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囁く死美人

1963年、大映東京、原田光夫原作、目白一夫脚本、村山三男監督作品。

この作品はサスペンスですので、後半、意外な展開がありますが、最後まで詳細にストーリーを書いていますので、御注意下さい。コメントはページ下です。

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河田病院の院長室に、指を爪を剥がしたと河田院長(花布辰夫)の娘の令子(浜田ゆう子)がやって来る。

しかし、父親に観て欲しいのではなく、菅先生の方が良いと言う。

実は、このところ、令子はしょっちゅう、小さな怪我をわざとしては、お気に入りの菅に会う口実にして、病院を訪れていたのだった。

その頃、当の外科医長菅(川崎敬三)は、オペの最中だった。

オペが終わった後、看護婦たちは、この院長の娘の行動を面白おかしく話題にし始める。

それを聞いて、独り顔色を変えた看護婦がいた。

丹羽不二子(万里昌代)だった。

令子は、ちゃっかり、菅に指の手当てをしてもらった後、今度、三浦半島へドライブへでも行かないかと誘う。

菅の方も、気楽に承諾していたが、そこへいきなり入って来たのが不二子、オペした患者の容態が急におかしくなったと言う。

しかし、それは口実で、暗室に菅を連れ込んだ不二子は、ここではじめて交わした口づけの事を思い出させながら、話があるので、今夜菅のアパートに行っても良いかと尋ねる。

その後、部屋に戻った菅は、令子の姿がもうなく、置き手紙だけが置いてあるのを発見する。すでに帰ったらしい。

その夜、アパートに帰って来た管を待ち受けていたのは不二子で、いつものように厚い口づけを交わすと、まさか、これまで付き合って来た自分を捨てて、院長の娘と結婚しようとしているのでは?と問いつめるが、菅は単なる思い過ごしだと否定するのだった。

しかし、その翌日、院長の河田に呼出された菅は、娘の令子をもらってくれないか、あれは君の事を惚れている。もし結婚してくれたら、この病院も継いでもらうし、新婚旅行をかねたヨーロッパ行きでは、ミュンヘン大学のアイシング教授に会えるよう紹介してやっても良いとまで、好条件を提示して来る。

取りあえず一日考えさせてくれと答えて引き下がった菅だったが、たまたま、入院患者から送られた花を院長室に飾りにやって来ていた看護婦に聞かれ、その噂はたちまち看護婦たちに知れ渡る事になる。

又しても、その話を聞いていた不二子は愕然とし、すぐさま外科医長室の菅を尋ねると、事の真偽を問いただすが、菅は、院長には断れない義理があるし、提示された条件には魅力もある。それに、もう、君とは溝が出来ているので、この辺で、ドライに割切って、結婚とは別に付き合って行こうじゃないか等と冷たい事を言い出す。

それを聞いた不二子は激昂し、結婚できないようにしてやる。これまでの二人の事を全部、院長に話してやると部屋を飛び出そうとする。

売り言葉に買い言葉の形になり、つい菅も、出て行け!二度と俺の前に姿を見せるな!と怒鳴り付けてしまう。

部屋を出た不二子だったが、やはりその場は立ち去り難く、廊下の陰で涙するのだった。

逆に、菅の方は意を決したように、院長室に向うと、令子との結婚を承諾する。

不二子は、そんな菅に、妊娠した事実を打ち明けるが、菅はすぐに堕ろせと言う。

そこにやって来た院長が、今日、自宅に来て、令子の手作りの料理を食べに来てくれと菅に伝えたのを聞いた不二子は、菅が院長との娘との結婚を承諾した事を知り、完全に逆上して、立ち去って行った院長に何もかも打ち明けると追おうとする。

それを止めようとした菅ともみ合いになった不二子は、足を踏み外し、階段を落ちて気絶してしまう。

看護婦たちがそれに気づき近づいて来たので、菅も何喰わぬ顔で、自分も今気づいた風を装い、手術室に運ばせる。

この墜落事故の結果、検査を受けた不二子が妊娠していた事実が、看護婦たちにも知られてしまう。

その夜、河田家に出向いた菅は、令子から、結婚したら、この家で両親と一緒に暮して欲しいと言われ、承知する。

足を骨折していた不二子の手術をしたのは、菅に代わり長谷川と言う医者だったが、彼によって、流産した子供も掻爬されてしまう。

その後、病室に様子を観に入って来た菅が、薬を飲ませようとすると、不二子は、毒殺されたくないと頑な態度を見せる。

階段から落ちたのも、菅に胸を強く押されて、わざと落とされたのだと彼女は思い込んでいたのだった。

それを聞いた菅は、許してくれと低姿勢になり、君と結婚するつもりだから、そんな人聞きに悪い事は言わないようにと口止めをする。

しかし、その後一人になった菅は、邪魔な存在になった不二子を殺す決心をする。

一方で、令子とは、新婚旅行で廻るヨーロッパ旅行の打合せ等を進めていた。

その翌日、片足が不自由になった不二子が病室からいなくなったときかされた菅は、病院内を探すが、まだ歩けるはずがない不二子が、鬼気迫るような形相になって執念のように松葉づえを使い、廊下を必死に歩く練習をしている姿を見つけるのだった。

