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シルバー假面

2006年、佐々木守原案、実相寺昭雄原案+総監督作品。

この作品は最近の作品ですが、最後まで詳細にストーリーを書いていますので御注意下さい。コメントはページ下です。

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女が芝居小屋から逃げる。

それを追う虚無僧が吹く尺八の音色が、仏像が並ぶ寺の中に響く。

編笠を取った虚無僧の顔は、白塗りのピエロだった。

浅草の芝居小屋ダンテ劇場では、呼び込みの男(寺田農)が、カリガリ博士(石橋蓮司)演出による大魔術を紹介していた。

レントゲン発明のX線装置による科学科術の開始。

逃げていた女は、虚無僧に捕まり、芝居小屋へ連れ戻されると、X線装置だと呼び込みの男が紹介した舞台上に置かれた奇妙な機械の中に入れられる…。

第壱話「はなやしき」 中野貴雄脚本、実相寺昭雄監督。

大正9年、東京。

谷中の一角の墓地で墓参りをしていた女に、陸軍大尉本郷義昭(渡辺大)が、大学病院分室の場所を尋ねる。

解剖坂にある病院かと逆に質問されたので、戸惑う本郷。

女は、D坂の向う側にある坂道に解剖室があるのでそう呼ばれていると教えてくれる。

明瀬元次郎総督(嶋田久作)の前に出頭した本郷は、第七代台湾総督である赤瀬が、こんな東京にいる事に疑問を感じていた。

側に従えていた憲兵の天数照彦(二階堂智)が、無気味な女の死体写真を見せて来る。

不忍池で発見されたもので、死体には赤血球が存在せず、白血球が異常に増えているという。

高濃度のガンマ電磁波、いわゆるレントゲンを浴びせるとこういう症状になるらしいが、これだけのX線を浴びせるには、大量のプラズマが必要になるはずだと言う。

しかも、もう同じ症状の女の死体が7体も見つかっていると言うのだ。

本郷は、ドイツ・ダンテ劇場を内偵せよとの指令を受ける。

ロシアの10月革命を目の当たりにした赤瀬総督は、人民の不安が増大する事を恐れていた。

本郷大尉は、友人の平井太郎の住まいを訪れる。

探偵小説を書いていると言うので、書きかけの原稿をざっと読んでみた本郷は瞬時に答えを言い当てる。

驚く平井に、原稿の上でうたた寝していた平井の顔に、原稿が転写されているのだと種明かしをする。

本郷は、地元に詳しい平井に、浅草のダンテ劇場に連れて行って欲しいと頼む。

ダンテ劇場の舞台上では、ドイツ怪奇譚「ファウスト」を演じていた。

カリガリ博士が舞台脇から紹介すると、中央奥から混血らしき美しい娘が登場し、ドイツ語で芝居を演じはじめる。

ベルベリッヒ・カリガリが自己紹介をし、自分が脳神経学の結晶を見せると言う。

夢遊病でありかつ芸術家でもあるチェザーレ(山本昌之)を紹介すると、舞台中央に置かれた機械の中から、例の虚無僧を演じていたピエロ姿の男が出て来る。

カリガリは、この世は全て、電気粒子で出来ていると続ける。

精神電波を研究したとカリガリが言うと、ピエロ姿のチェザーレが尺八を吹きはじめる。

そのチャザーレは、未来を何でも見通す事ができるので、何か質問してみないかと客席を見回したカリガリダッタガ、立ち上がったのは本郷だった。

この国の未来、大日本帝国の未来はどうなると聞くと、チャザーレは、大地は裂け、炎は竜巻きとなって大地を嘗めつくし、無辜の民衆は生きながら灰と化すであろうと告げる。

そんなとんでもない予言をにわかには信じられないと言う顔つきをした本郷に気づいたのか、カリガリは、さわりを見せようかと言い出す。

やがて、機械の下部から白煙が噴出し、チェザーレが尺八を吹くと、その煙のスクリーンの中に、観た事もない飛行機や巨大なきのこ雲の映像が写る。

横にいた平井から、あれは何だと聞かれた本郷は、驚愕の眼差しで映像を見つめたまま、世界最新戦争だと答えるのだった。

今度は、精神電波が肉体に及ぼす影響をお目にかけるとカリガリが解説すると、花道から登場した女が、着物の上半身をはだけると急に苦悩しはじめ、その背中に鞭で打たれたような傷が浮き出て来る。

