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マークスの山

1995年、松竹+アミューズ+丸紅、高村薫原作、丸山昇一脚本、崔洋一脚本+監督作品。

この作品はサスペンスですので、後半、意外な展開がありますが、最後まで詳細にストーリーを書いていますので、御注意下さい。コメントはページ下です。

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雪山の夜、停まった車の中から「お父さん!お母さん!」と呼び掛ける少年の声が聞こえる。

やがて車内の両親から返事がない事に諦めたのか、その少年は独り車の外に出て、南アルプスの山が見える雪道をとぼとぼと歩き始める。

とある病院内、鍵をじゃらじゃらいらせながら看護士の男が看護婦高木真知子(名取裕子)とすれ違う。

その病院に収容されていた水沢裕之(萩原聖人)は、夜中、同じ部屋のマークスと言う青年からたびたび犯されていた。

そのマークスと言う男は、日本がひっくり返る、すごい日記を持っていると、水沢を抱きながら打ち明けていた。

そこへ、突然看護士が入って来て、大声をあげる。

都会の朝、ある男に電話が入る。相手は告げる。「マークスだ」

タイトル

東京、目黒区のとある住宅地。

青いビニールシートで覆われた現場に、スニーカーを履いた刑事、郷田(中井貴一)がやって来る。

路上で殺されていたのは、吉富組の組員畠山宏(井筒和幸)、頭部に穴が開いており、その衝撃で左目が飛び出している。

郷田は、集まった捜査員に地図を示し、聞き込み担当範囲を各人に割り振っていく。

本庁からも、二人担当刑事がやって来る。

被害者の財布には、大金がそのまま入っていた。

その頃、コンビニに入って買い物をしていた高木真知子は、レジに立った時、店の向側から自分を観ている水沢裕之を見つける。何年かぶりの再会だった。

畠山の女、西山富美子(江口尚希)の部屋に入った捜査員二人は、室内で暴れまくる素っ裸の富美子を必死に押さえ付けていた。

室内から、シャブと銃弾は見つかったが、肝心のチャカ(拳銃)が見つからない。犯人に奪われたようだった。

水沢は、真知子のアパートに来ていた。

明るい山が見えると言いながらも、直っているだろう、俺?と、水沢は真知子に確認を求める。

真知子は頷きながら、キスをする。

碑文谷中央署では、捜査本部が開かれていた。

被害者の頭部の傷から観て、凶器は長さ7cm、幅1cmほどの物で、ギザギザがあると思われる。

バー「オクトパス」に勤めている西山富美子の証言によると、全く働かなで家でゴロゴロしていた畠山と同居していた21日の朝、箪笥の中で100万円の札束を発見したので、こっそり50万円ねこばばしたと言う。

つまり、被害者畠山は、その事を富美子に追求する事もなく、家を出たまま三日間戻らなかったらしい。

真知子は、金山病院の夜勤として出かける。

アパートに独り残った水沢は、何か刃物を研いでいた。

何度目かの捜査本部が開かれる。

拳銃の出所の調査報告等が行われていたが、その席に、郷田の部下の肥後(古尾谷雅人)と有沢(遠藤憲一)の姿がなかった。

ぺコこと吾妻刑事(小木茂光)が、10月26日の夜、西山富美子の家の前にタクシーが停まったのを目撃した主婦がいた事を報告する。

しかし、郷田は、その証言だけでは、たまたま家にやって来た保護司や宗教勧誘員等の可能性もあり、もっと畠山に関わった警察関係者等も調べるべきだと発言し、畠山の関わった警察関係者と言えば俺の事だと同席していた吉原(塩見三省)を怒らせる。

都立大学駅前近辺での聞き込みでは、これと言った成果が得られなかった。

その頃、王子北署に来ていた肥後と有沢は、八王子の国家公務員アパートの前で、刑事課長の松井浩司(伊藤洋三郎)が同じような殺され方をしたのが発見されたと郷田に報告を入れていた。

