1957年、新東宝、三遊亭円朝 「眞景累が渕」原作 、川内康範脚本、中川信夫監督作品。
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安永3年、下総羽生村。
雪が降りしきる中、出かけようとしている按摩の宗悦(岬洋二)を女中のお鉄(花岡菊子)が心配する。
しかし、こんな日に出かけるのが、借金取りのコツだと宗悦は聞かない。
そんな宗悦、歩き始めた瞬間に雪道に滑り、下駄の鼻緒を切ってしまう。
お鉄は、何だか嫌な予感がするからと、もう一度止めようとするが、宗悦は鼻緒を直して出かけて行く。
まだ幼い娘のお累(高田幸子)は、亡くなった母親に似て三味線が好きだったので、出かけて行く父親宗悦に、土産に三味線を買って来てくれと無邪気にねだる。
旗本深見新左衛門(中村彰)の屋敷に借金の取り立てに来た宗悦は、気の良い奥方の房江(宮田文子)から、主人と同じく酒を振舞われる。
赤ん坊の新吉が泣きだしたので、房江が奥に下がると、さっそく金の返済を迫った宗悦だったが、新左衛門は金等ないとあっさりした返事。
その態度に愕然とした宗悦が「そんなバカな…」と言うと、その言葉尻を捕らえて、新左衛門は「町人風情が、武士に向ってバカとは何だ」と難癖を付けて来る。
しかし、宗悦もそれで引き下がるような男ではなく、あれこれ押し問答を繰り返している内に、激昂した新左衛門は、飲んでいた猪口を宗悦の額に投付け、傷を付けてしまう。
これには、さすがに我慢が据えかねた宗悦が、金を返せと、むしゃぶりついて来たので、新左衛門は、思わず脇差しを抜き、袈裟がけに宗悦を斬ってしまう。
その後も、執念深く逃げ回る宗悦の顔や背中を斬り、雪の庭先を通り、納戸に逃げ込んだ宗悦にとどめを刺す。
その凄惨な現場に駆け付けて来たのが、新吉を抱いた房江と下男の勘三(横山運平)。
新左衛門は、その勘三に、宗悦の死体を累が淵に捨てて来るよう命じる。
葛籠に入れた宗悦の死骸を累が淵まで背負って来た勘三は、魔よけ用にと鎌を葛籠の紐に挟んで、水の中に沈めてしまう。
宗悦の家では、葬式が行われる。
一方、その葬式に出かけて供養してやりたいと言う房江に、そんな事をする必要はないと、まだ酒を飲んでいた新左衛門が止めて、それより、肩を揉めと命ずる。
言われるがまま、房江が、新左衛門の肩を揉みはじめると、力が弱い、もっと強く!と催促させる。
こうですか?と力を入れると、急に、痛いと呻く新左衛門。
そんなに力を入れるやつがあるかと叱ると、背中から聞こえて来たのは、「背中から胸元に斬り下げられた痛さはこんなものではない」と無気味な声。
驚いて振り向くと、そこには死んだはずの宗悦の無惨な顔があるではないか。
肝を潰し、「血迷ったな!」と思わず刀で斬り付けると、倒れたのは房江だった。
苦しい息の下から、「人の恨みは恐ろしい…、早く代官所へ…」と語りかける房江。
しかし、そこへ聞こえて来たのが按摩の笛の音。
新左衛門が納戸に行ってみると、果たして、そこにも宗悦の亡霊がいた。
無我夢中でその亡霊に斬り掛かる内に、新左衛門は何時しか累が淵までたどり着いており、そのまま水の中に身を沈めて行くのだった。
江戸、小間物問屋「羽生屋」の店先に、夜、赤ん坊を抱いてやって来たのは、主人夫婦が一挙に亡くなってしまった勘三だった。
彼は、残された遺児の新吉を自分が育てるよりも、主人にかつて世話になった事がある「羽生屋」に育ててもらう方が幸せになるだろうと、置き手紙を付けて、赤ん坊を店先に置いて行く。