その夜、10時半。

昼間、止めるように病室に戻した不二子が、又、松葉づえを使って歩いている音が、菅の外科医長室にも聞こえて来る。

部屋に入って来た不二子は、お嬢さんと結婚する気ね!と近づいて来ると、菅が毒物の本を呼んでいる事を見つけ、自分を毒殺するつもりなのねと逆上する。

駆け付けて来た看護婦に、不二子に鎮静剤を注射してベッドに寝かせるように指示した菅は、革手袋をはめて21号室に向い、一人で寝ている不二子を確認すると、一旦、車に乗り病院から帰ったように見せ掛けると、深夜1時、裏口から病院に侵入し、又21号室に入って行く。

薬でぐっすり寝ている不二子を抱えた菅は、松葉づえも一緒に運び出し、非常階段を使い、裏庭に降りる。

その途中、松葉づえを落としてしまい、物音を立ててしまうが、幸い誰にも気づかれなかったようだ。

裏庭の貯水プールの淵に不二子を降ろすと、その頭を水に押し込んで溺死させようとすると、しばらくして、目覚めた不二子が必死に頭を水の上に出そうと足掻いて来る。

「苦しい!苦しい」と呻く不二子の顔を観た菅は、ますます、力を込め水の中にその顔をつけると、とうとう溺死させてしまう。

死体をプールの中に沈めると、松葉づえを近くの草むらに捨て、菅は帰る事にする。

翌朝、出勤して来た菅は、当直の看護婦の細川が、病室から丹羽の姿がいなくなっている事に気づいたとの、婦長(響令子)からの連絡を聞かされる。

菅はさり気なく、怪我を悲観して自殺したのかも知れないから、警察沙汰にはしない方が良いだろうと忠告する。

それでも、一応、婦長は、九州にいると言う不二子の家族に連絡をする事にする。

菅は、その後、18時間経っても、プールに浮かんで来ない不二子の死体の事を不思議がりはじめる。

通常、一昼夜で腸内ガスが発生し、浮かび上がるはずなのに、二日経った今日も浮かんで来ないと言うのは奇妙だった。

その間、菅はさり気なく、令子とドライブ等を楽しんでいたが、心の奥底には、消えない疑念がこびりついていた。

四日経っても、不二子の死体は上がらなかった。

まさか、死んでいなかったと言う事はないだろうかと、菅は不安になって行く。

病院では、婦長が院長に、不二子の家族から、失踪届けを警察に出してくれと連絡があったと伝えていた。

一週間経っても、不二子の死体は浮かんで来なかった。

菅は、彼女が足にはめていたギブスが水を吸って重くなり、骨にはめていた金属の重さもあって浮かばないのだろうと、自分で納得しようとする。

河田邸で、令子と菅の結婚披露パーティを内々で行っていた所へ、病院から電話が入り、院長が出てみると、用水プールから不二子の死体が浮かび上がったとの連絡だった。

新聞記者たちが病院に押し寄せ、死因に付いて質問して来るが、担当刑事(中条静夫)は、監察医院で解剖してみると答えて帰る。

菅は、医師として、失踪当夜、鎮痛剤を打った話をし、不二子には夢遊病的症状があったと説明する。

そこへ、プールをさらっていた刑事が、ロケットが沈んでいたと持って来る。

もしかして、その中に、自分の写真が入っているのではないかと、目の前で開けられようとしているそのロケットを息を詰めて見つめていた。

しかし、中の写真は長時間水に漬かっていたため、ふやけてしまい、誰が写っていたのか判別は不可能だった。

管と令子は、新婚旅行のヨーロッパへと旅立ち、予定通り帰国して来る。

河田病院の事実上の跡取りになった菅は、院長に、今後の病院経営の為、手術室の改良、全部屋の冷暖房等が必要と言い、その為に、裏庭の用水プールを埋め立てて、そこに新しい病棟を作ってはどうだろうかと進言する。