おのが脳の中で鞭打つイメージが、肉体に傷を作っているのだとカリガリは説明する。

舞台が終え、立ち上がった本郷に声をかけて来たものがある。

姿が見えぬので、周囲を見渡していた本郷だが、声の相手は小柄なマメ蔵(赤星)と言う男だった。

付いて来いと呼ばれたのは本郷だけで、平井は待たされる事になる。

楽屋に招かれた本郷は、待っていた女から、この劇場には昔から怪しげな声が聞こえたり、色々怪奇が起こると聞かされる。

折り入っての話と言うのは、すでに踊子が何人もいなくなったので探して欲しいのだと言う。

きっと、奈落の底に引き込まれたの違いないと言う。

奈落とは、舞台下の部屋の事かと本郷が訪ねると、この劇場は江戸時代、造り酒屋だったので、地下にたくさんの部屋があるのだと女は説明する。

学や外で、その二人の話を聞いていたマメ蔵が、奈落は地獄の底まで繋がっていると茶化して来る。

そのマメ蔵から詳しい話を聞こうと後を追い掛けて行った本郷は、化粧室に迷い込んでしまう。

折から、ザビーネが衣装を着替えるらしく、係の女たちと入って来たので、物陰に隠れた本郷は、着替える為裸になったザビーネが、ペンダントを落とすのを目撃する。

その頃、何時まで経っても戻って来ない本郷を探していた平井は、マメ蔵を追ううちに、壁に明いた奇妙な穴を見つけ、その中に入ってみる。

そこからは、地下室内で、先程傷付いた女の背中を嘗めているカリガリ博士の姿が見えた。

ザビーネが落としたペンダントを開けてみた本郷は、そこに貼られたいた写真が、森鴎外である事に驚きを隠せなかった。

ザビーネは、そんな本郷の行為に怒るでもなく、自らの首に付けさせると、自分達は追っているものが同じだと謎の言葉をかけて来る。

さらにサビーネは、「舞姫」を読んだ事があるかと、本郷に問いかける。

何時の間にか、満点の星の中に佇む二人。

あの星星も、恒星の集まりに過ぎない。私たちの地球も一つ、私たちの故郷は宇宙なのだと、ザビーネは教える。

本郷は、その話を聞き終わった後、部屋を後にする。

一方、穴の先の奇妙な空間に着いてしまった平井は、ここが奈落の底だと言う事に気づくが、丸窓から外を観てみると、そこは不忍池だった。

舞台では、ラインダンスが披露されていたが、真ん中で踊っていた踊子の上に白い糸状のものが垂れて来て、彼女を縛り付けると空中に持ち上げてしまう。

舞台の上に降り立って来た、奇妙な怪物の姿があった。蜘蛛男だった。

この劇場に巣食う魔物とはお前の事だったのかと駆け付けて来た本郷。

さらに、そこにやって来たザビーネは、悪しき宇宙人!マメ蔵、月の光を!と叫ぶ。

月の光を指輪に受けたザビーネが、呪文の言葉を唱えると、彼女の姿が鉄仮面怪人変身する。

君は何者だと聞く本郷に、私はシルバー假面と鉄仮面怪人は答える

そんなシルバー假面に、蜘蛛男が糸を降らし、がんじがらめに縛り付けてしまう。

そんな二人の対決を面白そうに観ていたカリガリ博士は、チャザーレは夢を観るものだと呟く。

夢に中では、皆無力、自分は科学者として、脳の中を再構成しただけと解説する。

そんな舞台の様子を、花道の奥からのれん越しに観察する平井。

人間は観たいものしか観られない、聞きたいものしか聞こえないと続けたカリガリは、その指輪を寄越せと、シルバー假面に迫る。

