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鉄コン筋クリート

2006年、「鉄コン筋クリート」製作委員会( アニプレックス、アスミック・エースエンタテインメント、小学館、STUDIO 4℃、dentsu、TOKYO MX)、松本大洋原作、芦野芳晴+アンソニー・ワイントラープ脚本、マイケル・アリアス監督作品。

この作品は最近の作品ですが、最後まで詳細にストーリーを書いていますので御注意下さい。コメントはページ下です。

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(マッチの炎が灯る)炎は心と同じ…、近づいてみないとその怖さが分からない…。

町を飛ぶ一匹のカラス。

来いシロ!お遊戯の時間だ!

クロ(声-二宮和也)は、その日も、電柱の上に乗って、自分の街「宝町」を見下ろしていた。

宝町は、御伽の国とでも言うのか、独特の雰囲気を持っていた。

クロは、眼下に車から降りて来た大精神会のヤクザ、鈴木通称ネズミ(声-田中泯)を発見する。

ネズミは、部下の木村(声-伊勢谷友介)に、子供達に薬をばらまいて来いと命じる。

宝町を取り締まる所轄署の刑事藤村(声-西村知道)は、取調室に同席した言う部下の沢田(声-宮藤官九郎)が東大卒だと聞き、この町は無理だろうと助言するが、沢田は、自分は不感症なので大丈夫だと答える。

豊町からやって来た二人の少年アサ(声-玉木有紀子)ヒヨル(声-山口眞弓)兄弟は、宝町を仕切っているネコと言うガキを探していた。

自分らが、その猫を倒し、町を仕切る野望に燃えていたからだ。

そこに、ハナを垂らした女の子シロ(声-蒼井優)がやって来たので聞いてみるが、女の子は動物の猫の事かと思っているのか、とんちんかんな答えしかしない。

いるよと、少女が指差す上を観た兄弟は、次の瞬間、その女の子が襲いかかって来たので、この少女と上にいる少年二人が、「ネコ」なのだと気づく。

所轄署では、藤村が沢田に、この町には、暴力を生活の拠り所にしている少年がいる事を教えていた。

クロとシロは、往来を走る自動車の波の中で、ヒルヨル兄弟の追跡をかわして行く。

走る車の上でシロに「五時作戦」の打合せをしたクロは、シロに兄弟の囮役を頼み、大時計のあるビルの屋上に相手を誘い込む。

屋上で、シロを追い詰めた兄弟は、勝利を確信するが、その時ちょうど5時になったので、兄弟がたっていた場所の後ろにあった大時計の文字盤が引っ込んだかと思うと、インド風の巨大な象の顔をした女神像が迫り出して来て、兄弟を慌てさせるのだった。

シロは、廃工場の中に放置してある自動車の中で、海で泳ぐ夢を御ていた。

そこに戻って来たクロが、その日の戦利品として奪い取って来た金をシロに渡す。

シロは、それを貯金箱に入れて溜めていた。

「もちもち…、こちら地球星日本国シロ隊員…」、シロは、自分が宇宙の平和を監視するパトロール隊員で、どこか遠い星へでも連絡しているつもりなのか、毎日、電話に向ってそんな報告をするのが日課だった。