その日帰宅してみると、庭の植木に松葉づえが立て上げている。

令子にこれはどうした?と聞くと、先程、足を追った女の押し売りが来たので、その人が忘れて行ったものだろうと言う。

菅は、嫌な偶然に気持ちを乱しながら、すぐに処分するよう令子に命ずる。

翌日、交通事故の急患が運ばれて来たと言うので、オペを始めようと手術室に行って患者の顔を確認すると、すでに死人だったので、驚く。

婦長が言うには、つい今まで息をしていたのだと、不思議そうに説明する。

無気味な事の連続に腐りながらも部屋に戻って来た菅は、部屋の中で「今夜10時に、暗室へ」と書かれた紙を見つける。紛れもなくその字は、不二子の字だった。

その夜、9時40分、外科医長室にいた菅は、廊下を歩く松葉づえの音を聞く。

ドアを開けて外を覗いてみると誰もいない。

窓の外では、稲光が光っていた。

念のため、暗室に行ってみた菅だったが、やはり、そこには誰の姿もなかった。

懐中電灯で部屋を確認した後、念のため、部屋の電燈を付けようとスイッチを入れるが付かない。

諦めて部屋を出ようとすると、そこで何故か電気が付く。

部屋に戻ってきた菅は、あの置き手紙は、不二子が以前書いたものが、たまたま出て来ただけだったんだろうと、自らを納得させようとするが、その時、又しても、廊下に松葉づえをつく足音が響く。

恐れながらもドアを開けると、何とそこに、不二子が立っているではないか!

怯えた菅は一旦部屋に煮込むが、考え直し、もう一度ドアを開けると、もうそこには不二子の姿はなく、代わりに、患者の名簿を整理ていたと言う婦長が通りかかる。

やがて、用水プールの水の抜き取り作業が始まる。

菅は、不二子の水死体を確認した婦長を呼びつけると、不二子の顔は腐乱していたか確認する。

水中にいる虫の為か、相当腐乱が進んでいた事は確かだが、その服装や、右足につけたギブス等から、不二子に間違いなかったと証言した婦長は、ひょっとして先生は、彼女の死を疑っているのかと不審がる。

今となっては、菅は確信していた。

不二子は生きているのだと。

その世から、令子と共に自宅のベッドで寝ていた菅は、苦しい!良くも私を殺したわねと迫って来る不二子の悪夢を観て、起き上がる。

その気配で一緒に起きた令子は、どうしたのかと菅に近づこうとするが、その顔が、菅には不二子に見え、出て行け!と叫ぶ。

心配して、その事を父親の院長に報告した令子は、それは被害妄想であり、菅は誰かに脅迫されているのかな?と父親から言われ、戸惑う。

翌日、病院へ出勤した菅は、院長から呼ばれ、ひょっとしたら、女の事で、何か悩んでいるのじゃないかと聞かれるが、そんな事はなく、一種の自律神経不安症だと思うと菅は答える。

しかし、その直後、突然帰宅した菅は、父親に自分の事を密告した令子を呼ぶと、その行為を酷く叱りつける。

そこへ、お手伝いさんが、以前来た女の押し売りが又表に来ていると言いに来たので、勘に触った菅は、いきなり玄関に飛び出して行き、その押し売りを捜しまわるが、どこにも姿は見えなかった。

やがて、不審がる令子を残し、何も言わずに菅は車で外出してしまう。

その異常な姿を観た令子はますます不安になり、病院の父親に電話を入れる。

話を聞いた院長は、近い内に神経科の永宮君と一緒に菅を診るから、お前もその時来るように伝える。

その菅は、独りドライブをする車のバックミラーの中に、不二子の顔を何度も観て、その度に後部座席には誰もいないのを確認しながら、すっかり怯えきっていた。

ようやく病院に着いた菅だったが、自分自身に落ち着くように命じていた。

全ては、自分の妄想が生み出した幻聴や幻視なのだと。

その夜の10時半、やはり、部屋で仕事をしていた菅は、又、女の泣き声を聞く。

幻聴なのか?と自分で疑ってみる。

そこへ、又、松葉づえを使う足音が響いて来る。

怯えてドアを開けて廊下を見渡しても、誰もいない。

風で窓が鳴ったので、ふと窓の外を見ると、そこに不二子の姿があるではないか!