平井は、劇場の地下室と不忍池が繋がっていると本郷に伝えるが、チャザーレに捕まり、機械の中に封じ込められてしまう。

平井を人質に取られた形で、さらに指輪を要求されたシルバー假面は、仕方なく指輪を外すと、機械の中に入れたように見えた。

しかし、その指輪を奪ったのは、何時の間に近づいたのか、マメ蔵だった。

シルバー假面は、そんなマメ蔵に、本当の名前を言うわよと、シンデルシュタイン…と、奇妙な名前を唱えると、マメ蔵の身体は、手鏡の中に吸い込まれてしまう。

カリガリ博士は、舞台上で雨傘を広げると、フワフワと空中に浮かび上がって行きながら、チェザーレ、殺せ!と命じる。

舞台上では、蜘蛛男とシルバー假面が、対峙していた。

次の瞬間、どこからともなく剣を取り出したシルバー假面と手から糸を吹き出した蜘蛛男のからだが交差する。

一瞬の静止の後、蜘蛛男は倒れる。

その途端、本郷と平井は、どことも知れぬ外に立っている自分達に気づく。

そこは、浅草名物、花屋敷の中のようだった。

夢でも観ていたのかと呆然としながら、平井の自宅に戻った本郷は、留学先のドイツで、エリスと言うドイツ娘と恋に落ちた森鴎外の話を平井から教えられる。

ザビーネは、ドイツ人との混血だった。

森鴎外の家の場所を聞く本郷に、D坂の方だと平井は伝える。

その頃、自宅にいた森鴎外は、廊下の隅に強烈な光が発生した事に気づき、そこを観てみると、光の中からシルバー假面が出現し、やがて、ザビーネの姿に変身して鴎外に近づいて来る。

「父さん、ザビーネです」と、自ら持っていた月の指輪を示しながら話し掛けたその娘の姿を垣間見た鴎外は、すぐに、自分とエリスの娘である事に気づき、自分が持っていたもう一つの、太陽の指輪を出してみせる。

その時、屋敷内がにわかに暗くなり、奇妙な赤い光の中からカリガリ博士が出現する。

そして、世界を支配する二つの指輪をくれと二人に迫って来る。

そんな森邸にやって来た本郷と平井は、すでに屋敷に中がもぬけの殻で、一足遅かった事を知る。

再び、ダンテ劇場の舞台の上。

呼び込みの男が、太陽と月の二つの指輪を、踊りの二人の指にはめてやっていた。

チェザーレの姿が、合わせ鏡の中で蠢いている。

シルバー假面に変身したザビーネは、その合わせ鏡の世界に入って行き、チェザーレと戦う。

しかし、シルバー假面は、途中で力つき舞台に出て来る。

その姿を観たカリガリ博士は、人間が持つには、指輪の力が強すぎると笑う。

どんな人間でも弱味はあるのだとも。

ザビーネは、ファーザー!と叫びながら舞台上に崩れ落ちる。

歯車が廻ると、巨大な飛行船が、ダンテ劇場を壊しながら出現する。

その中には、蜘蛛男に変身したチェザーレとカリガリ博士が乗っていた。

やがて、どこかの地面から、太陽と月の二つの指輪を掘り出すものの姿があった。

この二つの指輪が、やがて、この国に業火をもたらし、世界全土を焦土にしようとは、誰も想像だにできなかった…。

指輪を掘り出した男の手は、地面にハーケンクロイツのマークを描く…。

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少女時代のザビーネ(渡邊エリー)が花畑で花を摘んでいる。

