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恐怖の時間

1964年、東宝、エド・マクベイン原作、山田信夫脚本、岩内克己監督作品。

この作品はサスペンスですので、後半、意外な展開がありますが、最後まで詳細にストーリーを書いていますので、御注意下さい。コメントはページ下です。

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冬の夕方、6時、都会の一角にある警察宮益署にパトカーが帰って来る。

そのパトカーの目を避けるように、一人の皮ジャン姿の青年(山崎努)が、ちょっと躊躇しながらも、宮益署の玄関を入って行く。

そして、一階の受付の中でラーメンをすすっていた警官に、刑事の山本さんは?と聞き、二階の刑事部屋にいると教えられる。

その刑事部屋では、ちょうど山本刑事(志村喬)が、子供にせがまれたジャガーの玩具を、その時部屋にいた同僚たち、新婚の稲垣刑事(土屋嘉男)や、まだ独身の新人刑事若林(黒部進)、そして佐野係長(佐多豊)らに披露していた。

実は、昨日が息子の誕生日だったのだが、給料日が今日なので、一日遅れたと言いながら、山本刑事が帰る準備をしかかると、いきなり室内の灯が消えてしまう。

いつもの事なのだが、もうろくした小使のおじいさんが、一階にある刑事部屋の主電源スイッチをうっかり切ってしまうのだった。

下に声をかけて、又部屋に電気を付け直し、玩具の箱を抱えた山本が部屋を出ようとした時、見知らぬ青年が立っているので、何か用かと尋ねると、「山本刑事は?」と聞いて来る。

山本なら私だがと、山本刑事が答えると、その青年はいきなり拳銃を突き付けて来て、山本を部屋に押し戻す。

今朝、恋人の圭子(田村奈巳)を撃ったと新聞に書いてあった山本和夫を同じようにやってやると、その青年は、部屋に残っていた他の三人にも銃を向けてくる。

それを聞いた刑事たちは、唖然としながらも、人違いだ!その山本は別人だと反論するが、興奮状態にある青年は信用しない。

横山圭子を射殺したのは山本和夫と言う刑事で、そこにいるのは山本伊三郎だと、刑事部屋に貼ってある名札を示しながら説得する佐野係長。

山本が、自分の着ているコートの胸ポケットに警察手帳が入っているから確認してみろと言うので、それを取り出して観た青年は、確かに、目の前にいる刑事は別人だと知る。

その様子を観ていた若林は、胸から拳銃を出そうとしかけるが、目ざとく青年に見つかり、稲垣と共に銃を取り上げられる。

佐野にも出せと言われるが、拳銃は起き番(日勤)の二人しか持っていないと説明する。

青年は、拳銃を近くの机の引き出しにしまい、鍵をかけてしまう。

青年は、稲垣と若林にも警察手帳を見せろと迫り、稲垣は素直に従うが、若い若林は、かっとして、つい「山本和夫なら6時半に帰って来る…」と言ってしまう。

今は、6時15分、後15分待てば帰って来ると分かった青年は、少し安堵したように待とうと言い出す。

しかし、山本伊三郎は、青年が本当には撃てないと見くびったのか、帰るぞと言いながら、俺を撃ったら、すぐに、他の三人がお前に飛びかかり、たちまち逮捕されると言いながら部屋を後にしようとするが、その時青年は、ガラス瓶に入った液体を出しながら、これはニトログリセリンで、これを撃てば、こんな小さな警察署等木っ端みじんだと言い放つ。

それを背中越しに聞いた山本刑事や他の三人は凍り付く。

青年は、ようやく自分が本気だと分かったようだなと嘯く。

その頃、当の山本和夫(加山雄三)は、妻の節子(星由里子)がつわりで調子が悪いと言うので、本朝での取り調べの後、警察病院に付き添って来ていた。

新婚なので、病院を出た後もしきりに甘えて、一緒に帰ろうと言うが、和夫は、胸に下げた拳銃を返さねばならないから一旦署に戻ると言いながらも、偶然道ばたで談笑していたスキー姿の若い三人娘の屈託のない明るい姿を見かけると、今朝の射殺の事を思い出し、沈み込んでしまうのだった。

