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森と湖のまつり

1958年、東映東京、武田泰淳「北界」原作、植草圭之助脚本、内田吐夢監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

馬に乗った青年が、集落の子供達に近づいて来て、色々土産を渡して走り去って行く。

別の集落では、大人に米を渡し、子供達に本を渡すと、最後に袋に入れて来た子犬を渡す。

アイヌの一族が独特の祈りを行っていた。

そこにやって来たのは、札幌の大学でアイヌの研究をしている池博士(花沢彪)と、その友人から紹介された東京から来た画架の佐伯雪子(香川京子)だった。

ちょうど、祈りが終わったと知って何年がった北だったが、アイヌの青年花守与市(菅沼正)を呼び寄せると、一太郎を見なかったと聞くが、すでに立ち去ったと聞くとがっかりする。

その頃、仲間たちから「ビャッキ」と呼ばれる当の一太郎(高倉健)は、草原で一緒に寝そべっていたアイヌ少年花守達夫(清水了太)に、「お前の、ボーイズ ビー アンビシャスは何だ?」と問いかけていた。

タツオはTV技師と答えたのを聞いた一太郎は、それなら、今度、テレビの本を持って来てやると約束する。

花森の家にやって来た北と佐伯は、達夫から一太郎なら塘路(トウロ)の方に行ったと聞く。

一太郎は、アイヌ基金を集めると称しては、あちこちで暴れ廻っていると言う噂を聞いていた花村の爺(宇佐見淳也)は、所詮、力で奪ったものはものにならないと嘆いていた。

婆(戸田春子)は、昔は良かった、森には鹿がたくさんいたし、川には鮭がギラギラする程いたと懐かしがるが、もう、アイヌ人口は1万そこそこになっていた。

爺が、神様が何もくれなくなったと言うのを聞いていた達夫は、神様なんかいないんだから、自分で作れば良いじゃないかと言い返していた。

雪子と共に、釧路から札幌に帰る途中だった北博士は、列車内で、山城屋の主人山城(佐々木孝丸)と言う男から声をかけられる。

山城も又、アイヌだったが、アイヌの研究のために使われると北から聞いているアイヌ基金の使われ方に疑問があると言われる。

北の手に渡る前にばらまかれているのではないかと言うのだ。

ビャッキの事を言っていると、北博士は気づく。

何でも、アイヌ出身の牧場経営者や漁師がビャッキから襲撃されていると言うのだ。

そこで、始めて、雪子に気づいた山城は、先生の助手かと尋ねるが、画家だと紹介すると、札幌へ戻る前に、塘路(トウロ)に寄って行ってもらえないかと頼む。

興味はあるが、一人ではどうも…と返事をためらった雪子だったが、北博士は明日から大学の講義があると断わる。

結局、一太郎がいるか見知れないと言う事もあり、思いきって降りてみる事にした雪子が、塘路(トウロ)駅に山城と降り立つと、そこには、山城の娘だと言う茂子(中原ひとみ)が迎えに来ていた。

山城の願いとは、この娘をモデルの絵を描いてもらえないかと言うものだった。

駅前に出た山城を会合があると呼びに来たのは川口館(花沢徳衛)、茂子と雪子の前に、木炭車を横付けして乗って行くかと誘って来たのは、茂子の恋人小川(立花良文)だった。

しかし、いつもは平気で荷台に乗って行く茂子も、今日は、東京からのお客さまと一緒と言う事で断わる。

会合と言うのは塘路開発委員会なる集まりで、川口館が駅で会った美人の話から、それが池博士の連れと分かり、その池を味方につければ、一太郎が集めているアイヌ基金をこちらが旨く利用できるかも知れないと相談しあっていた。