それを優しく見つめる母親エリス(アデイト)の顔がピエロに変わる…。

空を飛ぶ機関車の中の客席で目覚める大人のザビーネが悪夢の話をすると、前に座っていたエリスは、ただの夢よ、大丈夫と安心させるのだった。

やがて、機関車は、トンネルの中に入って行く…。

第弐話「於母影」 小林雄次 脚本、北浦嗣巳 監督。

大正9年、東京、人口217万人。

本郷にある自宅で、平井が寝込んでいるザビーネを看護している。

そこにやって来た本郷大尉は、あの事件は報告しなかったと平井に打ち明ける。

あんな途方もない話、信用されるはずがないからだ。

平井は、ザビーネが持っていた森鴎外の著書「於母影」を読んでみる。

デューラーの絵の中を旅するエリスとザビーネ。

1911年、ホルステンヴァル村に到着した二人だったが、突如、母親エリスの体調が悪くなり、牧場の所でしゃがみ込んでしまう。

心配して近づいて来た村人ハンスが言うには、医者は遠くにしかいないと言う。

結局、エリスは、その親切なハンスの家で休ませてもらう事になる。

村の神父も様子を観に来てくれている。

エリスは、自分達は、とある村の復活祭に参加する為、旅をして来た旅芸人だと自己紹介する。

エリスが占いをし、ザビーネが踊るのだと。

ザビーネは、ハンスに付き添っていた、自分と同じくらいの年頃の息子のフランツに挨拶をする。

大正9年、東京、上野、森鴎外が図書頭(ずしょのかみ)を勤めていた帝室博物館。

図書頭代理の小金井(堀内正美)が、訪ねて来た本郷に、依頼されていたカリガリの事を説明する。

彼の説では、カリガリと言うのは、代々名前を世襲して行く屋号のようなものではないかと言うのだ。

過去の文献をひも解いてみると、カリガリの名は、7世紀にも17世紀にも登場するが、これが同一人物だとしたら900才を超える事になる。

1784年には、ハーメルンにも現れ、130人もの子供が消えた記録があるとも。

ハーメルンと言えば、あの有名な笛吹男の話か?と問いかける本郷に、笛吹男の名前はカリガリだったと小金井が応ずる。

ポーランドの程近いホルステンヴァル村では、1500人の村人全てが消えたという記録も残っていると言うではないか。

公には、土砂崩れに巻き込まれたと言う事になっているが、人間だけが消えたのだ。

1911年、ホルステンヴァル村。

早く目的地へ向わなければと焦る母親だったが、身体が動かない。

12才のザビーネは、いつも子供扱いするは母親に、その母親が父親に指輪をもらった年まで、自分も後5年だと言ってみせる。

寝ていたエリスは、指輪を胸に当てると、輝く星のつながりの奥から、不思議な囁きが聞こえて来るとうっとりして話すが、指輪の力は大きく怖いものだとも呟く。

しかし、一番怖いのは、人間の欲望なのだとも付け加えたエリスは、指輪に触れたがっているザビーネに、大人になるまで指輪に触れさせないと釘を刺す。

その言葉に、ザビーネは、又子供扱いすると、ふくれるのだった。

空飛ぶ機関車は月に向う。

その中の座席では、ザビーネがエリスに、これまで何度も繰り替えしねだって聞いて来た、父親からもらった魔法の指輪の話を又せがんでいた。

ドイツに留学した森鴎外は、あちこちを旅していた。

やがて、険しい谷に入った鴎外は、どこからともなく、何か美味しそうな匂いがすると言う声を聞く。

自分は何も食べ物を持っていないと鴎外が答えると、その声は、お前そのものが美味しそうなのだと言う。

自分という存在が本当に分かっているものがいるのかと言うその声は、互いの一番大切なものを賭ける勝負をしないかと誘って来る。

いきなりの誘いに面喰らった鴎外だったが、日本男児として、命を賭けようと応じる。

魔物が問いかける問題は「西に飛ぶコウモリと東に飛ぶコウモリでは、どっちが早い?」と言うもの。

これに対し、鴎外は「そのコウモリは、ドイツのものかイギリスのものか?」と尋ね返し、それに魔物が怒ると、答えられなかったのはそっちの方だと鴎外から言われてしまう。

やられたと思ったのか、空から一つの指輪が落ちて来る。

魔物が、もう一つ指輪があるから…と聞いた鴎外は、今度はこちらが質問すると言い出し、5人の子供が鬼ごっこをやり、二人が捕まった。残りの子供は何人?と空に問いかける。