それから20年後、羽生屋の奉行人として成長した新吉(和田孝)は、誰もが羨むような美貌の青年に育っていた。
彼の事を気に入っているのは、羽生屋の娘お久(北沢典子)も同じだった。
手習いの三味線のおさらいのため、店を出たお久は、今日はサボってどこかへ遊びに行こう等と新吉を誘うが、真面目一本槍の新吉は相手にせず、深川の師匠の豊志賀(若杉嘉津子)の家まで送り届けるのだった。
そんな二人の様子を見送っていたのは、お久に惚れている山田屋清太郎(川部修詩)と、豊志賀に気がある用心棒の大村陣十郎(丹波哲郎)だった。
豊志賀の家で、婆やのお鉄は、新吉が羽生村の生まれだと、どこかで聞いたらしく、自分と師匠の豊志賀も、同じ羽生村の生まれなんだと親しげに話し掛けていた。
新吉は、自分は羽生村の生まれと言うだけで、その時分の事は何も覚えていないのだと恥ずかしげに答える。
稽古の後、帰宅した新吉は、女将(阿部寿美子)から、お久を呼んで来るよう言い付かる。
お久の部屋に迎えに行くと、どうせ山田屋清太郎が来ているのだから行きたくないと、お久はダダをこねる。
そこへやって来た女将は、自分が義理の母親だからと言って、その親が決めた結婚相手に従わないのは許さないと叱責する。
豊志賀の家で、弟子たちの唄の披露会が行われ、大村も出席していたが、その後の酒宴の席で、お久に付いて来た新吉は、女弟子たちに言い寄られて身の置きどころに困っていた。
そんな様子を見かねたお久は、妬み心もあり、早々に帰る事にするが、新吉も慌ててその後を追う。
その際、稽古本を忘れて行った事に、豊志賀は気づく。
帰宅したお久は、新吉のモテモテ振りにヤキモチを焼くが、逃げるように部屋を出た新吉を呼び止めた女将は、結婚前の娘と変な噂を立てられたら承知しないよと釘を刺すのだった。
その頃、客が引き上げ、独り、行水を使って着替えをしていた豊志賀に近づいて来たのが、潜んでいた陣十郎。
驚いた豊志賀は、抱きついて来る陣十郎から逃れようと暴れるが、そこにやって来たのが、忘れた稽古本を取りに戻って来た新吉だった。
しかし、陣十郎は、二人の間柄を邪推して、その場を立ち去る。
危機から脱した豊志賀は、事情が分からず上がり込んで来た新吉に抱きつく。
師匠も又、かねてより、新吉の美貌に惚れ込んでいた一人だったのだ。
気が動転している事もあって、豊志賀は、その場で新吉に思いを告白する。
その夜、新吉は、豊志賀の家に泊まり、店には朝帰りする事になる。
その店から出て来たのは、陣十郎だった。
その陣十郎から告げ口をされたらしい女将は、新吉の顔を見るなり、おくみ(田原知佐子)に新吉の荷物を持って来させると、今すぐ店を出て行くように命ずる。
行くあてもなく、外に彷徨い出た新吉の姿を、山田屋清太郎と陣十郎がほくそ笑みながら見送っていた。
その頃、亡き宗悦の墓参りのため、羽生村に来ていたお鉄は、同じく主人夫婦の墓参りに来ていた勘三に声をかけられる。
深川、門前仲町にある羽生屋にいる新吉と言う男を知っているなら、あれは、深見新左衛門の忘れ形見なので、一度、両親の墓参りに来るよう伝えてくれと頼む。
それを聞いたお鉄は驚愕する。
豊志賀の家に度々来るあの新吉が、宗悦を殺した新左衛門の息子だとは夢にも思わなかったからだ。
同じ頃、江戸の川べりで途方にくれて、しゃがみ込んでいた新吉に声をかけたのが、豊志賀だった。
彼女は、新吉が店を追い出されたと知ると、すぐに自宅に連れて帰り、今日からは私の大事な旦那様だと、下へも置かぬ世話をし始める。