一太郎は、北海道中のアイヌ仲間から金を集めており、今やその総額は3000万くらいになるのではないかと噂されていたからだ。

唯一、基金に参加していないのは、止別(ヤンベツ)の大岩と言う漁師の家だけだった。

一太郎には、子供時代から憎まれていると言う山城はじめ、アイヌ出身の旅館主たちは全員、皆、一太郎からいつも金を巻取られていたのだった。

山城屋の離れに部屋を借り、そこで茂子をモデルに絵を描きはじめた雪子だったが、突然、茂子が、自分はアイヌだと告白する。

油絵を描き出した雪子は、彼女の肌の色が旨く出せないと悩んでいた。

いっその事、最初からやり直そうかと、パレットナイフで絵の具を落としかけると、それを茂子が止める。そのまま続けてくれと言うのだった。

その山城屋に往診に来ていたのは、馴染みで酒好きの医者木村(河野秋武)だった。

彼自信も、学生時代は東京で絵を描いていた経験もあると言う事で、画家が制作中と聞くや、お茶代わりに出された酒を片手に見物に出かける。

雪子がモデルの肌の色が出せなくてと言うと、茂子に酒のお代りを取りに生かせた木村は、しろうと考えですがと断わった上で、顔の色艶を知るには、身体を知らなくてはとアドバイスするが、この辺の者は身体を絶対に見せたがらないと教える。

酒のお代りを持って、部屋に戻って来る途中、その木村の言葉を聞いてしまった茂子は、哀しい顔をして後ずさって行くのだった。

その後、雪子は、医者の白衣を着て、山城屋の隣にある診療所の診察室で、入院しているアイヌの女性の診察風景を観ていた。

そこへ、往診に出かけていたもう一人の医者山田(冨田浩太郎)が帰って来て、その雪子を発見、何故、部外者が白衣を着て、患者を観ているのかと詰め寄る。

それをなだめる木村に促され、白衣を脱いだ雪子は、患者たちの驚きの視線を感じながら、病院を後にするのだった。

部屋に戻って来た雪子は、パレットナイフを持ってキャンバスに何かをしかけていた茂子を発見する。

驚いた茂子は逃げ出し、小川操縦の小船に乗り込むと、すぐに湖に乗り出して行く。

追い掛けて来た雪子が観たのは、すでに遠ざかって行く船だけだったが、ふと桟橋から下を見ると、小舟の中で寝そべっている一太郎の姿を見る。

一太郎は起き上がると、無言で小舟を漕いで湖に出て行く。

気を落とし、湖の畔で座っていた雪子に気づき、声をかけて来たのは、隣の診療所で、先程、雪子が診察を観ていた女性患者だった。

雪子は彼女に気づくと、先ほどの自分の行動を詫びるが、クリスチャンらしき相手は、心が痛いのはどちらも同じ、神様から見れば、シャモもアイヌも同じ人間なのですからと寛容な所を見せる。

湖の中の船の上では、茂子が小川に、自分と結婚すれば、自分と同じ苦悩が待っていると言い出すが、小川は、そんな彼女を、君を一生守って行くと抱き締める。

岸辺では、女性患者が、近く、納沙布岬でアイヌが夜通しやるベカンベ祭りがあると雪子に教える。

農業を知らなかったアイヌが捕る植物と言えば、ひしの実しかなかったので、ひしの実を意味する「ベカンベ」祭りと言うのだそうだ。

雪子が、北博士に付いて来たと知ると、その女性患者は、自分の弟の一太郎が世話になっていると言い出す。

彼女は、一太郎の姉の風森ミツ(藤里まゆみ)だったのだ。

一太郎は、北博士に、中学から高校まで行かせてもらったらしい。

ミツは、自分も若い内は、今の一太郎のように暴れ廻っていたと意外な過去を告白しだす。

それが何故、クリスチャンに?との雪子の問いに、愛のためになったと答えるミツ。

14、5年前、彼女が17の秋、内地の先生(加藤嘉)を好きになったのだと言う。

ある日、その先生に食べさせようと、禁漁の鮭を捕って、まだ幼かった弟の一太郎(福島卓)と一緒に家に持って行く途中、当時警官だった川口館に追い掛けられた事があったのだと言う。

先生の家に逃げ込んだミツと一太郎の事を知った川口館は、アイヌと付き合っている先生の事を世間にばらし、人前に出られないように赤恥をかかせてやると捨て台詞を残して帰って行く。

