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東京ラプソディ

1936年、P.C.L.映画製作所、佐伯孝夫原作、永見柳二脚本、伏見修監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

洗濯屋の若旦那若山(藤山一郎)は、大の歌の名人。

今日も朝から、仕事をしながら自慢の咽を披露している。

そんな若山に、店の向いでいつも仕事をしている靴磨きのとし坊が、今日は鳩ぽっぽが遅いねと挨拶をする。

鳩ぽっぽとは、同じく、洗濯屋の向いにあるタバコ屋の売り子で、若山の恋人である鳩子の愛称であった。

その鳩子は、ダンスホールの踊子マキと同じ部屋で同居暮ししていたが、その日は寝坊したのだった。

そんな鳩子が若山と仲が良い事を知っているマキは、彼に洗濯を頼んだピンクのドレスがまだ届かなくて困っているので、早くホールに届けるように催促して来てくれと頼んで送りだす。

電車で勤め先のタバコ屋にやって来た鳩子は、さっそく洗濯屋の若山に会いに行くが、残念ながら、若山は今正に、マキのドレスをホールに届けに行っていて不在だと、やはり二人の仲を知っている店員たちがからかう。

一方、ダンスホールに来たマキが、バンドでサキソフォンを吹いている船橋と談笑をしている所に、若山がドレスを届けに来る。

三人もかねてより馴染み同士だった。

やがて、ホールで踊りが始まり、マキは、常連の紳士別井に誘われて踊り出す。

配達から帰って来た若山は、いつものように、とし坊と鳩子に土産で買って来た菓子を渡しながら、鳩子には、今日も仕事が終わったら、例の所で会おうと誘う。

例の所とは、都会のネオンが見えるビルの屋上のことだった。

アコーデオンを奏でながら、若山は、鳩子の為に歌を披露する。

それを聞きながら、幸福な気分に浸っていた鳩子だったが、何時かこの幸せが逃げてしまうのではないかと、秘かな不安も感じていた。

同じ頃、銀座ホテルに泊まっていた別井に招待されていた女性文化人の矢野ハルミは、原稿依頼を受けている出版社に、締め切り時間を遅らせてくれと電話していた。

そこへ戻って来た別井は、窓の外から聞こえて来る歌声に気がつき、眺めてみると、近くのビルの屋上で歌っている若山と鳩子の姿を見かけ、原稿を書いていたハルミを呼び寄せる。

若山の歌声を聞いていたハルミは、その素人離れした実力を認めると共に、一つ、自分達二人で、あの青年を人気歌手に育ててみないかと思いつきを提案する。

その唐突な提案に、最初は戸惑いを見せた別井だったが、才能の世に出してやるのは意義があると考え賛成する。

才気活発なハルミは、又、やりがいがある仕事を見つけたと張り切る。

屋上にいた若山と鳩子は、ホテルのボーイに呼びに来られ、別井の部屋に招かれると、歌手にさせてやると言う話を聞かされるが、正直、若山には気乗りしなかった。

しかし、ハルミたちにハッパをかけられ、しぶしぶ承諾する事になる。

数日後、新人歌手として新聞に載った若山の写真を観ていたマキは、すっかり有名人になった若山のことを羨むと共に、鳩子に、船橋と三人で、若山の出世祝いをしてやろうと提案する。

一方、ハルミが手際良く開いた事務所で待機状態となった若山は、鳩子に会いたいがため、煙草を買いに出かける事さえ許されない状況になっていた。

若山は、マネージャーになったハルミが言うがまま、スケジュールをこなさざるを得なくなり、早速事務所を訪れて来たレコード会社の猪俣にも挨拶させられていた。

その後、どうにか事務所を抜け出し、鳩子の店にやって来た若山だったが、とし坊からいつものように靴を磨かせてくれと言われ、台に置いた靴はピカピカの新品で、有名人になった友達の靴を磨こうと張り切っていたとし坊を白けさせていた。