すると、魔物は、簡単じゃないか、3人だと答えると、してやったりと鴎外は、1人は鬼だから、海苔は2人が正解だと言う。

これには負けたと観念した魔物は、もう一つの指輪も空から落とす。

こうして、二つの指輪を手に入れた鴎外が、その場を立ち去りかけると、道ばたで泣いている身体が葉っぱで覆われた妖怪を見つける。

その妖怪は、二つの指輪を奪われたからには、僕になるしかないと言う。

こうして、その妖怪は、手鏡の中に入り込み、鴎外の持ち物となる。

その後、エリスと出会った鴎外は、金の指輪を自分が持ち、銀の指輪を愛するエリスに与えたのだった。

村では、ハンスの息子、フランツの姿が見えなくなったと村人たちが騒いでいた。

森に入ったのなら、狼がいるので早く助け出さないと危ないらしい。

すでに夕闇が迫っていた。

その話を聞いていたザビーネは、眠っていた母親の枕元からこっそり指輪を持ち出すと、満月の下で指輪を胸に当てると、星雲が見えて来た。

フランツを探して…と願うと、谷の下で傷付いて倒れているフランツの姿が見えた。

ザビーネは、鍵の谷の下に、フランツが落ちていると、村人たちに告げる。

その言葉を信じ、森の中に入って行った村人たちは、本当にフランツを見つけて村に戻って来るが、出血が酷くて、このままでは助からないと嘆く。

医者は遠方にしかいないからだ。

それを聞いたザビーネは、再び指輪に祈ると、月の光が指輪に集まり、その月光が指輪からフランツのからに向って放射すると、フランツの傷は見る間に癒され、気が付くのだった。

その頃、飛行船で空を飛んでいたカリガリ博士は、月の表面の異変を感知し、誰かが指輪の力を使ったと気づき、船を北北西へと進ませる。

翌日、村びとの間では、夕べ、ザビーネがフランツを治す時に使った、不思議な光の事で持ち切りだった。

神父にも、異教徒の呪文を唱えていたと告げ口するものが現れる。

ザビーネは、床から起き上がり、旅支度をしている母親の姿を発見する。

娘が黙って、指輪を使ってしまった事に気づいたエリスは、もうこの村にはいられない、次の町へ行こうとザビーネに言い聞かせるが、又、喀血して倒れ込んでしまう。

しかし、村人たちが投げてきた石が窓ガラスを割る。

大正9年、東京、上野、小金井が、19世紀まで行われた記録があったと言う魔女狩りの事を本郷に説明していた。

1911年、ホルステンヴァル村。

エリスとザビーネは、ハンスから裏門へと導かれ家を脱出するが、大勢の村人たちが彼女らを追って来た。

そこへ突然、飛行船が現れ、カリガリ博士が地上に降り立ったかと思うと、メガホンを通じ、エリスに、指輪を寄越し、契約書にサインしろと迫って来る。

しかし、そんなカリガリ博士に対しても、村人たちが石を投付けて来たので、人間と言うものは、少しでも様子が違うものは差別したがる…と嘆き、それに対し、自分は差別はしない。むしろ、全く無差別に人を殺すから、いわば、究極のデモクラシーだなどと言いながら光線銃を取り出すと、村人たちを次々に消し始める。

飛行船からは、チャザーレの放つ光線砲が同じように、逃げる村人たちを消滅させて行く。

それを観ていたエリスが指輪に祈るのを観たカリガリ博士は、何故、自分を迫害したものを助けるのだと不思議がるのだった。

チェザーレが、飛行船から村人消滅を繰り広げる中、ザビーネを連れ村を脱出しようとしたエリスは、途中の花畑で倒れてしまう。

エリスは、次の町は楽しいと良いね…、きっと良い所よとザビーネに話かける。

良い天気で、良い風が吹いていて…と夢見るように囁く母親の言葉を受け、きれいな花が咲いて、珍しい鳥が鳴いて…と続けたザビーネだったが、気が付くと、母親エリスは、すでに息絶えていた。

大人のザビーネは、空飛ぶ機関車の座席で目覚める。

目の前に座っていたエリスは、日記を付けながら、又、私の指輪を取ったでしょう?怒らないから、返しなさいと語りかける。

言われたザビーネは、私も返せれば返したいけど…と口籠る。

このままずっと、旅を続けられたら良いのだけれど…と哀しい顔になり立ち上がったザビーネは、目の前のエリスに向い、だって、本当の母親は左利きなんですものと言う。

目の前のエリスは、右手で持っていたペンをへし折る。

その時、座席の奥から、カリガリ博士がうっかりしていたと言いながら立ち上がり、エリスと列車の様子が変化しはじめる。

シルバー!指輪を突き出したザビーネは、シルバー假面に変身する。

雲間から地上へ向いはじめた機関車。

シルバー假面と共に地上に降り立ったカリガリ博士は、人生とは一幕のドタバタ喜劇なんだと言い放つ。

そこに出現したのが、コウモリ男ザムザ。

ザムザは、空中に飛び上がると、空から光線を放って来る。

シルバー假面も、空中へ飛び上がり、ザムザにキックして墜落させる。

負けを認め、立ち去りかけたカリガリ博士に、ザビーネの姿に戻ったシルバー假面が、ありがとうと声をかける。

その意外な言葉に戸惑い、振り返ったカリガリ博士に、ザビーネは、例え嘘でも母親に会えて良かったと伝えるのだった。

夕陽の中に佇むザビーネ。

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機械に入れられたチャザーレは、自分は死ぬのかと不安がる。