ネズミは、木村に占いを信じるか尋ねていた。

どうやら、ネズミ自身は九星占いを信じているらしい。

木村が何も信じないと答えると、ネズミは愛だけは信じろと忠告する。

そんな二人に気づいたのが、パトロール中だった藤村と沢田、二人は古くからの顔なじみなのだが、ネズミは、その内この町で騒ぎが起きると藤村に予告する。

クロは、満員の観客で埋まった格闘技の客席で、試合に夢中の客の尻ポケットから財布を抜き取っていた。 シロはと言えば、普通に試合を楽しんでいるだけ。

その頃、木村は、宝町のチンピラグループ「アパッチ」のトップ、チョコラ(声-大森南朋)とトラブッていた。

この辺のシマで、外から来たヤクザなんかの下っ端なんかになるつもりはないと対決姿勢できたのだ。

これにキレかけた木村だったが、見物人の中にクロの姿を観て、その場は取りあえず引き上げる事にする。

チョコラはシロを見つけて抱き上げていた。

互いに良く知った仲間だからだ。

戻りながら木村は「鈴木が言っていたが、血を好きなガキがいると」…と仲間に呟く。

ナイーブな気持ちを持つシロが、何となく哀しい気持ちになると呟いているのを聞いたクロは、心配するな、おれたちは誰にも壊されはしないと慰めてやる。

町行く人から物乞いで生活しているじっちゃ(声-納谷六朗)は、最近、人情がなくなり、町が冷たくなった事を嘆いていた。

クロは、公園で休んでいた藤村から声をかけられるが、大人をバカにしているクロが真面目に聞くはずもない。

シロとクロは他に誰も入っていない時間帯の銭湯でじっちゃに出会い、クロは「俺の町」などと粋がっているのをじっちゃに注意される。藤村らに対するよりはじっちゃに素直な二人。

その頃、大精神会の事務所では、宝町を再開発し子供向けレジャーランドを作って、子供から金を絞りとろうと考えていた組長(声-麦人)がネズミに、町を空っぽにしろと命じていた。

シロは、悪い事した時は、神様に謝る…と呟いていた。

その後、組長は、一人の子供にこてんぱんにやられた木村らを叱りつけていた。

風呂上がり、着替え所でリンゴをかじっていたシロは、リンゴの種から木が生える白昼夢に浸っていた。

じっちゃは、「この町は長くねぇ…、シロはもう気づいている…」と呟く。

大精神会の木村の元にやって来たチンピラグループの一人バニラ(声-岡田義徳)は、チョコラの順位表を手渡し、個人的に組に入れてもらおうとしていた。

翌日、町を歩いていたチョコラの前に現れた木村は、箱を放って去る。

箱の中には、斬られた人間の両耳が入っていたが、それに付いていたピアスから、その耳はバニラのものだと分かる。

風呂の帰り、シロが思い付いたリンゴの種を植えたら、リンゴの木が生えて来るはずと、工場の床に土を盛り、その中に種を入れてみたシロだったが、何時まで待っても芽は出て来ない。

耳の入った箱の噂をクロから教えられたシロは、人の悪口言っていると、心のここのところがかさかさになると注意していた。

大精神会の事務所にやって来たチョコラは、母親を手配してこちらの用意したホテルに泊めていると、暗に人質状態にしている事を木村から聞かされ、彼らの使いっぱしりになるか返事を迫られていた。