郷田は、その遺体を大塚の監察病院に運ばせると、独断で解剖させる事にする。

その事を知った王子北署の須崎(萩原流行)に呼び出しを食らった郷田は、目撃者がいたので、わざと解剖を遅らせていたのに…と、郷田のスタンドプレイに怒り心頭の須崎からジュースを引っ掛けられると同時に、北署の刑事数名からその場で暴行を受ける。

よれよれになりながらも、郷田は「刑事は楽しい商売だ」と独り言を言いながら帰って行く。

「マークスだ」と電話が又かかって来たのを受けていたのは、林原雄三(小林稔侍)と言う男だった。

「Mは消えた。Aは死んでいる。最初のヤーさんは関係ない」と電話の相手は伝えて来た。

1億円を要求された林原は、木原(岸部一徳)に連絡をし、その木原は佐伯(角野卓造)に電話を入れる。

警視庁捜査第一課に集められた碑文谷中央署と王子北署の関係者たち、郷田や須崎らは、今後、互いの連絡は上司を通じて行い、刑事同士での直接的な接触は禁止すると通達される。

郷田は、自宅アパートに帰り、愛用のスニーカーを風呂場で洗う事にする。

寿司屋で酔いつぶれていた真知子を迎えに来た水沢は、彼女をおんぶしてアパートに帰る。

真知子は、昨日、姿が見えなかった水沢が出て行ってしまったのかと心配していた。

知人に化け、松井浩司の葬儀に潜り込もうとした又三郎こと有沢刑事は、寺の入口付近で葬儀関係者たちに止められ、外に出されてしまう。

松井の出身校である修學院大学の螢雪山岳会OBと言うのが、今や治安公安、法務省等を牛耳っている錚々たるメンバーたちと言う事もあり、徹底したガードを固めている事が分かる。

林原は、又、マークスと名乗る男から電話を受けていた。

その相手とは、「1969年、4月28日、野村のアジテーションには鼓舞される。あの忌わしい言葉と行為に出会うまでは…」と、古い手帳の内容を読み上げている水沢であった。

肥後は、畠山を二度公判で弁護した弁護士林原に会う為事務所を訪れるが、公判以後会っていないと聞かされ、それを素直に翌日の捜査会議で報告するが、他の刑事から、その証言は疑わしいと指摘される。

休日に事務所に出勤していたのもおかしかった。

又三郎こと有沢は、修學院大学の卒業名簿が全く手に入らないと報告する。

明らかに、誰かが情報を洩らさぬように先に押さえているのだ。

それを聞いていた肥後は、林原も修學院大学の卒業生だった事を思い出し、自分がミスった事を仲間たちに打ち明ける。

それを聞いた郷田は、偽名を使って電話で王子北署の須崎を呼出すと、今夜10時、王子駅西口陸橋の上で会おうと一方的に申込む。

その夜、約束通りやって来た須崎に、松井の足取りを知りたいと聞く郷田だったが、全く情報がつかめず、かろうじて、30、31日の両日登庁していない事、山岳喫茶でぼーっとしていた姿が目撃されていた事だけを須崎は打ち明ける。

郷田は、先日ジュースをかけられたクリーニング代を要求し、金を受取ると、その領収書だと言って「螢雪山岳会」と記されたメモを須崎に渡して帰る。

勤めが終わり、自宅アパートに帰って来た真知子は、南アルプスの写真が載った雑誌を観ていた水沢から。この山をどっかで観た事がある。小さい時、両親と登っている。この山を観たいと打ち明けられる。

肥後と共に林原の事務所に出向いた郷田だったが、当人は不在だった。

事務所には山の写真がかけられており、ちょうどその時やって来た銀行員が、林原が個人の定期を解約したがその書類作りに不手際があったと知らせに来たのを耳に挟み、間違いなく、林原が誰かに脅迫されていると直感する。