そんな豊志賀の家に帰って来たお鉄は、ちょうど家から出て来た弟子の重助(石川冷)から、師匠と新吉が、夫婦気取りの生活をはじめたと聞かされる。
豊志賀に会ったお鉄は、どうか、新吉の事だけは諦めてくれと説得するが、訳が分からぬ師匠は、今まで育ててもらったお鉄に、今度の事だけは自分の好きなようにさせてくれと我を張り続ける。
その時、風呂から帰って来た新吉に、自分用の浴衣を出してやってくれとお鉄に命じた豊志賀だったが、お鉄が動こうとしないのを見て取ると、自分で出すと、箪笥の引き出しをがたがた動かしている内に、上から三味線のバチが落ちて来て、彼女の顔面に当ってしまう。
左目周辺に傷を受けた師匠の容態は悪く、寝込んでしまう。
そんな師匠を心配して、お久はたびたび見舞いに来るが、嫉妬の虜になった豊志賀は、新吉目当てにやって来るのだろうと悪し様に罵るのだった。
哀しんで帰るお久の後ろ姿を見ていた陣十郎は、その後を追い、屋敷にまで付いて来ると、新吉の事で話があると近づくと、女の態度次第で男等どうにでもなると焚き付ける。
そのお久に書かせた恋文を持った陣十郎は、新吉に持って行く。
お堀端の船宿「川よし」で待っていると記された手紙を読んだ新吉は、会いに出かける事にする。
陣十郎は、新吉から取り戻したその手紙を、わざと玄関口に落として去る。
新吉が出かけた事に気づいた豊志賀は、ふらつきながら起きて来て玄関に落ちていた手紙に気づき、中を読む。
「川よし」で会っていた新吉とお久は、部屋の行灯が消えた事に気づく。
そこへやって来たのが、御高祖頭巾で顔を隠した豊志賀。
師匠は、二階の部屋から出て来た二人に向い、新吉は私の亭主だと言いながら階段を登って来ると、隠し持っていた小刀を抜き、お久に斬り掛かって行く。
逃げ回るお久を追い掛ける豊志賀は、止めようとした新吉と揉み合う内に階段から転げ落ちてしまう。
後日、女将から結婚式用の着物選びをさせられていたお久が、それを嫌って部屋に逃げ帰った所に待っていたのが陣十郎。
羽生村までの新吉との駆け落ちをお膳立てした陣十郎は、向こうでの生活費として50両は必要だと教える。
その頃、自宅に連れ戻されていた豊志賀の方は、ますます容態が悪化し、一時も新吉に離れないでくれと病床から哀願し、新吉を困らせていた。
新吉は、三味線屋の竜吉の所へ三味線を取りに行くと言い、何とか師匠の手を振払うと外出するが、待ち合わせていた陣十郎から、半分脅かされるように、「川よし」で待っているお久に会いに行く。
一方、陣十郎の方は、豊志賀の家に上がり込むと、もう新吉は、化物のような顔になったお前の元には帰って来ず、お久と駆け落ちしたと伝える。
これまで、自分の傷の様子をはっきり観なかった豊志賀は、陣十郎の言葉に驚き、鏡を観ようとするが、何故か手鏡の中の鏡部分がない。
ふらふらと台所に立った師匠は、水瓶の蓋を開けると、その中の水面に顔を写してみる。
そこには、恐ろしく腫れ上がった顔が映し出される。
愕然として、崩れ落ちる彼女の元へやって来たお鉄は、実は新吉こそ、宗悦を殺した深見新左衛門の息子だったのだと打ち明ける。
それを聞いた豊志賀は、親子二代に渡って良くも騙したな…と、胸から絞り出すように呟きながら、棚にもたれ掛かったところで、上から落ちて来た食器類に当ってしまう。
同じ頃、竜吉から直った三味線を受取ろうとしていた新吉は、そのゆるめた弦がぷっつり切れる怪異を見る。
気が付くと、入口に、家で寝ていたはずの豊志賀が立っているではないか。