宮益署の刑事部屋では、7時5分前になっても戻って来ない山本和夫に、青年がいらついていた。

抵抗が出来ない事に苛立って歩き回っていた若林も、座れと青年から命ぜられると、部屋の中央に置かれていたストーブに乱暴に石炭を放り込みはじめるが、その石炭が、近くの机に置かれたニトロのガラス瓶にぶつかりかけたので、青年から、ニトロに少しでもショックを与えるとどうなるか知らないのかと怒鳴られる。

稲垣は、半分開け放った窓から夜景を観ていたが、ふと下を見ると、公衆電話から人が出て来る姿を見かける。道路には、何か紙の切れ端が舞っている。

それを観た稲垣は、何かを思い付いたようだった。

その時、電話が鳴る。

青年は、ニトロを用心深く電話の側に持って来ると、自分で受話器を取り上げる。

電話の相手は幼児の声だった。

山本伊三郎の息子アキヒコからだった。

玩具を待っているんだと説明した山本は、青年から受話器を受取ると、早く帰るつもりだったが、急用が出来たと伝えるが、すると、息子が今から一人でそちらに行くと言い出したので、来るな!、絶対に来てはいかんと叱りつける。

それを聞いていた青年は、山本から玩具の箱を受取ると、ニトロの瓶と一緒に又、別の机の上に持って行くと、そのジャガーの玩具を出して動かしてみる。

わざと、そのジャガーがニトロの瓶にぶつかる寸前に押さえて止めたりして、観ている刑事たちが肝を冷やすのを楽しんでいる様子。

そこに突然、階段を登って来る足音が聞こえたので、青年は入口の隅に身を隠す。

入って来たのは、一人の女を引っ張って来た坂本刑事部長(富田仲次郎)だった。

二人は、突然、見知らぬ青年から拳銃を突き付けられ棒立ちになる。

連れて来られたちょっと頭が弱そうな売春婦(小林哲子)は、その様子に急に笑い出す始末。

青年に言われるがまま拳銃を渡した坂本が、机に置かれたニトロを疑っているようなので、試してみようかと、刑事たちの方へ瓶を突き出して、身を竦める彼らの様子を愉快そうに笑う青年。

山本伊三郎は、若林にタバコの「しんせい」を勧めながら、何か、若林が右手に握りしめたものを投げようとしていたのを、さり気なく取り押さえる。

そんな中、連れて来た女の事情聴取をしても良いかと言いながら、坂本は女の手錠を椅子にはめる。

すると、稲垣が筆記をやると言いながら、紙と鉛筆を持つと部屋の隅の机に座る。

女は、権藤組の山下商事の社長が嫌らしい事をしたと言うので、その咽をかみそりで切り裂いて殺害したと平然と自白する。

それでもクリスチャンなのだと嘯く。

その調書を書いている振りをしながら、稲垣は、拳銃とニトロを持った男に刑事部屋が乗っ取られたと助けを求める内容を書いていた。

それを覗き込んだ佐野に、稲垣は目で半開きの窓を示してみせる。

それを知っての事か、山本伊三郎は、青年にタバコを勧める。

青年がタバコに気を取られている隙に、窓際に近づいた稲垣は、同じ内容を書いた三枚の紙を外へ落とす。

その時、又足音が聞こえ、刑事部屋に入って来たのは、新聞記者吉岡(小山田宗徳)だった。

彼は、しばらく青年に気づかず、今朝の圭子射殺に関して刑事たちから取材しようと話し掛けるが、様子がおかしい事に気づき、ようやく後ろから青年に銃を突き付けられている事を知る。