そこへ突然、窓の外にクロが現れ、木村の仲間たちを叩きのめしていく。

チョコラは、クロが自分を助けに来たのかと思い止めようとするが、クロはそんなつもりで来たのではなかった。「自分の町」を侵略しようとする外敵を追っ払う為だった。

部下を全員やられ、ドスを取り出した木村だったが、彼も又、クロに叩きのめされる。

シロは、時々、哀しい気持ちに苛まれ、その日も、何かを感じ取ったのか、悪い事をした時、神様に謝る…と呟いていた。

一方、組長は、たった一人の子供にこてんぱんにされた木村らを叱りつけていた。

親もなく、学校にも行っていないシロは、小学校の校庭で遊ぶ子供達をうらやましそうに眺めながら、「神様は、おれたちの事、怒っている」と独り言を言うシロ。

そこに、彼女を探していたクロがやって来たので、シロは「ギャングマンなんて怖くない!」と粋がってみせる。

彼女は、クロが一人でヤクザと対決した事を直感的に感じ取っていたのだった。

ネズミは、顔に傷を負った木村に、現場は太田に任せろと忠告した後、お前は金星人だから、今低迷期なんだと伝える。占いの話だった。

宝町では、子供たちが、この町を支配する「いたち」と言う、愛を捨て、暴力に生きる伝説的な暴れ者に付いて噂していた。

一方、陸橋の上で、怪我をした子供に、シロが溜めていた自分の貯金箱を渡そうとしていた。

女の元にしけ込んでいた木村は、相手から妊娠している事実を打ち明けられる。

シロは、コンクリートには匂いがあり、自分は、雨が降った時の匂いが一番好きと呟いていた。

バーで一人飲んでいた木村に、見知らぬ無気味な目つきの男が話し掛けて来て、すぐに立ち去って行く。

カウンターには、口を広げた蛇の印が入った名刺が一枚残されていた。

組長は、宝町を再開発する「子供の城プロジェクト」の発案者たちと上機嫌で計画を練っていたが、聞いていたネズミは、この計画に疑問を感じていると口を出してしまう。

仲間のげんぱちがその場所で昔からストリップ小屋を開いているのだが、それも潰してしまうと言う事だからだ。

その頃、木村は、名刺を見ながら、あの無気味な男、蛇(声-本木雅弘)に電話を入れていた。

そんな木村の元に独りやって来たネズミは、この町はレジャーランドになるぞと教える。

シロは、町で、中国風の服を着た見知らぬ3人の大男を見かけたとクロに報告していた。

宝町を見下ろす高層ビルの展望台風の事務所にいた蛇は、その大男三人にネコ退治を命じる。

その場には、大男たちの正体をつかめない木村の姿もあった。

その木村に対し蛇は、町を支配するには、警察とヤクザを抱き込む事だと嘯いていた。

蛇も又、宝町を「私の町」と呼んでいた。

誰の差し金で動いているのかと問いかける木村に対し、蛇は「ある方の導き…、神です」と答える。

そんな蛇たちの陰謀を知るよしもないシロだったが、直感的に、強い不安を感じ始めていた。

町に降り立った大男の一人は、すぐさま廃工場にいたシロとクロを見つけ出し、特にクロを集中的に痛めつけはじめる。

そんな大男に、シロは瓶を投付け、相手が怯んだ隙にクロと共に逃げ出す。

パトロール中の藤村と沢田は、ネズミが一人で歩いている姿を見つけ、一緒に「珍宝小路」にあるストリップ小屋に出向く。

ネズミは、客もほとんどいないかぶり付きの席に藤村と沢田と共に陣取り、この町が好きだったと洩らすのだった。

公衆トイレに大便所の部屋に隠れていたシロとクロだったが、間もなくそこも、追って来た大男に見つけられたので、窓から脱出する。

高架橋を走る電車の屋根の上に飛び写ったシロとクロだったが、執拗に大男も追って来る。

シロは、「こんな町嫌いだ!」と叫ぶと、気絶したように全身の力を抜いてしまったので、クロはその身体を抱きながら、大男と対決しなければならなくなる。

刃物を出して迫って来る大男と組み付いたまま空中を飛んだクロは、やがて、建物の屋根を貫き地上に落下し、頭を割った大男の側に立っていた。

死んだと思われた大男だったが、やがて立ち上がり、クロに組み付く。

すると、天井に開いた穴から液体が大男に降り注がれる。

建物の屋根にいたシロがガソリンをぶちまけているのだ。

火をつけるつもりだと気づいたクロは、必死に大男から逃れようとするが、シロはそんなクロの動き等気にする様子もなく、「燃えちゃえば良いんだ、こんな町」と呟き、勝手にマッチをすると、大男目掛けて落とす。

間一髪、大男の手からすり抜けたクロの目の前で、大男は火炎に包まれ、丸窓を壊して、そのまま川に転落して行く。

遊園地の滑り台に一時避難したクロは、「おれたちは追われているので、もう家に帰れない」とシロに教えるが、シロは、帽子と時計を取って来てとせがむ。

ここを絶対動いては行けないと言い残しクロが出かけた後、リンゴの種に水をやり忘れた事を思い出したシロは、クロの言葉も忘れ、ふらふらと出かけて行き、大男に出会ってしまう。