その様子を見て、もう長くないと判断した竜吉は、家に連れて帰るように駕篭を呼んで来て、師匠を乗せるが、そこにやって来たお鉄が、たった今、師匠が亡くなったと知らせに来る。
新吉と竜吉は、師匠なら、今、この駕篭の中に…と、駕篭の中を覗いてみると、そこには三味線のバチが一つあるだけだった。
その後、「川よし」で待っていたお久に会いに行った新吉は、師匠が亡くなったと伝えるが、その時、茶を運んで来た女中が、何故か、湯飲みを三つ置き、今、こちらの方と一緒に御高祖頭巾の女性が上がって来られたので…と言い訳する。
雨の中、羽生村目指して駆け落ちした二人は、途中出会った盲人(河合英治郎)に道を尋ねると累が淵を通って行きなされと教えられる。
ようやく累が淵にたどり着いた二人だったが、お久の方が、もう歩けないと言い出し、新吉はおぶってやる事にする。
背負ったお久の顔を振り返って見た新吉は、それは豊志賀の恐ろしい顔になっているのに気づき、思わず放り抱いてしまう。
落とされたお久は、地面に落ちていた鎌で足を斬ってしまう。
その鎌を手に取った新吉は、又しても、目の前のお久が、豊志賀の亡霊に変身したのを見て、夢中で斬り掛かる。
気が付くと、斬られた相手は、やはりお久で、新吉から逃れようとした所を、又、亡霊に襲われた新吉の手によって斬られてしまい、そのまま、お久は川の中に沈んでしまう。
正気に戻った新吉の前に立っていたのは陣十郎だった。
新吉が持って来た50両目当てに待ち伏せしていたのだった。
陣十郎は、新吉を切り捨てると、彼が後生大事に持っていた金を抜き取ると、その身体を川に蹴り込んでしまう。
そんな陣十郎の前に、豊志賀の亡霊が立ち塞がる。
陣十郎は、その亡霊を斬ろうとするが、何時の間にか、自分が一人で立ち回る内に、側に立っていた卒塔婆に胸を突き刺される。
さらに、石仏が落ち掛かって来て、彼の足の上に落ちる。
半死半生の陣十郎は、何時しか川の中に逃げ込んでいたが、そこに水中から宗悦の亡霊が浮かび出て来る。
その宗悦の亡霊に引きづり込まれる形で、陣十郎の姿は沼に消えて行く。
その後、お久、新吉、豊志賀の三人の墓を建てた勘三とお鉄は、その前で手を合わせて供養していた。
川に流れる三つの流し灯籠に、亡くなった三人の姿が重なるのだった。
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何度も映画化されている、有名な古典怪談の映画化。
おおまかな流れは、ほぼ原作通りだと思うが、丹波哲郎演ずる大村陣十郎だけは、本作のオリジナルキャラクターだと思う。
新東宝時代の仲間、天知茂が演じる「東海道四谷怪談」(1959)の民谷伊右衛門とイメージが重なる、酷薄な悪役となっている。
親の因果が子に報い…と言ったお話だが、新吉に関しては、最後まで真面目一方で何も悪い事をしていない薄幸の青年に写るのが、本作の特長かも知れない。
考えてみれば、金を返さず、人を斬り殺した深見新左衛門の方は、誰が観ても極悪人に見え、その酬いが子供の代に祟ると言う展開はまだ理解できるが、被害者であるはずの宗悦の娘の方に祟りが集中するように見えるのが、今の感覚としては釈然としない人もいるだろう。
やはり、金に執着した末殺された宗悦も、同情に値しない汚い人間だと言う、昔風の教訓が込められているのだろう。
そうは言っても、直接的に何の落ち度もない豊志賀の生涯は、やはり理不尽な不幸の連続に見回れる、薄幸の女性にしか見えず、巻き添えを食う形の新吉、お久共々、哀れと言うしかない。
