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狙われた娘

1957年、東宝、土屋隆夫「傷だらけの町」原作、若尾徳平脚本、丸山久信脚本+監督。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

渋谷東宝、スカラのネオンサインがきらめく夜の渋谷。

その街角で佇む一人の若い女性、藤川若枝(青山京子)が「私ではない!私ではない!…」と繰り返し呟く。

タイトル

大東薬品営業部に勤務するオフィスレディ若枝は、その日、輪仮の社員たちが浮き立っている賞与の日だと言うのに、独り机に座り憂鬱な顔をしていた。

経理課へ足を運びかけた彼女は、発送部の町田(伊藤久哉)を訪ね、借りていた金を何とか今日中に返すと申し出る。

町田は、社員達相手に金貸をしている男で、皆から嫌われていたが、若枝は、事情があってそんな町田から謝金をしていたのだった。

町田は若枝に気があるのか、返済等いつでも良いと甘い事を言ってくれる。

さらに面白がるように、町田は、借金の事、北村は知っているのかと聞いて来る。

北村を若枝の恋人である事を知った上での嫌味だった。

やがて町田は、今日、モカで待っていてくれと若枝に嫌らしい目つきで囁きかけて来る。

経理課の前に来た若枝は、年上の社員(佐田豊)から話し掛けられても上の空状態。

今日これから、人殺しをするはめになった三日前の出来事を思い出していた。

その日も、会社にいつも出入りしている角地梱包のトラックに乗って、バイトの北村ヨシオ(久保明)がやって来たので、二人に仲を知っている社員たちが若枝に知らせてやる。

そうした周りの配慮に照れながらも、北村と出会った若枝は、就職試験の結果を尋ねる。

10人の募集に500人も集まったと言う難関の会社だけに、北村も取りあえず、筆記は頑張ったけど…と答えるだけだったが、若枝が立て替えてくれた学費は、少しづつ返済すると言う。

しかし、若枝はそんな事気にしなくて良いと言うが、町田を嫌っている北村は、あんなやつに絶対金を借りるんじゃないよと念を押して来る。

あの金は、下宿のおばさんに借りたものだから心配しなくて良いと言いながら、いつもの場所で会う事を約束し、北村と別れた若枝だったが、本当は、恋人を卒業させたい一心で、やむなく北村が嫌っている町田から金を借りていたのだった。

約束の渋谷に向う電車の中、若枝は今こそお金が欲しい時はないと悩んでいた。

そんな若枝の隣のつり革に、一人の酔っ払い(有島一郎)が立つ。

朝から酔っているらしく、財布を落としたと、座席の客から拾ってもらった様子を何気なく横目で観ていた若枝は、その男が財布をポケットに入れようとして、又床に落としてしまうのを見る。

慌てて、拾ってやった若枝だったが、立ち上がると、今まで隣に立っていたその酔っ払いの姿がない。

渋谷に着き、ホームに降りて酔っ払いを探すが見つからない。

駅員の姿を見かけた若枝は、手にしていた財布を渡そうかと迷うが、すぐに自分のコートのポケットにしまいその場を立ち去ろうとする。

階段を降りた所で、若枝はあの酔っぱらいに立ち塞がれる。

財布を返そうと探していたんだと弁解する若枝に、こっちもホームでさんざん探していたんだと、相手は睨み付けて来る。

すでに、財布をポケットに入れてしまった弱味もあり、若枝は酔っ払いの言うがままに外に出る事になる。

途中、近づいて来る警官たちとすれ違うが、二人は、知り合いを装って、その場をやり過ごす。

駅を出て、人気のない工事中の建物の中に連れて来られた若枝は、財布の中身を確かめると言われ、黙って様子を観ていると、中に1万2000円入れていたのに、2000円しかないじゃないかと酔っ払いから言い掛かりを付けられる。

知らないと反論する若枝だったが、相手は、若枝のバッグの中を探りはじめる。

ハンカチを取り出すたその男は、君の悪い笑顔を見せ、それを奪ってしまう。

さらに、定期券から、勤めている会社名、自分の名前や20才と言う年令まで相手に知られてしまう。

結局、若枝は、警察に憩うと脅された事がきっかけになり、妙な事だが、相手の言いなりになるはめになる。

それは、サンドイッチマンの被る着ぐるみを着て、指定された場所を歩き回ると言う仕事だった。

子供の姿をかたどった、その着ぐるみを着て、通行人にビラを配ると言う単純作業だったが、その姿のまま、彼女は、北村との約束の場所に出かけてみると、案の定、彼が待っているではないか。

しかし、何も言えず、その格好のまま彼の前に立った若枝は着ぐるみの中で涙していたが、当然ながら、目の前の北村は全く気づいてはくれなかった。

その後、男からの指定通り、8時に「続青い山脈」の最終回が始まる渋谷東宝の前に立った若枝は、工事中のビルの中に戻って来ると、待っていた男から、バイト賃だと言って金をもらう事になる。