車でパトロール中だった藤村は、路地の間を逃げ回っているシロと、それを追う大男を一瞬見かけ、沢田に車を止めさせる。

やがて雷雨になり、滑り台に戻って来たクロは、シロの姿が見えないのに気づき、シロは冬が嫌い、アリとキリギリスが嫌いとつぶやきながら探しはじめる。

やがて、行き止まりの空間に追い込まれたシロに迫る大男、次の瞬間、駆け付けた藤村が大声を上げ制止するが、その声で大男は大きくジャンプし飛び去ってしまう。

廃工場の自動車の中で待っていたクロの元にシロが近づいて来る。

彼女の腹には、大男の刀が突き刺さっており、車の前に倒れた彼女の身体の下から大量の血が流れ出す。

じっちゃは、シロを運び込んだ馴染みの町医者から、後1時間遅れたらシロは助からなかっただろうと言われていた。

クロは、呆然とシロのベッドの横で座り続けていた。

じっちゃは、子供ながら、生きる事に絶望し、シロを守る事だけを自らの存在理由と考えていたクロにとって、シロを失うと言う事は、存在理由そのものを失ってしまう事なのだと医者に教える。

海で泳いでいる夢を観ていたシロは、やっと目を開き生還する。

一安心したクロだったが、じっちゃに、最近、シロは訳の分からない事ばかり言うようになり、もう守ってやる自信がないと、珍しく弱音を吐く。

じっちゃは、お前には守れん、お前の方が、シロから守られているように見えると答える。

退院したシロは、藤村と沢田が保護しにやって来る。

シロは暴れ廻るが、電柱の上でその様子を観ていたクロは、妨害するでもなく、意外にも、シロは足手まといだから連れてってくれと言うではないか。

その言葉に驚いたシロはますます暴れ廻るが、車に乗せられ走り出すと、後部座席の窓からクロの姿を観ながら泣き出すのだった。

個室を与えられたシロは、監視係の沢田の前でひたすら絵を描き続けるようになる。

その頃、子供の城建設現場の入口に、チンピラが倒れている事態が続いていた。

沢田は、シロに、どうしてクロと一緒にいたのかと聞くと、一杯ネジがないのと答える。

神様は、自分の心の中にたくさんないネジを作ったけど、そのないものをクロが持っていたと言う。

一方、シロを失ったクロはどんどん精神的に荒んで行き、地元の子供達から、悪魔に憑かれてしまったと噂していた。

そんな噂を聞いたネズミは、もう、ここが以前の宝町に戻る事はなく、先には地獄が待っていると呟く。

木村は、蛇から拳銃を手渡され、ネズミ暗殺を命じられていた。

ネズミは、自分の育ての親みたいなものだと抵抗する木村だったが、蛇は、妊娠している女の腹を裂くぞと脅して来る。

彼はプロなのだった。

木村は、子供が生まれたら、この町を出ようと決意する。

ある夜、事務所から護衛なしで、ふらりと一人で外に出かけたネズミは、ガード下の飲み屋で木村と出会い、近々身を固めたいので、その仲人をしてもらいたいと頼まれる。

しかし、ネズミは、木村の本当の目的を勘付いており、その後、二人だけで、人気のない場所へ向う。

木村から銃を突きつけられたネズミは、最後の煙草をくわえると、身体を大切にしろ、自分のように両親がいない子供がどれほど辛い思いをするかと優しく諭し、泣きながら発砲した木村の銃弾に倒れる。

若い頃からの自分の過去を思い出しながら、ネズミは息耐える。

その死に際を、側に来たクロは一人で見つめていた。

蛇は、残った二人の大男に、クロの暗殺を再び命ずる。

外で仲間と将棋をさしていたじっちゃの所にやって来たクロは、いつものように奪い取って来た金を勝手に渡そうとし、シロがどこに行るかと尋ねて来る。

シロは、警察に保護されている事は知っているはずなのに、クロの様子がおかしいのだ。

一方、シロの方も、何かに怯えるように、沢田に抱きついていた。

クロは、シロに見立てた人形に話し掛けるようになっていた。

明らかに精神に異常をきたしはじめていたのだ。

シロの方も、何かにとり憑かれたかのように、無言で悪魔のような絵を量産しはじめる。もう、沢田が何を話し掛けても聞こえないようだった。それは、シロにとって「いたち」の絵だったのだ。