彼もうっかり、山本和夫なら、さっき警察病院で出会ったが、必ず戻って来ると言っていたと情報を洩らしてしまう。

7時35分、その和夫と節子はトンカツ屋で水入らずの夕食を取っていた。

何とか、明るい話題に持って行こうとする節子だったが、服を脱ごうとして胸の拳銃に気づいた和夫が、又、落ち込んだ顔になったのに気づき、同僚の杉山さんは肩を撃たれて重症だったのだから、あなたの行為は正しかったと慰める。

和夫が憂鬱だったのは、撃ってしまった女性が、下に5人も幼い兄弟たちがいる貧しい家の娘だったからだ。

しかし、それを聞いた節子は、自分も早く父親を亡くして苦労したが、麻薬の運び人等にはならなかったと反論する。

それでも、彼女も少し気がとがめるのか、ケーキを買って、明日、亡くなった娘の家に焼香に行こうか等と言い出す。

和夫は、今、自分の行為は正しかったと言ってくれたばかりじゃないか…と、ちょっと非難する目つきになる。

定期入れに入れていた亡くなった圭子の写真を眺めていた青年に興味を示したのは吉岡記者だった。

吉岡は、結婚資金をためる為、毎晩、手を油だらけにしてトランジスタ工場で働いていたような真面目な圭子が、悪い事等するはずがない。警察に殺されたんだと言い出す。

その話に俄然興味を持った吉岡は、身を乗り出して青年の話を聞き取ろうとする。

そんな刑事部屋に一人の警官が近づいて来る。

若林は、その警官に知らせようと、手近にあった茶道具をわざと床に落とし物音を立てる。

しかし、警官は、部屋の中を覗いただけで、別に異常がなさそうな中の様子を観て、そのまま下に降りて行ってしまう。

稲垣は、相変わらず窓辺に立ち、さっき下に落とした連絡文を誰か拾ってくれないかと様子を観ていたが、たまたま通りかかった酔っ払いが拾って、公衆電話の中の灯で読むが、目の前にある警察署が乗っ取られたと言う内容を信じる事が出来ず、その紙を丸めて捨てると、そのまま去って行く。

若林は、先程、坂本から受取った拳銃を、青年が皮ジャンの左のポケットに無造作に入れているのが覗いている事に気づいていた。

他の刑事たちも、青年のポケットから覗いている拳銃のグリップに注目していた。

青年は、まだ吉岡記者に説明を続けていた。

和夫らが拳銃を撃ち合っていた麻薬の取引現場に、早朝、圭子はたまたま通りかかっただけだのだと言う。

それでは、彼女は事件とは無関係の犠牲者だったのかと興奮する吉岡に、すでに麻薬団のボスが口を割っているんだと山本伊三郎が訂正しようとするが、圭子は嘘なんか言った事がない。約束は絶対に破らない真面目な女だったんだと青年が反論する。

その圭子が、今日約束の場所に来ないと思ったら、殺されていたんだ…と青年は悔しがる。

その瞬間、坂本がさり気なく手を伸ばし、青年のポケットの拳銃を掴もうとするが、それに気づいた売春婦が声を上げた為、青年は坂本に銃を向けると、ポケットの中の拳銃を奥に突っ込む。

部屋は、ストーブの火が強いせいか、暑くなって来ていた。

毛皮を着ていた売春婦は、暑いから、椅子に繋いだ手錠を一回外して、毛皮を脱がせてくれと言い出す。

坂本は、今邪魔した女をいまいましそうににらみながらも、女の言う通りにしてやるが、その時、脱がした毛皮からストーブに目をやり、やがて、半開き状態の窓に目をやり、何かを思い付いたようだった。