訳が分からないながら、取りあえず、男から解放された若枝は、待合せの場所に向うが、もうそこには北村の姿はなく、がっかりして立ち止まっていると、肩を叩くものがいる。

町田だった。

自分でも説明がつかない気持ちだったがが、若枝はつい、その町田に酒って美味しいかと聞いてしまう。

トリスバー「りんだ」に連れて来られた若枝は、はじめて酒を飲む。

町田は、若枝が、先生になりたくて、今、夜間学校に通っている事を知っていた。

自分も昔は、貿易をやりたくて、英語を勉強していた事もある等と自嘲気味に話す。

しかし、一流の貿易会社に入るには引きがなければ…と、もはや、そんな夢は諦めたようだった。

今では、金が人を動かすんだと、すっかり金貸になり切った言葉を吐く町田は、女は金を返そうと思えば色々方法があるからうらやましいなどと、野卑な事を言い出したので、にわかに嫌悪感を覚えた若枝は外に逃げ出してしまう。

酔って下宿先に帰って来た彼女を待っていたのは北村だった。

何故、約束の場所に来なかったのかと聞くので、いい加減な嘘を答えた若枝だったが、北村は、君は信用できないと言い出す。

彼は、若枝が貸してくれた金の出所が、下宿のおばさんでない事を知ったようだった。

自分の家賃さえ払えない状態の若枝に、おばさんが金等貸すはずがなかったのだ。

貧乏人の生き血を吸って生きているような町田から借りたのなら、必ず自分で返すと言い放って、怒った北村は、止めようとする若枝を振り切って走り帰ってしまう。

翌朝、若枝は二日酔いで、なかなか布団から出られなかった。

そんな彼女の部屋へ、朝刊も持って来がてら覗き込んで来たおばさん(水の也清美)は、二日酔いする金があるのだったら、家賃を払ってくれと嫌味を言って下に降りて行く。

そんなおばさんを亭主(沢村いき雄)がなだめる。

若枝は、亭主が昔世話になった男の娘だったのだ。

しかし、おばさんはそんな弱腰の亭主の言う事等無視し、朝刊に出ていた渋谷のサンドイッチマンの妻殺しの話題を大声で話しはじめる。

何でも、亭主にはアリバイがあり、被害者の左手には女物のハンカチが握られていたと言う。

寝床でそれを聞いた若枝は蒼ざめて朝刊を広げてみる。

箱山と言う名で、殺された妻と一緒に写真が載っていたサンドイッチマンの夫の顔は、あの酔っ払いの男だった。

自分はアリバイ作りに利用されたと気づいた若枝は、警察に行こうとするが、財布をねこばばした事を思い出してしまう。

北村に相談しようと角地梱包に電話を入れてみるが、社員の鈴木(堺左千夫)が出て、北村は留守だと言うので、後で電話をするように伝言を頼んで会社に出向くが、社員たち(加藤春哉、山本廉ら)の間でも、妻殺しの噂で持ち切りだった。

やり切れず、弁当も食べずにロッカー室に逃げ込んだ所に、北村からの電話が入ったので出てみると、今ちょうど静岡に出かける所なので、明後日まで帰って来れないと、急いでいる様子で電話を切られてしまう。

相談相手がいなくなり呆然としていた所へ、町田が顔を見せ、年輩の後藤(左卜全)を部屋の外に呼出して行く。

その様子を観ていた他の社員たちが一斉に町田の悪口を言い出す。

秘書課の安田と言う女性も、会社を辞めた後まで、町田に絞られていると言う。

そんな町田は、部屋を出て来た若枝を見つけると、馴れ馴れしく近づいて来ると、先日はどうしたのか、もう一回デートをしなおそうと厚顔にも迫って来る。

しかし、そんな町田が後藤に対しては、容赦ない取り立ての言葉を浴びせかけている姿も観てしまうのだった。

その夜、夕刊で事件の続報を読んだ若枝は、ハンカチについた香水の種類や、WFと言うイニシャル、さらに、事件当日、若枝の様子がいつもと違っていたと言う町田の証言等を元に、警察の取調室で、刑事(田島義文)から厳しく追求されている自分を想像してしまい、絶望するのだった。

北村も、先日怒って帰った事を考えると、もはや、自分の事を信じてくれそうには思えなかった。

若枝は、町田を殺す決心をする…。

そこで若枝は、賞与をもらう為、経理課の部屋の前で立っていた現実に戻る。

町田から言われた通り、ジュークボックスが曲を奏でる「モカ」という店で先に待ち受けていた若枝は、ポケットに毒入りのウィスキー瓶を忍ばせていた。

そして、さり気なくテーブルの上に英和辞書を起き、さも英語の宿題をしているような振りをして、遅れてやって来た町田を迎える。

金を返すと賞与袋を出すと、町田は君から金を取りかえすつもりはないが、2、3万だけ受取っておこうと札束を引き抜き、残りを若枝の手に戻しながら、その手を握りしめると、前から好きだったんだと告白して来る。