しかし、カリガリ博士は、精神を肉体から解き放つのだ!目覚めよ!鋼鉄のマリア!と叫ぶ。

第参話「鋼鉄のマリア」 中野貴雄脚本、服部光則 監督。

大正9年、東京。

女流作家江川蘭子と共に甘味処へ入った平井太郎は、一緒に連れて来たザビーネに、初恋の味カルピスを勧める。

蘭子はザビーネの美貌に見愡れ、知人の画家、高畠華宵に紹介したいと言う。

そんな三人は、外で女給が上げた悲鳴に驚き、そこへ出てみると、カラスが死んで落ちていた。

この所、毎日続いている現象だと言う。

ザビーネは、怖いよ!悪魔が来るよ!大地が裂け、炎は嘗める…と怯える小鳥たちの声を聞く。

再び、明瀬元次郎総督に呼出されていた本郷大尉は、憲兵の天数から、ザビーネに肩入れしているのではないかと嫌味を言われる。

見失ったカリガリ博士の飛行船の行方が杳としてつかめないと言うのだった。

カリガリ博士は、森鴎外と共に金の指輪を奪っている。

飛行船探索に憲兵を総動員しようとする天数に対し本郷は、カリガリ博士は幻惑術を使う怪人なのだから、脳神経学の権威に意見を聞くべきではないかと進言し、明瀬元帥もその意見に納得する。

その頃、女流作家に誘われて映画館に入った平井太郎とザビーネだったが、弁士(寺田農)が語る中、スクリーンで繰り広げられていた喜劇で笑っていた蘭子と平井が、突如気分が悪いと言い出す。

ザビーネが気づくと、彼女を除く観客全員が苦悶していた。

やがて、その観客たちが一斉に襲って来ようとしたのを観たザビーネは、それが又、カリガリ博士の仕業と気づき、鏡の中でカレーを喰っていたマメ蔵を呼出して、観客たちを外へと誘導させる。

そこへ、騒ぎを聞き付けた本郷らが駆け付けて来る。

ザビーネがシルバー假面に変身すると、鋼鉄ロボットマリアが出現。

観客席で格闘が始まるが、その時、まだ喜劇が続いていたスクリーンの中に、突如大きなカリガリ博士の顔が現れる。

そして、今必要なのは殺戮だと言うと、鋼鉄ロボマリアも、そのスクリーンの中に入り込み、驚く、劇中の役者たちを他所に、二人で画面の奥に立ち去って行くのだった。

シルバー假面はその場に倒れ込む。

ザビーネに戻った所を助け起こした本郷は、まだ、身体が直り切っていないのだと諭すが、ザビーネは、あなたに会ってもらいたい人がいると言い出す。

築地ホテルに連れて行かれた本郷は、ロケット工学の権威カール・ゲルマーなる人物とヘルガと言う女性と対面する。

彼らは、自分達は、宇宙人から地球を防衛する、ドイツとオーストリアを拠点とするトゥーレ協会と言う組織の人間でだと自己紹介した後、バイキングの伝説を話しはじめる。

それによると、金と銀の二つの指輪が一つになる時、大蛇がミッドがルドを呼出すと言う。

ミッドガルドと言うのは一種の磁性体で、それを使うと地軸を曲げる超磁力兵器になると言う。

それを「光子」と仮に呼ぶと、その光子を使えば、恒星間飛行も可能になるのだとも。

彼らの前のテーブルには、V-1ロケットの模型が置かれていた。

狡猾な宇宙人は、世界中のユダヤ資本と結束し、人民を不安に陥れているので、純潔のアーリア人のみが、それと戦うのだと言う。

さすがに、そんな話に付いて行けなかった本郷は、その場を立ち去ろうとするが、入口付近で彼に握手を求めて来たもう一人のドイツ人は、アドルフ・ヒットラーと名乗り、彼が持っていたスケッチブックには、ハーケンクロイツのマークが描かれていた。