吉岡記者は、青年に、ニトログリセリンの入手経路を聞き出そうとする。

青年は、はっきりした事は言おうとしなかったが、例え話として、俺が火薬工場に勤めていたとしたら?と、ほのめかす。

さらに、拳銃は、憲兵だった父親の遺品だと教える。

そんな中、窓際にさり気なく近づいた坂本は、開いていた窓を閉めてしまう。

時計は8時を打つ。

ようやく宮益署に戻って来た山本和夫だったが、受付で、今朝の事件の所轄署の黒木課長から会いたいと連絡があったと聞かされ、そのまま所轄署へと向う。

刑事部屋では又電話が鳴り出していた。

青年が拳銃を突き付けた中、佐野が出てみると、坂上交番の警官からで、冗談だろうが、今、そちらがニトロと拳銃を持った男に占拠されたと書かれた紙を拾ったと言う人間が来たが…と半信半疑で尋ねる内容だった。

佐野は、受話器からもれる声が聞こえている青年がいる手前、こちらに異常はないと答えるしかない。

そんな事に気づかない相手はこの紙には稲垣と言う署名があるが、そんな刑事がいるかともと聞いて来たのでそれを聞いた青年は、稲垣がやった事に気づき、銃で顔を殴りつける。

佐野は、確かに稲垣はいるが…と答えて、電話を切るしかなかった。

すると、刑事たちを完全に掌握している青年に見惚れたのか、急に売春婦が、自分のヒモにならないか、自分が食べさせてやると青年に言い出す。

しかし、青年はもう、自分にすり寄ろうとする女や記者の言葉も聞こうとしなくなる。

所轄署にやって来た山本和夫は、藤田(鈴木治夫)と言う刑事と黒木課長(佐々木孝丸)に出会う。

今朝の事件における山本和夫の射撃が、刑法37条に記された緊急避難に当るのか、過剰防衛に当るのか、所轄署としても事情聴取したいと言うのであった。

和夫は、本庁でも話した事を、もう一度繰り替えしはじめる。

2週間程前から内偵を勧めていた麻薬の取引場所を今朝方2時頃突き止め、早朝4時40分頃、杉山刑事と共に現場に向った所、それに気づいた圭子が車の陰に隠れると共に、麻薬団から発砲して来た。

その弾に倒れた杉山刑事の身体を車の陰に隠す一方、取り出した拳銃で撃った弾が、車の窓ガラス越しに、たまたまその背後に隠れていた圭子を貫き、彼女はその場で即死した…と、言うのだった。

話を聞いた黒木課長は、杉山刑事を見殺しには出来ないので、発砲は間違った判断ではなかったと思うと、その場で和夫を慰める。

刑事部屋では、坂本が、独り熱心にストーブに石炭をくべており、その上に置かれた大きなヤカンは沸騰し続けていた。

そこに又足音が聞こえ、小使のじいさんが大きなヤカンに水を入れて入って来ると、青年には全く気づかないまま、ヤカンの水を足し、そのまま何もなかったかのように出て行ってしまう。

その最中、誰も一言も口を聞かない。ただ、山本伊三郎が御苦労さんとねぎらいの言葉をかけただけだった。

ものすごいスクープを手に入れた吉岡記者は、何とか、この記事を朝刊に間に合わせようと、新聞社に帰りたがっていた。

しかし、青年が言う事を聞きそうにもないと知った吉岡記者は、狙っていた局長賞が取れそうもないので、蒸し焼きにする気か!と、部屋の暑さに当り散らす。

机の上のニトロは、小さな気泡をたくさん出し始めていた。

そんな中、坂本は、開き直ったように、部屋の奥で寝ると言い出し、本当に服を脱ぐと横になってしまう。

そんな周囲のいら立ちを他所に、青年は、又、ジャガーの玩具の上に立て掛けた定期入れの稽古の写真に見とれながら、楽しかったデートの事を思い出していた。

しかし、部屋の暑さの為か、無意識に拳銃をポケットに入れた皮ジャンを脱いでしまう。

その時、女が暑いな〜…、窓を開けてよ!と言い出したのを聞いた青年は、ハッとしたようにニトロの瓶に目をやると、ニトロが熱にも弱い事を知らないのか!と皆に怒鳴り付けるのだった。