先生は、本を読まない子は嫌いだとミツを諭したので、それがきっかけとなって、彼女は本を読むようになったと言う。

一太郎は貰い子だったのか?と雪子が尋ねると、メノコとシャモの間に生まれた子だったと教える。

その後、ベカンベ祭りの日、先生をアイヌの長老たちに紹介する予定だったのが、とうとう先生はやって来なかった。

迎えに家に行った雪子は、泥酔して頭を抱え込んで、俺は結婚できないと嘆いている先生の姿を発見する。

ミツが、自分が働いて先生の面倒を見ると説得してみても、自分には、養わなければならない親兄弟があると先生は言う。

祭りに戻って来たミツは、一太郎に、自分を捨てた先生を殺して来いと命ずる。

銛を持って出かけた一太郎だったが、途中で後悔し迎えに行ったミツと出会うと、手が震えて殺せなかったと泣き出すのだった。

自分達姉弟の生き方も、あの晩に決まったと、ミツは告白し終わるのだった。

すると、診療所の方から騒ぎ声が聞こえて来たので近寄ってみると、川口館が、一太郎から殴られたと頭を抱えてやって来た所だった。近所の牧場では、牛も盗まれたと言う。

自室に戻って来た雪子は、キャンバスが引き裂かれているのに気づく。

そこへやって来た茂子もそれを観て驚いているようで、彼女の仕業ではないようだった。

すると、庭の方から男の笑い声が聞こえて来る。

雪子は、ビャッキの仕業だと悟る。

その後、札幌の北博士の元には、一太郎は釧路の「カバフト軒」にいるかも知れないと記した雪子からの手紙が届く。

「カバフト軒」とは、鶴子と言うアイヌのマダム(有馬稲子)一人で経営しているバーであったが、そこに、風森ミツから教わったと雪子が訪ねて来る。

そこへ、酔った川口館率いる若者たちの一団がなだれ込んで来る。

ケースに入った猟銃を担いでいるのは、止別(ヤンベツ)に住む大岩の若大将、猛(三國連太郎)だと言う。

猛は、いつも嫌がらせを受けている一太郎を狙っていると言うが、店の隅でひっそりしていた一人の老人が止めておけと言って、店を出て行く。

その老人こそ、ミツと結婚を拒んだ、かつての先生の落ちぶれた姿だった。

マダムに言わせると、たった一度の過ちを、一生をかけて償っている男である。

自分で編んだ網を、いつも店に置いて行くと言う。

雪子に、オホーツクが観たかったらいつでも家に来いと言い残し、猛ら一行が止別(ヤンベツ)に帰った後、ただ独り、川口館だけは、一太郎の行方を求めて函館に行くと言って店を出て行ったので、マダムは塩を店の前に撒く。

その後、雪子だけになった店のカウンター裏から、ひょっこり一太郎が出て来る。

一人で酒を注いで飲みはじめた彼は、雪子に向って又会ったなと話し掛ける。

自分の絵を切り裂いたのはあなたでしょうと問いかけると、絵に命が入ってなかった、俺が素っ裸になってやろうかと挑発する一太郎。

カウンターに戻って来たマダムは、池は良い人だけど、一度逃げ出したものは二度と戻らない。自分もあいつに捨てられた女だけど、彼にとって私は、コレクションしている骨董品と同じでしかなかったと呟く。

一太郎に、何故、池博士の元から逃げ出したのかと雪子が尋ねると、先生はしょせんはシャモの学者、根本的にアイヌに対しては距離のある研究者の愛し方でしかなかったので、その甘さに付いて行けなかったからだと、一太郎は答える。

先ほどこのカウンターに座っていた猛の父親と言うのが、アイヌを救済するアイヌ基金の反対の総本山だとも教えた一太郎は、雪子にアイヌは好きかと聞く。

雪子が好きだと答えると、冒険した方が良いと言い、明日、止別(ヤンベツ)の大岩の父親の所に手紙を届けて欲しいと一太郎は言い出す。

それを聞いていたマダムは、手紙は自分が届けるから、あんたは今夜限り手を引けと迫るが、雪子が聞きそうにもなかったので、ダイスを賭けようと、コマ型の骰子勝負を挑み皿の中で廻すと6が出た。

6に勝つには、赤い星しか残っていなかったが、雪子が廻してみると、その赤い星が出る。

一太郎は雪子に、明日朝6時、釧路の駅へ来いと命ずる。

翌朝、言われた通り、駅で雪子が待っていると、達夫少年が手紙を持って来る。

彼と一緒に列車に乗り込むと、封をしてないから中を読んでも良いと一太郎が言っていたと達夫が言うので中を確認すると、二人でその手紙を、達夫の祖父である花守老に読ませに行く。それも、一太郎からの指示なのだそうだ。

読んだ花守老は、一太郎のやり方は、いずれ身を滅ぼす事になると嘆くが、手紙の内容は金を要求するものではなく、大岩の漁場で、鮭やニシンで忙しい時期、コタンの仲間たちを雇ってくれと言う穏やかな要求だったので、手紙に封をする事を許可し、そのまま雪子に持たせる事にする。