その後、平井の自宅を訪れた本郷は、ザビーネが何を考えているのか分からんと吐露する。

平井はと言えば、又、探偵小説を書いていたと言うので、その原稿を読んだ本郷は、隠しものはわざと目につきやすい所に隠せと言う論法に乗っ取り、あっさり文中のトリックを見破ってしまうが、その時、カリガリ博士も意外と身近な所にいるのかも知れないと気づく。

大学病院分室に戻った本郷は、部屋の中が映画のフィルムだらけになっているのに驚く。

そのフィルムを取り寄せたらしい天数が出て来て、自分の趣味は映画なのだと意外な事を言いながら、フィルムのヒトコマを本郷に見せる。

良く観てみると、16コマに一コマづつ「殺」の文字が挟み込まれていた。

そこに、明瀬総督が、帝大の敷島博士(ひし美ゆり子)を連れて来る。

敷島博士の教室に向った三人は、博士から周波数を人間の可聴範囲を超えた高い領域にしてレコードを聞かせられる。

彼らには何も聞こえなかったが、明瀬総督が急に咽が乾いたので、お茶をくれと言い出す。

その後、そのレコードの音域を通常の周波数に戻してみると、「咽が乾いた、何か飲みたい」と言う声が聞こえて来る。

それを観た本郷は、この手法を使えば、集団催眠術が行えますねと問いかけると、ユングの集団幻想論ねと笑顔で敷島博士も肯定する。

天数は、本郷からの指示で、麹町分隊の憲兵を総動員して、カラスの死体を探させていた。

意味が分からないで苛立っている天数に、カラスは、空中で何かにぶつかって落ちて来ているのではないかと本郷が仮説を述べる。

それが、カリガリ博士の飛行船ではないかと言う事に、天数も気づく。

その後、公園の橋の上でザビーネと再会した本郷は、君が差別主義者だとは知らなかったと皮肉を言うが、ザビーネは、あの人たちには付いて行けないが、指輪の秘密を理解しているのはあの連中だけなのだと苦悩の色を浮かべる。

いっそ、この指輪をこの池に捨てる事ができれば…、私は一体どうすれば良いのと言いながら、ザビーネは本郷にしがみついて来る。

その時、ザビーネは又、怖いよ!悪魔が来るよ!と言う小鳥たちの声を聞く。

ザビーネは「来るわ!」と本郷に警戒させる。

にわかに、池の水が暗くなる。

何か巨大なものの影が迫っていたのだ。

町に戻った二人は、ラジオの前でもがき苦しんでいる民衆たちを発見する。

その原因が、ラジオから流れて来る放送にあると気づいた本郷は、近くにいた天数に、そのラジオを撃って破壊させる。

浅草十二階の側に、カリガリ博士の飛行船が出現する。

ザビーネと本郷は、十二階のエレベーターに乗り上に向うが、突如、エレベーターが止まり、そのまま、飛行船から綱に繋がれていたエレベータ箱ごと上空に引き出される。

飛行船の中に引き込まれた二人は、機械に縛り付けられた森鴎外の姿を見る。

彼らの前に現れたカリガリ博士は、銀の指輪を差し出さねば、鴎外を殺すと言う。

観念したザビーネは、指輪を渡すと言うが、それを止めようとした本郷は、後ろから近づいて来た鋼鉄ロボットマリアに羽交い締めにされてしまう。

やがて、ザビーネから銀の指輪を受取ったカリガリ博士は、王は一人の愚者だが、最も腐っているのは100万の民衆だ、皆滅びろ!と叫び、二つの指輪を合わせようとする。

本郷は拳銃を取り出し、それを防ごうとするが、突如彼の足元が開き、本郷は空中へ落ちて行く。

目覚めよ!大いなる悪、ミッドガルド!とカリガリ博士が叫び、地上では大地震が発生する。

しかし、次の瞬間、何者かが放った銃弾が二つの指輪を弾き飛ばしていた。

見ると、外に放り出されたはずの本郷が、飛行船の鉄骨部分にしがみついているではないか!