明日は日曜日だからゆっくりできるんだろう?と聞かれた若枝は、自分もそのつもりだったと嘘を言い、宿題をやってくれないかと町田に一枚の問題用紙を手渡す。

それには「私はあの女を殺した…、完全犯罪を狙って…」などと、探偵小説風の文言が並んでいたが、町田は簡単だと言いながら、その場でその英語への翻訳文をペンで書きはじめる。

その後、栄楽荘と言う町田の自宅に連れて来られた若枝は、ラジオを付けた町田からいきなりベッドに押し倒されると、強引にキスをされてしまう。

何とか早く、ウィスキーを飲ませようと立ち上がった若枝は、わざと、ベッドの上に瓶を置き忘れた風を装いながら、一緒に飲もうと町田にそれを取らせる。

キャップに注いだ若枝を見ながら、町田は瓶のウィスキーをその場でラッパ飲みする。

しかし、その直後、「君は!」と驚いたような声を上げながら、町田は若枝にすがりつくようにその場に崩れ落ちてしまう。

若枝は、用意して来た妻殺しを報ずる新聞記事の切り抜きと、先程、町田に書かせた自白書めいた文章を、町田のポケットにねじ込もうとしていたが、その時ラジオから、妻殺しの犯人として、夫の箱山竹助が捕まったとニュース速報が聞こえて来る。

呆然としながらも、部屋を逃げ出そうと入口を開けた若枝は、目の前に北村が立っているのを発見する。

彼女の後を付けて来たらしい北村は、君を見損なっていたよと叫ぶと逃げ帰って行く。

それを必死に追い掛ける若枝は、通りに出た所で、迫って来た車に轢かれそうになる…。

若枝は、目の前で翻訳文を書いている町田の姿を観ながら現実に戻る。

栄楽荘での出来事は空想で、まだ二人は「モカ」の中だったのだ。

しかし、そんな若枝がウィスキー瓶をポケットに入れているのに気づいた町田は、その場で取り上げ、飲もうとしたので、慌てた若枝はその瓶を町田の手から払い落とすと、又、店を逃げ出すのだった。

渋谷警察署の前に立った若枝だったが、目の前に警官の姿を見てしまうと、入る勇気が出ず、角地梱包へ行ってみるが、北村は就職試験に受かり、今、君に会いに出かけた所で、すれ違いだったと鈴木に教えられる。

とぼとぼと自宅に帰る道すがら、若枝は北村に出会う。

若枝は、「もう少しで、人を殺してしまう所だった」と、これまでのいきさつを、全て北村に打ち明ける。

全てを聞き終わった北村は、一緒に警察に行こうと勧めるが、若枝は動こうとせず、自分一人で行くと言い張る。

北村は、そんな若枝の頬を叩くと、「だから君はバカなんだ!なんでも一人で!」と叱りつける。

見つめあった二人は、感極まってキスをする。

朝焼けの中、事情を話し終え、警察署から出て来る北村と若枝。

ちょうどその二人とすれ違う形でやって来たパトカーから、捕まった箱山が、刑事に連れられて降ろされて来る。

北村と若枝は、そんな事にも気づかず晴れやかな顔で歩いて行くのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

土屋隆夫原作のサスペンス映画。

とある事件に巻き込まれてしまった若い女性の苦悩が描かれているが、その苦悩を解決する術が一人では思い付けず、さらなる犯罪に手を染めようとしてしまう所が幼くも見え、 都会の孤独の象徴にも見える。

彼女は、日頃、大勢の大人たちに囲まれて暮しているのに、本当に心を打ち明ける相手がいないのだ。

同年輩の北村だけが唯一の頼りなのだが、その北村にも不信感をもたれてしまった絶望感が、当時の若い女性にとって、どれだけ辛い事かが良く伝わって来る。

今、ケイタイなどを片時も離さず、お守りのように抱えていなければ生活できない女の子たちの孤独感も同じなのかも知れない。

映画としては、回想の中に、さらに回想があったりして、ちょっと分りにくかったり、ラストのあっけなさが物足りなかったりもするが、当時の若者向けのデートムービー等としては、ほど良い「ハラハラ度」だったのかも知れない。

有島一郎が、無気味な存在としてサスペンスに登場しているのは珍しいが、池部良が金田一を演じた前年の「吸血蛾」(1956)などにも、同じような雰囲気で登場している。

広告文を貼った薄板を身体の前後に下げて、町を歩いてはビラ配り等する「サンドイッチマン」は昔良く聞いた職業名だが、着ぐるみに入ってやるサンドイッチマンもあったとは…。

劇中に登場する「渋谷東宝」にかかっているのは、この作品にも出ている久保明と雪村いづみ主演の「続青い山脈」(1957)

11月に封切られた「続青い山脈」の看板が、翌月封きりのこの作品にもう登場している所が、当時の撮影や公開のテンポの早さを象徴しているようで興味深い。

まだ、渋谷駅と宮益警察署の間に陸橋がなかった頃の風景等も珍しい。