山本伊三郎は、売春婦にタバコを勧めながら、それとなく、坂本と目で合図をし合う。

言わんとする事に気づいた坂本は、さり気なく、洗面所の鏡に近づく。

鏡に写った青年が、こちらに気づいていない事を確認すると、鏡の横にある電気のスイッチを切ってしまう。

部屋は一瞬暗闇に包まれるが、すぐに又、点灯する。

青年は、暗闇の中、何とか身を守る事に成功していた。

そこに口笛が聞こえて来て、秋山刑事(山本廉)が部屋に戻って来るが、彼も又、青年の突き付けている銃に驚いていると、その直後、入って来た石崎刑事(山田彰)に慌てた青年が発砲してしまい、石崎は撃たれて倒れ込んでしまう。

銃声に気づいた警官が下から登って来るが、青年は、佐野に向って、何とか言い包めろと命ずる。

何かあったのかと聞いて来た警官に対し、平成を装いながら、佐野は暴発があったが、けが人はなかったと言う。

部屋の中を覗き込んだ警官たちだったが、佐野係長がそう言うのでは疑うはずもなく、そのまま引き上げてしまう。

石崎をソファーに寝かせた刑事たちは、医者を呼ばせてくれと電話をかけようとするが、青年はそれすらも許そうとはしなかった。

そんな青年の一瞬の隙をつき、刑事たちが飛びかかり、持っていた拳銃を弾き飛ばすが、そのはずみで、ジャンパーから飛び出た方の銃を拾ったのは売春婦だった。

彼女は、坂本に、椅子と繋いでいる手錠の鍵を寄越せと迫る。

仕方なく、坂本が鍵を彼女の足元へ放ると、それを拾った青年が銃を返せと女に交渉しはじめる。

今、お前が逃げても、刑事たちが瞬時に下に電話を入れるはずだから、警察署を出る前に捕まる。

俺が拳銃で、刑事たちを見張っていてやると言うのだ。

承知した女の手錠の鍵を開けてやり、銃を受取ると、青年はいきなりそれで女の頭を殴りつける。

青年は、落としたもう一丁の銃も拾うと、何か、山本和夫に連絡する方法はないのかといら立ちを隠さなくなる。

こんな事をしても、圭子さんは哀しむだけだぞと、山本伊三郎は青年を説得しようとし始めるが、もうヤケになった青年は聞く耳を持たない。

そこに、又電話が鳴りだし、ニトロ瓶を持った青年が出ると、相手は、山本和夫の妻と名乗る女からだった。

あまりに夫の帰りが遅いので心配しての電話だったが、青年は、山本刑事から連絡があり、直ちにあなたにこちらに来て欲しいと言っていたと伝える。

圭子を失ったのと同じ苦しみをあいつにも味わわせてやると呟く青年。

節子は、夫に何かあったのか気になり、家を出るとタクシーを止め、宮益署に向う。

8時35分、山本和夫は土産を持って死んだ圭子の家に行くと、母親はまだ帰っておらず、5人の幼い兄弟だけがいる狭い部屋の中で、仏前に線香を供えていた。

いくらか香典も置いて帰る和夫だったが、彼が家を出た途端、それまで神妙にしていた兄弟たちはふざけはじめる。

下町を通り抜け、通りに出た和夫は、宮益署に戻る為タクシーを止める。

8時45分、刑事部屋の刑事たちは、必死に青年を説き伏せようとしていた。

やがて、廊下側の窓に、やって来た節子の姿が見える。

入口から入りかけた彼女の前に、いらっしゃいと、さり気なく言いながら立ちふさがったのは山本伊三郎だった。

彼女に銃を向けながら、どけ!と叫ぶ青年。

次の瞬間、山本伊三郎は、入りかけて来た節子を外に押し出し、他の刑事たちは、一斉に青年に飛びつく。

必死の抵抗をしながら、青年は机の上のニトロ瓶を掴もうと足掻く。

沸騰しかけていたニトロの瓶は、暴れる人間たちに机が揺すられ移動した結果、机の端に半分乗っている状態になる。