花守老は、一人で行くという雪子に、こんな事に深入りしない方が良いと、マダムと同じ事を忠告する。

知床半島の止別(ヤンベツ)、馬に乗った猛が家に戻って来る。

彼は、妻、絹子(風見章子)と、まだ幼い男の子のヒロシ、そして父親(薄田研二)と暮していた。

そこに雪子が訪ねて来たので、喜んだ猛は家に招き入れると、古い村田銃で撃ったので、その見事な腕前にアイヌではないかと言われたくらいだと熊の毛皮を引っ張り出して来て自慢げに披露する。

その猛を追い払った大岩の父は、手紙を雪子から受取ると、この事は猛には言うなと口止めをする。

猛が船で漁場に向うのに雪子も付いて行った間、独り手紙を読んだ大岩の父は、5時までに返事を使いの者に渡せと書かれた手紙を、素早く火鉢にくべて焼いてしまう。

やがて、5時近くになり、浜に戻って来た猛らに、家から出て来た父親が、必死に名前を呼び掛けるが届かない。

その瞬間、海が爆発を起こす。

網をあげろ!と叫ぶ父親、そこに馬で走り寄って来た一太郎は、鞭で、その父親の顔面を打ち据えて去って行く。

猛は猟銃を持ち出すと、一太郎を撃とうと構えるが、それを必死で止める雪子。

その雪子が、一太郎を手引きしたと思い込んだ猛は、彼女を突き飛ばすが、そこに再び一太郎が舞い戻って来て、素早く彼女を馬に乗せると走り去ってしまう。

猛は、頭に傷を受けた父親に、何故、執拗に一太郎が自分の家に嫌がらせを繰り返すのかと問いつめる。

やがて、何も答えない父親の態度に、自分がアイヌの血を引いている事をはじめて悟る猛。

彼は、生まれてこの方、アイヌではないと父親から育てられてきたので、人間扱いもされて来たし、学校でも虐められなかったと過去を振り返る。

それを聞いていた父親は、それで良いではないかと小さく呟く。

そこへ、塘路(トウロ)から客が来たと案内されて来る。

川口館だった。

20年間、執拗に一太郎の素性を追い続け、今回、函館にまで調査に行った彼は、一太郎は実は純粋のアイヌではなく、内地の人間との間に生まれた子供だったと報告する。

アイヌを守る為等と言っているあいつのアイヌ基金の理念は、これで木っ端みじんになったと嬉しげに言う川口館。

その話を聞いていた猛は猟銃を持ち出して来る。

その頃、一太郎と雪子は、とある湖の畔にある小屋に逃げ込んでいた。

焚き火を起こした一太郎は、自分の上着を脱いで雪子に渡すと、これを着て、脱いだものを乾かせと言い、小屋を出てゆく。

雪子が洋服を脱ぎ終わった頃、どこからか牛乳缶を持って来た一太郎は、それを彼女に飲ませる。

ひと息付いた雪子は、会った時からあなたが好きだけど、やり方は間違っている、安易なヒロイズムであり、はかないレジスタンスでしかないと言い切る。

それを聞いた一太郎はむっとなり、皆、一皮剥けば同じ獣じゃないかと言いながら、彼女が羽織っていた自分の上着を強引にはだけると抱きついて来る。

一太郎も又、雪子の事が好きだったのだ。

一太郎が出て行って、独り小屋に残っていた雪子の所にやって来た猛は、これを一太郎に渡せ、返事は花守の小憎に持たせろと言い、鞘に入ったナイフを投げて帰って行く。挑戦状の印だった。

塘路(トウロ)の診療所で眠っていた風守ミツの病室に、先生がそろそろと看護婦に案内されやって来る。

枕元に持って来たリンゴを一つ置いて立ち去ろうとしたところで、目覚めたミツが彼を発見する。

何年かぶりのベカンベ祭りの日に、お前に会いたいと思って帰って来たと言う先生は、急に目がダメになって来たと言う。

そんな変わり果てた先生の姿を観たミツは、間もなく自分は退院するので、働いてあなたの面倒を見ると変わらぬ愛情を告白するが、そこへ入って来た一太郎が、先生に対し、もうここへは来ないでくれと追い返すそうとし、姉に対しては、あの晩の事忘れたのかと詰め寄る。