鳩子は、今夜9時、家でささやかなお祝をするので来てくれと誘い、若山も快諾する。

ところが、事務所に戻って来た若山は、その夜、吹き込みの打合せがあるとハルミから言われてしまう。

その夜、船橋を伴って帰って来たマキは、手料理を前に、鳩子が一人で待っているのに気づく。

気を利かせて、少し遅れて帰って来たつもりだっただけに、若山が来ていないのを船橋とともに不思議がる。

同じ頃、若山は、連れて来られたキャバレーで、接待に浮かれる音楽関係者たちと、面白くない時間を過ごしていた。

ボーイに鳩子の家に連絡を頼んでもらうが、先方に電話がないのでどうしようもない。

空腹のまま待たされている舟橋らに気づかった鳩子は、秘かに置き時計の針を1時間戻してしまう。

結局、若山はやって来ず、舟橋は帰ってしまうし、マキからは、人間なんてこんなもので、自分さえ良ければ人のことなんか考えなくなる。もう、純情に若山の事とを慕うなんて止めた方が良いと忠告された鳩子は泣き出していた。

その日以来、鳩子は、若山を想うばかり、ぼーっとした生活になり、商売の煙草を間違えたりするようになる。

そんな鳩子の店に、洗濯屋の従業員が、若旦那のポスターを貼らせてくれと持って来る。

ある日、マキと鳩子の家に、とある屋敷でのパーティに来てくれと言う若山の事務所からの招待状が届くが、貧しい自分達への当てつけと受取ったマキは、鳩子の目の前で破ってしまう。

招待状を送った別井は、そのパーティがあった夜、若山、ハルミと共にタクシーで帰りながら、何故、鳩子たちが来てくれなかったのかと戸惑っていた。

素直に喜んでくれると思い込んでいたからだ。

途中で、喫茶店に立ち寄った彼らの姿を見かけたある女性客グループが、若山の姿に気づく。

その内の一人に声をかけられ、相手を観た若山は驚く、それは幼馴染みだった千代子だったからだ。

しかし、仲睦まじく話している二人の様子を観ていた猪俣は、若山を下品にからかう。

若山の歌声は、ラジオ等からも頻繁に聞こえるようになって来る。

すっかり売れっ子状態になり、事務所に釘付けになった若山に、たまには息抜きをさせてやろうと、猪俣は、彼を強引に料亭に誘う。

一方、すっかり縁遠くなってしまった鳩子だったが、それでも、風で煙草屋に貼ってあった若山のポスターが飛ばされると、拾いに行って、写真の若山をジッと見つめるのだった。

渋々、料亭について来た若山だったが、気分は上の空。

そこへ現れた芸者蝶々が彼に声をかけて来たので、振り返ると、何と、あの幼馴染みの千代子ではないか。

先日の喫茶店での様子を勘違いした猪俣の計らいだった。

気を利かせた猪俣が、早々に席を立ってしまったので、二人きりになった若山と千代子は、幼かった頃の想い出話に花を咲かせる。

病弱の父親や妹、弟があった為、若くして芸者に売られてしまった千代子は、あの無邪気だった頃に返りたいと打ち明けるのだった。

同情する若山に、でも近い内に遠い所に行くので…と言いかけた千代子だったが、驚く若山の顔を観て、今のは冗談と打ち消した後、又、来てくれと頼むのだった。

翌日、相変わらず自由がない事に不機嫌な若山の様子を観た猪俣は、夕べの芸者との一件の事だろうと、ハルミに耳打ちする。

それを聞いたハルミは、そのゴシップは宣伝に使えると、早速新聞社に伝え、若山と芸者のゴシップ記事が新聞に載ってしまう。

それを読んだマキは、ますます鳩子に、もうあんな男の事を想い続けるのは止めろと忠告する。

煮え切らない鳩子の様子を見かねたマキは、ホールに出かけると、船橋と相談し、一緒に、おそらく金目当てで若山に近づいていると想われる芸者の元へ直談判しに行く事にする。

そんな事態になっているとは白ない別井は、その日もホールにやって来るが、目当てのマキがいない事を知る。

事務所では、新聞を読んだ若山が、事実無根の内容だから、新聞社に抗議に言って来ると息巻いていたが、ハルミは、宣伝のため、わざとこちらが提供したネタだからと引き止める。

