亡した事を伝え、芥川に貸したままの鍵を返してくれと迫る。

中部は、死ぬ寸前、玉井から、ミッチーを自分の部屋に送り込む芝居を、事前に千津も知っていた事を聞いたと打ち明ける。

ブランデーは、芥川の好物だった。

あのミッチー殺しの本当の目的は、芥川殺害にあったのだ。

財産分与でもらった株が暴落した千津は、芥川が夫である内に殺せば、全財産を手にする事ができる。

それを聞かされた千津は、金のためにやったんじゃないと呟く。

さらに中部は、ナイトクラブ「マンハッタン」に脅迫の置き手紙を置いたのも千津であり、その後、私の事件に対する執念を恐れたので、酒に毒を入れたのだろうと追求する。

自分は、金がなければ生きていけないと打ち明けはじめた千津は、株が下がって心細くなり、あなたに電話をしたら、出て来たのは芥川であり、その夫から罵られたのでやったと告白する。

千津は、甘えかけるように、中部に、警察に知らせないで、死なせて…と哀願する。

さらに、私を抱いてと言いながら、中部にしなだれかかって来るが、中部が無反応なのを観て、強い人ね、あなたって…と洩らすと、静かに、二階の寝室へ向う。

しばらく立ちすくんでいた中部だったが、やがて、我慢できないとばかりに二階へ駆け上がると、寝室を開くが、もうベッドの中の千津は薬を飲んでいた。

すでに瀕死状態だった千津は、こんな悪い私は、世間の非難が届かないような、深い所に埋めてね…と、最後の言葉を、近づいた中部に洩らして事切れるのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

海外のミステリの映画化だけに、畳み掛けるような意外な事の連続で、ぐいぐいドラマに引き込んで行く冒頭は見事と言うしかない。

その後も、意外な展開の連続で、観るものを飽きさせない。

ただ、千津が登場して来ると、何だか、昼メロみたいな雰囲気になり、ちょっと雰囲気が変わってしまうのが惜しい。

最初容疑者だった中部が、そんなにはっきり事件とは無関係と証明されたとも思えないのに、途中から急に、警部にすっかり信用された探偵役になるのも、ちょっと不自然に思えなくもないが、全体的には、それなりに巧くまとまったミステリになっていると思う。

いかにも気の弱そうな坊っちゃん役が似合っている川崎敬三や、刑事役として登場しているまだ髪の毛が多かった時代の中条静夫の姿も見物であるが、一番の見物は、いかにもあっけらかんとした現代娘役を演じている江波杏子の初々しい姿だろう。

主人公を演じている田宮二郎は、ちょっと「悪名」のモートルの貞に近い軽く明るいキャラと、シリアスな二枚目キャラの両面をミックスしたような独特の役柄を演じている。

若尾文子は、アップの髪の半分だけを右側に垂らしたような不思議な髪型が印象的。