そんな郷田に、同僚の林(笹野高史)から、須崎が刺されたのですぐ帰って来いと連絡が入る。

犯人はすでに自首して来ており、公民憂国会を名乗る片桐義勝(大杉蓮)と言う男だったが、そんな団体の存在自体が疑わしかった。

病院にやって来た郷田は、須崎の同僚の寺島刑事(寺島進)に、須崎が今夜誰に会ったか知りたいと聞くが、重体で面会謝絶の須崎に事情がきけるはずもない寺島を怒らせるだけだった。

又、水沢からの脅迫電話を受けていた林原は、金の調達には時間がかかると弁解するが、「又、殺されても良いのか?残っているのは、RKSだ。三日だけ待ってやる」と言う言葉を聞かされるだけだった。

面会が許された病室の須崎に会った郷田は、彼が刺された日、吉富組ともつながりがある佐伯建設副社長佐伯正一(角野卓造)に会った事を教えられる。

その病院を出たところで、待ち伏せていた寺島刑事らに、はめただろう?と、郷田は袋叩きに会わされる。

殺された松井、林原、佐伯は、全員螢雪山岳会の仲間たちだった事が分かる。

その林原は、又、木原に電話で連絡をとっていた。

彼らは、学園紛争の時代、内ゲバで仲間を殺していたのだった。

その頃、水沢も、精神病院で出会ったマークスと呼ばれた青年が、毎日、ノートに何か書き込んでいるのを観た事を思い出していた。マークスは「MARKSには、6人目のNがいた」と水沢に教えていた。

とある駅のコインロッカーに荷物を入れた男(岸谷五朗)は、側の公衆電話の下にその鍵をガムテープで貼付けて立ち去る。

その直後、その公衆電話に確認に来たのは水沢だった。

彼はその夜、変装して、又同じ電話の所へやって来ると、鍵を剥がし、その鍵でロッカーを開けると、中に入っていた札束入りの紙袋を持ち帰り、真知子が働いている金町病院の彼女のロッカーの中に隠す。

そこにやって来た真知子は、夜勤で自分達以外には誰もいないと言う事もあり、水沢とその場で抱き合う。

さらに屋上へ登り、そこでも抱き合うが、水沢は、明日朝、電車に乗って山に行こう。金なら心配いらない。山から帰って来たら結婚しようと真知子に打ち明ける。

翌朝、一緒に病院を出た二人だったが、待ち受けていた二人のヤクザが二人に向っていきなり発砲して来る。

その弾丸は、真知子の身体を貫く。

軽症で入院した水沢は、その後、警察から事情を聞かれるが何も答えようとしなかった。

その後、病院から抜け出した水沢は「野村久志 1969 南アルプス」と手帳を読みながら、R、お前が出て来い!」と、林原(りんばら)に電話をする。

その夜、指定された修學院大学構内に金を持ってやって来た林原は、構内にある吸い殻入れやブロック等、武器になりそうなものを探しながら、野村の事を思い出していた。

学生時代、同じ螢雪山岳会の仲間でありながら、考えが異なる新左翼だった野村(小須田康人)が、ある日、警察から釈放され学校に戻って来て、林原に一緒に山に登ろうと申し出て来た時のことだった。

当時の林原(豊原勇補)、木原、松井、佐伯らはどうするか相談しあう。

エリートとして約束された未来があった彼らは、学生運動の事からもう卒業しようと考えていたのだった。

現在の大学構内…水沢の姿を見つけた林原は、どこかで拾って来た鉄パイプを持って、水沢に襲いかかって来る。

1969年の雪山…学生だった林原ら螢雪山岳会メンバーは、一緒に登って来た野村を襲って絞め殺してしまう。

現在の大学構内…、殴られていた水沢は、精神病院に入院していた時、病室にいきなり入って来た看護士が、自分を犯していたマークスを捕まえ、ボコボコに虐待する様子を観ていたのを思い出していた。

水沢は、林原に必死の抵抗を始める。

1969年の雪山…、殺した野村を埋める前、その素性を知られぬよう、林原は、野村の遺体の歯を潰して取り去っていた。

精神病院時代の水野は、マークスが虐殺されたのを目撃した次の瞬間、看護士に襲いかかり、笑いながら絞め殺してしまう。その様子を、廊下を通りかかった真知子は目撃していたのだった。