それを聞いた若山は、そんなにまでして売れたくないと、その日予定していた吹き込みをキャンセルして外に飛び出して行く。

久々に、靴磨きのとし坊に会った若山だったが、もうとし坊は歓迎してくれなかった。

何故か、店にいない鳩子も泣いている。もう、おじさんとは会わないだろうと聞かされた若山は愕然とする。

その頃、マキと舟橋は、鳩子を連れて料亭に向うと、指名してやって来た千代子に対面していた。

短気なマキは、開口一番、若山には、この鳩子と言う恋人がいるのだから、懐目当てに近づくのは止めて欲しいと切り出す。

それを聞いた千代子も、懐目当てと言われ、気色ばむ。

自分と若山とは、幼馴染みに過ぎないと言うが、頑固なマキは信用しない。

そこに割って入った船橋が冷静に、若山との事を尋ねると、新聞記事はねつ造に過ぎず、二人の間には全く何もないのだと千代子が説明する。

その後、今後、自分は二度と若山に会わないと約束するので、一度、この鳩子と二人だけで話させてくれと言う千代子。

二人きりにすると、巧く丸め込まれるかも知れないと警戒するマキを説得し、舟橋は部屋の外に一緒に出て行く。

鳩子と二人きりになった千代子は、窓際に一緒に腰掛けさせると、自分は、後4、5日後に、九州の小さな温泉場に行く事になっている。芸者なんて、お金一つでどこへでもやらさせる立場なのだと告白しはじめる。

その打ち明け話を聞き、マキや船橋にも教え、自宅に帰って来た鳩子は、部屋で待っていた若山と出会う。

その頃、若山が飛び出して行ったとハルミから聞かされた別井は、自分達の考えは間違っていたのではないかと言い出す。

鳩子の部屋では、若山がもう、自分は歌手なんかになるつもりはなく、皆と同じような生活に戻りたいと打ち明けていた。

しかし、今日、千代子と会い、九州へ飛ばされる彼女の不幸な境遇を聞いたと打ち明けたマキは、若山に事情を話し話し、彼女を助けるためにも、そんな意気地のない事を言ってはいけないと叱咤激励する。

鳩子も、及ばずながら、これまで溜めて来たなけなしの貯金を出す事にしたと言う。

舟橋も、私たちは、まだ若いんだからと励ます。

友人たちの激励を聞いた若山は、自分の考えを改め、すぐに事務所に戻ると、ハルミに、これまで自分は人に無理矢理やらされて来たと思っていたが、これからは自分自身が町中の人々に歌いかけてみたいと決意を話す。

それを聞いたハルミは、待ってましたとばかり、猪俣に電話を入れると、予定していた「東京ラプソディ」の吹き込みを明日やりたいと報告する。

やがて、町中に「東京ラプソディ」の歌が流れ、町の人々の誰もが、その曲を口ずさむようになるのだった。

そんな中、若山は鳩子に婚約指輪を渡していた。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

いまだに歌い継がれている「東京ラプソディ」が登場する、藤山一郎主演の音楽映画。

内容は良くあるサクセスストーリーだが、金持ち文化人が歌手を育てる計画を練り、選ばれた若い洗濯屋は、町一番のラッキーボーイになるはずだったが…、と言う皮肉まじりの着想がちょっと面白い。

まだ、貧しい民衆の方が多く、そうした観客たちに反感をもたれないような展開になっている所が面白い。

また、この時代すでに、宣伝のためには、タレント事務所側がゴシップをマスコミに意図的に流すなどの裏話を暴露している所も興味深い。

その寓話風の内容は、単純と言ってしまえばそれまでだが、全体的に都会風のモダンな感じのする話になっている。

若山と鳩子が夜デートしていたビルの屋上から見える、ネオンサインの動く流星模様等も洒落ている。

見所は、最後の「東京ラプソディ」の曲を町中の人たちが次々に歌い繋いで行くシーン。

意外な所では、藤原鎌足や千葉信男などもちらり登場し、歌に参加している。

登場する女性陣の美しさ、かわいらしさにもちょっと驚かされる。

その容貌は、今の若いアイドルたちと遜色ない。

ただ、男性陣もそうなのだが、今観ると、馴染みのない俳優ばかりが出ているのにくわえ、皆、同じようなタイプの風貌の人物ばかりが登場するので、誰が誰なのか、若干区別がつきにくい難点はある。