その言葉をジッと聞いていた先生は、お前は、アイヌの純潔の事を騒いでいるが、それはどう言う事だ、アイヌも今や、北海道の農民たちや漁師たちと混じりあって生きて行くのが自然な姿で、アイヌが滅びるのは運命だと呟く。

お前自身が純潔のアイヌなのかどうか、姉に聞いてみるが良い、血筋の事は、2代、3代前の事となるともう分からない、お前がやっている事は、鮭や鹿だけに頼って生きて来たアイヌと同じだ、もう、アイヌなんてないんだよ、なくなっていくんだよ…と続けた先生は、ムダな事は止めた方が良いと言い残し立ち去って行く。

そこへ雪子が戻って来て、猛から託されたナイフを一太郎に渡す。

決闘の方法は猟銃勝負、場所として指定されたのは、メサっプ岬のチャランベの丘、鶴の舞いが開始の合図だと決まる。

決闘を受け入れる事にした一太郎は、銃の練習をしながら、腕が良い猟師は、獲物を殺さないで生け捕りにするものだと雪子に教えた後、猛に返事を持って帰って来た達夫之う間に一緒に乗って去って行く。

札幌の北博士の元に、「イチタロウ キケン トウロニテ ユキコ」と書かれた電報が届く。

ベカンベの祭りが始まり、アイヌが踊り出す中、チャランベの丘の木々の間には、身を伏せた猛と一太郎が、互いに猟銃を持って開始の合図を待っていた。

アイヌたちの鶴の舞いが始まり、達夫が持っていた角笛を吹く。

そこへ、船に乗った北博士と雪子がやって来る。

猛は先に猟銃を放ち、その散弾の一部が、一太郎の顔の右側を傷つける。

しかし、一太郎はナイフを抜くと、弾を装填しかけていた猛につかみ掛かって行く。

ナイフをタケシの右足に刺し、首を締められながら、猛は、「お前は混じりだ」と一太郎に言い放つ。

その直後、一太郎は、猛の足からナイフを引き抜くが、おこに雪子と北博士が駆け付けて来る。

一太郎は、そちらに背を向けたまま、達夫に、北海道中に隠しているアイヌ基金の金の在り処を記した地図を渡すと、先生、許して下さい、金の使い方は皆で相談して決めてくれと言い残し、そのまま振り向かず立ち去って行く。

途中で拾った自分の猟銃を投げ捨て、湖に降りて行き、小舟で乗り出して行く一太郎は、水面に浮かび上がって来た先生の遺体を発見する。

その遺体を引き上げ、小舟に乗せると、そのまま行方をくらませてしまう。

その後、和人風の墓が発見されたが、誰の者か分からず終いだった。

そして、胎内に一太郎の子供が宿っている事を知った雪子は、その子を育て立派な母親になろうと決意するのだった。

滅び行くアイヌ民族を何とか守り抜こうと、孤独な戦いを繰り広げる青年の姿を、彼に出会った女流画家の目を通して描かれた文芸もの。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

昭和33年度の芸術祭参加作品でもある。

馬に乗って颯爽と駆け抜ける若き高倉健の姿、かたや、堂々たるライバルキャラを演じるいかにもたくましい三國連太郎、まだ丸顔が初々しい香川京子、皆、はつらつとしている。

減少する一方で、差別の対象になっていたアイヌ民族の運命と言うテーマは重いが、映画としては、 広大で美しい北海道の風景を背景に伸びやかに描かれており、決して文芸作特有の暗い印象はない。

出番は少ないながら、頑固な老人を演じる薄田研二や、陰湿で嫌なキャラを演じている花沢徳栄、又、珍しく、愛に殉ずる男を青年期と老年期で演じ分けている加藤嘉の姿が、強く印象に残る。

アイヌの祭りの描写等、映像資料的に貴重な部分も多い。

今回も、一応、配役には、キネ潤データベースを参考にしたが、木村医師を演じていると書かれている河野秋武と、花守老を演じているとされる宇佐美淳也は、画面を観た限り、別人ではないかと感じた。

ゲスト出演している有馬稲子等も、ちょっと独特のメイクをしているので分りにくい。

散弾で顔が傷付いた特殊メイクをしている高倉健は、ちょっと、ターミネーターを連想させるが、この当時から、彼には北海道の広野が似合う事を確認させられた。