現在の大学構内…、水沢が動かなくなったのを確認した林原は、水沢が履いていたスニーカーを自分が履くと、「普通に生きたかった…」とつぶやきながら、立ち去って行く。

金町警察署では、真知子と水沢を狙撃した吉富組のヤクザを検挙していた。

その調書を読んだ郷田は、病院から抜け出した水沢裕之と言う男を怪しみ、ガサをかける事にする。

真知子のアパートをガサ入れしていた吉原たちは、奇妙なものを発見し、外で待機していた郷田を呼び込む。

吉原が見せたのは、冬山登山に用いるアイスハーケンであり、その切っ先には血がこびりついた。

病院の遺体で実験してみた所、松井や畠山の頭部に残っていた傷跡と一致する事が判明、付着していた血痕も松井浩司の物と断定され、花房課長(前田吟)は、捜査会議で、水沢の写真を捜査員全員に配付し、公開捜査に乗り出す事を発表する。

テレビで、水沢が指名手配されたニュースを観ていた木原は、林原に電話をかけ、何故とどめを刺さなかったのかと詰問すると同時に、眠れないんだと弱音を吐露する。

用心の為、妻と子供をアメリカにやった佐伯は、林原を自宅に呼びつけると責任を取れと命ずるが、若い頃から司令塔的存在だった佐伯に、5人殺した決着をつける覚悟はあるのかと、逆に林原から問いつめられる。

その佐伯も、その後、自宅で死んでいた。

その頃水沢は、町中をどこかに向っていた。

一命を取り留めていた真知子の病室に来た郷田は、犯人は水沢本人ではなく、彼の頭の中にすんでいるマークスと言う別の青年がやっているのだと説明する。

そんな話には付いていけないと帰りかけた郷田に、真知子は、あの子が行くとしたら山だと思うと伝える。

郷田が、アパートで見つけた南アルプスの写真の切り抜きを見せると、真知子は、病院の自分のロッカーの中を観てくれと言い出し、あの子を助けて!水沢を死なせないで!と郷田に頼む。

ロッカーの中には、札束と古い手帳が入っていた。

それを読んだ郷田は、事件の全容をはじめて理解するのだった。

木原は、飛び下り自殺していた。

郷田らは、林原に、松井の葬儀に出席しなかった理由、1976年夏以降、一切山登りをしなくなった理由、昭和47年度卒業の同期生、浅野の事を知らないか、平成元年、山で見つかった白骨遺体の事を知らないか等と問いただすが、林原は何一つ答えようとしない。

ただ、自殺した木原をどう思うかと問いかけると、バカヤローと絞り出すように答える。

南アルプスに水沢逮捕の為、大掛かりな捜査隊が投入される事になり、郷田も参加する事になる。

独り、先行して山頂に到達した郷田は、そこで紙袋を持って凍死していた水沢を発見する。

紙袋の中には、真知子の白衣が入っていた。

その夜、風呂場でスニーカーを洗いながら、郷田は「刑事は楽しい商売だ…」と呟いていた。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

高村薫原作の映画化作品。

原作特有の全体を覆った重苦しい雰囲気などは、あまり出ていないように思えるが、文章の持ち味と映画のそれとは別物なので、これはこれで捜査劇として成立しているし、後半の山岳シーン等は、さぞ大変な撮影だっただろうと思わせるような力作になっている。

特に、小林稔侍と名取裕子の熱演が印象的。

最初に殺されていたヤクザを演じているのは、意外にも井筒和幸監督。

他にも、セリフはないながら、大杉蓮や岸谷五朗などが出演している。

笹野高史などは、この頃からおじいちゃんにしか見えない。

古尾谷雅人が、その立派な体格には似合わず、ちょっとトロイ刑事を演じているのが、逆に印象に残った。