落ちた指輪の一つを拾ったザビーネは、それを指にはめる。

その時、機械に縛り付けられていた鴎外が目覚め、落ちていたもう一つの指輪を拾うと、賭けで決めないかとカリガリ博士に迫る。

そうして、両手のどちらに指輪を掴んだか当てろと言う。

カリガリ博士は、迷ったあげく左手だと言うが、開いた鴎外の手の中に指輪はなかった。

では左手だったか!と悔しがるカリガリ博士だったが、開いた左手の中にも指輪はなかった。

鴎外は、にんまりとしながら、首筋の後ろから指輪を出してみせ、約束だから、地球から去れと、カリガリ博士に命じるのだった。

しかし、ふざけるな!と叫んだカリガリ博士だったが、変身したシルバー假面に殴られると、こうもり傘を開いて、飛行船の外に飛び出して行く。

シルバー假面は、鋼鉄ロボットマリアと格闘になる。

シルバー假面が差し出した指輪から出た光線が、マリアを飛行船の外に弾き飛ばしてしまう。

その後、鴎外を抱いて、外に飛び出したシルバー假面は、鉄骨にしがみついたままの本郷から助けを求められ、彼の存在をすっかり忘れていた事に気づく。

関東大震災で炎上する都心を川の対岸から眺めながら、鴎外はザビーネに、エリスを捨てた自分を憎んでくれと謝罪していた。

しかしザビーネは、あなたは素晴らしい人で、それを自分はこの目で確かめる事が出来たので、ドイツに帰ると答える。

その時、その土手で気絶していた本郷は、後にドイツへ留学する事になり、出航する船に乗り込もうとしていた。やがて、彼は満州で関東軍を指揮する事になるのだが、そんな彼を、妻と共に見送りに来ていた平井は、ようやくデビュー作が掲載されたと言う「新青年」と言う雑誌を本郷に手渡す。

「二銭銅貨」と題されたその探偵小説の筆者名は「江戸川乱歩」とあった。

平井太郎のペンネームなのだと言う。

そんな平井夫婦に別れを告げ、船に乗り込んだ本郷は、そこで再びザビーネと再会する。

本郷は、我らの軍が大陸に乗り出し、やがて大きな戦争が始まるだろうと予言する。

ザビーネは、二人が出会った時観た満点の星の事を覚えているかと、本郷に問いかけて来る。

私たちの故郷は宇宙、差別のないさすらう星の元に生まれた者同士なのだと彼女は言い、一緒に自分の側にいて欲しいと、暗に求婚した本郷の言葉を遮る。

海の向こうに何が待っているのか…、破滅かも、遠い世界の果てなのかも知れないとザビーネは呟く。

指輪は、ヨーロッパに向っていた。

そして、長い戦乱が始まろうとしていた…。

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▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

原案の佐々木守氏と、総監督の実相寺昭雄氏にとっては遺作となった作品。

奇しくも、製作を担当した桜井浩子、第参話に登場するひし美ゆり子を加えると、封印された「ウルトラセブン 12話 遊星より愛を込めて」以来の再結集作品とも言える。

ただし、かつてテレビ放映された特撮番組「シルバー仮面」とは全くの別物である。

オリジナルDVD作品なので、特撮アクションものとしてはチープそのものと言うしかない。

どちらかと言うと、「帝都物語」にも似た大正ロマンの雰囲気を楽しむ趣味的作品だと思う。

森鴎外、後に江戸川乱歩になる平井太郎をはじめ、実在した人物をモデルにしたと思われるキャラクターが登場したりして、奇想の世界を繰り広げる。

そうしたシュールな設定の面白さと、着ぐるみヒロインに変身した後の、チープで凡庸な戦いのアンバランスさがどうしても気にならないと言えば嘘になる。

もっと、戦い方にも、等身大なりの工夫があって良かったのではないか?

第弐話での、外国人による片言の日本語セリフも、ドイツ語をしゃべれる人集めが出来なかった為の苦心の演出かとも想像するが、森鴎外と魔物とのユーモラスな掛け合い等を観ていると、案外、意図的な演出だったのかも知れない。

何やら、続編を暗示する終り方だが、今後、シリーズ化される予定なのかも知れない。