恐怖にかられた菅は、机の上にあった灰皿を投付け、窓ガラスを壊してしまう。

翌日、菅は、監察医院に向う事にする。

最初からこうやっておけばはっきりしたのだ。

用水プールに上がった水死体の解剖所見を見せてもらった菅は、右足の傷の跡から、それが、間違いなく不二子の遺体であった事を確認する。

ある日、院長から呼ばれた菅は、今日6時から、帝国ホテルで、藤村博士」の祝賀会が行われるのだが、どうしても自分はいけない用があるので、代わって行ってくれないかと言う。

快諾して病院を出た菅は、自宅に戻ると、ホテルに来て行く為の着替えを出すよう令子を探すが、その姿がない。

不審に思い、お手伝いさんに尋ねると、病院へ出かけたと言う。

何しに病院に言ったのか考えた菅は、すぐに、この前のように、自分の事を疑い、父親に相談に行ったに違いないと気づく。

病院で、父親と神経科の永宮博士に、菅の最近の行動を話した令子だったが、これを打ち明けた事をあの人に知られたら何をされるか分からないと怯える。

父親は、ホテルの祝賀会に出席しているのだから、戻って来るはずはないと娘を安心させようとするが、そこに車が戻って来る音が聞こえ、令子が窓から病院の玄関口を見下ろすと、はたして、菅が戻って来ていた。

急いで、令子は病院から帰ろうと階段の所までやって来るが、下から登って来た菅と出会い、捕まってしまう。

菅には、捕まえた令子の顔が、不二子の顔にダブって見え、つい恐怖の為、階段から又突き落としてしまう。

院長始め、又、看護婦たちも寄って来て、落ちた令子の容態を調べると、足と膝をやられている事が分かる。

菅は、自分がオペをすると言い出す。

レントゲンで確認した所、やはり、頭の方は問題なかったが、右足関節の骨折と分かる。

婦長は、看護婦は、外科病棟から呼び寄せたと知らせて来る。

8時35分、オペが始まる。

順調に執刀していた菅だったが、看護婦の一人に汗を拭かせたとき、ふとその顔を見ると、マスクの下の顔は不二子であった。

恐怖の叫びを上げた菅は、手術中にもかかわらず錯乱し、看護婦たちが呼び掛けても正気に戻らず、壁にかじりついてしまう。

その騒ぎを聞き付け駆け付けて来た院長は、菅を部屋に下がらせると、オペは自分が継続すると言い出す。

部屋に戻って来た菅は、その後から不二子に見える女が入って来た事に気づく。

菅は、やっぱり、不二子は生きており、あの水死体は、自分の身替わりとして、誰かを殺したんだろうと迫る。

それを聞いていた不二子に見える女は、悪人同士取り引きしないかと菅に迫り、自分はあなたの命が欲しいと迫って来る。

思わず、その不二子似の女の首に手をかけた菅に、私を殺す気?妹を殺したように…と、その女は言う。

私たちは双子よ…とも。

そこに、婦長が入って来て、ここにいる不二子の姉、志津子から何もかも聞いたので、あなたの正体を暴く為、これまで志津子の芝居を手伝っていたのだと告白する。

不二子は、菅との事を以前から姉だけは全て打ち明けていたのだった。

思わず、メスを握りしめ、二人を部屋から追い出した菅だったが、これで何もかも終わったと悟ると、棚から毒薬の瓶を取り出し、一気に飲み干すのだった。

その直後、監獄たちが部屋になだれ込んで来るが、そこには、毒の効果が現れだした菅の最後の姿があった。

ふらつきながら、菅は心の中で呟いていた。

こんなはずじゃなかった…。俺の負けだ…。不二子が俺を呼んでいる。水の下から呼んでいる。

だんだん…、俺のからだが…、沈んで行く…。

そして、菅は床に倒れて行った。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

怪談風のサスペンス劇。

万里昌代が出ている事もあり、一瞬、新東宝の作品か?と、迷ってしまうが、大映の作品である。

古臭い探偵ものでも観ているような陳腐な展開と演出なのだが、当時としては、これでも斬新なサスペンス手法だったのかも知れない。

いかにも気が強そうな顔だちの万里昌代のキャラクターと、逆に、気の弱そうな役が良く似合う川崎敬三を巧く生かした設定だが、川崎はエリート外科医と、一人の女に滅ぼされて行く脆い精神構造の男の二面性を良く演じている。

後半、その川崎の錯乱気味の主観で描いてあるので、最後までホラーなのか犯罪ものなのか、観客にも分からない所が憎い。

刑事役として、若き日の(と言っても、印象は晩年とほとんど同じ。髪の毛の量が多いのが違うくらい)中条静夫がちらり顔を見せている。

特に面白い!と言うほどの出来でもないが、川崎敬三の悪役振りが、ちょっと珍しい作品かも知れない。