何とか、青年は取り押さえられ、救急車がすぐに呼ばれる。

青年は、殺せ!おれは圭子が好きだったんだ!あいつがいない今、俺にはもう何もないんだ!と叫び続けている。

それを部屋の隅で聞いていた節子は、思わず泣き出していた。

吉岡記者は、良い記事を書きますと佐野らに言い残すと帰って行く。

石崎刑事は、署の前に横付けした救急車に乗せられ去って行き、それを見送っていた刑事たちも部屋に戻る。

ちょうどそこに帰って来たのが、山本和夫だった。

彼は何も気づかず、救急車が去って行くのをいぶかしげに見送りながら部屋に戻って来ると、そこに泣いている節子の姿を見つけて驚くと同時に、帰るのが遅れたので泣いているのかと呆れる。

佐野は、そんな和夫に、本庁から連絡があり、君の発砲は合法だったとの判断が降りたと伝える。

そこへ又電話が鳴り、取った和夫は、それが鑑識班から、ニトロは本物だったと知らせる内容だったので、訳が分からず、周りの刑事たちに事情を聞くが、誰も何も答えない。

そんな中、ようやく玩具を持って帰ろうとした山本伊三郎は、さっきの捕物劇で、ジャガーの玩具がぺっちゃんこになっていた事に気づく。

その潰れたジャガーには、圭子の写真が乗っていた。

ビルの壁面時計は9時を知らせ、その下を仲睦まじく一緒に帰る和夫と節子夫婦の姿があった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

87分署シリーズで知られるエド・マクベインの「殺意の楔」をベースにした映画。

同じマクベイン原作「キングの身代金」を映画化した、黒澤明監督「天国と地獄」(1963)も傑作だが、その翌年に公開され、同じ山崎努が登場する本作は、一見、二番煎じの企画のように思えるが、なかなかどうして優れたサスペンスになっている。

動く列車を使ったサスペンスが有名な「天国と地獄」と違い、ほぼ全編、密室劇に近い本作は、動きは少ないものの、サスペンスの強烈さでは負けていない。

ポリス・ストーリーの特長である一種の群集劇として描かれているので、実は本作にはっきりした主人公は存在しない。

山崎努が主人公だと言えばそのようにも見えるし、志村喬が主人公と考えても良いし、加山雄三が主人公のようにも見える。

誰かの目線から描くと言うより、各々に均等に視点が向けられているのだ。

若き刑事に扮している黒部進の端正な美貌にも驚かされる。正直、顔だけ観ていると、加山雄三よりクールなイケメンに見える。

若大将シリーズでは恋人止まりのコンビとして有名な加山雄三と星由里子が、夫婦役で出ているのも驚かされる。

妻役の星由里子が身重であると言う設定は、何だか、若大将シリーズの後日談を観ているような雰囲気すらある。

しかし、本作で一番印象に残った人物は、途中から登場して画面をさらっている感じの売春婦だろう。

この時代の東宝映画に出ている役者で、顔に見覚えがない人物が、こんな重要な役を演じている事に違和感を感じながら観ていたが、どうしても誰なのか分からず、後で調べてみたら、何と小林哲子だった。

もちろん「海底軍艦」で、ムー帝国の皇帝を演じていた女優である。

メイクが違うと、こうも印象が変わるのかと驚かされた。

おそらく、東宝出演作の中では「海底軍艦」と並ぶ彼女の代表作だと思う。

それほど、彼女の存在感は大きい。

山崎努の熱演は、前年の「天国と地獄」でお馴染みだが、小林哲子の熱演には驚かされた。

こんな秀作を、今まで知らなかった事が悔やまれるほどの出来である。