クロは、人形を抱いて、町を彷徨い歩く。

やがて、巨大な子供の城が完成する。

シロは、シロクロシロクロ…と呪文のような言葉を繰り返しながら、絵を描きまくっていた。

クロは、人形を抱いたまま子供の城に入り込むが、係員から金を払ってないと制止されかける。

そこに、二人の大男がやって来て、ボウガンで、人形の頭を吹き飛ばしてしまう。

シロは、部屋の中で暴れはじめ、駆け付けた藤村が止めようとしてもムダだった。

二人の大男に殺されそうになった瞬間、突如、空から、牛骨の仮面を被った少年が降りて来て、あっという間に、二人の大男を殺してしまう。

大男の一人が放ったミサイルは、子供城の上に浮かんでいた気球に命中、その残骸が落下して、城にぶつかり大爆発を起こしてしまう。

展望台事務所で蛇と会っていた木村は、蛇に銃を向けると、その場で射殺する。

牛骨の仮面の少年、イタチは、クロを闇の世界へ連れ込もうとする。

「引きづり出せ!闇の力を!見せてやれ!お前の本当の力を!解放しろ!」と囁きかけて来るイタチとは、クロのもう一つの姿だった。

シロは、藤村の腕の中で暴れ続けていた。

「おれたちの町を、血で染めるのさ!」と囁き続けるイタチ。

木村は、身重の女を助手席に座らせ、乳母車等も乗せながら、アパートから出る準備をしていた。

生まれて来る赤ん坊の名前は、「まこと」と決めていたが、そこへやって来た刺客から木村は撃たれる。

クロは、イタチから引かれる手を引き離そうともがいていた。

クロのないネジ、シロが持っているという声が聞こえる。

偽善の代表者だと語りかけるイタチ。

闇の中でもがき苦しんでいたクロの元に、一羽の白い鳩が飛来して来る。

闇の中に、一筋の光の世界が開く。

「安心、安心…」シロの言葉が聞こえる。

お前は何を信じると問うイタチ、俺はシロを信じると答えるクロ。

消えかけたイタチは呟く。「俺は何時でもお前の中にいる。そしてお前を救う。お前の手の傷を忘れるな」と。

もうシロは暴れなくなり、平和な絵を描いていた。

クロは、廃工場の車の中で正気に戻るが、子供の城で、大男のボウガンに撃ち抜かれた手の傷は消えていなかった。

シロは刑事二人を連れ、クロがいると公園にやって来ていた。

何故、そこにクロがいるのかさっぱり分からなかった刑事たちだったが、シロの言葉通り、空からクロが舞い降りて来る。

シロは「おかえり、クロ」と手を差し伸べ、クロとがっちり握手をする。

シロは呟く。「安心、安心…」

どこかの海の中、海底で小さな天使の人形を見つけたクロは、砂浜で、ヒトデや貝を使い、大きな太陽のような絵を描いていたシロの元に持って行ってやる。

クロは、自分の右の手の平に残った傷を見つめ、やがて握りしめていた…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

松本大洋原作コミックのアニメ映画化作品。

監督はCG出身の外国人だが、日本人スタッフも多数参加しており、一見、アジアンテイストの無国籍風だが、感性的には日本映画そのものとも思える。

レトロな雰囲気が残る宝町と言う架空の町が、開発と言う名目で、その外観だけではなく、そこに住んでいる人間たちの人情までもが消えて行く経過を描くと共に、そこを根城として無軌道に生きていた親がない二人の男女が、互いの心を補いながら、懸命に生き抜いて行く姿を重ねている。

町を仕切り、「俺の町」と思い込んでいるクロや、ヤクザたちは、やがて各々、その個人的な思い込みとは裏腹に、町の変化に押しつぶされて行く。

町は、しょせんは特定個人に管理されるようなものではなく、刻々と変化し続ける生き物のようなものだと言う事なのだろうが、その変化に付いて行けない人間の無力さが哀しい。

色トレースによる軟らかく個性的な画風が、ともすれば不自然に見えかねないCG世界を、暖かく人間臭いアナログ感覚に近づけてくれる。

展開そのものは地味なのだが、随所に挿入される爽快なアクション感覚で飽きさせない。

そのアクションも、一見ステレオタイプなパターンのようであり、しかし優れた演出で通俗に堕ちる事はない。

文学性も感じられるし、美術的にも一流、登場する人物たちの個性にも魅力があり、観終わって、がつんと来る手ごたえがあった。

傑作だと思う。